説明

非晶質カーボン被覆切削工具及びその製造方法

【課題】高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果、低摩擦係数、耐凝着性に有効な非晶質カーボン被覆切削工具、及び非晶質カーボン皮膜の製造方法を提供する。
【解決手段】非晶質カーボン皮膜を被覆した非晶質カーボン被覆切削工具において、該非晶質カーボン皮膜は、B、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上の元素を含有し、該元素の含有量は、原子%で、0.01%以上、25%以下であることを特徴とする非晶質カーボン被覆切削工具及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非鉄材料、軟質金属材料、有機材料、硬質粒子含有材料等又はプリント回路基板等の加工に用いる穴あけ加工用ドリル、リーマ、側面加工用エンドミル、ルーターや、刃先交換式切削工具のインサートに非晶質カーボン皮膜を被覆した工具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質カーボン皮膜について特許文献1から7が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−62706号公報
【特許文献2】特開2005−256095号公報
【特許文献3】特開2000−144428号公報
【特許文献4】特開平3−33641号公報
【特許文献5】特開平5−42398号公報
【特許文献6】特開平7−98278号公報
【特許文献7】特表2005−500440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、WC基超硬合金からなる工具刃先が非晶質カーボン膜を備えた非晶質カーボン被覆工具を開示している。このWC基超硬合金はCo含有率が12質量%以下である。特許文献2は、炭素を含有した硬質皮膜にS、F、Cl、Bから選択される元素を含有させる技術を開示している。特許文献3は、DLC薄膜にハロゲン元素、P元素を添加し、水素イオン等のゲッタリング作用効果を開示している。特許文献4は、炭素膜にF原子を添加し、炭素粒子の構造安定化への役割を開示している。また、炭素膜を切削工具の刃先へ応用することも開示している。特許文献5は、結晶性炭素の気相合成法において、F元素を含む原料を使用することによって結晶成長速度を大きくする効果を開示している。特許文献6は、ダイヤモンドライクカーボン薄膜にN、P、O、F元素の1種以上を含有させる技術を開示している。特許文献7は、非晶質炭素またはDLCのマトリックス相とナノスケールの介在相を有する層において、O、N元素を含む層を開示している。
しかし、上記の技術は高硬度化を志向した皮膜のため、機械的な強度、クラックの進展における対策には言及されていない。そこで本願発明は、高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果、低摩擦係数、耐凝着性に有効な非晶質カーボン被覆切削工具及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、非晶質カーボン皮膜を被覆した非晶質カーボン被覆切削工具において、該非晶質カーボン皮膜は、B、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上の元素を含有し、該元素の含有量は、原子%で、0.01%以上、25%以下であることを特徴とする非晶質カーボン被覆切削工具である。上記構成を採用した非晶質カーボン被覆切削工具は、高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果があり、低摩擦係数、耐凝着性に有効であり、性能の安定した非晶質カーボン被覆切削工具を提供することができる。
【0006】
本願発明の該非晶質カーボン皮膜の製造方法は、フィルター方式アークイオンプレーティング(以下、FAIPと記す。)法、又はFAIP法とプラズマ化学蒸着(以下、PCVDと記す。)法とを組合せた方法により被覆することが好ましい。FAIP法により被覆する場合、FAIP蒸発源に装着された固体ターゲットから放出したイオンは磁場により偏向させ、該偏向の角度α(度)は、30≦α<90、とした非晶質カーボン皮膜の製造方法であることが好ましい。PCVD法によりB、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上を該非晶質カーボン皮膜に添加することが、好ましい添加手段である。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果、低摩擦係数、耐凝着性に有効な非晶質カーボン被覆切削工具、及び非晶質カーボン皮膜の製造方法を提供することができた。