説明

駆動システム

【課題】無段変速機に用いられるオイルの希釈を抑制して無段変速機のトラクション係数を適正に確保できる駆動システムを提供すること。
【解決手段】この駆動システムは、無段変速機を収納する第一収納室11と歯車機構を収納する第二収納室12とが連通部13を介して連通すると共に、この連通部13に無段変速機と歯車機構とを連結する伝達軸10が挿通される。また、伝達軸10の外周に配置されて連通部13を封止する単一のオイルシール15が設置される。そして、このオイルシール15が、伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側に流入しようとするオイルを第二収納室12側に押し戻すポンプ構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動システムに関し、さらに詳しくは、無段変速機に用いられるオイルの希釈を抑制して無段変速機のトラクション係数を適正に確保できる駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラクションドライブ方式を採用する無段変速機では、高いトラクション係数を有するオイル(トラクションオイル)が用いられる。一方、歯車機構では、歯車の動力損失を低減するために、トラクションオイルよりも低いトラクション係数を有するオイル(ATFあるいはギア油)が用いられる。したがって、無段変速機のオイルと歯車機構のオイルとは、その混合を抑制するために相互に分離されている。具体的には、無段変速機側の第一収納室と歯車機構側の第二収納室との連通部に、オイルの流通を遮断するためのオイルシール構造が形成されている。
【0003】
ここで、無段変速機のオイルと歯車機構のオイルとの混合を確実に抑制するためには、複数のオイルシールを用いてオイルシール構造を形成することが好ましい。このため、従来の駆動システムでは、一対のオイルシールが伝達軸の軸方向に配列されてオイルシール構造が形成されている。かかる構造を採用する従来の駆動システム(動力伝達装置)として、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−176862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、無段変速機に用いられるオイルの希釈を抑制して無段変速機のトラクション係数を適正に確保できる駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる駆動システムは、トラクションドライブ方式の無段変速機と、前記無段変速機に伝達軸を介してトルク伝達可能に連結される歯車機構とを備える駆動システムであって、前記無段変速機を収納する第一収納室と前記歯車機構を収納する第二収納室とが連通部を介して連通すると共に、前記連通部に前記伝達軸が挿通されるときに、前記伝達軸の外周に配置されて前記連通部を封止する単一のオイルシールを備え、且つ、前記オイルシールが、前記伝達軸の正回転時にて前記第二収納室側から前記第一収納室側に流出しようとするオイルを前記第二収納室側に押し戻すポンプ構造を有することを特徴とする。
【0007】
この駆動システムでは、無段変速機を収納する第一収納室と歯車機構を収納する第二収納室とが連通部を介して連通すると共に、この連通部に無段変速機と歯車機構とを連結する伝達軸が挿通される。このとき、伝達軸の外周に配置されて連通部を封止する単一のオイルシールが設置される。そして、このオイルシールが、伝達軸の正回転時にて、第二収納室側から第一収納室側に流入しようとするオイルを第二収納室側に押し戻すポンプ構造を有する。かかる構成では、オイルシールが上記のポンプ構造を有するので、使用頻度の高い伝達軸の正回転時にて、第二収納室側から第一収納室側へのオイルの流入が抑制される。これにより、無段変速機に用いられる第一収納室内のオイルの希釈(第二収納室内のオイルの混入による希釈)が抑制されるので、無段変速機のトラクション係数が適正に確保される利点がある。
【0008】
また、この発明にかかる駆動システムでは、前記伝達軸の逆回転方向の回転数を取得する手段と、前記逆回転方向の回転数の積算値に基づいて前記無段変速機のトラクション係数を補正する手段とを備える。
【0009】
