説明

顔料分散剤及びその製造方法、顔料着色剤組成物、並びにカラーフィルター用顔料着色剤組成物

【課題】微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な顔料分散剤、及びその製造方法、並びにそれを用いた顔料着色剤組成物を提供する。
【解決手段】その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなることを特徴とする顔料分散剤、及びその製造方法、並びにそれを用いた顔料着色剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、この顔料分散剤を用いた顔料着色剤組成物、及びこの顔料着色剤組成物を用いたカラーフィルター用顔料着色剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の情報化機器の急速な発展に伴い、情報化機器の情報表示部材として液晶カラーディスプレーが多岐にわたって使用されている。液晶カラーディスプレーの用途としては、例えば、テレビジョン、プロジェクター、パーソナル・コンピューター、モバイル情報機器、モニター、カーナビゲーション、携帯電話、電子計算機や電子辞書の表示画面、情報掲示板、案内掲示板、機能表示板、標識板などのディスプレーや、デジタルカメラやビデオカメラの撮影画面などが挙げられる。このような様々な用途に用いられる液晶カラーディスプレーには、カラーフィルターが搭載されている。そして、このカラーフィルターについては、精細性、色濃度、光透過性、コントラスト性などの画像性能の色彩特性、及び光学特性に優れたものが要求されている。
【0003】
従来のカラーフィルターの3原色画素に使用されるカラーフィルター用の着色剤(以下、「カラーフィルター用カラー」とも記す)には、顔料とともに分散安定剤が使用されている。この分散安定剤としては、(a)通常「シナジスト」と称される、顔料に類似した骨格を有するとともに、この骨格にスルホン酸基などの酸性基等が導入された色素誘導体(以下、「色素誘導体」を単に「シナジスト」とも記す)と、(b)この色素誘導体(シナジスト)の酸性基と対になるアミノ基を有する塩基性のポリマー型の顔料分散剤と、を組み合わせたものが用いられる場合が多い(例えば、特許文献1参照)。このような(a)色素誘導体(シナジスト)と(b)ポリマー型の顔料分散剤を組み合わせて使用することにより、有機溶媒中における顔料の分散安定性を向上させることができるだけでなく、得られる顔料インキの粘度を下げ、インクの長期保存安定性を向上させることができる。
【0004】
しかしながら、液晶カラーテレビジョン用のカラーフィルターについては、例えば色濃度、光透過性、及びコントラスト比などのカラー表示性能(画素の性能)をより向上させることが要求される。そして、画素の性能を改良するために、使用する顔料の粒子径を小さくして超微粒子化する傾向にある。その結果、超微粒子化された顔料は、超微粒子化されない顔料と質量が同じであっても粒子個数が増加しており、表面積も拡大している。このため、従来の技術では顔料の分散安定性を十分に維持することは困難である。
【0005】
超微粒子化した顔料を安定に分散させるべく、酸性基を有するシナジストと顔料分散剤の使用量を増加させる方法がある(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、顔料濃度が相対的に低下するので、色濃度(画素の高色濃度)を満たすことができなくなる。すなわち、画素を高色濃度化して適切な画素塗膜組成とするために顔料含有率を高めるといった要求と、顔料の分散安定性とが両立されたインクを提供することは非常に困難である。
【0006】
また、顔料濃度の相対的な低下を改良すべく、顔料分散剤の分子構造中に酸性基を導入する方法が考えられる(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法はアミノ基を有する塩基性の顔料分散剤については適用することが困難である。これは、酸性基を有するシナジストと、アミノ基を有する塩基性のポリマー型の顔料分散剤との組合せにおいて、この顔料分散剤の分子構造中に酸性基を導入してしまうと、酸性基とアミノ基がイオン結合してしまう場合があるからである。そして、酸性基とアミノ基がイオン結合してしまうと、有機溶媒中で顔料分散剤がゲル化してしまう場合がある。また、顔料分散剤がゲル化しない場合であっても、顔料分散剤の分子内又は分子同士にイオン結合が存在するので、顔料分散剤とシナジストとがイオン結合し難くなる。このため、イオン結合を有する顔料分散剤は、顔料分散剤として十分機能しない場合がある。
【0007】
ところで、カラーフィルターは、通常、カラーフィルター用カラーをガラス上に塗布した後、フォトマスクなどを用いて必要部分のみ露光して不溶化させた後、アルカリ現像水溶液で未露光部分(不要部分)を除去する方法で製造される。なお、カラーフィルター用カラーには、例えばカルボキシル基などの酸性基を有する現像ポリマーが添加されている。このため、アルカリ現像水溶液で現像ポリマーの酸性基を中和し、現像ポリマーを水に可溶化させて除去している。しかしながら、アミノ基を有する塩基性の顔料分散剤は、その分子構造中に酸性基を導入することができないので、アルカリ現像水溶液には溶解しない。このため、現像時間が長い、或いは画素エッジがシャープではない等、現像性を悪化させる原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−176511号公報
【特許文献2】特開2001−240780号公報
【特許文献3】特開2008−298967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術に存在する上記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な顔料分散剤、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明の課題とするところは、塗布特性及び長期保存安定性に優れるとともに、画素の色濃度、精細性、コントラスト性、及び透明性などの光学的特性に優れた、液晶カラーテレビジョンなどの情報表示機器に装備されるカラーフィルターを製造可能なカラーフィルター用顔料着色剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーが顔料分散剤として優れた特性を示すこと、及びこのスルホン酸基含有アクリル系ポリマーを顔料分散剤として用いると、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤が提供される。
[1]その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなることを特徴とする顔料分散剤。
