説明

駆動力伝達装置

【課題】多板クラッチ機構のエンドプレーを確保できると共に多板クラッチ機構の応答性を向上しつつ、その多板クラッチ機構を介して出力される駆動力の調整制御を車両毎に安定して行うことができる駆動力伝達装置を提供すること。
【解決手段】摩擦発生機構136aにより第2カム133aに発生する摩擦力を増加させ、第1カム132aと第2カム133aとの回転に差動を生じ易くでき、カム機構部131aを速やかに伸長動作させるので、クラッチ機構101aによる後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の伝達の応答性を向上できる。また、保持プレート135aにより第2カム133aとの間の保持力を増加させ、ピストン機構部161aが押圧状態でのカム機構部131aの縮退動作を防止でき、クラッチ機構部101aをピストン本体部163aが直接的に押圧できるので、後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の出力を安定して行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置に関し、特に、多板クラッチ機構のエンドプレーを確保できると共に多板クラッチ機構の応答性を向上しつつ、その多板クラッチ機構を介して出力される駆動力の調整制御を車両毎に安定して行うことができる駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、四輪駆動車では、ドライブシャフトからの駆動力を、ピニオンギアとそのピニオンギアの側部に配置されたリングギアとで減速し、そのリングギアの両サイドに配置された多板クラッチ機構により、左右の出力シャフトに伝達される駆動力を調整する駆動力伝達装置が知られている。
【0003】
例えば、多板クラッチ機構により左右の出力シャフトに伝達される駆動力を調整する駆動力伝達装置として、特開2001−206092号公報(以下「特許文献1」と称す)に、モータでオイルポンプを駆動してピストンを前進動作させ、多板クラッチ機構をピストンにより直接的に押圧する駆動力伝達装置が開示されている。
【0004】
この特許文献1の駆動力伝達装置では、多板クラッチ機構の入力プレートと出力プレートとの間に引き摺りが発生すると、車両の燃費悪化を招く可能性があるので、入力プレートと出力プレートとの間の引き摺りを抑えるために、多板クラッチ機構にエンドプレー(即ち、プレート間の隙間)を確保する必要がある。その結果、多板クラッチ機構のエンドプレー分に対応して、ピストンの進退動作のストロークが長くなるので、多板クラッチ機構の応答性が低下してしまう可能性があった。
【0005】
そこで、本願出願人は、特願2007−082961号(以下「特許文献2」と称す、又、特許文献2は非公知である)において、モータでオイルポンプを駆動してピストンを前進動作させてプライマリークラッチを押圧し、そのプライマリークラッチに連結されるカム機構により押圧力を増幅し、そのカム機構を介して多板クラッチ機構を押圧する駆動力伝達装置を開示している。この駆動力伝達装置によれば、プライマリークラッチを介してカム機構により多板クラッチ機構を押圧するので、ピストンの進退動作のストロークを短くでき、多板クラッチ機構のエンドプレーを確保しつつ、応答性の向上を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−206092号公報
【特許文献2】特願2007−082961号(未公知)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の駆動力伝達装置では、ピストンの進退動作のストロークを短くでき、多板クラッチ機構の応答性を向上することはできるが、プライマリークラッチの構造による押圧力の伝達バラ付きや、カム機構の構造による押圧力の伝達バラ付きが生じる。よって、オイルポンプにより同一の圧力を供給してピストンによりカム機構を押圧したとしても、多板クラッチ機構を押圧する押圧力にバラ付きが生じてしまうので、多板クラッチ機構を介して出力される駆動力の調整制御を車両毎に安定して行うことが困難であるという問題点があった。
【0007】
特に、カム機構は、プライマリークラッチに生じる押圧力のバラ付きをそのまま増幅してしまうので、カム機構を有する駆動力伝達装置では、多板クラッチ機構を介して出力される駆動力の調整制御がより困難になる。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、多板クラッチ機構のエンドプレーを確保できると共に多板クラッチ機構の応答性を向上しつつ、その多板クラッチ機構を介して出力される駆動力の調整制御を車両毎に安定して行うことができる駆動力伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために請求項1記載の駆動力伝達装置は、駆動力を発生する原動機と、その原動機により発生された駆動力が入力される入力軸と、その入力軸の軸心方向と同方向に軸心が配置され前記入力軸に入力された駆動力が出力される出力軸と、前記入力軸側と前記出力軸側との連結を断続的に変化させる多板クラッチ機構とを備えており、前記入力軸および出力軸の回転方向への動作が規制されると共に、前記多板クラッチ機構の連結状態を変化させる押圧力を進退動作により発生させるピストンと、そのピストンと前記多板クラッチ機構との間に介在し、そのピストン側と多板クラッチ側との回転の差動により前記ピストンの進退動作と同方向に伸縮動作すると共に伸長動作をした場合に前記多板クラッチ機構を押圧するカム機構と、そのカム機構を付勢し、前記ピストンが前進動作をして前記カム機構を押圧する場合に発生する初期の摩擦力を増加させる初期動作補助機構とを備えている。
【0010】
請求項2記載の駆動力伝達装置は、請求項1記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構を縮退動作させる方向に付勢する付勢手段を備えている。
【0011】
請求項3記載の駆動力伝達装置は、請求項2記載の駆動力伝達装置において、前記ピストンは、前記カム機構を押圧する初期動作時に、前記付勢手段が有する付勢力より大きな初期圧力を前記カム機構に付与すると共に、前記初期動作補助機構は、前記ピストンが前記カム機構に付与する前記初期圧力より大きな付勢力を有するものである。
【0012】
請求項4記載の駆動力伝達装置は、請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置において、前記ピストンとカム機構との間に介在し、前記ピストンが前進動作して前記カム機構を押圧する場合に前記カム機構のピストン側の端面に当接すると共に、その端面のほぼ全面に対応する大きさに形成される入力保持プレートを備え、前記ピストンが前進動作して前記カム機構を押圧すると共に前記カム機構が伸長動作して前記多板クラッチ機構を押圧した状態で、前記ピストンによる押圧力と、前記多板クラッチ機構とカム機構との連接部における保持力と、前記カム機構と入力保持プレートとの当接部における保持力と、前記初期動作補助機構が発生させる付勢力と、前記付勢手段が発生させる付勢力との合成力が、前記カム機構を縮退動作させる方向力であって前記カム機構を縮退動作させる付勢力と、前記ピストンが前記カム機構を押すことにより発生するカム部分力により前記カム機構を縮退動作させる方向の力との合成力に対して、前記カム機構を伸長動作させる方向に働くように構成されている。
【0013】
請求項5記載の駆動力伝達装置は、請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記初期動作補助機構は、前記カム機構より多板クラッチ機構側に配置され、前記カム機構を前記ピストン側に付勢するものである。
【0014】
請求項6記載の駆動力伝達装置は、請求項1から5のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記出力軸に一体的に連結され、前記入力軸の外周を覆うドラム部を備え、前記初期動作補助機構および付勢手段は、共通部品化されており、前記ドラム部で且つ前記カム機構より多板クラッチ機構側となる位置に設けられ、前記第2カムを前記ピストン側に押圧するものである。
【0015】
請求項7記載の駆動力伝達装置は、請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記初期動作補助機構は、前記ピストンの前記カム機構に対向する面に設けられ、前記ピストンにより前記カム機構が押圧される場合に、そのピストンにより先に前記カム機構を押圧するものである。
【0016】
請求項8記載の駆動力伝達装置は、請求項1から7のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記多板クラッチ機構側に配置されると共に、前記入力軸に連結される第1カムと、その第1カムと対向配置され、前記ピストン側に配置される第2カムと、その第2カムと第1カムとの間に移動可能に配置されるカムフォロアと、そのカムフォロアの移動経路であって、前記第1カムと第2カムとの対向面との少なくとも一方に、周方向に深さが連続して変化するカム溝とを備え、前記カム溝は、前記カム機構への前記初期動作補助機構による摩擦力の付与が無くなった場合に、前記カムフォロアが現在位置に止まる静止力より前記カムフォロアが前記縮退動作を開始する始動力の方が大きくなる傾斜面を有して形成されている。
【0017】
