説明

非水電解質二次電池

【課題】電池内で生成するフッ化水素の影響を抑えられる非水二次電池を提供すること。
【解決手段】多価カチオンと、その多価カチオンで架橋されたアニオン性基含有高分子材料と分散媒とからなるゲルであり、電解質に接触可能な位置に配設された中和部材を有する。この中和部材は通常の状態では安定な状態であるが、フッ化水素等の酸が発生すると、中和部材中の多価カチオンと反応・中和される。多価カチオンと反応することで中和部材は分解し、新たな多価カチオンにより酸を中和することができる。多価カチオンのカウンターイオンとしてのアニオンを高分子材料とすることで、中和部材が電解質中に溶出されず電池性能に悪影響を及ぼすおそれが小さくできる。また、多価カチオンが反応した後、残ったアニオンは高分子材料であるため気体は生成せず、電池の内圧上昇は進行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、電池の劣化により生成する酸を効果的に中和できる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や携帯機器を駆動するための電源として、大容量・高出力で且つエネルギー密度の高いリチウム電池などの非水電解質二次電池が注目されている。
【0003】
リチウム電池としては、金属箔等の集電部材の表面にリチウムイオンの収受が可能な電極活物質を主成分とする合材層を形成した正極及び負極がセパレータを介して対向配置された発電要素を、非水電解質とともに電池容器内に密封したものが知られている。
【0004】
ところで、非水電解質二次電池は、電池容器の内部に水分が侵入すると電池性能が低下するという問題があった。詳しくは、電池容器の内部に水分が存在すると、この水分と非水電解質とが反応してフッ化水素が生成し、生成したフッ化水素は正負極などの発電要素、電極、正負極と電極とを接続するリード、電池容器などの電池を構成する部材を腐蝕して、電池容量や電池寿命などの性能を低下させる。
【0005】
このため、非水電解質二次電池では、電池容器の内部に水分ができるだけ侵入しないように密閉できるよう工夫しているが、完全に防止することは困難である。そのため、フッ化水素による劣化を見越した部材を採用したり、生成するフッ化水素を中和できる中和剤を含有させたりしている。
【0006】
従来技術としては、非水電解液中にカルシウム塩である炭酸カルシウムを中和剤として添加した非水系電解液電池が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3281701号公報
【特許文献2】特開2002−151024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の発明では、炭酸カルシウムを添加することにより、電池反応に望ましくない影響が発生したり、電池の内部抵抗が大きくなったりするなど電池性能に悪影響を及ぼすことが分かった。
【0009】
特許文献1の発明において添加される炭酸カルシウムは電解液に溶解しがたいが、全く溶解しないわけではない。溶解した炭酸カルシウムはカルシウムイオンとなる。生成したそのカルシウムイオンは電池反応に影響を与えることになる。
【0010】
例えば、電極表面には電池反応進行に伴い徐々に被膜が形成されるが、カルシウムイオンはリチウムイオンよりも電極表面に形成された被膜に対する透過性が低いために、電池の内部抵抗が増加することになる。
【0011】
また、炭酸カルシウムにフッ化水素が反応すると、二酸化炭素が生成して電池の内圧が上昇する。
【0012】
本発明は上記実情に鑑み完成したものである。すなわち、電池性能への悪影響を極力抑えた上で、電池内部で生成したフッ化水素などの酸を効果的に中和可能な部材を備えた非水電解質二次電池を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、フッ化水素などの酸と反応するカチオンとして多価カチオンを含有させ、多価カチオンのカウンターイオンとしてのアニオンを高分子材料とすることで、中和部材が電解質中に溶出されず電池性能に悪影響を及ぼすおそれが小さくできることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成した。
【0014】
中和部材に含まれるカチオンとしては多価イオンを含むことで、高分子材料がもつアニオンと結合し、高分子材料間を架橋することができる。そのため、酸が生成していないときには多価カチオンはアニオン性基含有高分子材料の架橋点として中和部材内に留まり、電解質中には溶出せず電池反応への影響を小さくできる。