[2]前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000であるとともに、酸価が10〜250mgKOH/gであり、かつ、スルホン酸基由来の酸価が10〜100mgKOH/gである前記[1]に記載の顔料分散剤。
[3]前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、カルボキシル基を有する付加重合性モノマーに由来する構成単位を5〜30質量%含有する前記[1]又は[2]に記載の顔料分散剤。
[4]前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、その側鎖にスルホン酸基を有するものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の顔料分散剤。
[5]前記水酸基含有アクリル系ポリマーが、水酸基を有する付加重合性モノマーをラジカル重合することにより得られたポリマーである前記[4]に記載の顔料分散剤。
[6]前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、その末端にスルホン酸基を有するものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の顔料分散剤。
[7]前記水酸基含有アクリル系ポリマーが、その末端に水酸基を有するものであるとともに、前記水酸基は、1個以上の水酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤又は1個以上の水酸基を有する連鎖移動剤に由来する前記[6]に記載の顔料分散剤。
【0013】
また、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤の製造方法が提供される。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の顔料分散剤の製造方法であって、その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを得る工程を有することを特徴とする顔料分散剤の製造方法。
【0014】
さらに、本発明によれば、以下に示す顔料着色剤組成物が提供される。
[9]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の顔料分散剤と、その数平均粒子径が10〜150nmの顔料と、を含有することを特徴とする顔料着色剤組成物。
[10]塩基性官能基を有する色素誘導体をさらに含有する前記[9]に記載の顔料着色剤組成物。
【0015】
また、本発明によれば、以下に示すカラーフィルター用顔料着色剤組成物が提供される。
[11]前記[9]又は[10]に記載の顔料着色剤組成物を使用して得られることを特徴とするカラーフィルター用顔料着色剤組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の顔料分散剤は、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能なものである。また、本発明の顔料分散剤の製造方法によれば、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な顔料分散剤を簡便に製造することができる。
【0017】
さらに、本発明の顔料着色剤組成物は、低い粘度が長期間安定に保持され、塗布特性に優れたものである。また、本発明のカラーフィルター用顔料着色剤組成物は、塗布特性及び長期保存安定性に優れるとともに、画素の色濃度、精細性、コントラスト性、及び透明性などの光学的特性に優れた、液晶カラーテレビジョンなどの情報表示機器に装備されるカラーフィルターを製造可能なものである。なお、本発明のカラーフィルター用顔料着色剤組成物を用いれば、アルカリ現像の際の現像性に優れたカラーフィルター用レジストを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を例に挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の顔料分散剤は、その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、下記式で表される2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなるものである。
【0019】

【0020】
上記式で示される2−スルホ安息香酸無水物は、水酸基と反応して、カルボン酸エステルとスルホン酸になることが知られている。水酸基含有アクリル系ポリマーに、この2−スルホ安息香酸無水物を反応させることで、容易にスルホン酸基を導入し、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを得ることができる。このようにして得られたスルホン酸基含有アクリル系ポリマーは、導入されたスルホン酸基のイオン結合や水素結合などの吸着作用により、顔料やアミノ基を有する塩基性の色素誘導体に吸着し、顔料を高度に微分散させることができるとともに、顔料の安定性を向上させることができる。
【0021】
スルホン酸基をアクリル系ポリマーの構造中に導入する方法としては、例えば、スルホン酸基を有する付加重合性モノマー(以下、「付加重合性モノマー」のことを、単に「モノマー」とも記す)を重合する方法がある。なお、スルホン酸基を有するモノマーは、そのスルホン酸基が不飽和結合との反応性を有すると考えられている。このため、モノマー中のスルホン酸基は、通常、金属塩やアミン塩などの塩の状態、又はエステルの状態となっている場合が多い。スルホン酸基を塩の状態で有するモノマーは、ほとんどの有機溶剤には溶解しない。このため、スルホン酸基を塩の状態で有するモノマーを重合して、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを製造することは困難である。また、スルホン酸基が塩の状態であるので、モノマーは水分を含有していたり、水溶液となっていたりする場合がある。このため、スルホン酸基を塩の状態で有するモノマーを用いて重合した場合には、重合後に水分を除去する必要がある。また、重合後には、スルホン酸塩についてはスルホン酸に戻す必要があり、エステルについては加水分解する必要がある。
【0022】
また、スルホン酸基を有するモノマーも存在するが、この様なモノマーは一般的に有機溶剤に対する溶解性が極めて乏しい。スルホン酸基を有するモノマーの具体例としては、ジメチルプロパンスルホン酸アクリルアミドがある。このジメチルプロパンスルホン酸アクリルアミドは、アルコールなどには若干溶解するが、アルコール以外の一般的な有機溶媒にはほとんど溶解しない。
【0023】