請求項9記載の駆動力伝達装置は、請求項8記載の駆動力伝達装置において、前記初期動作補助機構による付勢力と、前記付勢手段による付勢力とは相対する方向に発生するものであり、前記付勢手段は、前記入力軸および出力軸の軸心に対する径方向において、前記軸心側に前記第1カムと第2カムとを挟むように配置され、前記初期動作補助機構は、前記径方向において、前記付勢手段から離反する位置に配置されている。
【0018】
請求項10記載の駆動力伝達装置は、請求項1から7のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記ピストン側に配置され、所定角度の第1傾斜面を有する第1カムと、その第1カムと対向配置されると共に前記第1傾斜面に面接する第2件斜面を有する第2カムとを備え、前記ピストンにより押圧された場合に、第1及び第2傾斜面の傾斜角度に応じて前記第1カムと第2カムとがスライド動作することで伸長動作するものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の駆動力伝達装置によれば、原動機により発生された駆動力が入力軸に入力され、その入力軸に入力された駆動力は、多板クラッチ機構により出力軸に断続的に出力される。また、入力軸および出力軸の回転方向への動作が規制されるピストンが前進動作すると、ピストン側と多板クラッチ機構側との回転の差動によりピストンの進退動作と同方向に伸縮動作するカム機構が伸長動作をして多板クラッチ機構を押圧し、その多板クラッチ機構の連結状態を変化させる押圧力が発生する。つまり、ピストンによりカム機構部を介して多板クラッチ機構を直接的に押圧する構成なので、プライマリークラッチを介してカム機構にて押し付け力を増幅して押圧する構成に比べて、押圧力の伝達バラ付きの発生を抑制できる。
【0020】
また、ピストンが前進動作してカム機構を押圧する場合に発生する初期の摩擦力は、カム機構を付勢する初期動作補助機構により増加されるので、カム機構が多板クラッチ機構に接触していない状態で且つピストンがカム機構を押圧する初期の状態では、カム機構が、多板クラッチ機構側とピストン側との回転の差動により多板クラッチ機構側に伸長する方向に移動する。初期の状態として多板クラッチ機構にエンドプレーが十分確保された状態でも、多板クラッチ機構側とピストン側との回転の差動が十分あれば、カム機構の多板クラッチ機構側への移動速度も十分速くできるので、カム機構の伸長動作の応答性を向上でき、多板クラッチ機構の応答性を向上できるという効果がある。
【0021】
請求項2記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、カム機構を縮退動作させる方向に付勢する付勢手段が設けられているので、ピストンが後退動作して押圧されなくなった場合に、カム機構を速やかに縮退動作させることができる。つまり、カム機構の縮退動作が遅いと、多板クラッチ機構の各板の間の引き摺りや多板クラッチ機構とカム機構との間の引き摺りが発生し、出力軸に対する駆動力の遮断が不安定になり易いが、カム機構の縮退動作を速やかにできるので、出力軸に対する駆動力の遮断を安定させることができるという効果がある。
【0022】
請求項3記載の駆動力伝達装置によれば、請求項2記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、ピストンは、カム機構を押圧する初期動作時に、付勢手段が有する付勢力より大きな初期圧力をカム機構に付与し、初期動作補助機構は、ピストンがカム機構に付与する初期圧力より大きな付勢力を有する。よって、カム機構を縮退動作させる方向への付勢力が付勢手段により付与されていても、ピストンがカム機構を押圧する初期動作時の摩擦力を初期動作補助機構により確実に付与することができる。従って、カム機構が伸長動作する場合の応答性を向上できると共に、カム機構の縮退動作を速やかに行うことができるという効果がある。
【0023】
請求項4記載の駆動力伝達装置によれば、請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、ピストンとカム機構との間には、ピストンが前進動作してカム機構を押圧する場合にカム機構のピストン側の端面に当接すると共に、その端面のほぼ全面に対応する大きさに形成される入力保持プレートが設けられている。そして、ピストンが前進動作してカム機構を押圧すると共にカム機構が伸長動作して多板クラッチ機構を押圧した状態では、ピストンによる押圧力と、多板クラッチ機構とカム機構との連接部における保持力と、カム機構と入力保持プレートとの当接部における保持力と、初期動作補助機構が発生させる付勢力と、付勢手段が発生させる付勢力との合成力が、カム機構を縮退動作させる方向力であってカム機構を縮退動作させる付勢力と、ピストンがカム機構を押すことにより発生するカム部分力によりカム機構を縮退動作させる方向の力との合成力に対して、カム機構を伸長動作させる方向に働く。
【0024】
よって、ピストンが前進動作すると共にカム機構が伸長動作して多板クラッチ機構を押圧した状態になると、カム機構が伸長動作した状態で保持されるので、ピストンとカム機構とが一体的になり、ピストンにより多板クラッチ機構を直接的に押圧している状態になる。従って、ピストンの押圧力に応じて多板クラッチ機構による出力軸への駆動力の出力を直接的に制御できるので、出力軸への駆動力の出力を安定して行うことができるという効果がある。
【0025】
請求項5記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、初期動作補助機構は、カム機構より多板クラッチ機構側に配置され、カム機構をピストン側に付勢するので、ピストンの前進動作に対して反対方向からカム機構を付勢する。よって、ピストンの前進動作と、初期動作補助機構の付勢力が作用する向きとが向かい合うので、初期動作補助機構が有する小さな付勢力で大きな初期の摩擦力を発生させることができる。従って、初期動作補助機構の構造(及び素材)を簡素化でき、装置コストの低減および装置の小規模化を図ることができるという効果がある。
【0026】
請求項6記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、初期動作補助機構および付勢手段は、共通部品化されているので、部品点数を削減でき、装置コストの低減を図ることができるという効果がある。また、初期動作補助機構は、入力軸および出力軸の軸心から径方向に離れたドラム部に配置される。例えば、カム機構が入力軸に対して一回転した場合には、軸心近傍より外周部近傍の方が、初期動作補助機構と当接する面積が多くなり、摩擦力を付与し易くなる。よって、初期動作補助機構を、入力軸および出力軸の軸心から径方向に離れたドラム部に配置することで、初期の摩擦力を確実に付与することができ、多板クラッチ機構の応答性を向上できるという効果がある。
【0027】
請求項7記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、初期動作補助機構は、ピストンのカム機構に対向する面に設けられ、ピストンによりカム機構が押圧される場合には、そのピストンより先にカム機構を押圧する。よって、入力軸および出力軸、カム機構などの複雑な構造体内に初期動作補助機構を設ける必要がないので、初期動作補助機構の配置の自由度が増し、設計負担を軽減できるという効果がある。
【0028】
また、初期動作補助機構の配置位置の自由度が増す場合には、初期動作補助機構を、入力軸および出力軸の軸心から径方向に離れた位置に配設可能となる。よって、初期動作補助機構を、入力軸および出力軸の軸心から径方向に離れた位置に配設することにより、初期の摩擦力を確実に付与することができ、多板クラッチ機構の応答性を向上できるという効果がある。
【0029】
請求項8記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1から7のいずれかに記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、カム機構は、多板クラッチ機構側に配置されると共に入力軸に連結される第1カムと、その第1カムと対向配置されピストン側に配置される第2カムとの間にカムフォロアが、第1カムと第2カムとの対向面との少なくとも一方に周方向に深さが連続して変化するカム溝によって移動可能に配置されている。また、カム溝は、カム機構への初期動作補助機構による摩擦力の付与が無くなった場合に、カムフォロアが現在位置に止まる静止力よりカムフォロアが縮退動作を開始する始動力の方が大きくなる傾斜面を有して形成されている。
【0030】
よって、第1カム及び第2カム、カムフォロア、カム溝によって、第1カム及び第2カムの滑りをスムーズにできるので、カム機構の伸長動作をスムーズにでき、多板クラッチ機構の応答性を向上できるという効果がある。また、カム溝には、カムフォロアが現在位置に止まる静止力よりカムフォロアが縮退動作を開始する始動力の方が大きくなる傾斜面が設けられているので、カム機構が縮退動作をする場合もスムーズな動作となり、多板クラッチ機構の引き摺り及び多板クラッチ機構とカム機構との間の引き摺りの発生を抑制できるという効果がある。
【0031】
請求項9記載の駆動力伝達装置によれば、請求項8記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、付勢手段は、入力軸および出力軸の軸心に対する径方向において、軸心側に第1カムと第2カムとを挟むように配置されると共に、初期動作補助機構は、径方向において付勢手段から離反する位置に配置され、初期動作補助機構による付勢力と付勢手段による付勢力とが相対する方向に発生するように構成されている。よって、カム機構を縮退動作させる付勢力が作用する点と、初期動作補助機構によりカム機構をピストン側に付勢する付勢力が作用する点とが、軸心に対する径方向において対称位置になる。よって、付勢手段および初期動作補助機構との付勢力が作用する点が対称位置に設けられ、且つ、それぞれ相対する方向に付勢力が付与されるので、付勢手段および初期動作補助機構の両者の付勢力が作用した場合でも、カム機構の伸縮動作を安定して行うことができるという効果がある。
