説明

非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物、その製造方法及び飲食品

【課題】新規な水溶性食物繊維として利用できる非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物、その製造方法及びそれを含む飲食品を提供すること。
【解決手段】DE値が20未満であり、グルコース含量が3質量%未満であることを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物;これを含む飲食品;及び置換度が0.05〜0.4のヒドロキシプロピル澱粉を、(A)α―アミラーゼ、次いでグルコアミラーゼで加水分解する工程、及び(B)工程(A)で得られる加水分解物からグルコースを除去する工程を含むことを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化性成分をほとんど含まない、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物、その製造方法及びそれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界において、ヒドロキシプロピル澱粉は各種加工食品の主原料、又は副原料として広く利用されている。ヒドロキシプロピル澱粉とは、澱粉にプロピレンオキサイドを作用させて得られる加工澱粉であり、ヒドロキシプロピル基の導入によって親水性が高まり、糊化開始温度が下がり、保水性や老化安定性、冷凍耐性が向上するため、その特性を利用してLL(Long Life) 麺等のインスタント食品、各種チルド・冷凍食品、パン等、食品全般に広く利用されている。
一方、ヒドロキシプロピル澱粉は、アミラーゼに対して抵抗性を示し難消化性であることが知られている。非特許文献1には、ヒドロキシプロピル澱粉の膵液アミラーゼに対する消化性に関する記載があり、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチに由来するヒドロキシプロピル澱粉はモル置換度の上昇に伴い、全てのサンプルにおいて糊化後の膵液アミラーゼに対する消化率は下がったことが報告されている。
【0003】
この特性を利用した例として、特許文献1には、ヒドロキシプロピル澱粉をDE1〜30に加水分解物した低カロリー、非う食性の砂糖代替品を製造する方法が開示されている。さらに、特許文献2には、DE値が20〜45でDP2−6を15質量%以上含むヒドロキシプロピル澱粉の加水分解物及び高甘味度甘味料の低カロリーバルキング剤としての用途が記載されている。
このように、ヒドロキシプロピル澱粉の加水分解物に関する先行技術はあるものの、いずれもヒドロキシプロピル澱粉を単に酵素や酸で加水分解した分解物(混合物)に関するものである。これらは消化性成分を多く含んでおり、低カロリー食物繊維素材としては必ずしも満足できるものではない。
【0004】
【非特許文献1】Mohd et al, Starch/Staerke, 36(7) 273-275 1984
【特許文献1】米国特許第3505110号
【特許文献2】特公平7-14331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な水溶性食物繊維として利用できる非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物、その製造方法及びそれを含む飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヒドロキシプロピル澱粉に含まれる消化性成分に着目し、その効率的な除去方法について検討した結果、特定の置換度を有するヒドロキシプロピル澱粉をα‐アミラーゼ、次いでグルコアミラーゼで加水分解して消化性成分をグルコースに変換した後、グルコースをクロマト分画、膜分画等の手法で除去することによって新規な水溶性食物繊維としての非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に示した新規な水溶性食物繊維としての非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物、その製造方法及びそれを含む飲食品を提供するものである。
【0007】
1.DE値が20未満であり、グルコース含量が5質量%未満であることを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
2.食物繊維含量が80質量%以上である、前記1に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
3.非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物がさらに水素添加されている、前記1又は2に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を含む飲食品。
5.置換度が0.05〜0.4のヒドロキシプロピル澱粉を、(A)α―アミラーゼ、次いでグルコアミラーゼで加水分解する工程、及び(B)工程(A)で得られる加水分解物からグルコースを除去する工程を含むことを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の製造方法。
