説明

非水電解液およびそれを用いた非水電解液電池

【課題】 電池内部でのガス発生を減少させて電池の膨れを抑制すると共に、放電深度にかかわらず当該効果を持続させて、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池と、該非水電解液電池を構成し得る非水電解液を提供する。
【解決手段】 非水電解液電池に用いられる非水電解液であって、電解質として、LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbFよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩からなるリチウム塩Aと、前記LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbF以外のリチウム塩からなるリチウム塩Bとを含有し、前記リチウム塩Aの全電解質中での割合が2モル%以上であり、かつ環状スルトン誘導体および酸無水物より選ばれる少なくとも1種を添加した非水電解液と、該非水電解液を用いた非水電解液電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液および非水電解液電池に関し、さらに詳しくは、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池と、該電池を構成し得る非水電解液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、タイヤ内部の圧力センサーなどのように100℃を超す高温雰囲気で使用する機器の電源として使用できる電池が必要とされるようになってきた。そして、そのような用途には、リチウム一次電池やリチウムイオン二次電池などに代表される非水電解液電池が有力な候補として挙げられている。
【0003】
このような用途の非水電解液電池としては、二酸化マンガンまたはフッ化黒鉛を正極活物質とし、負極にリチウムまたはリチウム合金を用いたリチウム一次電池や、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどを正極活物質とし、負極に炭素質材料を用いたリチウムイオン二次電池などが負荷特性や低温特性が優れていることから適していると考えられるが、これらの電池は、高温で放置したり、高温で使用すると、電解液の溶媒であるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの炭酸エステルと正極活物質とが反応して、COなどのガスが発生し、それによって電池が膨れ、使用機器を損傷させたり、電極材料と集電部分との接触が不充分になって電池特性が低下し、信頼性を損なうという問題があった。
【0004】
特に、正極活物質として二酸化マンガンなどのマンガン含有酸化物を用いる場合に、正極活物質の触媒作用により、上記ガス発生の問題が顕著となり、100℃を超える温度領域ではさらに問題となっている。また、約50%以上の放電を行った電池を高温雰囲気中で使用したり、長期にわたって貯蔵すると、前記溶媒と正極活物質との反応のみならず、溶媒と負極リチウムとの反応によると推定される水素やメタンなどの炭化水素系のガスが急激に発生し、電池に膨れを生じさせることも判明した。
【0005】
また、通常のコイン形一次電池の場合、電池の封口にあたって、主として、ポリプロピレン製のパッキング(このパッキングは「ガスケット」と表現される場合も多い)が用いられている。このポリプロピレンは、一般的な用途では充分に信頼性のあるパッキング材であり、しかも安価であるという利点を有するものの、100℃を超える温度領域では、その融点に近づくため、軟化して充分な強度が得られず、高温対応電池のパッキング材としては適していなかった。
【0006】
そこで、高温対応電池のパッキング材として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体やポリフェニレンサルファイドやポリエーテルエーテルケトンなどの融点が240℃以上の耐熱樹脂が検討されており、100℃以上の高温雰囲気でも強度の低下がないものが最適と言われている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、ポリプロピレン製のパッキングのように、従来から使用されているオレフィン系のパッキングであれば、電池内部で発生したガスが徐々にパッキングを透過して電池外部に逸散していき、電池内部の圧力増加が緩和されるが、上記のような耐熱樹脂で形成されたパッキングは、ガスの透過性が非常に小さいため、電池内部にガスが蓄積され、圧力の増加により電池に膨れが生じるという問題があった。当然、この耐熱用パッキングによる封口よりさらに密閉性が高いガラスハーメチックシールを採用した場合には、その膨れがより顕著になる。
【0008】
上記のように、電池に膨れが生じると、使用機器に歪みを与えたり、電池内部で電極材料と集電部分との接触が不充分になって、電池特性が充分に発揮されなくなるという問題があった。
