説明

非水電解質二次電池装置およびその負極を充電する方法

【課題】リチウムイオン電池の容量低下を抑制する。
【解決手段】非水電解液にポリマー形成剤または犠牲還元剤を添加し、電池容器と負極の間に電圧を印加する。これによって、負極にリチウムイオンを挿入させることができて、電池の容量が回復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池装置と、その負極を充電する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を代表とする非水電解質二次電池は高いエネルギー密度を有するため、電気自動車用の電池として注目されている。対象となる電気自動車には、エンジンを搭載しないゼロエミッション電気自動車、エンジンと二次電池の両方を搭載したハイブリッド電気自動車、さらには系統電源から直接充電させるプラグイン電気自動車がある。また、非水電解質二次電池は、電力を貯蔵し、電力系統が遮断された非常時に電力を供給する定置式電力貯蔵装置としての用途も期待されている。
【0003】
このような多様な用途に対して、リチウムイオン電池には優れた耐久性が要求されている。すなわち、環境温度が高くなっても、充電可能な容量の低下率が低く、かつ、長期にわたって電池の容量維持率が高いことである。特に、電気自動車用リチウムイオン電池は、路面からの輻射熱あるいは車内からの熱伝導により、60℃以上の高温環境となるために、そのような高温環境における保存特性とサイクル寿命が、重要な要求性能となっている。
【0004】
高温放置時の容量低下あるいはサイクル劣化を抑制するために、従来、高耐久な電極材料あるいは電解液を求めるための種々の技術が研究されている。また、負極にリチウムを挿入させることで、容量低下の原因を取り除く技術も研究されており、特許文献1〜3には、負極にリチウムを挿入させる技術の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−270090号公報
【特許文献2】特開平11−31331号公報
【特許文献3】特開平7−254435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、負極にリチウム金属を電気的に接続することによって、負極に不可逆容量相当分のリチウムを挿入するようにしている。また、特許文献2には、電極群の外にリチウム電極を設置し、電解処理によって負極に金属リチウムによる予備充電を行い、それにより、正極のリチウムを無駄なく充放電に利用できるようにした技術が記載されている。さらに、特許文献3には、電解液に添加したシュウ酸リチウムを正極上で酸化分解させることで、負極にリチウムイオンを挿入させる技術が記載されている。
【0007】
上記のようにリチウムイオン電池の負極にリチウムを挿入するための従来提案されている技術は、電極群とは別に設けたリチウム金属から電解処理等によって、またはシュウ酸リチウムの酸化反応を利用して、負極にリチウムイオンを移動させるようにしており、電池内部に余分なスペースが必要となる、非水電解液を満たした真空チャンバのような予備充電のための特別の設備が必要となる、さらに、未利用のリチウムが負極の過充電をもたらす恐れもある等、材料的な観点また設備的な観点から、さらに改善すべき余地がある。
【0008】
リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池が高温環境下に放置された場合などにおいて、正極または負極に析出しあるいはこれらの電極の内部に吸蔵された化学種(充放電反応に寄与する金属またはイオン)が、電解液等との不活性化反応により消費される。この際、前記電池を再充電することのできなくなる容量(電池容量の低下量)も増大する。特に、負極の電位が低い場合は、前記化学種が電解液との不活性化反応によって消費され、電池の容量が低下する。なお、前記化学種は、リチウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいはその他の金属を含んでいる。
【0009】
本発明は上述の事情を鑑みて生まれたものであり、非水電解質二次電池の充放電に寄与する化学種を負極に再び供給できるようにして、低下した容量を回復させうる非水電解質二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、正極と、負極と、正極と負極を収容する容器とを備えるリチウムイオン電池において、容器と負極との間に電圧を印加することにより、容器では酸化反応が生じ、負極ではリチウム挿入反応(還元反応)が生じ、それにより、不可逆容量分に相当するリチウムイオンを負極に挿入できることを知見した。本発明は、上記の知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、第1の発明は、正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備え、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられてなる非水電解質二次電池において、前記正極端子、前記負極端子および前記電池容器が切替スイッチを介して充電回路に接続され、前記充電回路は前記切替スイッチにより正極端子と負極端子の間または電池容器と負極端子の間のいずれかに選択的に電圧を印加する機能を有していることを特徴とする非水電解質二次電池装置である。
【0012】
第2の発明は、正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備え、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられてなる非水電解質二次電池において、前記正極端子と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第1の充電回路が前記正極端子と前記負極端子に接続され、前記電池容器と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子に接続されていることを特徴とする非水電解質二次電池装置である。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明の非水電解質二次電池装置において、前記第2の充電回路が着脱可能とされている非水電解質二次電池装置である。
【0014】
第4の発明は、上記第1の発明の非水電解質二次電池装置において、前記非水電解液は犠牲還元剤を有しており、前記犠牲還元剤が電池容器上で酸化される電圧以上の電圧を前記充電回路が負極と電池容器の間に印可できるようにされている非水電解質二次電池装置である。
【0015】
第5の発明は、上記第2の発明の非水電解質二次電池装置において、前記非水電解液が犠牲還元剤を有し、前記犠牲還元剤が電池容器上で酸化される電圧以上の電圧を前記第2の充電回路が負極と電池容器の間に印可できるようにされている非水電解質二次電池装置である。
【0016】
第6の発明は、上記第4および第5の発明の非水電解質二次電池装置において、前記犠牲還元剤として、酸化重合反応またはガス発生反応をする犠牲還元剤を用いるようにした非水電解質二次電池装置である。
【0017】