この駆動システムでは、伝達軸の逆回転方向の回転数の積算値に基づいて第二収納室から第一収納室へのオイル移動量を推定でき、また、このオイル移動量に基づいて第一収納室での混油比率(第一収納室内のオイルの希釈状況)を算出できる。そして、この第一収納室での混油比率に基づいて無段変速機のトラクション係数を補正することにより、無段変速機の運転状態(変速制御など)を適正化できる。これにより、無段変速機でのグロススリップを防止できる利点がある。
【0010】
また、この発明にかかる駆動システムでは、前記伝達軸の逆回転方向の回転数を取得する手段と、前記オイルシールの摩耗量を推定する手段と、前記逆回転方向の回転数の積算値および前記摩耗量に基づいて前記無段変速機のトラクション係数を補正する手段とを備える。
【0011】
この駆動システムでは、第一収納室へのオイル移動
量の推定にあたりオイルシールの摩耗量の推定値が考慮されるので、伝達軸の逆回転方向の回転数の積算値のみに基づいて第一収納室へのオイル移動量を推定する構成と比較して、トラクション係数の補正制御が精度良く行われる利点がある。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる駆動システムでは、オイルシールが上記のポンプ構造を有するので、使用頻度の高い伝達軸の正回転時にて、第二収納室側から第一収納室側へのオイルの流入が抑制される。これにより、無段変速機に用いられる第一収納室内のオイルの希釈(第二収納室内のオイルの混入による希釈)が抑制されるので、無段変速機のトラクション係数が適正に確保される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる駆動システムのオイルシール構造を示す構成図である。
【図2】図2は、図1に記載したオイルシール構造のオイルシールを示す斜視断面図である。
【図3】図3は、オイルの混油比率とトラクション係数との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、トラクション係数の補正制御1を示すフローチャートである。
【図5】図5は、オイルシールの摩耗状態を示す説明図である。
【図6】図6は、オイルシールの摩耗幅とオイル移動量との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、トラクション係数の補正制御2を示すフローチャートである。
【図8】図8は、一般的な駆動システムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0015】
[駆動システム]
図8は、一般的な駆動システムを示す構成図である。この駆動システム1は、例えば、車両のパワートレーンに適用される。駆動システム1は、駆動装置2と、流体伝動装置3と、前後進切換装置4と、無段変速機5と、制御装置6とを備える(図8参照)。
【0016】
駆動装置2は、内燃機関(例えば、車両のエンジン)であり、駆動力を発生する。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、例えば、流体式トルクコンバータにより構成される。この流体伝動装置3は、駆動装置2の出力軸(例えば、エンジンのクランクシャフト)に連結される。前後進切換装置4は、入力されたトルクを選択的に反転して出力する装置であり、例えば、遊星歯車機構により構成される。この前後進切換装置4は、流体伝動装置3の出力軸に連結される。
【0017】
無段変速機5は、変速比を連続的に変化させる得る変速機構であり、例えば、トラクションドライブ方式を採用するトロイダル型無段変速機により構成される。この無段変速機5は、入力側回転部材51および出力側回転部材52と、伝動部材(図示省略)と、挟圧力制御手段54とを有する。入力側回転部材51は、前後進切換装置4の出力軸に連結される。出力側回転部材52は、減速歯車機構7を介して駆動システム1の出力軸8に連結される。入力側回転部材51および出力側回転部材52は、トロイダル型無段変速機のディスクである。伝動部材は、入力側回転部材51と出力側回転部材52との間に介在してトルクを伝達する部材である。この伝動部材は、トロイダル型無段変速機のパワーローラである。挟圧力制御手段54は、入力側回転部材51および出力側回転部材52と伝動部材との挟圧力(あるいは押圧力)を調整する機構である。この挟圧力制御手段54は、例えば、パワーローラを駆動してディスクに押圧する押圧チャンバーにより構成される。なお、挟圧力は、入力側回転部材51および出力側回転部材52が伝動部材を挟み付ける圧力である。また、無段変速機5が伝達できるトルク容量は、この挟圧力により決定される。
【0018】
