駆動力伝達装置
【課題】摩耗が起こりにくく耐久性のあるクラッチプレート、及びそのクラッチプレートを備えた摩擦クラッチ及び駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にCVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜Dを施す。そして、そのアウタクラッチプレート34bとインナクラッチプレート34aとを摩擦係合可能に構成した摩擦クラッチ34を構成する。さらに、その摩擦クラッチ34を駆動力伝達装置に採用する。
【解決手段】アウタクラッチプレート34bの摺動面S2にCVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜Dを施す。そして、そのアウタクラッチプレート34bとインナクラッチプレート34aとを摩擦係合可能に構成した摩擦クラッチ34を構成する。さらに、その摩擦クラッチ34を駆動力伝達装置に採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗が起こりにくい駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動側クラッチプレートと、従動側クラッチプレートとを摩擦係合させることによって、動力伝達を行う摩擦クラッチが知られている。
前記摩擦クラッチにおける両クラッチプレートの摺動面には、摩擦係合による摩耗を抑制するために表面処理を施している。その表面処理の一例としては、両クラッチプレートの摺動面の組成を、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理により変化させたものがある。このようにして、両クラッチプレートの摺動面を強化することで、摩耗を減らすようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記処理を施した摩擦クラッチであっても、乾性摩擦係合を行ったり、潤滑油中の摩擦係合であっても大きな力で摩擦係合を行ったりすると耐久性に乏しかった。
【0004】
従って、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は摩耗が起こりにくく、耐久性のある駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、互いに相対回転可能に位置する回転部材間に配置され、摩擦係合することによってこれら両回転部材間での駆動力伝達を行う駆動力伝達装置であって、摩擦係合する摺動面の一方に非晶質構造を有するダイヤモンド状炭素薄膜を施したことを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面間には潤滑油が介在し、湿式摩擦係合することを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面の他方には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面の他方には、周方向に沿って設けられた複数の微細な幅の溝部が形成されていることを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、前記一方の摺動面には、略網目状の溝部が形成されていることを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置は、車両の駆動力を伝達するものであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によれば、摩耗が起こりにくく、耐久性がよくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1には、本発明を具体化した一実施形態の駆動力伝達装置を示している。この駆動力伝達装置11は、図2に示すように、四輪駆動車12における後輪側への駆動力伝達経路に配設されている。
【0012】
前記四輪駆動車12は、駆動力伝達装置11、トランスアクスル13、エンジン14、一対の前輪15、及び一対の後輪16を備えている。
前記エンジン14の駆動力はトランスアクスル13を介してアクスルシャフト17に出力し、前輪15を駆動する。
【0013】
また、トランスアクスル13にはプロペラシャフト18を介して駆動力伝達装置11が連結され、同駆動力伝達装置11にはドライブピニオンシャフト19を介してリヤデファレンシャル20が連結されている。リヤデファレンシャル20には、アクスルシャフト21を介して後輪16が連結されている。前記プロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が駆動力伝達装置11にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン14の駆動力は後輪16に伝達される。
【0014】
駆動力伝達装置11はリヤデファレンシャル20とともにディファレンシャルキャリヤ22内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ22に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ22を介して車体に支持されている。
【0015】
次に駆動力伝達装置11について説明する。
図1に示すように、駆動力伝達装置11は外側回転部材としてのアウタケース30a、内側回転部材としてのインナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えている。
【0016】
前記メインクラッチ機構30cは、本発明のクラッチ部及びメインクラッチに相当する。
前記アウタケース30aは、有底筒状のフロントハウジング31aと、フロントハウジング31aの後端開口部に螺着され、且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング31bとから構成されている。前記フロントハウジング31aの前端部には入力軸50が突出形成され、同入力軸50は前記プロペラシャフト18(図2参照)に連結されている。
【0017】
前記フロントハウジング31aは非磁性材料であるアルミニウムにて形成され、前記リヤハウジング31bは磁性材料である鉄にて形成されている。リヤハウジング31bの径方向の中間部には、非磁性体材料であるステンレス製の筒体51が埋設され、同筒体51は環状の非磁性部位を形成している。
【0018】
前記アウタケース30aはフロントハウジング31aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して図示しないベアリング等を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース30aは、リヤハウジング31bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して支持されたヨーク36にベアリング等を介して支持されている。
【0019】
前記インナシャフト30bは、リヤハウジング31bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング31a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング31aとリヤハウジング31bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト30bには、ドライブピニオンシャフト19(図2参照)の先端部が挿入されて連結されている。なお、図1においてはドライブピニオンシャフト19は図示していない。
【0020】
図1に示すように、メインクラッチ機構30cは湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄製のインナクラッチプレート32a及び鉄製のアウタクラッチプレート32bを多数備えている。そして、前記クラッチプレート32aの両側摺動面にペーパー系湿式摩擦材が貼り付けられている。このため、クラッチプレート32a,32b同士が係合した際に、素材同士(鉄同士)が直接摺接することなく、結果的に鉄の摩耗粒子が出にくいようにされている。
【0021】
前記インナクラッチプレート32a,アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの奥壁側に配設されている。各インナクラッチプレート32aは、インナシャフト30bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0022】
一方、各アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート32aと各アウタクラッチプレート32bは交互に位置されて互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0023】
パイロットクラッチ機構30dは、電磁石33、クラッチ部としての摩擦クラッチ34、及びアーマチャ35を備えている。前記電磁石33とアーマチャ35にて電磁式の駆動手段が構成されている。
【0024】
図1に示すように、ヨーク36はディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング31bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。前記ヨーク36には環状をなす電磁石33が嵌着され、同電磁石33はリヤハウジング31bの環状凹所53に嵌合されている。
【0025】
前記摩擦クラッチ34は、鉄製の複数のインナクラッチプレート34a及び鉄製の複数のアウタクラッチプレート34bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
前記インナクラッチプレート34aは「他方のクラッチプレート」に相当し、前記アウタクラッチプレート34bは「一方のクラッチプレート」に相当する。
【0026】
前記インナクラッチプレート34aは、後述するカム機構30eを構成する第1カム部材37の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート34bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0027】
前記インナクラッチプレート34aと各アウタクラッチプレート34bとは交互に位置して、互いに当接した摩擦係合状態と、互いに離間して非係合の自由状態との両状態が可能とされている。
【0028】
図3に示すように、前記インナクラッチプレート34a、アウタクラッチプレート34bには互いに接触する摺動面S1,S2が形成されている。
図3,4に示すように、前記クラッチプレート34aの摺動面S1の全面には、プレス加工により微細な幅の溝部40が微少な間隔を保持して多数並列して設けられている。前記摺動面S1には公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理が施されている。なお、溝部40はわかりやすいように誇張して示してあるが、溝のピッチ、高さともにμm単位で形成されていれば十分である。
【0029】
そして、図3に示すように、前記摺動面S2にはCVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されている。
【0030】
即ち、例えば以下に示す装置にて、アウタクラッチプレート34bにはダイヤモンド状炭素薄膜Dが成形される。
図8に示す装置61は、高温プラズマCVDを行うためのものであり、排気口62を有する真空チャンバ63を備えている。真空チャンバ63内には、放電のための陰極64及び陽極65が設けられている。陰極64と陽極65には電源66が接続されており、同電源66により陰極64及び陽極65には直流電圧が印加される。前記陽極65の先端部には、供給口67が形成されている。
【0031】
ダイヤモンド状炭素薄膜Dの合成のための原料ガスは、図中の矢印に示すように前記陰極64と陽極65との間を通り、かつ供給口67を介して真空チャンバ63内へ供給される。そして、供給口67近傍での放電により分解及び励起されたプラズマを生成するようになっている。なお、このプラズマ生成からダイヤモンド状炭素薄膜D成形に至る一連の操作において真空チャンバ63内は低圧にされている。真空チャンバ63内には、ホルダ68が配置されており、そのホルダ68にはアウタクラッチプレート34bがセットされる。
【0032】
そして、ホルダ68にセットしたアウタクラッチプレート34bの摺動面S2に対して、前記生成したプラズマを当てることで、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを成長させる。このようにして、適当な厚みとなるまでダイヤモンド状炭素薄膜Dを堆積する。本実施形態では、前記ダイヤモンド状炭素薄膜Dの厚さは3μmとされている。
【0033】
このダイヤモンド状炭素薄膜Dの膜厚を0.1〜10μmの範囲にすることで、摺動面S2の保護を実現可能であるが、望ましくは1〜5μmの膜厚の範囲である。この厚みが0.1μm未満では摩耗に対する耐久寿命が短く、実用に向かない。逆に10μmを越えると被膜が脆くなる。なお、ダイヤモンド状炭素はDLCと呼ばれている。
【0034】