【0009】
そのため、非水電解液電池の電池内部でのガス発生を抑制するなどの目的で、1,3−プロパンスルトンなどの環状スルトン誘導体を電解液に添加することが行われている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【0010】
また、電解液に酸無水物を添加して電解液中の水分量を低減させ、高温における電池の貯蔵特性などを向上させることも行われている(例えば、特許文献6〜7参照)。
【0011】
【特許文献1】特開平8−153500号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平11−162511号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2000−3724号公報(第1頁)
【特許文献4】特開2000−123868号公報(第1頁)
【特許文献5】特開2000−323171号公報(第1頁)
【特許文献6】特許第2697365号公報(第1頁)
【特許文献7】特開平7−122297号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記添加物は、いずれも、60〜80℃程度での電池のガス発生抑制や貯蔵特性の向上には比較的有効であるものの、本発明者らの検討によれば、100℃を超える温度雰囲気中に電池が置かれた場合、効果が充分でなく、また、必要な効果を得るために上記添加剤の含有量を増加させた場合には、負荷特性の低下など他の電池特性が大幅に低下することも判明した。
【0013】
さらに、上記添加剤の効果は、放電前あるいは放電深度の浅い電池に対しては優れているものの、放電が進行した電池に対しては、期待通りの効果を発現できないことも判明した。
【0014】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、電池内部でのガス発生を減少させて電池の膨れを抑制し、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池と、該非水電解液電池を構成し得る非水電解液を提供することを第1の目的とする。また、放電深度にかかわらず上記効果を持続させることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の非水電解液は、電解質としてリチウム塩を用い、環状スルトン誘導体および酸無水物をそれぞれ0.3〜3質量%添加したことを特徴とするものであり、また、正極、負極、セパレータおよび前記非水電解液を用いて非水電解液電池を構成することにより、100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供するものである。
【0016】
また、本発明の非水電解液は、電解質として、LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbFよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩からなるリチウム塩Aと、前記LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbF以外のリチウム塩からなるリチウム塩Bとを併用し、上記リチウム塩Aを全電解質中で2モル%以上含有させ、かつ環状スルトン誘導体および酸無水物のうちより選ばれる少なくとも1種を添加したことを特徴とするものであり、また、正極、負極、セパレータおよび前記非水電解液を用いて非水電解液電池を構成することにより、放電深度にかかわらず100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供するものである。
【0017】
さらに、本発明は、正極、負極、セパレータおよび非水電解液を用い、かつ耐熱樹脂製のパッキングまたはガラスハーメチックシールにより封口がなされてなる非水電解液電池であって、前記非水電解液の溶媒として沸点が120℃以上のエーテルを含有させ、かつ非水電解液に環状スルトン誘導体を0.5〜5質量%添加することにより、100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、電解質としてリチウム塩を用い、環状スルトン誘導体および酸無水物をそれぞれ0.3〜3質量%添加して非水電解液を構成し、その非水電解液を用いて非水電解液電池を構成することにより、100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供することができた。
【0019】
また、本発明では、電解質として、前記特定のリチウム塩Aとリチウム塩Bとを併用し、上記リチウム塩Aを全電解質中で2モル%以上含有させ、かつ環状スルトン誘導体および酸無水物より選ばれる少なくとも1種を添加して非水電解液を構成し、その非水電解液を用いて非水電解液電池を構成することにより、放電深度にかかわらず100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供することができた。