この無段変速機5は、入力側回転部材51および出力側回転部材52と伝動部材との位置関係を連続的に変化させることにより、変速比(入力側回転部材51の回転速度と出力側回転部材52の回転速度との比)を無段階に変化させ得る。また、無段変速機5は、挟圧力制御手段54を駆動して入力側回転部材51および出力側回転部材52と伝動部材との挟圧力を調整することにより、トラクション係数を補正できる。
【0019】
この駆動システム1では、まず、駆動装置2が駆動トルクを発生し、この駆動トルクが流体伝動装置3を介して前後進切換装置4に伝達される。前後進切換装置4では、シフトレバー(図示省略)のレンジ切換操作により出力軸の回転方向が切り換えられて、車両の前後進が切り換えられる。次に、駆動トルクが前後進切換装置4から無段変速機5に伝達されて、所定の変速比にて変速される。そして、この動力トルクが減速歯車機構7を介して出力軸8に伝達され、この出力軸8から車両のドライブシャフト(図示省略)に伝達される。
【0020】
[無段変速機のオイルシール構造]
この駆動システム1では、無段変速機5と、この無段変速機5の前段あるいは後段に配置された歯車機構とが、伝達軸10を介してトルク伝達可能に連結される(図1参照)。この伝達軸10は、例えば、無段変速機5の入力側回転部材51と前後進切換装置4の歯車機構(図示省略)とを連結する回転軸、無段変速機5の出力側回転部材52と減速歯車機構7とを連結するカウンタ軸などである。
【0021】
また、無段変速機5を収納する第一収納室11と、歯車機構を収納する第二収納室12とが形成され、これらの収納室11、12が連通部(連通孔)13を介して連通する。また、この連通部13に伝達軸10が挿通され、この伝達軸10を介して無段変速機5と歯車機構とが連結される。例えば、この実施の形態では、無段変速機5および歯車機構が単一のケーシング(図示省略)に収納され、このケーシング内に隔壁14が形成されて第一収納室11と第二収納室12とが区画されている。また、この隔壁14に連通孔が明けられ、この連通孔により第一収納室11と第二収納室12との連通部13が形成されている。そして、この連通部13に伝達軸10が挿通され、この伝達軸10を介して無段変速機5と歯車機構とがトルク伝達可能に連結されている。
【0022】
また、連通部13には、第一収納室11内のオイルと第二収納室12内のオイルとの混合を抑制するためのオイルシール構造が形成される(無段変速機のオイルシール構造)(図1および図2参照)。このオイルシール構造は、オイルシール15が伝達軸10の外周に配置されて連通部13を封止することにより構成される。例えば、この実施の形態では、第一収納室11に無段変速機5用のトラクションオイルが充填され、第二収納室12に歯車機構用のATF(Automatic Transmission Fluid)あるいはギア油が充填されている。また、第一収納室11と第二収納室12との連通部13に、単一のオイルシール15が配置されている。このオイルシール15は、隔壁14の内周面と伝達軸10の外周との隙間を封止している。このオイルシール15により、第一収納室11内のオイルと第二収納室12内のオイルとの流通が遮断されて、オイルの混合が抑制されている。
【0023】
[単一のオイルシールから成るオイルシール構造]
トラクションドライブ方式を採用する無段変速機では、高いトラクション係数を有するオイル(トラクションオイル)が用いられる。一方、歯車機構では、歯車の動力損失を低減するために、トラクションオイルよりも低いトラクション係数を有するオイル(ATFあるいはギア油)が用いられる。したがって、無段変速機のオイルと歯車機構のオイルとは、その混合を抑制するために相互に分離されている。具体的には、無段変速機側の第一収納室と歯車機構側の第二収納室との連通部に、オイルの流通を遮断するためのオイルシール構造が形成されている。
【0024】
ここで、無段変速機のオイルと歯車機構のオイルとの混合を確実に抑制するためには、複数のオイルシールを用いてオイルシール構造を形成することが好ましい。このため、一般的な駆動システムでは、一対のオイルシールが伝達軸の軸方向に配列されてオイルシール構造が形成されている(図示省略)。また、一対のオイルシール間には、空気室が形成されている。これにより、オイルシール構造のシール性能が高められている。
【0025】
しかしながら、かかる一対のオイルシールから成るオイルシール構造では、(1)オイルシールと伝達軸との摩擦接触により、伝達軸における損失トルクが増大(伝達効率が低下)して燃費が悪化するという問題がある。また、(2)かかるオイルシールは一般に高価であるため、製品コストが増大するという問題もある。また、(3)複数のオイルシールの設置スペースを確保するために、無段変速機が大型化するという問題もある。