第7の発明は、正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、その負極を充電する方法であって、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられ、前記正極端子、前記負極端子および前記電池容器が切替スイッチを介して充電回路に接続され、前記充電回路は正極端子と負極端子の間または電池容器と負極端子の間のいずれかに選択的に電圧を印加する機能を有しており、前記切替スイッチの切り替えにより前記充電回路が前記電池容器と前記負極端子の間に電圧を印加し、それにより負極を充電することを特徴とする方法である。
【0018】
第8の発明は、正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、その負極を充電する方法であって、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられ、前記正極端子と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第1の充電回路が前記正極端子と前記負極端子に接続され、前記電池容器と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子に接続されており、前記第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子の間に電圧を印加し、それにより負極を充電することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非水電解質二次電池を備えた装置において、きわめて簡単な回路を付加するだけで、再充填できないといわれていた非水電解質二次電池の容量(不可逆容量)を容易に回復させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による非水電解質二次電池装置の一形態を説明するための概略図。
【図2】本発明による非水電解質二次電池装置の他の形態を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。なお、以下の説明ではリチウムイオン電池を例として説明するが、本発明はリチウムイオン電池に限るものではない。
【0022】
[第1の形態]
図1は、非水電解質二次電池装置がリチウムイオン電池の場合での、本発明による非水電解質二次電池装置の一例を説明するための概略図である。
【0023】
装置100において、リチウムイオン電池は電池容器101に収納されている。正極端子105、負極端子106および電池容器101は、電気ケーブル109、110、112、114とスイッチ111を介して、充放電制御器113に接続されている。充放電制御器113は、電力ケーブル115、116を介して外部機器117に接続されている。
【0024】
次に、リチウムイオン電池の各の構成について、説明する。
正極102は、正極活物質、導電剤、バインダ、集電体から構成される。その正極活物質を例示すると、LiCoO、LiNiO、LiMnOが代表例である。他に、LiMnO、LiMnO、LiMnO、LiMnO12、LiMn2−xMO(ただし、M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn、Ta、x=0.01〜0.2)、LiMnMO(ただし、M=Fe、Co、Ni、Cu、Zn)、Li1−xAxMnO(ただし、A=Mg、B、Al、Fe、Co、Ni、Cr、Zn、Ca、x=0.01〜0.1)、LiNi1−xMxO(ただし、M=Co、Fe、Ga、x=0.01〜0.2)、LiFeO、Fe(SO)、LiCo1−xMO(ただし、M=Ni、Fe、Mn、x=0.01〜0.2)、LiNi1−xMO(ただし、M=Mn、Fe、Co、Al、Ga、Ca、Mg、x=0.01〜0.2)、Fe(MoO)、FeF、LiFePO、LiMnPOなどを列挙することができる。なお、以下に示す本実施例では、正極活物質にはLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を用いた。
【0025】
正極活物質の粒径は、合剤層の厚さ以下になるように規定される。正極活物質粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級などにより粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を作製する。
【0026】
また、正極活物質は酸化物系であり電気抵抗が高いので、それらの電気伝導性を補うための炭素粉末からなる導電剤を利用するのが好ましい。正極活物質と導電剤はともに粉末であるため、粉末にバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に集電体へ接着させている。以下に示す本実施例では、上述の正極活物質(90重量百分率)にアセチレンブラック(5重量百分率)に、ポリフッ化ビニリデン(5重量百分率)を添加した。
【0027】
集電体には、厚さが10〜100μmのアルミニウム箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられ、材質もアルミニウムの他に、ステンレス、チタンなども適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。以下に示す本実施例では、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。
【0028】
正極活物質、導電剤、バインダ、および有機溶媒を混合した正極スラリーを、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などによって集電体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥し、ロールプレスによって正極を加圧成形することにより、正極を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。
【0029】
負極103は、負極活物質、バインダ、集電体からなる。高レート充放電が必要な場合に、導電剤を添加する場合もある。使用可能な負極活物質は、リチウムと合金化するアルミニウム、シリコン、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウムより選ばれた金属あるいは合金がある。また、SnO、GeO、SnSiO、SnSi0.5O1.5、SnSi0.7Al0.1B0.3P0.2O3.5、SnSi0.5Al0.3B0.3P0.5O4.15と表記される14族または15族元素の酸化物、あるいはインジウム酸化物、あるいは亜鉛酸化物、あるいはLiFeN、あるいはFeSi、FeSi、FeSi、MgSiで表記される珪化物なども使用することができる。
【0030】
さらに、リチウムイオンを電気化学的に挿入・放出可能な天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラックのなどの炭素質材料、あるいは5員環または6員環の環式炭化水素または環式含酸素有機化合物を熱分解によって合成した非晶質炭素材料、などが利用可能である。黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素等の材料の混合負極、または前記炭素材料に前記金属または前記合金の混合負極または複合負極であっても、本発明を実施する上で障害はない。本発明では負極活物質に特に制限がなく、上述の材料以外でも利用可能である。特に、炭素質材料を主成分とする負極を用いた場合に、本発明は有効である。また、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレンからなる導電性高分子材料も、負極に用いることができる。