ところで、図1に示すように、アーマチャ35は環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。前記アーマチャ35は摩擦クラッチ34に対して一側に位置し、摩擦クラッチ34に対向している。
【0035】
前記電磁石33の電磁コイルへの通電により、ヨーク36、リヤハウジング31b、第1カム部材37、アーマチャ35、摩擦クラッチ34、リヤハウジング31b、及びヨーク36間を循環する磁路L1が形成される。
【0036】
図1に示すように、カム機構30eは、第1カム部材37、第2カム部材38、及びカムフォロア39にて構成されている。第1カム部材37、第2カム部材38は、略円盤状に形成されている。
【0037】
第1カム部材37及び第2カム部材38には、対向面に互いに対向する図示しないカム溝が周方向に所定間隔を隔てて複数形成されている。第1カム部材37はインナシャフト30bの外周に回転可能に嵌合されるとともに、リヤハウジング31bに対してスラストベアリング41を介して回転可能に支承されている。第1カム部材37の外周において、リヤハウジング31b側寄りの部位には、前記インナクラッチプレート34aが軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されている。一方、第1カム部材37の外周において、メインクラッチ機構30c側の部位は、アーマチャ35の内周面に対して相対回転可能に当接されている。
【0038】
図5に示すように、前記第1カム部材37のインナシャフト30bが内嵌された内周面には、周回するシールリング収納溝42aが形成されている。同シールリング収納溝42aにはシールリング42bが収納されている。前記シールリング42bにより、インナシャフト30bと第1カム部材37は液密状態とされている。
【0039】
また、前記アーマチャ35の内周面には、周回するシールリング収納溝43aが形成されている。同シールリング収納溝43aにはシールリング43bが収納されている。前記シールリング43bにより、第1カム部材37とアーマチャ35は液密状態とされている。
【0040】
同様に、前記アーマチャ35の外周面には、周回するシールリング収納溝44aが形成されている。同シールリング収納溝44aにはシールリング44bが収納されている。前記シールリング44bにより、アーマチャ35とフロントハウジング31aは液密状態とされている。
【0041】
前記アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにてシール機構Iが構成されている。前記シールリング42b,43b,44bはシール部材に相当する。
【0042】
図1に示すように、本実施形態では、フロントハウジング31a、アーマチャ35、第1カム部材37、及びインナシャフト30bにて囲まれる空間を収納室K1としている。また、インナシャフト30b、第1カム部材37、アーマチャ35、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング31bにて囲まれる空間を収納室K2としている。
【0043】
前記第2カム部材38はインナシャフト30bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト30bに対して一体回転可能に組み付けられている。同第2カム部材38はメインクラッチ機構30cのインナクラッチプレート32aに対向して位置されている。前記第2カム部材38と第1カム部材37の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア39が介在されている。
【0044】
この結果、アーマチャ35がフロントハウジング31aの内側において摩擦クラッチ34の一側に位置し、且つ電磁石33がフロントハウジング31aの開口側においてリヤハウジング31bを挟んで摩擦クラッチ34の他側に位置し、リヤハウジング31bは磁路形成部材として機能する。
【0045】
リヤハウジング31bはインナシャフト30bの外周に液密的かつ回転可能に嵌合された状態で、その壁部の周縁部にてフロントハウジング31aに螺着されている。また、リヤハウジング31bは、その後側筒部の後端部の外周にて図示しないオイルシールを介して、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に液密的かつ回転可能に支持されている。
【0046】
前記収納室K1には潤滑油が充填され、同潤滑油は両クラッチプレート32a,32bの潤滑を行うようにされている。本実施形態では潤滑油は収納室K1に対し80容積%程度充填されている。前記収納室K1内の潤滑油は前記シール機構Iにより収納室K2へ漏出不能とされている。前記収納室K1は、潤滑油の充填空間に相当し、前記収納室K2は、潤滑油の未充填空間に相当する。なお、収納室K2内にあるスラストベアリング41はグリスにて潤滑されている。
【0047】
上記のような駆動力伝達装置11においては、パイロットクラッチ機構30dを構成する電磁石33の電磁コイルへの通電がなされていない場合には磁路L1は形成されず、摩擦クラッチ34は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構30dは非作動の状態にあって、カム機構30eを構成する第1カム部材37は、カムフォロア39を介して第2カム部材38と一体回転可能であり、メインクラッチ機構30cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車12は二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0048】
一方、電磁石33の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構30dには磁路L1が形成され、電磁石33はアーマチャ35を吸引する。このため、アーマチャ35は摩擦クラッチ34を押圧して摩擦係合させ、カム機構30eの第1カム部材37をフロントハウジング31a側と連結させ、第2カム部材38との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構30eではカムフォロア39が両カム部材37,38を互いに離間する方向へ押圧する。
【0049】
この結果、第2カム部材38はメインクラッチ機構30c側へ押圧され、メインクラッチ機構30cを摩擦クラッチ34の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0050】
また、電磁石33の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石33のアーマチャ35に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ35は強く電磁石33側へ吸引作動され、摩擦クラッチ34の摩擦係合力を増大させ、両カム部材37,38間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア39は第2カム部材38に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構30cを結合状態とする。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0051】
次に、駆動力伝達装置11の特徴的な作用を説明する。
なお、以下の説明で示す従来駆動伝達装置とは、本実施形態の駆動力伝達装置11において、シールリング42b,43b,44bを省略し、収納室K1と収納室K2を連通させ、潤滑油が両室間を移動自在な状態としたものとする。そして、従来駆動伝達装置は、両収納室K1,K2(アウタケース及びインナシャフトにて囲まれる空間)内に前記潤滑油を同収納室に対し80容積%程度充填したものとする。また、従来駆動伝達装置の摩擦クラッチにおけるアウタクラッチプレートは、摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されておらず窒化処理が施されているものとする。従って、摩擦クラッチは潤滑油が供給された状態で摩擦係合を行うように構成されている。
【0052】
なお、比較のために、従来駆動力伝達装置のトルク伝達能力は、本実施形態の駆動力伝達装置と同じものとする。
図6は、従来駆動力伝達装置におけるインナシャフト(インナシャフト30bに相当)の回転数と引きずりトルクとの関係を示したグラフである。なお、図6はアウタケース(アウタケース30aに相当)を固定し、インナシャフトを回転させた実験結果である。
【0053】
このグラフは、電磁石(電磁石33に相当)の電磁コイルへの通電がなされていない状態において、作動油の粘性や、残留磁気によってインナシャフトからアウタケースへ伝わる引きずりトルクを示したものである。なお、図6は−20度(摂氏温度)で行ったものである。
【0054】
a線は、メインクラッチ(メインクラッチ機構30cに相当)に対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
b線は、前記メインクラッチの引きずりトルクに加え、摩擦クラッチ(摩擦クラッチ34に相当)に対して電磁石の残留磁気が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
【0055】
c線は、前記メインクラッチの引きずりトルク、及び摩擦クラッチに対する残留磁気による引きずりトルクに加え、摩擦クラッチに対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
【0056】
従って、図6において、インナシャフトの回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約14%がメインクラッチに対する潤滑油の粘性からもたらされている(以下、この引きずりトルクをAトルクという)。さらに、前記回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約4%が摩擦クラッチに対する電磁石の残留磁気からもたらされている(以下、この引きずりトルクをBトルクという)。同様に、前記回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約82%が摩擦クラッチに対する潤滑油の粘性からもたらされている(以下、この引きずりトルクをCトルクという)。
【0057】
この結果、前記Cトルクは、前記Aトルク及び前記Bトルクと比べて大きい。
前記Cトルクが最も大きくなる理由は、摩擦クラッチに対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすと、その影響はメインクラッチ側へ伝わる際に、カム機構(カム機構30eに相当)によって増幅されるからである。
【0058】
一方、本実施形態の駆動力伝達装置11では、摩擦クラッチ34には潤滑油が供給されない構造としているため、前記Cトルクが発生しない。
従って、図7に示すように、−20度(摂氏温度)の条件下で、前記インナシャフトの回転数を200min-1とした際に、駆動力伝達装置11は従来駆動力伝達装置と比べ、引きずりトルクが約82%も削減される。
【0059】
ところで、従来駆動力伝達装置の両クラッチプレートの摺動面には窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理を施しているため、両クラッチプレートを乾性摩擦係合すると摩耗が激しい。しかしながら、本実施形態の摩擦クラッチ34はアウタクラッチプレート34bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているため、摩耗を起こしにくい。また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dは一種の炭素膜であるため、固体潤滑剤としての役割も果たす。そのため、前記摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すと、その摺動面S2に対して摺接するインナクラッチプレート34aの摺動面S1は摩耗しにくくなる。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート34a,34bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ34自体及び駆動力伝達装置11自体の耐久性もよくなる。
【0060】
また、従来駆動力伝達装置では摩擦クラッチで発生した摩耗粒子が潤滑油に混入してしまうことに対し、駆動力伝達装置11では摩擦クラッチ34で発生した摩耗粒子は収納室K1内の潤滑油に混入しない。
【0061】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置11は、従来駆動力伝達装置と比べると、引きずりトルクが大幅に減少し、かつ耐久寿命の面で優れていることが分かる。
従って、本実施形態の駆動力伝達装置11によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0062】
(1)本実施形態では、摩擦クラッチ34は両クラッチプレート34a,34bを備え、クラッチプレート34bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート34a,34bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ34自体及び駆動力伝達装置11自体の耐久性もよくなる。
