説明

非水系二次電池用負極活物質材料

【課題】電解液との過剰な反応性を抑制すると共に、急速充放電特性に優れた負極材料を提供する。
【解決手段】球状天然黒鉛及び炭素化物前駆体を原料に、一定の温度範囲で熱処理(黒鉛化処理)し、該熱処理体を更に粉砕、再熱処理することで得られる、特異な最表面構造を持つ負極活物質材料により、課題を解決する。この特異な最表面構造により、負極材料と電解液との過剰な反応性を抑制すると共に、急速充放電特性に優れた活物質とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用電極に用いる炭素材料と、その材料を用いて形成された負極と、その負極を有する非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、コストと耐久性の面で、黒鉛材料や非晶質炭素が使用されることが多い。しかしながら、非晶質炭素材料は、実用化可能な材料範囲での可逆容量の小ささ故、また黒鉛材料は、高容量化のために負極材料を含む活物質層を高密度化すると、材料破壊により初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化に至らないといった問題点があった。
【0004】
これを解決するため、例えば特許文献1では、走査型電子顕微鏡観察において、輪郭が他の粒子の輪郭と重なっていない粒子を100個選択し、そのそれぞれの測定面積Sから、2×(S/3.14)0.5により求めた円相当粒子径について、該100個の粒子の平均値を求め、それを平均円相当粒子径DSμmとしたとき、DL/DSが、1より大きく、2以下であり、ラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度IAと、1360cm-1付近の最大ピークの強度IBの強度比IB/IAをラマンR値としたとき、ラマンR値が、0.04以上、0.14以下、を満たす非水系二次電池用黒鉛質複合粒子が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、粉末表面でグラファイトc面層の端部がループ状に閉じた閉塞構造を有し、グラファイトc軸方向における該閉塞構造間の間隙面の密度が200個/μm以上、1500個/μm以下であって、比表面積が1.0m2/g以下であることを特徴とするグラファイト粉末が開示されている。当該材料の端部構造は、人造黒鉛のみからなる粉末を酸化し再焼成して得られる場合もあるが、これによる該閉殻構造では、求められる急速充放電特性に対しては不十分であり、更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−042611号公報
【特許文献2】特許第4207230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、活物質として負極中に含むものとした際に、初期サイクル時に見られる不可逆容量が小さい上、急速充放電にも対応できるような炭素材料を提供することである。このような材料を負極中に含むことで、高密度で極板シートを作成した際にも稼動するような、負極材を構築することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、球状天然黒鉛及び炭素化物前駆体を原料に、一定の温度範囲で熱処理(黒鉛化処理)し、該熱処理体を更に粉砕、再熱処理することで、特異な最表面構造を持つ黒鉛系粒子を作成することができ、この構造により、負極材料と電解液との過剰な反応性を抑制すると共に、急速充放電特性に優れた活物質とできることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、球状天然黒鉛並びに、ピッチ、タールおよび有機高分子化合物から選ばれる炭素化物前駆体、から製造されるリチウムイオン二次電池用負極活物質材料であって、前記負極活物質材料は、前記球状天然黒鉛と前記炭素化物前駆体を混合し、該混合体を2800℃以上3200℃以下の温度で焼成し、得られた焼成体に機械的磨砕処理を施した後、更に700℃以上1000℃以下の温度で再焼成することで得られ、かつ、前記球状天然黒鉛と前記炭素化物前駆体の再焼成後の重量比が85/15〜93/7の範囲であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質材料である。
【0010】
また、前記負極活物質材料は、(a)タップ密度が0.9g/cm3以上1.2g/cm3以下、(b)BET比表面積(SA)が3m2/g以上10m2/g以下、(c)X線回折から求められる菱面体/六方晶のピーク強度比3R/2Hが0.2以上0.35以下、(d)Raman R値が0.14以上0.3以下、を満たすことが好ましい態様である。
【0011】
また、前記負極活物質材料は、水銀ポロシメーターにて測定した、1gあたりの100nm以上1000nm以下の空隙孔体積が0.1μl/g以上、6μl/g以下であることが好ましい態様である。
【0012】
また、本発明は、上記記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質材料を少なくとも含む負極板であり、該負極板を含むリチウムイオン二次電池である。
【0013】