6.工程(B)が、ポリスチレン系イオン交換樹脂による分画又は逆浸透膜による膜分離工程である、前記5に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって得られる新規な水溶性食物繊維としての非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、低甘味、低粘性、非老化性、高保湿性等の物理特性、及び水溶性食物繊維としての各種生理機能が期待され、例えば清涼飲料、ビール、発泡酒等のアルコール飲料、アイスクリーム、デザート類、パン、菓子類、ドレッシング等の調味料、水産・畜産練り製品、低カロリー甘味料等の各種飲食品、ペットフード、さらにシャンプー、リンス、化粧水、ハンドクリーム等の化粧品など、多くの分野で利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において「DE」 とは、Dextrose Equivalent(グルコース当量)の略で、澱粉加水分解物の加水分解の程度を表すのに広く用いられる指標である。即ち還元糖をグルコースとして測定し、その還元糖の固形分100に対する比をDE値とする。この還元糖の測定には各種の方法があるが、本発明ではウィルシュテッター・シューデル法を用いた。
本発明における「非消化性」とは、ヒトの消化管酵素で分解を受けない性質のことをいう。また、「消化性成分」とは、ヒトの消化管酵素で分解を受ける成分のことをいう。
本発明における「食物繊維」とは、衛新13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について)(「新開発食品ハンドブック」、中央法規出版(株)平成11年9月25日発行の415〜423頁)に記載されている高速液体クロマトグラフ法(酵素‐HPLC法)により測定された値をもって表す。
【0010】
本発明における「平均分子量」は、下記条件によって分析される数平均分子量のことをいう。
カラム:TSKgelG2500PWXL、G3000PWXL、G6000PWXL(東ソー(株)製)
カラム温度:80℃
移動相:蒸留水
流速:0.5ml/min
検出器:示差屈折率計
サンプル注入量:1質量%溶液100μL
検量線:プルラン標準品(分子量788,000〜5,900の間の8種類)、マルトトリオース(分子量504)及びグルコース(分子量180)
【0011】
数平均分子量は次式により計算する。
(数平均分子量(Mn)=ΣHi/Σ(Hi/Mi))
(Hi:ピーク高さ、Mi:分子量)
本発明における「置換度」とは、グルコース単位当たり(1モル当たり)の置換された水酸基のモル当量を表す。ヒドロキシプロピル置換度は、Johnsonの方法(Analytical Chemistry Vol.41, No.6, 859-860, 1969)に準じて測定することができる。
本発明に使用するヒドロキシプロピル澱粉の製造に用いる原料澱粉には特に制限はない。例えば、馬鈴薯、タピオカ、コーン、小麦、米などの澱粉及びこれらの糯種澱粉をあげることができる。また、このヒドロキシプロピル澱粉は、リン酸等で軽度に架橋されていても差し支えない。ヒドロキシプロピル澱粉の置換度には、特に制限は無いが、好ましくは0.05〜0.4である。0.05未満では、ヒドロキシプロピル澱粉から得られる非消化性成分の歩留りが低くなり、その平均分子量も低下する。また、置換度0.4を超えるヒドロキシプロピル澱粉は、製造が容易ではなく、又、ヒドロキシプロピル澱粉から得られる非消化性成分の分子量が大きくなり、粘性が高まる。
【0012】
次に、本発明の工程(A)、すなわち、ヒドロキシプロピル澱粉の加水分解方法について説明する。例えば、このヒドロキシプロピル澱粉をボーメ22度程度となるように水に懸濁させ、炭酸カルシウムや蓚酸などの薬品を用いてpHを5.5〜6.5、好ましくは6.0に調整した後、α‐アミラーゼを固形分に対して0.05〜0.3質量%添加して適当な加熱装置、例えば加熱加圧蒸煮釜やジェットクッカーなどを用いて加熱温度を80〜100℃で30〜60分間程度加水分解して澱粉を液化した後、0.2MPa、10分間加圧失活処理、又は蓚酸等の酸を添加して酵素反応を停止させる。これによりヒドロキシプロピル澱粉の分解はα‐アミラーゼによる分解の限界点まで進む。冷却後、pHを4.5に調整し、グルコアミラーゼを固形分に対して0.05〜0.4質量%添加して、50〜60℃、好ましくは55℃で6〜24時間程度加水分解して消化性成分を全てグルコースに加水分解し、その後温度を約80℃まで昇温して酵素反応を停止させる。これらの処理により、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物とグルコースとからなる混合物を得ることができる。
【0013】
次に、好ましくは、この混合物に活性炭を添加して脱色・ろ過、イオン交換樹脂による脱塩によって精製した後、本発明の工程(B)、すなわち、グルコースの除去を行う。グルコースの除去は、例えばクロマト分画法であれば、精製した混合物溶液を濃縮して濃度50質量%程度の液とし、この液を強酸性陽イオン交換樹脂塔に通液して高分子成分(非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物)とグルコースに分離して高分子成分を採取する。この場合使用する強酸性陽イオン交換樹脂としては、一般的に市販されているものが挙げられる。例えばアンバーライトCG400、CG6000、CR1320(ローム・アンド・ハース社製)やダイヤイオンUBK−530、530K(三菱化学株式会社製)、DOWEX PT90322−1(ダウケミカル社製)などをあげることができる。これらの樹脂は、グルコースとそれよりも分子量の大きい高分子成分に分離することが目的であるため、Na型、もしくはK型で使用することが望ましい。
【0014】
また、膜分画法であれば、精製した混合物溶液を濃縮して濃度20〜30質量%程度の液とし、食塩阻止率が30〜70%程度のナノろ過膜を装着した膜分離装置を用いて、操作圧力1〜3MPaにて循環濃縮してグルコースを透過液として系外に排出する。濃縮により濃度が上昇するため、透過液と同量の水を加えながら運転するダイアフィルトレーション方式を実施することが好ましい。この場合使用するナノろ過膜は、一般的に市販されているものが広く使用でき、例えばNTR−7430HG、7450HG、7470HG、7250HG(日東電工株式会社製)などをあげることができる。