【0026】
そこで、この駆動システム1では、単一のオイルシール15のみにより、無段変速機5のオイルシール構造が構成される(図1参照)。これにより、上記の(1)〜(3)の問題点が解決される。
【0027】
[オイルシールのポンプ構造]
一方、単一のオイルシール15から成るオイルシール構造では、複数のオイルシールが配置される構成と比較して、そのシール性能が低下する。このため、伝達軸の回転時にて、無段変速機のトラクションオイルに歯車機構のオイルが混入して、トラクションオイルの希釈が徐々に進行する。すると、混油比率(トラクションオイルの希釈率)が上昇して、トラクションオイルのトラクション係数が低下する(図3参照)。かかるトラクション係数の低下は、無段変速機におけるグロススリップ(摩擦係数の低下)の原因となるため、好ましくない。
【0028】
そこで、この駆動システム1では、オイルシール15が、伝達軸10の正回転時にて第二収納室12から第一収納室11に流入しようとするオイルを第二収納室12内に押し戻すポンプ構造を有する(図1および図2参照)。かかる構成では、オイルシール15が上記のポンプ構造を有するので、使用頻度の高い伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側へのオイルの流入が抑制される。これにより、無段変速機5に用いられる第一収納室11内のオイルの希釈(第二収納室12内のオイルの混入による第一収納室11内のトラクションオイルの希釈)が抑制されるので、無段変速機5のトラクション係数が適正に確保される。
【0029】
例えば、この実施の形態では、オイルシール15が一様な断面形状を有する環状部材から成り、単体にて連通部13に設置されている(図2参照)。このオイルシール15は、その内周側にリップ先端部151、シールリップ部152およびダストリップ部153を有し、その外周側に嵌合部154を有する。リップ先端部151は、くさび型の断面形状を有し、オイルシール15の設置状態にて伝達軸10の外周面に付勢してオイルの流通を遮蔽する機能を有する。シールリップ部152は、例えば、エラストマーなどの柔軟性部材から成り、その頂部にリップ先端部151を有する。このシールリップ部152は、リップ先端部151を伝達軸10の外周面に付勢させる機能を有する。これにより、伝達軸10の振動やオイルの圧力変動が生じたときにも、リップ先端部151が伝達軸10の外周面に安定的に付勢される。なお、シールリップ部152は、その外周に嵌め合わされたバネ155により、伝達軸10への付勢力を付与される。ダストリップ部153は、リップ先端部151およびシールリップ部152に対して補助的に形成されたリップ部であり、リップ先端部151に対してオイルシール15の軸方向側方に配置されて、伝達軸10の外周面に当接する。嵌合部154は、オイルシール15の外周部を構成する。
【0030】
また、オイルシール15は、その設置状態にて伝達軸10が回転したときに、オイルを一方向に押し戻すポンプ構造156を有する(図2参照)。このポンプ構造156は、シールリップ部152に形成されたネジ面から成る。具体的には、シールリップ部152がくさび形状の内周面を有し、このシールリップ部152の片面(ダストリップ部153側の面)にネジ山が切られてネジ面が形成される。また、このネジ面がオイルシール15の全周に渡って形成される。
【0031】
このオイルシール15は、その嵌合部154にて連通部13(連通孔)の内周に嵌め合わされて固定される(図1参照)。また、このオイルシール15に伝達軸10が挿入されて設置される。このとき、オイルシール15のリップ先端部151とダストリップ部153とが伝達軸10の外周面に付勢して隔壁14の内周面と伝達軸10の外周との隙間を遮断する。これにより、連通部13が封止されて、第一収納室11内のオイルと第二収納室12内のオイルとの混合が抑制される。
【0032】
また、オイルシール15は、伝達軸10の正回転時にて、ポンプ構造156のポンプ作用が第一収納室11側(無段変速機5側)から第二収納室12側(歯車機構側)に向かうように配置される(図1参照)。具体的には、オイルシール15がポンプ構造156のネジ面とダストリップ部153とを第一収納室11側に向けて配置される。かかる構成では、伝達軸10が正回転すると、ポンプ構造156のポンプ作用により、リップ先端部151とダストリップ部153との間のオイルが第二収納室12に押し戻される(ネジポンプ作用)。あるいは、微少量のオイルが第一収納室11内から第二収納室12内に流出する。これにより、伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側へのオイルの流入が抑制される。