【0020】
さらに、本発明では、耐熱樹脂製のパッキングまたはガラスハーメチックシールにより封口をする非水電解液電池において、非水電解液の溶媒として沸点が120℃以上のエーテルを含有させ、かつ非水電解液に環状スルトン誘導体を0.5〜5質量%添加することにより、100℃を超える高温雰囲気でも貯蔵特性が優れ、高温雰囲気での使用に適した非水電解液電池を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、非水電解液は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルや、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、メトキシエトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテルより選ばれる1種の溶媒あるいは2種以上の混合溶媒に電解質を溶解させたものが用いられる。特に炭酸エステルとしては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ブチレンなどの沸点が120℃以上の環状炭酸エステルが好ましく、また、エーテルとしてはジエトキシエタン、ジグライムなどの沸点が120℃以上のものが好ましい。
【0022】
上記非水電解液の溶媒として用いるエーテルは、分子量が大きくなると、凝固点が上昇し、粘性も増加するため、電池の低温特性上からは、ジメトキシエタンのように粘度が低く液状を保ち得る温度範囲が広い溶媒が好適であるが、それらの溶媒は沸点が低いため、100℃を超える温度では電池内の圧力を高める原因となる。その結果、パッキングとして汎用のオレフィン系のものを用いた場合は、パッキングを介しての溶媒の散逸が多くなるし、耐熱樹脂を用いたパッキングでは、電池内部にガスが蓄積され、圧力の増加により電池に膨れが生じやすくなる。
【0023】
これに対して、同じエーテルに属していても、ジエトキシエタンやジグライムのように沸点が高い溶媒を用いると、低温特性は低下する傾向があるものの、電池の内圧上昇を抑制し、高温貯蔵での電池の膨れを防止して貯蔵特性を向上させることができる。
【0024】
上記炭酸エステルとエーテルとを混合して用いる場合、それらの混合比としては、体積比で炭酸エステル:エーテル=30:70〜70:30が好ましい。また、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルを併用してもよい。
【0025】
本発明において、非水電解液に添加する環状スルトン誘導体としては、例えば、1,3−プロパンスルトンや1,4−ブタンスルトンが好ましく、それらのうちの少なくとも1種を用いればよい。
【0026】
環状スルトン誘導体の添加量は、それ自身(すなわち、添加する環状スルトン誘導体)も含めた全非水電解液(以下、非水電解液を簡略化して「電解液」と表現する場合がある)中で0.5〜5質量%とすることが好ましい。これは、環状スルトン誘導体の添加により、正極の表面に電解液の溶媒との反応を抑制できる被膜が形成され、電池内部でのガスの発生が減少して電池の膨れが抑制されるようになるが、0.5質量%以上でその効果が充分に発現するようになるからである。また、環状スルトン誘導体の添加量が多くなると、電池の膨れを抑制する効果は増加するものの、内部抵抗が増加して、閉路電圧(CCV)が低下し、それに伴って容量が低下しやすくなるため、その添加量を全電解液中で5質量%以下にすることが好ましい。特に環状スルトン誘導体の全電解液中での添加量が3質量%以下で放電特性が良好になる。
【0027】
酸無水物としては、例えば、無水メリト酸、無水マロン酸、無水マレイン酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水プルビン酸、無水フタロン酸、無水フタル酸、無水ピロメリト酸、無水乳酸、無水ナフタル酸、無水トルイル酸、無水チオ安息香酸、無水ジフェン酸、無水シトラコン酸、無水ジグリコールアミド酸、無水酢酸、無水琥珀酸、無水桂皮酸、無水グルタル酸、無水グルタコン酸、無水吉草酸、無水イタコン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸、無水安息香酸などが挙げられ、それらの1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
酸無水物の添加量も、環状スルトン誘導体と同様に、それ自身(すなわち、添加する酸無水物)も含めた全電解液中で0.5〜5質量%とすることが好ましい。また、良好な放電特性を得るためには、酸無水物の全電解液中での添加量も3質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