【0015】
また、中和部材はゲルにすることで、含有される多価カチオンと酸とが容易に反応できる。中和部材中の多価カチオンは表面から酸と反応していく。そのため、内部の多価カチオンは中和部材中に安定して存在することができる。また、酸の生成に応じて多価カチオンとの反応が順次進行して中和部材が分解されていくため、中和部材は酸の生成量に応じて多価カチオンを供給することができる。
【0016】
つまり、この中和部材は酸が生成していないときには電池内で安定的に存在するために電池性能への中和部材の影響は少なくできると共に、生成した酸を効果的に中和することができる。
【0017】
また、多価カチオンが反応した後、残ったアニオンは高分子材料であるため気体は生成せず、電池の内圧上昇は進行しない。
【0018】
なお、特許文献2には、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋物からなるシール材が記載されているが、この金属イオン架橋物は共重合されたエチレンの存在によりゲル化せず、含有する金属イオンと酸との速やかな反応は期待できない。
【0019】
上記課題を解決する請求項1に係る非水電解質二次電池は、リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な正負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
多価カチオンと、その多価カチオンで架橋されたアニオン性基含有高分子材料と分散媒とからなるゲルであり、前記電解質に接触可能な位置に配設された中和部材を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の非水電解質二次電池が備える中和部材は通常の状態では安定な状態であるが、フッ化水素等の酸が発生すると、中和部材中の多価カチオンと反応・中和される。多価カチオンと反応することで中和部材は分解し、新たな多価カチオンにより酸を中和することができる。
【0021】
その結果、電池容器などの電池の構成要素の耐久性を高めることが可能になる。例えば、ラミネートフィルムから形成された電池容器を採用した場合、ラミネートフィルムを構成する樹脂フィルムを熱融着することで非水電解質二次電池を封止するものであるが、ラミネートフィルムにおける封止部分の大きさは、封止部分の強度を必要な期間以上保つことができるように設定される。従来はフッ化水素などの酸による劣化の分だけ封止部分を大きくしていたが、本発明の中和部材を採用することで酸による劣化を抑制できるため、封止部分を相対的に小さくできる。
【0022】
上記課題を解決する請求項2に係る非水電解質二次電池は、前記アニオン性基含有高分子材料がもつアニオン性基がカルボキシル基であることを特徴とする。
【0023】
カルボキシル基は高分子材料中に導入することが容易であり、且つ、フッ化水素などの存在により結合した多価カチオンを容易に放出できるからである。
【0024】
上記課題を解決する請求項3に係る非水電解質二次電池は、前記アニオン性基含有高分子材料がカルボキシル基含有多糖類又はポリ(メタ)アクリル酸であることを特徴とする。これらの高分子材料は電池内での安定性が高く、且つ、安価である。
【0025】
上記課題を解決する請求項4に係る非水電解質二次電池は、前記多価カチオンはアルカリ土類金属のイオンであることを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する請求項5に係る非水電解質二次電池は、前記多価カチオンがカルシウムイオン及びバリウムイオンのうちの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0027】
アルカリ土類金属(特にカルシウム又はバリウム)は多くの酸を相手に不溶物を形成でき、生成した酸を効果的に中和・除去することができる。
【0028】
上記課題を解決する請求項6に係る非水電解質二次電池は、前記中和部材はアクリル系粘着材により固定されることを特徴とする。アクリル系粘着材は耐薬品性や物理的性質に優れており、耐久性に優れている。
【0029】
上記課題を解決する請求項7に係る非水電解質二次電池は、前記正負極及び前記電解質を収納し、内外を連通する連通部をもつ電池容器と、
前記電池容器の前記連通部を通じて前記電池容器の内外を電気的に接続するリードと、
