説明

風力発電システム及び装置

【課題】上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電する風力発電システム及び装置において、採算性、経済性、安定性を向上せしめる。
【解決手段】地上との視界交流が広域に亘って遮断されないという浮体の特長に着目し、浮体に広告媒体や監視カメラなどを装着して浮体を多目的に利用することにより、浮体に充填される高価なヘリウム損失をカバーして風力発電の採算性、経済性を向上せしめる。具体的には、浮体にスクープパドルを付けて回転させ浮体のマグナス効果で揚力を増強する従来法には浮体を広告媒体として利用できないという致命的欠点があるが、この欠点を解消するために、スクープパドルを浮体と切り離して回転させるか又は浮体に翼を取り付けることにより、浮体を回転させずに揚力を増強する安定な構造とし、浮体に広告媒体や監視カメラなどを装着して多目的利用を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウムを充填した浮体(以下、浮体と称す)を地上に固定した繋索で上空に繋留し、該浮体に風車を搭載して上空の高速風を利用して発電する風力発電システム及び装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
風車が発生するエネルギーは風速の3乗に比例するので、地表に比べて風速が大きい上空に繋留した浮体に風車を搭載し、上空の高速風を利用して発電し繋索を介して地上に送電する風力発電システムは、発電電力が大幅に増幅される点では極めて有利である。そのなかで非特許文献1及び2に示されている[Magenn Air Rotor System]は、浮体にスクープパドルが一体に構築され、浮体自体が風力で水平軸周りに回転するスクープパドル型風車となって発電するという斬新な構成であり、スクープパドルの回転で生ずる揚力(マグナス効果)を浮体の浮力に追加して浮揚力を高めるので上空に揚がり易い、という大きなメリットがある。
【0003】
一方、一般に浮体は重量やコスト低減の目的で多層構造の軟質膜材で構築されるが、スクープパドルを浮体と一体化して高速回転させると、スクープパドルの遠心力や抗力に起因する過大な応力が浮体材料にかかるので、ガス漏れや浮体寿命を縮める原因となる恐れがあり構造的に好ましくない。また装置が大型化した場合はスクープパドル型風車の効率がプロペラ型などに比べて悪いことや、浮体膜材のアンバランスに起因する振動などの問題がデメリットになり得る。
【0004】
特に、浮体に充填されるヘリウムは漏れ易く高価であり、漏洩に伴う経済的損失は無視し得ないので、採算性の観点から浮体の多目的利用が望ましい。本発明者は、上空に繋留された浮体には地上との視界交流が広域に亘って遮断されない特長があることに着目し、広域の地上から見える広告媒体や、農作物盗難・駐車違反などの広域の地上犯罪や森林火災などを監視する監視カメラなどを浮体に搭載して浮体自体の付加価値を高め、採算性の高い発電システムを構築しようとするものである。
【0005】
即ち、ヘリウムを充填した浮体が広告のみを目的とするアドバルーンとして既に商業的に利用されている実情から考えれば、発電装置を搭載した浮体を広告媒体などに活用することによってヘリウム損失などをカバーして採算性を著しく改善し得ることは明らかである。しかしながら、浮体自体が回転する前記[Magenn Air Rotor System]の装置では、回転する浮体に広告を装着しても判読できないから広告媒体として利用できないという問題があり、実用上の致命的な欠点になる可能性がある。
【0006】
【非特許文献1】NEDO海外レポートNo.976,「空を飛ぶ風力発電機(カナダ)」
【非特許文献2】インターネット情報:www.magenn.com[Magenn Air Rotor System]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に鑑み、本発明は、上空に繋留した浮体に風車を搭載して発電する風力発電システム及び装置において、採算性、経済性、安定性などの向上を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、装置の採算性向上を図るシステムであり、上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電するシステムにおいて、浮体に広告媒体や監視カメラなどを装着して浮体を多目的に利用することを特徴としている。