上記以外にも、スルホン酸基をアクリル系ポリマーに導入する方法として、クロロスルホン酸、硫酸、又は二酸化硫黄などのスルホン化剤をアクリル系ポリマーに反応させる方法がある。しかしながら、これらのスルホン化剤を用いると、アクリル系ポリマーが分解してしまう場合がある。
【0024】
本発明の顔料分散剤を構成するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーは、前記式で表される2−スルホ安息香酸無水物を使用することで、アクリル系ポリマーの構造中にスルホン酸基が容易に導入されたものである。なお、2−スルホ安息香酸無水物は、スルホン酸基とカルボキシル基とが脱水縮合した酸無水物であるため、有機溶剤に対する溶解性が十分に高い。また、2−スルホ安息香酸無水物は、水酸基との反応性も高い。このため、水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させることで、容易にスルホン酸基含有アクリル系ポリマーとすることができる。
【0025】
また、水酸基を有するモノマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有モノマーを重合して、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを製造することも考えられる。しかしながら、前述の通り、スルホン酸基含有モノマーは有機溶剤に溶解し難いので、スルホン酸基含有モノマーを重合しても、重合反応が完結しない、或いは副反応が起きやすくなる等の不具合が生ずる傾向にある。このため、水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させることで、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを容易かつ高収率で得ることができる。
【0026】
2−スルホ安息香酸無水物と水酸基含有アクリル系ポリマーとの反応は、従来公知の方法で行なわれ、特に限定されない。好ましくは有機溶媒中で、反応温度−20〜100℃の範囲で行なわれる。また、2−スルホ安息香酸無水物は高い反応活性を有するので、特に触媒は使用しなくてもよい。但し、必要に応じて硫酸やp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなどの塩基性触媒を使用してもよい。
【0027】
次に、水酸基含有アクリル系ポリマーについて説明する。
本発明の顔料分散剤を構成するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーの前駆体である水酸基含有アクリル系ポリマーとしては、大きく分けて以下に示す(1)及び(2)が挙げられる。
(1)水酸基を有する付加重合性モノマーをラジカル重合して得られるアクリル系ポリマー。
(2)(2−1)水酸基を1個以上有するアゾ系ラジカル重合開始剤を使用して重合して得られる、その末端に水酸基を有するアクリル系ポリマー、又は(2−2)水酸基を1個以上有する連鎖移動剤を使用して重合して得られる、その末端に水酸基を有するアクリル系ポリマー。
【0028】
まず、前記(1)のアクリル系ポリマーについて説明する。
前記(1)のアクリル系ポリマーを得るために用いられる、水酸基を有する付加重合性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸グリセロール、(メタ)アクリル酸ポリ(n≧2)エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリ(n≧2)プロピレングリコール等を挙げることができる。
【0029】
前記(1)のアクリル系ポリマーは、水酸基を有する付加重合性モノマーの単独重合体であってもよい。但し、導入されるスルホン酸基の量を調整するといった観点からは、水酸基を有する付加重合性モノマーと、「他のモノマー」との共重合体であることが好ましい。「他のモノマー」としては、アミノ基を有しないモノマーや、スルホン酸基及びカルボキシル基との反応性を有しない(又は反応性が低い)モノマーが好ましい。「他のモノマー」として、アミノ基を有するモノマーを用いると、スルホン酸基とアミノ基がイオン結合してしまい、得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーが有機溶剤に不溶となってしまう場合がある。また、スルホン酸基及びカルボキシル基との反応性を有する(又は反応性が高い)モノマーを用いると、重合の際に架橋反応が起こり、ゲル化してしまう場合がある。
【0030】
「他のモノマー」の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの脂肪族、脂環族アルコールの(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの芳香環を含有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエトキシエチルなどのグリコールの(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどのアミド系モノマー;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;ビニルエーテル;ビニルエステル等を挙げることができる。
【0031】
次に、前記(2)のアクリル系ポリマーについて説明する。
前記(2−1)のアクリル系ポリマーは、例えば、前記(1)のアクリル系ポリマーで例示した水酸基を有する付加重合性モノマーを用いて重合する際に、水酸基を1個以上有するアゾ系ラジカル重合開始剤を使用して得られる、その末端に水酸基を有するアクリル系ポリマーである。水酸基を1個以上有するアゾ系ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のカルボキシル基をエポキシ基や2個以上の水酸基と反応して得られる化合物等を挙げることができる。
【0032】
また、前記(2−2)のアクリル系ポリマーは、例えば、前記(1)のアクリル系ポリマーで例示した水酸基を有する付加重合性モノマーを用いて重合する際に、水酸基を1個以上有する連鎖移動剤を使用して得られる、その末端に水酸基を1個以上有するアクリル系ポリマーである。水酸基を1個以上有する連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチルチオール、チオグリセロール等を挙げることができる。さらには、例えば、1個のチオール基と複数のカルボキシル基を有するチオリンゴ酸などの化合物にグリシドールを反応させて得られる、複数の水酸基を有するチオール系連鎖移動剤を使用することもできる。
【0033】
