説明

音響波共振子

【課題】スプリアスを抑制し、Q値の高い音響波共振子の提供。
【解決手段】上面と下面とを有する圧電体層11と、前記圧電体層11の上面側に積層される上部電極13と、前記圧電体層11を挟んで前記上部電極13と対向するように前記圧電体層11の下面側に積層される下部電極12と、を含む共振部18と、前記上部電極13の上面および側面を覆うとともに、断面視したときに、前記上部電極13の側面領域において、前記側面に対して傾斜する傾斜部を有する保護層20と、を有する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み縦方向の振動モードを用いた音響波共振子に関し、特に、スプリアスを抑制した高性能な音響波共振子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信および電気回路に用いられる電気信号の周波数の高周波化に伴い、高周波化された電気信号に対して用いられるフィルタについても高周波数に対応したものが開発されている。特に、無線通信においては2GHz近傍のマイクロ波が主流になりつつあり、また既に数GHz以上の規格策定の動きもあることから、それらの周波数に対応した高性能なフィルタが求められている。このようなフィルタとして、圧電性を示す圧電膜の厚み縦振動モードを用いた音響波共振子を用いたものが提案されている。
【0003】
音響波共振子は、SiやGaAsなどからなる基板と、基板表面上に形成される共振子本体と、基板および共振子本体で囲まれる空隙と、共振子本体を貫通し空隙と連通する貫通孔とを含んで構成される。そして、共振子本体は、圧電膜と、厚み方向の両側から圧電膜を挟む上部電極および下部電極とを含んで構成される。ここで、音響波共振子では、共振子本体を構成する圧電膜と上部電極と下部電極とが重なる部分のうち、空隙を臨む部分の内壁面によって共振部が形成されており、空隙が圧電膜の振動を可能にする共振領域であるキャビティとなっている。
【0004】
このような音響波共振子において、上部電極上に、平面視で上部電極の外辺部より内側に外辺部を有する引っ込み領域を配置した構成が提案されている(特許文献1参照)。このような構成により、共振子を構成する薄膜の不連続性が生じ、この不連続性により厚み縦振動以外の音響波による損失(スプリアス)を低減できるものとなる。
【0005】
また、同様に、スプリアスを低減するために、上部電極の側面をテーパー状とする構成が提案されている。
【特許文献1】特開2006−5924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている音響波共振子は、平面視で、上部電極のうち、引っ込み領域の外辺部の外側の領域において寄生容量を形成してしまい、共振子の帯域幅が狭まり、Q値が低下する、という問題点があった。同様に、上部電極の側面をテーパー状とする場合も、テーパー状の領域において寄生容量を形成してしまい、共振子の帯域幅が狭まり、Q値が低下する、という問題点があった。このように、従来は、スプリアスを抑制しつつQ値の高い共振子を提供することが困難だった。
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑みて案出されたものであり、その目的は、スプリアスを低減した、Q値の高い音響波共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の音響波共振子は、上面と下面とを有する圧電体層と、前記圧電体層の上面の側に積層される上部電極と、前記圧電体層を挟んで前記上部電極と対向するように前記圧電体層の下面の側に積層される下部電極と、を含む共振部と、前記上部電極の上面および側面を覆うとともに、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域において、前記側面に対して傾斜する傾斜部を有する保護層と、を有するものである。
【0009】
また、本発明の音響波共振子は、上記構成において、前記共振部との間に囲まれる空隙が形成されるように、前記共振部が配置される基体をさらに有するものである。
【0010】
また、本発明の音響波共振子は、上記構成において、前記保護層の傾斜部は、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域から漸次厚みが薄くなるように延びるテーパー形状である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上面と下面とを有する圧電体層と、前記圧電体層の上面の側に積層される上部電極と、前記圧電体層を挟んで前記上部電極と対向するように前記圧電体層の下面の側に積層される下部電極と、を含む共振部と、前記上部電極の上面および側面を覆うとともに、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域において、前記側面に対して傾斜する傾斜部を有する保護層と、を含んで構成されている。
【0012】