そして、環状スルトン誘導体と酸無水物の両者を添加する場合は、少量の添加でもガス発生を効果的に抑制することができるので、添加剤による負荷特性の低下を低減することができる。また、両者が共存することにより、互いの効果を強め合うだけでなく、互いの副作用を抑えることが期待される。例えば、酸無水物のみを電解液中に添加した場合は、酸無水物が電解液中の水分と反応して酸が生成し、これがさらに負極と反応してリチウム塩などの形で負極の表面を被覆することにより、負荷特性を低下させやすくなる。しかし、環状スルトン誘導体が電解液中に存在することにより、このような反応が阻害されるのではないかと考えられる。
【0030】
環状スルトン誘導体と酸無水物の両者を添加する場合は、それぞれの添加量を0.3〜3質量%とすればよく、少なくとも一方の添加量を0.5質量%以上とするのが好ましく、それぞれの添加量を0.5質量%以上とするのがより好ましい。さらに、両者の添加量の合計を1.7〜3.5質量%とすることにより、上記協調効果をより高めることができる。
【0031】
上記電解液に溶解させる電解質としては、例えば、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiClO、LiCFSO、LiCSOなどのLiC2n+1SO(n≧1)、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCFCO、LiB10Cl10、低級脂肪酸カルボン酸リチウム、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウムなどが挙げられ、それらのうちの少なくとも1種が用いられるが、二酸化マンガンを正極活物質とする場合は、その共存性から、LiClO、LiCFSO、LiCSOなどのLiC2n+1SO(n≧1)や、LiN(CFSO、LiN(CSOなどのリチウムイミド塩が好ましい。
【0032】
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.2〜2mol/lが好ましく、0.3〜1.5mol/lがより好ましい。
【0033】
また、LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbFよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩からなるリチウム塩Aと、前記LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbF以外のリチウム塩からなるリチウム塩Bとを併用することにより、放電が進行した電池においても、前記添加剤の効果が発現しやすくなり、そのような放電が進行した電池を貯蔵したときでもガス発生を充分に抑制することができる。上記のようにリチウム塩Aとリチウム塩Bとを併用する場合、リチウム塩Aの全電解質中での割合を2モル%以上とすればよい。ただし、リチウム塩Aは、電池内に存在する微量の水分による分解を受けやすいため、リチウム塩Aの全電解質中での割合は20モル%以下にすることが好ましい。
【0034】
電池の特性を総合的に判断すれば、リチウム塩Aとしては、LiBFまたはLiPFが好ましく、またリチウム塩Bとしては、LiClO、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSOおよびLiN(CSOによりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
本発明の非水電解液は、通常、液状のまま用いられるが、ポリマーなどでゲル化させてゲル状で用いてもよい。
【0036】
本発明において、正極の活物質としては、リチウムイオン一次電池やリチウムイオン二次電池などの正極活物質として通常用いられているものを用いることができる。例えば、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−xのほか、LiMnO、LiNiMn1−x、LiMn、二酸化マンガンなどのマンガン含有酸化物、フッ化炭素などを用いることができる。それらの中でも、電解液との反応性の高い二酸化マンガンを用いた場合に、本発明の効果が顕著に発現する。正極の作製にあたっては、通常、その正極活物質に加えて、導電助剤およびバインダーが用いられる。上記導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、鱗片状黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、繊維状炭素
などが用いられ、バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバーなどが用いられる。
【0037】
そして、正極の作製にあたっては、正極活物質と導電助剤とバインダーとを混合して調製した正極合剤を加圧成形するか、または上記正極合剤を水または有機溶剤に分散させて正極合剤含有ぺーストを調製し(この場合、バインダーはあらかじめ水または溶剤に溶解または分散させておき、それを正極活物質などと混合して正極合剤含有ペーストを調製してもよい)、その正極合剤含有ぺーストを金属箔、エキスパンドメタル、平織り金網などからなる集電体に塗布し、乾燥した後、加圧成形することによって作製される。ただし、正極の作製方法は、上記例示の方法のみに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0038】