後述するカラーフィルター用顔料着色剤組成物に用いる場合を考慮し、アルカリ現像可能な顔料分散剤とするためには、前記(1)及び(2)のアクリル系ポリマーは、カルボシキル基を有する付加重合性モノマーに由来する構成単位を含むものであることが好ましい。カルボキシル基を有する付加重合性モノマーとしては、特に限定はされず、例えば、(メタ)アクリル酸、アクリル酸二量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシル基含有アクリル系モノマーにフタル酸無水物やシクロヘキセンジカルボン酸無水物などの酸無水物を反応させて得られるエステル型モノマー等を挙げることができる。なお、低級アルコールエステルを加水分解して、アクリル系ポリマーにカルボキシル基を導入することもできる。カルボキシル基はスルホン酸よりも酸性度が低いため、後述するアミノ基などの官能基を有する塩基性のシナジストとは、スルホン酸基の方が優先的にイオン結合する。このため、アクリル系ポリマー中にカルボキシル基が導入されていても、顔料の微粒子を良好に分散させることができる。
【0034】
水酸基含有アクリル系ポリマーに含まれる、カルボキシル基を有する付加重合性モノマーに由来する構成単位の割合は、全構成単位を100質量%とすると、5〜30質量%であることが好ましい。カルボキシル基を有する付加重合性モノマーに由来する構成単位の含有割合が5質量%未満であると、アルカリ現像に対する効果が得られない場合がある。一方、30質量%超であると、水酸基含有アクリル系ポリマー中のカルボキシル基の割合量が多くなりすぎてしまい、顔料の分散性が低下してしまう場合がある。
【0035】
次に、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの詳細について説明する。
【0036】
まず、前記(1)のアクリル系ポリマーを用いる場合について説明する。
水酸基を有する付加重合性モノマーを少なくとも構成成分として、従来公知のラジカル重合を行うことにより、水酸基が側鎖にランダムに配置された水酸基含有アクリル系ポリマーが得られる。得られた水酸基含有アクリル系ポリマーの水酸基と、2−スルホ安息香酸無水物とを反応させることにより、側鎖にランダムに配置された水酸基の位置にスルホン酸基が導入されたスルホン酸基含有アクリル系ポリマーを得ることができる。得られたスルホン酸基含有アクリル系ポリマー(顔料分散剤)を用いて顔料を分散させた場合、スルホン酸基と顔料との間で、「トレイン−ループ−テール」と称される構造で顔料分散剤の吸着が起こる。すなわち、顔料分散剤中にランダムに配置されたスルホン酸基が顔料に部分的に吸着することで、顔料が良好な状態で分散されることになる。
【0037】
ラジカル重合は従来公知の方法に従って行えばよい。なお、従来公知の有機溶媒中において、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物開始剤をラジカル重合開始剤として用いることが好ましい。また、必要に応じてドデシルメルカプタンなどのチオール系連鎖移動剤を使用することができる。重合温度は40〜150℃とすることが好ましく、50〜100℃とすることがさらに好ましい。
【0038】
上記のようにして得られるランダム構造の水酸基含有アクリル系ポリマーを用いれば、顔料を良好な状態で分散させることが可能なスルホン酸基含有アクリル系ポリマー(顔料分散剤)を得ることができる。
【0039】
前記(2)のアクリル系ポリマーは、水酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤を使用して、従来公知のラジカル重合によって製造することができる。また、前述のリビングラジカル重合による場合には、リビングラジカル重合が開始される開始化合物として、水酸基を有する化合物を使用することが好ましい。なお、開始化合物の種類は特に限定されない。このようにして得られた水酸基含有アクリル系ポリマーの水酸基と、2−スルホ安息香酸無水物とを反応させることにより、水酸基の位置にスルホン酸基が導入されたスルホン酸基含有アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0040】
顔料分散剤を構成するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーの数平均分子量(以下、「Mn」とも記す)は、2,000〜20,000であることが好ましく、5,000〜15,000であることがさらに好ましい。スルホン酸基含有アクリル系ポリマーのMnが2,000未満であると、分子量が小さすぎるため、得られる顔料着色剤組成物の長期安定性が達成できなくなる場合があるとともに、物品に使用した場合に物性が低下する傾向にある。一方、20,000超であると、一の分子鎖が複数の顔料粒子に吸着しやすくなり、顔料の分散性が向上され難くなる傾向にある。なお、本発明における「数平均分子量(Mn)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算の値を意味する。
【0041】
スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの酸価は、10〜250mgKOH/gであることが好ましく、50〜200mgKOH/gであることがさらに好ましい。また、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの酸価のうち、スルホン酸基由来の酸価は10〜100mgKOH/gであることが好ましく、50〜100mgKOH/gであることがさらに好ましい。スルホン酸基由来の酸価が大きすぎる(スルホン酸基の量が多すぎる)と、一の分子鎖が複数の顔料粒子に吸着しやすくなるので、顔料の分散性が向上され難くなるとともに、溶剤に対する溶解性が低下する傾向にある。なお、全体の酸価が250mgKOH/gを超えると、酸性基(酸基)の量が多すぎるので、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの親水性が高くなってしまい、耐水性が低下する傾向にある。
【0042】
次に、本発明の顔料着色剤組成物について説明する。
本発明の顔料着色剤組成物は、前述の顔料分散剤と、顔料とを含有する。顔料としては有機顔料が好ましい。有機顔料としては、公知の有機顔料を用いることができる。有機顔料の具体例としては、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニンブルー系顔料、フタロシアニングリーン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ・チオインジゴ顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン顔料、ニッケルアゾ顔料、不溶性アゾ系顔料、溶性アゾ系顔料、高分子量アゾ系顔料、カーボンブラック顔料、複合酸化物系黒色顔料、酸化鉄ブラック顔料、酸化チタン系黒色顔料、及びアゾメチンアゾ系黒色顔料からなる群より選択される、赤色、緑色、青色、黄色、橙色、紫色、及び黒色顔料を挙げることができる。
【0043】