その他、アルコールを加えて非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を沈殿採取することによってグルコースを除去する方法、酵母を添加してグルコースを資化させて除去する方法なども使用できる。
【0015】
グルコースを除去した後、常法により脱色、濃縮して噴霧乾燥により粉末品とする。あるいは仕上げ濃縮として70質量%程度まで濃縮して液状品とすることもできる。
置換度が0.05〜0.4のヒドロキシプロピル澱粉からこのようにして得られる非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、DE値が20未満、好ましくは18未満、さらに好ましくは16未満であり、グルコース含量が5質量%未満、好ましくは3質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満であり、酵素‐HPLC法で定量される食物繊維含量が80質量%以上、好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、平均分子量が600〜1600に分布し、一般の澱粉分解物と比較して高い保湿性、高い親水性を有することを確認できる。
さらに、この非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、常法により水素添加処理(還元)することもできる。この水素添加により、還元末端であるカルボニル基がアルコール基に変換されるためメーラード反応による着色をほとんど起さないようになり、甘味質も爽やかなキレの良いものとなる。なおこの水素添加処理された非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物(還元物)のDE値、グルコース含量、食物繊維含量、平均分子量は水素添加処理前の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物とほとんど同じである。
【0016】
本発明の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物及びその水素添加(還元)処理物は、低甘味、低粘性、非老化性、高保湿性等の物理特性、及び水溶性食物繊維としての各種生理機能が期待され、例えば清涼飲料、ビール、発泡酒等のアルコール飲料、アイスクリーム、デザート類、パン類、菓子類、ドレッシング類等の調味料、水産・畜産練り製品、低カロリー甘味料等の各種飲食品、ペットフード、さらにシャンプー、リンス、化粧水、ハンドクリーム等の化粧品など、多くの分野で利用することができる。
【実施例】
【0017】
以下に実験例及び実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実験例1
水2.8Lに、安定化剤として硫酸ナトリウム600gを溶解し、これに馬鈴薯澱粉2kgと3質量%苛性ソーダ水溶液500gとを加えて澱粉スラリーを調製し、澱粉100質量部に対してプロピレンオキサイドを2質量部、7.5質量部、15質量部、22質量部、30質量部、及び40質量部それぞれ添加し、30℃で24時間反応させた後、硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して、試料No.1〜6の各ヒドロキシプロピル澱粉を得た。なお、試料No.6は、洗浄時に澱粉粒が膨潤したため、エタノールを用いて洗浄した。これらの置換度はそれぞれ0.016、0.058、0.106、0.142、0.190、及び0.420であった。
【0018】
実施例1
実験例1で試作した試料No.1〜6のヒドロキシプロピル澱粉1kgをそれぞれ水に縣濁して、ボーメ22度の乳液とし、炭酸カルシウムを加えてpHを6.0に調整し、α‐アミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズジャパン社製)0.1質量%を加え、加熱加圧蒸煮釜に品温が95℃となるように蒸気を導入しながら投入した。30分間保持後、温度を130℃まで昇温して酵素を失活させ澱粉の液化を終了した。60℃に冷却後、pHを4.5に調整し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム株式会社製)0.4質量%を加え55℃で15時間加水分解し、消化性成分をグルコースに加水分解した。反応後、80℃まで昇温して酵素を失活させた後、活性炭による脱色ろ過、イオン交換樹脂による脱塩により精製し、濃度50質量%に濃縮した。この水溶液を60℃に加熱し、DOWEX PT90322−1(Na型、ダウケミカル社製)を充填したカラムを装着した擬似移動式連続液体クロマトグラフィー装置(日立製作所製)に導入し、操作温度60℃で運転して高分子画分とグルコースとに分離した。分離した非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を含む高分子画分を濃縮後、噴霧乾燥して粉末状の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を得た。得られた非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物について、原料のヒドロキシプロピル澱粉からの歩留り、酵素‐HPLC法により測定した固形分あたりの食物繊維含量、DE値及びグルコース含量について分析し、表1にまとめた。
なお、DE値は所定の方法に従って測定し、グルコース含量は、糖組成分析用HPLCカラムを用い、下記条件で単糖として測定した。
カラム:MCI GEL CK04SS(三菱化学(株)社製)
検出器:示差屈折計
カラム温度:80℃
流速:0.3ml/分
移動相:蒸留水
サンプル注入量:5質量%、溶液10μl
【0019】
表1