このように、保護層が、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域において、前記側面に対して傾斜する傾斜部を有するので、厚み縦方向の振動と異なるモードの音響波を散乱させることができ、保護層によりスプリアスを抑制することができる。また、上部電極により寄生容量を形成することがないので、Q値の高い音響波共振子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の一形態である音響波共振子1の構成を示す断面図である。音響波共振子1は、基板16と、基板16の厚み方向一表面上に形成される共振子本体17と、基板16および共振子本体17で囲まれる空隙15と、共振子本体17を貫通し、空隙15と連通する貫通孔14と、共振子本体17を覆うように配置された保護層20とを含んで構成される。なお、以下の図面のおいて同様の箇所には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
基板16は、音響波共振子1のベース部材である。基板16は、略直方体形状を有し、厚みが0.05〜1.0mm程度に選ばれる。基板16は、Si(シリコン)、GaAs(ガリウムヒ素)などによって形成される。
【0015】
共振子本体17は、圧電体層11と、圧電体層11の上面(厚み方向一表面上)に少なくとも一部が積層される上部電極13と、圧電体層11の下面(厚み方向他表面上)に少なくとも一部が積層される下部電極12とを含んで構成される積層体である。上部電極113と下部電極12は圧電体層11を挟んで対向するように配置されている。
【0016】
圧電体層11は、ZnO(酸化亜鉛)、AlN(窒化アルミニウム)およびPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料からなり、上部電極13および下部電極12によって印加される高周波電圧に応じて伸縮し、電気的な信号を機械的な振動に変換する機能を有する。音響波共振子1が必要な共振特性を発揮するために、圧電体層11の厚みは、圧電体層11を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、圧電体層11を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。圧電体層11の最適な厚みは、音響波共振子1を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、後述する共振部18の設計寸法、圧電体層材料、電極材料によって異なるが、例えば、0.2〜3.0μm程度に選ばれる。
【0017】
下部電極12は、圧電体層11の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される。つまり、下部電極12は、積層体である共振子本体17において最下層となり、基板16の厚み方向一表面上に形成される。下部電極12は、圧電体層11に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)、Al(アルミニウム)およびCu(銅)などの金属材料を用いて形成される。また下部電極12は、電極としての機能と同時に、後述する共振部18を構成する機能も有するので、音響波共振子1が必要な共振特性を発揮するために、その厚みは、下部電極12を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、下部電極12を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。下部電極12の最適な厚みは、音響波共振子1を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、共振部18の設計寸法、圧電体層材料、電極材料によって異なるが、0.03〜1.0μm程度に選ばれる。
【0018】
上部電極13は、下部電極12とともに、圧電体層11に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、下部電極12と同様に構成される。
【0019】
この共振子本体17の少なくとも上部電極13の上面と側面とを覆うように保護層20を設ける。この図では、共振子本体17全体を覆うように配置されている。保護層20は、上部電極13を保護することができ、下部電極12との間に寄生容量を生じないような絶縁材料であれば特に限定はないが、耐衝撃性,耐薬品性の点から酸化ケイ素等を用いることが好ましい。このような保護層20により、外部からの衝撃や水分の浸入による共振部18の変質,付着物による共振特性の変化等から保護することができるので、信頼性の高い音響波共振子を提供することができる。
【0020】
ここで、保護層20は、断面視で、上部電極13の側面の領域において、上部電極13の側面に対して傾斜する傾斜面20aを有する。上部電極13の側面の領域とは、上部電極13の側面から離れる方向に広がる領域(図中にAで示す領域)のうち、上部電極13の厚みに等しい空間(図中にBで示す領域)を指すものとする。
【0021】
この傾斜面20aにより、上部電極13の側面において厚み縦方向と異なる方向の振動モードを散乱させることによりスプリアスを抑制することができる。なお、従来技術のような厚み方向の不連続性によりスプリアスを抑制する場合に比べ、傾斜面20aにより伝搬してきた音響波の音響インピーダンスを滑らかに変換することができるので、より反射を抑制することができる。また、このように上部電極13の側面におけるスプリアスを抑制するための構成(傾斜面20a)を保護層20に設けたため、下部電極12との間に寄生容量が発生することがなく、Q値の高い音響波共振子を提供することができる。
【0022】
