説明

非水電解質電池および電池パック

【課題】大電流性能を低下させることなく、内部短絡時の安全性を向上させることが可能な非水電解質電池を提供する。
【解決手段】外装材と、前記外装材内に収納された正極と、前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、負極活物質を含む負極と、前記外装材内に充填された非水電解質と、を具備し、前記負極は集電体とこの集電体の片面または両面に形成された活物質を含む負極層とを有し、前記負極層は前記集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備え、かつ前記表面層に含まれる活物質がスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物であることを特徴とする非水電解質電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが負極と正極とを移動することにより充放電が行われる非水電解質電池は、高エネルギー密度電池として盛んに研究開発が進められている。
【0003】
非水電解質電池は、その用途により様々な特性が望まれる。例えば、デジタルカメラの電源用では約3C放電、ハイブリッド電気自動車等の車載用では約10C放電以上の使用が見込まれる。このため、これら用途の非水電解質電池は特に大電流特性が望まれる。
【0004】
現在、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用い、負極活物質として炭素質物を用いる非水電解質電池が商用化されている。リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属は、一般的にCo、Mn、Niが用いられている。
【0005】
近年、このような高出力化、高エネルギー密度化、高容量化が進むことにより、非水電解質電池の安全性の低下が懸念されている。
【0006】
非水電解質の安全性において、特に、生産工程などで導電性異物が混入して起こる内部短絡は過充電/過放電のように外部回路(保護回路)で防止することはできないため、電池そのもので対処する必要がある。
【0007】
このようなことから、特許文献1には炭素質物を活物質として含む負極の表面にアルミナのような無機絶縁物層を形成して、内部短絡時の安全性を向上させた電池が開示されている。
【特許文献1】特開2005−183179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の発明は負極表面に形成したアルミナ層のような無機絶縁物層は充放電状態に関係なく高抵抗で、負極に対して抵抗成分として働くため、電池の大電流性能を低下させる。
【0009】
本発明は、電池の大電流性能を低下させることなく、内部短絡時の安全性を向上させることが可能な非水電解質電池およびこの非水電解質電池を複数備えた電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様によると、外装材と、
前記外装材内に収納された正極と、
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、負極活物質を含む負極と、
前記外装材内に充填された非水電解質と、
を具備し、
前記負極は、集電体とこの集電体の片面または両面に形成された活物質を含む負極層とを有し、
前記負極層は、前記集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備え、かつ
前記表面層に含まれる活物質がスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物であることを特徴とする非水電解質電池が提供される。
【0011】
本発明の第2態様によると、外装材と、
前記外装材内に収納された正極と、
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、負極活物質を含む負極と、
前記外装材内に充填された非水電解質と、
を具備し、
前記負極は、集電体とこの集電体の片面または両面に形成された活物質を含む負極層とを有し、
前記負極層は、前記集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備え、かつ
前記表面層は、リチウムを吸蔵・放出し、リチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、リチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-2倍以下である活物質を含むことを特徴とする非水電解質電池が提供される。
【0012】
本発明の第3態様によると、前記非水電解質電池のいずれかを複数備え、各々の電池が直列、並列または直列および並列に電気的に接続されていることを特徴とする電池パックが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池の大電流性能を低下させることなく、内部短絡時の安全性を向上させることが可能な非水電解質電池およびこの非水電解質電池を複数備えた電池パックを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る非水電解質電池および電池パックを詳細に説明する。
【0015】
実施形態に係る非水電解質電池は、外装材を備えている。正極は、外装材内に収納されている。負極は、活物質を含み、外装材内に正極と空間的に離間、例えばセパレータを介して収納されている。非水電解質は、外装材内に収容されている。
【0016】
次に、実施形態に係る非水電解質電池の各部材について詳細に説明する。
【0017】
1)負極
負極は、集電体と、集電体の片面または両面に形成され、活物質を含む負極層とを有する。負極層は、異なる活物質を含む複数の層が積層されている。すなわち、負極層は集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備えた多層構造を有する。表面層は、リチウムを吸蔵・放出し、リチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、リチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-2倍以下である活物質を含む。活物質のリチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値は、リチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-4倍以下であることがより好ましい。
【0018】
ここで、『活物質のリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値』とはリチウムが吸蔵されないその活物質固有の体積固有抵抗値を意味する。