【0063】
(2)本実施形態では、メインクラッチ機構30c及び摩擦クラッチ34を設け、メインクラッチ機構30cを収納する収納室K1と、摩擦クラッチ34を収納する収納室K2とを互いにシールした。摩擦クラッチ34は電磁石33及びアーマチャ35(電磁式の駆動手段)の作動にて断接自在に構成した。前記収納室K1には潤滑油を充填し、前記収納室K2には潤滑油を充填しないようにした。そして、摩擦クラッチ34を乾性摩擦係合するようにした。
【0064】
そのため、駆動力伝達装置11には図6に示すCトルク(潤滑油に起因した引きずりトルク)が発生しない。従って、摩擦クラッチ34は潤滑油の粘性の影響を受けることがないため、駆動力伝達装置11は引きずりトルクを抑制できる。加えて、収納室K1と収納室K2とを互いにシールすることで、収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。
【0065】
それに対して、従来駆動力伝達装置では、摩擦クラッチは潤滑油を用いて摩擦係合を行うように構成されているため、電磁石の電磁コイルへの通電がなされていない際でも、潤滑油の粘性せん断摩擦によって摩擦クラッチが僅かに摩擦係合状態となってしまうことがある。すると、電磁石の電磁コイルへの通電がなされていないにもかかわらずアウタケースの回転がインナシャフトへ伝わり、引きずりトルクが発生してしまうことがあった。特に低温時には、潤滑油の粘性が高まるため引きずりトルクが発生しやすい。
【0066】
(3)本実施形態では、乾式摩擦係合を行う摩擦クラッチ34を互いに相対回転可能に位置するアウタケース30aとインナシャフト30bの間に配置した。そして、電磁石33及びアーマチャ35(電磁式の駆動手段)にて摩擦クラッチ34を摩擦係合する構成とした。アウタケース30a及びインナシャフト30bは、両部材間に位置し摩擦係合によりアウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構30cを備えた。
【0067】
摩擦クラッチ34、電磁石33及びアーマチャ35にてパイロットクラッチ機構30dを構成した。同パイロットクラッチ機構30dの摩擦係合力を前記メインクラッチ機構30cに伝達して同メインクラッチ機構30cを摩擦係合するカム機構30eを備えた。従って、アウタケース30a、インナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えた駆動力伝達装置11は摩擦クラッチ34の摩擦係合とその解除を正確に行うことができる。
【0068】
(4)本実施形態では、電磁式の駆動手段は、アーマチャ35と電磁石33にて構成した。そして、アーマチャ35と電磁石33にて摩擦クラッチ34を摩擦係合するようにした。従って、アーマチャ35と電磁石33にて摩擦クラッチ34を断接自在にできる。
【0069】
(5)本実施形態では、アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにてシール機構Iを構成した。そして、シール機構Iにて収納室K1と収納室K2を互いにシールするようにした。
【0070】
従って、アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにて収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ漏出不能とすることができる。また、部品点数においては、従来駆動力伝達装置に比して、シールリング42b,43b,44bを増加させるだけでありながら、前記潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。そのため、部品点数をそれほど増加させることなく潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。
【0071】
(6)本実施形態では、収納室K1にメインクラッチ機構30cを配置し、収納室K2に摩擦クラッチ34を配置した。そして、シール機構Iにて収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ浸入することを防止した。従って、摩擦クラッチ34で摩耗粒子が発生しても、その摩耗粒子がシール機構Iにて阻まれ、収納室K1内の潤滑油に漏出することがない。この結果、駆動力伝達装置11の耐久寿命を向上できる。
【0072】
(7)本実施形態では、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ処理を施した。従って、摺動面に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ処理を施さないクラッチプレートと比べてインナクラッチプレート34aは耐久性がよくなる。
【0073】
(8)本実施形態では、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に対して、周方向に沿って微細な幅の溝部40を複数設けた。従って、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの接触面積を任意の面積にできる。
(第2実施形態)
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図9〜図12に従って説明する。
【0074】
なお、第2実施形態の駆動力伝達装置111を構成する各部材や機構は、前記第1実施形態の駆動力伝達装置11を構成する各部材や機構と略同様の構成で、かつ略同様の機能を奏するものがある。従って、第2実施形態の駆動力伝達装置111を構成する各部材や機構のうち、前記第1実施形態の駆動力伝達装置11を構成する各部材や機構と略同様の構成及び機能を奏するものについては、第1実施形態の各部材や機構の符号の数値に100を加え、その詳細な説明を省略し、異なるところのみを説明する。
【0075】
前記第1実施形態の駆動力伝達装置11はシール機構Iにより、その内部に収納室K1と収納室K2を形成していた。そして、収納室K1内のメインクラッチ機構30cを湿式摩擦係合するように構成し、収納室K2内の摩擦クラッチ34を乾式摩擦係合するように構成していた。
【0076】
しかしながら本実施形態では、図9に示すように、メインクラッチ機構130c及び摩擦クラッチ134の両者を湿式摩擦係合するように構成している。
従って、本実施形態では、シール機構Iを構成するシールリング収納溝42a,43a,44a及びシールリング42b,43b,44bが省略されている。また、本実施形態では、収納室K1及び収納室K2という概念もなくしている。
【0077】
また、第1カム部材137の外周面はアーマチャ135の内周面に対して若干離間されている。そして、前記アウタケース130a、インナシャフト130b、及びリヤハウジング131bにて囲まれて形成された収納室内には潤滑油が充填されている。前記潤滑油は両クラッチプレート132a,132bの潤滑、及び両クラッチプレート134a,134bの潤滑を行うように構成されている。
【0078】
本実施形態では、摩擦クラッチ134は、鉄製の1枚のインナクラッチプレート134a及び鉄製の2枚のアウタクラッチプレート134bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
【0079】
さらに、本実施形態では、電磁石133の電磁コイルへの通電により、ヨーク136、リヤハウジング131b、摩擦クラッチ134、アーマチャ135、摩擦クラッチ134、リヤハウジング131b、及びヨーク136間を循環する磁路L2が形成される。
【0080】
また、図10,11に示すように、アウタクラッチプレート134bにおけるインナクラッチプレート134a側の摺動面S2には、プレス加工により略網目状の溝部Mが形成されている。その溝部Mにより、両クラッチプレート134a,134b間に介在する余分な潤滑油を受け入れるように構成されている。前記インナクラッチプレート134aの摺動面S1は約13.5μmの表面粗さ(Rz)に形成され、前記アウタクラッチプレート134bの摺動面S2は約3.3μmの表面粗さ(Rz)に形成されている。なお、本明細書では「Rz」は十点平均粗さのことをいう。
【0081】
図11に示すように、前記溝部Mを有する摺動面S2には、CVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法により前記ダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されている。本実施形態においても、ダイヤモンド状炭素薄膜Dの厚さは3μmとされている。そして、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しても、そのダイヤモンド状炭素薄膜Dの表面粗さ(Rz)は約3.3μmとされている。
【0082】
次に、駆動力伝達装置111の特徴的な作用について説明する。
なお、以下の説明で示す従来駆動伝達装置とは、駆動力伝達装置111において、クラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しておらず、代わりに窒化処理を施したものに相当するものとする。加えて、前記従来駆動力伝達装置の摩擦クラッチにおいて、インナクラッチプレートの摺動面の表面粗さ(Rz)は約7.8μm、アウタクラッチプレートの表面粗さ(Rz)は約3.8μmとする。
【0083】
以下、従来駆動力伝達装置の摩擦クラッチにおける、アウタクラッチプレートを「従来アウタプレート」、インナクラッチプレートを「従来インナプレート」ということがある。
【0084】
なお、比較のために、従来駆動力伝達装置のトルク伝達能力は、本実施形態の駆動力伝達装置111と同じものとする。
図12は、駆動力伝達装置111と従来駆動力伝達装置における耐久サイクル数と「μ100/μ50」との関係を示したものである。図12では、縦軸に「μ100/μ50」をとり、横軸に「耐久サイクル数」をとっている。
【0085】
なお、この図で示す「μ100/μ50」とは100min-1のときの摩擦係数μを50min-1のときの摩擦係数μで除算した値である。
これを式で表すと、
μ100/μ50 = (100min-1のときの摩擦係数μ)/(50min-1のときの摩擦係数μ)
となる。
【0086】
「μ100/μ50」の値が1以上であればμ−v勾配は正の速度依存性を有する。そして、μ−v勾配が正の速度依存性を有した場合にはジャダー防止性に優れることが公知とされている。
【0087】
なお、ジャダーとは例えば以下に示すことをいう。インナクラッチプレート134aとアウタクラッチプレート134bとの摺動面部、又はインナクラッチプレート132a、アウタクラッチプレート132bのスティック・スリップが原因となって生じる駆動系の自励振動が、駆動力伝達装置111を搭載する車両全体にまで及ぶ現象のことをいう。
【0088】
次に、μ−v特性(μ−v勾配)について説明する。
前記摺動面でのスティック・スリップ抑制には、摩擦係数μの速度vに対する依存性(μ−v特性)に正勾配性があること(dμ/dv≧0)とすることが有効である。
【0089】
前記摺動面に発生する摩擦は、流体摩擦(油膜のせん断抵抗)と境界摩擦(摺動面同士の固体間摩擦)の和からなる。それらの単位面積あたりの大きさは、流体摩擦<<境界摩擦の関係にある。vが大きくなると、定性的には油膜の形成が促進され、流体摩擦成分が増大し、境界摩擦成分は減少する。ここで、接触面粗さが大きいと、vが増大しても粗さの凸部で固体接触が維持され、境界摩擦成分の減少を抑制(同時に、流体摩擦成分の増大を抑制)し、それによってμ−v特性正勾配化の方向に作用する。
【0090】
即ち、クラッチプレート132a,132b,134a,134bの表面粗さ低下によって、スティック・スリップが発生する。また、スティック・スリップが発生する他の原因としては、クラッチプレート132a,132b,134a,134bの摩耗粉による潤滑油の劣化がある。
【0091】
そして、この図で示す「耐久サイクル数」とは、両クラッチプレート134a,134bにおける1回の摩擦係合を、「耐久サイクル数」の値を1としたものである。
従って、図12において、従来駆動力伝達装置は「耐久サイクル数」の値がa1のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、ジャダーが発生する。
【0092】
このジャダーの原因は、摩擦クラッチの両クラッチプレートにおける摺動面の摩耗である。従って、このとき従来駆動力伝達装置の寿命となる。
一方、駆動力伝達装置111は「耐久サイクル数」の値がa2のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、ジャダーが発生する。このとき駆動力伝達装置111の寿命となる。
【0093】
上記図12の説明からも分かるように、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているアウタクラッチプレート134bは、従来駆動力伝達装置に比べ耐ジャダー寿命が3倍以上も向上している。即ち、その摺動面S2の耐摩耗性が従来アウタプレートと比して高くなる。また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dに対して摺接するインナクラッチプレート134aの摺動面S1においても、従来インナプレートと比して摩耗が少ない。即ち、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した摺動面S2は、相手側の摺動面S1の摩耗を抑制する固体潤滑剤の役割を果たしている。