前記本体部の前記連通部を密封するシール材とを有し、
前記中和部材は前記リード又は前記シール材に隣接して配設されていることを特徴とする。
【0030】
電池容器に比べてシール材やリードは酸に対する耐久性以外に満たすべき性能が多いため、酸への耐久性が充分でない場合があり、その場合に、それらに隣接して中和部材を設けることでシール材やリードを充分に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例で用いた試験電池の一部断面図である。
【図2】実施例で用いた試験電池の正負極のリードと集電体との接合部分の拡大図である。
【図3】実施例で用いた試験電池の正負極のリードと集電体との接合部分、並びにリードと電池容器との接合部分(連通部)の拡大断面図である。
【図4】実施例で用いた試験電池の他の態様を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の非水電解質二次電池について実施形態に基づき詳しく説明を行う。本実施形態の非水電解質二次電池はリチウムイオンの吸蔵、放出が可能な正負極と、非水電解質と、その他必要に応じて選択されるその他部材とを備える。その上で、中和部材を有する。含有する中和部材は多価カチオンと、その多価カチオンで架橋されたアニオン性基含有高分子材料と分散媒とからなるゲルである。そして、非水電解質に接触可能な位置に配設される。
【0033】
正負極はリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な活物質を備える。正極活物質としてはリチウム含有遷移金属酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、Liを脱挿入できる材料であり、層状構造又はスピネル構造のリチウム−金属複合酸化物が例示できる。具体的にはLi1−ZNiO、Li1−ZMnO、Li1−ZMn、Li1−ZCoOなどの金属酸化物系材料、Li1−ZβPO(βがFeであるLiFePOなど)などがあり、それらのうちの1種以上含むことができる。この例示におけるZは0〜1の数を示す。各々にLi、Mg、Al、又はCo、Ti、Nb、Cr等の遷移金属を添加または置換した材料等であってもよい。また、これらのリチウム−金属複合酸化物を単独で用いるばかりでなくこれらを複数種類混合して用いることもできる。また、導電性高分子材料やラジカルを有する材料などを単独で採用又は混在させることもできる。
【0034】
負極活物質としてはグラファイトや非晶質炭素などの炭素材料、リチウムと合金を形成できる金属材料、チタン酸化物、及びバナジウム酸化物からなる群より選択される1以上の化合物が採用できる。これらの活物質は電池反応の進行に伴い、リチウム(イオン)の挿入・脱離が進行する。
【0035】
これらの正極活物質、負極活物質を採用して電極を形成する場合、その他必要な部材と共に合材とした上で集電体上に合材層を形成した状態で用いることができる。その他必要な部材としては導電材、結着材などである。
【0036】
導電材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等などが例示できる。また、アスペクト比が限定されない導電性高分子(ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンなど)が例示できる。
【0037】
結着材は高分子材料から形成されることが望ましく、二次電池内の雰囲気において化学的・物理的に安定な材料であることが望ましい。例えばフッ素系の高分子材料(ポリフッ化ビニリデンなど)、多糖類(カルボキシメチルセルロースなど)が挙げられる。また、結着材としては導電性高分子を用いることもできる。
【0038】
このような合材層は適正な集電体の表面に形成される。集電体としては電気化学的に安定な金属から形成される箔が例示できる。集電体の表面に電極合材層を形成する方法としては合材層を構成する材料を適正な分散媒中に分散又は溶解させた後、集電体の表面に塗布・乾燥する方法が例示できる。
【0039】
正負極間にはセパレータを介装することができる。セパレータはシート状の部材であり、電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材である。電解質が液状である場合にはセパレータは、液状の支持電解質を保持する役割をも果たす。セパレータは、正極及び負極の間の絶縁を担保する目的で、正極及び負極の面積よりも更に大きい形態を採用することが好ましい。セパレータは表裏面を連通する連通孔をもつ多孔質膜や、イオン伝導性をもつもの、例えば固体電解質、などから形成できる。多孔質膜としてはポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンや、ポリエステル、ポリアミド、フッ素樹脂からなる多孔質膜が例示できる。