【0019】
前記性質を持つ活物質が含まれた表面層を有する負極を備えた非水電解質電池において、初充電および充放電がなされると、0Vまで放電させても表面層に含まれる活物質は吸蔵されたリチウムが残存することがある。すなわち、前記性質を持つ活物質が含まれた表面層を有する負極を電池に組み込んで初充電および充放電がなされると、活物質は実質的にリチウムが吸蔵された状態になるため、0Vまで放電させた後に表面層から取り出した活物質の体積固有抵抗値を測定しても、その抵抗値はリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値に比べて低い値になる。このようなことから、0Vまで放電させた後の電池を解体し、負極の表面層から活物質を取出し、失活する処理を施すことにより、リチウムを吸蔵しない状態の活物質の体積固有抵抗値を測定できる。
【0020】
活物質の体積固有抵抗値は、次のような方法により測定できる。
【0021】
円盤状をなし、一方の円形面中央に外径1インチの円柱体が垂直に突出した鋼鉄製の下部電極および上部電極と、内径1インチの塩化ビニル樹脂製の絶縁管とをそれぞれ用意する。なお、下部電極および上部電極の各円柱体の総長さは絶縁管の長さと同じにする。
【0022】
ポリテトラフルオロエチレンからなる厚さ2mmの円盤状絶縁シート上に前記下部電極をその円柱体が上方に突出するように載置する。下部電極の円柱体に前記絶縁管を嵌合させ、絶縁管の底部に前記円柱体上面を位置させる。絶縁管内に上皿天秤で秤量した試料5gを充填する。絶縁管の上端開口部に上部電極の円柱体を挿入する。上部電極の上面にポリテトラフルオロエチレンからなる円盤状絶縁シートを載置する。上部側の円盤状絶縁シートに油圧プレス機にて荷重を加え、絶縁管内に挿入した上部電極の円柱体で絶縁管内の試料を加圧する。この油圧プレス機による荷重は、油圧ゲージ目盛で10kg/cm2に設定する。10kg/cm2で加圧した状態で下部電極および上部電極にLCRメータ(抵抗計)[敬誠社製商品名:AR−480D]を接続し、接続直後の抵抗r(Ω)を読み取る。絶縁管内で加圧された試料の厚さ(cm)を測定し、体積固有抵抗値(Ωcm)を算出する。体積固有抵抗値を算出するための計算式を以下に示す。
【0023】
体積固有抵抗(Ωcm)={(2.54/2)2×π}×(r/L)
ここで、rは接続直後の抵抗、Lは絶縁管内に充填、加圧した後の試料の厚さを示す。
【0024】
なお、LCRメータは敬誠社製商品名:AR−480D以外に、これと同等以上の性能を持つ抵抗計を用いてもよい。
【0025】
このような性質を有する活物質を含む表面層を備えた負極は、正極/負極が対向する領域で内部短絡を生じた場合、表面層の短絡部となる活物質が絶縁性を示すために大電流が流れ難くなる。その結果、電池の発熱が抑制され、安全性を向上できる。
【0026】
すなわち、負極の負極層の表面層にはリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、リチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-2倍以下である活物質を含む。つまり、この活物質はリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、実質的に絶縁性を示す。また、活物質はリチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値状態の1×10-2倍以下で、相対的に良導電性を示す。このような表面層を有する負極を備えた非水電解質電池において、正極/負極が対向する領域に例えば異物が存在して内部短絡を生じる場合には異物は負極の表面層と接触する。表面層への異物の接触、内部短絡の発生は、表面層中の活物質が異物との接触部で急速な放電を生じてリチウムを吸蔵しない状態になる。このため、異物と接触する短絡部に位置する活物質表層の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上になって実質的に絶縁性を示す。その結果、異物を介しての正極/負極間の電流の流れは絶縁性を示す前記活物質で制限されるため、大電流が流れ難くなる。したがって、電池発熱の抑制、安全性の向上を図ることができる。
【0027】
表面層に含まれる活物質は、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を用いることができる。このリチウムチタン複合酸化物を用いたときに電流が正極/負極間に異物を通して電流が流れるのを抑制する作用を具体的に説明する。
【0028】
スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti512)は、リチウム作用電位が概ね1.55V(vs.Li/Li+)で、電池の充放電に伴って下記式(1)に示すようにリチウムが吸蔵・放出される。
【0029】
Li4Ti512+3Li++3e-⇔Li7Ti512 …(1)
式(1)において、右方向の矢印が充電、左方向の矢印が放電を示す。
【0030】
前記式(1)のようにリチウムを吸蔵しない状態のであるLi4Ti512は体積固有抵抗値が約1×106Ωcmで、実質的に絶縁性を示す。他方、リチウムを吸蔵させたリチウムチタン複合酸化物は体積固有抵抗値が約1×101〜1×102Ωcmで、Li4Ti512の約1×10-4〜1×10-5倍で、導電性を示す。
【0031】
このようなリチウムチタン複合酸化物を含む表面層を有する負極を備えた非水電解質電池において、正極/負極が対向する領域に例えば異物が存在して内部短絡を生じると、異物は負極の表面層と接触する。表面層への異物の接触、内部短絡の発生は、表面層中のスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物が異物との接触部で急速な放電を生じてリチウムを吸蔵しない状態になる。このため、異物と接触する短絡部に位置するスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物表層の体積固有抵抗値が約1×106Ωcmになって実質的に絶縁性を示す。その結果、異物を介しての正極/負極間の電流の流れは絶縁性を示す前記リチウムチタン複合酸化物表層で制限されるため、大電流が流れ難くなる。したがって、電池発熱の抑制、安全性の向上を図ることができる。
【0032】
また、前記負極の表面層に含まれる前述した性質をもつ活物質、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物は異物等との接触に伴う内部短絡時、つまり異物等との接触部でリチウムを吸蔵しない状態になって体積固有抵抗値が増大する時、を除いてリチウムの吸蔵・放出による通常の充放電がなされる。つまり、活物質はリチウムが吸蔵されて、リチウムを吸蔵しない状態に比べて相対的に良導電性を示す。その結果、前記負極の表面層は通常な充放電状態において従来の無機絶縁物層(例えばアルミナ層)のように負極に対して抵抗成分として働くことがないため、大電流性能を維持できる。