【0032】
なお、請求項9記載の駆動力伝達装置において、入力軸および出力軸の軸心に対する径方向において付勢手段から離反する位置とは、出力軸側に一体的に連結され入力軸の外周を覆うドラム部を備えている構成では、そのドラム部を付勢手段から離反する位置としても良い。この構成では、入力軸とドラム部(即ち、出力軸)との間において、最も径方向に離れた位置に初期動作補助機構を配置できるので、カム機構と初期動作補助機構とが当接する面積が多くなり、初期の摩擦力を確実に付与することができ、多板クラッチ機構の応答性を向上できる。
【0033】
請求項10記載の駆動力伝達装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載の駆動力伝達装置の奏する効果に加え、カム機構は、ピストン側に配置され所定角度の第1傾斜面を有する第1カムと、その第1カムと対向配置されると共に第1傾斜面に面接する第2件斜面を有する第2カムとで構成され、ピストンにより押圧された場合に、第1及び第2傾斜面の傾斜角度に応じて第1カムと第2カムとがスライド動作することで伸長動作する。よって、第1件斜面を有する第1カムと、第2件斜面を有する第2カムとによりカム機構を構成できるので、入力軸および出力軸の軸心方向におけるカム機構の幅を短くすることができ、駆動力伝達装置の外形を小規模化できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施形態である駆動力調整機構22a,22bが搭載された四輪駆動車1について説明する。本実施形態の駆動力調整機構22a,22bは、原動機11から後輪19a,19bにそれぞれ伝達される駆動力を調整するものである。具体的には、駆動力調整機構22a,22bのクラッチ機構部101a,101bのエンドプレーを確保しつつ、そのクラッチ機構部101a,101bの応答性を向上し、クラッチ機構部101a,101bを介して後輪19a,19bに出力される駆動力の調整制御を車両毎に安定して行うことができるものである。
【0035】
図1は、駆動力調整機構22a,22bが搭載された四輪駆動車1を示した概略図である。なお、図1に示す矢印Xは、四輪駆動車1の前後方向を示しており、矢印Yは、四輪駆動車1の左右方向を示している。
【0036】
図1に示すように、四輪駆動車1は、内燃機関であり駆動力を発生する原動機11と、その原動機11から連結軸31を介して入力された駆動力を変速部13により変速して出力するトランスミッション12と、そのトランスミッション12から連結軸32を介して入力された駆動力を前後駆動力分配装置分配部15により連結軸33と中央ドライブシャフト34とに分配する前後駆動力分配装置14と、その前後駆動力分配装置14によって連結軸33に分配された駆動力を前側ドライブシャフト35a,35bに分配する前輪デファレンシャルギヤ部16と、その前輪デファレンシャルギヤ部16で前側ドライブシャフト35a,35bに分配された駆動力が伝達されて回転動作する一対の前輪17a,17bと、前後駆動力分配装置14によって中央ドライブシャフト34に分配された駆動力が伝達され、その伝達された駆動力を調整しつつ後側ドライブシャフト36a,36bに分配する駆動力分配調整機構18と、その駆動力分配調整機構18によって後側ドライブシャフト36a,36bそれぞれに分配された駆動力が伝達されて回転動作する一対の後輪19a,19bと、駆動力分配調整機構18における駆動力の各種調整制御を行う制御装置19とを有して構成されている。なお、駆動力分配調整機構18は、ケース20の内部に回転可能に固定されている。
【0037】
また、駆動力分配調整機構18は、主に、中央ドライブシャフト34から入力される駆動力を、後側ドライブシャフト36a,36bにそれぞれ分配する駆動力分配機構21と、その駆動力分配機構21により後側ドライブシャフト36a,36bに分配される駆動力を調整する駆動力調整機構22a,22bとで構成されている。
【0038】
駆動力分配機構21は、中央ドライブシャフト34と連結される第1ギヤユニット21aと、第1ギヤユニット21aに対して直交する方向(図1矢印Y方向)に配置される第2ギヤユニット21bとを有して構成されている。駆動力分配機構21は、第1ギヤユニット21aに入力された駆動力を、第2ギヤユニット21bにより左右に分配し、駆動力分配機構21の左右(図1矢印Y方向両側)に配置された駆動力調整機構22a,22bに駆動力を分配するものである。
【0039】
駆動力調整機構22a,22bは、駆動力分配機構21の左右(図1矢印Y方向)に対称に設置され、第2ギヤユニット21bの両端部にそれぞれ連結されている。なお、駆動力調整機構22a,22bは、駆動力分配機構21の右側(図1矢印Y方向上側)が駆動力調整機構22aであり、駆動力分配機構21の左側(図1矢印Y方向下側)が駆動力調整機構22bである。
【0040】
駆動力調整機構22a,22bは、後輪ドライブシャフト36a,36bに伝達される駆動力を調整する駆動力調整部23a,23bと、図示しない電動モータやオイルポンプにより駆動力調整部23a,23bにオイルを送り出すオイル供給機構24a,24bと、そのオイル供給機構24a,24bにより圧送されたオイルの液圧を検出する圧力センサ25a,25bとを有して構成されている。
【0041】
駆動力調整部23a,23bは、オイル供給機構24a,24bがオイルを送り出すことで発生する液圧により後輪ドライブシャフト36a,36bに伝達される駆動力の調整が行なわれる。また、オイル供給機構24a,24bにより発生された液圧は、圧力センサ25a,25bにより検出され、その検出結果が制御装置19に入力される。
【0042】
制御装置19は、図示しない演算処理装置であるCPUや記憶装置であるROM及びRAMを搭載している。そして、ROMに記憶される圧力制御プログラムにより、圧力センサ25a,25bの検出結果に基づくフィードバック制御を行い、駆動力調整部23a,23bが作動するために必要なオイルをオイル供給機構24a,24bから供給する。
【0043】
次に、図2及び図3を参照して、駆動力調整部23aについて詳細に説明する。図2は、駆動力調整部23aの断面の一部を示した図であり、図3は、カム機構部131aの概略を示した図であり、(a)は、カム機構部131aの側面図であり、(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるカム機構部131aの断面図である。
【0044】
また、図2において、矢印Xは、四輪駆動車1の前後方向を示しており、矢印Yは、四輪駆動車1の左右方向であり駆動力調整部23aの回転軸心P方向を示している。また、図3に示す矢印Rは、駆動力調整部23aの回転軸心Pを中心とする円周方向を示している。
【0045】
なお、図2及び図3の説明では、駆動力調整部23aに関連する部分についての説明を行い、駆動力調整部23bについては、駆動力調整部23aと同様に構成されているので、その詳細な説明は省略する。
【0046】
まず、駆動力調整機構22aと駆動力分配機構21の第2ギアユニット21bとの連結部分(即ち、駆動力調整機構22aの入力部分)及び、駆動力調整機構22aと後輪ドライブシャフト36aとの連結部分(即ち、駆動力調整機構22aの出力部分)について簡単に説明する。
【0047】
駆動力分配機構21の第2ギヤユニット21bには、その両端部に、駆動力調整部23a,23b(駆動力調整部23bは図示せず)に対して駆動力を入力する入力シャフト41a,41b(入力シャフト41bは図示せず)が設けられている。よって、入力シャフト41a,41bにより、中央ドライブシャフト34から入力される駆動力が駆動力調整部23a,23bにそれぞれ伝達される。
【0048】
なお、図2に示すように、入力シャフト41aは、ケース20に固定されると共に駆動力分配機構21が設けられた空間と駆動力調整部23aが設けられた空間とを仕切る仕切壁42aに対して、ベアリングB1aを介して回転可能に配置されている。よって、入力シャフト41aに入力された駆動力は、仕切壁42aとの摺動抵抗による大きな損失を受けることなく駆動力調整部23aに伝達することができる。
【0049】
また、仕切壁42aと入力シャフト41aとの間には、オイルシール46aが配設されている。よって、仕切壁42aを基準として、駆動力分配機構21が設けられた空間と、駆動力調整部23aが設けられた空間とを遮蔽することができる。よって、駆動力分配機構21の第1及び第2ギアユニット21a,21bを潤滑する潤滑油と、駆動力調整部23aを潤滑する潤滑油とを異なる種類にすることができるので、それぞれ適した潤滑油を使用することができる。
【0050】
後輪ドライブシャフト36aには、その外周から径方向(図2矢印X上方向)に突出し且つその突出先端から第2ギアユニット21b側(図2矢印Y右方向)に延設されて入力シャフト41aの外周を覆う筒状の筒部43aが設けられている。この筒部43aの内側(入力シャフト41a側)には、筒状のドラム部44aが溶接により連結されている。よって、後輪ドライブシャフト36aとドラム部44aとは一体的に回転可能に構成され、入力シャフト41aから入力された駆動力がドラム部44aを介して後輪ドライブシャフト36aに伝達される。