顔料の数平均粒子径は10〜150nmであり、20〜80nmであることが好ましい。このように顔料を微細にして分散させることによって、顔料着色剤組成物をカラーフィルターに用いた場合にも、高透明性及び高コントラスト性を達成することができる。また、本発明の顔料着色剤組成物には、微粒子化された顔料を高度に微分散させることが可能な、前述の顔料分散剤が含有されている。このため、本発明の顔料着色剤組成物には、上記のような極めて微細な顔料が良好な状態で分散されているとともに、長期保存安定性にも優れている。
【0044】
顔料としては、カラーフィルターで使用される顔料を選択することが好ましい。赤色顔料としては、カラーインデックス(以下、C.I.)ピグメントレッド(PR)56、58、122、166、168、176、177、178、224、242、254、255を挙げることができる。緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(PG)7、36、58、ポリ(14〜16)ブロム銅フタロシアニン、ポリ(12〜15)ブロム−ポリ(4〜1)クロル銅フタロシアニンを挙げることができる。青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー(PB)15:1、15:3、15:6、60、80を挙げることができる。
【0045】
また、上記の顔料に対する補色顔料又は多色型の画素用顔料として、以下のものを挙げることができる。黄色顔料として、例えばC.I.ピグメントイエロー(PY)12、13、14、17、24、55、60、74、83、90、93、126、128、138、139、150、154、155、180、185、216、219、C.I.ピグメントバイオレット(PV)19、23を使用することができる。また、ブラックマトリックス用の黒色顔料として、例えばC.I.ピグメントブラック(PBK)6、7、11、26、銅・マンガン・鉄系複合酸化物を使用することができる。
【0046】
本発明の顔料着色剤組成物には、顔料分散剤を構成するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーのスルホン酸基とイオン結合させて吸着させるために、塩基性官能基を有する塩基性の色素誘導体を含有させることが好ましい。この色素誘導体は、色素骨格に塩基性官能基が導入されたものである。色素骨格としては、顔料と同一又は類似の骨格、顔料の原料となる化合物と同一又は類似の骨格が好ましい。色素骨格の具体例としては、アゾ系色素骨格、フタロシアニン系色素骨格、アントラキノン系色素骨格、トリアジン系色素骨格、アクリジン系色素骨格、ペリレン系色素骨格等を挙げることができる。
【0047】
色素骨格に導入される塩基性官能基としては、アミノ基が好ましい。導入されるアミノ基としては、1級、2級、及び3級アミノ基のいずれであってもよく、第4級アミノ基アンモニウム塩であってもよい。また、塩基性官能基はスルホンアミド基であることも好ましい。アミノ基等の塩基性官能基は、色素骨格に直接結合していてもよいが、アルキル基やアリール基などの炭化水素基;エステル、エーテル、スルホン、ウレタン結合を介して色素骨格に結合していてもよい。
【0048】
本発明の顔料着色剤組成物は、有機溶剤、水、又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤を媒体として用いることもできる。媒体としては、有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、ヘキサンやトルエンなどの炭化水素系溶剤;ブタノールなどのアルコール系溶剤;酢酸プロピルや酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;シクロヘキサノンやメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチレングリコールモノブチルエーテルやプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートやジプロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコール系エステル又はエーテル溶剤;N−メチルピロリドンやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶剤等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明の顔料着色剤組成物には、さらに、従来公知の添加剤や樹脂等を添加してもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、光重合開始剤等を挙げることができる。樹脂は、通常、樹脂ワニスとして使用される。樹脂ワニスとしては、感光性樹脂を含有する感光性樹脂ワニスや、非感光性樹脂を含有する非感光性樹脂ワニスが使用される。感光性樹脂の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、及び不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等を挙げることができる。これらの感光性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、感光性樹脂ワニスには、反応性希釈剤としてのモノマーが添加されていてもよい。感光性樹脂の中でも、分子中にフリーのカルボン酸基を有するアルカリ現像可能なアクリレート系の樹脂が好ましい。
【0050】
非感光性樹脂ワニスの具体例としては、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、スチレン系(共)重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂変性ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルポリオールウレタン系樹脂、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の水溶性塩、水溶性アミノアルキッド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂等を挙げることができる。これらの非感光性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0051】
顔料、顔料分散剤、及び色素誘導体は、個別に配合してもよい。なお、顔料の原料を用いて顔料化する際、或いは顔料を微細化する際に色素誘導体を添加し、色素誘導体によってその表面が塩基性となった顔料(表面処理顔料)を用いることも好ましい。さらに、顔料分散剤を、色素誘導体の存在下又は非存在下で、顔料化又は微細化の際に添加し、顔料を顔料分散剤で処理して樹脂処理顔料としてもよい。