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は省エネルギーで夜間における装置の利用機能を拡張するシステムであり、請求項1に記載の発明において、広告媒体を電飾発光体とし、風力で発電した電力を電飾に利用すると共に、光センサー及び/又はタイマーにより電飾電源を自動的にオンオフせしめることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は前記の[Magenn Air Rotor System]の欠点を解消したより経済性・安定性の優れた装置であり、上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電する装置において、浮体を円筒形として浮体の外周で同心で回転するスクープパドルを設けて発電せしめると共に、該スクープパドルの回転に伴って生ずるマグナス効果の揚力を浮体の浮力に重畳追加せしめるように配備したことを特徴としている。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は上記発明の採算性向上を図った装置であり、請求項3に記載の発明において、浮体に広告媒体を装着すると共に浮体の外周で回転するスクープパドルを透明体で構築し、広告媒体が透けて見えるように構成したことを特徴としている。
【0012】
また、請求項5に記載の発明はより高効率で大型化に適した装置であり、上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電する装置において、浮体を飛行船形とし、該浮体に翼を一体に構築して翼の発生する揚力を浮体の浮力に重畳追加すると共に、該翼の下部に風車を取り付けることを特徴としている。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は上記発明の安定性確保を図った装置であり、請求項5において、翼の下部に互いに反対方向に回転する2台の風車を中心対称に取り付け、且つ浮体の浮力中心と翼の風圧中心及び装置全体の重心ならびに浮体の繋留中心点をほぼ同一垂直線上に配設して浮体をほぼ水平に維持せしめ得るように構成することを特徴としている。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は上記発明の採算性向上を図った装置であり、請求項6において、浮体や翼面に広告媒体及び/又は監視カメラを装着したことを特徴としている。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は省エネルギーで夜間における装置の利用機能を拡張した装置であり、請求項4及び請求項7において、広告媒体を電飾発光体とし、風力で発電した電力を電飾に利用し得るように配備すると共に、電飾電源を自動的にオンオフする光センサー及び/又はタイマーを設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、地上との視界交流が広域に亘って遮断されないという浮体の特長を利用でき、広域の地上から見える広告機能や、農作物盗難や駐車違反など広域の地上犯罪及び森林火災などの監視機能など、浮体を多目的に高度利用できるので浮体自体の利用価値が著しく高められ、高価なヘリウム損失などをカバーして風力発電装置の採算性が向上する。
【0017】
請求項2の発明によれば、夜空に目立つ電飾により高い広告効果が得られ、且つ光センサーやタイマーの設定により、自動的に有効な時間帯のみ省エネルギーで広告することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、浮体は回転せずスクープパドルのみの回転で発電ならびにマグナス効果を付与できるので、スクープパドルの遠心力や抗力に起因する過大な応力が浮体材料にかかることなく、ガス漏れや浮体寿命の短縮を防ぐ効果がある。特に、浮体に装着された広告媒体が静止しているので、外側に回転するスクープパドルが存在してもパドルの隙間から残像効果で広告媒体を見ることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、浮体に装着された広告媒体は透明なスクープパドルを透かして一層鮮明に見ることができ、特に夜間の電飾広告に対して効果を発揮する。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、比較的簡単な翼の追加構築により翼の揚力が浮体の浮力に加わって浮揚力を高めるので、上空の高風速を利用し易くする効果がある。また、軟質膜材の浮体への風車の取り付けが容易になる効果もある。