負極の活物質としては、特に限定されるものではなく、リチウム一次電池やリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられているものを用いることができるが、その好適な具体例を例示すると、例えば、金属リチウム、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−ビスマス、リチウム−インジウム、リチウム−ガリウム、リチウム−インジウム−ガリウムなどのリチウム合金、炭素質材料、リチウムチタン酸化物に代表される金属酸化物などが挙げられる。上記負極活物質はそれ単独で負極を構成してもよいし、また、正極の場合と同様に負極合剤や負極合剤含有ペーストを調製し、その負極合剤を加圧成形したり、負極合剤含有ペーストを集電体に塗布し、乾燥した後、加圧成形することによって負極を作製してもよいし、金属リチウムやリチウム合金などを用いる場合は、それら
を金属箔、金属網などからなる集電体に圧着して負極としてもよい。
【0039】
セパレータとしては、微孔性樹脂フィルム、樹脂不織布のいずれも用いることができる。その材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィンのほか、耐熱用として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられる。また、上記材質の微孔性フィルムと不織布とを複数積層するか、あるいは微孔性フィルム同士や不織布同士を複数積層することによって構成される複層構造のセパレータを用いることにより、高温環境下で使用する場合の信頼性をより高めることができる。
【0040】
本発明の非水電解液電池は、上記正極、負極、非水電解液およびセパレータを主要構成要素とし、それらを金属缶やラミネートフィルムなどからなる電池容器内に収容し、その電池容器を密閉することによって構成される。パッキングを用いて金属缶などの封止を行う場合、そのパッキングの材質としては、例えば、ポリプロピレン、ナイロンのほか、耐熱用には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂製のものを用いることができる。
【実施例】
【0041】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
以下に示すようにして、正極の作製と非水電解液の調製を行い、それらと負極などを用いて非水電解液電池を作製した。
【0043】
まず、正極は、正極活物質としての二酸化マンガンと導電助剤としてのカーボンブラックとバインダーとしてのポリテトラフルオロエチレンとを90:5:5の質量比率で混合して調製した正極合剤を加圧成形することによって作製した。
【0044】
非水電解液としては、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとの体積比1:1の混合溶媒にLiClOを0.5mol/l溶解させたものに、1,3−プロパンスルトンおよび無水フタル酸を、非水電解液中での含有量がそれぞれ0.5質量%となるように添加したものを用いた。この非水電解液における添加剤の添加量や電解質の濃度は、後記の表1に示すが、添加剤として添加した1,3−プロパンスルトンが環状スルトン誘導体に属し、無水フタル酸が酸無水物に属することから、表1への表示にあたっては、添加剤は環状スルトン誘導体と酸無水物で表示し、電解質として用いたLiClO4 がリチウム塩Bに属することから、LiClOに(リチウム塩B)という用語を付記している。なお、このような表記は以後の非水電解液における添加剤の添加量や電解質の濃度
を示す表においても同様である。
【0045】
負極にはリチウム箔を用い、セパレータには微孔性ポリプロピレンフィルムとポリプロピレン不織布との積層体を用い、パッキングにはポリフェニレンサルファイド製のものを用い、それらと前記の正極と非水電解液とを用いて、図1に示す構造で厚さ5mm、直径24mmのコイン形非水電解液電池を作製した。
【0046】
ここで、図1に示す電池について説明すると、正極1はステンレス鋼製の正極缶4内に収容され、その上にセパレータ3を介して負極2が配置されている。負極2は前記のようにリチウム箔で構成され、ステンレス鋼製の負極缶5の内面に圧着されている。そして、その電池内部には非水電解液が0.5ml注入され、正極缶4の開口部は、正極缶4の開口端部の内方への締め付けにより、負極缶5の周縁部に配設したポリフェニレンサルファイド製で環状のパッキング6を押圧して負極缶5の周縁部と正極缶4の開口端部の内周面とに圧接させて封口されている。
【0047】
実施例2〜13
1,3−プロパンスルトンおよび無水フタル酸の一方または両方の添加量を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製した。