また、本発明は、上記記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質材料を、1.6g/cm3以上の活物質層密度で含む負極板、及び鎖状系カーボネートを主体とする電解液、を用いたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の負極活物質材料は、それを負極中に含むものとした際に、不可逆容量が小さい上、急速充放電にも対応できる。そのため、高容量の電池を作成し、負極板を高密度で作成した際にも稼動性が確保できる。更に、黒鉛材料の圧延性を保つため、集電体上に塗布することで、高密度化することができ、高容量のリチウムイオン二次電池を作成する際の負極活物質材料として提供できる。また、本発明の負極活物質材料は、製造工程において、その工程数が少ない故、簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
【0016】
本発明の負極活物質材料は、球状天然黒鉛および炭素化物前駆体から、特定の方法により製造される。
【0017】
球状天然黒鉛とは、粒子円形度が0.85〜1.00である天然黒鉛を意味し、0.90〜1.00であることが好ましい。粒子円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス(株)製のFPIA)を用いて測定することができる。また、体積平均粒径が5〜50μmであるものを用いることが好ましく、7〜35μmであるものを用いることがより好ましい。球状天然黒鉛は、市販されている黒鉛粒子を球形化処理したものを用いることができ、黒鉛粒子の球形化処理は、公知の方法で行うことができる。
【0018】
上記球状天然黒鉛は、湾曲又は屈曲した複数の鱗片状若しくは鱗状黒鉛、又は磨砕された黒鉛微粉からなるものであることが、本発明の負極活物質材料の3R/2Hが大きくなりやすく好ましい。3R/2Hについては後述する。
【0019】
また、上記球状天然黒鉛は、タップ密度が0.9g/cm3以上であることが好ましい。原料の球状黒鉛粒子のタップ密度が0.9g/cm3より小さいと、形状的に充電受入性に劣る傾向にあり、本発明の効果が十分発揮されない場合がある。
【0020】
また、上記球状天然黒鉛のBET比表面積(SA)は、上限値は11m2/g以下であることが好ましく、8.5m2/g以下であることが更に好ましく、6m2/g以下が最も好ましい。一方、下限値は2.5m2/g以上であることが好ましく、3m2/g以上であることが更に好ましく、4m2/g以上であることが最も好ましい。SAが11m2/gを超える場合、電解液との反応性が激しすぎる傾向にあり、不可逆容量が増大する場合がある。2.5m2/gよりも小さい場合、Liの入出力が妨げられる場合があり、充電受入性に劣る傾向にある。
【0021】
さらに、上記球状天然黒鉛のRaman R値は、下限値は0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることが更に好ましく、0.2以上であることが最も好ましい。一方、上限値は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることが更に好ましく、0.3以下であることが最も好ましい。Raman R値が0.05より小さい場合、黒鉛edge端面の活性が小さいため、本発明効果は十分に期待できない。0.5を超える場合には、熱処理しても黒鉛結晶性が不十分であったり、表面積が大きすぎたりして、可逆容量や不可逆容量が劣る可能性がある。
【0022】
上記炭素化物前駆体は、ピッチ、タールおよび有機高分子化合物から選ばれる。ピッチ、タールの例は、含浸ピッチ、コールタールピッチ、石炭液化油等の石炭系重質油、アスファルテン等の直留系重質油、エチレンヘビーエンドタール等の分解系重質油等の石油系重質油等が挙げられる。
【0023】
有機高分子化合物の例としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、これらの不溶化処理品、ポリアクリロニトリル、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリスチレンなどの有機合成高分子;セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キトサン、サッカロースなどの多糖類もしくは天然高分子;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシドなどの熱可塑性樹脂;フルフリルアルコール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、上記炭素化物前駆体は、炭素化物前駆体を1000℃で焼成した際の焼成収率が11重量%以上55重量%以下であることが好ましい。11重量%よりも小さい場合、黒鉛との複合化が十分ではない傾向にある。一方、55重量%を超える場合、一般的に炭素化物前駆体の物性が、高粘ちょう液体、乃至は固体に近づくため、混合しにくい傾向にある。なお、上記焼成収率は、炭素化物前駆体を1000℃で3時間以上焼成した場合における、焼成前の炭素化物前駆体の重量と、焼成後の炭素化物前駆体の重量とを測定することで、計算することができる。
【0025】
本発明の負極活物質材料は、まず、上記球状天然黒鉛と炭素化物前駆体を混合し、該混合体を通常2800℃以上3200℃以下、好ましくは2900℃以上3100℃以下で焼成する。上記球状天然黒鉛と炭素化物前駆体は、焼成後に特定の重量比を示すように混合するが、原料としては重量比として74/26〜87/13の割合で混合することが好ましい。昇温、降温を含む焼成時間は、通常12〜168時間程度で行われ、上述した温度で焼成する時間、つまり昇温、降温を含まない定温での時間は、通常1〜12時間、好ましくは1〜6時間で行われ、炭素化物前駆体が黒鉛化するのに十分な時間焼成を行う。焼成温度が2800℃よりも低い場合には、黒鉛化が十分に進まないため、Liを貯蔵できるいわゆる活物質の可逆容量が減少する可能性がある。また、3200℃を超える場合には、黒鉛の昇華を招くことから、現実的ではない。なお、焼成は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガスとしては窒素やアルゴンが挙げられる。
