説明

食品工業用スケール除去剤組成物およびその使用方法

【課題】 酸化鉄や水酸化鉄を主体とするスケールの溶解性に優れるとともに、ステンレス材質影響防止性、ゴム材質影響防止性、貯蔵安定性に優れる食品工業用のスケール除去剤組成物およびその使用方法を提供する。
【解決手段】 (a)〜(c)成分を組成物全体に対し下記の割合で含有し、且つ組成物の1質量%希釈水溶液のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)が、25℃において3未満の範囲であることを特徴とする食品工業用スケール除去剤組成物及びその使用方法である。
(a)有機酸5〜60質量%、
(b)L−アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸15〜80質量%、
(c)尿素化合物0.01〜6質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール工場、醸造工場、ジュースや清涼飲料等の飲料工場、牛乳工場、冷凍食品・レトルト食品、調味料やマヨネーズ等(以下、「飲食料品」という)の製造工場等(以下、「飲食料品工場」という)における、タンク、配管等に用いられるスケール除去剤組成物である。
【0002】
さらに詳しくは各種設備、充填機、殺菌機、熱処理機等の各種設備機器およびこれらの配管(以下、「製造設備」という)、コンテナ、クレイト、樽等の各種容器(以下、「容器等」という)の機械式自動洗浄、CIP洗浄(Cleaning in place:定置洗浄)に用いるスケール除去剤組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、CIPの洗浄方法においては、アルカリ洗浄剤、酸性洗浄剤、殺菌剤等が用いられ、一般的なCIPの洗浄方法としては、1)製品の排出(水洗浄)、2)薬剤洗浄(酸またはアルカリ)、3)水洗浄(中間すすぎ)、4)薬剤洗浄(アルカリまたは酸)、5)水洗浄(中間すすぎ)、6)薬剤洗浄(殺菌剤:次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、ヨウ素、界面活性剤、酵素等)、7)水洗浄(最終すすぎ)の工程順に行なわれる。各洗浄工程は循環洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄のいずれか、もしくはそれらを組み合わせて行われる。なお、汚れの種類や状態によってはこれらの操作の一部が省略される場合もあるし、また同じ操作が繰り返される場合もある。
【0004】
さらに、上記のCIP洗浄に加えて、タンク、配管等の殺菌、除菌、滅菌を目的に蒸気によるSIP洗浄(Sanitaizing in place:定置殺菌)が行われている。このとき、蒸気中には微量の無機化合物が含まれており、SIP洗浄時において被洗浄面であるタンクや配管等に徐々に堆積付着し、スケールとなって固着することがある。
【0005】
また、CIP洗浄においては無機化合物の除去を目的として、硝酸および/またはリン酸を主成分とした酸性洗浄剤を用いたスケール除去が行われるが、上記スケールのうち、酸化鉄や水酸化鉄を主体としたスケールは、微量ながらも製造設備および配管の内壁に堆積し強固に固着しており、上記の硝酸および/またはリン酸を主成分とした酸性洗浄剤では、溶解、除去が困難なものとなっている。
【0006】
従来、食品工業関連のスケールを除去する方法としては、例えば特開2005−2393号公報には、無機酸および有機酸を併用し、スケール除去性に優れ、ステンレス材質への腐食や損傷が少ないスケール除去剤組成物が開示されている(特許文献1を参照)。
【0007】
また特開平5−179472号公報及び特許第2533031号公報には硝酸尿素および腐食抑制剤を配合し、ステンレス、鋳鉄、銅或いは銅合金の材質に対して影響を及ぼさないスケール除去剤組成物が開示されている(特許文献2及び3を参照)。
【0008】
しかしながら、上記の公報等で述べられている食品工業関連のスケールとは、一般に水や食品等に由来するカルシウムやマグネシウムが反応して形成された炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の水不溶性塩が主体であって、酸化鉄や水酸化鉄が主体のスケールに対する除去性能についての記載も示唆もない。
【0009】
本発明が対象とするスケールは、酸化鉄や水酸化鉄が主体のスケールである。このスケールの発生原因は、食品製造工場におけるSIP洗浄で使用する蒸気に由来することが多く、鉄と食品由来の微量の有機および無機成分とが高温下で反応して、徐々に製造設備および配管の内壁に付着堆積し、強固なスケールを形成したものと推定される。
【0010】
つまり、本発明が対象とするスケールと従来の水や食品等に由来する水不溶性塩とでは、それらの形成の過程や構成元素、結晶構造等が異なるために、従来のスケール除去剤では所望のスケール除去効果を得ることができない。
【0011】
また、飲食料品工場の製造設備においては、被洗浄面であるステンレスへの材質影響防止性、配管等の接合部のゴムパッキンに対する材質影響防止性等の性能を兼ね備えていることが要求されものであるが、上記公報においては、これらの諸性能に対する検討はなされていない。
