説明

音叉型圧電振動子、圧電振動デバイス、及び圧電発振器

【課題】音叉又部の底面近傍の電極間における短絡・接触等の不具合を減少させた信頼性の高い音叉型圧電振動子、同振動子を用いた圧電振動デバイス、及び圧電振動デバイスを用いた圧電発振器を提供する。
【解決手段】外部接続用の基部電極が設けられた振動子基部(13)と、振動子基部から音叉状に突設された振動子腕部(11,12)と、この振動子腕部の表面および裏面の少なくとも一方に形成された溝部と、当該溝部に設けられた溝電極(11ae、12ae)と、振動子腕部の溝部が形成されていない側面に設けられた側面電極(11be、12be)と、基部電極と側面電極若しくは溝電極とを接続する第一の接続用電極(13e5)と、溝電極と側面電極とを接続する第二の接続用電極(13e6)と、を含む音叉型圧電振動子において、側面電極を振動子基部の音叉又部の底面から所定の距離をおいて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、水晶振動子等を用いた音叉型圧電振動子、当該振動子を用いた圧電振動デバイス、及び当該圧電振動デバイスを用いた圧電発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器における安定した周波数信号の供給素子として、従来からピエゾ圧電効果を利用した、例えば、水晶振動子などの圧電振動子が広く用いられている。特に、近年における電子機器の小型化・軽量化の要求に伴い、水晶振動子を音叉型に形成した音叉型水晶振動子が普及しつつある。水晶振動子の構造をこのような音叉型に形成することによって、その形状が小型で、しかもそのCI値(クリスタルインピーダンス値;水晶振動子の等価直列抵抗値)の低い製品を実現することが出来る。
【0003】
従来の一般的な音叉型水晶振動子の構造を図6(a)、(b)に示す。ここで、図6(a)は音叉型水晶振動子100の斜視図であり、図6(b)は図6(a)におけるA−A’方向の断面図である。なお、これらの図面においては説明の便宜上、音叉型水晶振動子の各面上に設けられている励振用電極の表示を省略している。
【0004】
図6(a)に示されるように、音叉型水晶振動子100は、振動子基部103と、かかる基部から音叉状に突設された2本の振動子腕部101及び102より構成されている。また、振動子腕部101、102の表面及び裏面には、該腕部の長手方向に沿ってそれぞれ溝部101a、102aが形成されている。したがって、振動子腕部101、102の断面形状は、図6(b)の断面図に示されるように略H型となる。このような略H型断面の腕部を有する音叉型水晶振動子は、従来の平面型の水晶振動子に比べて、水晶振動片の大きさを小型化しても電気機械変換係数を高くすることができるので、そのCI値を低く保つことができるというメリットを有している。
【0005】
音叉型水晶振動子100を所定の周波数で振動させるためには、振動子腕部101、102に励振用の電界を印加する必要がある。このため、溝部101a、102aには、溝部の長手方向に沿ってそれぞれ溝電極が設けられており、また、溝部が設けられていない腕部の側面部101b、102bには、腕部側面の長手方向に沿ってそれぞれ側面電極が設けられている(何れも図示せず)。
【0006】
音叉型水晶振動子100に励振用の電界を形成するには振動子の外部から励振用の駆動電流を供給する必要がある。このため、振動子基部103の面上には、外部電流源との接続を担う基部電極が設けられている。また、かかる基部電極と上記の溝電極或いは側面電極とを接続する接続用電極、及び溝電極と側面電極とを接続する接続用電極も振動子基部103等の面上に設けられている(何れも図示せず)。
【0007】
外部電流源から音叉型水晶振動子100に励振用の駆動電流が供給されると、以上に説明した各電極を介して、振動子腕部101、102のそれぞれの溝電極と側面電極に駆動電流が印加されて各電極間に励振電界が生じる。これによって、振動子腕部の略H型断面の左右壁部は圧電現象により互いに逆方向の伸縮を生じ、振動子腕部101、102は互いに反対方向の屈曲振動を為す。かかる屈曲振動によって、音叉型水晶振動子100はQ値(周波数選択度)の高い共振素子となり得るのである。