【0051】
なお、後輪ドライブシャフト36aとケース20との間にもベアリングB2aが設けられており、後輪ドライブシャフト36aに出力された駆動力がケース20との摺動抵抗による大きな損失を受けることが抑制されている。
【0052】
次に、駆動力調整部23aについて説明する。駆動力調整部23aは、主に、駆動力分配機構21の入力シャフト41aから後輪ドライブシャフト36aに駆動力を断続的に出力するクラッチ機構部101aと、そのクラッチ機構部101aに与える押圧力を増幅するカム機構部131aと、そのカム機構部131aに押圧力を与えるピストン機構部161aとで構成されている。
【0053】
クラッチ機構部101aは、主に、入力シャフト41aの外周部との間でスプライン継ぎ手を形成して連結される複数のドライブプレート102a(本実施形態では7個)と、その複数のドライブプレート102aの間に交互に一枚ずつ配置されると共に、ドラム部44aの内周部との間でスプライン継ぎ手を形成して連結される複数のドリブンプレート103a(本実施形態では7個)と、各プレート102a,103aの押圧方向(図2矢印Y左方向)への移動を規制するスナップリングS1aとで構成されている。なお、後述する保持プレート135aは、ドライブプレート102aと同形状に形成され、入力シャフト41aの外周部との間でスプライン継ぎ手を形成して連結されている。
【0054】
また、入力シャフト41aとドライブプレート102aとの間は、入力シャフト41aの外周部に形成されるシャフト溝部104aと、ドライブプレート102aの内周部に形成される突部105aとによりスプライン継ぎ手が形成されて連結されている。同様に、ドラム部44aとドリブンプレート103aとの間は、ドラム部44aの内周部に形成されるドラム溝部106aと、ドリブンプレート103aの外周部に形成される突部107aとによりスプライン継ぎ手が形成されて連結されている。
【0055】
カム機構部131aは、入力シャフト41aから伝達される駆動力を利用した増幅機構であり、駆動力調整部23aの回転軸心P方向において、クラッチ機構部101aとピストン機構部161aとの間に配置されている。また、カム機構部131aは、回転軸心P方向に伸縮動作すると共に、伸長動作した場合にクラッチ機構部101aのドリブンプレート103aを押圧するものである。
【0056】
カム機構部131aは、主に、入力シャフト41aのシャフト溝104aとの間でスプライン継ぎ手を形成して連結されると共にクラッチ機構部101a側(図2矢印Y方向左側)に配置される第1カム132aと、その第1カム132aに対向配置されると共にピストン機構部161a側(図2矢印Y方向右側)に配置される第2カム133aと、第1カム132aと第2カム133aとの間に狭持される複数(本実施形態では6個)のボール134aと、第2カム133aとピストン機構部161aとの間に配置され第2カム133aのピストン機構部161a側のほぼ全面を覆う保持プレート135aと、第2カム133aをピストン機構部161a側に付勢する摩擦発生機構136aと、第1カム132aと第2カム133aとの間を縮める(縮退)方向に付勢するリターン機構137aとを有して構成されている。
【0057】
また、入力シャフト41aと第1カム132aとの間は、ドライブプレート102aと同様に、入力シャフト41aのシャフト溝部104aと、第1カム132aの内周部に形成される突部138aとによりスプライン継ぎ手が形成されて連結されている。また、第1カム132aのピストン機構部161a側への移動は、スナップリングS2aにより規制される。このスナップリングS2aによって、第2カム133aがピストン機構部161a側に移動して、そのピストン機構部161aと常に当接することが抑制される。
【0058】
摩擦発生機構136aは、ドラム部44aの内周部に等間隔に4箇所設けられると共に、2つのスナップリングS3a,S4aの間に設けられている。摩擦発生機構136aは、バネ状の弾性部材に構成されたコイルバネ139aと、第2カム133aの第1カム132aに対向する面に当接する付勢板140aとで構成されている。摩擦発生機構136aは、コイルバネ139aの付勢力により第2カム133aをピストン機構部161a側(図2矢印Y方向右側)に付勢し、ピストン機構部161aにより第2カム133aが押圧された場合の初期の摩擦力を増加させるものである。
【0059】
また、付勢板140aは、スナップリングS4aによりピストン機構部161a側への移動が規制されており、ピストン機構部161aのピストン本体部163aが後退している状態(即ち、ピストン本体部163aによる押圧がなされていない状態)で、第2カム133aと付勢板140aが当接することを防止している。
【0060】
なお、本実施形態では、摩擦発生機構136aがドラム部44aの内周部に等間隔に4箇所設けられる構成としたが、ドラム部44aの全周に設けられるものとしても良いし、第2カム133aを略均等に押圧できる構成であれば、2箇所、3箇所、5箇所以上設けられる構成としても良い。
【0061】
リターン機構137aは、第1カム132aの入力シャフト41a近傍に貫通形成された貫通孔141a内を挿通する規制部材142aと、その規制部材142aと第1カム132aとの間に設けたれた弾性部材で構成される皿バネ143aとで構成されている。規制部材142aは、断面視コ字状に形成されており、一端が第2カム133aに固着されると共に、他端と第1カム132aとの間に皿バネ143aが配設されている。そして、リターン機構137aは、第1カム132aに対して第2カム133aを縮退動作させる方向に付勢力が作用するように構成されている。
【0062】
なお、本実施形態では、リターン機構137aの付勢力を皿バネ143aで発生させるものとしたが、必ずしも皿ばねである必要はなく、例えば、環形のゴム状弾性体を用いても良い。
【0063】
また、摩擦発生機構136aとリターン機構137aとは、駆動力調整部23aの回転軸心Pを基準とした径方向(図2では回転軸心Pから矢印X方向上側に向かう方向)において、入力シャフト41aの近傍にリターン機構137aが配置され、ドラム部44aに摩擦発生機構136aが配置されている。即ち、リターン機構137aによる付勢力が作用する点と、摩擦発生機構136aによる付勢力が作用する点とが、カム機構部131aの対称する位置に設けられている。また、後述するが、リターン機構137aによる付勢力は、第2カム133aを第1カム132aに近づける方向に作用し、摩擦発生機構136aは、第2カム133aを第1カム132aから離す方向に作用し、互いに相対する方向に力が作用する。例えば、摩擦発生機構136aとリターン機構137aとの付勢力が同じ方向で且つ同じ点に作用すると、カム機構部131aの一点に付勢力が作用するので、カム機構部131aの伸縮動作に影響が生じる場合がある。しかし、本実施形態では、リターン機構137aおよび摩擦発生機構136aの付勢力が作用する点が対称する位置となり、且つ、それぞれ相対する方向に付勢力が作用するので、リターン機構137aおよび摩擦発生機構136aの両者の付勢力が作用している状態でも、カム機構部131aの伸縮動作を安定させることができる。
【0064】
また、摩擦発生機構136aは、カム機構部131aよりクラッチ機構部101a側に配置され、カム機構部131aをピストン機構部161a側に付勢するので、ピストン機構部161aのピストン本体部163aの前進動作に対して反対方向からカム機構部131aを付勢する。よって、ピストン本体部163aの前進動作と、摩擦発生機構136aの付勢力が作用する向きとが向かい合い、且つ、スナップリングS4aにて位置決めされることにより、クラッチ機構部101a(最もカム機構部131a側に位置するドライブプレート102a)にカム機構部131a(第1カム132a)が接触しない位置で、ピストン機構部161aとカム機構部131aとの接触位置を決めることができるため、初期位置状態でのクラッチ機構部101aの各プレート102a,103a間のエンドプレーを確保でき、引き摺りトルクの発生を防止できる。
【0065】
また、摩擦発生機構136aは、ドラム部44aに配置されているので、入力シャフト41aが一回転(第2カム133a一回転)した場合には、駆動力調整部23aの回転軸心P近傍よりドラム部44a近傍の方が、第2カム133aと摩擦発生機構136aの付勢板140aとの当接する半径が大きくなり、摩擦トルクを付与し易くなる。よって、摩擦発生機構136aをドラム部44aに配置することで、摩擦発生機構136aによる摩擦力を確実に付与することができる。
【0066】
ピストン機構部161aは、オイル供給機構24a(図1参照)から送られてくるオイルで満たされるピストン室162aと、オイル供給機構24aから送られてくるオイルの液圧により押圧力を発生させるピストン本体部163aと、ピストン本体部163aに外嵌されるシリンダー部164aと、ピストン本体部163aに対して駆動力調整部23aの回転軸心Pを中心として回転しているカム機構部131aにピストン本体部163aからの押圧力を円滑に伝達するベアリングB3とを有して構成されている。なお、ピストン機構部161aは、図示しないが、ピストン室162aに満たされたオイルに混入した気体(空気)を放出するステムブリーダや、ピストン本体部163aの駆動力調整部23aの回転軸心Pを中心とする回転方向への移動を規制する規制部などを有している。
【0067】