【0026】
焼成された焼成体は、次に機械的磨砕処理を施す。機械的磨砕処理の方法は、本発明の趣旨を超えない限り特に制限はないが、例えば、転動ボールミル、遊星ボールミル、ハンマーミル、CFミル、アトマイザーミル、パルペライザー、メカノフュージョン、ハイブリダイゼーション、シータコンポーザー、オングミル、ターボミル等が例示される。具体的には、Fritsch遊星ボールミルP−5を用い、メノウボールなどの粉砕媒と共に250mLのメノウポットへ、上記焼成体を投入し、分速200回転で10分間機械的磨砕処理を施すなどの方法が挙げられる。
【0027】
機械的磨砕処理は、通常30分以下、好ましくは15分以下、更に好ましくは10分以下行われる。30分以上行うと、処理により表面積が上がりすぎ、後工程の700〜1000℃の再焼成を施しても不可逆容量が高いままとなる場合がある。或いは、活物質の形状に損傷を及ぼす可能性がある。原料となる複合炭素化物の黒鉛化粉体の表面積によっても異なるが、粉砕前の表面積に対する粉砕後の表面積の比は、通常1.5倍以下であり、好ましくは1.3倍以下、1.1倍以下であると更に好ましい。上記機械的磨砕処理に際しては、不活性ガスであるArやN2をフローしながら行っても良く、あるいは当該処理時に用いる容器に材料を封入する際、残留する空気を追い出しながらArやN2でパッキングして行っても良い。大気(Air)を含んでいても良いが、その場合には、磨砕処理時間などの調整が必要である。
【0028】
機械的磨砕処理が施された焼成体は、更に700℃以上1000℃以下の温度で再焼成する。再焼成温度は800℃以上970℃以下であることが好ましく、820℃以上950℃以下であることがより好ましい。再焼成温度が700℃未満であると、黒鉛表面にある官能基が好ましい構造に変化しないと考えられ、不可逆容量の低減が十分に認められない。一方再焼成温度が1000℃を超える場合、黒鉛の再結晶化や焼成体表面の官能基の除去が顕著に起こると考えられ、充電受入性が低下する。なお、再焼成も、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、焼成時間は12〜168時間であることが好ましい。
【0029】
上記のような方法により製造された本発明の負極活物質材料は、原料である上記球状黒鉛と炭素化物前駆体の再焼成後の重量比が85/15〜93/7の範囲である。87/13〜92/8であることが好ましい。黒鉛に対して炭素前駆体が多くなりすぎると、再焼成後の負極活物質材料が硬くなる傾向にあり、負極板を成形する際に困難が生じる。一方、黒鉛に対して炭素前駆体が少なすぎると、負極板を高密度に成形する際に材料の圧壊が起こる可能性がある。
【0030】
本発明の負極活物質材料は、その他、様々な物性により、その好ましい範囲を規定することができる。以下、本発明の負極活物質材料に係る物性の測定方法及び好ましい範囲について説明する。
【0031】
<タップ密度>
(イ)タップ密度の定義
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器である(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用い、直径1.6cm、体積容量20cm3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、複合黒鉛粒子を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。なお、球状天然黒鉛のタップ密度も同様に測定する。
【0032】
(ロ)好ましい範囲
本発明の負極活物質材料のタップ密度は、下限値は0.9g/cm3以上であることが好ましく、0.98g/cm3以上であることがより好ましく、1.03g/cm3以上であることが特に好ましい。一方上限値は、1.2g/cm3以下であることが好ましく、1.15g/cm3以下であることがより好ましい。タップ密度が0.9g/cm3より低い場合、高速充放電特性に劣る傾向にあり、タップ密度が1.2g/cm3より高い場合、負極活物質材料の粒子内炭素密度が上昇し、圧延性に欠ける傾向にあり、高密度の負極シートを形成することが難しくなる場合がある。
上記タップ密度は、平均円形度の高い天然黒鉛を原料として用いることで、上記好ましい範囲とすることができる。
【0033】
<Raman R値>
(イ)Ramanスペクトル測定方法
ラマン分光器:「日本分光社製ラマン分光器」。
測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。測定条件は以下のとおり。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm-1
測定範囲 :1100cm-1〜1730cm-1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
なお、球状天然黒鉛のRaman R値も同様に測定する。
【0034】
(ロ)R値の特徴