【0033】
[トラクション係数の補正制御1]
上記のように、この駆動システム1では、伝達軸10の正回転時にて、オイルシール15(ポンプ構造156)のポンプ作用が第一収納室11側から第二収納室12側に向かって作用する(図1参照)。これにより、伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側へのオイルの流入が抑制される。
【0034】
しかしながら、伝達軸10の逆回転時には、オイルシール15のポンプ作用が逆方向に作用して、第一収納室11側から第二収納室12側へのオイルの流入が発生し得る。かかるオイルの流入量(オイル移動量)は微少であるが、稼動時間が長期に渡ると、第一収納室11内のオイルと第二収納室12内のオイルとの混合(第一収納室11内のトラクションオイルの希釈)が進行して、無段変速機5のトラクション係数が低下する(図3参照)。
【0035】
そこで、この駆動システム1では、以下の構成によりトラクション係数の補正制御が行われる(図1および図4参照)。まず、駆動システム1が、伝達軸10の逆回転方向の回転数を取得する回転数取得手段61と、この回転数に基づいて所定の制御を行う制御手段(図示省略)とを備える(図1参照)。回転数取得手段61は、例えば、出力回転軸センサにより構成される。制御手段は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)により構成される。
【0036】
トラクション係数の補正制御において、ステップST1では、伝達軸10の逆回転時にて、回転数取得手段61が伝達軸10の逆回転方向の回転数を検出する。ステップST2では、制御手段が、この逆回転方向の回転数を取得して、その積算値を算出する。なお、回転数について、例えば、車両であれば、前進時が正回転であり後退時が逆回転となる。すなわち、使用頻度の高い回転方向が正回転となる。
【0037】
ステップST3では、制御手段が、この逆回転時の回転数の積算値に基づいて第二収納室12から第一収納室11に流入したオイル量(オイル移動量)を推定する。ステップST4では、制御手段が、このオイル移動量に基づいて第一収納室11での混油比率を算出する。すなわち、この駆動システム1では、伝達軸10の正回転時にて、オイルシール15のポンプ作用が第一収納室11側から第二収納室12側に向かって作用するように、オイルシール15が配置されている(図1参照)。したがって、伝達軸10の逆回転時には、オイルシール15のポンプ作用が逆方向に作用して、第一収納室11側から第二収納室12側に向かってオイルが流入する。この逆回転時のオイル移動量は微少であるが、逆回転時の回転数の積算値に比例して徐々に増大する。したがって、逆回転時の回転数の積算値(ステップST2)に基づいて第二収納室12から第一収納室11へのオイル移動量を推定し(ステップST3)、これに基づいて第一収納室11での混油比率を算出する(ステップST4)ことにより、第一収納室11内のオイルの希釈状況が取得される。なお、第一収納室11での混油比率は、初期状態にて第一収納室11に充填されたオイル量と、伝達軸10の逆回転により第二収納室12から第一収納室11に流入したオイル移動量との比率として算出される。
【0038】
次に、ステップST5では、制御手段が第一収納室11での混油比率に基づいて、無段変速機5のトラクション係数を補正する。これにより、無段変速機5の運転状態(変速制御など)が適正化されて、無段変速機でのグロススリップが防止される。なお、トラクション係数の補正は、例えば、制御手段が無段変速機5の挟圧力制御手段54を駆動して、入力側回転部材51および出力側回転部材52と伝動部材との挟圧力を調整することにより、行われる。
【0039】
[トラクション係数の補正制御2]
オイルシール15には、駆動システム1の総運転時間や伝達軸10の総回転数に応じて摩耗が発生する(図5参照)。この摩耗状態は、例えば、オイルシール15のリップ先端部151に生ずる摩耗幅として把握される。かかる摩耗が進行すると、オイルシール15と伝達軸10との接触面積が増加して、第二収納室12側から第一収納室11側へのオイル移動量が減少する(図6参照)。