【0094】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置111によれば、クラッチプレート134a,134bの寿命が格段に向上し、駆動力伝達装置111全体の寿命を格段に向上することができる。また、前記第1実施形態の(7)、(8)の効果と同様の効果を得ることができるとともに、以下のような効果を得ることができる。
【0095】
(1)本実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。クラッチプレート134aの摺動面S1には公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施した。そして、両クラッチプレート134a,134bを潤滑油中で摩擦係合するように構成した。ところで、従来技術に示す両クラッチプレートの摺動面に窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理を施した摩擦クラッチを潤滑油中で摩擦係合すると、両クラッチプレートは摩耗が激しかった。しかしながら、本実施形態の摩擦クラッチ134はアウタクラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているため、摩耗を起こしにくい。
【0096】
また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dは一種の炭素膜であるため、固体潤滑剤としての役割も果たす。そのため、前記摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すと、その摺動面S2に対して摺接するインナクラッチプレート134aの摺動面S1は摩耗しにくくなる。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート134a,134bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ134自体の耐久性もよくなる。
【0097】
(2)本実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2に対して、略網目状の溝部Mを設けた。従って、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの接触面積を任意の面積にできる。また、両クラッチプレート134a,134b間に介在する余分な潤滑油を摺動面S2の溝部Mに受け入れることで、油膜の形成を阻止し、クラッチプレート134a,134bの摺動特性を改善(引きずりトルク低減、耐久性向上)できる。
【0098】
(3)本実施形態では、クラッチプレート134bにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。そして、そのクラッチプレート134bを有する摩擦クラッチ134を駆動力伝達装置111に採用した。従って、摩擦クラッチ134の耐久性が高い駆動力伝達装置111を得ることができる。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は以下のような他の実施形態に変更して具体化してもよい。
【0099】
・前記第1実施形態では、駆動力伝達装置11の収納室K1内に充填していた潤滑油の量を収納室K1に対し80容積%程度としていたが、両クラッチプレート32a,32bの潤滑に適した量であれば、どれだけの量を充填してもよい。
【0100】
・前記第1及び第2実施形態では、パイロットクラッチ機構30d,130dを構成するアウタクラッチプレート34b,134bにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施していた。これに限らず、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施したクラッチプレートをオートマチックトランスミッション用クラッチ機構等、どのようなクラッチ機構にでも採用してもよい。
【0101】
・前記第2実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2に略網目状の溝部Mを形成していたが省略してもよい。
・前記第1実施形態では、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2には溝部を設けていなかったが、第2実施形態の溝部Mと同様の溝部を設けてもよい。
【0102】
・前記第1及び第2実施形態では、インナクラッチプレート34a,134aに溝部40を設けていたが、省略してもよい。
・前記第1実施形態では、摩擦クラッチ34にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施したアウタクラッチプレート34bを採用していた。これに限らず、メインクラッチ機構30cのクラッチプレート32a,32bのうち少なくとも1つにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すように構成してもよい。また、このような変更を第2実施形態の駆動力伝達装置111で具体化してもよい。
【0103】
・前記第1及び第2実施形態では、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。これに限らず、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1にもダイヤモンド状炭素薄膜Dを施してもよい。
【0104】
・前記第1及び第2実施形態では、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施し、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施していた。これに限らず、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施し、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施してもよい。この場合、前記インナクラッチプレート34a,134aは「一方のクラッチプレート」に相当し、前記アウタクラッチプレート34b,134bは「他方のクラッチプレート」に相当する。
【0105】
・前記第1及び第2実施形態では、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施していたが、それらの処理を施さなくてもよい。
【0106】
次に、上記実施形態及び他の実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ)前記電磁式の駆動手段は、アーマチャと電磁石を含み、前記アーマチャと、前記カム機構と、シール部材にてシール機構を構成し、同シール機構にて各収納室を互いにシールすることを特徴とする。
【0107】
このようにすると、前記アーマチャと前記カム機構とシール部材にて、潤滑油を充填した空間内の潤滑油は、潤滑油を充填しない空間へ漏出不能とすることができる。
(ロ)クラッチプレートは、鉄から形成されるとともに、摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を施したことを特徴とする。
【0108】
(ハ)摩擦クラッチは、互いに摩擦係合する複数の鉄製クラッチプレートを備え、前記互いに摩擦係合する一方のクラッチプレートを摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を施したクラッチプレートから構成したことを特徴とする。
【0109】
(ニ)前記摩擦クラッチのうち他方のクラッチプレートにおける摺動面には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを特徴とする。
(ホ)前記他方のクラッチプレートの摺動面には、周方向に沿って設けられた複数の溝部を備えていることを特徴とする。
【0110】
(ヘ)前記一方のクラッチプレートの摺動面には、略網目状の溝部を備えていることを特徴とする。
(ト)駆動力伝達装置は、互いに相対回転可能に位置する内外両回転部材間に設けられるとともに、互いにシールした複数の収納室内にクラッチ部をそれぞれ設け、前記クラッチ部の接続により、内外両回転部材間のトルク伝達を可能にした駆動力伝達装置であって、前記収納室内のうち少なくとも1つは潤滑油の未充填空間とし、他の収納室は潤滑油の充填空間とし、前記未充填空間のクラッチ部を前記摩擦クラッチにて構成し、同摩擦クラッチを断接駆動する電磁式の駆動手段を設け、同駆動手段の作動時に前記摩擦クラッチが乾性摩擦係合を行うことを特徴とする。
【0111】
(チ)前記充填空間内に位置するクラッチ部は、前記内外両回転部材間に位置するとともに摩擦係合により前記内外両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチとし、前記摩擦クラッチと前記電磁式の駆動手段により、パイロットクラッチ機構を構成し、同パイロットクラッチ機構の摩擦係合力を前記メインクラッチに伝達して同メインクラッチを摩擦係合するカム機構を備えたことを特徴とする。
【0112】
(リ)駆動力伝達装置は、互いに相対回転可能に位置する内外両回転部材間に設けられるとともに、潤滑油を充填した収納室内に複数のクラッチ部を設け、前記クラッチ部の接続により、前記内外両回転部材間のトルク伝達を可能にした駆動力伝達装置であって、前記収納室内のうち少なくとも1つのクラッチ部を前記摩擦クラッチにて構成したことを特徴とする。
【0113】
(ヌ)前記摩擦クラッチを断接駆動する電磁式の駆動手段を設け、前記収納室内には前記摩擦クラッチ以外の他のクラッチ部を、摩擦係合により内外両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチとし、前記摩擦クラッチと前記電磁式の駆動手段により、パイロットクラッチ機構を構成し、同パイロットクラッチ機構の摩擦係合力を前記メインクラッチに伝達して同メインクラッチを摩擦係合するカム機構を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】第1実施形態における駆動力伝達装置の部分断面図。
【図2】第1実施形態における駆動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の説明図。
【図3】第1実施形態における両クラッチプレート34a,34bの断面を示す説明図。
【図4】第1実施形態におけるインナクラッチプレート34aを示す正面図。
【図5】図1における駆動力伝達装置の部分拡大図。
【図6】従来駆動力伝達装置におけるインナシャフトの回転数と引きずりトルクとの関係を示した特性図。
【図7】従来駆動力伝達装置及び駆動力伝達装置11における引きずりトルクを示した特性図。
【図8】アウタクラッチプレート34bにダイヤモンド状炭素薄膜を成形するための装置を示す概略説明図。
【図9】第2実施形態における駆動力伝達装置の部分断面図。
【図10】第2実施形態におけるアウタクラッチプレート134bの正面図。
【図11】第2実施形態における両クラッチプレート134a,134bの断面を示す説明図。
【図12】「耐久サイクル数」と「μ100/μ50」との関係を示した特性図。
【符号の説明】
【0115】
11,111…駆動力伝達装置、
30a,130a…外側回転部材としてのアウタケース、
30b,130b…内側回転部材としてのインナシャフト、
30c,130c…クラッチ部及びメインクラッチとしてのメインクラッチ機構、
30d,130d…パイロットクラッチ機構、30e,130e…カム機構、
34,134…クラッチ部としての摩擦クラッチ、
34a,134a…他方のクラッチプレートとしてのインナクラッチプレート、34b,134b…一方のクラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート、40…「周方向に沿って設けられた複数の溝部」としての溝部、
D…ダイヤモンド状炭素薄膜、K1,K2…収納室、
M…「略網目状の溝部」としての溝部、S1,S2…摺動面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗が起こりにくい駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動側クラッチプレートと、従動側クラッチプレートとを摩擦係合させることによって、動力伝達を行う摩擦クラッチが知られている。
前記摩擦クラッチにおける両クラッチプレートの摺動面には、摩擦係合による摩耗を抑制するために表面処理を施している。その表面処理の一例としては、両クラッチプレートの摺動面の組成を、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理により変化させたものがある。このようにして、両クラッチプレートの摺動面を強化することで、摩耗を減らすようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記処理を施した摩擦クラッチであっても、乾性摩擦係合を行ったり、潤滑油中の摩擦係合であっても大きな力で摩擦係合を行ったりすると耐久性に乏しかった。