【0033】
負極層中の表面層に含まれる活物質、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物は、充放電の可逆性(充放電サイクル性能)の観点からLi4+xTi512(−1≦x≦3)であることが好ましい。なお、リチウムチタン複合酸化物の酸素のモル比についてはスピネル型Li4+xTi512(−1≦x≦3)では12と形式的に示しているが、酸素ノンストイキオメトリー等の影響によってこれらの値は変化しうる。また、意図しない不純物などを含んでいても本発明の効果は失われない。
【0034】
表面層の平均厚さは、3μm以上30μm以下であることが好ましい。表面層の平均厚さは、次のような方法で測定できる。負極の表面層断面の複数個所(任意の5箇所以上)に対して、含有する活物質の主要成分の濃度分布を測定することによって確認できる。例えば、SEM−EDXなどを用いて層の積層方向にチタン等のラインプロファイルを観察し、その変極点を主負極層に対する表面層の界面として表面層の厚さを測定する。表面層に含まれる活物質がスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物の場合には、チタン、または酸素の濃度分布を測定することにより表面層の厚さを測定することができる。
【0035】
表面層の厚さを3μm未満にすると、異物等に起因する内部短絡時に良好な電流遮断効果を発揮させることが困難になる。表面層の厚さが30μmを超えると、負極層に占める表面層の割合が増大する、つまり主負極層の割合が低下するため、電池の高容量/高エネルギー密度化を妨げる恐れがある。すなわち、活物質がスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物である場合、その理論電気容量は175mAh/gである。主負極層に含まれる活物質の電気容量がスピネル型リチウムチタン複合酸化物より大きい場合、スピネル型リチウムチタン複合酸化物を含む表面層の厚さの増大は電池の高容量/高エネルギー密度化を妨げる。
【0036】
前述したリチウムを吸蔵しない状態と吸蔵させた状態との間で体積固有抵抗値が激変する性質を持つ活物質、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を含む表面層は、1)リチウムチタン複合酸化物単独の層、2)リチウムチタン複合酸化物に結着剤を混合した層、3)リチウムチタン複合酸化物に導電剤と結着剤を混合した層、が挙げられる。
【0037】
前記1)のスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物の表面層は、例えばCVD法、スパッタ法のような乾式被覆処理方法によっても形成することができる。前記2)、3)のスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を含む表面層は、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を前記結着剤または前記結着剤と導電剤と共にN−メチルピロリドン(NMP)のような溶媒に分散させてスラリーを調製し、このスラリーを塗布・乾燥することにより形成できる。この塗布法は、工業的に短時間で厚膜を形成できる。
【0038】
前記2,3)の表面層に含まれる結着剤は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、コアシェルバインダーを用いることができる。結着剤は、表面層中に活物質重量に対して15重量%以下、より好ましくは6重量%以下配合されることが望ましい。
【0039】
前記3)の表面層に含まれる導電剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛のような炭素材料、窒化チタン、酸化チタンのような導電性セラミック粉末、またはアルミニウムのような金属粉末を用いることができる。導電剤は、表面層中に活物質重量に対して15重量%以下、より好ましくは6重量%以下配合されることが望ましい。
【0040】
負極層中の主負極層は、表面層中の活物質と異なる活物質を含む1層または2層以上の構造を有する。
【0041】
主負極層に含まれる活物質は、そのリチウム吸蔵・放出電位が3V vs Li/Li+より卑であることが好ましい。リチウム吸蔵・放出電位が3V vs Li/Li+を超えると、電池電圧が低くなって電池のエネルギー密度が低下する虞がある。このような観点から、主負極層に含まれる活物質は炭素質物、リチウムチタン複合酸化物(スピネル型構造を除く)、リチウムモリブデン複合酸化物、リチウムニオブ複合酸化物から選ばれることが好ましい。
【0042】
他方、主負極層に含まれる活物質はそのリチウム吸蔵放出電位が1.0V vs Li/Li+より貴であることが好ましい。表面層に含まれる活物質、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物のリチウム吸蔵・放出電位が1.55V vs Li/Li+である。活物質はそのリチウム吸蔵放出電位が1.0V vs Li/Li+より貴にして、リチウムチタン複合酸化物のリチウム吸蔵・放出電位との開きを小さくすることにより表面層での充放電時の可逆性を良好にすることが可能になる。このような観点から、主負極層に含まれる活物質はリチウムチタン複合酸化物(スピネル型構造を除く)、リチウムモリブデン複合酸化物、リチウムニオブ複合酸化物から選ばれることが好ましい。
【0043】
主負極層に含まれる活物質は、充放電の可逆性(充放電サイクル特性)の観点からラムスデライト型、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型、或いはブロンズ型構造を有するリチウムチタン複合酸化物から選ばれることが好ましい。
【0044】
主負極層に含まれるリチウムチタン複合酸化物は、例えばTiO2のようなアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型、またはブロンズ型構造を有するチタン系酸化物、Li2+yTi37(0≦y≦3)のようなラムスデライト構造を有するチタン系酸化物、またはこれら構成要素の一部を異種元素で置換したチタン系酸化物、が挙げられる。チタン系酸化物は、TiO2の他に、P,V,Sn,Cu,Ni,FeおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とTiとを含有するチタン含有金属複合酸化物{例えばTiO2−P25、TiO2−V25、TiO2−P25−SnO2、TiO2−P25−MeO(MeはCu,Ni,Fe及びCoよりなる群から選択される少なくとも1つの元素)など}も挙げることができる。このようなチタン含有金属複合酸化物は、結晶相とアモルファス相が共存、もしくはアモルファス相単独で存在したミクロ構造を有することが好ましい。このようなミクロ構造のチタン含有金属複合酸化物は、高率充放電においても実質的に高い容量を取り出すことができ、かつサイクル性能を大幅に向上させることができる。