ピストン室162aは、略環状をしたピストン本体部163aが略環状をしたシリンダー部164aに内嵌されることにより形成される空間であり、オイル供給機構24aから送られてくるオイルで満たされている。そのピストン室162aの上部(四輪駆動車1に搭載された状態での上部)に貫通孔であるステムブリーダが配設されており、ピストン室162aは、クラッチ機構部101a及びカム機構部131aが設けられた空間とステムブリーダを介して連通されている。よって、ピストン室162aからクラッチ機構部101a及びカム機構部131aが設けられた空間に、空気と共に放出される油は、潤滑油としても作用する。
【0068】
ここで、図3を参照して、第1カム132aと第2カム133aとボール134aとの詳細な構成およびその動作について説明する。図3(a)に示すように、第2カム133aは、略環状の部材であり、第1カム132aと対向する面(図3(a)に示す第2カム133aにおいて紙面垂直方向奧側の面)に環状のプライマリーカム溝部144aが形成されている。また、第1カム132aは、略環状の部材であり、第2カム133aと対向する面(図2(a)に示す第1カム132aにおいて紙面垂直方向視手前側の面)に環状の第1カム溝部145aが形成されている。
【0069】
第2カム溝部144aと第1カム溝部145aとは、同形状に形成されており、その第2カム溝部144aと第1カム溝部145aとの間にボール134aが複数個(本実施形態では6個)収容されている。なお、第1カム132aの内周部には、入力シャフト41aに形成されるシャフト溝部104a(図2参照)との間でスプライン継ぎ手を形成する突部138aが形成されている。
【0070】
次に、図3(b)を参照して、第2カム133aにピストン機構部161aから押圧力が伝達された時の第1カム132aと、第2カム133aと、ボール134aとのそれぞれの動作について説明する。
【0071】
また、図3(b)において、第1カム132aの実線で示されている状態が、第2カム133aにピストン機構部161aからの押圧力が伝達されていない時の位置であり、ボール134aは、第2カム溝部144aと第1カム溝部145aとの深い部分に収容されている。
【0072】
この第1カム132a及び第2カム133aとの位置関係が、リターン機構137aの付勢力により第1カム132a及び第2カム133aが縮退動作した基準位置となる。また、第1カム132a及び第2カム133aが基準位置にある場合の第1カム132aと第2カム133aとの幅は、駆動力調整部23aの回転軸心P方向(図3(b)矢印Y方向)において幅L1となる。
【0073】
図3(b)において、第1カム132aの破線で示されている状態が、第2カム133aにピストン機構部161aからの押圧力が伝達された時の位置であり、第1カム132aに対して第2カム133aが円周方向(図3(b)矢印R方向右側)にスライド移動している。この状態では、ボール134aは、第2カム133aへ駆動力が伝達されていない時(実線で示した状態、基準位置)に比べて浅い部分に収容されている。
【0074】
この第1カム132a及び第2カム133aとの位置関係が、ピストン機構部161a(ピストン本体部163a)により押圧されて第1カム132a及び第2カム133aが伸長動作した作動位置となる。また、第1カム132a及び第2カム133aが作動位置にある場合の第1カム132aと第2カム133aとの幅は、駆動力調整部23aの回転軸心P方向(図3(b)矢印Y方向)において幅L2となる。
【0075】
なお、第1カム溝部145aと第2カム溝部144aとは、溝部の深さが円周方向(図3(b)矢印R方向)に緩やかに変化する傾斜面146aを有している。この傾斜面146aによって、ピストン機構部161aから第2カム133aに押圧力が伝達されていない場合に、第1カム132aを作動位置から基準位置にスムーズに戻すことができる。
【0076】
また、第1カム132aと第2カム133aとの幅は、幅L1に比べて幅L2の方が広くなっている。これは、第2カム133aがピストン機構部161aに押圧された場合に発生するピストン機構部161aとの間の摩擦力によって、入力シャフト41aの回転に伴う第1カム132aの回転速度と、第2カム133aの回転速度とに差が生じることで、ボール134aが各溝部144a,145aの深さが浅い部分まで転がり、第1カム132aと第2カム133aとの幅が広がるからである(即ち、第1カム132a及び第2カム133aのカム機構が伸長動作をする)。
【0077】
なお、第1カム132aと第2カム133aとの間に発生する押圧力は、ピストン機構部161aにより発生される押圧力の数十倍(本実施形態では略20倍)に増幅されている。このように、カム機構部131aは、ピストン機構部161aによって発生された押圧力を簡単な構成で増幅できる。よって、ピストン機構部161aは小さな押圧力を発生するだけで、ドライブプレート102aとドリブンプレート103aとを押しつける大きな押圧力が得られる。
【0078】
また、第1カム132aと第2カム133aとは、回転速度差によってクラッチ機構部101a(図2参照)を押しつける方向(図2矢印Y方向)に広がる。即ち、第1カム132aと第2カム133aとの回転速度差が大きくなるほど、クラッチ機構部101aを押圧する方向に向かって速く広がる。本実施形態では、後述するが、摩擦発生機構136aにより、ピストン機構部161aにより第2カム133aが押圧された場合の初期の摩擦力を増加させて、第1カム132aと第2カム133aとの回転速度差が大きくなるよに構成されている。よって、ドライブプレート102aとドリブンプレート103aとの隙間を広く設定したとしても、駆動力調整部23a(図2参照)の応答性を損なうことがない。従って、ドライブプレート102aとドリブンプレート103aとの隙間を広く設定して、各プレート102a,103aの引き摺りを低減させつつ駆動力調整部23aの応答性を向上できる。
【0079】
ここで、駆動力調整部23aに生じる引き摺りについて簡単に説明する。引き摺りとは、第1カム132aがクラッチ機構部101aに対して押圧力を発生しておらず、且つ、第1カム132aが作動位置から基準位置に戻りきってないときに発生する現象である。具体的には、ドライブプレート102aと、ドリブンプレート103aとの間に介在するオイルによって、ドリブンプレート103aがドライブプレート102aに張り付き、ドリブンプレート103aがドライブプレート102aに引きずられて回転する際に生じるものである。また、第1カム132aは、ドリブンプレート103aを直接押圧するように構成されているので、第1カム132aとドリブンプレート103aとの間にも引き摺りが発生する。
【0080】
なお、上述したリターン機構137aは、第1カム132aとドリブンプレート103aとに働くオイルの粘着力と、第1カム132aの内周部に形成される突部138aと入力シャフト41aに形成されるシャフト溝部104aとの摩擦力と、ボール134aの転がり抵抗力とをあわせた力を上回る付勢力を発生するように構成されている。
【0081】
つまり、リターン機構137aには、上記複数の力より大きな付勢力を発生するばね定数や初期荷重が設定されている。その結果、ピストン機構部161aからの押圧力の供給がなくなると、リターン機構137aの付勢力により第2カム133aは作動位置から基準位置に向かって速やかに移動する。よって、駆動力調整部23aに生じる引き摺りによって余分な駆動力が後輪ドライブシャフト36aに伝達されることを低減できる。
【0082】
次に、図4〜図6を参照して、入力シャフト41aから後輪ドライブシャフト36aに駆動力を伝達する場合の駆動力調整部23aの動作について説明する。図4は、駆動力調整部23aの主要部分を模式的に示した模式図であり、図5及び図6は、駆動力調整部23aが動作した場合の状態遷移を模式的に示した模式図である。なお、図5(a),(b)及び図6(a),(b)では、駆動力調整部23aの状態とカム機構部131aに作用する力の概略を図示する。
【0083】
図4には、駆動力調整部23aの主要部分として、入力シャフト41a、ドラム部44a、ドライブプレート102a、ドリブンプレート103a、第1カム132a、第2カム133a、ボール134a、保持プレート135a、摩擦発生機構136a(コイルバネ139a及び付勢板140a)、リターン機構137a(規制部材142a及び皿バネ143a)、ピストン本体部163a、及び、ベアリングB3aが図示されている。
【0084】
なお、図4に示した状態が、ピストン本体部163aが前進動作をしておらず、保持プレート135aに当接していない状態である。この状態では、第1カム132a及び第2カム133aも基準位置となり、第1カム132aとドリブンプレート103aとも当接しておらず、入力シャフト41aから後輪ドライブシャフト36aに駆動力は伝達されていない。
【0085】
図5(a)は、オイル供給機構24a(図1参照)からピストン室162a(図2参照)にオイルが供給されて、ピストン本体部163aが前進動作し、ピストン本体部163aが保持プレート135aに当接した状態を示している。つまり、図5(a)は、ピストン本体部163aがカム機構部131a(図2参照)を押圧する初期状態である。
【0086】
図5(a)に示すように、ピストン本体部163aが前進動作してピストン本体部163aが保持プレート135aに当接すると、ピストン本体部163aから初期の押圧力(図5(a)の矢印F1で示す押圧力)がカム機構部131aの第2カム133aに伝達される。
【0087】
また、リターン機構137aによる付勢力(図5(a)の矢印F2で示すリターン力)は、第1カム132aと第2カム133aとを縮退動作させる方向へ作用しており、具体的には、第1カム132aが入力シャフト41aに連結されているので、第2カム133aを第1カム132a側に移動させる方向に作用している。