このような保護層20の傾斜面20aは、上部電極13の側面に対して傾斜している部分があれば、その角度及び厚みに対する傾斜面20aが設けられている領域の割合等は自由に設計できるが、上部電極13の側面から離れる方向に延びるように形成され、傾斜面20aが基体16表面と成す角度αが鋭角であることが好ましい。
【0023】
また、保護層20を設けることにより、積層体を構成する上部電極13の上端部に集中していた応力が保護層20の端部に発生することとなり、共振部18を構成する上部電極13のクラック発生や,剥離を抑制することができ、信頼性の高い音響波共振子を提供することができる。また、保護層20が傾斜面20aを有することより、特に図1に示すように、傾斜面20aを保護層20の端部20bから延びるように配置するときには、保護層20においても、傾斜面20aがない場合、すなわち端部が基体16の表面に対して直角となっている場合に比べ端部への応力集中を緩和することができる。また、上部電極13の厚みに起因する段差部20cにおいても、直角の場合に比べて応力を緩和することができるので、保護層20にクラックが発生することを抑制し、信頼性の高い音響波共振子を提供することができる。
【0024】
さらに保護層20として酸化ケイ素を用いた場合には、共振部18の温度補償を行なうことができる。また、周波数調整膜として用いることもできる。
【0025】
次に、空隙15は、基板16と共振子本体17とで囲まれる空洞であり、圧電体層11の振動を可能にする共振領域であるキャビティとなっている。空隙15を構成する共振子本体17の内壁面は、中央部において基板16の厚み方向一表面に対して間隙を有して平行な面となる空隙平坦面15aであり、周縁端部において基板16の厚み方向一表面とのなす角θが鋭角となる傾斜面となるように構成されている。
【0026】
空隙15を形成する共振子本体17の内壁面がその周縁端部において、基板16表面とのなす角が鋭角となる傾斜面となるように構成されることによって、周縁端部において基板16表面に対して垂直となるように構成されている場合に比べて、周縁端部に対応する共振子本体17の圧電体層11、上部電極13および下部電極12のそれぞれには、過大な応力の蓄積と集中が発生するのが抑制され、破損の発生を抑制することができる。
【0027】
また、本実施の形態では、空隙15を形成する共振子本体17の内壁面において、空隙平坦面15aと基板16の厚み方向一表面との間隙は、2.6〜4.0μm程度に設定され、基板16表面とのなす角度θは、1.14°以上56.3°以下に設定される。
【0028】
音響波共振子1では、共振子本体17を構成する圧電体層11と上部電極13と下部電極12とが重なる部分のうち、空隙15に臨む部分の内壁面によって共振部18が形成される。共振部18の厚みは、おおむねλ/2(λは使用する信号の周波数での音響波の波長)となるように設計される。共振部18の厚み方向から見た形状、すなわち平面形状は、略矩形状である。なおスプリアス抑制のために共振部18の平面形状を非対称の形状にしてもよい。本実施の形態では、共振部18は直方体形状に形成される。また共振部18の厚み方向に垂直な断面における面積は、音響波共振子1のインピーダンスを決定する要素となるので、厚みと同様に精密に設計する必要がある。50Ωのインピーダンス系で音響波共振子1を使用する場合は、共振部18の電気的なキャパシタンスが、使用する信号の周波数でおおむね50Ωのリアクタンスを持つように選ばれる。本実施の形態では、共振部18の厚み方向に垂直な断面における面積は、たとえば2GHzの音響波共振子1の場合であれば、200μm×200μm程度に選ばれる。
【0029】
音響波共振子1に設けられる貫通孔14は、共振子本体17を、基板16表面に直交する方向に貫通し、空隙15を形成する共振子本体17の傾斜面に開口して形成され、その孔径は、例えば10μm程度である。このように、貫通孔14が共振子本体17の傾斜面に開口するように設けられているので、共振子本体17の空隙平坦面15aに開口するように設けられる場合に比べて、孔径は同じでも、貫通孔14の空隙15側の開口面積が大きなものとなる。音響波共振子1は、詳細は後述するが、空隙15に対応する部分に形成される犠牲層を、貫通孔14を介してエッチング剤によって除去して製造されるが、本発明の音響波共振子1は、貫通孔14の空隙15側の開口面積が大きいので、エッチング剤による犠牲層除去効率が向上し、空隙15内に犠牲層の一部が残留するのが抑制されたものとなる。そのため、音響波共振子1としての共振特性が損なわれるのが抑制され、優れた共振特性を有する音響波共振子1となる。
【0030】
次に、本発明における音響波共振子1の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施の一形態である音響波共振子1の製造方法を示す工程図である。本発明における音響波共振子1の製造方法は、半導体製造技術を利用するものであり、大きくは以下のように5つの工程からなる。
【0031】
[基板準備工程]
基板準備工程では、共振子形成用基板を準備する。準備する共振子形成用基板は、基板16表面上に、犠牲層と共振子本体17とが積層されたものである。
【0032】
(a)基板16の準備および犠牲層の形成工程
音響波共振子1に用いられる基板16は、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)などからなる板状部材であり、本実施の形態では、シリコン基板を用いた例について説明する。また、犠牲層は、製造する音響波共振子1の空隙15に対応する部分であり、本実施の形態では、共振子本体17の内壁面である空隙平坦面15a、傾斜面15bおよび基板16によって囲まれて形成される空隙15に対応して、犠牲層21を基板16表面上に形成する。
