説明

非接触計測データの解析システム

【課題】 物体の三次元形状に関する非接触計測データと設計データとを比較して、その誤差値を数値化するようにした非接触計測データの解析システムを提供する。
【解決手段】 管理部位としてボルト13a又はナット13bの計測の際に、計測部が、寸法管理された円柱部16a,17aを有する計測治具16,17をボルト又はナットに取り付けて、計測治具の輪郭を含めた点群データを作成し、比較部が、点群データから抽出した計測治具の外接円16c,17cに基づいて外接円の中心と面角度を算出し、算出した外接円の中心と面角度と既知の円柱部部の寸法に基づいてボルト又はナットの中心座標を算出し、さらに中心座標と対応する基準点データとを比較して誤差を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の形状測定を行う場合の寸法管理部位に関して、順次に非接触計測データと正寸寸法状態データ等の基準点データとを比較して、その誤差値を計算する非接触計測データの解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の三次元形状を非接触で計測する場合、例えば、物体の各所に順次にレーザー光を照射し、物体上のスポット光をCCD等の撮像装置にて撮影して、三角測量法を利用して点群データを得る。そして、この点群データをCADデータ等の設計データと比較して、その誤差値を誤差カラーマップとして表示し、解析を行なうようにしている。誤差カラーマップは、物体の全体形状の把握は容易であるが、当該物体を作製するための型や設備治具等の修正値や必要管理部位を統計的に評価することまではできない。
【0003】
これに対して、非接触計測データに関する誤差値の数値化は、従来解析ソフトを使用することにより行なわれている。例えば、特許文献1によれば、物体に設けられた穴に関して、穴の輪郭線を抽出して、正確な穴の位置を検出するようにした輪郭線抽出装置が開示されている。同様にして、現在のところ、面,穴,エッジの位置に関しては、解析ソフトにより誤差値の数値化が可能である。
【特許文献1】特開2003−75146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の解析ソフトでは、物体に取り付けたボルト,ナットの位置について、その誤差値を非接触データから数値化することや、プロファイルやヘムについてもそれらの誤差を数値化することは行われていない。従って、物体のすべての形状に関して、その位置の誤差値を数値化することは不可能であり、非接触計測データの解析の自動化を実現するまでには至っていない。
【0005】
本発明は、このような事情を鑑みて創作されたものであり、物体の三次元形状に関する非接触計測データと設計データとを比較して、その誤差値を数値化するようにした非接触計測データの解析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の非接触計測データの解析システムは、物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、各管理部位に関して順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部とを備え、管理部位としてボルト又はナットの計測の際に、上記計測部が、寸法管理された円柱部を有する計測治具を上記ボルト又はナットに取り付けた状態における該計測治具の輪郭を含めた点群データを作成し、上記比較部が、点群データから抽出した上記計測治具の外接円に基づいて該外接円の中心と面角度を算出し、算出した外接円の中心と面角度と既知の円柱部の寸法に基づいてボルト又はナットの中心座標を算出し、さらに該中心座標と対応する基準点データとを比較して誤差を計算することを特徴としている。なお、計測治具としては、半球状の凸部を平板状のプレート部の上面から突出形成してなるハット型部材を有するものや、半球状の凸部を有するものを用いてもよい。また、基準点データは、評価位置の正寸の寸法を示す情報データ等を含んで構成されている。
【0007】
さらに、上記目的を達成するために、本発明の非接触計測データの解析システムは、物体の三次元形状に関してレーザー光により非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、管理部位としてプロファイルの点群データを基準点データと比較する際に、上記比較部が、比較すべき点群データの検査位置を補正し、補正後の検査位置の点群データと基準点データとを比較して、誤差値を算出することを特徴としている。
