説明

顕微鏡用サンプル板及びその製造方法

【課題】 観察等を行う箇所を容易に再現良く探し出すことが可能な顕微鏡用サンプル板を提供すること。
【解決手段】 走査型プローブ顕微鏡や光学顕微鏡での試料の観察,測定又は加工に用いるための顕微鏡用サンプル板7であって、当該サンプル板7が透明材料からなり、低い拡大倍率で視認可能な低倍率用マーキング2aと、当該低倍率用マーキング4aの内側又は周縁に形成されていて、高い拡大倍率で判別可能な高倍率用マーキング4cとを有し、当該高倍率用マーキング4cの内側又は周縁に試料等5を有していることを特徴とする顕微鏡用サンプル板7である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高倍率での顕微鏡による試料の観察,測定及び/又は加工に用いるための、微小加工サンプル基板や試料用ステージをはじめとした顕微鏡用サンプル板と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数mm〜数十mmの大きさを有する板状材の表面に、直径数μm以下,深さ数百nmといった微小領域に表面加工した微小加工サンプル基板や、当該板状材の表面に直径数μm以下といった微小試料を載置した試料用ステージをはじめとした、顕微鏡による試料の観察,測定及び/又は加工(以下、観察等とする。)に用いるためのサンプル板に対して、AFM(原子間力顕微鏡)や光学顕微鏡等の高倍率の顕微鏡によって観察等を行う際に、当該観察等を行うべき箇所を探すのは、極めて困難な作業である。
【0003】
さらに、こうした顕微鏡用サンプル板を顕微鏡に設置する際には、観察等を行う対象となる微小加工領域や微小試料(以下、試料等とする。)の大きさは、数μm以下と極めて微小であることが多いために、肉眼で確認しながらこれらを設置することが出来ないことが多い。
【0004】
そのため、この問題を回避するべく、顕微鏡用サンプル板の表面に目視できる大きさのマーキングを、顕微鏡による観察等を行う際に形成する方法が広く知られている。また、STM(走査型トンネル顕微鏡)においては、細く絞ったスポット光を発生するスポット光発生手段と、このスポット光を探針直下の試料表面に照射する照射手段とを備え、前記探針の位置決めのためのマーキングを形成したことを特徴とした技術が、従来知られている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平08−43408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、顕微鏡用サンプル板の表面に目視できるような大きさのマーキングを形成した場合、試料を探すべき領域はある程度限定することが出来るものの、当該マーキングの内側又はその近くで、対象となる試料をしらみつぶしに探す必要があることには変りはない。殊に、AFMを用いて観察等を行う場合には、AFMの視野が他の顕微鏡に比べて狭いことから、試料を探し当てることは非常に困難な作業となる。従って、特に試料等の経時変化を調べる場合をはじめ、試料等に対して繰り返し観察等を行う場合において、同一の試料等を再現良く探し出すことが困難であるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献1に係る技術では、探針の位置合わせをするためのマーキングは、あくまで光学顕微鏡像の中における探針の位置を可視的に表示させるためのものである。ここで、スポット光を特許文献1と同様の要領で顕微鏡用サンプル板に照射させてレーザ加工を行い、マーキングを形成させることも考えられるが、このようにして形成されたマーキングであっても、光学顕微鏡等を用いなければ確認出来ないほどの大きさであるため、これらを肉眼によって容易に確認することは出来ない。そのため、これらを顕微鏡に載置する際、探針又は対物レンズと試料との位置のずれが大きくなることから、試料等を探す時間が増加するという問題点があった。
【0008】
また、上記方法でレーザ加工を行い、マーキングを形成させた場合には、試料等を設置する側の面には大量のデブリ等が発生する。発生したデブリ等は、測定箇所にある試料等を汚染してしまう。ここで、特にAFMが表面形状を測定する装置であることから、こうした汚染物質の存在はAFMの測定精度を低下させる原因となるという問題点があった。
【0009】
さらに、一部のAFMでは、端から何mmというように、加工された領域を指定することでこうした問題点を図ろうとしているものもあるが、このような機能を有しているAFMは未だごく少数であり、特に汎用のAFMでは、指定した量を自動的に走査させる機能を有しないものが多い。