【0031】
使用される負極活物質が粉末の場合、それにバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に集電体へ接着させる。本発明の負極では、負極活物質の粒径を合剤層の厚さ以下にすることが望ましい。負極活物質粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級などにより粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を使用する。下記の示す本実施例では、平均粒径20μmの黒鉛(90重量百分率)にポリフッ化ビニリデン(10重量百分率)を添加した。
【0032】
集電体には、厚さが10〜100μmの銅箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられ、材質も銅の他に、ステンレス、チタン、ニッケルなども適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。下記に示す本実施例では、厚さ10μmの圧延銅箔を用いた。
【0033】
負極活物質質、バインダ、および有機溶媒を混合した負極スラリーを、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などによって集電体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥し、ロールプレスによって負極を加圧成形することにより、負極を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回おこなうことにより、多層合剤層を集電体に形成させることも可能である。
【0034】
上記のようにして作製した正極102と負極103の間にセパレータ104を挿入し、正極と負極の短絡を防止する。セパレータ104には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどからなるポリオレフィン系高分子シート、あるいはポリオレフィン系高分子と4フッ化ポリエチレンを代表とするフッ素系高分子シートを溶着させた多層構造のものなどを使用することが可能である。電池温度が高くなったときにセパレータが収縮しないように、セパレータの表面にセラミックスとバインダの混合物を薄層状に形成してもよい。これらのセパレータは、電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、一般に、細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%であれば、リチウムイオン電池に使用可能である。
【0035】
図1では、一組の正極102とセパレータ104と負極103からなる単セルの構成のみ示しているが、複数の単電池を積層してもよいし、円筒形あるいは楕円形状になるように捲回してもよい。このようなセパレータを正極と負極の間に挿入した構成物を電極群と称する。電極群は、短冊状電極の積層したもの、あるいは円筒状、扁平状などの任意の形状に捲回したものなど、種々の形状にすることができる。
【0036】
電池容器101の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒型、偏平長円形状、角型などの形状を選択してもよい。電池容器101の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製など、非水電解質に対し耐食性のある材料から選択される。また、電池容器101を正極または負極に電気的に接続する場合は、非水電解質と接触している部分において、電池容器101の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、材料の選定を行う。
【0037】
本発明においては、これらの材料の中で、アルミニウムあるいはアルミニウム材料が、その酸化被膜形成を利用した負極の充電を行うことができるので、好適である。また、表面を粗化して表面積を大きくしたアルミニウム等がさらに望ましい。アルミニウムまたはその合金のメッシュを、電池容器101の内壁に設置し、電池容器101に電圧を印加したときに、そのメッシュが酸化されるようにする方法も好適である。
【0038】
電池容器101に電極群を収納し、電池容器101あるいは蓋(図1では容器101と上部の蓋が一体に描かれている。)に正極端子105と負極端子106を接続し、電解液を電極群に注入する。電解液は、注入口108より供給する。電解液の注入方法は、蓋を解放した状態にて電極群に直接、添加する方法、あるいは蓋に設置した注入口から添加する方法がある。電解液の添加する方法には、シリンジで計量して電池に滴下する方法、マイクロ定量ポンプより規定容量の電解液をマイクロチューブから電池に注入する方法などがある。電池に添加した電解液量は、電子天秤を用いた電池の重量変化の測定値より管理することができる。
【0039】
電解液注入後の注入口108は、かしめ、ねじ込み、溶接等の公知の封止方法によって、大気が電池内部に侵入しないように封止する。
【0040】
本発明で使用可能な電解液の代表例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の炭酸エステル系溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、あるいはホウフッ化リチウム(LiBF)を溶解させた溶液がある。本発明は、溶媒や電解質の種類、溶媒の混合比に制限されることなく、他の電解液も利用可能である。
【0041】
なお、電解液に使用可能な溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1、2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1、3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1、2-ジエトキシエタン、クロルエチレンカーボネート、クロルプロピレンカーボネートなどの非水溶媒がある。本発明の電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しなければ、これ以外の溶媒を用いてもよい。
【0042】
また、電解質には、化学式でLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、あるいはリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドで代表されるリチウムのイミド塩などの多種類のリチウム塩がある。これらの塩を、上述の溶媒に溶解してできた非水電解液を電池用電解液として使用することができる。本発明の電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しなければ、これ以外の電解質を用いてもよい。
【0043】
固体高分子電解質(ポリマー電解質)を用いる場合には、エチレンオキシド、アクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、メタクリル酸メチル、ヘキサフルオロプロピレンのポリエチレンオキサイドなどのイオン導電性ポリマーを電解質に用いることができる。これらの固体高分子電解質を用いた場合、前記セパレータが不要となる利点がある。
【0044】