【0008】
次に、音叉型水晶振動子100における電極配置の一例を図7に示す。なお、同図は音叉型水晶振動子100の表面のみを示すものであり、その裏面の表示については説明の重複を避けるため省略する。
【0009】
図7において、103e1及び103e2は振動子基部103の表面に設けられた基部電極である。また、101aeは振動子腕部101の溝部101aに設けられた溝電極であり、102aeは振動子腕部102の溝部102aに設けられた溝電極である。また、101be及び102beは、それぞれの腕部の側面部101b、102bに設けられた側面電極である。なお、図7によれば側面電極101be、102beは、それぞれの振動子腕部の溝部を有する面の音叉状先端部の近傍にも設けられているが、これは各腕部の両側面に設けられた側面電極同士を接続するためである。
【0010】
基部電極103e1は、接続用電極103e3を介して側面電極101beに接続されており、同じく基部電極103e1は、接続用電極103e5を介して溝電極102aeに接続されている。一方、基部電極103e2は、接続用電極103e4を介して側面電極102beに接続されており、更に基部電極103e2は、側面電極102beと接続用電極103e6を介して溝電極101aeに接続されている。
【0011】
ところで、上記の略H型断面を有する音叉型水晶振動子の大きさは極めて微小であり、例えば、振動子の共振周波数が32.768kHzの場合は、振動子腕部101、102の横幅が0.1mm程度、溝部101a、102aの横幅が0.07mm程度にまで小型化されている。したがって、振動子腕部の面上に各種の電極を設ける際には、これらの電極の架設エリアは、例えば、0.015mmの幅内に限定される場合もある。
【0012】
一般に、良好な伝導状態を維持するため、電極幅としては0.01mm程度の横幅が必要とされるので、例えば、溝電極と側面電極との間隔は僅か0.005mm程度までしか許されない場合も生ずる。このため、実際の製造工程における誤差等を考慮すれば、これらの電極同士が接触・短絡する可能性が高く、これらの電極の形成処理が製造工程における製品歩留まり率を低下させる一要因となっていた。また、電極同士の接触・短絡を防止すべく、電極形成処理におけるエッチングの精度を高めた場合、マスクパターンの微細化などにより処理工程が複雑化して製造コストが著しく増大するという問題があった。
【0013】
このよう問題を解決すべく、例えば、特許文献1乃至3に記載された発明が開示されている。因みに、特許文献1には各電極間の接触を防止すべく、側面電極用の接続電極と溝電極及び/又は溝電極用の接続電極との間にスペース部(接続電極配置部)を設けた発明が開示されている。
【0014】
また、特許文献2には、例えば、溝電極の横幅にテーパを付して、溝電極と側面電極との分離距離を順次増大させて両電極の接触を防止する発明が開示されている。さらに、特許文献3には音叉型水晶振動子の音叉状腕部の付け根の部分(以下、「音叉又部」という)の底面に凸状隔壁を設けて、電極蒸着時のフォトエッチングの不良によって、両腕部の内側に成型されている側面電極同士が短絡・接触することを防止する発明が開示されている。
【特許文献1】特開2002―076827号公報
【特許文献2】特開2005―229143号公報
【特許文献3】特開平11―160074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般に、水晶振動子の面上に各種の電極を形成する場合には、先ず、水晶振動子の面上に、例えば、真空蒸着などの手法によって金属皮膜を形成する。次に、かかる金属皮膜上にフォトレジストを塗布し、これに所定のフォトエッチング処理を施して所望の電極パターンを形成する。
【0016】
音叉型水晶振動子の場合は、その外形を形成する際に音叉状の2本の腕部の間を素子の表・裏の両面からエッチングを行っている。このため、その音叉又部はエッチングの異方性により複雑な形状が表裏反転して形成される。ところで、かかる外形形成が為された素子に各種の電極を形成する際に、音叉又部の複雑な構造から音叉又部の底面近傍にはフォトレジストが堆積され易く、また、その複雑な形状からエッチング処理の露光時における紫外線の感光が不十分になりがちである。このため、音叉又部においては、本来エッチング処理によって除去されるべき不要な金属皮膜が残留し易い傾向があり、音叉又部近傍の電極間において電極パターンの接触・短絡が生じ易いという問題があった。