【0010】
従って、本発明の目的とするところは、特に汎用の顕微鏡において用いる顕微鏡用サンプル板について、第1には、観察等を行う箇所を容易に再現良く探し出すことが可能な顕微鏡用サンプル板を提供することである。第2には、微小な試料等に対して観察等を行うような場合あっても、肉眼によりその位置を容易に確認することの出来る顕微鏡用サンプル板を提供することである。第3には、観察・測定を行う箇所への汚染のない、極めてクリーンな、顕微鏡用サンプル板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、顕微鏡用サンプル板に特徴的なマーキングを施し、観察等を行うべき箇所を容易に把握しやすくすることが、係る問題点の解決に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、請求項1記載の発明は、走査型プローブ顕微鏡や光学顕微鏡での試料の観察,測定又は加工に用いるための顕微鏡用サンプル板であって、当該サンプル板が透明材料からなり、低い拡大倍率で視認可能な低倍率用マーキングと、当該低倍率用マーキングの内側又は周縁に形成されていて、高い拡大倍率で視認可能な高倍率用マーキングとを有し、当該高倍率用マーキングの内側又は周縁に試料等を有していることを特徴とする顕微鏡用サンプル板である。
【0013】
ここで、本発明に係る顕微鏡用サンプル板としては、試料用ステージ、微小加工サンプル用基板等が挙げられる。
このうち、試料用ステージは、観察等に供する試料等を載置するためのものである。一方、微小加工サンプル用基板は、その主面に集束イオンビーム(FIB)やフォトリソグラフィをはじめとした表面加工を行い、その加工状態や経時変化等について、高倍率顕微鏡により観察等を行うためのものである。
【0014】
また、本発明に係る顕微鏡用サンプル板7において、当該試料等5は、図1に示すように、以下のような手順で探すことが出来る。
(1) 顕微鏡の倍率を当該顕微鏡用サンプル板7の全体又は大部分が見える位の低い拡大倍率に合わせて、低倍率用マーキング4aを探す(図1(a))。
(2) 低倍率用マーキング4aの全体又は大部分が見えるところまで拡大倍率を高めて、高倍率用マーキング4cを探す(図1(b))。
(3) 高倍率用マーキング4cの全体又は大部分が見えるところまで拡大倍率を高め、最終的に観察等を行うべき試料等5を探す(図1(c))。
【0015】
そして、当該顕微鏡用サンプル板7の有するマーキングは、上記低倍率用マーキング4aと高倍率用マーキング4cの2種類のみに限られるものではなく、例えば低倍率用マーキング4aと高倍率用マーキング4cとの中間に、単数又は複数の中間倍率用マーキングを有するような構成にすることも好ましい。特に顕微鏡の視野が非常に狭い場合や、非常に高い倍率での観察等を要する場合においても、これらのマーキングの内側又は周縁の、より高い拡大倍率用のマーキングを探していくことで、最終的に観察等を行う試料等を容易に探し出すことが出来るからである。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成に加えて、当該高倍率用マーキングを、当該サンプル板の厚み方向において内部に有していることを特徴とする、顕微鏡用サンプル板である。
【0017】
ここで、特に高い拡大倍率に対応したマーキングほど、当該顕微鏡用サンプル板の厚さ方向において、試料等のある面の近くに有していることが好ましい。顕微鏡の拡大倍率が大きくなるに従って、顕微鏡の焦点深度が浅くなり、厚さ方向の識別範囲が狭くなるからである。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の構成に加えて、各マーキングを、当該サンプル板の厚み方向において内部又は当該サンプル板の試料等と反対側の面に有していることを特徴とする顕微鏡用サンプル板である。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3記載の構成に加えて、当該低倍率用マーキングが、500μm〜2mm四方の大きさであることを特徴とする、顕微鏡用サンプル板である。
【0020】