さらに、イオン性液体を用いることができる。例えば、1-ethyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate (EMI-BF4)、リチウム塩LiN(SO2CF3)2(LiTFSI)とトリグライムとテトラグライム)の混合錯体、環状四級アンモニウム系陽イオン(N-methyl-N-propylpyrrolidiniumが例示される)とイミド系陰イオン(bis(fluorosulfonyl)imideが例示される)より正極と負極にて分解しない組み合わせを選択して、本発明の非水電解質二次電池装置に用いることができる。
【0045】
注入口108は、電池容器101の内部の圧力が高くなったときに、電池内部のガスを外界に逃がす機構を設けてもよい。開裂弁、逆止弁など、公知の構造のものを使うことができる。
【0046】
なお、正極端子105および負極端子106と、電池容器101(電池容器上部の蓋であってもよい)の間には、絶縁性シール材料107を挿入し、正極端子105、負極端子106、電池容器101の間に電気が流れないようにする。前記絶縁性シール材料107には、ガラスハーメチックシール材料、熱硬化性樹脂など、電解液に対して膨潤や溶解をせず、電池の使用環境温度で軟化や破損を起こさず、さらに電池容器101の内部に大気が侵入しないような材料であれば、任意の材料を選択することができる。
【0047】
上述のリチウムイオン電池の正極端子105は、スイッチ111に電気ケーブル109で接続されている。さらに、電気ケーブル114を介して充放電制御器113に連絡されている。負極端子106は、電気ケーブル110を介して充放電制御器113につながっている。
【0048】
充放電制御器113は、電力ケーブル115、116を介して、外部に設置した機器(以下では外部機器と称する)117との間で電力の授受を行う。図1では、外部機器は、充放電制御器113に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器、ならびにこのリチウムイオン電池が電力を供給するインバータ、コンバータおよび負荷が含まれている。外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータ等を設ければよい。これらの機器類は公知のものを任意に適用することができる。
【0049】
図1の構成において、電力ケーブル109と114が連結するようにスイッチ111を制御すれば、リチウムイオン電池を充放電することができる。
【0050】
電池容量が低下し、容量を回復させる必要があるときには、電池容器101と負極103の間に電圧を印加して、電池の容量を回復させる。以下では、その手順の詳細を説明する。
【0051】
まず、スイッチ111を作動させて、電力ケーブル112と114を連結させる。このようにすれば、充放電制御器113が電池容器101と負極103の間に電圧を印加することができる。
【0052】
充放電制御器113は、電池容器101の内壁にて電解液(または後記する犠牲還元剤)の分解が起こる電位になるように、負極電位を基準に電池容器101の電圧を制御する。通常は、正極102の電位よりも高い値に設定される。すなわち、充放電制御器113が制御する電圧は、リチウムイオン電池の正極端子105と負極端子106の間の電圧よりも高くなる。
【0053】
充放電制御器113による電池のリフレッシュ充電の具体例は、後述の実施例にて詳述するが、ここでは本発明の制御における基本概念を説明する。
【0054】
充放電制御器113は、電圧を印加した後に流れる電流を計測し、時間との積分値(電気量)を積算する。この値から、負極への充電容量が求められる。電気量の積算には、充放電制御器113の内部に演算機能を有するマイコンを設置すればよい。負極に充電すべき電気量Qrefは、初期の電池容量Qintと、容量が減少してリフレッシュする前に計測した電池容量Qtdcとの差もしくはそれ以下とする(式1)。この式で計算した右辺の値は、正極102と負極103に不可逆な容量低下がないときの最大充電可能量である。
Qref ≦ Qint − Qtdc (式1)
【0055】
不可逆な容量低下があるときには、その低下分を考慮する必要がある。リチウムイオン電池において、このような不可逆な容量低下は一般的に起こるので、実用上は、後述の式2または式3を用いて、充電量を制御する。
【0056】
ここで、Qtdcの容量低下量が負極の自己放電量が支配的と考えると、Qtdcは再充電可能な負極の容量低下分と不可逆な容量低下反応に由来する負極の容量低下量が含まれていることになる。Qadcが既知であれば、その値を初期の電気容量Qintから差し引けばよい(式2)。再充電可能な負極の容量は、本発明のリフレッシュ充電によって充電されるからである。
Qref ≦ Qint − Qadc (式2)
【0057】
正極上で不可逆な容量低下反応に由来する容量低下量(すなわちQcdc)が、負極の容量低下量Qadcに比べて無視できない量であれば、正極の容量低下量Qcdcを考慮する必要がある(式3)。この場合は、式2と式3の右辺の計算値をそれぞれ求め、両者の大小を比較する。そして、小さい値を得た式を用いる。すなわち、QadcがQcdcよりも大きいときに式2を、QadcがQcdcよりも小さいときに式3を用いる。両者が同じであれば、いずれの式を用いてもよい。
Qref ≦ Qint − Qcdc (式3)
【0058】
Qcdcは、正極とリチウム金属から構成されるモデル電池を組み立てて、そのモデル電池の自己放電測定実験から求めることができる。すなわち、実際のリチウムイオン電池が放置される同じ環境温度下にて、正極を充電したモデルセルを放置し、任意の時間の経過後に正極の残存容量を測定する。初期の充電容量と残存容量の差を経過時間で割れば、正極の自己放電速度(あるいは自己放電電流)を求めることができる。この自己放電速度を経過時間で積分すれば、その時間の経過時における正極の自己放電量Qcdcを計算することができる。
【0059】
Qadc、Qcdcは、外界温度、充放電電流、放置時間などの充放電条件に依存する。したがって、これらの条件ごとにQadc、Qcdcの実測値を求めておき、充放電制御器113のマイコンに記録しておけばよい。負極と正極のそれぞれの自己放電速度は、上述の同じ実験から測定することができる。負極と正極のそれぞれの自己放電速度を経過時間で積分すれば、その時間の経過時における負極の自己放電量Qadcと正極の自己放電量Qcdcを計算することができる。これらの計算プログラムを充放電制御器113に取り込んで、リフレッシュ充電の制御を実行する。
【0060】
さらに望ましい方法として、リチウムイオン電池の端子間電圧のプロファイル(放電容量と端子間電圧、充電容量と端子間電圧などのデータ)を測定し、そのプロファイルの変化量を取り入れたアルゴリズム処理を実行し、Qadc、Qcdcの予測値の精度を高めることも可能である。
【0061】
このように制御されたリフレッシュ充電は、リフレッシュ充電に要した時間、リフレッシュ充電時に電池に流れた電気量、電池温度などの計測値が規定値に達したときに、終了させればよい。負極が過充電にならならいように、充電条件を設定する。
【0062】
また、正極の電位と負極の電位に電位計測線をそれぞれ接続して、その計測線を充放電制御器113に接続してその電位差を監視することができる。リフレッシュ充電時には正極に電流を流さないので、その正極が安定した参照電極として機能するからである。正極電位を基準に計測した負極電位が規定値を越えたときに、リフレッシュ充電を終了にすれば、負極の過充電を回避することができる点で望ましい。
【0063】