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、2台の風車を反対方向に回転させて互いに回転モーメントが相殺され、且つ浮体の浮力中心・翼の風圧中心・装置の重心・浮体の繋留点をほぼ同一垂直線上に配設して浮体はほぼ水平に維持されるので、安定した運転が可能になる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、広域の地上から見える広告機能や、広域の地上犯罪や森林火災などを監視する機能を付加することにより、風力発電の採算性が著しく向上する。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、最適な時間帯に省エネルギーで、夜間における効果的な広告機能が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明の第一の実施例の正面図(一部断面図)、図2は図1のS−S断面図、図3は図2に対応する従来例の模式図、図4は本発明の第二の実施例の側面図、図5は図4の視矢P図、図6は図4の視矢Q図、をそれぞれ示す。
【0025】
第一の実施例の図1及び図2において、気密性の高い多重膜で構築され内部にヘリウムを充填した円筒形の浮体1を浮体中心軸2と一体に結合してフレーム3に固定し、フレーム3を繋索4によって地上に固定されたウインチ(図示せず)に繋留する。浮体1の表面には印刷ポスターやLED電飾発光体などの広告媒体5を貼着し、電飾の電源は風力発電で得られた電力を、フレーム3上又は地上に設置した光センサー及び/又はタイマー(図示せず)の自動制御でオンオフさせ、夜間の最適時間帯に電飾せしめるように配備する。また必要に応じて、フレーム3上に監視カメラ(図示せず)を装着する。
【0026】
浮体中心軸2に案内軸受6及び推力軸受7を設け浮体1を挟んで2枚の回転円板8を回転可能に設けると共に、該回転円板8にスクープパドル9を一体に構築して、スクープパドル9が風10の力により浮体1の外周で同心で矢印11の方向に回転し、マグナス効果で揚力12が発生するように構成する。回転円板8の回転は増速歯車13を介してフレーム3に設けた発電機14に伝達され、発電電力は繋索4若しくは繋索と同伴せしめた導線により地上のウインチ(図示せず)を介して電力系統ないし蓄電池に導入される。
【0027】
以上のように、浮体1は回転せずスクープパドル9のみの回転で発電ならびにマグナス効果が付与されるので、スクープパドル9の回転に伴う応力が浮体1にかかることなくガス漏れや浮体1の寿命の短縮を防ぐ効果がある。特に、浮体1に装着された広告媒体5は静止しているのでスクープパドル9の隙間から残像効果で見えるが、特に外側で回転するスクープパドル9を透明にし、更に広告媒体5をLEDなどで電飾すれば広域の地上から鮮明に見ることができ、この広告機能を効果的に利用して収益を得ることによってヘリウム損失などがカバーされ、風力発電の大幅な採算性向上が期待できる。
【0028】
従来の[Magenn Air Rotor System]は、図3に示す模式図で明らかなように、スクープパドル9’が浮体1’に固定され浮体中心軸2’と一体で回転するように構築されているので、前記のような構造的な不利益のみならず、浮体1’を広告媒体として利用することができないので、採算面での不利益を免れない。図中10’は風、11’は回転方向の矢印、12’はマグナス効果の揚力、をそれぞれ示す。
【0029】
次に、第二の実施例を図4、図5、図6によって説明する。図において、気密性の高い多重膜で構築され内部にヘリウムを充填した飛行船形の浮体21に、軽量強化樹脂などで構築した翼22を貼着一体化すると共に、該翼22の下部に矢印31で示す互いに反対方向に回転する2台の水平軸プロペラ風車23を浮体の中心対称に取り付ける。ここで各構成要素の相対配置は、浮体21の浮力中心24と、翼22の風圧中心25及び装置全体の重心26ならびに浮体21の繋留フック27を結ぶ繋留中心点28をほぼ同一垂直線29の上に配設せしめることにより、浮体21ならびに水平軸プロペラ風車23の回転軸が常に水平に維持されるように構成する。
【0030】
前記同様、浮体21の表面には印刷ポスターやLED電飾発光体などの広告媒体33を貼着し、電飾の電源は光センサー及び/又はタイマーの自動制御でオンオフさせ夜間の最適時間帯に電飾せしめる。また、浮体21の下面には、地上からの通信で制御可能な監視カメラ34を設けて、地上監視を可能ならしめる。なお用途に応じて、夜間の地上監視に備えて監視カメラ34には赤外線カメラを併設するとよい。以上の電飾や監視カメラ及び地上との通信などに要する全電力は、風力発電電力によって賄うことができる。