【0008】
さらに、上記目的を達成するために、本発明の非接触計測データの解析システムは、物体の三次元形状に関してレーザー光により非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、管理部位としてヘムの点群データを基準点データと比較する際に、上記比較部が、ヘムの平面部の法線方向のずれ量とR形状の頂点のずれ量を算出することを特徴としている。
【0009】
本発明による非接触計測データの解析システムは、好ましくは、上記精度管理表作成部が、さらに各管理部位に関する誤差値に基づいて誤差カラーマップを作成する。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、計測部により非接触で計測された物体の非接触計測データに基づいて、各管理部位に関して、上記比較部が、この非接触計測データと基準点データとを比較してその誤差値を計算(数値化)し、上記精度管理表作成部が、この誤差値に基づいて各管理部位に関する精度管理表を自動的に作成する。これにより、従来の接触計測の場合における精度表と同様の精度表が、非接触計測においても自動的に作成され得る。従って、物体の非接触計測から解析までの時間が大幅に短縮される。
【0011】
上記基準点データが、前もって設計データから演算された各管理部位の名称,座標値及びベクトル値である場合には、上記比較部が非接触計測データと基準点データを比較する際に、基準点データが迅速に読み出されることにより、これらのデータの比較そして誤差値の計算をより短時間で行なうことができる。
【0012】
管理部位がボルト,ナットである場合、非接触計測の際に、当該ボルト,ナットの管理部位に対して基準円筒形状,ハット型状,半球状を有する計測治具が取り付けられた状態で、この計測治具の外形が非接触で計測され、上記比較部が、この計測治具の非接触計測データに基づいて、その形状からボルト,ナットの位置を演算した後、当該管理部位の誤差値を計算する場合には、従来例えばレーザー光による非接触計測では計測できなかったボルト,ナットに関して、計測の際にこれらの管理部位に取り付けられた計測治具の基準形状の外形を非接触計測することにより、間接的にボルト,ナットの管理部位の三次元位置を計測することができる。従って、物体に取り付けられたボルト,ナットに関する基準点データとの比較に基づいて誤差値を計算し、解析を行なうことが可能になる。
【0013】
管理部位がプロファイルである場合、比較部が、非接触計測データと基準点データとを比較して検査位置を補正した後、当該管理部位の誤差値を計算する。この場合には、実際に計測した非接触計測データに関して検査位置を補正することにより、計測時の物体の位置ずれが補正されるのでより正確な誤差値を計算し、そしてより正確な解析を行なうことができる。
【0014】
上記精度管理表作成部が、さらに各管理部位に関する誤差値に基づいて、誤差カラーマップを作成する場合には、精度管理表作成部が、上述したように精度管理表を作成すると共に、従来と同様の誤差カラーマップを作成することにより、上記精度管理表に基づいて例えば型や設備治具等の修正値を算出したり、各管理部位に関する統計的な評価を行なうことかできると共に、誤差カラーマップに基づいて物体の全体的な形状誤差を視覚的に容易に把握することができる。
【0015】
このようにして、本発明によれば、従来非接触計測では、非接触計測データと基準点データとの比較により誤差値を計算することができなかったプロファイル,ヘム,ボルト,ナットのすべての管理部位の測定及び解析を行なうことができる。従って、物体の三次元形状に関して、すべての管理部位の数値化そして精度管理表の作成を自動的に行なうことができるので、物体の迅速な解析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る非接触計測データの解析システムの構成例を示しており、非接触計測データの解析システム10は、計測部11と、制御部20と、から構成されている。
【0017】