【0040】
非水電解質としては特に限定しないが、有機溶媒などの溶媒に支持塩を溶解させたもの、自身が液体状であるイオン液体、イオン液体に対して更に支持塩を溶解させたものが例示できる。非水電解質として、フッ素含有塩を採用することにより、水分の混入によりフッ化水素が生成する。
【0041】
有機溶媒としては、通常の非水電解質二次電池の非水電解質に用いられる有機溶媒が例示できる。例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等及びそれらの混合溶媒が適当である。 例に挙げたこれらの有機溶媒のうち、特に、カーボネート類、エーテル類からなる群より選ばれた一種以上の非水溶媒を用いることにより、非水電解質の溶解性、誘電率および粘度において優れ、電池の充放電効率も高いので、好ましい。
【0042】
イオン液体は、通常リチウム二次電池の電解液に用いられるイオン液体であれば特に限定されるものではない。例えば、イオン液体のカチオン成分としては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムや、ジメチルエチルメトキシアンモニウムカチオン等が挙げられ、アニオン成分としは、BF4−、N(SOCF2−等が挙げられる。
【0043】
電解質としては、特に限定されない。例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiSbF、LiSCN、LiClO、LiAlCl、NaClO、NaBF、NaI、これらの誘導体等の塩化合物が挙げられる。これらの中でも、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiCFSOの誘導体、LiN(CFSOの誘導体、及びLiC(CFSOの誘導体からなる群から選ばれる1種以上の塩を用いることが、電気特性の観点からは好ましい。
【0044】
その他部材としては電池容器、リードなどが挙げられる。電池容器は正負極、非水電解質などを内部に収納する部材である。リードは正負極に電気的に接続される部材であり、正負極から電力を取り出す部材である。電池容器の一部乃至全部を金属などの導電体から構成した上でリードとして兼用しても良い。リードの材質も前述の集電体と同じ材料から構成することが望ましい。
【0045】
電池容器は内外を連通する連通部をもち、その連通部がシール材によりシールされているものが挙げられる。連通部を設けることにより、電池容器内部に正負極を入れたり、非水電解質を入れたりすることを容易に行うことができる。また、連通部にリードを通すこともできる。連通部にリードを通す場合にはリードもシール材でシールする。シール材はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの変性品などが採用できる。シール材は加熱などにより連通部やリードに接着することが望ましい。
【0046】
中和部材は、多価カチオンと、その多価カチオンで架橋されたアニオン性基含有高分子材料と分散媒とからなるゲルである。中和部材は非水電解質に接触可能な位置に配設される。特にシール材やリードに隣接して又は近接して配置することでシール材やリードを酸から効果的に守ることができる。特に、シール材などの部材が電解質に接触しないように保護するように被覆することが望ましい。中和部材がゲルであるとは、中和部材全体がゲルである場合はもちろん、表層部分のみがゲル状である場合も含む。また、電池内で中和部材の形態が概ね保持できるようなものであれば、一部がゾル状になっていたり、一部が溶解していたりしてもよい。
【0047】
また、中和部材は前述した電極に用いる結着材の代わりに用いても良い。中和部材の配置は何らかの方法により電池内に固定することが望ましい。その場合にアクリル系粘着材により固定することができる。アクリル系粘着材としはアクリル酸やアクリル酸エステルを単独又は他の単量体と共に重合したものである。
【0048】