例えば、凝着が発生し易い、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅等の非鉄金属、有機材料、グラファイトなど硬質粒子を含有する材料の切削加工に最適である。本願発明の工具は、高寿命・高能率加工を可能とし、被削材の仕上げ表面形状維持、寸法精度維持などを高品位に行うことができる。切削抵抗が極めて低いため、切削油剤を用いなくとも、寿命や切削能率が高く、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。更に、環境保全や省エネルギー化のニーズにも応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
被削材として、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅といった非鉄金属、有機材料、グラファイトなど硬質粒子を含有する材料を被削材として加工する場合、仕上げ表面形状維持、寸法精度維持などを高品位に行うことが切削工具に求められている。しかし、切削工具の切刃部分に被削材が凝着して切削抵抗が大きくなり、刃先が欠損するといった問題が生じる。これは、他の被削材に比べて工具表面の凝着が発生し易く、凝着による切刃のチッピングや加工精度の低下が著しいためである。そこで本願発明を達成する上で重要なポイントは、非晶質カーボン皮膜にB、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上を添加することである。これらの元素を添加した場合、非晶質カーボン皮膜は高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果、低摩擦係数、耐凝着性に有効な作用を有する。非晶質カーボン皮膜は、潤滑特性と凝着に対する抵抗を大幅に改善することができる。上記の添加元素は、0.01原子%以上、25原子%以下に限定する。添加元素の含有量が0.01原子%未満の場合、高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果が十分に発揮されない。一方、25原子%を超えて大きい場合、潤滑性改善に効果が認められるものの、皮膜硬度の低下が著しく、耐摩耗性が発揮されない。これらの理由から、本願発明は添加元素の含有量を、0.01原子%以上、25原子%以下に限定する。特に、B、S、F、O、N元素は、高硬度な非晶質カーボン皮膜に比較的に軟質な材料を含有させることが可能となるため、靭性の改善に有効な作用を示す。これはクラック進展抑制に効果的である。更にこれらの添加元素の含有量は、0.3原子%以上、5原子%以下であることがより好ましい。例えば、h−BN相の存在は、クラック進展抑制効果と伴に、潤滑特性と耐凝着性を改善する効果もある。一方、B、F、N元素は、成膜時に設定条件であるプラズマエネルギー量の制御によって硬質材となり、より高硬度な非晶質カーボン皮膜に適度な靭性を付与して、硬度バランスのとれた材料とすることができる。例えば、c−BN相の存在が好ましい。また、これら効果を有効に発揮させるためには添加元素の含有量を、5原子%以上、15原子%以下にすることがより好ましい。更に、非晶質カーボン皮膜にCl、Fのハロゲン元素を添加することにより熱導電性が良好となり、耐熱性の改善に寄与する。この効果を十分に発揮させるためには、10原子%以上、25原子%以下の含有量にすることとが好ましい。
ここで、非晶質カーボン皮膜に非金属元素を添加する場合には、各種反応ガス種をAr、He等の不活性ガスで希釈したガスを使用することができる。反応ガス種として例えば、Bガス、NHClガス、HSガス、PHガス、SiFガス、CFガス、NFガス、CHF等のハロゲン化炭化水素ガス、Oガス、アンモニアガス、アミン系化合物、Nガス、とHガス、炭化水素ガス等を適切に組合せて使用することができる。別に、これらの非金属成分の添加手段としては、FAIP法によりターゲットに予め添加することによっても可能である。例えば、MoS2やWS2をターゲットに含有させ、S元素を添加すること等が可能である。
【0009】
本願発明の非晶質カーボン皮膜は、水素含有量が、原子%で、5%を超えて大きく、15%以下含有することが好ましい。この範囲内であれば、非晶質カーボン皮膜の摩擦係数が低くなり、皮膜の脆化を抑制し、耐チッピング特性である靭性を改善して好ましい。一方、水素含有量が5%以下の場合、チッピングの支配要因である皮膜のクラック発生や凝着が発生し易くなり、工具寿命が不安定となる。また15%を超える場合、切削過程で非晶質カーボン皮膜のグラファイト化が進行し易くなり、その結果、耐摩耗性が悪くなる傾向にあり不都合である。本願発明の非晶質カーボン皮膜は、0.5mN以上、50mN以下の測定荷重を印加した押込み硬さ測定法による硬度が、20GPa以上のものである。従って、機械部品等に使用される水素含有量が20%以上の低硬度な非晶質カーボン皮膜とは異なる。