電解液は、前述の通り炭酸カーボネート系電解液、あるいはその他の非水溶媒を用いた電解液である。ポリマー電解質を用いる場合は、非水溶媒または電解質を含有させるか、イオン液体を添加し、電池容器101にて反応可能とする。
【0064】
また、別の方法として、電解液中に酸化重合をするポリマー剤、ヨウ素酸リチウムやシュウ酸リチウムのような犠牲還元剤を添加してもよい。
【0065】
ポリマー剤は、酸化反応により電池容器101表面を被覆するが、電解液に溶出することがなく、リフレッシュ充電後の通常の充放電容量を変化させない。被覆したポリマー層は多孔質であって、ポリマー剤が透過しやすいものを選択する。ただし、透過量が小さく大きな電流を流すことができなくても、リフレッシュ時間を延長すればよいので、透過性は本発明を実施する上での本質的障害とはならない。
【0066】
後者の犠牲還元剤は、酸化分解によりガスを発生する。ガスを発生した後の生成物は、電池内に残っても充放電容量を減少させないことが条件となる。
【0067】
ヨウ素酸リチウムは、ヨウ素ガスとリチウムイオンを生成し、酸素は電池容器101の酸化膜に消費される。ヨウ素ガスは電池容器101の外に放出させる。ただし、電解液中に微量に残っても、負極上にヨウ素を含む安定な被膜を形成するので、生成したヨウ素ガスを完全に除去する必要はない。
【0068】
シュウ酸リチウムは二酸化炭素とリチウムイオンになる。二酸化炭素は電池容器101の外に放出させる。ただし、電解液中に微量に残っても、安定な被膜を形成する場合がある。特に金属リチウムあるいはリチウム合金を含む負極を用いたときに効果がある。
【0069】
さらに、犠牲還元剤は酸化によって電解液にリチウムイオンを放出する物質が望ましい。犠牲還元剤の酸化時に負極にリチウムが挿入され、電解液中のリチウムイオン濃度が低下する。そのイオン濃度を元に戻す必要があるからである。
【0070】
ただし、リチウムイオンを放出しない犠牲還元剤を用いた場合であっても、注液口108から電解質または電解液を補充すれば、リチウムイオン濃度を元に戻すことができ、上述の濃度低下の問題を回避する方法がある。
【0071】
電池容器101にてガスが発生するときには、不活性ガスを充填した容器の中に電池全体を収納し、外界にガスを放出させる。注液口108付近に不活性ガスを吹き付けて、大気中の酸素が電池の中に侵入しないようにしてもよい。なお、不活性ガスには窒素、アルゴン、ヘリウムなどのガスを選択することができ、電解液と反応しない他のガスを選択することも可能である。また、不活性ガスは乾燥していることが望ましい。電解質の中にはLiPFのように水と反応して分解するものがあるからである。負極に金属リチウムまたはリチウム合金を用いている場合は、窒素とリチウムが反応するので、アルゴンまたはヘリウムを用いることが望ましい。
【0072】
電池容器101の上部に設けた注液口108を開放するか、気液分離器を注液口に接続し、大気に触れないように、ガスを外界に放出させる方法も採ることができる。
【0073】
[第2の形態]
図2は、本発明による非水電解質二次電池装置200の他の形態を説明するための概略図である。ここでは、負極203と電池容器201を充電する着脱式充電器220を着脱可能な構成としている。なお、図2において、図1に示した装置100の部材に相当する部材には200番台の符号を付している。
【0074】
図2では、一組の正極202とセパレータ204と負極203からなる単セルの構成のみ示しているが、複数の単電池を積層してもよいし、円筒形あるいは楕円形状になるように捲回してもよい。このようなセパレータを正極と負極の間に挿入した構成物を電極群と称する。電極群は、短冊状電極の積層したもの、あるいは円筒状、扁平状などの任意の形状に捲回したものなど、種々の形状にすることができる。電池容器201の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒型、偏平長円形状、角型などの形状を選択してもよい。
【0075】
電池容器201の材質は、図1の説明において列挙した材料あるいは表面粗化した材料を適用することができる。
【0076】
電池容器201に電極群を収納し、電池容器201あるいは蓋(図2では容器201と上部の蓋が一体に描かれている)に正極端子205と負極端子206を接続し、電解液を電極群に注入する。電解液は、注液口208より供給する。電解液の注入方法、および注液口208の構造と封止方法は、図1にて説明した。
【0077】
本発明で使用可能な電解液の代表例として、エチレンカーボネートにジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどを混合した溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、あるいはホウフッ化リチウム(LiBF)を溶解させた溶液がある。これらの電解液に限定されないことは、図1の装置の場合と同様である。
【0078】
注液口208は、電池容器201の内部の圧力が高くなったときに、電池内部のガスを外界に逃がす機構を設けてもよい。開裂弁、逆止弁など、公知の構造のものを使うことができる。
【0079】
なお、正極端子205および負極端子206と、電池容器201(電池容器上部の蓋であってもよい)の間には、絶縁性シール材料207を挿入し、正極端子205、負極端子206、電池容器201の間に電気が流れないようにする。前記絶縁性シール材料207に選択可能な材料、要求仕様については、図1にて説明した通りである。
【0080】
上述のリチウムイオン電池の正極端子205は、スイッチ211に電気ケーブル209で接続されている。さらに、電気ケーブル214を介して充放電制御器213に連絡されている。負極端子206は、電気ケーブル210を介して充放電制御器213につながっている。
【0081】
充放電制御器213は、電力ケーブル215、216を介して、外部に設置した機器(以下では外部機器と称する)217との間で電力の授受を行う。図2では、外部機器は、充放電制御器213に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器、ならびにこのリチウムイオン電池が電力を供給するインバータ、コンバータおよび負荷が含まれている。外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータ等を設ければよい。これらの機器類は公知のものを任意に適用することができる。
【0082】
図2の構成において電力ケーブル209、214と210が連結するようにスイッチ211を制御すれば、図1と同じ構成にてリチウムイオン電池を充放電することができる。
【0083】
電池容量が低下し、容量を回復させる必要があるときには、電池容器201と負極203の間に電圧を印加して、電池の容量を回復させる。本実施例では、接続部218と222を介して、着脱式充電器220を用いている。以下では、その手順の詳細を説明する。
【0084】
まず、スイッチ211を作動させて、電力ケーブル212、219、221、223と214を連結させる。この連結動作に同期して、充放電制御器213において電力ケーブル214の入力端子と電力ケーブル210の入力端子同士を接続する短絡ループを形成し、充放電制御器213の内部で何ら電力の損失が生じないようにする。このようにすれば、着脱式充電器220が、スイッチ211の動作に連動して、電池容器201と負極203の間に電圧を印加することができる。
【0085】