【0004】
従って、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は摩耗が起こりにくく、耐久性のある駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、互いに相対回転可能に位置する回転部材間に配置され、摩擦係合することによってこれら両回転部材間での駆動力伝達を行う駆動力伝達装置であって、摩擦係合する摺動面の一方に非晶質構造を有するダイヤモンド状炭素薄膜を施したことを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面間には潤滑油が介在し、湿式摩擦係合することを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面の他方には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、前記摺動面の他方には、周方向に沿って設けられた複数の微細な幅の溝部が形成されていることを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、前記一方の摺動面には、略網目状の溝部が形成されていることを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置は、車両の駆動力を伝達するものであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によれば、摩耗が起こりにくく、耐久性がよくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1には、本発明を具体化した一実施形態の駆動力伝達装置を示している。この駆動力伝達装置11は、図2に示すように、四輪駆動車12における後輪側への駆動力伝達経路に配設されている。
【0012】
前記四輪駆動車12は、駆動力伝達装置11、トランスアクスル13、エンジン14、一対の前輪15、及び一対の後輪16を備えている。
前記エンジン14の駆動力はトランスアクスル13を介してアクスルシャフト17に出力し、前輪15を駆動する。
【0013】
また、トランスアクスル13にはプロペラシャフト18を介して駆動力伝達装置11が連結され、同駆動力伝達装置11にはドライブピニオンシャフト19を介してリヤデファレンシャル20が連結されている。リヤデファレンシャル20には、アクスルシャフト21を介して後輪16が連結されている。前記プロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が駆動力伝達装置11にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン14の駆動力は後輪16に伝達される。
【0014】
駆動力伝達装置11はリヤデファレンシャル20とともにディファレンシャルキャリヤ22内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ22に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ22を介して車体に支持されている。
【0015】
次に駆動力伝達装置11について説明する。
図1に示すように、駆動力伝達装置11は外側回転部材としてのアウタケース30a、内側回転部材としてのインナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えている。
【0016】
前記メインクラッチ機構30cは、本発明のクラッチ部及びメインクラッチに相当する。
前記アウタケース30aは、有底筒状のフロントハウジング31aと、フロントハウジング31aの後端開口部に螺着され、且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング31bとから構成されている。前記フロントハウジング31aの前端部には入力軸50が突出形成され、同入力軸50は前記プロペラシャフト18(図2参照)に連結されている。
【0017】
前記フロントハウジング31aは非磁性材料であるアルミニウムにて形成され、前記リヤハウジング31bは磁性材料である鉄にて形成されている。リヤハウジング31bの径方向の中間部には、非磁性体材料であるステンレス製の筒体51が埋設され、同筒体51は環状の非磁性部位を形成している。
【0018】
前記アウタケース30aはフロントハウジング31aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して図示しないベアリング等を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース30aは、リヤハウジング31bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して支持されたヨーク36にベアリング等を介して支持されている。
【0019】
前記インナシャフト30bは、リヤハウジング31bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング31a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング31aとリヤハウジング31bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト30bには、ドライブピニオンシャフト19(図2参照)の先端部が挿入されて連結されている。なお、図1においてはドライブピニオンシャフト19は図示していない。
【0020】
図1に示すように、メインクラッチ機構30cは湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄製のインナクラッチプレート32a及び鉄製のアウタクラッチプレート32bを多数備えている。そして、前記クラッチプレート32aの両側摺動面にペーパー系湿式摩擦材が貼り付けられている。このため、クラッチプレート32a,32b同士が係合した際に、素材同士(鉄同士)が直接摺接することなく、結果的に鉄の摩耗粒子が出にくいようにされている。
【0021】
前記インナクラッチプレート32a,アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの奥壁側に配設されている。各インナクラッチプレート32aは、インナシャフト30bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0022】
一方、各アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート32aと各アウタクラッチプレート32bは交互に位置されて互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0023】
パイロットクラッチ機構30dは、電磁石33、クラッチ部としての摩擦クラッチ34、及びアーマチャ35を備えている。前記電磁石33とアーマチャ35にて電磁式の駆動手段が構成されている。
【0024】
図1に示すように、ヨーク36はディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング31bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。前記ヨーク36には環状をなす電磁石33が嵌着され、同電磁石33はリヤハウジング31bの環状凹所53に嵌合されている。
【0025】
前記摩擦クラッチ34は、鉄製の複数のインナクラッチプレート34a及び鉄製の複数のアウタクラッチプレート34bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
前記インナクラッチプレート34aは「他方のクラッチプレート」に相当し、前記アウタクラッチプレート34bは「一方のクラッチプレート」に相当する。
【0026】
前記インナクラッチプレート34aは、後述するカム機構30eを構成する第1カム部材37の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート34bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0027】
前記インナクラッチプレート34aと各アウタクラッチプレート34bとは交互に位置して、互いに当接した摩擦係合状態と、互いに離間して非係合の自由状態との両状態が可能とされている。
【0028】
図3に示すように、前記インナクラッチプレート34a、アウタクラッチプレート34bには互いに接触する摺動面S1,S2が形成されている。
図3,4に示すように、前記クラッチプレート34aの摺動面S1の全面には、プレス加工により微細な幅の溝部40が微少な間隔を保持して多数並列して設けられている。前記摺動面S1には公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理が施されている。なお、溝部40はわかりやすいように誇張して示してあるが、溝のピッチ、高さともにμm単位で形成されていれば十分である。
【0029】
そして、図3に示すように、前記摺動面S2にはCVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されている。
【0030】
即ち、例えば以下に示す装置にて、アウタクラッチプレート34bにはダイヤモンド状炭素薄膜Dが成形される。
図8に示す装置61は、高温プラズマCVDを行うためのものであり、排気口62を有する真空チャンバ63を備えている。真空チャンバ63内には、放電のための陰極64及び陽極65が設けられている。陰極64と陽極65には電源66が接続されており、同電源66により陰極64及び陽極65には直流電圧が印加される。前記陽極65の先端部には、供給口67が形成されている。
【0031】
ダイヤモンド状炭素薄膜Dの合成のための原料ガスは、図中の矢印に示すように前記陰極64と陽極65との間を通り、かつ供給口67を介して真空チャンバ63内へ供給される。そして、供給口67近傍での放電により分解及び励起されたプラズマを生成するようになっている。なお、このプラズマ生成からダイヤモンド状炭素薄膜D成形に至る一連の操作において真空チャンバ63内は低圧にされている。真空チャンバ63内には、ホルダ68が配置されており、そのホルダ68にはアウタクラッチプレート34bがセットされる。
【0032】
そして、ホルダ68にセットしたアウタクラッチプレート34bの摺動面S2に対して、前記生成したプラズマを当てることで、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを成長させる。このようにして、適当な厚みとなるまでダイヤモンド状炭素薄膜Dを堆積する。本実施形態では、前記ダイヤモンド状炭素薄膜Dの厚さは3μmとされている。
【0033】
このダイヤモンド状炭素薄膜Dの膜厚を0.1〜10μmの範囲にすることで、摺動面S2の保護を実現可能であるが、望ましくは1〜5μmの膜厚の範囲である。この厚みが0.1μm未満では摩耗に対する耐久寿命が短く、実用に向かない。逆に10μmを越えると被膜が脆くなる。なお、ダイヤモンド状炭素はDLCと呼ばれている。
【0034】
ところで、図1に示すように、アーマチャ35は環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。前記アーマチャ35は摩擦クラッチ34に対して一側に位置し、摩擦クラッチ34に対向している。
【0035】
前記電磁石33の電磁コイルへの通電により、ヨーク36、リヤハウジング31b、第1カム部材37、アーマチャ35、摩擦クラッチ34、リヤハウジング31b、及びヨーク36間を循環する磁路L1が形成される。
【0036】
図1に示すように、カム機構30eは、第1カム部材37、第2カム部材38、及びカムフォロア39にて構成されている。第1カム部材37、第2カム部材38は、略円盤状に形成されている。
【0037】
第1カム部材37及び第2カム部材38には、対向面に互いに対向する図示しないカム溝が周方向に所定間隔を隔てて複数形成されている。第1カム部材37はインナシャフト30bの外周に回転可能に嵌合されるとともに、リヤハウジング31bに対してスラストベアリング41を介して回転可能に支承されている。第1カム部材37の外周において、リヤハウジング31b側寄りの部位には、前記インナクラッチプレート34aが軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されている。一方、第1カム部材37の外周において、メインクラッチ機構30c側の部位は、アーマチャ35の内周面に対して相対回転可能に当接されている。
【0038】
図5に示すように、前記第1カム部材37のインナシャフト30bが内嵌された内周面には、周回するシールリング収納溝42aが形成されている。同シールリング収納溝42aにはシールリング42bが収納されている。前記シールリング42bにより、インナシャフト30bと第1カム部材37は液密状態とされている。
【0039】