【0048】
比較例1
表2に示すように、1,3−プロパンスルトンおよび無水フタル酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製した。
【0049】
比較例2〜9
1,3−プロパンスルトンおよび無水フタル酸の添加量を、表2に示すように、本発明の範囲外とした以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
上記実施例1〜13および比較例1〜9の電池について、120℃で350時間貯蔵した後の、低温での負荷特性、電池の膨れおよび容量保持率を調べた。なお、低温での負荷特性、電池の膨れおよび容量保持率の測定方法は次に示す通りである。
【0053】
低温での負荷特性:
電池を120℃の環境下で350時間貯蔵した後、−40℃の環境下で2mAの電流値で放電させ、放電開始から5秒後のCCV(閉路電圧)を測定した。その結果を表3および表4に示す。
【0054】
電池の膨れ:
電池を120℃の環境下で350時間貯蔵し、次いで20℃まで放冷させてから電池の厚さを測定し、あらかじめ貯蔵前に測定しておいた電池の厚さを差し引いた値を電池の膨れとした。その結果を表3および表4に示す。
【0055】
容量保持率:
まず、高温での貯蔵前の電池について、1kΩの放電抵抗を接続して、20℃の環境下で終止電圧2.0Vまで放電させたときの放電容量を測定した。次いで、実施例1〜3および比較例1〜9の電池であって、上記貯蔵前の放電容量の測定に使用したものとは別の電池を120℃で350時間貯蔵した後、20℃まで放冷させ、前記貯蔵前と同様の条件で放電を行って放電容量を測定し、その貯蔵後の放電容量の貯蔵前の放電容量に対する割合を容量保持率として求めた。その結果を表3および表4に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3に示す結果から明らかなように、環状スルトン誘導体および酸無水物を非水電解液にそれぞれ0.3〜3質量%の範囲で添加した実施例1〜13の電池は、CCV(閉路電圧)が高く、高温貯蔵による電池の膨れが少なく、かつ容量保持率が高く、低温での負荷特性の低下が少なく、かつ高温雰囲気での使用に適した電池であることを示していた。特に、環状スルトン誘導体および酸無水物の添加量を合計で1.7〜3.5質量%とした実施例4〜11の電池では、CCVの低下すなわち負荷特性の低下を最小限にとどめながら、電池内部でのガス発生を減少させて電池の膨れを効果的に抑制することができた。
【0059】
これに対して、環状スルトン誘導体および酸無水物を添加しなかった比較例1の電池は、表4に示すように、高温貯蔵による電池の膨れが大きく、CCVが極端に低下し、容量保持率も低い値となった。また、表4に示すように、環状スルトン誘導体または酸無水物の一方のみを含有させた比較例2〜5の電池では、電池の膨れを抑制する効果が充分でないか、あるいはCCVの低下が大きく、満足できる貯蔵特性が得られなかった。さらに、環状スルトン誘導体および酸無水物を添加したものの、その添加量が本発明の範囲を逸脱していた比較例6〜9の電池では、両者を共存させることによる効果が充分でないか、あるいは、必要量を超えて添加したことによるCCVの低下が顕著になり、満足できる貯蔵特性が得られなかった。
【0060】
実施例14
非水電解液として、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとの体積比1:1の混合溶媒に、LiPFを0.05mol/lとLiClOを0.5mol/l溶解させ、さらに1,3−プロパンスルトンおよび無水フタル酸をそれぞれ0.5質量%添加したものを用いた以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製した。
【0061】
実施例15〜17
表5に示すように、添加剤の添加量および電解質の種類と濃度を変更した以外は、実施例14と同様に非水電解液電池を作製した。
【0062】
実施例18
表5に示すように、電解質としてLiClOを単独で用い、リチウム塩Aを含有させなかった以外は、実施例17と同様に非水電解液電池を作製した。
【0063】
比較例10
表5に示すように、環状スルトン誘導体および酸無水物を添加しなかった以外は、実施例16と同様に非水電解液電池を作製した。
【0064】
【表5】

【0065】
上記実施例14〜18および比較例10の電池について、放電深度が50%および80%のときの高温貯蔵後の電池の膨れを調べた。なお、電池の膨れの測定方法は次に示す通りである。
【0066】
電池の膨れ:
放電深度が50%および80%となるまで電池を放電させ、放電後にそれぞれの電池を120℃の環境下で350時間貯蔵し、次いで20℃まで放冷させてから電池の厚さを測定し、あらかじめ貯蔵前に測定しておいた電池の厚さを差し引いた値を電池の膨れとした。その結果を表6に示す。
【0067】
【表6】

【0068】