【0033】
まず、図2(a)に示すように、基板16の厚み方向一表面の全面にわたって、犠牲層21を形成する。犠牲層21は、例えば、SiO(二酸化珪素)やPSG(リンドープガラス)により形成すればよく、単一材料から形成しても、複数の材料からなる層を積層して形成してもよい。SiOからなる犠牲層21は、シリコン基板16の表面を加熱処理し、熱酸化させることで形成することができ、その厚みは、加熱処理の処理条件、加熱温度、加熱時間などにより制御することが可能である。PSGからなる犠牲層21は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成することができ、その厚みは、CVD処理時の温度や時間などの処理条件により制御することが可能である。本実施の形態では犠牲層21の厚みは、2.5〜3.0μm程度に設定される。
【0034】
(b)犠牲層のパターニング工程
図2(b)に示すように、基板16の一表面の全面にわたって形成した犠牲層21を、パターニングにより空隙15に対応した形状にする。
【0035】
犠牲層21のパターニングは、半導体製造プロセスにおける酸化絶縁膜の公知のパターニング技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。パターニングの一例としては、犠牲層21上にポジレジストをスピンコートなどにより塗布し、露光、現像してレジストをパターンニングしてマスクを形成する。そののちフッ酸水溶液に浸漬して、空隙15に対応した形状を有する犠牲層21を得る。
【0036】
(c)積層体である共振子本体17の形成工程
図2(c)に示すように、空隙15に対応した形状を有する犠牲層21の上に、下部電極12、圧電体層11および上部電極13からなる共振子本体17を形成する。
【0037】
まず、基板16表面および犠牲層21表面の少なくとも一部に下部電極12を形成する。下部電極12は、スパッタリング法やCVD法などによって形成することができる。次に、基板16の厚み方向から平面視したときの全面、すなわち下部電極12表面、下部電極12が積層されていない犠牲層21表面、下部電極12および第2犠牲層22が積層されていない基板16表面のそれぞれを覆うように圧電体層11を形成する。圧電体層11は、スパッタリング法やCVD法などによって形成することができる。次に、圧電体層11表面の少なくとも一部に上部電極13を形成する。このとき、上部電極13は、少なくとも一部が、圧電体層11および下部電極12を介して犠牲層21と対向するように形成される。
【0038】
以上のようにして、基板準備工程では、基板16表面上に、犠牲層21下部電極12、圧電体層11および上部電極13が積層された共振子形成用基板を準備する。
【0039】
[貫通孔形成工程]
貫通孔形成工程では、図2(d)に示すように、基板準備工程で準備した共振子形成用基板を構成する共振子本体17を、基板16表面に直交する方向に、犠牲層21まで到達する貫通孔14を形成する。貫通孔14の形成方法は、半導体製造プロセスにおけるビア形成技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。貫通孔14は、たとえば犠牲層21の平面形状が略正方形をなしている場合は、正方形の各頂点の近傍に、4箇所設けるようにすればよい。
【0040】
このとき、犠牲層21の傾斜面まで到達する貫通孔14を形成するので、形成された貫通孔14は、平坦面に形成されたものよりも、孔径は同じでも、貫通孔14の犠牲層側の開口面積が大きなものとなる。
【0041】
[犠牲層エッチング工程]
犠牲層エッチング工程では、図2(e)に示すように、貫通孔14を介してエッチング剤によって犠牲層21を除去し、基板16と共振子本体17とで囲まれる空隙15を形成する。犠牲層21のエッチング除去は、半導体製造プロセスにおけるエッチング技術を利用することができ、犠牲層の材質に応じたエッチング剤を用いて容易に行うことができる。エッチング剤は、エッチング液またはエッチングガスで、種々のエッチング条件に応じてウェットエッチング、ドライエッチングのいずれかを選択すればよい。本実施の形態では、エッチング剤としてフッ酸水溶液をエッチング液として用い、所定の温度条件でエッチングを行う。
【0042】
このとき、前述したように、貫通孔14の犠牲層側の開口面積は大きいので、貫通孔14を介してエッチング剤によって犠牲層21を除去するときの犠牲層除去効率が向上されている。そのため、犠牲層21を効率よくエッチング除去することができ、形成する空隙15内に犠牲層の一部が残留するのを抑制することができる。また、貫通孔14は、共振子本体17における周縁端部側に形成されているので、貫通孔14を流過して空隙15内に進入してきたエッチング剤には流れが生じる。このエッチング剤の空隙15内での流れによって、エッチング速度も向上する。
【0043】
[エッチング剤除去工程]
エッチング剤除去工程では、犠牲層エッチング工程において形成した空隙15内に残留するエッチング剤を、貫通孔14を介して除去する。まず、エッチング剤が残留する空隙15内に、貫通孔14を介して純水やIPA(イソプロパノール)などのリンス溶剤を充填し、これらのリンス溶剤で空隙15内部を洗浄する。空隙15内の洗浄が終了すると、乾燥機を用いてリンス溶剤を揮発させる。
【0044】