また、前記アーマチャ35の内周面には、周回するシールリング収納溝43aが形成されている。同シールリング収納溝43aにはシールリング43bが収納されている。前記シールリング43bにより、第1カム部材37とアーマチャ35は液密状態とされている。
【0040】
同様に、前記アーマチャ35の外周面には、周回するシールリング収納溝44aが形成されている。同シールリング収納溝44aにはシールリング44bが収納されている。前記シールリング44bにより、アーマチャ35とフロントハウジング31aは液密状態とされている。
【0041】
前記アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにてシール機構Iが構成されている。前記シールリング42b,43b,44bはシール部材に相当する。
【0042】
図1に示すように、本実施形態では、フロントハウジング31a、アーマチャ35、第1カム部材37、及びインナシャフト30bにて囲まれる空間を収納室K1としている。また、インナシャフト30b、第1カム部材37、アーマチャ35、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング31bにて囲まれる空間を収納室K2としている。
【0043】
前記第2カム部材38はインナシャフト30bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト30bに対して一体回転可能に組み付けられている。同第2カム部材38はメインクラッチ機構30cのインナクラッチプレート32aに対向して位置されている。前記第2カム部材38と第1カム部材37の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア39が介在されている。
【0044】
この結果、アーマチャ35がフロントハウジング31aの内側において摩擦クラッチ34の一側に位置し、且つ電磁石33がフロントハウジング31aの開口側においてリヤハウジング31bを挟んで摩擦クラッチ34の他側に位置し、リヤハウジング31bは磁路形成部材として機能する。
【0045】
リヤハウジング31bはインナシャフト30bの外周に液密的かつ回転可能に嵌合された状態で、その壁部の周縁部にてフロントハウジング31aに螺着されている。また、リヤハウジング31bは、その後側筒部の後端部の外周にて図示しないオイルシールを介して、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に液密的かつ回転可能に支持されている。
【0046】
前記収納室K1には潤滑油が充填され、同潤滑油は両クラッチプレート32a,32bの潤滑を行うようにされている。本実施形態では潤滑油は収納室K1に対し80容積%程度充填されている。前記収納室K1内の潤滑油は前記シール機構Iにより収納室K2へ漏出不能とされている。前記収納室K1は、潤滑油の充填空間に相当し、前記収納室K2は、潤滑油の未充填空間に相当する。なお、収納室K2内にあるスラストベアリング41はグリスにて潤滑されている。
【0047】
上記のような駆動力伝達装置11においては、パイロットクラッチ機構30dを構成する電磁石33の電磁コイルへの通電がなされていない場合には磁路L1は形成されず、摩擦クラッチ34は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構30dは非作動の状態にあって、カム機構30eを構成する第1カム部材37は、カムフォロア39を介して第2カム部材38と一体回転可能であり、メインクラッチ機構30cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車12は二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0048】
一方、電磁石33の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構30dには磁路L1が形成され、電磁石33はアーマチャ35を吸引する。このため、アーマチャ35は摩擦クラッチ34を押圧して摩擦係合させ、カム機構30eの第1カム部材37をフロントハウジング31a側と連結させ、第2カム部材38との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構30eではカムフォロア39が両カム部材37,38を互いに離間する方向へ押圧する。
【0049】
この結果、第2カム部材38はメインクラッチ機構30c側へ押圧され、メインクラッチ機構30cを摩擦クラッチ34の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0050】
また、電磁石33の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石33のアーマチャ35に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ35は強く電磁石33側へ吸引作動され、摩擦クラッチ34の摩擦係合力を増大させ、両カム部材37,38間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア39は第2カム部材38に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構30cを結合状態とする。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0051】
次に、駆動力伝達装置11の特徴的な作用を説明する。
なお、以下の説明で示す従来駆動伝達装置とは、本実施形態の駆動力伝達装置11において、シールリング42b,43b,44bを省略し、収納室K1と収納室K2を連通させ、潤滑油が両室間を移動自在な状態としたものとする。そして、従来駆動伝達装置は、両収納室K1,K2(アウタケース及びインナシャフトにて囲まれる空間)内に前記潤滑油を同収納室に対し80容積%程度充填したものとする。また、従来駆動伝達装置の摩擦クラッチにおけるアウタクラッチプレートは、摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されておらず窒化処理が施されているものとする。従って、摩擦クラッチは潤滑油が供給された状態で摩擦係合を行うように構成されている。
【0052】
なお、比較のために、従来駆動力伝達装置のトルク伝達能力は、本実施形態の駆動力伝達装置と同じものとする。
図6は、従来駆動力伝達装置におけるインナシャフト(インナシャフト30bに相当)の回転数と引きずりトルクとの関係を示したグラフである。なお、図6はアウタケース(アウタケース30aに相当)を固定し、インナシャフトを回転させた実験結果である。
【0053】
このグラフは、電磁石(電磁石33に相当)の電磁コイルへの通電がなされていない状態において、作動油の粘性や、残留磁気によってインナシャフトからアウタケースへ伝わる引きずりトルクを示したものである。なお、図6は−20度(摂氏温度)で行ったものである。
【0054】
a線は、メインクラッチ(メインクラッチ機構30cに相当)に対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
b線は、前記メインクラッチの引きずりトルクに加え、摩擦クラッチ(摩擦クラッチ34に相当)に対して電磁石の残留磁気が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
【0055】
c線は、前記メインクラッチの引きずりトルク、及び摩擦クラッチに対する残留磁気による引きずりトルクに加え、摩擦クラッチに対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすことで起こる引きずりトルクである。
【0056】
従って、図6において、インナシャフトの回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約14%がメインクラッチに対する潤滑油の粘性からもたらされている(以下、この引きずりトルクをAトルクという)。さらに、前記回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約4%が摩擦クラッチに対する電磁石の残留磁気からもたらされている(以下、この引きずりトルクをBトルクという)。同様に、前記回転数200min-1の際には、引きずりトルクの約82%が摩擦クラッチに対する潤滑油の粘性からもたらされている(以下、この引きずりトルクをCトルクという)。
【0057】
この結果、前記Cトルクは、前記Aトルク及び前記Bトルクと比べて大きい。
前記Cトルクが最も大きくなる理由は、摩擦クラッチに対して潤滑油の粘性が影響を及ぼすと、その影響はメインクラッチ側へ伝わる際に、カム機構(カム機構30eに相当)によって増幅されるからである。
【0058】
一方、本実施形態の駆動力伝達装置11では、摩擦クラッチ34には潤滑油が供給されない構造としているため、前記Cトルクが発生しない。
従って、図7に示すように、−20度(摂氏温度)の条件下で、前記インナシャフトの回転数を200min-1とした際に、駆動力伝達装置11は従来駆動力伝達装置と比べ、引きずりトルクが約82%も削減される。
【0059】
ところで、従来駆動力伝達装置の両クラッチプレートの摺動面には窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理を施しているため、両クラッチプレートを乾性摩擦係合すると摩耗が激しい。しかしながら、本実施形態の摩擦クラッチ34はアウタクラッチプレート34bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているため、摩耗を起こしにくい。また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dは一種の炭素膜であるため、固体潤滑剤としての役割も果たす。そのため、前記摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すと、その摺動面S2に対して摺接するインナクラッチプレート34aの摺動面S1は摩耗しにくくなる。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート34a,34bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ34自体及び駆動力伝達装置11自体の耐久性もよくなる。
【0060】
また、従来駆動力伝達装置では摩擦クラッチで発生した摩耗粒子が潤滑油に混入してしまうことに対し、駆動力伝達装置11では摩擦クラッチ34で発生した摩耗粒子は収納室K1内の潤滑油に混入しない。
【0061】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置11は、従来駆動力伝達装置と比べると、引きずりトルクが大幅に減少し、かつ耐久寿命の面で優れていることが分かる。
従って、本実施形態の駆動力伝達装置11によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0062】
(1)本実施形態では、摩擦クラッチ34は両クラッチプレート34a,34bを備え、クラッチプレート34bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート34a,34bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ34自体及び駆動力伝達装置11自体の耐久性もよくなる。
【0063】
(2)本実施形態では、メインクラッチ機構30c及び摩擦クラッチ34を設け、メインクラッチ機構30cを収納する収納室K1と、摩擦クラッチ34を収納する収納室K2とを互いにシールした。摩擦クラッチ34は電磁石33及びアーマチャ35(電磁式の駆動手段)の作動にて断接自在に構成した。前記収納室K1には潤滑油を充填し、前記収納室K2には潤滑油を充填しないようにした。そして、摩擦クラッチ34を乾性摩擦係合するようにした。
【0064】
そのため、駆動力伝達装置11には図6に示すCトルク(潤滑油に起因した引きずりトルク)が発生しない。従って、摩擦クラッチ34は潤滑油の粘性の影響を受けることがないため、駆動力伝達装置11は引きずりトルクを抑制できる。加えて、収納室K1と収納室K2とを互いにシールすることで、収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。
【0065】
それに対して、従来駆動力伝達装置では、摩擦クラッチは潤滑油を用いて摩擦係合を行うように構成されているため、電磁石の電磁コイルへの通電がなされていない際でも、潤滑油の粘性せん断摩擦によって摩擦クラッチが僅かに摩擦係合状態となってしまうことがある。すると、電磁石の電磁コイルへの通電がなされていないにもかかわらずアウタケースの回転がインナシャフトへ伝わり、引きずりトルクが発生してしまうことがあった。特に低温時には、潤滑油の粘性が高まるため引きずりトルクが発生しやすい。
【0066】
(3)本実施形態では、乾式摩擦係合を行う摩擦クラッチ34を互いに相対回転可能に位置するアウタケース30aとインナシャフト30bの間に配置した。そして、電磁石33及びアーマチャ35(電磁式の駆動手段)にて摩擦クラッチ34を摩擦係合する構成とした。アウタケース30a及びインナシャフト30bは、両部材間に位置し摩擦係合によりアウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構30cを備えた。