表6に示す結果から明らかなように、実施例14〜17の電池は、放電が進行した段階での高温貯蔵でも電池の膨れが少なく、ガス発生が充分に抑制されていた。すなわち、実施例14〜17の電池では、非水電解液の電解質として、リチウム塩Aに属するLiPF、LiBFなどと、リチウム塩Bに属するLiClOとを併用し、リチウム塩Aを全電解質中で2モル%以上含有させ、かつ環状スルトン誘導体および酸無水物より選ばれる少なくとも1種を非水電解液に添加したことにより、放電深度にかかわらず添加剤の効果が維持されていた。
【0069】
これに対して、比較例10の電池は、比較的浅い放電深度での貯蔵では電池の膨れが大きかった。また、実施例18の電池は実施例10の電池や実施例11の電池とほぼ同様の電解液組成を有する電池であるが、比較的浅い放電深度では添加剤が効果的に作用するものの、放電が進行した段階では添加剤の効果が消失し、電池の膨れが大きくなることがわかった。
【0070】
これらの実施例14〜17で示したように、LiPFやLiBFなどを含有させることにより、放電が進行した状態での高温貯蔵におけるガス発生を抑制する作用が生じる。その理由については、現在のところ必ずしも明らかではないが、電解質に由来するPFやBFが、放電により生じた負極活物質の新生面と反応し、負極活物質の表面にフッ化物の被膜を形成して、電解液溶媒のエステルやエーテルの分解を抑制することによるものと推定される。
【0071】
実施例19
表7に示すように、プロピレンカーボネートとジエトキシエタンとの体積比1:1の混合溶媒にLiClOを0.5mol/l溶解させ、さらに1,3−プロパンスルトンを2質量%添加した非水電解液を用い、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体製のパッキングを用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。なお、表7には、パッキングの材質についても示すが、スペース上の関係で、上記テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体をPFAで示す。
【0072】
実施例20
表7に示すように、ジエトキシエタンに代えてジグライムを用いた以外は、実施例19と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0073】
比較例11
表7に示すように、ジエトキシエタンに代えてジメトキシエタンを用いた以外は、実施例19と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0074】
比較例12
表7に示すように、ポリプロピレン製のパッキングを用いた以外は、実施例19と同様にして非水電解液電池を作製した。なお、表7には、パッキングの材質についても示すが、スペース上の関係で、上記ポリプロピレンをPPで示す。
【0075】
比較例13
表7に示すように、1,3−プロパンスルトンを添加しなかった以外は、実施例19と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0076】
比較例14
表7に示すように、1,3−プロパンスルトンの添加量を10質量%とした以外は、実施例19と同様にして非水電解液電池を作製した。
【0077】
【表7】

【0078】
上記実施例19〜20および比較例11〜14の電池について、120℃で200時間貯蔵した後の、室温での負荷特性、電池の膨れおよび容量保持率を調べた。なお、室温での負荷特性、電池の膨れおよび容量保持率の測定方法は次に示す通りである。
【0079】
室温での負荷特性:
電池を120℃の環境下で200時間貯蔵した後、室温下で電池に200Ωの放電抵抗を接続して放電させ、放電開始から5秒後のCCV(閉路電圧)を測定した。その結果を表8に示す。
【0080】
電池の膨れ:
電池を120℃の環境下で200時間貯蔵し、次いで20℃まで放冷させてから電池の厚さを測定し、あらかじめ貯蔵前に測定しておいた電池の厚さを差し引いた値の電池の膨れとした。その結果を表8に示す。
【0081】
容量保持率:
まず、高温での貯蔵前の電池について、3.9Ωの放電抵抗を接続して、20℃の環境下で終止電圧2.0Vまで放電させたときの放電容量を測定した。次いで、同種の電池であって上記貯蔵前の放電容量の測定に使用したものとは別の電池を120℃で200時間貯蔵した後、20℃まで放冷させ、前記貯蔵前と同様の条件で放電を行って放電容量を測定し、貯蔵前の放電容量に対する割合を容量保持率として求めた。その結果を表8に示す。
【0082】
【表8】

【0083】
表8に示す結果から明らかなように、非水電解液の溶媒として沸点が120℃以上のエーテルを含有させ、環状スルトン誘導体を電解液に0.5〜5質量%の範囲で添加し、かつ耐熱樹脂製のパッキングにより封口を行った実施例19〜20の電池は、CCVが高く、高温貯蔵による電池の膨れが少なく、かつ容量保持率が高く、負荷特性の低下が少なく、かつ高温雰囲気での使用に適した電池であることを示していた。
【0084】