本願発明の非晶質カーボン皮膜は、これとは別にTi、Cr、Al、Si、Vの少なくとも1種以上を含有した被覆層との積層構造を有し、2層以上、900層以下の積層膜で構成される場合、特に皮膜の脆化を抑制し、耐チッピング特性である靭性を改善することや、耐摩耗性の改善に有効であり好ましい。一方、900層以上の場合、実質的に非晶質カーボン皮膜の膜厚が厚くなり、皮膜剥離を誘発する場合が確認され好ましくない。積層周期は、0.5nm以上、30nm未満であれば、皮膜硬度と靭性とのバランスが最適である。また、非晶質カーボン皮膜を最表層とし、基体と非晶質カーボン皮膜との界面における下地層がTi、Cr、Al、Siから選択される窒化物、又は炭窒化物である場合、本願発明の非晶質カーボン皮膜の特性を改善することができる。特に被加工物が鉄系化合物を含有する場合、又は硬質粒子を分散して含有する場合に好適であり、本願発明の効果を発揮する。
本願発明の非晶質カーボンを被覆する切削工具の直径が、0.02mm以上、1.2mm未満である場合、本願発明の効果が得られ易く好ましい。これは、1.2mmよりも小径側において特に皮膜の潤滑特性が必要とされるためである。一方、1.2mm以上では本願発明の効果が十分に発揮されず、0.02mm未満の工具は、製作が困難である。
本願発明の非晶質カーボン被覆切削工具の基体は、Co含有量が3重量%以上、12重量%未満からなる超硬合金、サーメット、高速度鋼の何れかであることが好ましい。いずれの材料によっても、基体と皮膜との優れた密着強度、耐摩耗性を発揮することができる。超硬合金におけるCo含有量が3重量%未満の場合は、工具刃先の耐チッピングに劣るため、不都合である。12重量%以上では、基体の変形量に対して、非晶質カーボン皮膜の変形が追随でなきない。そのため皮膜の密着強度が著しく低下して不都合である。また、超硬合金のWC平均粒径が、0.2μm以上、0.8μm未満であって、Ta、V、Cr、Co、Wから選択される少なくとも1種以上の炭化物もしくは炭窒化物を含有する場合、本願発明の皮膜との密着強度、皮膜強度と耐摩耗性の点から特に好ましい。一方、WC平均粒径が0.2μm未満の場合、チッピングが発生するため不都合である。また、0.8μm以上の場合、被覆前の表面処理として行うイオンクリーニングにおいて、表面の凹凸が大きくなり、凝着性が劣化するため不都合である。
本願発明の非晶質カーボン被覆切削工具がプリント基板加工用工具の場合、耐凝着性と耐摩耗性の両特性を満足することができるため、好適である。
【0010】
本願発明の非晶質カーボン皮膜の製造方法は、FAIP法、又はFAIP法とPCVD法とを組合せた方法により被覆することが最適である。FAIP法は、高硬度であり、表面平滑性に優れた皮膜を被覆することができる。また、PCVDと併用することにより、非晶質カーボン皮膜にガス成分元素を容易に添加することができる。FAIP法の蒸発源に装着された固体ターゲットから放出したイオンは磁場により偏向させられ、磁力線に沿って基体表面へ向けて飛行する。αは、30≦α<90、の範囲として基体表面に到達し、皮膜形成が行われることが好ましい。ここで、角度αは、ターゲット表面に対して垂直な直線と、ターゲット表面から放出されたイオンが描く軌道の接線とのなす角度である。αが30度未満の場合、皮膜の高硬度化が十分ではない。また90度以上の場合、成膜速度が極めて低くなり、被覆基体に対して均一な皮膜形成が行われない。また、PCVD法により非晶質カーボン皮膜にB、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上を添加することが好ましい。このとき気体成分をイオン化する手段としては、成膜装置内にホロカソード電極を別途設けることにより可能となる。イオン化した気体成分を非晶質カーボン皮膜に添加することによって、高硬度と適度な靭性を有しながら、クラック進展を抑制する効果、低摩擦係数、耐凝着性に有効な作用を有する。特に摩擦抵抗が低く、耐凝着性に優れた皮膜を形成することができる。一方、非金属成分をイオン化する手段としてスパッタリングによるプラズマ源を用いた場合には、プラズマ密度が相対的に低いため、非金属成分のイオン化が不十分である。また、イオン化された非金属成分についても、その活性度が低い。従って、非晶質カーボン皮膜のマトリックス相内にナノオーダーの分散相として非金属成分を含有した化合物を埋め込むことは困難である。その点で、高活性度を有するイオン化が実現可能なFAIP法、又はFAIP法とPCVD法とを組合せた方法により被覆することが好適である。次に、本願発明の非晶質カーボン被覆切削工具について、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、基材に用いた超硬合金製の小径ドリルであり、工具径は0.1mm、溝長1.5mmである。表1に示す本発明例1のWC平均結晶粒径は0.6μm、Co含有量は8重量%、WC−Co以外にCr、TaCを含有する。硬度はHRA93.7であった。本発明例1から26、比較例27から32に用いた工具基体を表1に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