【0045】
このようなチタン系酸化物のリチウム吸蔵・放出電位はいずれも1〜2V vs Li/Li+である。
【0046】
モリブデン系酸化物は、LixMoO2(1〜2V vs Li/Li+)、LixMoO3(1〜3V vs Li/Li+)を例示できる。ニオブ系酸化物は、LixNb25(1〜3V vs Li/Li+)を例示することができる。これらのリチウム吸蔵・放出電位は各々括弧内の通りである。
【0047】
主負極層に含まれる活物質は、特に充放電の可逆性(充放電サイクル特性)に優れたラムスデライト型、またはブロンズ型のチタン系酸化物が好ましい。主負極層に含まれる活物質は、中でも電気容量の大きいブロンズ型チタン系酸化物が最も好ましい。
【0048】
主負極層に含まれる活物質粒子は、平均粒径が3μm以下、好ましくは1μm以下で、N2吸着によるBET法での比表面積が5〜50m2/gの範囲であることが望ましい。このような平均粒径および比表面積を有する活物質粒子は、その利用率を高めることができ、高率充放電においても実質的に高い容量を取り出すことができる。なお、N2ガス吸着によるBET比表面積は例えば島津製作所株式会社のマイクロメリテックスASAP−2010を使用し、吸着ガスにはN2を使用して測定することができる。
【0049】
一般的に、活物質粒子の平均粒径を小さく、比表面積を大きくするほど、大電流性能(出力性能)に優れた電池が得られる一方で、内部短絡時に流れる電流が大きくなるため、電池の安全性は著しく低下する。実施形態に係る非水電解質電池は前述したように主負極層に特定の活物質を含む表面層を形成することによって、内部短絡を抑制する効果を有するため、主負極層が小さな平均粒径、大きな比表面積を有する活物質を含む場合、大電流性能(出力性能)と高安全性を両立させることが可能になる。
【0050】
主負極層には、導電剤および結着剤が含まれる。導電剤は、例えば炭素材料を用いることができる。炭素材料は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛が挙げられる。その他、アルミニウム粉末などの金属粉末、TiOなどの導電性セラミックスを挙げることができる。中でも、800〜2000℃で熱処理され、平均粒子径10μm以下のコークス、黒鉛、平均粒子径1μm以下の炭素繊維が好ましい。前記炭素材料のN2吸着によるBET比表面積は10m2/g以上が好ましい。結着剤は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、コアシェルバインダーなどを挙げることができる。
【0051】
主負極層において、活物質、導電剤および結着剤の配合割合は活物質70重量%以上96重量%以下、導電剤2重量%以上28重量%以下、結着剤2重量%以上28重量%以下にすることが好ましい。導電剤量を2重量%未満にすると、主負極層の集電性能が低下し、非水電解質電池の大電流特性が低下する恐れがある。また、結着剤量を2重量%未満にすると、主負極層と集電体の結着性が低下し、サイクル特性が低下する恐れがある。一方、高容量化の観点から、導電剤および結着剤は各々28重量%以下であることが好ましい。
【0052】
主負極層の気孔率は、20〜50%にすることが好ましい。このような気孔率を有する主負極層を備えた負極は、高密度化され、かつ非水電解質との親和性に優れる。気孔率の更に好ましい範囲は、25〜40%である。
【0053】
集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔などを用いることができる。主負極層に含まれる活物質のリチウム吸蔵・放出電位が1V vs Li/Li+である場合には、軽量化、及び電池の過放電耐性の観点から、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔を用いることが好ましい。
【0054】
アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔(集電体)は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。このような集電体は、強度を飛躍的に増大させることができるため、負極を高いプレス圧で高密度化することが可能となる。その結果、電池容量を増大させることができる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの集電体の溶解・腐食劣化を防ぐことができるため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。さらに、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。集電体のより好ましい平均結晶粒径は、30μm以下、更に好ましい範囲は5μm以下である。
【0055】
平均結晶粒径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡で組織観察し、1mm×1mm内に損竿する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1×106/n(μm2)から平均結晶粒径面積Sを求める。得られたSの値から下記(1)式により、平均結晶粒径d(μm)を算出する。
【0056】
d=2(S/π)1/2 (1)
平均結晶粒径が50μm以下のアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子に複雑に影響され、前記結晶粒径は製造工程の中で、前記諸因子を組合せて調整される。
【0057】
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属は1重量%以下にすることが好ましい。
【0058】
負極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥して主負極層を形成する。つづいて、主負極層上に前述した方法で表面層を形成した後、プレスを施すことにより作製される。主負極層は、活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成し、これを集電体表面に形成してもよい。
【0059】
2)外装材
外装材は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムまたは厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0060】
外装材の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装材は、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材が挙げられる。