1580cm-1付近の最大ピークは、黒鉛結晶質構造に由来するピーク(Gバンド)であり、1358cm-1付近の最大ピークは、構造欠陥により対称性の低下した非晶性炭素原子に由来するピーク(Dバンド)であると言われているが、このピーク強度比、即ちRaman R値は、ID/IGで定義される(F.Tuinstra, J.L.Koenig, J.Chem.Phys,53,1126(1970)参照)。従来、このGバンドは黒鉛の結晶性が高くなると大きくなり、Dバンドは非晶質や結晶構造の乱れが大きくなると大きくなると解釈されてきた。また、2800℃以上の黒鉛化を施したいわゆる人造黒鉛材料では、粉砕の程度や結晶化温度にもよるが、一般的に、高結晶性黒鉛やこれらの球状の粉砕物でも0.1未満程度の値を示すのが普通である。
【0035】
(ハ)好ましい範囲
本発明の負極活物質材料では、Raman R値が0.14以上0.3以下であり、既存の炭素材料とは、明確に区別される。また、典型的にはRaman R値が0.15以上と、人造黒鉛材料としては特異な値を示す。球状天然黒鉛と炭素化物前駆体であるピッチを混合し、例えば3000℃で単に焼成し、黒鉛化処理しただけの炭素材料のRaman R値が0.08と非常に小さいのと比較して、本発明の負極活物質材料は異なるものであるといえる。
上記、Raman R値は、700℃以上1000℃以下の温度で再焼成することにより、0.1以上0.3以下の値となる。また、再焼成の時間・温度を調整することにより、Raman R値を所望の範囲とすることができる。
【0036】
<BET比表面積(SA)>
(イ)測定方法
大倉理研社製比表面積測定装置「AMS8000」を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。具体的には、試料(複合黒鉛粒子)0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、通常のBET法により比表面積を算出する。なお、球状天然黒鉛のSAも同様に測定する。
【0037】
(ロ)好ましい範囲
本発明の負極活物質材料のBET法で測定した比表面積については、3m2/g以上10m2/g以下を満たすことが好ましい。より好ましくは3.5m2/g以上、更に好ましくは4.5m2/g以上である。また、より好ましくは7m2/g以下、更に好ましくは5.5m2/g以下である。比表面積が3m2/gを下回ると、Liが出入りする部位が少なく、高速充放電特性や出力特性に劣る傾向にある。一方、比表面積が10m2/gを上回ると、活物質の電解液に対する活性が過剰になり、初期不可逆容量が大きくなる傾向があり、高容量電池を製造できない可能性がある。
上記比表面積は、原料である球状天然黒鉛の粒径、粉砕強度、分級を調整することにより、所望の比表面積とすることができる。
【0038】
<X線構造解析(XRD)>
本発明の負極活物質材料の特異性を示すものとして、X線構造解析から得られる黒鉛のRhombohedral に対するHexagonalの結晶の存在比(菱面体/六角網面体)である3R/2Hが挙げられる。
【0039】
(イ)測定方法
日本電子製のX線回折装置(JDX−3500)で、CuKα線グラファイトモノクロメーターをターゲットとし、出力30kV、200mAで発散スリット1/2°、受光スリット0.2mm、散乱スリット1/2°の条件にて、試料粉末を直接試料版に充填し、2θ=43.4°付近と2θ=44.5°付近にそれぞれ3R(101)と2H(101)の結晶ピークが存在するとして、ピーク積分強度を求め、その比を存在比とした。なお、球状天然黒鉛の3R/2Hの値も同様に測定する。
【0040】
(ロ)3R/2Hの特徴
3R/2Hの値は、2800℃以上で焼成する、いわゆる黒鉛化処理を施した炭素材料については、ピッチ類など炭素化物前駆体を処理したもの、天然黒鉛を処理したもの、更には黒鉛とピッチ類を混合し、これを処理したもの、いずれについても、その値はほぼ0.00になることが知られている。
【0041】
(ハ)好ましい範囲
本発明では、球状天然黒鉛をピッチ、タールおよび有機高分子化合物から選ばれる炭素化物前駆体を混合してから焼成した複合炭素化物を作成し、更に黒鉛化後に機械的磨砕処理を施した後、更にこれを700℃以上1000℃以下で再焼成しているため、得られた負極活物質材料の3R/2Hの値が0.2以上0.35以下と従来の炭素材料よりも高いという特徴を持つ。
3R/2Hの値がこのように高い値を示すことは、充電受入性に関係すると思われる。本発明においても、再焼成温度範囲上限の1000℃を超えた場合には、この値は急激に減少し、例えば3000℃の温度で再熱処理した場合には、3R/2Hの値は再び0.00になる。
【0042】
上記3R/2Hの値は通常、0.2以上0.35以下、0.25以上0.35以下であることが好ましく、0.3以上0.35以下であることが更に好ましい。
上記、3R/2Hの値は、700℃以上1000℃以下の温度で再焼成する工程を有することにより、所望の範囲とすることができる。
【0043】
<空隙孔体積>
(イ)測定方法
水銀ポロシメーター(機種名:マイクロメリティックス社製・オートポア9220)を用いて水銀圧入法により実施した。試料を5ccパウダー用セルに封入し、水銀ポロシメーターで真空下(50μmHg以下)室温(24℃)にて10分間の前処理(脱気)を行う。その後、水銀圧力を4.0psiaから40,000psiaに上昇させ、次いで15psiaまで降下させた(全測定点数120ポイント)。測定した120ポイントでは、30psia迄は5秒、それ以降は各圧力10秒の平衡時間の後、水銀の圧入量を測定した。こうして得られた水銀圧入曲線から、Washburnの方程式(D=−(1/P)4γcosψ)を用いて細孔分布を算出した。尚、Dは細孔直径、Pはかかる圧力、γは水銀の表面張力(485dynes/cmを使用)、ψは接触角(140゜を使用)を示す。