【0067】
摩擦クラッチ34、電磁石33及びアーマチャ35にてパイロットクラッチ機構30dを構成した。同パイロットクラッチ機構30dの摩擦係合力を前記メインクラッチ機構30cに伝達して同メインクラッチ機構30cを摩擦係合するカム機構30eを備えた。従って、アウタケース30a、インナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えた駆動力伝達装置11は摩擦クラッチ34の摩擦係合とその解除を正確に行うことができる。
【0068】
(4)本実施形態では、電磁式の駆動手段は、アーマチャ35と電磁石33にて構成した。そして、アーマチャ35と電磁石33にて摩擦クラッチ34を摩擦係合するようにした。従って、アーマチャ35と電磁石33にて摩擦クラッチ34を断接自在にできる。
【0069】
(5)本実施形態では、アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにてシール機構Iを構成した。そして、シール機構Iにて収納室K1と収納室K2を互いにシールするようにした。
【0070】
従って、アーマチャ35、第1カム部材37、及びシールリング42b,43b,44bにて収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ漏出不能とすることができる。また、部品点数においては、従来駆動力伝達装置に比して、シールリング42b,43b,44bを増加させるだけでありながら、前記潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。そのため、部品点数をそれほど増加させることなく潤滑油が収納室K2へ漏出することを防止できる。
【0071】
(6)本実施形態では、収納室K1にメインクラッチ機構30cを配置し、収納室K2に摩擦クラッチ34を配置した。そして、シール機構Iにて収納室K1内の潤滑油が収納室K2へ浸入することを防止した。従って、摩擦クラッチ34で摩耗粒子が発生しても、その摩耗粒子がシール機構Iにて阻まれ、収納室K1内の潤滑油に漏出することがない。この結果、駆動力伝達装置11の耐久寿命を向上できる。
【0072】
(7)本実施形態では、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ処理を施した。従って、摺動面に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ処理を施さないクラッチプレートと比べてインナクラッチプレート34aは耐久性がよくなる。
【0073】
(8)本実施形態では、インナクラッチプレート34aの摺動面S1に対して、周方向に沿って微細な幅の溝部40を複数設けた。従って、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの接触面積を任意の面積にできる。
(第2実施形態)
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図9〜図12に従って説明する。
【0074】
なお、第2実施形態の駆動力伝達装置111を構成する各部材や機構は、前記第1実施形態の駆動力伝達装置11を構成する各部材や機構と略同様の構成で、かつ略同様の機能を奏するものがある。従って、第2実施形態の駆動力伝達装置111を構成する各部材や機構のうち、前記第1実施形態の駆動力伝達装置11を構成する各部材や機構と略同様の構成及び機能を奏するものについては、第1実施形態の各部材や機構の符号の数値に100を加え、その詳細な説明を省略し、異なるところのみを説明する。
【0075】
前記第1実施形態の駆動力伝達装置11はシール機構Iにより、その内部に収納室K1と収納室K2を形成していた。そして、収納室K1内のメインクラッチ機構30cを湿式摩擦係合するように構成し、収納室K2内の摩擦クラッチ34を乾式摩擦係合するように構成していた。
【0076】
しかしながら本実施形態では、図9に示すように、メインクラッチ機構130c及び摩擦クラッチ134の両者を湿式摩擦係合するように構成している。
従って、本実施形態では、シール機構Iを構成するシールリング収納溝42a,43a,44a及びシールリング42b,43b,44bが省略されている。また、本実施形態では、収納室K1及び収納室K2という概念もなくしている。
【0077】
また、第1カム部材137の外周面はアーマチャ135の内周面に対して若干離間されている。そして、前記アウタケース130a、インナシャフト130b、及びリヤハウジング131bにて囲まれて形成された収納室内には潤滑油が充填されている。前記潤滑油は両クラッチプレート132a,132bの潤滑、及び両クラッチプレート134a,134bの潤滑を行うように構成されている。
【0078】
本実施形態では、摩擦クラッチ134は、鉄製の1枚のインナクラッチプレート134a及び鉄製の2枚のアウタクラッチプレート134bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
【0079】
さらに、本実施形態では、電磁石133の電磁コイルへの通電により、ヨーク136、リヤハウジング131b、摩擦クラッチ134、アーマチャ135、摩擦クラッチ134、リヤハウジング131b、及びヨーク136間を循環する磁路L2が形成される。
【0080】
また、図10,11に示すように、アウタクラッチプレート134bにおけるインナクラッチプレート134a側の摺動面S2には、プレス加工により略網目状の溝部Mが形成されている。その溝部Mにより、両クラッチプレート134a,134b間に介在する余分な潤滑油を受け入れるように構成されている。前記インナクラッチプレート134aの摺動面S1は約13.5μmの表面粗さ(Rz)に形成され、前記アウタクラッチプレート134bの摺動面S2は約3.3μmの表面粗さ(Rz)に形成されている。なお、本明細書では「Rz」は十点平均粗さのことをいう。
【0081】
図11に示すように、前記溝部Mを有する摺動面S2には、CVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法により前記ダイヤモンド状炭素薄膜Dが施されている。本実施形態においても、ダイヤモンド状炭素薄膜Dの厚さは3μmとされている。そして、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しても、そのダイヤモンド状炭素薄膜Dの表面粗さ(Rz)は約3.3μmとされている。
【0082】
次に、駆動力伝達装置111の特徴的な作用について説明する。
なお、以下の説明で示す従来駆動伝達装置とは、駆動力伝達装置111において、クラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しておらず、代わりに窒化処理を施したものに相当するものとする。加えて、前記従来駆動力伝達装置の摩擦クラッチにおいて、インナクラッチプレートの摺動面の表面粗さ(Rz)は約7.8μm、アウタクラッチプレートの表面粗さ(Rz)は約3.8μmとする。
【0083】
以下、従来駆動力伝達装置の摩擦クラッチにおける、アウタクラッチプレートを「従来アウタプレート」、インナクラッチプレートを「従来インナプレート」ということがある。
【0084】
なお、比較のために、従来駆動力伝達装置のトルク伝達能力は、本実施形態の駆動力伝達装置111と同じものとする。
図12は、駆動力伝達装置111と従来駆動力伝達装置における耐久サイクル数と「μ100/μ50」との関係を示したものである。図12では、縦軸に「μ100/μ50」をとり、横軸に「耐久サイクル数」をとっている。
【0085】
なお、この図で示す「μ100/μ50」とは100min-1のときの摩擦係数μを50min-1のときの摩擦係数μで除算した値である。
これを式で表すと、
μ100/μ50 = (100min-1のときの摩擦係数μ)/(50min-1のときの摩擦係数μ)
となる。
【0086】
「μ100/μ50」の値が1以上であればμ−v勾配は正の速度依存性を有する。そして、μ−v勾配が正の速度依存性を有した場合にはジャダー防止性に優れることが公知とされている。
【0087】
なお、ジャダーとは例えば以下に示すことをいう。インナクラッチプレート134aとアウタクラッチプレート134bとの摺動面部、又はインナクラッチプレート132a、アウタクラッチプレート132bのスティック・スリップが原因となって生じる駆動系の自励振動が、駆動力伝達装置111を搭載する車両全体にまで及ぶ現象のことをいう。
【0088】
次に、μ−v特性(μ−v勾配)について説明する。
前記摺動面でのスティック・スリップ抑制には、摩擦係数μの速度vに対する依存性(μ−v特性)に正勾配性があること(dμ/dv≧0)とすることが有効である。
【0089】
前記摺動面に発生する摩擦は、流体摩擦(油膜のせん断抵抗)と境界摩擦(摺動面同士の固体間摩擦)の和からなる。それらの単位面積あたりの大きさは、流体摩擦<<境界摩擦の関係にある。vが大きくなると、定性的には油膜の形成が促進され、流体摩擦成分が増大し、境界摩擦成分は減少する。ここで、接触面粗さが大きいと、vが増大しても粗さの凸部で固体接触が維持され、境界摩擦成分の減少を抑制(同時に、流体摩擦成分の増大を抑制)し、それによってμ−v特性正勾配化の方向に作用する。
【0090】
即ち、クラッチプレート132a,132b,134a,134bの表面粗さ低下によって、スティック・スリップが発生する。また、スティック・スリップが発生する他の原因としては、クラッチプレート132a,132b,134a,134bの摩耗粉による潤滑油の劣化がある。
【0091】
そして、この図で示す「耐久サイクル数」とは、両クラッチプレート134a,134bにおける1回の摩擦係合を、「耐久サイクル数」の値を1としたものである。
従って、図12において、従来駆動力伝達装置は「耐久サイクル数」の値がa1のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、ジャダーが発生する。
【0092】
このジャダーの原因は、摩擦クラッチの両クラッチプレートにおける摺動面の摩耗である。従って、このとき従来駆動力伝達装置の寿命となる。
一方、駆動力伝達装置111は「耐久サイクル数」の値がa2のときに、「μ100/μ50」の値が1以下となり、ジャダーが発生する。このとき駆動力伝達装置111の寿命となる。
【0093】
上記図12の説明からも分かるように、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているアウタクラッチプレート134bは、従来駆動力伝達装置に比べ耐ジャダー寿命が3倍以上も向上している。即ち、その摺動面S2の耐摩耗性が従来アウタプレートと比して高くなる。また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dに対して摺接するインナクラッチプレート134aの摺動面S1においても、従来インナプレートと比して摩耗が少ない。即ち、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した摺動面S2は、相手側の摺動面S1の摩耗を抑制する固体潤滑剤の役割を果たしている。
【0094】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置111によれば、クラッチプレート134a,134bの寿命が格段に向上し、駆動力伝達装置111全体の寿命を格段に向上することができる。また、前記第1実施形態の(7)、(8)の効果と同様の効果を得ることができるとともに、以下のような効果を得ることができる。
【0095】
(1)本実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。クラッチプレート134aの摺動面S1には公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施した。そして、両クラッチプレート134a,134bを潤滑油中で摩擦係合するように構成した。ところで、従来技術に示す両クラッチプレートの摺動面に窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理を施した摩擦クラッチを潤滑油中で摩擦係合すると、両クラッチプレートは摩耗が激しかった。しかしながら、本実施形態の摩擦クラッチ134はアウタクラッチプレート134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施しているため、摩耗を起こしにくい。
【0096】
また、ダイヤモンド状炭素薄膜Dは一種の炭素膜であるため、固体潤滑剤としての役割も果たす。そのため、前記摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すと、その摺動面S2に対して摺接するインナクラッチプレート134aの摺動面S1は摩耗しにくくなる。従って、摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すことで、両クラッチプレート134a,134bは耐久性を向上できる。加えて、摩擦クラッチ134自体の耐久性もよくなる。
【0097】