【0052】
以上述べたように、本発明の顔料着色剤組成物は、顔料分散剤と顔料を少なくとも含有し、好ましくは色素誘導体をさらに含有し、必要に応じて有機溶媒、添加剤、及び樹脂等を添加して、顔料が分散されたものである。顔料着色剤組成物に含有される顔料の割合は、全体を100質量%とした場合に5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。また、顔料着色剤組成物に含有される顔料分散剤の量は、顔料100質量部に対して5〜300質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがさらに好ましい。顔料着色剤組成物に含有される色素誘導体の量は、顔料100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
また、顔料を分散させる方法は従来公知の方法であればよく、特に限定されない。顔料を分散させるために用いられる装置としては、例えば、縦型・横型メディアミル、サンドミル、アトライター、マイクロフルイダイザー、超音波分散機、3本ロール等を挙げることができる。これらの装置を使用して、顔料が所定の数平均粒子径となるまで分散させることが好ましい。
【0054】
本発明の顔料着色剤組成物は、様々な物品の着色剤として使用することができ、グラビアインキ、オフセットインキ、UVインクジェットインク等として用いることができる。特に、低粘度化と顔料の高微細化が可能であるとともに、長期保存安定性が良好なことから、カラーフィルター用顔料着色剤組成物(カラーフィルター用の着色剤)として好適である。このカラーフィルター用の着色剤としての使用は、特に限定されない。
【実施例】
【0055】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
(実施例1:ランダムポリマー型顔料分散剤)
加熱装置としてウォーターバスを備えるとともに、重合容器、攪拌機、モノマー滴下装置、試薬投入口、逆流冷却器、及び窒素ガス吹込み口をさらに備えた重合反応装置を準備した。重合容器に、重合溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)100部を仕込んだ。別の容器に、メタクリル酸メチル(MMA)43.5部、メタクリル酸ブチル(BMA)25部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(2EHMA)25部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)6.5部、ラウリルチオール2部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3部を添加し、混合して均一化させることで混合物を得た。得られた混合物の1/3量を重合容器に加え、80℃に加温した。80℃になったところで残りの2/3量を1.5時間かけて滴下し、窒素ガス気流下、70〜80℃で8時間重合反応を行なった。これにより、水酸基がランダムに配列したランダムポリマー(PGMAc溶液、固形分濃度:41.2%)を得た。
【0056】
得られたランダムポリマーの一部をサンプリングして、テトラヒドロフランを溶媒とするGPCにて分子量を測定したところ、示差屈折率(RI)検出器を用いた場合のMn(以下、「RI−Mn」と記す)は6,500であり、分子量分布(PDI)は1.88であった。また、GPCに付属している紫外線吸収(UV)検出器を用いたところ、吸収ピークが検出されず、紫外線吸収(UV)検出器を用いた場合のMn(以下、「UV−Mn」と記す)を測定することはできなかった。
【0057】
得られたランダムポリマーにPGMAcを添加して固形分濃度を30%とした後、冷却した。2−スルホ安息香酸無水物(SBA)7.3部を添加し、攪拌して溶解させた。次いで、70℃に加温して1時間反応させた。赤外分光光度計(IR)を使用し、SBAのスルホン酸カルボン酸無水物由来のピークである1,850cm-1付近の2本のピークの消滅と、ランダムポリマーの水酸基由来の3,450cm-1付近のピークの減少によって反応を追跡した。その結果、反応開始後1時間でSBAのスルホン酸カルボン酸無水物由来のピークが消滅した。なお、1,700cm-1付近には、カルボキシル基に帰属されるピークは検出されなかった。このことから、SBAはランダムポリマーの水酸基と反応し、カルボキシル基由来のエステル基が生成するとともに、スルホン酸が生成したことが示唆された。固形分濃度を測定したところ31.2%であった。
【0058】
生成した化合物の分子量をGPCで測定したところ、RI−Mnは6,600であり、PDIは2.13であった。なお、GPC測定において、SBAを反応させる前のポリマーをUV検出器によって測定したところ、ピークはほとんど検出されなかった。これに対して、SBAを反応させた後のポリマーをUV検出器によって測定したところ、ピークが確認され、UV−Mnは6,500であり、PDIは2.20であり、示差屈折率(RI)検出器を用いた場合の分子量(RI−Mn)とほぼ同一であった。このように、RI−MnとUV−Mnがほぼ同一となったのは、SBAを構成する芳香環がポリマーに導入され、その芳香環の紫外吸収能によってUV検出器でピークが確認できたためと考えられる。
【0059】
次に、得られたポリマーの酸価を測定した。具体的には、まず、試料約0.5部をはかりとり、トルエン/エタノール=1/1(体積/体積)を50ml加えて均一溶液とした。フェノールフタレインを指示薬とし、0.1NのKOHエタノール溶液を徐々に滴下して中和滴定した。その結果、ポリマーの酸価は20.5mgKOH/gであった。なお、この酸価はスルホン酸由来の酸価である。このことから、上記反応により得られたポリマーはランダムポリマーであり、スルホン酸基がランダムに配列した構造であることが示された。得られたポリマーを「顔料分散剤−1」と称する。
【0060】
(実施例2:末端基スルホン酸型顔料分散剤)
実施例1で用いたものと同様の重合反応装置を準備し、重合容器にPGMAc100部を仕込んだ。別の容器に、MMA30部、BMA30部、2EHMA40部、チオグリセロール3部、及びAIBN0.5部を添加し、混合して均一化させることで混合物を得た。得られた混合物を重合容器に加え、窒素気流下、攪拌しながら80℃に加温し、3時間重合反応を行った。さらに別の容器に、PGMAc133部、及びAIBN0.1部を添加し、混合して均一化させることで溶液を得た。得られた溶液を2時間かけて重合容器内に滴下し、5時間重合反応を行ってポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分濃度は30.1%であり、重合はほとんど完了していた。GPC測定によるRI−Mnは5,700であり、PDIは1.89であった。なお、UV検出器ではほとんど検出されなかった。
【0061】