【0044】
(ロ)好ましい範囲
本発明の負極活物質材料は、水銀ポロシメーターにて測定した、1gあたりの100nm以上1000nm以下の空隙孔体積が0.1μl/g以上、6μl/g以下であることが好ましい。このような値をとる活物質材料は、サイクル寿命、充電受入性のバランスが取れており好ましい。0.1μl/gを下回ると、サイクル寿命が劣る傾向にある。6μl/gを上回ると、表面積が増加することになり、不可逆容量増加の懸念がある。上記空隙孔体積は、ピッチ、タールおよび有機高分子化合物から選ばれる炭素化物前駆体と球状黒鉛の混合比率、並びに機械的磨砕処理の時間や磨砕に用いる機械の回転数を調整することにより、所望の範囲とすることができる。
【0045】
<平均粒径>
(イ)測定方法
界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、負極活物質材料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「HORIBA製LA−920」に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0046】
(ロ)好ましい範囲
本発明の負極活物質材料は、平均粒径については特に制限が無いが、使用される範囲として、d50が上限値として50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。一方、下限値として1μm以上であることが好ましく、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは10μm以上である。平均粒径が50μmを超える場合には極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が出る傾向にある。また、平均粒径が1μm以下であると、表面積が大きくなりすぎ電解液との活性を抑制することが難しくなる傾向にある。
上記平均粒径は、機械的磨砕処理の時間や磨砕に用いる機械の回転数を調整すること、更に活物質に粉砕や篩い操作を施すことにより、所望の範囲とすることができる。
【0047】
本発明の負極活物質材料を、以下に述べるバインダーと共にスラリーを調製し、集電体上に塗布し、乾燥、プレスすることで、非水系二次電池用負極を成形する。本発明の負極活物質材料からなる負極を用いることで、効果発現のメカニズムの詳細はいまだ明らかではないが、(1)球状天然黒鉛粒子表面で黒鉛化されたピッチや有機物由来の黒鉛化物を、一旦磨砕処理することで結晶性を乱し、更にまた球状天然黒鉛のバルク結晶性の一部を可逆容量に影響を及ぼさない範囲で、充電受入性に好ましい菱面体構造へと転化させることができること、及び(2)磨砕処理の際、粒子表面に付加される酸素性官能基など、不可逆容量の増大に資するものを、再焼成処理により、充電受入性に好ましい構造へと変化させられることから、不可逆容量が小さい上、急速充放電にも対応できるようになるため、高容量の電池を作成することが可能となる。
(1)、及び(2)は透過型電子顕微鏡(TEM)像及び、1万倍程度の走査型電子顕微鏡(SEM)像より観察できるが、この炭素構造の変化が、上述のRaman R値や3R/2H値の変化に現れていると推察される。
【0048】
<リチウムイオン二次電池の構成>
本発明の負極活物質材料、およびそれを含む負極を用いて製造された本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、電解液、セパレータ、円筒形、角型、ラミネート、自動車用途や定置型電池用などの大型缶体、または筐体、PTC素子、絶縁板等の電池構成上必要な部材からなるが、その選択については発明の主旨を越えない限り特に制限されない。
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常少なくとも、本発明の負極活物質材料を含む負極、正極及び電解質を有する。
【0049】
<負極並びに負極シート>
負極は本発明の負極活物質材料を少なくとも含む負極シートからなる。本発明の負極活物質材料に加え、従来公知の負極材料を混合して負極シートに成形しても良い。例えば、負極活物質材料を負極活物質層密度が1.6g/cm3以上の高密度となるように圧延した場合、粒子変形が生じ、極板表面でのLi拡散パスを阻害する可能性がある。そこで、材料圧壊が生じないように、フィラーとなる粒子を混合しても良い。それらは、例えば、黒鉛粒子とピッチを混合しこれを2000℃以上の温度で再黒鉛化した複合黒鉛粒子、また、黒鉛粒子とピッチを混合し700℃以上1500℃以下の温度で熱処理した黒鉛−非晶質炭素複合粒子、が挙げられる。黒鉛粒子には、球状処理した黒鉛粒子を用いると、Liの粒子間拡散がとりやすいので好ましい。また、本発明の負極活材料物質と従来公知の負極活物質材料の混合に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、回転型混合機としては、円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬型混合機等が挙げられ、固定型混合機としては、らせん型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機、シータコンポーザー、ハイブリダイザー、メカノフュージョン、等が挙げられる。
【0050】