なお、犠牲層エッチング工程において、ドライエッチング法によって犠牲層をエッチング除去した場合には、エッチング剤であるエッチングガスが空隙15内から完全に排気されるように、真空排気を繰り返すようにすればよい。
【0045】
〔保護層形成工程〕
次に、図2(f)に示すように、共振子本体17を覆うように保護層20となる絶縁膜を形成し、パターニングして保護層20とする。ここで保護層20となる絶縁膜を、バイアススパッタの成膜条件を調整して成膜することで、下地となる上部電極13の端部により、保護層20に傾斜面20aが形成される。
【0046】
このようにして図1に示す音響波共振子1を製造することができる。なお、図1では、共振部18と基板16とを音響的にアイソレートするために空隙15を用いたが、音響インピーダンスの高い材料からなる層と低い材料からなる層を交互に積層して構成する音響反射器を用いてもよいし、基板16に凹部を設けることで空隙15を形成してもよい。
【0047】
さらに、図1では、傾斜面20aは保護層20の端部20bから延びるように配置したが、上部電極13と同じ高さから延びるように配置してもよい。また、傾斜部20aの断面形状が直線状となっている例を用いて説明したが、弧を描くような曲線状であってもよいし、傾斜角度の異なる複数の傾斜面の組み合わせとなっていてもよい。
【0048】
また、図1では、共振子本体17を覆うように保護層20を配置した例について説明したが、図3に示すように、上部電極13を圧電体層11が形成された領域内に配置し、圧電体層11上に上部電極13の上面および側面を覆うように保護層20を配置してもよい。ここで、保護層20は、上面視したときに、圧電体層11と接する周端部において最も広い面積となっており、その傾斜面20aは、断面視したときに、上部電極13の側面の領域から周端部に向けて漸次厚みが薄くなるように延びるテーパー形状で構成されている。このように、傾斜面20aが上部電極13の側面の全ての領域に対応するように配置されていることとなるため、よりスプリアスを抑制できる構成となる。
【0049】
また、図1,図3に示す例では、上部電極13の側面は、基板16の上面に対して垂直となっていたが、図4に示すように、下面に比べて上面が突出する逆テーパー形状としてもよい。図4は本発明の音響波共振子の共振子本体の要部断面図である。この場合には、上部電極13の側面が点線で示す共振部18の外側に延在していることとなるが、その延在している部分が直接圧電体層11に接していないため寄生容量の発生を抑制することができる。そして、保護層20の端部20b’が、上面視で、共振部18領域の外側に位置するようにすることで、保護層20が周波数調整膜として機能する場合においても、保護層20の膜厚が変わる部分は共振部20の外側となるため共振特性に影響を与えることがない。これにより、所望の共振特性を有する音響波共振子を提供することができる。
【0050】
なお、本発明の音響波共振子は、以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更や改良を加えることは何ら差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の一形態である音響波共振子1の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の一形態である音響波共振子1の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施の一形態である音響波共振子1の変形例の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の一形態である音響波共振子1の変形例の共振子本体部分の構成を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 音響波共振子
11 圧電体層
12 下部電極
13 上部電極
14 貫通孔
15 空隙
15a 空隙平坦面
15b 空隙傾斜面
16 基板
17 共振子本体
18 共振部
20 保護層
21a 傾斜部
21 犠牲層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と下面とを有する圧電体層と、前記圧電体層の上面の側に積層される上部電極と、前記圧電体層を挟んで前記上部電極と対向するように前記圧電体層の下面の側に積層される下部電極と、を含む共振部と、
前記上部電極の上面および側面を覆うとともに、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域において、前記側面に対して傾斜する傾斜部を有する保護層と、を有する音響波共振子。
【請求項2】
前記共振部との間に囲まれる空隙が形成されるように、前記共振部が配置される基体をさらに有する、請求項1に記載の音響波共振子。
【請求項3】
前記保護層の傾斜部は、断面視したときに、前記上部電極の側面の領域から漸次厚みが薄くなるように延びるテーパー形状である、請求項1または2に記載の音響波共振子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−130294(P2010−130294A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302303(P2008−302303)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】