計測部11は、公知の構成の非接触式計測装置であって、図2に示すように、レーザー光源12からレーザー光Lを、例えば自動車の外板パネル等の物体13に対して照射して、この物体13上のスポット光を撮像部14により撮像し、この撮像画面上のスポット光の位置に基づいて、画像処理部15により、所謂三角測量方式で、物体13上の表面位置を点データとして取得するようになっている。そして、計測部11は、レーザー光Lを物体13上でスキャンさせることにより、この物体13の各部における点データを取得して、全体として点群データにより当該物体13の表面形状を計測し、その非接触計測データを制御部20に出力するようになっている。
【0018】
制御部20は、例えばパーソナルコンピュータとして構成されており、稼動するソフトウェアにより以下の機能を実現する。即ち、制御部20は、図1に示すように、比較部21,精度管理表作成部22,記憶部23を備えている。
【0019】
比較部21は、物体の管理すべきポイント、即ち管理部位に関して、計測部11から入力される非接触計測データである点群データを、当該物体の基準点データと比較して、誤差値を計算するものである。
【0020】
ここで、物体の基準点データは、予め作成されており、記憶部23から読み出して使用に供される。この基準点データは、設計データを使用して、ポイント名称、評価位置の座標値、ベクトル値、評価の手法を記述したデータとして構成されている。さらに、各基準点データは、評価を行なうべき測定ポイント毎に、即ち各管理部位毎に作成されており、それらが区別されるように、例えば、測定ポイント毎にポイント名称、即ち識別名称が付されている。また、ベクトル値は、当該管理部位における物体の表面に対する法線ベクトルである。
【0021】
設計データは、物体の形状を特定するためのCADデータ等のデータであって、例えばサーフェス(ワイアーフレームを含む),ソリッドデータから構成されている。設計データがサーフェスデータであって、肉厚が考慮されていない場合には、基準点データは、サーフェスデータに対する板厚換算のための板厚オフセット情報を含めて構成される。
【0022】
そして、比較部21は、すべての管理部位に関する誤差値を計算した後、各管理部位に対する非接触計測データ,基準点データ及び誤差値を精度管理表作成部22に対して出力するようになっている。
【0023】
精度管理表作成部22は、比較部21から入力される各管理部位に対する非接触計測データ,基準点データ及び誤差値に基づいて、精度管理表を作成する。
この精度管理表は、例えば表計算ソフトの表形式等に準じた構成を有している。従って、この精度管理表をファイルとして出力した場合に、表計算ソフトがインストールされているパーソナルコンピュータにおいて、当該精度管理表を読み込むことができる。
ここで、精度管理表作成部22は、例えば誤差値に対する許容公差を精度管理表に加えるようにしてもよい。さらに、精度管理表作成部22は、必要に応じて、誤差値に基づいて所謂誤差カラーマップを作成してもよい。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る解析システム10の比較部21では、各管理部位ごとに誤差を算出するための手法が予め設定されており、本発明の実施形態においては、(1)ボルト又はナット,(2)プロファイル,(3)ヘムに関する誤差の判断手法に特徴がある。以下、(1)〜(3)について説明する。
【0025】
(1)ボルト又はナット
物体13に取り付けられたボルト又はナットの誤差を算出するに当たり、本発明の実施形態に係る解析システム10においては、非接触計測の際に、計測治具を利用することを特徴としている。即ち、非接触計測の際に、物体13にボルト13a又はナット13bが取り付けられている場合、ボルト13a又はナット13bに対して、それぞれ図3(A)及び図3(B)に示すように、計測治具16,17が装着された状態で、計測部11が非接触計測を行なう。
【0026】
図3(A)に示すように、ボルト13aには計測治具16が螺合しており、この計測治具16は、所定の直径及び長さの基準円柱状に形成した円柱部16aと、この円柱部16aの底面から中心軸に沿って開口した円筒形状のネジ穴16bと、を備えている。また図3(B)に示すように、ナット13bには計測治具17が螺合しており、この計測治具17は、所定の直径及び長さの基準円柱形状に形成した円柱部17aと、この円柱部17aの底面から中心軸上に沿って突出したネジ17bを備えている。
【0027】
このように、物体13上のボルト13a或いはナット13bにそれぞれ螺合された計測治具16,17の外形が点群データとして取得でき、比較部21は、計測治具16,17の基準円柱形状の外形に基づいて、具体的には、図3(C)に示すように、各計測治具16,17における円柱部16a,17aの上面に形成されている円、即ち図3(C)で斜線で示す外接円16c,17cを抽出し、外接円16c,17cの面角度及び中心からボルト13a或いはナット13bの中心座標を算出する。