工具基体は脱脂洗浄を実施し、FAIP蒸発源と成膜装置中央にホロカソード電極を配備した成膜装置に装着した。FAIP蒸発源には、銅の薄板を介して水冷された純度99.99%のグラファイトターゲットが固定されている。永久磁石又は電磁石等がグラファイトターゲットの外周を取り囲むように配置され、アークスポットが効率良く移動可能な機能を有している。この機能によって、グラファイトターゲットをイオン化させた。グラファイトターゲットから放出するイオンは偏向して基体に到達する。この時の偏向角度αを表1に併記した。
成膜条件は、基体を成膜装置容器内に設置された加熱源により200℃まで加熱した。同時に排気を行い、容器内の圧力を5×10−4Paとした。その後、基体を80℃に設定し、容器内にAr及びHを導入した。容器内に設けられた電極で気体をイオン化し、工具表面のクリーニング処理を実施した。この時のバイアス電圧値は、−150Vで10分間とした。次に容器内にArを導入し、容器内の圧力を5×10−1Paに設定した。必要に応じて、別のFAIP蒸発源に設置された金属ターゲットによってボンバードメント処理及び/又は下地層の被覆を行った。この時の供給電流値は60A、バイアス電圧値は、−500Vで2分間とした。被覆した下地層も表1に併記した。次に、グラファイトターゲットを装着したFAIP蒸発源に60Aの電流を供給し、非晶質カーボン皮膜を被覆した。非晶質カーボン皮膜の被覆と同時に、PCVD法により非金属元素であるB、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上を添加した。添加方法は、添加元素を含有する気体を、容器中央に設置したホロカソード電極近傍から導入し、電極に電流を供給することによって、気体成分をイオン化した。イオン化された気体成分は、バイアス電圧により非晶質カーボン皮膜に添加した。添加元素、膜厚を表1に併記した。
【0014】
本願発明の非晶質カーボン皮膜における水素含有量の定量には、RBS(Ruthoerford Backscattering Spectrometryの略。)解析及びERDA(Elastic Recoil Detection Analysisの略。)解析を用いた。この時の測定条件は、ビームエネルギーを2.3MeV、イオン種をHeイオン、散乱角を170度、30度、試料電流を30nA、ビーム照射量を40μCとした。また、非晶質カーボン皮膜の非金属成分の定性、定量分析には、X線光電子分光分析(以下、XPSと記す。)、電子線エネルギーロス分析(以下、EELSと記す。)、オージェ電子分光分析(以下、AESと記す。)等が挙げられる。金属成分の定性分析には、AES、エネルギー分散型X線分析(以下、EDSと記す。)等が挙げられる。分析結果を表1に併記した。
【0015】
表1に示す各工具について、下記の条件で穴あけ加工評価を行った。評価は工具折損までの穴あけ加工数とした。表1には3本の平均値を記載する。100未満は切り捨てて表示した。
(穴あけ加工条件)
工具:小径ドリル
被削材:プリント回路用基板
切削速度:94.3m/分
一回転あたりの送り:5μm/回転
プレッシャフット圧力:117N
バキューム圧:100hPa
【0016】
表1より、本発明例1から本発明例26は、比較例27から比較例32に比べ、被加工物の耐凝着性、耐摩耗性に優れることから、折損寿命に優れていた。本発明例1の成膜方法は、FAIP蒸発源から放出されるイオンのαを45度とした。Cr金属により、ボンバード処理及び下地層の被覆を行い、膜厚を10nmとし、次いで非晶質カーボン皮膜と、同時に少量の酸素を含有させるため、PCVD法によりホロカソード電極で酸素含有ガスを導入し、イオン化させた。分析の結果、非晶質カーボン皮膜の酸素含有量は0.5%、水素含有量は5.2%であった。層数は下地層も含めて2層構造にし、下地層を除いた膜厚は300nmであった。穴あけ加工評価による折損寿命は16300穴となり、比較例に対して折損寿命に優れ、満足のいく結果が得られた。本発明例2は、FAIP蒸発源から放出されるイオンのαを90度とした。本発明例3、4は、超硬合金のCo含有量が異なる場合の本発明例を示す。比較例29、30と比較した場合、折損寿命に優れていた。比較例29、30は、超硬合金のCo含有量が夫々2.5%、13.5%であり、折損、異常摩耗、チッピング等により折損寿命は短かった。これらの結果から、基体として超硬合金を用いる場合は、Co含有量が3重量%以上、12重量%未満とすることが好ましい。