【0061】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0062】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等がから作られる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含む場合、その量は100ppm以下にすることが好ましい。
【0063】
3)正極
正極は、集電体と、集電体の片面または両面に形成され、活物質、導電剤および結着剤を含む正極層とを備える。
【0064】
集電体は、例えばアルミニウム箔またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金箔が好ましい。
【0065】
活物質は、例えば酸化物、ポリマー等を用いることができる。
【0066】
酸化物は、例えばリチウムを吸蔵した二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケルおよびリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリピン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、バナジウム酸化物(例えばV25)等を用いることができる。ここで、x、yはそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0067】
ポリマーは、例えばポリアニリンやポリピロール等の導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料等を用いることができる。その他に、イオウ(S)、フッ化カーボン等も使用できる。
【0068】
好ましい活物質は、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoyO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-y2)、リチウムリン酸鉄(LixFePO4)等が挙げられる。ここで、x、yはそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0069】
さらに好ましい活物質は、リチウムコバルト複合酸化物もしくはリチウムマンガン複合酸化物である。これらは、イオン伝導性が高いため、実施形態の負極活物質との組み合わせにおいて、正極活物質中のリチウムイオンの拡散が律速段階になり難い。このため、実施形態の主負極層の活物質であるリチウムチタン複合酸化物(スピネル型構造を除く)との適合性に優れる。
【0070】
活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下にすることにより、工業生産上の取り扱いが容易になり、かつリチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることができるために好ましい。
【0071】
活物質の比表面積は、0.1m2/g以上、10m2/g以下にすることによって、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保でき、かつ工業生産上の取り扱いが容易になり、さら良好な充放電サイクル性能を確保できるために好ましい。
【0072】
導電剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素質物を用いることができる。このような導電剤は、集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑えることができる。
【0073】
活物質と導電剤を結着させるための結着剤は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム等を用いることができる。
【0074】
活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、活物質80重量%以上、95重量%以下、導電剤3重量%以上、18重量%以下、結着剤2重量%以上、17重量%以下にすることが好ましい。導電剤は、3重量%以上の配合より上述した効果を発揮することができ、10重量%以下の配合により高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2重量%以上配合することにより十分な電極強度が得られ、10重量%以下配合することにより電極の絶縁体の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0075】
正極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、正極層を作製した後、プレスを施すことにより作製される。その他、活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成し、正極層として用いてもよい。
【0076】
4)非水電解質
非水電解質は、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質等が挙げられる。
【0077】
液状非水電解質は、電解質を0.5mol/L以上、2.5mol/L以下の濃度で有機溶媒に溶解することにより調製される。
【0078】
電解質は、例えば過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF3SO22]等のリチウム塩またはこれらの混合物を挙げることができる。高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0079】
有機溶媒は、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)等のから選ばれる単独または混合溶媒を用いることができる。
【0080】
高分子材料は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
【0081】
好ましい有機溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群から選ばれる2つ以上を混合した混合溶媒である。さらに好ましい有機溶媒は、γ−ブチロラクトン(GBL)である。この理由は以下の通りである。
【0082】
チタン、モリブデン、ニオブなどのリチウム複合酸化物は、凡そ1〜3V(vs. Li/Li+)の電位域でリチウムイオンを吸蔵・放出する。しかしながら、この電位域では非水電解質の還元分解が起こり難く、リチウムチタン複合酸化物表面に非水電解質の還元生成物である皮膜が形成され難い。このため、リチウム吸蔵状態、すなわち充電状態で保存すると、リチウムチタン複合酸化物に吸蔵されていたリチウムイオンが徐々に電解液中に拡散し、所謂自己放電が生じてしまう。自己放電は、電池の保管環境が高温になると顕著に表れる。