中和部材は多価カチオンを中和部材全体の質量基準で100ppm以上含ませることが望ましい。中和部材の含有量としては本発明電池に想定される寿命中に内部に発生すると考えられる酸を全て中和できる(望ましくは過不足無く中和できる)量(又はそれ以上)の多価カチオンを含むように設定することが望ましい。
【0049】
多価カチオンとしては、アルカリ土類金属、周期表8族元素(鉄Feなど)、11族元素(銅Cuなど)、12族金属(亜鉛Znなど)、13族金属(アルミニウムAlなど)などが挙げられる。例えば、Ca2+、Ba2+、Mg2+、Cu2+,Zn2+などの2価カチオン、Al3+,Fe3+などの3価カチオンが挙げられる。なお、正負極や正負極の集電体に金属を用い且つ電解質に接触させている場合にはその金属から誘導されるイオンよりも反応性が高いことが望ましい。例えば、負極やその集電体として銅やニッケルを採用し、正極やその集電体としてアルミニウムを採用している場合には多価カチオンとしてはアルカリ土類金属元素を採用することが望ましい。アルカリ土類金属の中でも特にカルシウム又はバリウムのイオンを選択することが望ましい。なお、中和部材中には多価カチオンのみではなく、1価のカチオンを混合しても良い。
【0050】
アニオン性基含有高分子材料は高分子化合物である高分子基材にアニオン性基が結合した化学構造をもつ。アニオン性基としてはカルボキシル基、ホスホ基、スルホ基、硫酸基などが例示でき、特にカルボキシル基が好ましい。高分子基材としては、多価カチオンを含有させたアニオン性基含有高分子材料が本電池内にて溶解せずに安定して存在できる材料が選択できる。ここで、安定して存在できるか否かは結合するアニオン性基の量、種類によっても変化する。多価カチオンが消費された後のアニオン性基含有高分子材料単独では電池内で溶解しても構わないが、電池反応に影響を与えないことが望ましい。
【0051】
高分子基材としては多糖類や、一般の高分子化合物から選択可能である。高分子基材の選択基準としては、その高分子基材にアニオン性基を導入したアニオン性基含有高分子材料(多価カチオンが結合したもの)が、内部に含む多価カチオンが放出しやすいように、ゲル化するものを選択する。ゲル化させる分散媒としては電解質に含まれる極性溶媒を用いることが望ましい。更には、アニオン性基含有高分子材料(多価カチオンが溶出したもの)について、非水電解質により膨潤するものばかりでなく、溶解するものを採用することにより、多価カチオンが溶出した部分については非水電解質に溶解して、多価カチオンを有する部分が速やかに表面に現れることになり、酸が多価カチオンと速やかに反応することができるようになる。
【0052】
高分子基材やアニオン性基含有高分子材料に採用できる多糖類としては、特に制限されず、種々の多糖類(ホモグリカン、ヘテログリカンなど)が使用できる。ホモグリカンとしては、グルカン(セルロース、デンプン、グリコーゲン、カロニン、ラミナラン、デキストランなど)、フルクタン(イヌリン、レバンなど)、マンナン(ゾウゲヤシマンナンなど)、キシラン(イネワラのキシランなど)、ガラクツロナン(ペクチン酸など)、マンヌロナン(アルギン酸など)、N−アセチルグルコサミン重合体(キチンなど)、及びこれらの誘導体などが例示できる。ヘテログリカンとしては、ジヘテログリカン(グアラン、コンニャクのマンナン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸など)、トリヘテログリカン(ゲランガム、メスキットガム、ガッチガムなどの植物粘質物、ゴム質、細菌多糖類など)、テトラヘテログリカン(アラビアゴムなどの粘質物、ゴム質、細菌多糖類など)、及びこれらの誘導体などが例示できる。
【0053】
多糖類を高分子基材として有するアニオン性基含有高分子材料はアニオン性基以外にも、−NH,−CN,−OH,−NHCONH,−(OCHCH)−、−NRX(ここで、Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す),SONHCO−,−N(SOH)−などの親水性基を有していてもよい。
【0054】
多糖類以外の構造をもつ高分子基材(アニオン性基含有高分子材料)としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
(試験電池の製造)
図1〜3に示す構成のラミネート型セルを製造した。
・正負極2,3及び電解液の製造