これに対して、沸点が120℃以上のエーテルに代えて沸点が84℃のジメトキシエタンを含有させた比較例11の電池では、CCVが若干高くなって負荷特性が多少向上することを示していたものの、電池の膨れが大きくなり、電池の内圧が高くなったことを示していた。
【0085】
また、パッキングをポリプロピレン製のものに変えた比較例12の電池では、比較例11の電池と比べても高温貯蔵による電池の膨れが大きくなり、CCVが大幅に低下し、容量保持率も低い値となった。これは、電池の封口性能が低下したため、非水電解液の溶媒の電池外への散逸や電池内への水分の侵入が生じたことによるものと考えられる。
【0086】
さらに、環状スルトン誘導体を添加しなかった比較例13の電池や環状スルトン誘導体の添加量が多すぎた比較例14の電池では、CCVの低下が顕著になり、満足できる貯蔵特性が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る非水電解液電池の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極缶
5 負極缶
6 パッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液電池に用いられる非水電解液であって、
電解質として、LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbFよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩からなるリチウム塩Aと、前記LiBF、LiPF、LiAsFおよびLiSbF以外のリチウム塩からなるリチウム塩Bとを含有し、前記リチウム塩Aの全電解質中での割合が2モル%以上であり、かつ環状スルトン誘導体および酸無水物より選ばれる少なくとも1種を添加したことを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
リチウム塩Aの全電解質中での割合が、20モル%以下である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
リチウム塩Bが、LiClO、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSOおよびLiN(CSOよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩である請求項1または2に記載の非水電解液。
【請求項4】
環状スルトン誘導体の添加量が、0.5〜3質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項5】
酸無水物の添加量が、0.5〜3質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項6】
環状スルトン誘導体および酸無水物の添加量が、それぞれ0.5〜3質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項7】
環状スルトン誘導体および酸無水物の添加量が、両者の合計で1.7〜3.5質量%である請求項6に記載の非水電解液。
【請求項8】
環状スルトン誘導体が、1,3−プロパンスルトンまたは1,4−ブタンスルトンのうちの少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項9】
溶媒として、沸点が120℃以上のエーテルを含有する請求項1〜8のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項10】
正極、負極、セパレータおよび請求項1〜9のいずれかに記載の非水電解液を用いたことを特徴とする非水電解液電池。
【請求項11】
正極活物質として、マンガン含有酸化物を用いたことを特徴とする請求項10に記載の非水電解液電池。
【請求項12】
負極活物質として、リチウムまたはリチウム合金を用いた請求項10または11に記載の非水電解液電池。
【請求項13】
耐熱樹脂製のパッキングまたはガラスハーメチックシールにより封口がなされている請求項10〜12のいずれかに記載の非水電解液電池。
【請求項14】
耐熱樹脂製のパッキングが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイドまたはポリエーテルエーテルケトンのいずれかで形成されている請求項13に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−24575(P2006−24575A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235193(P2005−235193)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【分割の表示】特願2002−351852(P2002−351852)の分割
【原出願日】平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】