【0028】
ここで、比較部21が、点群データから計測治具16,17の外接円16c,17cを抽出する手法として、例えば、特開2003−75146号公報に記載の穴輪郭を抽出する手法を応用することで、点群データから外接円16c,17cを抽出することができる。具体的には比較部21は図4のフローチャートに従って輪郭線の確定処理を行なう。
【0029】
輪郭線の確定処理は、まずステップA1にて、ボルト又はナットの周辺の特定領域を決定する。このとき、ボルト又はナットに取り付けた計測治具16,17の上面が含まれるように領域を指定する。
続いて、比較部21は、ステップA2にて、特定領域における非接触計測データ(点群データ)を抽出して、ステップA3にてこれらの点群データから平均曲面を定義する。
【0030】
次に、比較部21は、ステップA4にて平均曲面を格子化し、ステップA5にて計測治具16または17の輪郭線を抽出する。この時、計測治具16,17の外接円16c,17cの輪郭を抽出する。そして、比較部21は、ステップA6にて、抽出した輪郭線の精度を確認する。
【0031】
ここで、ステップA6にて精度が不良である場合には、比較部21は、ステップA7にて、輪郭線の外側における不要点を削除した後、ステップA8にて再び輪郭線の抽出を行なってステップA6に戻る。一方、ステップA6にて精度が良好である場合には、比較部21は、ステップA9にて輪郭線の確定処理を終了する。
【0032】
比較部21は、確定した外接円16c,17cの輪郭の情報に基づいて、外接円16c,17cの面角度及び外接円の中心を求め、外接円の面角度及び外接円の中心から既知である計測治具16,17の寸法を考慮して、ボルト13a又はナット13bの中心座標を算出する。尚、中心座標とは、比較部21が計算処理により算出するボルト13a又はナット13bの中心軸上の一点の座標値である。例えば、比較部21は、抽出した外接円16c,17cの輪郭をなす複数のデータ(座標値)から円弧を求め、その円弧から外接円16c,17cの中心の座標を求め、外接円16c,17cの中心から算出した面の角度方向に計測治具16,17の円柱部の長さ分だけ離れたポイントの座標値を算出する。
【0033】
そして、比較部21は、算出した中心座標と基準点データとを比較して誤差を求める。この際、比較部21は、外接円16c,17cの面角度、即ち、その面の法線ベクトルを算出して、ボルト13a又はナット13bを取り付ける物品13の面の法線ベクトルと比較しそのずれを求める。なお、ベクトルのずれの公差は、例えば、±0.1等と設定されている。
このように、中心座標を求めてその誤差が算出される。これにより、ボルト13a又はナット13bの取付位置の精度を確認できる。また、ベクトルのずれを数値化することから、ボルト13a又はナット13bの軸の傾き具合も設定値に対して許容範囲にあるか確認できる。
【0034】
上記の説明では、計測治具16,17が円柱形状の円柱部16a,17aを備える場合を例示したが、円柱部16a,17aの代わりに円柱形状と異なる形状のものを利用することができる。図5(A)は、本発明の実施形態に係る計測治具16,17の変形例を示す斜視図であり、図5(A)に示す計測治具16,17は、円柱部16a,17aの代わりにハット型部材16a′を備えている。ハット型部材16a′は、半球状の凸部16cが平板状のプレート部16dの上面から突出形成されている。
【0035】
このようなハット型部材16a′を利用すれば、計測部11による計測で、凸部16cの球状の輪郭が点群データとして抽出される。そして、比較部21は、凸部16cの点群データに基づいて、半球状の凸部16cの中心、即ち球の中心を算出する。また、プレート部16dの表面も点群データとして取得でき、その面の法線ベクトルを比較部21が算出する。よって、凸部16cの中心と、プレート部16dの面の法線ベクトルと、凸部16c及びプレート部16dの寸法が既知であることを考慮して、ボルト13a又はナット13bの中心座標を算出することができる。なお、円柱部16a,17aの代わりにハット型部材16a′を用いる場合に、ハット型部材16a′にも、図3(A)に示すネジ穴16b又は図3(B)に示すネジ17bが設けられている。