正極:正極活物質としてのLiNi0.8Co0.17Al0.03を85質量部と、導電材としてアセチレンブラックを12質量部と、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC・Na)を1質量部と、ポリエチレンオキシド(PEO)を1質量部とを80質量部の水に分散させ、さらに結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)1質量部を追加し分散させ、スラリーとした。このスラリーをアルミニウム製の正極集電体1の両面に塗布し、乾燥後、プレス成型して、正極板とした。その後、この正極板を所定の大きさにカットし、電流取り出し用のリード6を溶接する部分の電極合剤を掻き取ることでシート状の正極2を作製した。
【0056】
負極:負極活物質としての黒鉛炭素材料粉末を98質量部と、CMC・Naを1質量部とを水に分散させてスラリーとした。このスラリーを銅製の負極集電体4の両面に塗布し、乾燥後、プレス成型して、負極板とした。その後、この負極板を所定の大きさにカットし、電流取り出し用のリード7を溶接する部分の電極合材を掻き取ることでシート状の負極3を作製した。
【0057】
非水電解液:エチレンカーボネートが25体積%、エチルメチルカーボネートが40体積%、ジメチルカーボネートが30体積%、及びジエチルカーボネートが5体積%からなる混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解して電解液を調製した。
・保護フィルム10(ゲル状フィルム:中和部材)の製造
アニオン性基含有高分子材料としては、表1に示した多糖類、または多価カルボン酸ポリマー、またはそれらの誘導体を採用した。これらがもつアニオン性基は、ナトリウム塩などの形で含有するものでもよい。多価カチオンとしては表1に示すようにカルシウムイオン又はバリウムイオンを用いた。多価カチオンを内包するゲルを用意する工程は、カルシウムイオンの場合には5質量%の炭酸カルシウム水溶液、バリウムイオンの場合には1質量%の塩化バリウム水溶液を用意し、その水溶液中に対応するアニオン性基含有高分子材料を1質量%以下の濃度で溶解させた後、型中に流し込み、水分を除去する方法で製造した。アニオン性基含有高分子材料の濃度が低い状態から濃縮する方が、イオン架橋点数を増加させられると考えられるため、アニオン性基含有高分子材料の初期濃度を低くした。
【0058】
アニオン性基含有高分子材料としてナトリウム塩の形態で用いる場合でも、多価カチオンの水溶液の量を多くし、多価カチオン濃度を大過剰にすることで、問題なくイオン架橋体を得ることが出来た。
【0059】
水分の除去は、ゲル状フィルムの表面及びその近傍に付着した炭酸カルシウムなどの多価カチオンが電池内に混入することを防ぐため、アニオン性基含有高分子材料が濃縮されて自己支持性が得られる程度にまで水分を蒸発させて型から取り出した後に表面を純水で洗浄して表面及び表面近傍に存在する多価カチオンを除去してから、60℃にて真空乾燥を行った。
【0060】
真空乾燥は、電池内への水分の持込を低減するため、カールフィッシャー法にて検出される水分濃度が100ppm以下になるまで行った。
【0061】
保護フィルム10の厚みや寸法は、フッ化水素の中和性能に対して大きくは寄与せず、添加した保護フィルムの質量(含有する多価カチオンの量)が中和できる量に影響することが予備試験で判明しているため、電池内に配設する保護フィルム10の形態は使用する電池容器の厚み以下であり、電池性能や組み付け性の障害とならない範囲で設定した。製造した保護フィルム10は、電解液から生成したフッ化水素の量に応じて含有する多価カチオンを放出して、生成したフッ化水素を電解液中でほぼ定量的に中和できることを確認した。また、フッ化水素が存在しないときには、保護フィルム中の多価カチオンの非水電解液中への溶出は問題にならないことを確認した。
【0062】
製造した保護フィルム10には、あらかじめアクリル系粘着材からなる接着層11を塗布し、その接着層11を用いて保護フィルム10は正極リード7及び負極リード6が電池容器9に接合される部分A(連通部)に電解液が触れないように電池内部から覆うような位置に固定しておいた。正極リード7及び負極リード6が電池容器9に接合される部分Aにはポリプロピレン製のシール材5を予め強固に接合した。
【0063】