【0017】
ところで、前述の特許文献1及び2に開示された発明は、音叉型水晶振動子の表面若しくは裏面における電極間のスペースを広げて電極間の短絡を防止するものであるため、かかる音叉又部の底面近傍における不具合問題については適切な解決手段を示すものではない。また、特許文献3に開示された発明は、音叉又部の底面近傍における短絡不具合について一つの解決手段を示すものであるが、音叉型水晶振動子の外形エッチングの際に、音叉又部の底面形状に特殊加工を施す必要があるので、製造時の処理工程が複雑となり製造コストの上昇を招くという欠点がある。
【0018】
本発明は、上述したような問題を解決することを目的とするものであり、具体的には、音叉又部の底面近傍においてエッチング処理の不良による電極間の短絡・接触不具合の発生を防止して、信頼性の高い音叉型圧電振動子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該音叉型振動子を用いた圧電振動デバイス、並びに当該圧電振動デバイスを用いた圧電発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の観点による音叉型圧電振動子は、外部接続用の基部電極が設けられた振動子基部と、この振動子基部から音叉状に突設された振動子腕部と、振動子腕部の表面および裏面の少なくとも一方に形成された溝部と、この溝部に設けられた溝電極と、振動子腕部の溝部が形成されていない側面に設けられた側面電極と、基部電極と側面電極若しくは溝電極とを接続する第一の接続用電極と、溝電極と側面電極とを接続する第二の接続用電極と含み、側面電極は振動子基部における音叉又部の底面から所定の距離をおいて設けられている。
【0020】
上記の構成によれば、振動子腕部の側面に設けられた側面電極が音叉又部の底面から所定の距離だけ隔離されているため、エッチング不良などによって音叉又部の底面近傍に金属皮膜が残留しても、かかる残留金属皮膜によって側面電極が他の電極と短絡・接触することを防ぐことができる。これによって、信頼性の高い音叉型圧電振動子を従来と同様の製造処理工程と製造コストによって実現することができる。
【0021】
本発明の第2の観点による音叉型圧電振動子は、上記第1の観点において、所定の距離の最適値が、音叉型圧電振動子の製造工程における製品歩留り率を該距離決定のパラメータの一つとして決定される。
【0022】
音叉型圧電振動子の製造工程における製品の歩留り率は、上記所定の距離(側面電極端部と音叉又部の底面からの距離)と相関関係を有している。すなわち、かかる距離が長ければ、側面電極の端部と音叉又部の底面とが確実に分離されるので、残留金属皮膜による短絡の可能性が低下して製品の歩留まり率が増加する。一方、かかる距離が短ければ、残留金属皮膜による短絡不具合の可能性が増大して製品の歩留まり率が減少する。したがって、上記の構成によれば、製造工程における製品の歩留り率を所望の値以上に維持しつつ、信頼性の高い音叉型圧電振動子を実現することができる。
【0023】
本発明の第3の観点による音叉型圧電振動子は、上記第1の観点において、所定の距離の最適値が、音叉型圧電振動子固有の等価直列抵抗値の増加率を該距離決定のパラメータの一つとして決定される。
【0024】
音叉型圧電振動子固有の等価直列抵抗の値は、上記所定の距離(側面電極端部と音叉又部の底面からの距離)と相関関係を有している。かかる距離が長ければ、即ち、側面電極を短くすれば、振動子腕部に対する励振電界の印加範囲面積が減少するため振動子固有の等価直列抵抗の値が上昇して振動子としての性能の低下を招く。一方、かかる距離を短くすれば、即ち、側面電極を伸ばせば、上記と反対の理由から等価直列抵抗の値は減少して振動子としての性能向上を図ることができる。したがって、上記の構成によれば、音叉型圧電振動子固有の等価直列抵抗値を所望の値以下に維持しつつ、信頼性の高い音叉型圧電振動子を実現することができる。
【0025】