【0088】
よって、摩擦発生機構136aと第2カム133aとの当接部分には、ピストン本体部163aからの押圧力と、リターン機構137aによる付勢力とを合成したイニシャル付加力(初期圧力)が、第2カム133aを押圧する方向に作用している(図5(a)の矢印F3で示すイニシャル付加力)。
【0089】
一方、イニシャル付加力が作用している第2カム133aと摩擦発生機構136aとの当接部には、摩擦発生機構136aによって、イニシャル付加力が作用する押圧方向とは反対方向から、第2カム133aをピストン本体部163a側に付勢するイニシャル付勢力が作用している(図5(a)の矢印F4で示すイニシャル付勢力)。なお、本実施形態では、摩擦発生機構136aのイニシャル付勢力が、イニシャル付加力と同等以上に構成されている。
【0090】
また、図5(a)の状態では、入力シャフト41aの回転に伴って回転する第1カム132aに回転力が存在する(図5(a)の矢印F5で示す回転力)。そして、第1カム132aの回転に伴って回転する第2カム132aには、ピストン本体部163aと保持プレート135aとの間の摩擦力に加え、摩擦発生機構136aによる摩擦力が付与される結果、第1カム132aの回転力に反する方向に、第2カム133aの回転を抑制する回転抑制力が発生する(図5(a)の矢印F6で示す回転抑制力)。
【0091】
この第1カム132aの回転力に対して、第2カム133aに回転抑制力が作用することで、第1カム132aと第2カム133aとの間に回転速度差が生じ、第1カム132aと第2カム133aとの回転に差動が生じることで、第2カム133aが第1カム132aに対してボール134aを介してスライド移動し、カム機構部131aが伸長動作する。
【0092】
本実施形態では、摩擦発生機構136aにより第2カム133aをピストン本体部163a側に付勢するように構成されている。よって、ピストン本体部163a及び摩擦発生機構136aによって、第2カム133aに発生する摩擦力が増加するので、第2カム133aに働く回転を抑制する抑制力が大きくなる。その結果、第1カム132aと第2カム133aとの間の回転速度に差が生じ易く、第1カム132aと第2カム133aとの回転に差動が生じるので、第1カム132aに対して第2カム133aが速やかに伸長動作する。従って、カム機構部131aの伸長動作の応答性を向上できるので、クラッチ機構101aによる後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の伝達の応答性も向上できる。
【0093】
また、ピストン本体部163aにより第2カム133aを直接押圧するので、例えば、カム機構を有さずにピストン本体部163aによりクラッチ機構部101aを直接押圧する場合に比べて、ドライブプレート102a及びドリブンプレート103aのエンドプレーを確保しつつ、ピストン本体部163aのストロークを短くして応答性を向上できる。
【0094】
さらに、ピストン本体部163aにより第2カム133a,第1カム132aを介してドライブプレート102a(クラッチ機構部101a)を直接押圧するので、例えば、ピストン本体部163aと第2カム133aとの間にクラッチ機構を介在させる構成に比べて、ピストン本体部163aからの押圧力の伝達にバラ付きが生じることを抑制できる。よって、ピストン室162a(図2参照)にオイル供給機構24a(図1参照)から同一の液圧が供給された場合に、ピストン本体部163aからクラッチ機構101aに伝達される押圧力が駆動力調整機構22a毎に異なることを抑制できる。従って、駆動力調整機構22a毎に、圧力制御プログラムなどを変更する必要がなくなり、駆動力調整機構22aが搭載される四輪駆動車1毎に安定した駆動力の調整制御を行うことができる。
【0095】
図5(b)の状態は、図5(a)状態からカム機構部131aが伸長動作をした状態であり、第1カム132aに対して第2カム133aがボール134aを介してスライド動作した状態である。
【0096】
カム機構部131aが伸長動作をして、第1カム132aがドリブンプレート103aを押圧(即ち、第2カム133aが第1カム132aに対してスライド動作した状態で押圧)すると、ドライブプレート102aとドリブンプレート103aとが最終的に連結されて一体的に回転する。よって、ドラム部44aに連結されるドリブンプレート103aと、入力シャフト41aに連結される保持プレート135aとも一体的に回転するので、第1カム132aと第2カム133aとの回転の差動が無くなる。
【0097】
第1カム132aと第2カム133aとは、回転速度に差が生じて回転に差動が生じると、ボール134aを介して第2カム133aが第1カム132aに対してスライド動作するものなので、ドライブプレート102aとドリブンプレート103aとが一体的に回転する状態になると、カム機構部131aを縮退動作させる方向へのカム戻り力(矢印F7で示すカム戻り力)が働く可能性がある。
【0098】
しかし、本実施形態では、保持プレート135aが第2カム133aのほぼ全面に当接するように構成されているので、保持プレート135aと第2カム133aとの間の保持力を増加させることができる。また、同様に、第1カム132aのほぼ全面もドリブンプレート103aに当接しており、その保持力を増加することができる。
【0099】
そして、保持プレート135aと第2カム133aとの間の保持力と、第1カム132aとドリブンプレート103aとの保持力の合成した保持力(図5(b)の矢印F8で示す保持力)は、カム機構部131aを縮退動作させるカム戻り力であり、カム機構部131aを縮退動作させる付勢力と、ピストン本体部163aが第2カム133aを押すことにより発生するカム部分力によりカム機構部131aを縮退動作させる方向の力との合成力に対して反対方向に作用する。
【0100】
特に、保持プレート135aを設け、保持プレート135aと第2カム133aとの間の保持力を高めることで、保持プレート135aと第2カム133aとの間の保持力と、第1カム132aとドリブンプレート103aとの保持力の合成した保持力(図5(b)の矢印F8で示す保持力)が、ピストン本体部163aによる押圧力(図5(b)の矢印F1で示す押圧力)と、リターン機構137aによる付勢力(図5(b)の矢印F2で示すリターン力)と、摩擦発生機構136aによる付勢力(図5(b)の矢印F4で示す付勢力)とからなる合成力を含むカム戻り力より大きくなる。
【0101】
よって、保持プレート135aと第2カム133aとの間の保持力と、第1カム132aとドリブンプレート103aとの保持力の合成した保持力(図5(b)の矢印F8で示す保持力)が、カム戻り力より高くなり、ピストン本体部163aによりカム機構部131aが押圧されている状態で、カム機構部131aが縮退動作することを防止できる。従って、ピストン本体部163aとカム機構部131aとが一体的に動作することになり、ピストン本体部163aによりドリブンプレート103a(クラッチ機構部101a)を直接的に押圧することができる。
【0102】
即ち、図5(b)に示すように、カム機構部131aが伸長動作して、ピストン本体部163aとカム機構部131aとが一体的にクラッチ機構部101aを押圧する状態になると、ピストン本体部163aからの押圧力が、第1カム132aによりドリブンプレート103aを押圧する押圧力(図5(b)のF1で示す押圧力)になる。
【0103】
よって、第1カム132aがドリブンプレート103aを押圧し、第1カム132a及び第2カム133aが最大限に伸長した状態になると、ピストン本体部163aとカム機構部131aとが一体的に前進動作することになり、ピストン本体部163aによりクラッチ機構101aを直接的に押圧することができる。従って、ピストン本体部163aの押圧力に応じて、クラッチ機構部101aを介して後輪ドライブシャフト36aに出力される駆動力の調整ができるので、後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の出力を安定して行うことができる。また、ピストン本体部163aの押圧力に応じて、クラッチ機構101aを介した後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の調整を行えるので、後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の出力の制御自体を簡単にできる。
【0104】
図6(a)の状態は、ピストン本体部163aが後退動作を開始し、ピストン本体部163aから第2カム133aへの押圧力の付与が無くなった状態である。また、この状態では、摩擦発生機構136aと第2カム133aとも非接触となっている。
【0105】
図6(a)の状態になると、ピストン本体部163aからの押圧力もなくなり、摩擦発生機構136aからの付勢力もなくなるので、リターン機構137aによる第1カム132a及び第2カム133aを縮退動作させるカム戻り力(図6(a)の矢印F7で示すカム戻り力)が働く。
【0106】
よって、ピストン本体部163aと保持プレート135aとの間および摩擦発生機構136aと第2カム133aとの間が非接触になると、リターン機構137aによって、カム機構部131aが速やかに縮退動作される。よって、ドリブンプレート103aと第1カム132aとの間および各プレート102a,103aとの間の引き摺りの発生を抑制できるので、クラッチ機構101aによる後輪ドライブシャフト36aへの駆動力の遮断も安定させることができる。
【0107】