着脱式充電器220は、電池容器201の内壁にて電解液または犠牲還元剤の分解が起こる電位になるように、負極電位を基準に電圧を高くする。通常は、正極202の電位よりも高い値に設定される。すなわち、着脱式充電器220が制御する電圧は、リチウムイオン電池の正極端子205と負極端子206の間の電圧よりも高くなる。設定電圧の制御条件は、前記した式1、式2、式3に従い、電解液にポリマー形成剤または犠牲還元剤を添加する方法は、図1に説明した方法とすることができる。
【0086】
この装置200でのリフレッシュ運転の充電制御プログラムは、前記した式1、式2あるいは式3に基づく計算プログラムであり、そのプログラムを着脱式充電器220のマイコン部に取り込ませておく。
【0087】
図2の構成にすれば、接続部218、222から着脱式充電器220を取り外すことができ、容量回復処理(リフレッシュ充電)が必要なときにのみ着脱式充電器220を用意すればよい。このようにすれば、装置200の設置スペースを小さくすることができる。
【0088】
以上で説明した内容を踏まえ、それぞれ具体的な実施例を以下に示し、本発明の効果を明らかにしていく。なお、本発明の要旨を変更しない範囲で、具体的な構成材料、部品などを変更してもよい。また、本発明の構成要素を含んでいれば、公知の技術を追加したり、公知の技術で置き換えることも可能である。
【実施例】
【0089】
(実施例1−1)
図1に示した装置100において、エチレンカーボネート(以下、ECと記す)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した溶媒に、電解質LiPFを1モル/リットルの濃度になるように調製した電解液を準備した。本実施例で、用いた正極活物質は、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2であり、負極活物質には、平均粒径20μmの人造黒鉛を用いた。
【0090】
また、電解液には予め、シクロヘキシルベンゼンを溶解させ、注液口108よりシクロヘキシルベンゼン添加電解液を注入し、注液口108を封止した。なお、シクロヘキシルベンゼンは、本発明の犠牲還元剤の一つである。本実施例では、ガスが発生しないので、注液口108を閉じても不具合は生じない。
【0091】
注液口108は、鋭利な突起部を有する2つのフランジの間に、金属パッキンを挿入し、ねじ締めによって突起部が金属パッキンに食い込んで、気密性を発現する高気密構造とした。この構造によって、注液口を開放しても再度、元の気密性に戻すことができるようになった。ただし、他の構造であっても、本発明の効果を得る上で何ら影響を与えない。
【0092】
シクロヘキシルベンゼンの添加量は、電池容量の低下量(クーロン単位)をファラデー定数で割り、その値になるモル数になるように添加した。シクロヘキシルベンゼンの酸化電流は1モル当たり数個の電子が移行すると考えられているので、望ましくは上述の計算値の1/2〜1/5にすることが、化学量論的に適している。このようにすれば、リフレッシュ充電後に余分のシクロヘキシルベンゼンが残らなくなる。ただし、本実施例では、過剰のヘキシルベンゼンが残っても、それがリチウムイオン電池の過充電防止剤として機能する余地があるので、電池容量の低下量(単位;クーロン)を96500C(1ファラデー)で割りつけた値のモル数のシクロヘキシルベンゼンを添加した。これにより、低下量の2〜5倍の酸化電気量相当のシクロヘキシルベンゼンを添加したことになる。なお、電池容量の低下量は13320クーロン(3.7Ah)とし、添加量は0.14モルとした。
【0093】
このように製作した電池の容量は10Ahであった。すなわち、式1に示したQintが10Ahとなる。本システムをS1とする。
【0094】
リチウムイオン電池が1時間率の充放電サイクルを2000サイクル行うように、システムS1を運転させた。環境温度は40℃とした。電池の容量が初期容量の50%まで低下したので、一旦、試験を停止させた。ここで、式1のQtdcは5Ahであり、負極に再充電可能な最大電気量Qrefも5Ahとなる(式1)。
【0095】
モデルセルを用いた放置試験結果より、実施例にて用いた正極の自己放電速度が負極の自己放電速度の1/10以下であることが判った。そこで、式1に基づく制御プログラムを充放電制御器113に取り込ませて、以下のリフレッシュ充電を実行させた。
【0096】
なお、Qcdc>Qadcとなる材料構成の場合には、式3に基づく制御プログラムを用いる必要がある。そこで、新たな別のプログラムを利用できるように、充放電制御器113にプログラムを書き換えるための外部通信ポートを設けた。
【0097】
次に、本発明のリフレッシュ充電を実施した。スイッチ111を動作し、充放電制御器113を用いて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。印加電圧は5V以上とした。電流値が大きくなりすぎないように、電圧は調整した。過大な電流を流すと電池容器101に近い負極103の部分、すなわち負極103の端部に電流が集中し、負極103の端部にリチウムが析出するからである。望ましい電流値としては、10時間率以上の遅い電流値がよい。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電の後、1時間率の充放電試験を行って電池の容量を測定した結果、表1に示すように、電池の容量が8.7Ahにまで回復した。
【0098】
(実施例1−2)
同様に、図2に示した装置200で本発明の効果を確認した。着脱式充電器220が着脱可能であっても、同一のリフレッシュ充電を行うと、5Ahに低下した電池容量は、表1に示すように、8.7Ahに回復した。
【0099】
(実施例1−3)
次に、シクロヘキシルベンゼンを溶解させない電解液を電池に注入し、注液口108を封じた電池を製作した。
【0100】
この電池をシステムS1に搭載し、1時間率の充放電サイクル条件にて2000サイクルの試験を行った。環境温度は40℃とした。電池の容量が初期容量の50%まで低下したので、一旦、試験を停止させた。
【0101】
システムを窒素雰囲気の容器に移し、注液口108を開いた。次いで、注液口108より、シクロヘキシルベンゼンを溶解させた少量の電解液を注入し、注液口108を封止した。シクロヘキシルベンゼンは、本発明の犠牲還元剤の一つである。本実施例では、ガスが発生しないので、注液口108を閉じても不具合は生じない。なお、シクロヘキシルベンゼンの添加量は、0.14モルとした。
【0102】
前述のリフレッシュ充電と同じ条件にて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電の後、1時間率の充放電試験を行って電池の容量を測定した結果、電池の容量が8.6〜8.8Ahにまで回復した。
【0103】
(実施例1−4)
さらに、シクロヘキシルベンゼン以外の犠牲還元剤を添加した電解液を注入したリチウムイオン電池を3個製作した。用いた犠牲還元剤は、水素化ターフェニル、水素化ジベンゾフラン、ビフェニルの3種類であり、それぞれ別々の電池に犠牲還元剤を添加した。添加量は0.14モルとした。また、犠牲還元剤を除き、電極、電解液、電池構造等の電池仕様は、前述のシクロヘキシルベンゼンを添加した電池と同一とした。
【0104】
これらの3種類の電池を図1の装置100に搭載し、3種類のシステムS1を組み立てた。各システムについて、1時間率の充放電サイクルを2000サイクル行うように、システムS1を運転させた。環境温度は40℃とした。電池の容量が初期容量の50%まで低下したので、試験を停止させた。
【0105】