本発明の第4の観点による音叉型圧電振動子では、上記第1の観点において、圧電振動子が水晶振動子で構成される。かかる構成によれば、技術的に実績の豊富な水晶振動子を用いて信頼性の高い音叉型圧電振動子を実現することができる。
【0026】
本発明の第5の観点による音叉型圧電振動子では、上記第1の観点において、圧電振動子がセラミック振動子で構成される。かかる構成によれば、比較的に低コストのセラミック振動子を用いて信頼性の高い音叉型圧電振動子を実現することができる。
【0027】
本発明の第6の観点による圧電振動デバイスは、上記第1の観点における音叉型圧電振動子を所定のパッケージの内部に備え、かつ、該音叉型圧電振動子の基部電極がパッケージの外部出力端子に接続されている。かかる構成によれば、上記第1の観点における音叉型圧電振動子を内蔵した圧電振動デバイスを、電子機器等のプリント基板等に実装可能な電気部品として実現することができる。
【0028】
本発明の第7の観点による圧電発振器は、増幅回路と、この増幅回路の入出力間に設けられた帰還回路とを含み、帰還回路は、該帰還ループ中における共振周波数を特定する共振素子として上記第6の観点による圧電振動デバイスを備えている。このような構成によれば、発振器の発振周波数を決定するデバイスとして上記第6の観点による圧電振動デバイスを用いられるため、信頼性の高い圧電発振器を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、新たな製造処理工程の追加や製造コストの上昇を招くことなく、音叉又部の底面近傍における電極間の短絡・接触を防止した音叉型圧電振動子、当該振動子を用いた圧電振動デバイス、及び当該圧電振動デバイスを用いた圧電発振器を実現することができる。以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(第1の実施の形態)図1は、本発明の第1の実施の形態である音叉型水晶振動子10において、励振用の各電極や、各電極間の接続用電極の配置の一例を示す説明図である。因みに、本発明による音叉型水晶振動子10の構造は、前述の図6に示されたものと同様であるため、その構造を示す振動子全体の斜視図や振動子腕部の断面図は省略する。すなわち、図1に示される音叉型水晶振動子10は、振動子基部13と、かかる振動子基部から音叉状に突設された2本の振動子腕部11及び12から構成されているものとする。
【0031】
また、振動子腕部11、12の表面及び裏面には、該腕部の長手方向に沿ってそれぞれ溝部11a、及び12aが形成されている。したがって、振動子腕部11、12の断面形状は、前述の図6(b)に示されるA−A’方向断面図と同様に略H型となっている。因みに、このような略H型断面の腕部を有する音叉型水晶振動子は、従来の平面型の水晶振動子に比べて、水晶振動片自体の大きさを小型化しても電気機械変換係数を高くすることができるので、その性能の一指標であるCI値を低く保つことができるというメリットを有している。
【0032】
図1において、13e1及び13e2は振動子基部13の表面に設けられた基部電極である。また、11aeは振動子腕部11の溝部11aに設けられた溝電極であり、12aeは振動子腕部12の溝部12aに設けられた溝電極である。また、11be及び12beは、それぞれの腕部の側面部11b、12bに設けられた側面電極である。なお、側面電極は、振動子腕部の両側面(音叉状腕部の内側と外側)、及び溝部が有る面の音叉状腕頂部近傍に設けられている。
【0033】
次に、各電極間の接続関係を説明すれば以下のとおりである。先ず、基部電極13e1は、接続用電極13e3を介して側面電極11beに接続されており、同じく基部電極13e1は、接続用電極13e5を介して溝電極12aeに接続されている。一方、基部電極13e2は、接続用電極13e4を介して側面電極12beに接続されており、更に基部電極13e2は、側面電極12be及び接続用電極13e6を介して溝電極11aeに接続されている。
【0034】