【0012】
【特許文献1】特開2005−2393号公報
【特許文献2】特開平5−179472号公報
【特許文献3】特許第2533031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このため、本発明は、酸化鉄や水酸化鉄を主体としたスケールに対して優れたスケール除去性を有するとともに、pH、ステンレス材質影響防止性、ゴム材質影響防止性及び貯蔵安定性に優れた食品工業用スケール除去剤の提供を目的とする。
【0014】
また、本発明は上記食品工業用スケール除去剤組成物を用いた使用方法を提供するものであり、詳しくは、上記飲食料品工場の製造設備のためのスケール除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明は、有効成分として下記の(a)〜(c)成分を、組成物全体に対し下記の割合で含有し、且つ組成物の1質量%希釈水溶液のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)が、25℃において3未満の範囲である食品工業用スケール除去剤組成物を第1の要旨とする。
(a)有機酸5〜60質量%、
(b)L−アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸15〜80質量%、
(c)尿素化合物0.01〜6質量%。
【0016】
なかでも、上記(a)成分の有機酸が、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グリコール酸から選ばれる少なくとも一種である上記食品工業用スケール除去剤組成物を第2の要旨とする。
【0017】
また、上記(c)成分の尿素化合物が、尿素及び/又はジメチル尿素である上記食品工業用スケール除去剤組成物を第3の要旨とする。
【0018】
また、上記要旨1〜3のいずれかの食品工業用スケール除去剤組成物を、水または湯にて、1〜20質量%に希釈したスケール除去剤希釈液を用いて、飲食料品工場の製造設備およびその部品を浸漬することによりスケール除去するスケール除去方法を第4の要旨とする。
【0019】
さらに、CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量の上記要旨1〜3のいずれかの食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬することにより、スケール除去と洗浄とを同時におこなう洗浄方法を第5の要旨とする。
【0020】
そして、CIPの酸性洗浄工程において、CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量の上記要旨1〜3のいずれかの食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液を用いて、循環洗浄することにより、スケール除去と洗浄を同時におこなうCIPの洗浄方法を第6の要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の食品工業用スケール除去剤組成物(以下、「スケール除去剤組成物」ということもある。)において、酸化鉄や水酸化鉄を主体としたスケールに対して優れたスケール除去性を有するとともに、pH、ステンレス材質影響防止性、ゴム材質影響防止性及び貯蔵安定性に優れた食品工業用スケール除去剤組成物の提供ができる。
【0022】
また、本発明は上記食品工業用スケール除去剤組成物を用いた使用方法を提供できるものであり、詳しくは、飲食料品工場の製造設備およびその部品等のための優れたスケール除去方法、洗浄方法によって飲食料品工場の製造設備のスケール除去とCIP洗浄とを効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0024】
本発明の食品工業用スケール除去剤組成物は、有効成分として下記の(a)〜(c)成分を、組成物全体に対し下記の割合で含有し、組成物の1%希釈水溶液のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)が、25℃において3未満の範囲に設定される。
(a)有機酸5〜60質量%、
(b)L−アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸15〜80質量%、
(c)尿素化合物0.01〜6質量%。
また、これを用いたスケール除去方法及び洗浄方法が提供される。
【0025】