(2)本実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2に対して、略網目状の溝部Mを設けた。従って、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの接触面積を任意の面積にできる。また、両クラッチプレート134a,134b間に介在する余分な潤滑油を摺動面S2の溝部Mに受け入れることで、油膜の形成を阻止し、クラッチプレート134a,134bの摺動特性を改善(引きずりトルク低減、耐久性向上)できる。
【0098】
(3)本実施形態では、クラッチプレート134bにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。そして、そのクラッチプレート134bを有する摩擦クラッチ134を駆動力伝達装置111に採用した。従って、摩擦クラッチ134の耐久性が高い駆動力伝達装置111を得ることができる。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は以下のような他の実施形態に変更して具体化してもよい。
【0099】
・前記第1実施形態では、駆動力伝達装置11の収納室K1内に充填していた潤滑油の量を収納室K1に対し80容積%程度としていたが、両クラッチプレート32a,32bの潤滑に適した量であれば、どれだけの量を充填してもよい。
【0100】
・前記第1及び第2実施形態では、パイロットクラッチ機構30d,130dを構成するアウタクラッチプレート34b,134bにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施していた。これに限らず、ダイヤモンド状炭素薄膜Dを施したクラッチプレートをオートマチックトランスミッション用クラッチ機構等、どのようなクラッチ機構にでも採用してもよい。
【0101】
・前記第2実施形態では、クラッチプレート134bの摺動面S2に略網目状の溝部Mを形成していたが省略してもよい。
・前記第1実施形態では、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2には溝部を設けていなかったが、第2実施形態の溝部Mと同様の溝部を設けてもよい。
【0102】
・前記第1及び第2実施形態では、インナクラッチプレート34a,134aに溝部40を設けていたが、省略してもよい。
・前記第1実施形態では、摩擦クラッチ34にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施したアウタクラッチプレート34bを採用していた。これに限らず、メインクラッチ機構30cのクラッチプレート32a,32bのうち少なくとも1つにダイヤモンド状炭素薄膜Dを施すように構成してもよい。また、このような変更を第2実施形態の駆動力伝達装置111で具体化してもよい。
【0103】
・前記第1及び第2実施形態では、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施した。これに限らず、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1にもダイヤモンド状炭素薄膜Dを施してもよい。
【0104】
・前記第1及び第2実施形態では、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施し、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施していた。これに限らず、アウタクラッチプレート34b,134bの摺動面S2に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施し、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1にダイヤモンド状炭素薄膜Dを施してもよい。この場合、前記インナクラッチプレート34a,134aは「一方のクラッチプレート」に相当し、前記アウタクラッチプレート34b,134bは「他方のクラッチプレート」に相当する。
【0105】
・前記第1及び第2実施形態では、インナクラッチプレート34a,134aの摺動面S1に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施していたが、それらの処理を施さなくてもよい。
【0106】
次に、上記実施形態及び他の実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ)前記電磁式の駆動手段は、アーマチャと電磁石を含み、前記アーマチャと、前記カム機構と、シール部材にてシール機構を構成し、同シール機構にて各収納室を互いにシールすることを特徴とする。
【0107】
このようにすると、前記アーマチャと前記カム機構とシール部材にて、潤滑油を充填した空間内の潤滑油は、潤滑油を充填しない空間へ漏出不能とすることができる。
(ロ)クラッチプレートは、鉄から形成されるとともに、摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を施したことを特徴とする。
【0108】
(ハ)摩擦クラッチは、互いに摩擦係合する複数の鉄製クラッチプレートを備え、前記互いに摩擦係合する一方のクラッチプレートを摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を施したクラッチプレートから構成したことを特徴とする。
【0109】
(ニ)前記摩擦クラッチのうち他方のクラッチプレートにおける摺動面には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを特徴とする。
(ホ)前記他方のクラッチプレートの摺動面には、周方向に沿って設けられた複数の溝部を備えていることを特徴とする。
【0110】
(ヘ)前記一方のクラッチプレートの摺動面には、略網目状の溝部を備えていることを特徴とする。
(ト)駆動力伝達装置は、互いに相対回転可能に位置する内外両回転部材間に設けられるとともに、互いにシールした複数の収納室内にクラッチ部をそれぞれ設け、前記クラッチ部の接続により、内外両回転部材間のトルク伝達を可能にした駆動力伝達装置であって、前記収納室内のうち少なくとも1つは潤滑油の未充填空間とし、他の収納室は潤滑油の充填空間とし、前記未充填空間のクラッチ部を前記摩擦クラッチにて構成し、同摩擦クラッチを断接駆動する電磁式の駆動手段を設け、同駆動手段の作動時に前記摩擦クラッチが乾性摩擦係合を行うことを特徴とする。
【0111】
(チ)前記充填空間内に位置するクラッチ部は、前記内外両回転部材間に位置するとともに摩擦係合により前記内外両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチとし、前記摩擦クラッチと前記電磁式の駆動手段により、パイロットクラッチ機構を構成し、同パイロットクラッチ機構の摩擦係合力を前記メインクラッチに伝達して同メインクラッチを摩擦係合するカム機構を備えたことを特徴とする。
【0112】
(リ)駆動力伝達装置は、互いに相対回転可能に位置する内外両回転部材間に設けられるとともに、潤滑油を充填した収納室内に複数のクラッチ部を設け、前記クラッチ部の接続により、前記内外両回転部材間のトルク伝達を可能にした駆動力伝達装置であって、前記収納室内のうち少なくとも1つのクラッチ部を前記摩擦クラッチにて構成したことを特徴とする。
【0113】
(ヌ)前記摩擦クラッチを断接駆動する電磁式の駆動手段を設け、前記収納室内には前記摩擦クラッチ以外の他のクラッチ部を、摩擦係合により内外両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチとし、前記摩擦クラッチと前記電磁式の駆動手段により、パイロットクラッチ機構を構成し、同パイロットクラッチ機構の摩擦係合力を前記メインクラッチに伝達して同メインクラッチを摩擦係合するカム機構を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】第1実施形態における駆動力伝達装置の部分断面図。
【図2】第1実施形態における駆動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の説明図。
【図3】第1実施形態における両クラッチプレート34a,34bの断面を示す説明図。
【図4】第1実施形態におけるインナクラッチプレート34aを示す正面図。
【図5】図1における駆動力伝達装置の部分拡大図。
【図6】従来駆動力伝達装置におけるインナシャフトの回転数と引きずりトルクとの関係を示した特性図。
【図7】従来駆動力伝達装置及び駆動力伝達装置11における引きずりトルクを示した特性図。
【図8】アウタクラッチプレート34bにダイヤモンド状炭素薄膜を成形するための装置を示す概略説明図。
【図9】第2実施形態における駆動力伝達装置の部分断面図。
【図10】第2実施形態におけるアウタクラッチプレート134bの正面図。
【図11】第2実施形態における両クラッチプレート134a,134bの断面を示す説明図。
【図12】「耐久サイクル数」と「μ100/μ50」との関係を示した特性図。
【符号の説明】
【0115】
11,111…駆動力伝達装置、
30a,130a…外側回転部材としてのアウタケース、
30b,130b…内側回転部材としてのインナシャフト、
30c,130c…クラッチ部及びメインクラッチとしてのメインクラッチ機構、
30d,130d…パイロットクラッチ機構、30e,130e…カム機構、
34,134…クラッチ部としての摩擦クラッチ、
34a,134a…他方のクラッチプレートとしてのインナクラッチプレート、34b,134b…一方のクラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート、40…「周方向に沿って設けられた複数の溝部」としての溝部、
D…ダイヤモンド状炭素薄膜、K1,K2…収納室、
M…「略網目状の溝部」としての溝部、S1,S2…摺動面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転可能に位置する回転部材間に配置され、摩擦係合することによってこれら両回転部材間での駆動力伝達を行う駆動力伝達装置であって、
摩擦係合する摺動面の一方に非晶質構造を有するダイヤモンド状炭素薄膜を施した
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記摺動面間には潤滑油が介在し、湿式摩擦係合することを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記摺動面の他方には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記摺動面の他方には、周方向に沿って設けられた複数の微細な幅の溝部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記一方の摺動面には、略網目状の溝部が形成されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記駆動力伝達装置は、車両の駆動力を伝達するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項1】
互いに相対回転可能に位置する回転部材間に配置され、摩擦係合することによってこれら両回転部材間での駆動力伝達を行う駆動力伝達装置であって、
摩擦係合する摺動面の一方に非晶質構造を有するダイヤモンド状炭素薄膜を施した
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記摺動面間には潤滑油が介在し、湿式摩擦係合することを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記摺動面の他方には、窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記摺動面の他方には、周方向に沿って設けられた複数の微細な幅の溝部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記一方の摺動面には、略網目状の溝部が形成されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記駆動力伝達装置は、車両の駆動力を伝達するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−250364(P2006−250364A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175758(P2006−175758)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【分割の表示】特願2001−392475(P2001−392475)の分割
【原出願日】平成13年12月25日(2001.12.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【分割の表示】特願2001−392475(P2001−392475)の分割
【原出願日】平成13年12月25日(2001.12.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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