外部の電流源から基部電極13e1及び13e2を介して、音叉型水晶振動子10に励振用の駆動電流が供給されると、以上に説明した各電極を経由して振動子腕部11、12のそれぞれの溝電極と側面電極に駆動電流が印加され、電極間の各々に励振電界が生じる。これによって、腕部の略H型断面の左右壁部は圧電現象により互いに逆方向の伸縮を生じ、振動子腕部11、12は互いに反対方向の屈曲振動を為し、Q値(周波数選択度)の高い振動子を実現することが出来る。
【0035】
次に、音叉型水晶振動子10の面上に上記の各電極が形成される工程を簡単に説明すれば、以下の通りである。
【0036】
先ず、所定の水晶基板をエッチングすることにより、その表面に電極が設けられていない状態の音叉型水晶振動片の外形が形成される。なお、以下の記述においては、主に腕部11及び12における電極の形成工程を中心に説明を行う。また、両腕部の構造は同一であるので、腕部11の場合を例に採って説明を行う。
【0037】
図2は、腕部11に各電極が形成される際の工程の概略を示す説明図である。先ず、図2(a)は、上記のエッチング処理によってその外形が形成された音叉型水晶振動片の腕部11の断面図を示す。前述のように、腕部11の表面並びに裏面には溝部11aが形成される。次に、腕部11を含む音叉型水晶振動片の面全体に、例えば、真空蒸着等の技術によって金属皮膜110が形成される。この状態を図2(b)に示す。
【0038】
かかる金属皮膜は、その下層がクロム(Cr)で構成されており、その厚さは、例えば、100オングストローム乃至1000オングストロームに形成される。また、その上層は金(Au)で構成されており、その厚さは、例えば、500オングストローム乃至1000オングストロームに形成される。なお、これらの金属皮膜の材質並びに膜厚数値は、あくまでも本発明の一実施例を示すものであり、本発明の実施がかかる事例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0039】
音叉型水晶振動片の表面全体に金属皮膜110が形成された後、音叉型水晶振動片の全面にフォトレジストが塗布されて、金属皮膜110の上面に図2(c)に示すフォトレジスト膜111が形成される。因みに、かかるフォトレジストは、紫外線に対して感光感度を有する樹脂部材をベースとした化合物であり、微細粒子による流動性を有するため、スプレー等により霧状に噴霧して塗布することが好ましい。なお、フォトレジスト膜111の厚さは、例えば、1μm乃至6μm程度にすることが好ましい。
【0040】
続いて、フォトレジストパターンの形成処理が行われる。先ず、音叉型水晶振動片の面上において各電極の形成部を除く部分を覆うようなマスクパターン(図示せず)を介して紫外線がフォトレジスト膜111全体に照射される。かかる露光処理の終了後、マスクパターンに覆われた部分以外の余分なフォトレジストが現像液によって除去され、加熱処理等の工程を経て残ったフォトレジスト膜111が固化される。これによって、電極形成部に対応する形状のフォトレジストパターン112が形成される(図2(d))。その後、フォトレジストパターン112をマスクとしてエッチング処理が施され、電極の形成部を除く余分な金属皮膜が除去されて電極部の金属皮膜113が形成される(図2(e))。
【0041】
それ故、上記のフォトエッチング処理において、紫外線の露光が不十分でありマスクパターン以外の余分なフォトレジストが残留した場合は、かかるレジストの下にある金属皮膜が除去されず、これによって電極間の接触・短絡が生ずることになる。
【0042】
ところで、図1からも明らかなように、本発明においては、音叉状腕部内側の側面電極11be、12beのそれぞれの端部と、音叉又部の底面との間に所定の距離dが設けられている。この様子を更に明瞭に表したものが図3に示す音叉又部付近の拡大斜視図である。
【0043】
本発明の第1の実施の形態による音叉型水晶振動子10では、側面電極11be、及び12beが図3に示されるような構造となっており、音叉状腕部の内側の各側面電極が音叉又部の底面から十分に隔離されている。したがって、フォトレジストパターンの形成処理時における露光不足によって、音叉又部の底面に余分な金属皮膜が残留しても、かかる残留金属皮膜によって側面電極が他の電極と接触・短絡することを防ぐことができる。
【0044】