次に、本発明のリフレッシュ充電を実施した。スイッチ111を動作し、充放電制御器113を用いて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。印加電圧は5V以上とした。電流値が大きくなりすぎないように、電圧は調整した。過大な電流を流すと電池容器101に近い負極103の部分、すなわち負極103の端部に電流が集中し、負極103の端部にリチウムが析出するからである。望ましい電流値としては、10時間率以上の遅い電流値がよい。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電の後、1時間率の充放電試験を行って電池の容量を測定した結果、電池の容量が8.5〜8.8Ahにまで回復した。
【0106】
(実施例2−1)
図1に示した装置100において、エチレンカーボネート(以下、ECと記す)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した溶媒に、電解質LiPFを1モル/リットルの濃度になるように調製した電解液を準備した。ポリマー形成剤(シクロヘキシルベンゼン)を用いない点を除き、リチウムイオン電池の封止口の構造その他の構成は実施例1と同じである。電池の容量は10Ahである。このシステムをS2とする。
【0107】
リチウムイオン電池が1時間率の充放電サイクルを2000サイクル行うように、システムS2を運転させた。環境温度は40℃とした。
【0108】
電池の容量が初期容量の50%まで低下したので、システムを窒素雰囲気の容器に移し、注液口108を開いた。次いで、注液口108より犠牲還元剤を添加した。本実施例では犠牲還元剤としてヨウ素酸リチウムを選択した。ヨウ素酸リチウムの添加量は、電池容量の低下量(クーロン単位)をファラデー定数で割り、その値の1.5倍相当のモル数になるように添加した。ヨウ素酸リチウムの酸化電流は1モル当たり6個の電子が移行すると考えられているので、望ましくは上述の計算値の1/6にすることが、化学量論的に適している。このようにすれば、リフレッシュ充電後に余分のヨウ素酸リチウムが残らなくなる。ただし、本実施例では、化学量論的なヨウ素酸リチウムでは充電時間とともにヨウ素酸リチウムの濃度が低くなりすぎてしまうと考えて、計算値の1.5倍量(化学量論値の1/4の相当量)をリチウムイオン電池に添加した。
【0109】
先の実施例1の電池容量低下分(3.7Ah)に基づいてヨウ素酸リチウム必要量を計算すると、電池容量の低下量13320クーロン(3.7Ah)に対し、ヨウ素酸リチウムの添加量は0.035モルとなる。
【0110】
本発明のリフレッシュ充電を実施した。スイッチ111を動作し、充放電制御器113を用いて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。印加電圧は5V以上とした。電流値が大きくなりすぎないように、電圧は調整する。過大な電流を流すと電池容器101に近い負極103の部分、すなわち負極103の端部に電流が集中し、負極103の端部にリチウムが析出するからである。望ましい電流値としては、10時間率以上の遅い電流値がよい。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電が終了した後に、注液口108を封止した。
【0111】
なお、リチウムイオン電池に安全弁が設置され、リフレッシュ充電時に発生するガスによる内圧上昇値が、安全弁の作動圧よりも小さければ、リフレッシュ充電の前に注液口108を閉じてもよい。
【0112】
リフレッシュ充電の後、1時間率の充放電試験を行って電池の容量を測定した結果、表1に示すように、電池の容量が8.5Ahにまで回復した。
【0113】
(実施例2−2)
同様に、図2に示した構成200で本発明の効果を確認した。充電器220が着脱可能であっても、同一のリフレッシュ充電を行うと、5Ahに低下した電池容量は、表1に示すように、8.5Ahに回復した。
【0114】
(実施例3−1)
図1に示した装置100において、エチレンカーボネート(以下、ECと記す)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した溶媒に、電解質LiPF6を1モル/リットルの濃度になるように調製した電解液を準備した。本実施例では、実施例1のポリマー形成剤(シクロヘキシルベンゼン)あるいは実施例2の犠牲還元剤(ヨウ素酸リチウム)を用いないで、シュウ酸リチウムを用いた。この点を除き、封止口の構造その他の構成は実施例1と同じである。電池の容量は10Ahである。このシステムをS3とする。
【0115】
リチウムイオン電池が1時間率の充放電サイクルを2000サイクル行うように、システムS3を運転させた。環境温度は40℃とした。
【0116】
電池の容量が初期容量の50%まで低下したので、システムを窒素雰囲気の容器に移し、注液口108を開いた。次いで、注液口108より犠牲還元剤を添加した。本実施例では犠牲還元剤としてシュウ酸リチウムを選択した。シュウ酸リチウムの添加量は、電池容量の低下量(クーロン単位)をファラデー定数で割り、その値の1.5倍相当のモル数になるように添加した。シュウ酸リチウムの酸化電流は1モル当たり2個の電子が移行すると考えられているので、望ましくは上述の計算値の1/2にすることが、化学量論的に適している。このようにすれば、リフレッシュ充電後に余分のシュウ酸リチウムが残らなくなる。ただし、本実施例では、化学量論的なシュウ酸リチウムでは充電時間とともにシュウ酸リチウムの濃度が低くなりすぎてしまうと考えて、計算値の1.5倍量(化学量論値の3/4の相当量)をリチウムイオン電池に添加した。
【0117】
先の実施例1の電池容量低下分(3.7Ah)に基づいてシュウ酸リチウム必要量を計算すると、電池容量の低下量13320クーロン(3.7Ah)に対し、シュウ酸リチウムの添加量は0.10モルとなる。
【0118】
本発明のリフレッシュ充電を実施した。スイッチ111を動作し、充放電制御器113を用いて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。印加電圧は5V以上とした。電流値が大きくなりすぎないように、電圧は調整する。過大な電流を流すと電池容器101に近い負極103の部分、すなわち負極103の端部に電流が集中し、負極103の端部にリチウムが析出するからである。望ましい電流値としては、10時間率以上の遅い電流値がよい。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電が終了した後に、注液口108を封止した。
【0119】
なお、リチウムイオン電池に安全弁が設置され、リフレッシュ充電時に発生するガスによる内圧上昇値が、安全弁の作動圧よりも小さければ、リフレッシュ充電の前に注液口108を閉じてもよい。
【0120】
リフレッシュ充電の後、1時間率の充放電試験を行って電池の容量を測定した結果、表1に示すように、電池の容量が8.9Ahにまで回復した。
【0121】
(実施例3−2)
同様に、図2に示した構成で本発明の効果を確認した。充電器220が着脱可能であっても、同一のリフレッシュ充電を行うと、5Ahに低下した電池容量は、表1に示すように、8.9Ahに回復した。
【0122】
【表1】

【0123】
(実施例4−1)
図1に示した装置100において、エチレンカーボネート(以下、ECと記す)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した溶媒に、電解質LiPFを1モル/リットルの濃度になるように調製した電解液を準備した。本実施例では、実施例1のポリマー形成剤(シクロヘキシルベンゼン)あるいは実施例2の犠牲還元剤(ヨウ素酸リチウム)あるいは実施例3の犠牲還元剤(シュウ酸リチウム)を用いずに、電池容器201の内壁の酸化膜生成の有無を調べた。この点を除き、封止口の構造その他の構成は実施例1と同じである。