【0040】
そこで、この駆動システム1では、上記のトラクション係数の補正制御(図4参照)において、オイルシール15の摩耗状態が考慮されても良い(図7参照)。
【0041】
すなわち、オイル移動量の推定ステップST3に先立って、オイルシール15の摩耗量が推定される(ステップST21)。そして、この摩耗量の推定値と伝達軸10の逆回転方向の回転数の積算値(ステップST2)とに基づいて、第二収納室12から第一収納室11へのオイル移動量が推定される(ステップST3)。かかる構成では、第一収納室11へのオイル移動量の推定精度が向上するので、第一収納室11での混油比率の算出(ステップST4)の精度が向上する。これにより、トラクション係数の補正(ステップST5)が適正に行われて、無段変速機でのグロススリップが効果的に防止される。
【0042】
例えば、この実施の形態では、オイルシール15の摩耗量の推定(ステップST21)にあたり、伝達軸10の正回転方向の回転数と逆回転方向の回転数との総和(伝達軸10の総回転数)が用いられる。この回転数の総和は、回転数取得手段61の出力値に基づいて、制御手段により算出される。かかる構成により、オイルシール15の摩耗量が精度良く推定され得る。
【0043】
[その他]
なお、この実施の形態では、伝達軸10がカウンタ軸であるため、車両の前進および後進の切り替えにより、伝達軸10が正回転および逆回転の双方向に駆動され得る。このため、オイルシール15のポンプ作用が第一収納室11側から第二収納室12側に向かう方向と第二収納室12側から第一収納室11側に向かう方向との双方向に作用し得る。したがって、このオイルシール15のポンプ作用により第一収納室11内のオイルの希釈が発生するため、上記のようなトラクション係数の補正制御(図4および図7参照)が必要となる。
【0044】
しかし、これに限らず、伝達軸10が一方向(正回転方向)にのみ駆動される場合には、オイルシール15のポンプ作用が一方向にしか作用しない。したがって、かかる場合には、オイルシール15のポンプ作用が第一収納室11側から第二収納室12側に向かう方向に作用するように、オイルシール15が設置される。これにより、第一収納室11内のオイルの希釈が抑制されて、無段変速機5のトラクション係数が適正に確保される。また、上記のようなトラクション係数の補正制御(図4および図7参照)が不要となる。
【0045】
また、伝達軸10が一方向(正回転方向)に偏って駆動される場合には、オイルシール15のポンプ作用により第一収納室11内のオイルが徐々に流出して減少する。例えば、車両が前進(伝達軸10の正回転方向)にのみ10万km走行すれば、相当量のトラクションオイルが第一収納室11から流出して第一収納室11内のオイル量が減少する。そこで、かかる場合には、伝達軸10の正回転方向と逆回転方向との差を算出し、この算出値が所定の閾値よりも大きくなったとき(伝達軸10が一方向に偏って駆動されたとき)に、ドライバーに対して注油の警告を表示する構成が採用されても良い。これにより、トラクションオイルの充填量(注油時期)が把握されるので、無段変速機5の運転が適正に行われる。
【0046】
[効果]
以上説明したように、この駆動システム1では、無段変速機5を収納する第一収納室11と歯車機構を収納する第二収納室12とが連通部13を介して連通すると共に、この連通部13に無段変速機5と歯車機構とを連結する伝達軸10が挿通される(図1参照)。このとき、伝達軸10の外周に配置されて連通部13を封止する単一のオイルシール15が設置される。そして、このオイルシール15が、伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側に流入しようとするオイルを第二収納室12側に押し戻すポンプ構造を有する(図2参照)。かかる構成では、オイルシール15が上記のポンプ構造を有するので、使用頻度の高い伝達軸10の正回転時にて、第二収納室12側から第一収納室11側へのオイルの流入が抑制される。これにより、無段変速機5に用いられる第一収納室11内のオイルの希釈(第二収納室12内のオイルの混入による希釈)が抑制されるので、無段変速機5のトラクション係数が適正に確保される利点がある。
【0047】