なお、距離dを長くするほど、即ち、側面電極の端部を音叉又部の底面から隔離するほど、電極間の接触・短絡の可能性が減少するため音叉型水晶振動子の製品歩留まり率は向上する。しかしながら、かかる距離dを長くすれば、側面電極の電極面積が減少するため振動子腕部に印加される励振電界範囲の減少を招き、音叉型水晶振動子としての性能低下を惹起する。そして、かかる性能の低下は、例えば、音叉型水晶振動子固有の等価直列抵抗値(CI値)の増加として表れる。
【0045】
したがって、上記の距離dは、一義的にその最適値が決定されるものではなく、上記の製品歩留まり率や等価直列抵抗の増加率等を距離d決定のパラメータの一つとして用いて、その最適値が導出されるものである。すなわち、製品歩留まり率のある程度の低下は許容しても、CI値の低い高性能の音叉型水晶振動子の製造を目的とするのであれば、距離dを短めに設定すれば良い。一方、ある程度のCI値の増加を許容しても製品歩留まり率を向上させるのであれば、上記の距離dを長めに設定するようにすれば良い。
【0046】
なお、以上に説明した実施の形態では、音叉型圧電振動子の部材として水晶振動子を例にとって説明を行ったが、本発明の実施はかかる事例に限定されるものではなく、例えば、セラミック振動子やその他の圧電振動部材を用いて、本発明の第1の実施の形態である音叉型圧電振動子を構成するようにしても良い。
【0047】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態による圧電振動デバイスの構造を示す断面模式図である。先ず、図4(a)は、本実施形態の第1の実施例に係るセラミック製パッケージによる圧電振動デバイス40aの構造を示す断面図である。圧電振動デバイス40aのセラミックパッケージ41は、ベース部41a及び掩蓋部42から構成されており、その内部に上述の実施形態を有する音叉型水晶振動子10が内蔵されている。音叉型水晶振動子10は、ボンディング部43を介してベース部41aに電気的に接続され、かつ機械的にもベース部41aによって担持される。また、セラミックパッケージ41のベース部41aと掩蓋部42とは、シール部44によって密封・封止されている。
【0048】
次に、本実施形態の第2の実施例によるセラミック製パッケージによる圧電振動デバイス40bの構造を図4(b)の断面図に示す。この圧電振動デバイス40bは、上述のセラミック製パッケージによる圧電振動デバイス40aと多くの部分でその構成が共通している。したがって、圧電振動デバイス40aと音叉型水晶振動子10の構成、作用等については、同一符号を付する等して、その説明を省略する。
【0049】
図4(b)に示す圧電振動デバイス40bは、図4(a)に示すセラミック製パッケージの圧電振動デバイス40aにおいて、音叉型水晶振動子10の下方で、ベース部41aの上に複数の集積回路45を配置したものである。すなわち、圧電振動デバイス40bでは、その内部に配置された音叉型水晶振動子10からの出力信号が一旦集積回路45に供給され、かかる集積回路45において種々の処理が施された後に、所定の周波数信号として圧電振動デバイス40bから外部に出力される。
【0050】
集積回路45は、例えば、周波数の分周回路や、PLL(Phase Locked Loop)回路であっても良いし、或いは、所定の温度センサー等を含んだ温度補償回路であっても良い。なお、図4(b)に示される集積回路45の個数や形状等は、本実施形態の一例を示すものに過ぎず、本実施形態がかかる事例に限定されるものでないことは言うまでない。
【0051】
次に、本実施形態の第3の実施例によるシリンダータイプによる圧電振動デバイス40cの構造を図4(c)に示す。この圧電振動デバイス40cは、上述の音叉型水晶振動子10を、例えば、金属製のキャップ(シリンダー)部46の内部に納めたものである。このキャップ部46の開口端には、ステム部47が圧入されており、キャップ46部の内部が真空状態に保持されるようになっている。
【0052】
また、キャップ46部の内部に格納された音叉型水晶振動子10を保持し、かつ音叉型水晶振動子10との電気的な接続を図るため、ステム部47を貫通して2本の外部出力端子48が設けられている。そして、外部出力端子48の各々は、音叉型水晶振動子10の基部電極13e1及び13e2に接続されている(図示せず)。外部出力端子48並びに基部電極13e1、13e2を介して、外部の電流源から、駆動電流が音叉型水晶振動子10に供給されると、音叉型水晶振動子10は所定の周波数で励振される。