図6(b)の状態は、リターン機構137aにより第2カム133aが第1カム132aに対して基準位置に戻る方向にスライド動作した状態である。図6(b)に示すように、第2カム133aは、完全に基準位置まで戻っていない。本実施形態のリターン機構137aは、第2カム133aを完全に基準位置まで戻さないような付勢力を付与するものである。これは、リターン機構137aによる付勢力を、第2カム133aを完全に基準位置まで戻す大きさに設定すると、第2カム133aが第1カム131aに対して作動位置にスライド動作する場合の押圧力、及び、摩擦発生機構136aによる付勢力を大きく設定する必要があるので、押圧力を発生させるオイル供給機構24aや初期の摩擦力を発生させる摩擦発生機構136aを大規模化しなければならない。しかし、本実施形態では、リターン機構137aが第2カム133aを完全に基準位置まで戻さない付勢力を付与するものなので、オイル供給機構24a及び摩擦発生機構136aの大規模化を抑制できる。
【0108】
なお、リターン機構137aにより第2カム133aが第1カム132aに対して基準位置の手前までスライド移動した後は(図6(b)の状態)、そのスライド移動の慣性力と、カム溝144a,145aの傾斜面146a(図3参照)により第2カム133aが基準位置まで戻るカム戻り力が働き(図6(b)の矢印F7で示すカム戻り力)、図4の状態となり、駆動力調整部23aの一連の動作が終了する。
【0109】
次に、図7を参照して、第2〜第4実施形態の駆動力調整機構22aについて説明する。図7は、第2〜第4実施形態の駆動力調整機構22aの主要部分を模式的に示した模式図である。
【0110】
第1実施形態の駆動力調整機構22aは、リターン機構137aが第1カム132a及び第2カム133aを挟持する構成で且つ摩擦発生機構136aがドラム部44aに配置される構成とした。これに代えて、第2実施形態の駆動力調整機構22aは、リターン機構と摩擦発生機構とを共通部品化してドラム部44aに配置し、第3実施形態の駆動力調整機構22aは、ピストン本体部163aに摩擦発生機構を配置すると共に入力シャフト41aにリターン機構を配置し、第4実施形態の駆動力調整機構22aは、リターン機構と摩擦発生機構とを共通部品化し、入力シャフト41aに配置するように構成した。なお、第1実施形態と同一部分には、同一の符号を付してその説明は省略する。
【0111】
図7(a)に示すように、第2実施形態の駆動力調整機構22aは、ドラム部44aの外周部にリターン・摩擦発生機構201aが配置されている。リターン・摩擦発生機構201aは、コイル状の弾性部材であるコイルバネ202aと、第2カム133aを押圧する付勢板203aとで構成されている。
【0112】
また、カム機構部131aは、入力シャフト41aに連結される第1カム132aがピストン本体部163a側に位置し、リターン・摩擦発生機構201aにより付勢される第2カム133aがクラッチ機構部101a側に位置するように構成されている。
【0113】
この第2実施形態の駆動力調整機構22aでは、ピストン本体部163aが前進動作して第1カム132aを押圧すると、リターン・摩擦発生機構201aの付勢板203aと第2カム133aとが当接して摩擦力が増加するように構成されている。よって、第1実施形態と同様に、第1カム132aと第2カム133aとの回転の差動を生じ易くできるので、カム機構部131a(図2参照)の伸長動作の応答性が向上し、クラッチ機構部101a(図2参照)による後輪ドライブシャフト36a(図1参照)への駆動力の伝達の応答性を向上できる。
【0114】
また、ピストン本体部163aが後退動作した場合には、リターン・摩擦発生機構201aにより第2カム133aをピストン本体部163aに押圧できるので、第2カム133aとドリブンプレート103aとの間の引き摺りや、各プレート102a,103a間の引き摺りの発生も抑制できる。
【0115】
また、リターン・摩擦発生機構201aは、第2カム133aをドリブンプレート103aから引き離すリターン機能と、ピストン本体部163aにより押圧される場合の初期の摩擦力を増加させる摩擦発生機能とを1の部品で有することができるので、その分の装置コストの低減を図ることができる。
【0116】
また、リターン・摩擦発生機構201aは、ドラム部44aに配置されているので、入力シャフト41aが一回転(第2カム133a一回転)した場合には、駆動力調整部23aの回転軸心P(図2参照)近傍よりドラム部44a近傍の方が、第2カム133aと付勢板203aとの当接する面積が多くなり、摩擦力を付与し易くなる。よって、リターン・摩擦発生機構201aをドラム部44aに配置することで、リターン・摩擦発生機構201aによる摩擦力を確実に付与することができる。
【0117】
図7(b)に示すように、第3実施形態の駆動力調整機構22aは、ピストン本体部163aのカム機構部131a側に摩擦発生機構211aが配置されている。摩擦発生機構211aは、コイル状の弾性部材であるコイルバネ212aと、第2カム133aを押圧する付勢板213aとで構成されている。
【0118】
また、入力シャフト41aに、リターン機構214aが配置されており、更に、第2カム133aを基準位置に戻すためのカム回転戻りスプリング217aが、第1カム132a及び第2カム133aに一体的に取り付けられている。リターン機構214aは、コイル状の弾性部材であるコイルバネ215aと、第1カム132aを押圧する付勢板216aとで構成されている。
【0119】
また、カム機構部131aは、第1実施形態と同様に、入力シャフト41aに連結される第1カム132aがクラッチ機構部101a側に位置し、第2カム133aがピストン本体部163a側に位置するように構成されている。
【0120】
なお、第3実施形態のカム機構部131aは、ボール134aを有しておらず、第1カム132aと第2カム133aとが面接して構成されている。この第1カム132aと第カム133aは、同一形状に形成される傾斜面(図示せず)をそれぞれ有しており、ピストン本体部163aにより第2カム133aが押圧されると、傾斜面の傾斜角度に倣って第2カム133aが第1カム132aに対してスライド動作して、カム機構部131aが伸長動作するように構成されている。
【0121】
この第3実施形態の駆動力調整機構22aでは、ピストン本体部163aが前進動作すると、ピストン本体部163aより先に、摩擦発生機構211aの付勢板213aが第2カム133aに当接して押圧するので、第2カム133aに対する摩擦力を増加させることができる。よって、第1実施形態と同様に、第1カム132aと第2カム133aとの回転の差動を生じ易くできるので、カム機構部131a(図2参照)の伸長動作の応答性が向上し、クラッチ機構部101a(図2参照)による後輪ドライブシャフト36a(図1参照)への駆動力の伝達の応答性を向上できる。
【0122】
また、摩擦発生機構211aを、カバー20(図2参照)に固定されるピストン本体部163aに設けているので、カム機構部131a及びクラッチ機構部101aが配設される複雑な空間内に摩擦発生機構211aを設ける必要がないので、摩擦発生機構211aの配置の自由度を増すことができる。
【0123】
また、カム機構部131aは、ボール134aを有しておらず、第1カム132aの傾斜面214aと、第2カム133aの傾斜面214aとによりスライド動作可能に構成されているので、回転軸心P方向のカム機構部131aの幅を短くすることができ、駆動力調整機構22aの外形を小規模化できる。
【0124】
また、摩擦発生機構211aは、第2カム133aの最も外周部に当接する位置に配置されているので、入力シャフト41aが一回転(第2カム133a一回転)した場合には、第2カム133aと付勢板213aとの当接する面積が多くなり、摩擦力を付与し易くなる。よって、リターン・摩擦発生機構211aをピストン本体部163aに配置することで、摩擦発生機構211aによる摩擦力を確実に付与することができる。
【0125】
図7(c)に示すように、第4実施形態の駆動力調整機構22aは、入力シャフト41aにリターン・摩擦発生機構221aが配置されている。リターン・摩擦発生機構221aは、コイル状の弾性部材であるコイルバネ222aと、第2カム133aを押圧する付勢板223aとで構成されている。また、第2カム133aを基準位置に戻すためのカム回転戻りスプリング227aも有している。
【0126】
また、カム機構部131aは、ドラム部44aに連結される第1カム132aがピストン本体部163a側に位置し、リターン・摩擦発生機構221aにより付勢される第2カム133aがクラッチ機構部101a側に位置するように構成されている。
【0127】
なお、第4実施形態のカム機構部131aは、第3実施形態と同様に、第1カム132aと第2カム133aとが面接し、同一形状に形成される傾斜面(図示せず)をそれぞれ有している。
【0128】
この第4実施形態の駆動力調整機構22aでは、ピストン本体部163aが前進動作して第1カム132aを押圧すると、リターン・摩擦発生機構221aの付勢板223aと第2カム133aとが当接して摩擦力が増加するように構成されている。よって、第1実施形態と同様に、第1カム132aと第2カム133aとの回転の差動を生じ易くできるので、カム機構部131a(図2参照)の伸長動作の応答性が向上し、クラッチ機構部101a(図2参照)による後輪ドライブシャフト36a(図1参照)への駆動力の伝達の応答性を向上できる。
【0129】
また、ピストン本体部163aが後退動作した場合には、リターン・摩擦発生機構221aにより第2カム133aをピストン本体部163aに押圧できるので、第2カム133aとドリブンプレート103aとの間の引き摺りや、各プレート102a,103a間の引き摺りの発生も抑制できる。