また、この駆動システム1では、伝達軸10の逆回転方向の回転数を取得する手段61と、この逆回転方向の回転数の積算値に基づいて無段変速機5のトラクション係数を補正する手段とを備える(図1および図4参照)。かかる構成では、伝達軸10の逆回転方向の回転数の積算値(ステップST2)に基づいて第二収納室12から第一収納室11へのオイル移動量を推定でき(ステップST3)、また、このオイル移動量に基づいて第一収納室11での混油比率(第一収納室11内のオイルの希釈状況)を算出できる(ステップST4)。そして、この第一収納室11での混油比率に基づいて無段変速機5のトラクション係数を補正する(ステップST5)ことにより、無段変速機5の運転状態(変速制御など)を適正化できる。これにより、無段変速機でのグロススリップを防止できる利点がある。
【0048】
また、この駆動システム1では、伝達軸10の逆回転方向の回転数を取得する手段61と、オイルシール15の摩耗量を推定する手段と、伝達軸10の逆回転方向の回転数の積算値およびオイルシール15の摩耗量に基づいて無段変速機5のトラクション係数を補正する手段とを備える(図1および図7参照)。かかる構成では、伝達軸10の逆回転方向の回転数の積算値(ステップST2)と、オイルシール15の摩耗量の推定値(ステップST21)とに基づいて、第二収納室12から第一収納室11へのオイル移動量を推定できる(ステップST3)。そして、このオイル移動量に基づいて第一収納室11での混油比率を算出できる(ステップST4)。そして、この第一収納室11での混油比率に基づいて無段変速機5のトラクション係数を補正する(ステップST5)ことにより、無段変速機5の運転状態(変速制御など)を適正化できる。これにより、無段変速機でのグロススリップを防止できる利点がある。特に、かかる構成では、第一収納室11へのオイル移動量の推定(ステップST3)にあたりオイルシール15の摩耗量の推定値(ステップST21)が考慮されるので、伝達軸10の逆回転方向の回転数の積算値のみに基づいて第一収納室11へのオイル移動量を推定する構成(図4参照)と比較して、トラクション係数の補正制御(ステップST5)が精度良く行われる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、この発明にかかる駆動システムは、無段変速機に用いられるオイルの希釈を抑制して無段変速機のトラクション係数を適正に確保できる点で有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 駆動システム、2 駆動装置、3 流体伝動装置、4 前後進切換装置、5 無段変速機、6 制御装置、7 減速歯車機構、8 出力軸、10 伝達軸、11 第一収納室、12 第二収納室、13 連通部、14 隔壁、15 オイルシール、51 入力側回転部材、52 出力側回転部材、54 挟圧力制御手段、61 回転数取得手段、151 リップ先端部、152 シールリップ部、153 ダストリップ部、154 嵌合部、155 バネ、156 ポンプ構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクションドライブ方式の無段変速機と、前記無段変速機に伝達軸を介してトルク伝達可能に連結される歯車機構とを備える駆動システムであって、
前記無段変速機を収納する第一収納室と前記歯車機構を収納する第二収納室とが連通部を介して連通すると共に、前記連通部に前記伝達軸が挿通されるときに、
前記伝達軸の外周に配置されて前記連通部を封止する単一のオイルシールを備え、且つ、前記オイルシールが、前記伝達軸の正回転時にて前記第二収納室側から前記第一収納室側に流出しようとするオイルを前記第二収納室側に押し戻すポンプ構造を有することを特徴とする駆動システム。
【請求項2】
前記伝達軸の逆回転方向の回転数を取得する手段と、前記逆回転方向の回転数の積算値に基づいて前記無段変速機のトラクション係数を補正する手段とを備える請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記伝達軸の逆回転方向の回転数を取得する手段と、前記オイルシールの摩耗量を推定する手段と、前記逆回転方向の回転数の積算値および前記摩耗量に基づいて前記無段変速機のトラクション係数を補正する手段とを備える請求項1に記載の駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−122632(P2011−122632A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279795(P2009−279795)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】