また、サーメット材、高速度鋼の基体材料においても有効な結果を得られることを確認した。本発明例5、6は、超硬合金のWC平均粒径が夫々0.2、0.4μmであって、Cr、Vを含有する場合を示す。これらの組合せは、非晶質カーボン皮膜との組合せにおいて、特に折損寿命に優れる結果となった。本発明例7から11は、非晶質カーボン皮膜の非金属成分に、夫々、BとN、F、Cl、S、Nを含有する場合を示す。何れの試料も折損寿命に優れた結果となり、特に耐摩耗性に優れていた。本発明例12は、成膜方法がFAIP法のみの場合を示す。この場合の酸素の添加は、酸素含有気体を容器内に導入しながらFAIP法で成膜した。また成膜前処理の圧力によっても制御することができる。本発明例13は、非晶質カーボン皮膜内の水素含有量が17.2%の場合であるが、水素含有量が12.2%の本発明例17と比較した場合、穴加工数が劣る結果となった。そこで、水素含有量は、本発明例19に示す3.6%以上であり、本発明例17に示す12.2%以下の範囲がより好ましい結果と考えられる。本発明例14は、工具径が1.5mmの場合である。被覆処理を行っていない同一寸法工具と比較して、約2.2倍の折損寿命を示した。しかし、0.1mmの場合に比べ、寿命向上が顕著ではなく、1.2mm未満で実施することがより好ましい。本発明例15は、下地層にTi皮膜を使用した場合を示す。本発明例16から20は、非晶質カーボン皮膜と金属成分を含有した層とを積層して被覆した場合を示す。金属成分の添加方法は、Siに関しては、PCVD法により添加した。その他の金属元素に関しては、グラファイトターゲットとは別のFAIP蒸発源を同時に稼動させることによって添加した。また金属成分の添加方法には、PCVD法によっても可能である。本発明例20は、Crを含有した層との積層膜であり、積層数が800層の場合を示す。また膜厚は1600nmであった。本発明例21から26は、下地層に金属窒化物又は金属炭窒化物を用いた場合を示す。これら窒化物又は炭窒化物の下地層を用いることによって、特に被削材が硬質粒子を含有する場合に有効である。上記の様に、本発明例は折損寿命に優れ、満足のいく結果を得ることができた。
一方、比較例27は、被覆処理を施していない場合を示す。折損寿命は、3400穴程度であった。比較例28は、PCVD法のみで非晶質カーボン皮膜を被覆した場合を示す。4200穴程度であった。比較例31は、非晶質カーボン皮膜が非金属成分を含有しない場合を示す。比較例32は、非晶質カーボン皮膜の非金属成分である酸素含有量が28%の場合を示す。何れの場合も本発明例と比較して、折損寿命の改善効果は低い結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明例1の小径ドリルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質カーボン皮膜を被覆した非晶質カーボン被覆切削工具において、該非晶質カーボン皮膜は、B、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上の元素を含有し、該元素の含有量は、原子%で、0.01%以上、25%以下であることを特徴とする非晶質カーボン被覆切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の非晶質カーボン皮膜を被覆した非晶質カーボン被覆切削工具において、該非晶質カーボン皮膜の製造方法は、フィルター方式アークイオンプレーティング法、又はフィルター方式アークイオンプレーティング法とプラズマ化学蒸着法とを組合せた方法により被覆することを特徴とする非晶質カーボン皮膜の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の非晶質カーボン被覆の製造方法において、フィルター方式アークイオンプレーティング法の蒸発源からのイオンは磁場により偏向させ、該偏向の角度α(度)は、30≦α<90、であることを特徴とする非晶質カーボン皮膜の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の非晶質カーボン被覆の製造方法において、プラズマ化学蒸着法によりB、Cl、S、P、F、O、Nの少なくとも1種以上を該非晶質カーボン皮膜に添加することを特徴とする非晶質カーボン皮膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−136611(P2007−136611A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333634(P2005−333634)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】