次に、得られたポリマー溶液を冷却した後、SBA8.1部を添加し、攪拌して溶解させた。実施例1の場合と同様に反応させ、IRを使用し、SBAのスルホン酸カルボン酸無水物由来のピークの消滅と、ポリマーの水酸基由来のピークの減少を確認した。GPC測定では、RI検出器とUV検出器のいずれでも同等のピークが確認され、RI−MnとUV−Mnは、いずれも5,900であり、PDIは2.10であった。固形分濃度は30.9%であった。また、実施例1と同様に酸価を測定したところ、22.2mgKOH/gであった。以上のことから、得られたポリマーは、末端にスルホン酸基を有するが、側鎖にはカルボキシル基を有しない構造のポリマーであることが示された。得られたポリマーを「顔料分散剤−2」と称する。
【0062】
(実施例3:末端基スルホン酸型顔料分散剤)
実施例1で用いたものと同様の重合反応装置を準備し、重合容器にPGMAc100部を仕込んだ。別の容器に、MMA23部、BMA27部、2EHMA35部、メタクリル酸(MAA)15部、チオグリセロール3部、及びAIBN0.5部を添加し、混合して均一化させることで混合物を得た。得られた混合物を重合容器に加え、窒素気流下、攪拌しながら80℃に加温し、3時間重合反応を行った。さらに別の容器に、PGMAc133部、及びAIBN0.1部を添加し、混合して均一化させることで溶液を得た。得られた溶液を2時間かけて重合容器内に滴下し、5時間重合反応を行ってポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分濃度は30.1%であり、重合はほとんど完了していた。GPC測定によるRI−Mnは5,500であり、PDIは1.92であった。なお、UV検出器ではほとんど検出されなかった。また、酸価を測定したところ、95.0mgKOH/gであった。
【0063】
次に、得られたポリマー溶液を冷却した後、SBA8.1部を添加し、攪拌して溶解させた。実施例1の場合と同様に反応させ、IRを使用し、SBAのスルホン酸カルボン酸無水物由来のピークの消滅と、ポリマーの水酸基由来のピークの減少を確認した。GPC測定では、RI検出器とUV検出器のいずれでも同等のピークが確認され、RI−MnとUV−Mnは、いずれも5,600であり、PDIは2.21であった。固形分濃度は31.5%であった。また、実施例1と同様に酸価を測定したところ、109.9mgKOH/gであった。以上のことから、SBAを反応させる前のポリマーの酸価、及びSBAの配合割合から理論計算される、カルボン酸由来の酸価は約88.1mgKOH/gであり、スルホン酸基由来の酸価は21.8mgKOH/gであった。以上より、得られたポリマーは、末端にスルホン酸基を有するとともに、側鎖にカルボキシル基を有する構造のポリマーであることが示された。得られたポリマーを「顔料分散剤−3」と称する。
【0064】
(実施例6〜11:顔料着色剤組成物)
(a)顔料の微細化処理
カラーフィルター用顔料として、PR254、PG58、PY138、PY150、PB15:6、及びPV23を準備し、以下に示す方法で微細化処理を行なった。
それぞれの顔料100部、塩化ナトリウム400部、及びジエチレングリコール130部を、加圧蓋を装着したニーダーに仕込んだ。ニーダー内に均一に湿潤された塊ができるまで予備混合を行った。加圧蓋を閉じて、圧力6kg/cm2で内容物を押さえ込みながら7時間混練及び摩砕処理を行った。得られた摩砕物を、3,000部の2%硫酸中に投入して、1時間攪拌処理を行った。ろ過して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除去した後、十分水洗し、乾燥及び粉砕してそれぞれの顔料粉末を得た。得られた顔料粉末の数平均粒子径は約30nmであった。
【0065】
(b)顔料着色剤組成物の調製
表1に示す「使用材料」を表1に示す量(部)で配合し、ディゾルバーで2時間攪拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型媒体分散機を使用し、顔料を分散処理して顔料着色剤組成物を調製した。なお、表1中の「シナジスト1」、「シナジスト2」、及び「シナジスト3」は、それぞれ下記構造で表される、アミノ基を有する色素誘導体である。得られた顔料着色剤組成物を、使用した顔料それぞれの色の「顔料分散液」とした。
【0066】

【0067】

【0068】

【0069】
また、表1中の「アクリル樹脂」は、そのモノマー組成がBzMA/MAA=80/20であり、GPC測定によるRI−Mnが5,500であり、PDIが2.02であるものを使用した。なお、この「アクリル樹脂」は、PGMAc溶液(固形分濃度:30%)として使用した。
【0070】

【0071】
得られた顔料分散液に含まれる顔料の数平均粒子径の測定結果を表2に示す。また、顔料分散液の初期の粘度、及び45℃で3日間放置した後(保存後)の粘度の測定結果を表2に示す。
【0072】

【0073】
表2に示すように、得られた各色の顔料分散液に含まれる顔料の数平均粒子径は、いずれも40〜70nmであり、微細化された顔料は十分に微分散されていることが判明した。また、いずれの顔料分散液も初期の粘度は15mPa・s以下であるとともに、初期の粘度に比して、保存後の粘度も低いままである。さらに、初期の粘度と保存後の粘度とを比較すると、粘度変化は小さいことが明らかである。このため、顔料分散液は十分な安定性を有することが判明した。
【0074】
(実施例12〜14:カラーフィルター用顔料着色剤組成物)
(c)カラーフィルター用顔料着色剤組成物の調製
表3に示す「使用材料」を表3に示す量(部)で配合し、混合機で十分混合して、各色のカラーフィルター用顔料着色剤組成物(カラーレジスト)を得た。得られたカラーレジストを各色の「顔料インク」とした。
【0075】

【0076】
表3中の「感光性アクリル樹脂ワニス」は、BzMA/MAA共重合物にメタクリル酸グリシジルを反応させて得られたアクリル樹脂を含むワニスである。このアクリル樹脂のMnは6,000であり、PDIは2.38であり、酸価は110mgKOH/gであった。また、表3中の「TMPTA」はトリメチロールプロパントリアクリレートを示し、「HEMPA」は2−ヒドロキシエチル−2−メチルプロピオン酸を示し、「DEAP」は2,2−ジエトキシアセトフェノンを示す。
【0077】
(d)赤色、緑色及び青色ガラス基板の調製
シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。実施例12で得た赤色顔料インク−1を300rpmで5秒間の条件でガラス基板上にスピンコートした。80℃で10分間プリベークを行った後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光し、赤色ガラス基板を製造した。同様に、実施例13で得た緑色顔料インク−1及び実施例14で得た青色顔料インク−1をそれぞれ使用して、緑色ガラス基板及び青色ガラス基板を製造した。