ここで、マーキングが500μm〜2mm四方の大きさを有すると、当該マーキングを肉眼で確認することが可能である。肉眼で確認できるマーキングの大きさは、当該顕微鏡用サンプル板の表面に用いる材質や表面状態、マーキングの形状等により左右される。ここで、レーザによってマーキングを形成した場合は、1mm四方のマーキングであれば、殆どの形態において肉眼で確認することが可能である。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4記載の構成に加えて、当該低倍率用マーキングが当該サンプル板の試料等と反対側の面、もしくはその近傍にあって、当該低倍率用マーキングにより囲まれた領域内が、塗り潰されていることを特徴とする、顕微鏡用サンプル板である。
【0022】
請求項6記載の発明は、走査型プローブ顕微鏡や光学顕微鏡の視野上で微小な試料を探す方法であって、顕微鏡用サンプル板の全体又は大部分が視野にある状態で、肉眼又は低い拡大倍率で低倍率用マーキングを探すステップと、当該低倍率用マーキングの全体又は大部分が視野にある状態で、より高い拡大倍率に対応したマーキングを探すステップと、当該高倍率用マーキングの全体又は大部分が視野にある状態で、試料を探すステップとを含むことを特徴とする、顕微鏡による測定方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、より低い拡大倍率で顕微鏡用サンプル板又はマーキングの全体又は大部分を一視野で見渡すことで、より高倍率用のマーキング又は試料等を容易に探し出すことが可能となる。それにより、特に高倍率の顕微鏡を用いた観察等に要する時間を大幅に短縮することの出来る顕微鏡用サンプル板を提供することが出来るという効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、試料の経時変化を観察し測定する場合や、顕微鏡用サンプル板に複数の試料等を載置した場合であっても、別の試料等と間違えることなく、同一の試料等を再現良く容易に探し出すことが出来るという効果を奏する。
【0025】
また、請求項2記載の発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、より高い拡大倍率に対応したマーキングを、当該サンプル板の厚み方向において内部に配することにより、当該マーキングを試料等のより近くに配することが出来る。そのため、顕微鏡の拡大率が大きくなって顕微鏡の焦点深度が低下した際にも、マーキングの内側の試料等又は他のマーキングをより明瞭に識別することが出来るため、より効率良く観察等を行うことが可能な顕微鏡用サンプル板を提供することが出来るという効果を奏する。
【0026】
また、請求項3記載の発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、当該サンプル板の厚み方向において内部,又は試料等と反対側の面に各マーキングを有することにより、基体表面の加工により発生していたデブリやドロスの発生を抑え、当該顕微鏡用サンプル板の試料等のある面を汚染して観察等における誤差要因となることを、効果的に防ぐことが出来るという効果を奏する。
【0027】
請求項4記載の発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、低倍率用マーキングを肉眼で確認可能な大きさとすることにより、当該顕微鏡用サンプル板を当該高倍率顕微鏡に設置する際に、当該低倍率用マーキングを目視で確認しながら設置することが可能となり、当該顕微鏡の対物レンズやプローブ等の位置を当該低倍率用マーキングに合わせるための手間を省くことが出来るという効果を奏する。
【0028】
請求項5記載の発明に係る顕微鏡用サンプル板によれば、低倍率用マーキングにより囲まれた領域内が塗り潰されていることにより、特に当該顕微鏡用サンプル板の裏面が非研磨面のような粗い面であるような場合においても、肉眼又は低い拡大倍率で観察した時に、当該低倍率用マーキングの視認性を高め、より確実に試料を探すことが出来るという効果を奏する。
【0029】
また、請求項6の発明に係る顕微鏡による測定方法によれば、当該サンプル板の全体が把握できる状態から、各マーキングを辿っていくごとに徐々に当該顕微鏡の拡大倍率を高めていくことが出来るため、試料の観察の際に当該試料に辿り着くまでの時間を大幅に短縮するような、顕微鏡による測定方法を提供することが出来るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本実施形態は、基体1に低倍率用マーキング4a,高倍率用マーキング4cを形成したことを特徴とする、顕微鏡用サンプル板7とその製造方法である。
【0031】
<サンプル板7の製造方法について>
まず、当該顕微鏡用サンプル板7の製造方法について説明する。