【0083】
有機溶媒の中で、γ−ブチロラクトンは鎖状カーボネートまたは環状カーボネートに比べて、還元され易い。具体的には、γ−ブチロラクトン>>>エチレンカーボネート>プロピレンカーボネート>>ジメチルカーボネート>メチルエチルカーボネート>ジエチルカーボネートの順に還元され易い。したがって、γ−ブチロラクトンを電解液中に含有させることによって、リチウムチタン複合酸化物の作動電位域においても、リチウムチタン複合酸化物の表面に良好な皮膜が形成できる。その結果、自己放電を抑制し、非水電解質電池の高温貯蔵特性を向上できる。
【0084】
前述したプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群から選ばれる2つ以上を混合した混合溶媒、特にγ−ブチロラクトンを含む混合溶媒についても、同様に自己放電を抑制し、非水電解質電池の高温貯蔵特性を向上できる。
【0085】
γ−ブチロラクトンは、有機溶媒に対して40体積%以上、95体積%以下の量で含有させることによって、良質な保護皮膜を形成できるために好ましい。
【0086】
5)セパレータ
セパレータは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレンまたはポリプロピレンからなる多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であり、安全性向上の観点から好ましい。
【0087】
次に、実施形態に係る非水電解質電池(例えば外装材がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質電池)を図1、図2を参照してより具体的に説明する。図1は、薄型非水電解質電池の断面図、図2は図1のA部の拡大断面図である。なお、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0088】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図2に示すように集電体3aと、集電体3aの片面に形成された主負極層3bと、主負極層3b上に形成された表面層3cとから構成されている。その他の負極3は、集電体3aと、集電体3aの両面にそれぞれ形成された主負極層3b、表面層3cとから構成されている。表面層3cは、前述した特定の活物質、例えばスピネル型リチウムチタン複合酸化物を含む。主負極層3bは、スピネル型リチウムチタン複合酸化物と異なる活物質、例えば炭素質物、リチウムチタン複合酸化物(スピネル型構造を除く)、リチウムモリブデン複合酸化物およびリチウム二オブ複合酸化物からなる群から選ばれる活物質を含む。正極5は、正極集電体5aの両面に正極層5bを形成して構成されている。
【0089】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。これらの負極端子6および正極端子7は、袋状外装材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材2の開口部から注入されている。袋状外装材2の開口部を負極端子6および正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1および液状非水電解質を完全密封している。
【0090】
負極端子は、例えばリチウムイオン金属に対する電位が1.0V以上3.0V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0091】
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0V以上4.25V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0092】
このような実施形態に係る非水電解質電池によれば、負極の表面層にリチウムを吸蔵・放出し、リチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、リチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-2倍以下である活物質、例えばスピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物を含むことによって、前述した作用により大電流性能を低下させることなく、内部短絡時の安全性を向上させることが可能になる。
【0093】
次に、実施形態に係る電池パックを詳細に説明する。
【0094】
実施形態に係る電池パックは、前述した非水電解質電池(単電池)を複数有し、各単電池を電気的に直列、並列または直列と並列に接続して配置されている。
【0095】
このような実施形態に係る電池パックは、前述した内部短絡時の安全性を向上させた非水電解質電池を単電池として複数個を組電池化しているため、高い安全性を維持することができる。
【0096】
実施形態に係る電池パックを図3および図4を参照して詳細に説明する。単電池には、図1に示す扁平型電池を使用することができる。
【0097】
前述した図1に示す扁平型非水電解液電池から構成される複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6および正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図4に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0098】
プリント配線基板24は、負極端子6および正極端子7が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図4に示すようにサーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0099】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29,31は、プリント配線基板24に形成された配線32,33を通して保護回路26に接続されている。
【0100】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図3および図4の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0101】
正極端子7および負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0102】