このようなハット型部材によれば、凸部16cの球状の点群データから球の中心を算出することができることから、図3(C)に示す外接円16c,17c等の面の中心を求める場合よりも位置精度が高くなり、よって、算出されるボルト13a又はナット13bの中心座標の位置も精度が高くなる。
【0036】
また、図5(B)に示す本発明の実施形態に係る計測治具16,17の他の変形例も利用することができる。図5(B)に示す計測治具16,17は、図5(A)に示すものと異なり、プレート部16dを備えていない点で異なり、他の形状は図5(A)に示すものと同一である。図5(B)に示す計測治具16,17を利用する場合には、計測治具16,17を取り付ける物品13の取付位置周辺の面の法線ベクトルを、比較部21が算出し、得られた法線ベクトルと凸部16cの中心と、凸部16cの寸法が既知であることを考慮して、ボルト13a又はナット13bの中心座標を算出することができる。
【0037】
(2)プロファイル
先ず、プロファイルとは、図6に示すように、二つの面部材31,32がR形状の角部33を介して一体に形成されている箇所であり、寸法精度が非常に高く要求されている箇所である。本明細書において、プロファイルとは、二つの面部材が角部を介して一体に形成されている箇所を言う。
【0038】
物体13に形成されているプロファイルの誤差を算出するに当たり、本発明の実施形態に係る解析システム10においては、誤差を算出する過程で検査位置を補正することを特徴としている。検査位置を補正するのは、次のような問題を解消するためである。
【0039】
プロファイルの誤差を算出するに当たり、予め検査位置が図7(A)に示すように、R止まりの位置α、βから所定の距離の位置α′,β′のように定められている。
そして、計測したプロファイル部の点群データが、図7(B)に点線で示すように、計測されたとする。尚、同図中の実線がCADデータである。そこで、CADデータ中の検査位置α′,β′を基に、検査位置α′,β′を点群データに投影して得られる点α″,β″を評価すべきポイントとすると、点群データ全体がCADデータに対してずれているため、点α″,β″は本来測定すべき検査位置から外れた点であり、本来評価すべき検査位置での評価が行われないことになる。そこで、比較部21は、CADデータの二つの面部材31,32の各法線ベクトル方向に関して、点群データのずれを算出し、そのずれを考慮して、測定すべき検査位置を見出すようになっている。
【0040】
具体的には、比較部21は、図8に示すフローチャートに示す手法に従って検査位置を補正し、誤差を算出するようになっている。
即ち、比較部21は、先ず、ステップB1にて、図9に示すように稜点Tを通るCADデータの断面(実線)に対応した測定データの点群データの断面(断面ポリライン;点線)を作成する。なお、稜点とは、二つの面31′,32′が延長して交差するポイントを言う。
【0041】
そして、比較部21は、ステップB2にてCADデータ上の検査位置α′,β′をベクトル値方向の点群データ上に投影し(投影した点を点α″,β″とする)、ステップB3にて検査位置α′,β′と点群データ(点α″,β″)との距離を算出する。具体的には、比較部21は、各面の法線ベクトル方向のずれを算出する。即ち、検査位置α′に関しては、面31′の法線ベクトルγ1方向にF1だけずれており、検査点β′に関しては、面32′の法線ベクトルγ2方向にF2だけずれている。
【0042】
このようにして得られたずれ量F1,F2に基づいて、比較部21は、ステップB4にて検査位置をα′,β′からA,Bに補正する。即ち、検査位置α′に関しては、法線ベクトルγ1方向にF1ずらすと共に法線ベクトルγ2方向にF2ずらしたポイントAを、検査位置のポイントに選定する。同様に、検査位置β′に関しても、法線ベクトルγ1方向にF1、且つ、法線ベクトルγ2方向にF2ずらして、得られるポイントBを検査位置とする。
【0043】
そして、比較部21は、ステップB5にて、補正した検査位置A,Bと、CADデータとの距離を計算し、出力する(ステップB6)。具体的には、比較部21は、記憶部23から読み出した基準点データと比較した場合の距離を算出するようになっており、例えば、検査位置Aに関しては、それに対応する基準点データを記憶部23から読み出して、読み出した点と検査位置Aとを直線で結んだ空間距離ではなく、法線ベクトルγ1方向の距離を算出する。同様に、検査位置Bに関しては、比較部21は、それに対応する基準点データを記憶部23から読み出して、法線ベクトルγ2方向の距離差を算出する。