【0053】
本発明の第2の実施の形態による各実施例の圧電振動デバイスは、以上に説明したような構成を有し、上記の第1の実施の形態による音叉型圧電水晶振動子10を圧電振動子として内蔵するため、周波数の安定度が高く、かつ信頼性の高い圧電振動デバイスを実現することができる。
【0054】
(第3の実施の形態)
図5(a)は、本発明の第2の実施の形態による圧電発振器50の構成を示す回路ブロック図である。同図において増幅回路51は、例えば、トランジスタやオペアンプ、或いはインバータ等の能動増幅素子から構成された増幅回路である。また、帰還回路52は、増幅回路51の出力を増幅回路の入力側に帰還させる帰還回路であり、一般に、発振器の発振周波数を決定する共振素子をその帰還ループ中に含む回路網から構成されている。因みに、帰還回路52は、前述の第2の実施の形態による圧電振動デバイス40を、かかる共振素子として使用するものである。それ故、圧電振動デバイス40の構成並びに作用等に関しては、第2の実施の形態と同一の符号を付する等して、その説明を省略する。
【0055】
なお、図5(a)に示される圧電発振器50は、増幅回路の出力をCL1及びCL2の2つのキャパシタで分割して増幅回路の入力側に帰還する、いわゆるコルピッツ(Colpitts)発振回路を構成している。しかしながら、図5(a)に示される圧電発振器の回路構成は、本発明の第3の実施形態の一実施例を示すものに過ぎず、本発明の実施の形態である発振器の回路構成が、かかる発振回路の形式に限定されるもので無いことは言うまでもない。
【0056】
次に、圧電発振器50の発振周波数について言及する。いま、圧電振動デバイス40の等価回路を図5(b)に示す。同図において、Cは圧電振動デバイス40の並列キャパシタ、Lはその等価直列インダクタ、Cはその等価直列キャパシタ、そして、Rはその等価直列抵抗を表している。
【0057】
ここで、圧電振動デバイス40の直列共振周波数、すなわち、圧電振動デバイス40の2端子間におけるインピーダンスが最も小さくなる周波数をfとすると、直列共振周波数f
【数1】

として表すことができる。
【0058】
一方、図5(a)の回路において、圧電振動デバイス40の負荷となるキャパシタCL1、CL2の合成値をCとおくと
=CL1×CL2/(CL1+CL2
となる。したがって、圧電発振器50の発振周波数fは、通常のコルピッツ発振回路における発振周波数の場合と同様に
【数2】

として求めることができる。
【0059】
通常、圧電振動デバイス40の等価直列キャパシタCは、他のキャパシタC、Cの容量値に比べて一桁以上小さいので、圧電発振器50は、直列共振周波数frよりも高い周波数fで発振することになる。また、負荷キャパシタCL1、並びにCL2の値を調整することによって発振周波数fの値を微調整することも可能である。
【0060】
本発明の第3の実施の形態による圧電発振器は、以上に説明したような構成を有し、帰還路中における発振周波数を定める共振デバイスとして、上記第2の実施の形態による圧電振動デバイスを備えている。これによって、高性能で発振周波数の安定度が高く、かつ信頼性の高い圧電発振器を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上に説明した、本発明の実施による音叉型圧電振動子、圧電振動デバイス、及び圧電発振器は、圧電振動子を高精度周波数信号の供給源として用いる各種の通信機器や制御機器等の全ての電子機器において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一つの実施形態である音叉型水晶振動子における電極配置例を示す図である。
【図2】図1に示す音叉型水晶振動子の振動子腕部におけるエッチング処理の工程を説明する図である。
【図3】図1に示す音叉型水晶振動子において、振動子腕部の音叉又部の内側に設けられた側面電極の状態を説明する図である。
【図4】本発明の一つの実施形態である圧電振動デバイスの各実施例による構造の概略を説明する図である。