【0031】
風32によって生ずる水平方向の合力X(浮体21の抗力+翼22の抗力+プロペラ風車23の抗力)の作用点が、垂直線29上の繋留中心点28と合致するように繋留フック27を配設し、また、垂直方向の合力Y(翼22の揚力+浮体21の浮力−全重量)が垂直線29上で一致するように配設せしめると、繋索30はXとYが合成された全合力Zの方向に牽引され、浮体21は水平を維持した状態で地上のウインチ(図示せず)に繋留される。水平軸プロペラ風車23の発電電力は、前記同様に繋索30若しくは繋策と同伴せしめた導線により地上のウインチを介して電力系統ないし蓄電池に導入される。
【0032】
上記の説明において風車形式は水平軸プロペラ風車としたが、小出力の場合は、簡易なクロスフロー型、ジャイロミル型、サボニウス型、ダリウス型など周知の垂直軸型風車に代え得ることは勿論であるが、その場合でも前記同様に風車は2台とし互いに反対方向に回転せしめて反力をバランスさせるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【0034】
【図1】 本発明の第一の実施例の正面図(一部断面図)
【図2】 図1のS−S断面図
【図3】 図2に対応する従来例の模式図
【図4】 本発明の第二の実施例の側面図
【図5】 図4の視矢P図
【図6】 図4の視矢Q図
【符号の説明】
【0035】
1、21 浮体
2、2’ 浮体中心軸
3 フレーム
4、30 繋索
5、33 広告媒体
6 案内軸受
7 推力軸受
8 回転円板
9、9’ スクープパドル
10、10’、32 風
11、11’、31 矢印
12、12’ 揚力
13 増速歯車
14 発電機
22 翼
23 水平軸プロペラ風車
24 浮体の浮力中心
25 翼の風圧中心
26 装置全体の重心
27 繋留フック
28 繋留中心点
29 垂直線
34 監視カメラ
X 水平方向の合力
Y 垂直方向の合力
Z 全合力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電するシステムにおいて、浮体に広告媒体や監視カメラなどを装着して浮体を多目的に利用することを特徴とする、風力発電システム。
【請求項2】
広告媒体を電飾発光体とし、風力で発電した電力を電飾に利用すると共に、光センサー及び/又はタイマーにより電飾電源を自動的にオンオフせしめることを特徴とする、請求項1に記載の風力発電システム。
【請求項3】
上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電する装置において、浮体を円筒形として浮体の外周で同心で回転するスクープパドルを設けて発電せしめると共に、該スクープパドルの回転に伴って生ずるマグナス効果の揚力を浮体の浮力に重畳追加せしめるように配備したことを特徴とする、風力発電装置。
【請求項4】
浮体に広告媒体を装着すると共に浮体の外周で回転するスクープパドルを透明体で構築し、広告媒体が透けて見えるように構成したことを特徴とする、請求項3に記載の風力発電装置。
【請求項5】
上空に繋留した浮体に風車を搭載し上空の高速風を利用して発電する装置において、浮体を飛行船形とし、該浮体に翼を一体に構築して翼の発生する揚力を浮体の浮力に重畳追加すると共に、該翼の下部に風車を取り付けることを特徴とする、風力発電装置。
【請求項6】
翼の下部に互いに反対方向に回転する2台の風車を中心対称に取り付け、且つ浮体の浮力中心と翼の風圧中心及び装置全体の重心ならびに浮体の繋留中心点をほぼ同一垂直線上に配設して浮体をほぼ水平に維持せしめ得るように構成することを特徴とする、請求項5に記載の風力発電装置。
【請求項7】
浮体や翼面に広告媒体及び/又は監視カメラを装着したことを特徴とする、請求項6に記載の風力発電装置。
【請求項8】
広告媒体を電飾発光体とし、風力で発電した電力を電飾に利用し得るように配備すると共に、電飾電源を自動的にオンオフする光センサー及び/又はタイマーを設けることを特徴とする、請求項4及び請求項7に記載の風力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−25554(P2008−25554A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221272(P2006−221272)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(596058100)
【Fターム(参考)】