本実施形態に用いる基体1としては、後述する当該基体1の内部を加工するためのパルスレーザ3に対して透明な材料を用いる必要があるが、ここで特に、可視光に対して透明な材料を用いることが好ましい。これは、基体1に形成した各マーキング4a〜4cの位置が肉眼で容易に視認できるからである。透明な材料の具体例としては、シリカガラス,サファイヤ,水晶,ルチル,ダイヤモンド,ZnO,Ga,LiTaO等が挙げられる。
【0032】
これら基体1に対しては、当該パルスレーザ3により各マーキング4a〜4cを安定的に形成させるため、少なくとも当該パルスレーザ3の入射面に対して研磨工程を行い、平坦化させておく。ここで特に、当該サンプル板7を透過照明型の光学顕微鏡に用いる場合には、基体1の両側の主面が鏡面になるように研磨工程を行う必要がある。当該研磨工程では、流動砥粒や固定砥粒等を用いた公知の研磨方法を適用することが可能である。
【0033】
そして、当該研磨工程を行った基体1に対して、低倍率用マーキング4a,高倍率用マーキング4c,さらに必要に応じて中間倍率用マーキング4bを形成し、顕微鏡用サンプル板7を作製する。当該マーキング4a〜4cの具体的な構成は、後述のとおりである。
【0034】
当該マーキング4a〜4cの形成方法としては、レーザ加工,電子ビーム加工,プラズマ加工,集束イオンビーム(FIB),フォトリソグラフィ(反応性イオンエッチング)をはじめとした、ミクロン単位又はサブミクロン単位での加工に対応した方法が好ましい。特に、低倍率用マーキング4aを形成する方法としては、印刷等の手段を用いることも可能である。
【0035】
ここで、当該マーキング4a〜4cのうち少なくとも一つ以上について、基体1の内部に対して加工を行うようにする。基体1の内部に対する加工方法としては、基体1に対して多光子吸収を生じるようなレーザを用い、これをレンズにより集光して照射することが挙げられる。このように、基体1の内部に対してレーザ加工を行うことで、厚さ方向についてマーキング4a〜4cの位置を調節することが可能になるとともに、デブリやドロスによる基体1の汚染を防いでクリーンな加工を行うことが出来るため好ましい。
【0036】
以下において、当該マーキング4a〜4c(以下、マーキング4とする。)をパルスレーザ3により基体1の内部に形成する場合の好ましい構成について説明する。
【0037】
基体1に対して多光子吸収を生じさせるパルスレーザ3としては、例えばYAGレーザ及びその高調波やTi−サファイヤレーザ等が挙げられるが、特にTi−サファイヤレーザのように1ps以下のパルス幅を有するレーザを用いた場合には、パルス幅が短く基体1との相互作用を起こす時間が短い。そのため、当該パルスレーザ3が熱拡散をほとんど起こすことなく、当該パルスレーザ3の焦点3cの近傍にある基体1のみを加工することが出来るため好ましい。
【0038】
また、パルスレーザ3として1ps以下という極めて短いパルス幅を有するレーザを用いた場合には、当該パルスレーザ3によるピークパワー密度は10TW/cm以上を容易に実現できる。そのため、基体1に対して非線形光学効果である多光子吸収が生じ、基体1が相変化するのに必要な活性化エネルギーが与えられる。
【0039】
特に好ましいパルスレーザ3の具体的な条件としては、パルス幅は150fs〜1ps,繰返し周期1kHz〜250kHz,平均出力1W前後のものを用いることが好ましい。特に、高い拡大倍率に対応した微細なマーキング4を形成させるためには、多光子吸収を引き起こすのに充分なピークパワー密度の範囲内で、より低いエネルギー密度のパルスレーザ3を用いて加工を行うのが好ましい。
【0040】
当該パルスレーザ3の加工対象である基体1は、例えば図2に示すように、XYZステージの付いた載置台2上に、少なくとも片面を鏡面に研磨した状態で、当該鏡面がレーザ発光源3aを向くようにして設置する。そして、パルスレーザ3を集光レンズ3bで集光し、XYZステージ(図示せず)を操作して当該基体1をレーザ発光源3aに対して相対的に移動させる。それにより、当該基体1におけるパルスレーザ3の焦点3cの近傍のみを改質させてマーキング4を形成することが出来る。この時、基体1の加工は、レーザ発光源3aから遠い側の面から順次行っていくことが好ましい。なぜならば、既に加工されたマーキング4によりパルスレーザ3が散乱又は反射し、当該パルスレーザ3による加工に悪影響が及ばないようにするためである。
【0041】
また、マーキング4はパルスレーザ3による1回の走査によって形成されるものに限られない。例えば、微小なピッチをあけて複数本のマーキング4を集積し、より太いマーキングを形成することにより、又はパルスレーザ3を用いて既存のマーキングをなぞり、より色の濃いマーキングを形成することにより、当該マーキングの視認性をより高めることが出来るため、より好ましい。