本発明の負極活物質材料と、従来公知の負極活物質材料の混合比率としては、使用する負極シートの活物質密度や目的により異なるが、活物質層密度1.6g/cm3では、重量比で、本発明の負極活物質材料/従来公知の負極活物質材料=9/1〜4/6、密度1.7g/cm3では4/6〜3/7、密度1.8g/cm3では3/7〜2/8が好ましい。
【0051】
また、負極シートを構成する活物質の一部に、Liと合金化可能な合金、珪化物、半導体電極を含んでいても良い。具体的には、Si,Al,Sn,SnSb,SnAs,SiO,SnO,SnO2,SiC,及びダイヤモンドにB,N,Pなどの不純物を含ませ半導体としたもの、並びにこれらのものからなる複合合金や不定比酸化物が挙げられる。
【0052】
負極シートの構成は、本発明の負極活物質材料、上記従来公知の負極材料のほか、極板成形用結着剤、増粘剤、並びに導電材を含有する活物質層を集電体上に形成してなる。活物質層は通常、負極活物質材料、極板成形用結着剤、増粘剤、及び溶媒から調製されるスラリーを、集電体上に塗布、乾燥、所望の密度まで圧延することにより得られる。
【0053】
極板成形用結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定な材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。極板成形用結着剤は、負極材料/極板成形用結着剤の重量比で、通常90/10以上、好ましくは95/5以上、通常99.9/0.1以下、好ましくは99.5/0.5以下の範囲で用いられる。
【0054】
増粘剤としては、カルボキシルメチルセルロース、これのNa塩、及びアンモニウム塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、並びにカゼイン等が挙げられる。これら増粘材としては、制限が無く使用できるが、塩基性側でゲル化などの構造変化が無いものが好ましい。
【0055】
導電材としては、銅又はニッケル等の金属微粉材料、グラファイト又はカーボンブラック等の小粒径炭素材料等が挙げられる。
【0056】
集電体の材質としては、銅、ニッケル又はステンレス等が挙げられる。これらのうち、薄膜に加工しやすいという点及びコストの点から銅箔が好ましい。
【0057】
活物質層密度は、用途により異なるが、容量を重視する用途では、通常1.55g/cm3以上である。1.60g/cm3以上が好ましく、更に1.65g/cm3以上、特に1.70g/cm3以上が好ましい。密度が低すぎると、単位体積あたりの電池容量が充分ではない場合がある。一方、密度が高すぎると高速充放電特性が低下するので、一般的に炭素材料のみで構成される負極シートの場合、1.90g/cm3以下が好ましい。なお、ここで活物質層とは集電体上の活物質、極板成形用バインダー、増粘剤、導電材等よりなる合剤層をいい、活物質層密度とは電池に組立てる時点での活物質層の嵩密度をいう。
【0058】
本発明においては、本発明の負極活物質材料をリチウムイオン二次電池用電極活物質とし、後述の実施例に記載の方法により負極シートを作成した場合、その活物質層密度を1.7g/cm3として、Li対極にて0から1.5Vの極間電位差範囲で3サイクル掃引した測定した際の不可逆容量とBET比表面積の比が、4.5(mAh/m2)以下であることが好ましい。通常、熱処理をしない原料黒鉛から同様に負極シートを作成した場合、不可逆容量とBET比表面積の比が4.8〜5(mAh/m2)となり、同比表面積に対する不可逆容量は本発明の負極活物質材料の方が小さい。なお、上記不可逆容量とBET比表面積の比は、本発明の負極活物質材料98重量%に対し、界面活性剤であるカルボキシメチルセルロースのNa塩(第一工業製薬社製セロゲン4H)を乾燥後の重量で1重量%、及びスチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン社製BM400B)を乾燥後の重量で1重量%含有する負極シートを用いて測定した結果である。
【0059】
正極は、正極集電体上に正極活物質、導電剤及び極板成形用バインダーを含有する活物質層を形成してなる。活物質層は通常正極活物質、導電剤及び極板成形用バインダーを含有するスラリーを調製し、これを集電体上に塗布、乾燥することにより得られる。
【0060】
正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物材料、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物材料、フッ化黒鉛等の炭素質材料等のリチウムを吸蔵/放出可能な材料を使用することができる。具体的には、例えば、LiFePO4、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24及びこれらの非定比化合物、MnO2、TiS2、FeS2、Nb34、Mo34、CoS2、V25、P25、CrO3、V33、TeO2、GeO2等を用いることができる。
【0061】
正極導電材としては、カーボンブラック、小粒径黒鉛などが挙げられる。また、正極集電体としては、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する金属又はその合金を用いるのが好ましく、IIIa、IVa、Va族(3B、4B、5B族)に属する金属及びこれらの合金を例示することができる。具体的には、例えば、Al、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属を含む合金等を例示することができ、Al、Ti、Ta及びこれらの金属を含む合金を好ましく使用することができる。特にAl及びその合金は軽量であるためエネルギー密度が高くて望ましい。