組電池23は、各保護シート36およびプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36およびプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0103】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮チューブを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮チューブを周回させた後、熱収縮チューブを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0104】
図3、図4では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0105】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途としては、大電流特性でのサイクル特性が望まれるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0106】
前述したようにプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む非水電解質を用いることによって、高温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。このような非水電解質電池を複数有する組電池を備えた電池パックは、特に車載用に好適である。
【0107】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、以下に記載される実施例に限定されるものでない。
【0108】
(実施例1)
<正極の作製>
まず、活物質であるスピネル型構造を有するリチウムマンガン酸化物(LiMn1.9Al0.14)粉末90重量%と、導電剤であるアセチレンブラック5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%とをN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し後、乾燥し、プレスすることにより電極密度が2.9g/cm3の正極を作製した。
【0109】
<負極活物質(A)>
負極活物質(A)は、3000℃で熱処理したメソフェーズピッチ系炭素繊維(繊維径が8μm、平均繊維長が20μm、平均面間隔(d002)が0.3360nm)を用いた。
【0110】
<負極活物質(B)の合成>
Li2CO3とアナターゼ型TiO2とをLi:Tiのモル比が4:5になるように混合し、850℃で12時間大気中焼成した後、粉砕することによって、平均粒径0.8μmのスピネル型リチウムチタン複合酸化物(Li4Ti512)を合成した。
【0111】
スピネル型リチウムチタン複合酸化物の平均粒子径は、次の方法で測定した。レーザー回折式分布測定装置(島津製作所株式会社:SALD−3000)を用い、ビーカーに試料を約0.1gと界面活性剤と1〜2mLの蒸留水を添加して十分に攪拌した後、攪拌水槽に注入し、2秒間隔で64回光度分布を測定し、粒度分布データを解析する方法にてスピネル型リチウムチタン複合酸化物の平均粒子径を測定した。
【0112】
<負極の作製>
前記負極活物質(A)95重量%とポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%をN−メチルピロリドン(NMP)加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ12μmの銅箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥させて主負極層を形成した。つづいて、前記負極活物質(B)90重量%、導電剤であるアセチレンブラック5重量%およびポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%をN−メチルピロリドン(NMP)加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを主負極層表面に塗布し、乾燥させて表面層を形成した。その後、プレスすることにより電極密度が1.7g/cm3の負極を作製した。
【0113】
得られた負極の表面層および主負極層の断面を切り出し、SEM−EDXを用いて集電体に対して垂直方向のTi濃度を測定した。その結果、表面層の平均厚さは約10μmであった。また、表面層は主負極層のほぼ全面に均等な厚さで存在することが確認された。なお、主負極層の平均厚さは30μmであった。
【0114】
<電極群の作製>
正極、厚さ25μmのポリエチレン製の多孔質フィルムからなるセパレータ、負極、セパレータの順番に順次積層し、扁平状電極群を作製した。得られた電極群をアルミニウムラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。
【0115】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)を体積比率1:2で混合した混合溶媒に、電解質としてのLiBF4を1.5mol/L溶解することにより液状非水電解質を調製した。
【0116】
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に液状非水電解質を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉し、図1に示す構造を有し、幅70mm、厚さ6.5mm、高さ120mm、容量3Ahの非水電解質二次電池を製造した。
【0117】
(比較例1)
集電体に主負極層のみを形成した負極を用いた以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を製造した。
【0118】
(比較例2)
負極活物質(B)を含む表面層の代わりに平均粒径0.1μmのアルミナ(Al23)からなる厚さ10μmのアルミナ層を形成した以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を製造した。
【0119】
(比較例3)
負極活物質(B)の代わりに平均粒径0.1μmのチタニア(ルチル型TiO2)を含む表面層を主負極層に形成した以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を製造した。
【0120】
実施例1および比較例1〜3の電池に対して、1Cおよび30Cの負荷特性を評価した。その後、電池を4.4Vまで充電し、1cmφの丸棒で電池を押し潰して、電池の表面温度を測定した。試験は異なる電池を用いて2回実施した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0121】
前記表1に示すように実施例1の電池の発熱が最も小さく、高い安全性を有することが確認された。また、表面層にスピネル型リチウムチタン酸化物を配した実施例1の負荷特性は、集電体に主負極層のみを形成し、表面層のない負極を用いた比較例1と同等の性能を示した。