【0042】
一方で、基体1に対して吸収を有する波長のレーザを用いて加工を行った場合には、レーザの照射した表面に対して加工を行うことが出来る。このような加工方法の例としては、
(1) YAGレーザの2倍波や3倍波を用い、基体1をレーザに対して相対的に移動させながら、基体1の表面にマーキング4を描く方法
(2) 予め基体1の表面にマスキングパターンを形成した後にエキシマレーザを照射し、マスキングの無い部分についてマーキング4を形成する方法
等が挙げられる。
【0043】
また、基体1の内部に対してはパルスレーザ3の多光子吸収により高倍率用のマーキング4を形成し、その上で、基体1の表面に対してはYAGレーザやエキシマレーザ等により低倍率用のマーキング4を形成するように、複数の種類のレーザを併用することも可能である。
【0044】
<サンプル板7の構成について>
以上のようにして形成された顕微鏡用サンプル板7であるが、AFM(原子間力顕微鏡),光学顕微鏡等における高倍率での観察時に好ましく適用することが出来るものであり、用途の具体例としては、試料用ステージ,微小加工サンプル用基板等が挙げられる。ここで、試料用ステージは観察,測定及び加工(以下、観察等とする。)に供する試料を載置するためのものである。一方で微小加工サンプル用基板は、集束イオンビーム(FIB)やフォトリソグラフィ等の表面微細加工を当該基板の主面に行い、微細加工を行った箇所の加工状態やその経時変化等について観察等を行うためのものである。
【0045】
当該サンプル板7では、低倍率用マーキング4aの内側又は周縁に高倍率用マーキング4cを有する。さらに、当該高倍率用マーキング4cの内側又は周縁に観察等の対象、すなわち試料用ステージ上の試料及び微小加工サンプル用基板に形成された微細加工箇所(以下、試料等5とする。)を有するような構成をとる。
【0046】
このうち、低倍率用マーキング4aの大きさは、当該サンプル板7の全体又は大部分が見える状態で、当該低倍率用マーキング4aの形状が視認出来る程度の大きさであることが好ましく、具体的には、当該サンプル板7の大きさの1/5〜1/100程度であることが好ましい。低倍率用マーキング4aがサンプル板7の大きさの1/5よりも大きいと、特に試料等5が微細な時において、確認すべきマーキングの数が増加して操作が煩雑になり好ましくない。一方で、低倍率用マーキング4aがサンプル板7の大きさの1/100よりも小さいと、当該低倍率用マーキング4aが顕微鏡像のノイズと区別が付きにくくなるため、好ましくない。
【0047】
さらに、低倍率用マーキング4aの大きさは、肉眼で確認出来る程度の大きさであることが好ましい。当該サンプル板7を顕微鏡に設置する際に、試料等5やマーキング4a〜4cのおおまかな位置を確認することが出来るからである。具体的な大きさとしては、当該サンプル板7の材質や表面状態、マーキング4a〜4cの形状等によっても左右されるが、例えば両面を鏡面研磨した透明材料に中抜きの四角形のマーキングを描いた場合には、約500μm以上であることが好ましい。
【0048】
また、当該低倍率用マーキング4aの大きさは、2mm四方以下であることが好ましい。なぜならば、特にAFMで観察等を行う場合、一度に見渡すことの出来る視野がきわめて狭いからであり、徒にマーキングの数が増えて試料等5に到達する時間が長くなるのを防ぐことが出来るためである。
【0049】
一方で、高倍率用マーキング4cの大きさは、当該高倍率用マーキング4cの全体又は大部分が見える状態で試料等5を観察した時に、これらの形状が分かる程度の大きさであることが好ましく、具体的には、低倍率用マーキング4aと同じ理由により、当該試料等5の大きさの5倍〜100倍程度であることが好ましい。
【0050】
ここで、基体1に形成されるマーキングは、上記の低倍率用マーキング4a及び高倍率用マーキング4cのみによって構成されるとは限らない。低倍率マーキング2aと高倍率用マーキング4cとの間に、図3に示すように、単数又は複数の拡大倍率に対応した中間倍率用マーキング4bを形成することが好ましい。
【0051】
中間倍率用マーキング4bを有する場合には、試料等5は以下のようにして見つけることが可能である。
(1) 低倍率用マーキング4aの全体又は大部分が見える状態で中間倍率用マーキング4bを探す。
(2) 必要に応じて同様の方法によって、より高倍率用の中間倍率用マーキングを探す。
(3) 中間倍率用のマーキング2cの全体又は大部分が見える状態で高倍率用マーキング4cを探す。