このように、本発明の実施形態に係る解析システム10では、検査位置を補正するので、R止まりから所定距離の所に位置する検査位置α′,β′に関して、対応する測定ポイントを点群データから抽出することができ、正確に比較を行なうことができる。
【0044】
(3)ヘム
ヘムとは、例えば、図10に示すように、ドア50の縁部で言えば、インナーパネル51の縁部を挟持するように、ドア50のアウターパネル52の縁部を折り返した箇所が該当する。このように、折り返しの部位をヘムと言う。
ヘムの場合、比較部21は、図11及び図12に示すように、まずステップC1にて、設計基準点aを通る平面(ベクトルb1,b2で決まる平面)にて、測定ポリゴン(点群データ)から図中の点線で示す断面ポリラインを作成する。
続いて、比較部21は、ステップC2にて、検査位置cを上記断面に投影する。
【0045】
次に、比較部21は、ステップC3にて、検査位置cと上記断面ポリラインとの距離L1を計算する。
その後、比較部21は、ステップC4にて、断面ポリラインからヘムのR形状の頂点dを求める。そして、比較部21は、ステップC5にて、ベクトルb1方向に関して頂点dと設計基準点aとの距離差を求め、また、ベクトルb2方向に関して測定点eと検査位置cとの距離差を求める。
このように、本発明の実施形態に係る解析システム10では、ヘムの平面部の法線方向のずれ量とR形状の頂点のずれ量を算出することができる。
【0046】
本発明の実施形態に係る解析システム10では、比較部21が、各管理部位ごとに予め設定された判断手法に則って、誤差を算出する。このような判断処理を行なう前に、準備段階として、制御部20は、その比較部21にて解析を行なおうとする物体13に関する設定データに基づいて各管理部位における基準点データを作成し、記憶部23に登録しておく。この状態から、計測部11は物体13の表面形状を非接触にて計測し、その非接触計測データ(点群データ)を制御部20に出力する。
【0047】
これを受けて、制御部20の比較部21は、この非接触計測データが入力されると、当該物体13に関する基準点データを記憶部23から読み出して、非接触計測データと基準点データとを比較する。その際、管理部位がプロファイルである場合には、比較部21は、前述したように、非接触計測データと基準点データとの比較によって検査位置を補正する。
【0048】
その後、比較部21は、非接触計測データと基準点データとの比較によって、当該管理部位の誤差値を計算する。そして、すべての管理部位に関する誤差値を計算した後、比較部21は、各管理部位における設計データ,非接触計測データ及び誤差値を精度管理表作成部22に対して出力する。
【0049】
これにより、精度管理表作成部22は、比較部21から入力される各管理部位に対する非接触計測データ,基準点データ及び誤差値に基づいて、例えば表計算ソフトのファイル形式にて精度管理表を作成すると共に、誤差値に基づいて誤差カラーマップを作成する。ここで、精度管理表に許容公差が加えられている場合には、精度管理表を参照することにより、誤差値が許容公差内に収まっているか否かを容易に判断することができる。精度管理表作成部22は、これらの精度管理表及び誤差カラーマップを適宜の形式で出力する。出力形式としては、図示しない表示部への画面表示,プリンタ等による印刷出力,適宜の記憶媒体への書き込み、あるいはLAN等を介してのデータ出力が可能である。
【0050】
このようにして、本発明の実施形態に係る解析システム10によれば、従来不可能であったボルト,ナットそしてプロファイル,ヘムの管理部位に関する誤差値の計算即ち数値化も可能となり、物体に関するすべての管理部位の数値化が可能である。
【0051】
この場合、精度管理表は、表計算ソフトのファイル形式で作成されていることで、この表計算ソフトがインストールされているパーソナルコンピュータを使用すれば、精度管理表を参照し、必要に応じて精度管理表を修正することも可能であると共に、精度管理表を利用して、必要な管理部位の統計的な評価を行なったり、当該物体を製造するための型や設備治具の修正値を算出することも可能である。
【0052】
本発明の実施形態に係る非接触計測データの解析システム10によれば、非接触計測した物体に関して、各管理部位に関する精度管理表を自動的に作成するので、従来の接触計測の場合における精度管理表と同様の精度管理表が、非接触計測においても自動的に迅速に作成される。
【0053】