【0062】
電解質としては、電解液、固体電解質、ゲル状電解質等が挙げられるが、中でも電解液、特に非水系電解液が好ましい。非水系電解液は、非水系溶媒に溶質を溶解したものを用いることができる。
【0063】
溶質としては、アルカリ金属塩や4級アンモニウム塩等を用いることができる。具体的には、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(CF3CF2SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23からなる群から選択される一種以上の化合物を用いるのが好ましい。
【0064】
非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;γ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネート等を用いることができる。溶質及び溶媒はそれぞれ1種類を選択して使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも非水系溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。またビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン、ジエチルスルホン等の化合物が添加されていても良い。更に、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。
【0065】
電解液中のこれらの溶質の含有量は、下限値としては0.2mol/L以上が好ましく、特に0.5mol/L以上が好ましい。上限値としては、2mol/L以下が好ましく、特に1.5mol/L以下であることが好ましい。
【0066】
これらのなかでも本発明の負極活物質材料からなる負極と、金属カルコゲナイド系正極と、カーボネート系溶媒を主体とする非水電解液とを組み合わせて作成したリチウムイオン二次電池は、容量が大きく、初期サイクルに認められる不可逆容量が小さく、急速充放電特性に優れる。
【0067】
正極と負極の間には、通常正極と負極が物理的に接触しないようにするためにセパレータが設けられる。セパレータはイオン透過性が高く、電気抵抗が低いものであるのが好ましい。セパレータの材質及び形状は、特に限定されないが、電解液に対して安定で、保液性が優れたものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布が挙げられる。
【0068】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に制限されず、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
平均粒径100μmの黒鉛粒子を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−3型にて、ローター周速度70m/秒で9分間の球形化処理を行い、平均粒径17.6μmの球状黒鉛粒子を得た。
この球状黒鉛粒子と、黒鉛化可能なバインダーとして軟化点88℃のバインダーピッチとを、100:30の重量比で混合し、予め128℃に加熱されたマチスケータ型撹拌翼を持つニーダーに投入して20分間捏合した。
十分に捏合された混合物を、予め108℃に予熱されたモールドプレス機の金型に充填し、5分間放置し混合物の温度が安定したところでプランジャーを押し、2kgf/cm3(0.20MPa)の圧力を加えて成形した。1分間この圧力を保持した後、駆動を止め、圧力低下が収まった後、成形体を取り出した。
【0071】
得られた成形体を耐熱容器である金属製サガーに収納し、間隙に黒鉛質ブリーズを充填した。電気炉で室温から1000℃まで48時間かけて昇温し、1000℃で3時間保持し、脱VM(脱揮発成分)焼成を行った。次に、成形体を黒鉛ルツボに収納し、間隙に黒鉛質ブリーズを充填した。アチソン炉で3000℃に4時間加熱して黒鉛化を行った。
【0072】
得られた黒鉛質の成形体をジョークラッシャで粗砕した後、粉砕羽根回転数を8000回転/分に設定したミルにて微粉砕し、45μm篩いで粗粒子を除き、複合黒鉛粒子を得た。更に、得られた複合黒鉛粒子をN2中不活性箱型炉(光洋リンドバーク製)で、750℃で再焼成することで負極活物質材料を得た。得られた負極活物質材料の物性を表1に示す。また、得られた負極活物質材料の球状黒鉛の残炭率は100%であり、バインダーピッチのみが減量する、として計算したところ、原料である球状黒鉛粒子とバインダーピッチの焼成後重量比は87/13であった。
【0073】
<負極シートの作製>
本発明の負極活物質材料を負極材料として用い、前述の方法により、活物質層密度1.70±0.03g/cm3の活物質層を有する極板を作製した。具体的には、上記負極材料20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースNa塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.25±0.02g(固形分換算で0.1g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0074】
得られたスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が11.0±0.1mg/cm2付着するように、ドクターブレード法で、幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層密度が1.70g/cm3になるよう調整し負極シートを得た。
【0075】
<初期サイクル時の充放電不可逆容量>
作製した負極シートを、直径12.5mmの円形に打ち抜き負極とし、厚さ0.5mmの金属Li箔を同サイズに打ち抜きステンレス板に圧着したものを対極とし、2極式セルを作製した。セルの作製は、水分値20ppm以下に調整したドライボックス内で行った。負極と対極との間には、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートの混合溶媒(容量比25:30:30)に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置いた。
【0076】
通常の充放電は、初回をcc充電で、0.05C(0.2mA/cm2)で10mVcutにて350mAh/gまで充電した後に、引き続き2、3回目は、同電流密度でcc−cv充電にて、10mV、0.005Ccutにて充電し、放電は、全ての回で0.05C(0.2mA/cm2)で1.5Vまで放電した。ここから、3サイクル目の放電容量を可逆容量、初回の充電容量から放電容量を差し引いた容量を不可逆容量とした。結果を表1に示す。
【0077】
<急速充放電負荷特性の測定>
急速放電試験は、通常の充放電試験を3サイクル施した後、放電電流0.2C(0.8mA/cm2)、2.0C(8.0mA/cm2)の条件で行った。その結果は、
[2.0C(8.0mA/cm2)]/[0.2C(0.8mA/cm2)]x100(%)で表記し、表1に示す。
【0078】
急速充電試験は、上記同様の2極式セルを相対湿度30%の乾燥空気ボックスで作成した以外は、同様の電解液、セパレータ、対極を用いた。これを通常の充放電試験を3サイクル施した後、0℃の恒温槽内に投入し、cc充電にて0.05C(0.2mA/cm2)、0.5C(2.0mA/cm2)の条件で極間電位差が0Vvs.Liになるまでの容量を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
<比較例1>
実施例1において、得られた黒鉛質の成形体を粉砕、再焼成せずに、そのまま45μm篩いで粗粒子を除くのみで測定に用いた。実施例1と同様に測定を行い、結果を表1に示す。
【0080】
<比較例2>
実施例1において、得られた黒鉛質の成型体を、粉砕羽根回転数を8000回転/分に設定したミルにて微粉砕したのみで再焼成を行わず、45μm篩いで粗粒子を除き測定に用いた。実施例1と同様に測定を行い、結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の材料は、それを活物質として負極中に含むものとした際に、初期サイクル時に見られる不可逆容量が小さい上、急速充放電特性にも対応できるような粒子であり、高密度で極板シートを作成した際にも稼動するような負極材が構築できる。また、当該材料は、製造工程において、その工程数が少ない故、簡便に製造することができ、更に、黒鉛材料の圧延性を保つため、集電体上に塗布し、高密度化することができ、高容量のリチウムイオン二次電池を作成する際の負極材として提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状天然黒鉛並びに、ピッチ、タールおよび有機高分子化合物から選ばれる炭素化物前駆体、から製造されるリチウムイオン二次電池用負極活物質材料であって、
前記負極活物質材料は、前記球状天然黒鉛と前記炭素化物前駆体を混合し、該混合体を2800℃以上3200℃以下の温度で焼成し、得られた焼成体に機械的磨砕処理を施した後、更に700℃以上1000℃以下の温度で再焼成することで得られ、かつ、前記球状天然黒鉛と前記炭素化物前駆体の再焼成後の重量比が85/15〜93/7の範囲であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質材料。
【請求項2】
前記負極活物質材料は、
(a)タップ密度が0.9g/cm3以上1.2g/cm3以下、
(b)BET比表面積が3m2/g以上10m2/g以下、
(c)X線回折から求められる菱面体/六方晶のピーク強度比3R/2Hが0.2以上0.35以下、
(d)Raman R値が0.14以上0.3以下、
を満たすことを特徴とする請求項1のリチウムイオン二次電池用負極活物質材料。
【請求項3】
前記負極活物質材料は、水銀ポロシメーターにて測定した、1gあたりの100nm以上1000nm以下の空隙孔体積が0.1μl/g以上、6μl/g以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の負極活物質材料を少なくとも含む負極板。
【請求項5】
請求項4に記載の負極板を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質材料を、1.6g/cm3以上の活物質層密度で含む負極板、及び鎖状系カーボネートを主体とする電解液、を用いたリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−33376(P2012−33376A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171692(P2010−171692)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】