(4) 高倍率用のマーキング2bの全体又は大部分が見える状態で試料等5を探す。
【0052】
中間倍率用マーキング4bを設けることで、顕微鏡の視野が非常に狭い場合や、非常に高い拡大倍率での観察等を行う場合において、試料等5を容易に探し出すことが出来るため好ましい。これら中間倍率用マーキング4bの大きさは、各々1段階低い拡大倍率に対応したマーキングの1/5〜1/100の大きさになるようにする。
【0053】
ここで、これらのマーキング4a〜4cのうち少なくとも一つ以上が、当該サンプル板7の厚み方向における内部に構成するようにするが、ここで特に、図4に示すように、高倍率用マーキング4cが当該サンプル板7の厚み方向において内部に有することが好ましい。顕微鏡の拡大倍率が大きくなると、顕微鏡の焦点深度が低下し、当該サンプル板7の厚さ方向について明瞭に識別出来る範囲が狭くなるからである。
【0054】
また、基体1に形成されているマーキング4a〜4cが、全て当該サンプル板7の厚み方向において内部に有しているか、又は当該サンプル板7の試料等5と反対側の面に有していることが好ましい。当該サンプル板7の試料等5の載置された面にマーキング4a〜4cを設けないようにすることで、加工時に発生したデブリやドロスが当該試料等5の載置された面を汚染することを防げるからである。
【0055】
さらに、低倍率用マーキング4aに関しては、当該サンプル板7の試料等5から最も遠い厚さ位置において、当該低倍率用マーキング4aにより囲まれた領域内が、塗り潰された形状で形成されていることが好ましい。当該サンプル板7の試料等5と反対側の面が、磨りガラスのようにマーキング4a〜4cの目立ちにくい面であっても、また低倍率用マーキング4aがより小さいものであっても、確実にマーキング4a〜4c又は試料等5を探すことが出来るからである。
【実施例】
【0056】
本発明を、以下の実施例及び図2〜図4を用いて、詳細に説明する。
[実施例1]
本実施例に係る顕微鏡用サンプル板7は、図5に示すように、基体1として単結晶サファイヤ基板を用い、試料を載置する側とは反対側の表面に低倍率用マーキング2aを、基体1の内部に高倍率用マーキング2cを形成した試料用ステージである。
【0057】
本実施例で用いる単結晶サファイヤ基板としては、厚さ0.5mmの平板状のものを用い、予めその両面に研磨を行って表面が鏡面となるようにした。そして、当該単結晶サファイヤ基板を載置台2に設置し、パルス幅150fs、繰返し周期1kHz、レーザ出力1.4mWのパルスレーザ3をレーザ発光源3aから発生させ、当該パルスレーザ3について集光レンズ3bを用いて当該単結晶サファイヤ基板のマーキング4を形成する位置に集光させ、焦点3cを形成させた。そして当該焦点3cを、走査速度500μm/sで基体1に対して相対的に走査させ、各マーキングを作製した。
【0058】
ここで低倍率用マーキング2aは、当該基体1の試料を載置する側とは反対側の表面において、当該パルスレーザ3によって1辺500μmの四角形を形成した後、当該パルスレーザ3を5μmピッチで当該四角形の外側に向かって10回走査させ、当該四角形の各辺を太くすることにより形成した。当該低倍率用マーキング2aは、各辺を太く形成しているため、肉眼でより容易に識別することが出来る。
【0059】
一方の高倍率用マーキング2bは、基体1の試料側から深さ50μmの位置において、当該パルスレーザ3によって1辺100μmの四角形を形成した後、当該パルスレーザ3で同一箇所を2回走査させることにより形成した。高倍率用マーキング2bの各辺を複数回なぞって形成しているため、低倍率用マーキング2aの拡大像と顕微鏡の視界とが略同一の状態で、当該高倍率用マーキング2bをより容易に識別出来る。ここで、低倍率用マーキング2a及び高倍率用マーキング2cの位置関係は、図6に示すとおりである。
【0060】
そして、上記試料用ステージを用いて、高倍率用マーキング2cの内側の表面に直径数μmの試料を配置したものを準備し、これを光学顕微鏡の試料台に載置して、当該試料の観察を行った。その結果、当該試料をすぐに探し当てることが出来た。
【0061】
[実施例2]
本実施例に係る顕微鏡用サンプル板7は、基体1として単結晶サファイヤ基板を用い、試料を載置する側とは反対側の表面に低倍率用マーキング2aを、基体1の内部に高倍率用マーキング2cを形成した微小加工サンプル用基板である。
【0062】
本実施例で用いる単結晶サファイヤ基板としては、厚さ0.5mmの平板状のものを用い、予めその両面に研磨を行って表面が鏡面となるようにした。そして、上記実施例1と同様の条件により低倍率用マーキング2a及び高倍率用マーキング2cを形成した。