まず、本発明のスケール除去剤組成物に用いられる(a)成分の有機酸としては、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グリコール酸、ギ酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、琥珀酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸等が挙げられる。なかでも、スケール除去性、貯蔵安定性、安全性、入手のしやすさ等の点から、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グリコール酸が好ましく用いられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記(a)成分の配合割合は、スケール除去剤組成物中における有効成分量として、5〜60質量%の範囲に設定される。すなわち、5質量%未満の場合には、(b)成分との相乗効果によって得られるスケール除去性において、所望する効果が得られず、60質量%を超えて配合した場合には、更なるスケール除去性の向上が得られないほか、スケール除去剤組成物の(b)成分の分解が促進され、3−deoxy−L−pentosone,furfural,2,3−diketogulconic acid,L−xylosone,reducton類、L−threonic acid等の各種酸化物及びこれらの重合物が発生し被洗浄物へ付着して、変色あるいは腐食の原因になる等の問題が発生する。
【0027】
本発明のスケール除去剤組成物に用いられる(b)成分としては、L−アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸が用いられる。これらは、単独で用いても双方を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記(b)成分の配合割合は、スケール除去剤組成物中における有効成分量として、15〜80質量%の範囲に設定される。すなわち、15質量%未満の場合には、所望とするスケール除去性が得られず、80質量%を超えて配合した場合には、更なる顕著なスケール除去性の向上が得られないほか、スケール除去剤組成物の(b)成分の分解が促進され、3−deoxy−L−pentosone,furfural,2,3−diketogulconic acid,L−xylosone,reducton類、L−threonic acid等の各種酸化物及びこれらの重合物が発生し、被洗浄物へ付着して、変色あるいは腐食の原因になる等の問題が発生する。
【0029】
また、本発明のスケール除去剤組成物に用いられる(c)成分の尿素化合物としては、尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素等が挙げられるが、スケール除去性、経済的入手のし易さ等の点から、尿素、ジメチル尿素が好ましく用いられる。これらは単独で用いても2種を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記(c)成分の配合割合は、スケール除去剤組成物中における有効成分量として、0.01〜6質量%の範囲に設定される。すなわち、0.01質量%未満の場合には、ゴム材質影響防止性の顕著な効果が得られず、6質量%を超えて配合した場合には、ゴム材質影響防止性の顕著な向上が得られず、また経済的にも好ましくない。
【0031】
また、本発明のスケール除去剤組成物においては、上記(a)〜(c)成分以外の任意成分として、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸およびそれらの塩をはじめとするキレート剤、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機系ビルダー、分散剤、pH緩衝剤、洗浄助剤、界面活性剤、消泡剤、溶剤、高分子分散剤、色素、香料等を適宜配合することができる。
【0032】
つぎに、本発明のスケール除去剤の使用方法(1)〜(3)について説明する。
【0033】
はじめに、(1)本発明のスケール除去剤組成物によるスケール除去方法としては、各種製造設備の種類や規模、各種製造設備の汚れの度合いに応じて、通常、当該スケール除去剤組成物を水または湯で希釈したスケール除去剤希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬することにより、スケール除去をおこなう方法である。例えば、ビール工場、醸造工場、ジュースや清涼飲料等の飲料工場及び牛乳工場等の工場設備においては、スケール除去剤組成物を、水または湯で、1〜20質量%、好ましくは5〜10質量%の濃度範囲に希釈し、10〜100℃、好ましくは50〜80℃の温度範囲に設定したスケール除去剤希釈液を用いて、5分〜48時間、好ましくは1〜12時間程度、浸漬してスケール除去をおこなうものである。なお、上記「スケール除去剤希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬」とは、スケール除去剤希釈液に製造設備の部品を浸漬することとともに、製造タンク、充填タンク等のタンク及び配管内にスケール除去剤希釈液を満たして静置することを意味するものである。
【0034】
つぎに、(2)CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量に相当する食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬することにより、スケール除去と洗浄とを同時におこなう方法である。なお、上記「混合希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬」とは、混合希釈液に製造設備の部品を浸漬することの他に、製造タンク、充填タンク等のタンク及び配管内に混合希釈液を満たし静置することを意味するものである。また、混合希釈液の温度は10〜100℃、好ましくは50〜80℃の温度範囲で、浸漬時間は5分〜48時間、好ましくは1〜12時間程度に設定される。