この場合、物体13にボルト13a又はナット13bが備えられていたとしても、これらのボルト13a又はナット13bに対してそれぞれ計測治具16,17を装着した状態で非接触計測を行い、計測治具16,17が予め寸法管理された円柱形状の部材であるから、これらボルト13a又はナット13bに螺合された計測治具16,17の外形に基づいて、中心座標とその向き、即ちボルト又はナットの中心軸上の一点の座標及びその点におけるベクトル方向を算出して、ボルト13a又はナット13bの位置及び方向を正確に計測することができる。
【0054】
また、物体13のプロファイルの形状に関しても、非接触計測データ(点群データ)と設計データを比較して検査位置の補正を行なうことにより、より高精度に誤差値を計算し数値化することができるので、より正確な解析が行なわれる。さらに、物体13のヘムの形状に関しても、誤差値を計算し数値化することができるので、より正確な解析が行われ得る。
【0055】
以上説明したが、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施できる。例えば、上述した実施形態においては、自動車の外板パネル等の物体13の各管理部位の解析を行なう場合について説明しているが、これに限らず、他の任意の表面形状を備えた他の物体についても、非接触計測データに基づいて解析を行なうことができる。
【0056】
上記の説明では、点群データから計測治具16,17の外接円16c,17cの穴輪郭を抽出する手法として、特開2003−75146号公報に記載の技術を応用することを例示したが、外接円16c,17cの穴輪郭を抽出する手法はこれに限定されるものではなく、他の公知技術を利用することができるのは勿論である。
【0057】
上記の説明では、アタッチメントとして計測治具16,17をボルトやナットに取り付ける場合を例示したが、このようなアタッチメントを取り付けて、アタッチメントの既知の寸法を考慮してボルトやナットの中心座標を算出する評価手法は、ボルトやナットに限らずボスやピンの管理部位にも対応可能である。例えば、物体が樹脂成形品である場合に、当該物体にボスが形成されており、該ボスの上端面が上記計測治具16,17と同様に外接円を形成する場合には、このボスを非接触で計測して外接円を含めた輪郭を点群データで取得すれば、同様に対応可能である。また、計測する対象である物体にピンが取り付けられている場合も、例えば、ピンの端面を点群データとして抽出すれば、同様に対応可能である。
【0058】
また、上記の説明では、レーザー光による非接触計測を基に点群データを取得する場合を例示したが、画像,モアレ等の一般的な非接触計測で得られた点群データにも、本発明は対応可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る非接触計測データの解析システムを示すブロック図である。
【図2】図1の非接触計測データの解析システムにおける計測部の構成を示す概略図である。
【図3】図2の計測部による(A)ボルト用の計測治具、(B)ナット用の計測治具のそれぞれ使用状態を示す断面図、(C)計測治具の外接円を示す斜視図である。
【図4】図1の非接触計測データの解析システムによるボルトまたはナットの場合の動作を示すフローチャートである。
【図5】(A)及び(B)は、それぞれ本発明の実施形態に係る計測治具の変形例を示す斜視図である。
【図6】プロファイルを説明するための図である。
【図7】(A)及び(B)は、それぞれプロファイルの誤差を計測するための処理を説明するための図である。
【図8】図1の非接触計測データの解析システムによるプロファイルの場合の動作を示すフローチャートである。
【図9】図8の処理を説明するための図である。
【図10】ヘムを説明するための図である。
【図11】図1の非接触計測データの解析システムによるヘムの場合の動作を示すフローチャートである。
【図12】図11の処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0060】
10 非接触計測データの解析システム
11 計測部
12 レーザー光源
13 物体
13a ボルト
13b ナット
14 撮像部
15 画像処理部
16,17 計測治具
16a,17a 円柱部
16b ネジ穴
16c 凸部
16d プレート部
17b ネジ
20 制御部
21 比較部
22 精度管理表作成部
23 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、