保護フィルム10の接合方法としてアクリル系粘着材を用いることで、リード6,7を構成する導体。シール材5及び電池容器9を構成するラミネート内装のポリオレフィンの両方に対しても接着することが可能となる結果、設置場所の選択肢が広がることになる。アクリル系粘着材としては、電解液に溶解しない粘着材であれば良く、本実施例では、コーポニール5820(日本合成化学製)を用いた。保護フィルム10を直接、所定の場所に熱圧着する方法も試みたが、保護フィルムは加熱時に粘着性が生じるため、アクリル系粘着材を用いて接着した方が直接熱圧着するよりも作業性が向上した。なお、保護フィルム10の配設場所としてはリード6,7に近接する部位(図1〜3)に代えて(又は加えて)、図4に示すような電池容器9の接合部分に隣接して配置することもできる。ここに配置することで、生成するフッ化水素などから電池容器9の接合部分(熱融着部分)を守ることができる。
【0064】
バリウムイオンを用いる場合は、カルシウムの原子量(40.1)と比較してのバリウムの原子量が大きいため(137.3)、モル数が同一になるように内包させる質量を調整した。
【0065】
保護フィルム10内に内包させるイオン量については、電池寿命末期までに、電解液に含まれる半数のLiPF6分子がHFの反応に消費されることを想定し、それらを中和可能な量とした。そこで、まず、得られた保護フィルム試験例1〜5について、原子吸光法にて含有イオン量を定量し、切り取り寸法を調整することで、電解液に対してイオン濃度が一定になるように調整した。今回の検討では、電解液(25g:1M LiPF6)の質量を基準として、カルシウムイオンが2質量%、バリウムイオンが7質量%となるようにして保護フィルムの大きさを調製した。
【0066】
比較例1は特許文献1に基づいて作成し、比較例2は特許文献2に基づいて保護フィルム(中和部材)に相当する部材の作成を行った。内部に添加するカチオンの量は実施例の保護フィルム中に添加した量と同じモル数とした。
・電池の製造
上述した正極2及び負極3、そして、多孔質ポリオレフィンからなるセパレータ8を所定の大きさに打ち抜き加工したものを順次積層して電極体を組み付けた。この電極体の正極2の集電体1、負極4の集電体4をそれぞれで束ね、保護フィルム10を接着したリード6,7をそれぞれ超音波溶接により接合させた(接合部61,71)。このリード6,7をそれぞれ電池容器9を構成する2つのラミネートフィルムの接合部分(周縁部分)の間に挟み込んで減圧状態でラミネートフィルムの接合部分を熱融着して本試験例の試験電池を得た。なお、熱融着の前に電解液を注入した。
(電池の評価)
これらの試験電池を用い、保存後の電池の放電容量を比較した結果(高温保存試験結果)を表1に併せて示した。この高温保存試験の実験条件としては、満充電後の電池を60℃95%RHで3ケ月間保存し、電池の放電容量(mAh)を実測し、変化率を算出した。また、同時に、リードと電池容器との間におけるピール強度の変化率(%)と、電池内部におけるガスの発生状況の目視観察、内部抵抗の評価も併せて行った。内部抵抗は、カルシウムまたはバリウムイオンなどの多価カチオンを内包させない場合の内部抵抗を1.0とした場合の相対比率を指標に用いて比較した。
【0067】
電池容量の測定は、試験前後の試験電池について、0.2C相当の電流値で3.0Vまで定電流放電し、このときの放電容量を初期放電容量及び高温保存試験後の放電容量とした。この高温保存試験後の放電容量と初期放電容量とから、次式に従い、放電容量の変化率(%)を求めた。放電容量変化率(%)=[(高温保存試験後の放電容量)/(初期放電容量)]×100
ピール強度の測定方法はJIS-K-6854-2(180℃剥離試験)に準じて行った。イオン含有量の測定方法は原子吸光法にて行った。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より明らかなように、試験例1〜5のいずれにおいても、接合部のピール強度の低下や、高温保存試験後の容量維持率の大きな低下が見られず、電池の減圧状態も維持されていることが分かった。従って、高温保存試験中に電解液中において発生したフッ化水素は中和・無害化がなされていることが示唆された。
【0070】
また、内部抵抗の顕著な上昇が観察されていないことから、通電抵抗に悪影響を与えておらず、充放電特性への悪影響が少ないことが判明した。
【0071】
特に、アニオン性基含有高分子材料としてキトサンを用いた場合(試験例3)は、他の試験例の試験電池と比較してもさらに良好な性能が得られた。これは、キトサンが化学構造中にもつアミノ基がフッ化水素を中和する効果が加わった影響だと考えられる。
【0072】