【0035】
そして、最後に、(3)CIPの酸性洗浄工程において、CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量の食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液を用いて、循環洗浄することにより、スケール除去と洗浄を同時におこなう洗浄方法である。なお、上記「循環洗浄」とは、飲食料品の製造設備の製造タンク、充填タンク等のタンク及び配管内に、混合希釈液を循環(流動)させておこなうことを意味するものである。
【0036】
上記(3)のCIP洗浄方法の工程全体は、次のA1〜A7又はB1〜B7のいずれかの工程の順序で構成される。詳しくは、A1)製品の排出(水洗浄)、A2)アルカリ洗浄、A3)水洗浄(中間すすぎ)、A4)酸洗浄、A5)水洗浄(中間すすぎ)、A6)殺菌洗浄(次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、ヨウ素、熱水等)、A7)水洗浄(最終すすぎ)の順序、または、B1)製品の排出(水洗浄)、B2)酸洗浄、B3)水洗浄(中間すすぎ)、B4)アルカリ洗浄、B5)水洗浄(中間すすぎ)、B6)殺菌洗浄(次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸、ヨウ素、熱水等)、B7)水洗浄(最終すすぎ)の順序でおこなうものである。
【0037】
そして、上記混合希釈液の温度は、10〜120℃の温度範囲で、混合希釈液の循環時間は10〜60分間、好ましくは20〜40分間おこなわれるものである。
【0038】
また、上記(2)及び(3)のCIP洗浄方法で用いられるCIP用酸性洗浄剤としては、市販のものを使用することができ、例えば、商品名:パンケレートV40(大三工業社製)、商品名:パンケレートVC(大三工業社製)、商品名:パンケレートVC45(大三工業社製)、商品名:パンケレートVP(大三工業社製)、商品名:パンケレートVS10(大三工業社製)、商品名:パンケレートMS1(大三工業社製)、商品名:パンケレートMS2(大三工業社製)、商品名:パンケレートMS3(大三工業社製)、商品名:パンケレートMS4(大三工業社製)などが挙げられる。
【0039】
そしてまた、本発明のスケール除去剤組成物は、CIP洗浄のみならず、飲食料品の製造設備の各種洗浄に広く用いることができる。例えば、水または湯で希釈したスケール除去剤希釈液を高圧洗浄機に用いて各種製造設備に対して噴霧することにより、スケール除去を行うこともできる。なお、このときのスケール除去剤希釈液の濃度は、製造設備や配管等の内壁と接触を高めるために、上記浸漬によるスケール除去の場合の2〜10倍の濃度とすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0041】
後記の表1〜7に示す、実施例1〜16および比較例1〜12の組成(各表の数値の単位は質量%であり、以下、「%」と略すことがある。)の各種供試スケール除去剤組成物(以下、供試組成物という)を調整し、pH、スケール除去性、ステンレス材質影響防止性、ゴム材質影響防止性、貯蔵安定性の5つの試験項目について評価し、その結果を後記の表1〜7に併せて示す。また、各試験項目における試験方法及び評価方法は、以下に示すとおりである。
【0042】
(1)pH
供試組成物の1質量%希釈水溶液の25℃におけるpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)を測定し、以下の評価基準に従って判定した。
〔評価基準〕
○:3未満の範囲である
×:3を超える範囲にある
とし、○を実用性のあるものと判定した。
【0043】
(2)スケール除去性試験
〔試験方法1〕
1−1 供試組成物を水で希釈し、5質量%の供試組成物希釈液を調整する。インキュベーターにて、80℃に保温された当該供試組成物希釈液に0.5質量%の酸化第二鉄(キシダ化学株式会社製)を添加し1時間攪拌する。1時間後における供試組成物希釈液中の鉄イオン濃度をICP発光分析装置(型式:SPS7800、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)にて測定し、以下の評価基準に従って評価した。なお、鉄イオンの溶解量とスケール除去率は比例し、鉄イオン溶解量が多いほど、本発明が対象とする酸化鉄や水酸化鉄が主体のスケールに対する除去性が高いといえる。
1−2 上記1−1の水に換えてパンケレートV40(硝酸系のCIP用酸性洗浄剤、大三工業社製、以下同じ。)の1質量%水溶液を用いて、供試組成物希釈液を調整した場合について、同様の操作を行い以下の評価基準に従って判定した。
〔評価基準〕
◎:鉄イオンの溶解量が150mg/L以上
○:鉄イオンの溶解量が100mg/L以上〜150mg/L未満
△:鉄イオンの溶解量が50mg/L以上〜100mg/L未満
×:鉄イオンの溶解量が50mg/Lm未満
とし、◎及び○を実用性のあるものと判定した。
【0044】