【0063】
ここで、本実施例に係る微小加工サンプル用基板について、予め試料等5となる側の面に1辺2〜5μmのエッチピットをランダムに形成させておき、AFMを用いて高倍率用マーキング2aの内側の一箇所に対して観察を行った。このときの当該微小加工サンプル用基板の表面形状を図7に示す。
【0064】
そして、当該微小加工サンプル用基板を一旦AFMから取り出して、当該エッチピットに対して所定の処理を行った。そして当該処理後に、当該微小加工サンプル用基板について、再度AFMを用いて当該処理前と同一の箇所に対して観察を行い、当該処理の前後における当該微小加工サンプル用基板の表面形状の変化について比較を行った。
【0065】
その結果、当該処理後にAFMを用いて観察を行った際に、処理前の微小加工サンプル用基板と同様の箇所を、すぐに探し当てることが出来た。このとき探し当てられたAFM像は図8に示すようになった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態に係る、顕微鏡用サンプル板が有するマーキングの形態を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る、パルスレーザによる基体へのマーキングの形成工程を説明する図である。
【図3】本実施形態に係る、顕微鏡用サンプル板の別の好ましい形態を説明する図である。
【図4】本実施形態に係る、顕微鏡用サンプル板の別の好ましい形態を説明する図である。
【図5】実施例1に係る顕微鏡用サンプル板に形成した低倍率用マーキングを撮影した、光学顕微鏡像である。
【図6】実施例1に係る顕微鏡用サンプル板に形成した低倍率用マーキング及び高倍率用マーキングを撮影した、光学顕微鏡像である。
【図7】実施例2に係る顕微鏡用サンプル板をAFMに設置し、当該サンプル板に形成した微細加工サンプルを撮影したAFM像である。
【図8】実施例2に係る顕微鏡用サンプル板を再度AFMに設置し、当該サンプル板に形成した微細加工サンプルを撮影したAFM像である。
【符号の説明】
【0067】
1 基体
2 載置台
3 パルスレーザ
3a レーザ発光源
3b 集光レンズ
3c 焦点
4 マーキング
4a 低倍率用マーキング
4b 中間倍率用マーキング
4c 高倍率用マーキング
5 試料等
6 顕微鏡像の外枠
7 サンプル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡や光学顕微鏡での試料の観察,測定又は加工に用いるための顕微鏡用サンプル板であって、
当該サンプル板が透明材料からなり、
低い拡大倍率で視認可能な低倍率用マーキングと、
当該低倍率用マーキングの内側又は周縁に形成されていて、高い拡大倍率で視認可能な高倍率用マーキングとを有し、
当該高倍率用マーキングの内側又は周縁に試料等を有していることを特徴とする顕微鏡用サンプル板。
【請求項2】
当該高倍率用マーキングを、当該サンプル板の厚み方向において内部に有していることを特徴とする、請求項1記載の顕微鏡用サンプル板。
【請求項3】
各マーキングを、当該サンプル板の厚み方向において内部又は当該サンプル板の試料等と反対側の面に有していることを特徴とする、請求項2記載の顕微鏡用サンプル板。
【請求項4】
当該低倍率用マーキングが、500μm〜2mm四方の大きさであることを特徴とする、請求項1〜3記載の顕微鏡用サンプル板。
【請求項5】
当該低倍率用マーキングが当該サンプル板の試料等と反対側の面、もしくはその近傍にあって、
当該低倍率用マーキングにより囲まれた領域内が、塗り潰されていることを特徴とする、請求項1〜4記載の顕微鏡用サンプル板。
【請求項6】
走査型プローブ顕微鏡や光学顕微鏡の視野上で微小な試料を探す方法であって、
顕微鏡用サンプル板の全体又は大部分が視野にある状態で、肉眼又は低い拡大倍率で低倍率用マーキングを探すステップと、
当該低倍率用マーキングの全体又は大部分が視野にある状態で、より高い拡大倍率に対応したマーキングを探すステップと、
当該高倍率用マーキングの全体又は大部分が視野にある状態で、試料を探すステップと
を含むことを特徴とする、顕微鏡による測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−107969(P2007−107969A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297978(P2005−297978)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】