下段の数値は分画前の値を示す。
表1の結果より、ヒドロキシプロピル澱粉の置換度に依存して、得られる非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の歩留り及び食物繊維含量が高まり、特に、置換度0.05以上の場合に、良好な結果が得られることがわかる。
【0020】
実施例2
水13Lに硫酸ナトリウム2kgを溶解し、これに馬鈴薯澱粉10kgと3質量%苛性ソーダ水溶液2.7kgとを加えて澱粉スラリーを調製し、プロピレンオキサイドを澱粉100質量部に対して10質量部添加して、40℃で20時間反応させてヒドロキシプロピル澱粉を試作した(置換度0.153)。このヒドロキシプロピル澱粉5kgを水に縣濁して、ボーメ20度の乳液とし、炭酸カルシウムを加えてpHを6.0に調整し、α‐アミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズジャパン社製)0.1質量%を加え、加圧反応槽に品温が95℃となるように蒸気を導入しながら投入した。30分間保持後、温度を130℃まで昇温して30分間保持して酵素を失活させ澱粉の液化を終了した。60℃に冷却後、pHを4.5に調整し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム株式会社製)0.4質量%を加え55℃で15時間加水分解し、消化性成分をグルコースに加水分解した。反応後、80℃まで昇温して酵素を失活させた後、活性炭による脱色ろ過、イオン交換樹脂による脱塩により精製し、濃度50質量%に濃縮した。この水溶液を60℃に加熱し、アンバーライトCR1320 Na(ローム・アンド・ハース社製)を充填したカラムを装着した擬似移動式連続液体クロマトグラフィー装置(日立製作所製)に導入し、操作温度60℃で運転して高分子画分とグルコースとに分離した。分離した非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を含む高分子画分を濃縮後、噴霧乾燥して粉末状の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物約2kgを得た。得られた非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、食物繊維88.8質量%、DE=14.6、グルコース含量0.3質量%(分画前の含量は39.4質量%)及び平均分子量810であった。
【0021】
実施例3
市販のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(置換度0.091、商品名:ファリネックスVA70TJ、松谷化学工業株式会社製)15kgを実施例2と同じ方法で加水分解して、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物とグルコースの混合物を得た。この液を20質量%とし、その60Lをナノろ過膜としてNTR−7450HG(食塩阻止率50%)を装着した膜分離装置メンブレンマスターズRUW−5A(日東電工株式会社製)を用いて、操作温度60℃、操作圧力1.5MPa、循環流量8L/minの条件で循環運転を行い、30Lまで濃縮(2倍濃縮)後、30L加水する操作(ダイアフィルトレーション)を6回繰り返し、透過液としてグルコースを除去して非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を含む濃縮液30Lを得た(濃度14質量%)。この液に活性炭を添加して脱色、ろ過後、濃度を70質量%まで濃縮して非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の液状品約5.5kgを得た。得られた非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、DE値15.8、食物繊維含量90.5質量%、グルコース含量0.8質量%であった。
【0022】
実施例4
実施例1で試作した、試料No.4由来の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物(DE値13.0)1kgを水で希釈して濃度65質量%とし、2L容量のオートクレーブ(ナックオートクレーブ社製)に入れ、20gのラネーニッケル(R239、日興リカ社製)を添加し、7.2質量%リン酸二ナトリウム水溶液と21質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.6とした後、水素ガスを100kg/cm2で導入し、130℃、2時間の水素添加反応を行った。反応後、ラネーニッケルを除去し、活性炭、イオン交換樹脂で精製した後、濃度70質量%に濃縮して、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の還元物約560gを得た。
【0023】
実施例5
実施例2で試作した、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物(DE値14.6)の水分活性及び吸放湿性を、市販の澱粉分解物であるグリスター(DE値15、グルコース含量1.1質量%、食物繊維含量0.0質量%、松谷化学工業株式会社製)と比較して測定した。
<水分活性の測定>
各試料の65、70、75質量%水溶液を調製して、水分活性測定装置TH−2(novasina社製)を使用して、25℃における水分活性を測定した。その結果を図1に示した。
<吸放湿性の測定>
各試料の70質量%溶液を調製し、20℃で表2に示した試薬の飽和溶液で調整した定湿デシケーター中に入れ、経時的に重量を測定して吸放湿曲線を作成した。その結果を図2に示した。