各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、
管理部位としてボルト又はナットの計測の際に、上記計測部が、寸法管理された円柱部を有する計測治具を上記ボルト又はナットに取り付けた状態における該計測治具の輪郭を含めた点群データを作成し、
上記比較部が、点群データから抽出した上記計測治具の外接円に基づいて該外接円の中心と面角度を算出し、算出した外接円の中心と面角度と既知の円柱部の寸法に基づいてボルト又はナットの中心座標を算出し、該中心座標と対応する基準点データとを比較して誤差を計算することを特徴とする、非接触計測データの解析システム。
【請求項2】
物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、
各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、
管理部位としてボルト又はナットの計測の際に、上記計測部が、半球状の凸部を平板状のプレート部の上面から突出形成してなるハット型部材を有する計測治具を上記ボルト又はナットに取り付けた状態における該計測治具の輪郭を含めた点群データを作成し、
上記比較部が、点群データから抽出した上記計測治具の輪郭に基づいて凸部の球の中心とプレート部の面の法線ベクトルとを算出し、算出した球の中心と法線ベクトルと既知のハット型部材の寸法に基づいてボルト又はナットの中心座標を算出し、該中心座標と対応する基準点データとを比較して誤差を計算することを特徴とする、非接触計測データの解析システム。
【請求項3】
物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、
各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、
管理部位としてボルト又はナットの計測の際に、上記計測部が、半球状の凸部を有する計測治具を上記ボルト又はナットに取り付けた状態における該計測治具の輪郭を含めた点群データを作成し、
上記比較部が、点群データから抽出した上記計測治具の輪郭に基づいて凸部の球の中心を算出すると共に計測治具の取付位置周辺の面の法線ベクトルとを算出し、算出した球の中心と法線ベクトルと既知の凸部の寸法に基づいてボルト又はナットの中心座標を算出し、該中心座標と対応する基準点データとを比較して誤差を計算することを特徴とする、非接触計測データの解析システム。
【請求項4】
物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、
各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、
管理部位としてプロファイルの点群データを基準点データと比較する際に、上記比較部が、比較すべき点群データの検査位置を補正し、補正後の検査位置の点群データと基準点データとを比較して、誤差値を算出することを特徴とする、非接触計測データの解析システム。
【請求項5】
物体の三次元形状に関して非接触で計測を行なって、点群データから成る非接触計測データを作成する計測部と、
各管理部位に関して、順次に非接触計測データと基準点データとを比較して、その誤差値を計算する比較部と、を備え、
管理部位としてヘムの点群データを基準点データと比較する際に、上記比較部が、ヘムの平面部の法線方向のずれ量とR形状の頂点のずれ量を算出することを特徴とする、非接触計測データの解析システム。
【請求項6】
各管理部位に対する非接触計測データ,基準点データ及び誤差値から精度管理表を作成する精度管理表作成部を備えたことを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の非接触計測データの解析システム。
【請求項7】
前記精度管理表作成部が、各管理部位に関する誤差値に基づいて、誤差カラーマップを作成することを特徴とする、請求項6に記載の非接触計測データの解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−3229(P2007−3229A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180901(P2005−180901)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】