【図5】本発明の一つの実施形態である圧電発振器の回路構成ブロックを説明する図である。
【図6】従来の音叉型水晶振動子の構造を説明する図である。
【図7】図6に示す音叉型水晶振動子における電極配置例を説明する図である。
【符号の説明】
【0063】
10、100 …音叉型水晶振動子
11、12、101、102 …振動子腕部
13、103 …振動子基部
11a、12a、101a、102a … 振動子腕部溝部
11b、12b、101b、102b … 腕部側面部
11ae、12ae、101ae、102ae … 溝部電極
11be、12be、101be、102be … 側面電極
13e1、13e2、13e3、13e4、13e5、13e6、103e1、
103e2、103e3、103e4、103e5、103e6 … 接続用電極
110 … 金属皮膜
111 … フォトレジスト膜
112 … フォトレジストパターン
113 … 電極部金属皮膜
40a、40b … セラミックパッケージ製圧電振動デバイス
40c … シリンダータイプ圧電振動デバイ
41 … セラミックパッケージ
41a … ベース部
42 … 掩蓋部
43 … ボンディング部
44 … シール部
45 … 集積回路
46 … キャップ部
47 … ステム部
48 … 外部端子
50 … 圧電発振器
51 … 増幅回路
52 … 帰還回路
C0 … 並列キャパシタ
L1 … 等価直列インダクタ
C1 … 等価直列キャパシタ
R1 … 等価直列抵抗
CL1、CL2 … 負荷キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部接続用の基部電極が設けられた振動子基部と、
前記振動子基部から音叉状に突設された振動子腕部と、
前記振動子腕部の表面および裏面の少なくとも一方に形成された溝部と、
前記溝部に設けられた溝電極と、
前記振動子腕部の前記溝部が形成されていない側面に設けられた側面電極と、
前記基部電極と前記側面電極若しくは前記溝電極とを接続する第一の接続用電極と、
前記溝電極と前記側面電極とを接続する第二の接続用電極と、を含む音叉型圧電振動子であって、
前記側面電極は、前記振動子基部における音叉又部の底面から所定の距離をおいて設けられていることを特徴とする音叉型圧電振動子。
【請求項2】
前記所定の距離は、前記音叉型圧電振動子の製造工程における製品歩留り率を該距離決定のパラメータの一つとして、その最適値が決定されることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子。
【請求項3】
前記所定の距離は、前記音叉型圧電振動子固有の等価直列抵抗値の増加率を該距離決定のパラメータの一つとして、その最適値が決定されることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子。
【請求項4】
前記圧電振動子は、水晶振動子であることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子。
【請求項5】
前記圧電振動子は、セラミック振動子であることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子。
【請求項6】
請求項1に記載の音叉型圧電振動子を所定のパッケージの内部に備え、かつ、該音叉型圧電振動子の基部電極が前記パッケージの外部出力端子に接続されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項7】
増幅回路と、
前記増幅回路の入出力間に設けられた帰還回路と、を含む圧電発振器であって、
前記帰還回路は、該帰還ループの共振周波数を特定する共振素子として請求項6項に記載の圧電振動デバイスを備えたことを特徴とする圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−98748(P2008−98748A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275193(P2006−275193)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】