一方で、比較例1の試験電池では、容量維持率が95%、ピール強度も維持されていることから、フッ化水素の中和は出来ていることが分かった。しかしながら、電池の膨れが観察された。つまり、炭酸カルシウムとフッ化水素との反応により発生する炭酸ガスによって、電池の内圧が高まったためと考えられる。比較例1の試験電池について更に詳細に観察すると、他の試験電池では認められない負極のタブフィルムの一部でのクリープ剥離が観察された。従って、比較例1の試験電池では長期間に渡って使用した場合、ガス圧によって融着部がクリープ破壊する可能性があることが分かった。また、試験電池における内部抵抗は高温保存の前後では変化が見られなかったものの、炭酸カルシウムを添加していない場合と比較して高い状態(5.2倍)を維持しており、出力の低下や電池の発熱を加速する要因となりうることが判明した。
【0073】
次に、比較例2では、高温保存試験後の試験電池において、ピール強度が大きく低下すると共にし、容量維持率も低下し、且つ、内部抵抗の上昇が認められた。これは、ラジカル反応によって硬化されたアクリル樹脂(ゲル状にはならない)を用いているため、電解液に対してイオンを徐放する機能が無く、フッ化水素を中和できないためであると推察できる。つまり、生成したフッ化水素によって負極リード7表面のニッケルめっき層が腐食されたためと考えられる。また、電解液の分解に由来するガスの発生に伴い、電池容器の膨れ(減圧状態の緩和)が観察されたことから、長期間に渡って使用した場合、比較例1と同様にクリープ破壊する可能性があることが分かった。
【0074】
以上説明したように、本発明の二次電池を具現化した試験例1〜5の電池は保護フィルム(中和部材)を電池内に有することで、電池内で発生する生成物(フッ化水素など)による電池性能の低下を抑制することが可能であることが明らかになった。特に多価カチオンとしてのカルシウムイオンはバリウムイオンと比較して、より少ない添加量で同等の効果が得られることが分かった。またアニオン性基含有高分子材料としてキトサンを採用することが望ましいとの結果から、アニオン性基含有高分子材料としてはアニオン性基(カルボキシル基)のみで無くカチオン基(アミノ基など)を含有することが望ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0075】
2…正極 1…正極集電体
3…負極 4…負極集電体
5…シール材
6…正極リード 7…負極リード
8…セパレータ
9…電池容器
10…保護フィルム(中和部材)
11…接着層(アクリル系粘着材製)
A…接合部分(連通部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
多価カチオンと、その多価カチオンで架橋されたアニオン性基含有高分子材料と分散媒とからなるゲルであり、前記非水電解質に接触可能な位置に配設された中和部材を有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記アニオン性基含有高分子材料がもつアニオン性基がカルボキシル基である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記アニオン性基含有高分子材料がカルボキシル基含有多糖類又はポリ(メタ)アクリル酸である請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記多価カチオンはアルカリ土類金属のイオンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記多価カチオンはカルシウムイオン及びバリウムイオンのうちの少なくとも一方である請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記中和部材はアクリル系粘着材により固定される請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記正負極及び前記電解質を収納し、内外を連通する連通部をもつ電池容器と、
前記電池容器の前記連通部を通じて前記電池容器の内外を電気的に接続するリードと、
前記本体部の前記連通部を密封するシール材とを有し、
前記中和部材は前記リード又は前記シール材に隣接して配設されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174537(P2012−174537A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36262(P2011−36262)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】