【0124】
リチウムイオン電池が1時間率の充放電サイクルを2000サイクル行うように、システムを運転させた。環境温度は40℃とした。
【0125】
本発明のリフレッシュ充電を実施した。スイッチ111を動作し、充放電制御器113を用いて、電池容器101と負極端子106の間に電圧を印加した。印加電圧は5V以上とした。電流値が大きくなりすぎないように、電圧は調整する。過大な電流を流すと電池容器101に近い負極103の部分、すなわち負極103の端部に電流が集中し、負極103の端部にリチウムが析出するからである。望ましい電流値としては、10時間率以上の遅い電流値がよい。本実施例では、電流が0.5〜0.6Aの範囲になるように電圧を調整した。リフレッシュ充電が終了した後に、システムを窒素雰囲気の容器に移し、システムを解体した。取り出した電池容器の一部の内壁をX線回折により表面分析した。なお、表面分析には、他に、線電子分光、オージェ電子分光なども用いることができる。
【0126】
その分析の結果、電池容器の内壁に酸化膜が生成したことがわかった。これは、正極および溶媒の分解により生成した酸素イオンをアルミの電池容器の内壁に供給したためと考える。
【0127】
(実施例4−2)
実施例3で用いた犠牲還元剤(シュウ酸リチウム)を電解液に添加して、実施例4−1と同じリフレッシュ充電を実施した。そして、実施例4−1と同様に、取り出した電池容器の一部の内壁をX線回折により表面分析した。その結果、電池容器の内壁の酸化膜がさらに厚くなったことを確認した。
【符号の説明】
【0128】
100 本発明による非水電解質二次電池装置の第1の形態、
101 電池容器、102 正極、103 負極、104 セパレータ、105 正極端子、106 負極端子、107 絶縁性シール材料、108 注液口、109 電力ケーブル、110 電力ケーブル、111 スイッチ、112 電力ケーブル、113 充放電制御器、114 電力ケーブル、115 電力ケーブル、116 電力ケーブル、117 外部機器、
200 本発明による非水電解質二次電池装置の第2の形態、
201 電池容器、202 正極、203 負極、204 セパレータ、205 正極端子、206 負極端子、207 絶縁性シール材料、208 注液口、209 電力ケーブル、210 電力ケーブル、211 スイッチ、212 電力ケーブル、213 充放電制御器、214 電力ケーブル、215 電力ケーブル、216 電力ケーブル、217 外部機器、218 接続部、219 電力ケーブル、220 着脱式充電器、221 電力ケーブル、222 接続部、223 電力ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備え、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられてなる非水電解質二次電池において、前記正極端子、前記負極端子および前記電池容器が切替スイッチを介して充電回路に接続され、前記充電回路は前記切替スイッチにより正極端子と負極端子の間または電池容器と負極端子の間のいずれかに選択的に電圧を印加する機能を有していることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項2】
正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備え、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられてなる非水電解質二次電池において、前記正極端子と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第1の充電回路が前記正極端子と前記負極端子に接続され、前記電池容器と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子に接続されていることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解質二次電池装置であって、前記第2の充電回路が着脱可能とされていることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項4】
請求項1に記載の非水電解質二次電池装置であって、前記非水電解液は犠牲還元剤を有しており、前記犠牲還元剤が電池容器上で酸化される電圧以上の電圧を前記充電回路が負極と電池容器の間に印可できるようにされていることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項5】
請求項2に記載の非水電解質二次電池装置であって、前記非水電解液が犠牲還元剤を有し、前記犠牲還元剤が電池容器上で酸化される電圧以上の電圧を前記第2の充電回路が負極と電池容器の間に印可できるようにされていることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の非水電解質二次電池装置であって、前記犠牲還元剤として、酸化重合反応またはガス発生反応をする犠牲還元剤を用いることを特徴とする非水電解質二次電池装置。
【請求項7】
非水電解質二次電池装置がリチウムイオン電池である請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池装置。
【請求項8】
正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、その負極を充電する方法であって、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられ、前記正極端子、前記負極端子および前記電池容器が切替スイッチを介して充電回路に接続され、前記充電回路は正極端子と負極端子の間または電池容器と負極端子の間のいずれかに選択的に電圧を印加する機能を有しており、前記切替スイッチの切り替えにより前記充電回路が前記電池容器と前記負極端子の間に電圧を印加し、それにより負極を充電することを特徴とする方法。
【請求項9】
正極と、負極と、非水電解質を含有する非水電解液とを備える非水電解質二次電池において、その負極を充電する方法であって、正極端子は正極に接続され、負極端子は負極に接続され、絶縁部品を介して前記正極端子と前記負極端子が電池容器に取り付けられ、前記正極端子と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第1の充電回路が前記正極端子と前記負極端子に接続され、前記電池容器と前記負極端子に電圧を印可する機能を有する第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子に接続されており、前記第2の充電回路が前記電池容器と前記負極端子の間に電圧を印加し、それにより負極を充電することを特徴とする方法。
【請求項10】
非水電解質二次電池がリチウムイオン電池である請求項8または9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−165343(P2011−165343A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23435(P2010−23435)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】