【0130】
また、リターン・摩擦発生機構221aは、第2カム133aをドリブンプレート103aから引き離すリターン機能と、ピストン本体部163aにより押圧される場合の初期の摩擦力を増加させる摩擦発生機能とを1の部品で有することができるので、その分の装置コストの低減を図ることができる。
【0131】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0132】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法・角度など)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0133】
また、上記第1及び第2実施形態では、カム機構部131aがボール134aを介して第1カム132aと第2カム133aとが対向配置されるように構成し、上記第3及び第4実施形態が第1カム132aと第2カム133aとがボールを有さずに面接するように構成したが、第1及び第2実施形態のカム機構部131aを第1カム132aと第2カム133aとがボールを有さずに面接するように構成し、第3及び第4実施形態のカム機構部131aをボール134aを介して第1カム132aと第2カム133aとが対向配置されるように構成しても良い。
【0134】
また、上記第1実施形態では、ピストン機構部161aとカム機構部131aとの間に保持プレート135aを配置して、第2カム133aと保持プレート135aとの間の保持力を増加させるように構成したが、ピストン機構部161aによりクラッチ機構部101aを押圧している状態で、カム機構部131aが縮退動作しない保持力を有する場合には、保持プレート135aを設けない構成としても良い。この構成であっても、カム機構部131aは縮退動作をしないので、ピストン本体部163aとカム機構部131aとが一体的になってクラッチ機構部101aを押圧することができる。また、上記第2〜第4実施形態において、保持プレート135aを設ける構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】駆動力調整機構が搭載された四輪駆動車を示した概略図である。
【図2】駆動力調整部の断面の一部を示した図である。
【図3】カム機構部の概略を示した図であり、(a)は、カム機構部の側面図であり、(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるカム機構部の断面図である。
【図4】駆動力調整部の主要部分を模式的に示した模式図である。
【図5】駆動力調整部が動作した場合の状態遷移を模式的に示した模式図である。
【図6】駆動力調整部が動作した場合の状態遷移を模式的に示した模式図である。
【図7】第2〜第4実施形態の駆動力調整機構の主要部分を模式的に示した模式図である。
【符号の説明】
【0136】
10 原動機
36a,36b 後輪ドライブシャフト(出力軸)
41a,41b 入力シャフト(入力軸)
101a,101b クラッチ機構部(多板クラッチ機構)
131a,131b カム機構部(カム機構)
132a,132b 第1カム
133a,133b 第2カム
134a,134b ボール(カムフォロア)
135a,135b 保持プレート(入力保持プレート)
136a,136b 摩擦発生機構(初期動作補助機構)
137a,137b リターン機構(付勢手段)
144a,144b 第2カム溝(カム溝)
145a,145b 第1カム溝(カム溝)
161a,161b ピストン機構部(ピストン)
201a リターン・摩擦発生機構(初期動作補助機構、付勢手段)
211a 摩擦発生機構(初期動作補助機構)
214a リターン機構(付勢手段)
221a リターン・摩擦発生機構(初期動作補助機構、付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生する原動機と、その原動機により発生された駆動力が入力される入力軸と、その入力軸の軸心方向と同方向に軸心が配置され前記入力軸に入力された駆動力が出力される出力軸と、前記入力軸側と前記出力軸側との連結を断続的に変化させる多板クラッチ機構とを備えた駆動力伝達装置において、
前記入力軸および出力軸の回転方向への動作が規制されると共に、前記多板クラッチ機構の連結状態を変化させる押圧力を進退動作により発生させるピストンと、
そのピストンと前記多板クラッチ機構との間に介在し、そのピストン側と多板クラッチ側との回転の差動により前記ピストンの進退動作と同方向に伸縮動作すると共に伸長動作をした場合に前記多板クラッチ機構を押圧するカム機構と、
そのカム機構を付勢し、前記ピストンが前進動作をして前記カム機構を押圧する場合に発生する初期の摩擦力を増加させる初期動作補助機構とを備えていることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記カム機構を縮退動作させる方向に付勢する付勢手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記ピストンは、前記カム機構を押圧する初期動作時に、前記付勢手段が有する付勢力より大きな初期圧力を前記カム機構に付与すると共に、
前記初期動作補助機構は、前記ピストンが前記カム機構に付与する前記初期圧力より大きな付勢力を有するものであることを特徴とする請求項2記載の駆動力伝達機構。
【請求項4】
前記ピストンとカム機構との間に介在し、前記ピストンが前進動作して前記カム機構を押圧する場合に前記カム機構のピストン側の端面に当接すると共に、その端面のほぼ全面に対応する大きさに形成される入力保持プレートを備え、
前記ピストンが前進動作して前記カム機構を押圧すると共に前記カム機構が伸長動作して前記多板クラッチ機構を押圧した状態で、前記ピストンによる押圧力と、前記多板クラッチ機構とカム機構との連接部における保持力と、前記カム機構と入力保持プレートとの当接部における保持力と、前記初期動作補助機構が発生させる付勢力と、前記付勢手段が発生させる付勢力との合成力が、前記カム機構を縮退動作させる方向力であって前記カム機構を縮退動作させる付勢力と、前記ピストンが前記カム機構を押すことにより発生するカム部分力により前記カム機構を縮退動作させる方向の力との合成力に対して、前記カム機構を伸長動作させる方向に働くように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記初期動作補助機構は、前記カム機構より多板クラッチ機構側に配置され、前記カム機構を前記ピストン側に付勢するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記出力軸に一体的に連結され、前記入力軸の外周を覆うドラム部を備え、
前記初期動作補助機構および付勢手段は、共通部品化されており、前記ドラム部で且つ前記カム機構より多板クラッチ機構側となる位置に設けられ、前記第2カムを前記ピストン側に押圧するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記初期動作補助機構は、前記ピストンの前記カム機構に対向する面に設けられ、前記ピストンにより前記カム機構が押圧される場合に、そのピストンにより先に前記カム機構を押圧するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達装置。
【請求項8】
前記カム機構は、
前記多板クラッチ機構側に配置されると共に、前記入力軸に連結される第1カムと、
その第1カムと対向配置され、前記ピストン側に配置される第2カムと、
その第2カムと第1カムとの間に移動可能に配置されるカムフォロアと、
そのカムフォロアの移動経路であって、前記第1カムと第2カムとの対向面との少なくとも一方に、周方向に深さが連続して変化するカム溝とを備え、
前記カム溝は、前記カム機構への前記初期動作補助機構による摩擦力の付与が無くなった場合に、前記カムフォロアが現在位置に止まる静止力より前記カムフォロアが前記縮退動作を開始する始動力の方が大きくなる傾斜面を有して形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の駆動力伝達装置。
【請求項9】
前記初期動作補助機構による付勢力と、前記付勢手段による付勢力とは相対する方向に発生するものであり、
前記付勢手段は、前記入力軸および出力軸の軸心に対する径方向において、前記軸心側に前記第1カムと第2カムとを挟むように配置され、
前記初期動作補助機構は、前記径方向において、前記付勢手段から離反する位置に配置されていることを特徴とする請求項8記載の駆動力伝達装置。
【請求項10】
前記カム機構は、
前記ピストン側に配置され、所定角度の第1傾斜面を有する第1カムと、
その第1カムと対向配置されると共に前記第1傾斜面に面接する第2件斜面を有する第2カムとを備え、
前記ピストンにより押圧された場合に、第1及び第2傾斜面の傾斜角度に応じて前記第1カムと第2カムとがスライド動作することで伸長動作するものであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の駆動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−96197(P2010−96197A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265102(P2008−265102)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】