(3)ステンレス材質影響防止性試験
〔試験方法〕
2−1 供試組成物を水で希釈し、5質量%の供試組成物希釈液を調整する。インキュベーターにて、80℃に保温された当該供試組成物希釈液に下記試験片1及び2を24時間浸漬する。24時間後に各試験片1及び2を取り出し、水道水で濯ぐ。上記作業を繰り返し、累計100時間の浸漬を行い、100時間後に各試験片を取り出し、水道水で濯ぎ、室温で乾燥させた後、目視にて観察し、以下の評価基準に従って判定した。
2−2 上記2−1の水に換えてパンケレートV40の1質量%水溶液を用いて、供試組成物希釈液を調整した場合について、同様の操作を行い以下の評価基準に従って判定した。
〔試験片〕
ステンレス試験片1:材質:SUS304(縦80mm×横50mm×厚さ10mm)
ステンレス試験片2:材質:SUS316(縦80mm×横50mm×厚さ10mm)
〔評価基準〕
◎:腐食や変色が認められない
○:腐食や変色がわずかに認められる
×:著しい腐食や変色が認められる
とし、◎及び○を実用性のあるものと判定した。
【0045】
(4)ゴム材質影響防止性試験
〔試験方法〕
3−1 供試組成物を水で希釈し、5質量%の供試組成物希釈液を調整する。インキュベーターにて、80℃に保温された当該供試組成物希釈液に下記試験片3及び4を24時間浸漬する。24時間後に各試験片3及び4を取り出し、水道水で濯ぐ。上記作業を繰り返し、累計100時間の浸漬を行い、100時間後に各試験片を取り出し、水道水で濯ぎ、室温で乾燥させた後、目視にて観察し、以下の評価基準に従って判定した。
3−2 上記3−1の水に換えてパンケレートV40の1質量%水溶液を用いて、供試組成物希釈液を調整した場合について、同様の操作を行い以下の評価基準に従って判定した。
〔試験片〕
ゴム試験片3:材質:ニトリルブタジエンゴム(NBR)(縦50mm×横20mm×厚さ5mm)
ゴム試験片4:材質:エチレンプロピレンゴム(EPDM)(縦50mm×横20mm×厚さ5mm)
〔評価基準〕
◎:腐食や変色が認められない
○:腐食や変色がわずかに認められる
×:著しい腐食や変色が認められる
とし、◎及び○を実用性のあるものと判定した。
【0046】
(5)貯蔵安定性試験
貯蔵安定性試験を次のようにして行った。
〔試験方法〕
供試組成物を、250ml容量のポリエチレン製容器に200ml入れて、−5℃、25℃および40℃に設定されたそれぞれのインキュベーターに2週間配置した後、供試組成物の外観を目視で観察し以下の評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:−5℃、25℃、40℃にて、外観に全く変化なし
○:いずれかの温度において外観に変色、固化、べたつき等のわずかな変化あり
×:いずれかの温度において外観に変色、固化、べたつき等の著しい変化あり
とし、評価基準が◎及び○であるものを実用性のあるものと評価した。
【0047】
なお、後記の表1〜表7において、用いた各種成分とその有効純分(質量%、「%」と略す)の詳細は、下記の通りであり、表中の数値は、有り姿で示したものである。
【0048】
〔(a)成分〕
・リンゴ酸
製品名:「リンゴ酸フソウ」、扶桑化学工業株式会社製、有効成分量:99%
・フマル酸
製品名:「フマル酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・マレイン酸
製品名:「マレイン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99%
・アジピン酸
製品名:「アジピン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99.5%
・グリコール酸
製品名:「グリコール酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:97%
・ギ酸
製品名:「ギ酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99%
・酢酸
製品名:「酢酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99%
・乳酸
製品名:「乳酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:85%
・酒石酸
製品名:「酒石酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99%
・グルコン酸
製品名:「50%グルコン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:50%
・クエン酸
製品名:「クエン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・マロン酸
製品名:「マロン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・シュウ酸
製品名:「シュウ酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
【0049】
〔(b)成分〕
・L−アスコルビン酸