【0024】
表2

DE値がほぼ同等である澱粉分解物と比較試験を行った結果、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物は、水分活性を下げる効果が高いこと、並びに、吸湿性が高く、放湿性が低いことから、水に対する親和性が非常に高いことが推察され、従来の澱粉分解物にない新規な特性を見出した。
【0025】
実施例6
実施例1で調製した、試料No.5由来の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物(DE値12.8)を用いて、表3の配合で水に粉末原料を混合溶解した後、果汁、ピューレ、香料などを加えてホモミキサーで均質化してマンゴジュースを試作した。
非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の添加により、食物繊維が付与されるほか、対照品と比較して果汁感が向上した。
【0026】
表3

配合量からの計算値
【0027】
実施例7
実施例1で調製した、試料No.4由来の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物(DE値13.0)を用いて、表4の配合でフレーバーを除いた全原料を混合し、85℃まで加熱してホモミキサーで攪拌し、さらにホモジナイザーで均質化した後、冷蔵庫(5℃)で12時間エージングした。次にフレーバーを添加し、フリージング後に−30℃に急冷してアイスクリームを試作した。
非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の添加により、食物繊維が付与されるほか、対照品と比較してミルク感が向上した。







【0028】
表4

配合量からの計算値
【0029】
実施例8
実施例3で調製した非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を用いて、表5の配合で生餡とグラニュー糖と水を鍋に入れ加熱して煮詰め、炊き上がり前に食塩と非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を加えて糖度60まで煮詰めて約170gとした後、冷却して小豆餡を試作した。
非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の添加により、食物繊維が付与されるほか、対照品と比較して保湿性が向上した。
【0030】
表5

配合量からの計算値
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の水分活性を市販の澱粉分解物(グリスター)と比較した図である。
【図2】非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の吸放湿性を市販の澱粉分解物(グリスター)と比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE値が20未満であり、グルコース含量が5質量%未満であることを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
【請求項2】
食物繊維含量が80質量%以上である、請求項1に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
【請求項3】
非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物がさらに水素添加されている、請求項1又は2に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物を含む飲食品。
【請求項5】
置換度が0.05〜0.4のヒドロキシプロピル澱粉を、(A)α−アミラーゼ、次いでグルコアミラーゼで加水分解する工程、及び(B)工程(A)で得られる加水分解物からグルコースを除去する工程を含むことを特徴とする、非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の製造方法。
【請求項6】
工程(B)が、ポリスチレン系イオン交換樹脂による分画又は逆浸透膜による膜分離工程である、請求項5に記載の非消化性ヒドロキシプロピル澱粉加水分解物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−13249(P2009−13249A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175002(P2007−175002)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】