【0122】
これに対し、主負極層にアルミナ層を形成した比較例2の電池、主負極層にチタニアを含む表面層を形成した比較例3の電池は、負荷特性が実施例1および比較例1に対して著しく低下した。
【0123】
(実施例2)
実施例1で準備した正極と負極とを、18mm角の内部短絡エリアを設けたセパレータを介して対向させた単層電池を作製した。
【0124】
(比較例4)
比較例1で準備した正極と負極とを、18mm角の内部短絡エリアを設けたセパレータを介して対向させた単層電池を作製した。
【0125】
(実施例3〜8)
主負極層に含まれる負極活物質(A)を下記表2の物質に変えた以外、実施例2と同様の単層電池を作製した。
【0126】
(比較例5〜8)
主負極層に含まれる負極活物質(A)を下記表2の物質に変えた以外、比較例4と同様の単層電池を作製した。
【0127】
得られた実施例2〜8および比較例4〜8の単層電池の内部短絡エリアを約7N/cm2の圧力で押し付けて、電圧の変化をモニターした。各々の電池について、電池電圧が1Vになるまでの時間を下記表2に示す。
【表2】

【0128】
前記表2から明らかなように実施例2〜8の電池は、内部短絡時の電圧低下が比較例4〜8の電池に比べて遅くなることがわかる。これは、表面層に含まれる負極活物質(B)であるスピネル型リチウムチタン複合酸化物が内部短絡電流の流れを抑制するためと考えられた。
【0129】
したがって、実施例2〜8の電池は内部短絡時の発熱が小さく、高い安全性を確保できる。
【0130】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、前記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施形態に係る扁平型非水電解質電池を示す断面図。
【図2】図1のA部の拡大断面図。
【図3】実施形態に係る電池パックを示す分解斜視図。
【図4】図3の電池パックのブロック図。
【符号の説明】
【0132】
1…捲回電極群、2…外装材、3…負極、3a…負極集電体、3b…主負極層、3c…表面層、4…セパレータ、5…正極、6…負極端子、7…正極端子、21…単電池、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、37…収納容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装材と、
前記外装材内に収納された正極と、
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、負極活物質を含む負極と、
前記外装材内に充填された非水電解質と、
を具備し、
前記負極は、集電体とこの集電体の片面または両面に形成された活物質を含む負極層とを有し、
前記負極層は、前記集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備え、かつ
前記表面層に含まれる活物質がスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物であることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物は、Li4+xTi512(−1≦x≦3)であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記表面層は、3μm以上30μm以下の平均厚さを有することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記表面層は、さらに導電剤を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記主負極層に含まれる活物質は、吸蔵・放出電位が1〜3V vs Li/Li+であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記主負極層に含まれる活物質は、炭素質物、リチウムチタン複合酸化物(スピネル型構造を除く)、リチウムモリブデン複合酸化物およびリチウムニオブ複合酸化物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記主負極層に含まれる活物質は、ラムスデライト型、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型、またはブロンズ型構造を有するリチウムチタン複合酸化物から選ばれることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項8】
前記主負極層に含まれる活物質は、比表面積が5m2/g以上であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項9】
前記主負極層に含まれる活物質は、平均粒径が0.1μm以上3μm以下であることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項10】
電池容量が3Ah以上であることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の非水電解質電池。
【請求項11】
外装材と、
前記外装材内に収納された正極と、
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、負極活物質を含む負極と、
前記外装材内に充填された非水電解質と、
を具備し、
前記負極は、集電体とこの集電体の片面または両面に形成された活物質を含む負極層とを有し、
前記負極層は、前記集電体表面に形成され、活物質を含む少なくとも1層の主負極層と、この主負極層表面に形成され、主負極層中の活物質と異なる活物質を含む表面層とを備え、かつ
前記表面層は、リチウムを吸蔵・放出し、リチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値が1×105Ωcm以上で、リチウムを吸蔵させた状態の体積固有抵抗値がリチウムを吸蔵しない状態の体積固有抵抗値の1×10-2倍以下である活物質を含むことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか記載の非水電解質電池を複数備え、各々の電池が直列、並列または直列および並列に電気的に接続されていることを特徴とする電池パック。
【請求項13】
各々の非水電解質電池の電圧が検知可能な保護回路を具備することを特徴とする請求項12記載の電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−97720(P2010−97720A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265401(P2008−265401)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】