製品名:「L−アスコルビン酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99.5%
・エリソルビン酸
製品名:「エリソルビン酸」、扶桑化学工業株式会社製、有効成分量:99%
【0050】
〔(c)成分〕
・尿素、
製品名:「尿素」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:99%
・ジメチル尿素
製品名:「1,3-ジメチル尿素」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
【0051】
〔(その他)成分〕
・グルコース
製品名:「D(+)-グルコース」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・サッカロース
製品名:「スクロース」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・トリポリリン酸ナトリウム
製品名:「トリポリリン酸ソーダ」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:98%
・エチレンジアミン四酢酸塩
製品名:「キレストD」、キレスト株式会社製、有効成分量:98%
・硝酸
製品名:「硝酸」、和光純薬工業株式会社製、有効成分量:70%
・硝酸尿素
製品名:「硝酸尿素」、昭和化学株式会社製、有効成分量:98%
・防錆剤1
製品名:「イビットNo.S600」、朝日化学工業株式会社製、有効成分量:98%
・防錆剤2
製品名:「BT−120」、城北化学工業株式会社製、有効成分量:98%
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
表1〜7の結果より、本発明のスケール除去剤組成物の実施例品は、pH、スケール除去性、ステンレス材質影響防止性、ゴム材質影響防止性及び貯蔵安定性の全ての項目において、優れた性能を有していることがわかる。
【0060】
また、上記スケール除去性試験(1−2)、ステンレス材質影響防止性試験(2−2)及びゴム材質影響防止性試験(3−2)について、パンケレートV40(硝酸系のCIP用酸性洗浄剤、大三工業社製)に換えて、リン酸系のCIP用酸性洗浄剤のパンケレートMS1を用いて試験した場合においても、パンケレートV40と同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として下記の(a)〜(c)成分を組成物全体に対し下記の割合で含有し、且つ組成物の1質量%希釈水溶液のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)が、25℃において3未満の範囲であることを特徴とする食品工業用スケール除去剤組成物。
(a)有機酸5〜60質量%、
(b)L−アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸15〜80質量%、
(c)尿素化合物0.01〜6質量%。
【請求項2】
上記(a)成分の有機酸が、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グリコール酸から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の食品工業用スケール除去剤組成物。
【請求項3】
上記(c)成分の尿素化合物が、尿素及び/又はジメチル尿素であることを特徴とする請求項1または2に記載の食品工業用スケール除去剤組成物。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品工業用スケール除去剤組成物を、水または湯にて、1〜20質量%に希釈したスケール除去剤希釈液を用いて、飲食料品工場の製造設備およびその部品を浸漬することによりスケール除去することを特徴とするスケール除去方法。
【請求項5】
CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量の上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液に、製造設備およびその部品を浸漬することにより、スケール除去と洗浄とを同時におこなうことを特徴とする洗浄方法。
【請求項6】
CIPの酸性洗浄工程において、CIP用酸性洗浄剤を水または湯にて1〜10質量%濃度に希釈したCIP用酸性洗浄剤希釈液に対して、当該希釈液量の1〜20質量%濃度相当量の上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品工業用スケール除去剤組成物を添加することにより得られた混合希釈液を用いて、循環洗浄することにより、スケール除去と洗浄を同時におこなうことを特徴とするCIPの洗浄方法。

【公開番号】特開2009−256494(P2009−256494A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108498(P2008−108498)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(598028648)ジョンソンディバーシー株式会社 (30)
【Fターム(参考)】