【0078】
得られた各色のガラス基板(カラーガラス基板)は、いずれも優れた分光カーブ特性を有するとともに、耐光性や耐熱性等の堅牢性に優れていた。また、いずれのカラーガラス基板も、透光性やコントラスト比等の光学特性に優れていた。以上より、実施例12〜14で得た顔料インクは、カラーフィルターの画素を形成するためのインクとして極めて有用であることが判明した。
【0079】
(現像性試験)
実施例12〜14で得た顔料インクを用いて製造したカラーガラス基板に、0.1Nのテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を5秒ごとにスポットし、「何秒後に塗膜の露光部が溶解するか」といった現像試験を行った。その結果、赤色ガラス基板では10秒後、緑色ガラス基板では20秒後、青色ガラス基板では10秒後に露光部の塗膜が溶解した。また、いずれの場合も膜状のカスが出ず、良好な現像性を示した。さらに、溶解せずに残存した塗膜の端部(エッジ)を顕微鏡で観察したところ、シャープであることがそれぞれ確認できた。すなわち、実施例12〜14で得た顔料インクを用いれば現像時間を短縮することができ、生産性の向上が可能である。
【0080】
(比較例1及び2)
(1)「顔料分散剤−1」に代えて、スルホン酸基を有しないポリエステル系分散剤(12−ヒドロキシステアリン酸を開始化合物とする、ポリε−カプロラクトンとポリエチレンイミンとの縮合物、Mn:12,000、アミン価:12mgKOH/g)を用いたこと、及び(2)「シナジスト1」に代えて、モノスルホン化ジケトピロロピロールを用いたこと以外は、前述の実施例6と同様にして比較用赤色顔料分散液を調製した。また、(1)「顔料分散剤−3」に代えて、上記のポリエステル系分散剤を用いたこと、(2)「シナジスト2」に代えて、モノスルホン化PY−138を用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして比較用黄色顔料分散液を調製した。
【0081】
調製したこれらの比較用顔料分散液を使用し、実施例12の場合と同様の方法で比較用の赤色顔料インク及び黄色顔料インクを調製するとともに、これらの顔料インクを用いて比較用の赤色ガラス基板及び黄色ガラス基板を製造した。
【0082】
製造した比較用の赤色ガラス基板及び黄色ガラス基板について、前述の現像性試験を行ったところ、塗膜の露光部が完全に無くなるのに50秒を要した。これは、顔料分散剤がアルカリ現像できないものであるために、現像時間が長くなったものと考えられる。また、いずれのガラス基板についても、塗膜の露光部は膜状に脱離しており、カスが発生していた。これは、顔料分散剤がアルカリ溶解性ではないためであると考えられる。以上より、本発明の顔料分散剤を用いて形成された塗膜は、現像性に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の顔料分散剤は、顔料に対する親和性を有するスルホン酸基を側鎖又は末端に有するため、優れた顔料分散性を有する。また、このような顔料分散剤を用いることで、低粘度で長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製することができる。そして、この顔料着色剤組成物を用いて得られる顔料インクは、塗布特性や現像性に優れているので、精細性、色濃度、光透過性、コントラスト性などの光学的特性が改良された優れたカラーフィルターを製造するための材料として有用である。なお、このようにして製造されたカラーフィルターを備えた画素表示装置は、精細性、色濃度、光透過性、コントラスト性などの画像性能に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて得られるスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなることを特徴とする顔料分散剤。
【請求項2】
前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000であるとともに、酸価が10〜250mgKOH/gであり、かつ、スルホン酸基由来の酸価が10〜100mgKOH/gである請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、カルボキシル基を有する付加重合性モノマーに由来する構成単位を5〜30質量%含有する請求項1又は2に記載の顔料分散剤。
【請求項4】
前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、その側鎖にスルホン酸基を有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項5】
前記水酸基含有アクリル系ポリマーが、水酸基を有する付加重合性モノマーをラジカル重合することにより得られたポリマーである請求項4に記載の顔料分散剤。
【請求項6】
前記スルホン酸基含有アクリル系ポリマーが、その末端にスルホン酸基を有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項7】
前記水酸基含有アクリル系ポリマーが、その末端に水酸基を有するものであるとともに、
前記水酸基は、1個以上の水酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤又は1個以上の水酸基を有する連鎖移動剤に由来する請求項6に記載の顔料分散剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の顔料分散剤の製造方法であって、
その側鎖又は末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2−スルホ安息香酸無水物を反応させて、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーを得る工程を有することを特徴とする顔料分散剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の顔料分散剤と、その数平均粒子径が10〜150nmの顔料と、を含有することを特徴とする顔料着色剤組成物。
【請求項10】
塩基性官能基を有する色素誘導体をさらに含有する請求項9に記載の顔料着色剤組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の顔料着色剤組成物を使用して得られることを特徴とするカラーフィルター用顔料着色剤組成物。

【公開番号】特開2012−224718(P2012−224718A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92363(P2011−92363)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】