説明

駆動装置

【課題】電動機を含む駆動系の共振の発生を抑制しつつ二次電池を適正使用する。
【解決手段】バッテリ電圧Vbがバッテリの適正な使用範囲における電圧上限値としての補償電圧Vrefを超えているときには、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vref以下になるようフィードバック制御における補正量として目標補正量Taj*を計算し(S170)、計算した目標補正量Taj*を基本的には補正量Tajとしてモータトルク指令Tm*を設定する際に用い、目標補正量Taj*が減少したときには、モータを含む駆動系の共振周波数の周期とは異なる時間として予め定められた所定時間に亘って、目標補正量Taj*が減少する前の値を補正量Tajとして保持してモータトルク指令Tm*を設定する際に用いる(S220,S230)。これにより、モータを含む駆動系が共振するのを抑制することができると共にバッテリを適正使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関し、詳しくは、充放電可能な電動機と、電動機と電力のやりとりを行なう二次電池と、電動機からの回生電力により二次電池を充電する際に二次電池の管理に用いる電池用パラメータが二次電池を適正使用するために設けられた上限値を超えるときには電池用パラメータと上限値との差に基づく目標補正量を用いて電動機の駆動に用いる制御量を補正する制御手段と、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、二次電池の蓄電量(SOC)と二次電池の温度に対して決定された二次電池の充電の際に上限値としての充電上限パワーをモータ回転数で除して得られる回生トルク上限値とモータ定格と比較することによって回生トルク目標値を求め、二次電池の電圧が許容電圧を超えたときには、二次電池の電圧と許容電圧との差に基づくフィードバック制御により回生トルク目標値を補正するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、回生トルク目標値をフィードバック制御により補正することにより、二次電池の電圧が許容電圧を超えるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−125502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の駆動装置では、フィードバック制御によりモータの回生トルク目標値を補正することから、回生トルク目標値が変動し、モータを含む駆動系に共振が生じる場合がある。フィードバック制御によって補正される回生トルク目標値の変動周期がモータを含む駆動系の固有の共振周波数に一致すると、モータからの出力トルクの変動により駆動系が共振してしまう。駆動装置を搭載する車両では、駆動系の共振は乗員に違和感を与えてしまう。
【0005】
本発明の駆動装置は、電動機を含む駆動系の共振の発生を抑制しつつ二次電池を適正使用することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
充放電可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりを行なう二次電池と、前記電動機からの回生電力により前記二次電池を充電する際に該二次電池の管理に用いる電池用パラメータが前記二次電池を適正使用するために設けられた上限値を超えるときには前記電池用パラメータと前記上限値との差に基づく目標補正量を用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記目標補正量の絶対値が小さく変化するときには、所定時間に亘って変化する前の補正量を用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の駆動装置では、二次電池の管理に用いる電池用パラメータと二次電池を適正使用するために設けられた上限値との差に基づく目標補正量の絶対値が小さく変化するときには、所定時間に亘って変化する前の補正量を用いて電動機の駆動に用いる制御量を補正する。これにより、電動機の駆動に用いる制御量の変動周期が電動機を含む駆動系の共振周波数に一致するのを抑制することができ、駆動系の共振を抑制することができる。もとより、電池用パラメータと上限値との差に基づく目標補正量を用いて電動機の駆動に用いる制御量を補正するから、二次電池を適正使用することができる。ここで、所定時間としては、電動機を含む駆動系の共振周波数における周期とは異なる時間として予め定められてなるものとすることができ、例えば、100msecや200msec,300msecなどを用いることができる。
【0009】
こうした本発明の駆動装置において、前記制御手段は、前記目標補正量の絶対値が小さく変化して前記所定時間経過した以降は、前記所定時間に亘って用いた補正量を前記目標補正量に向けて単調に変化させた単調変化値が前記目標補正量に一致するまで該単調変化値を補正量として用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、補正量が急変するのを抑制することができる。ここで単調に変化させる程度としては、電動機を十分に駆動することができる程度が好ましい。
【0010】
また、本発明の駆動装置において、前記電池用パラメータは、前記二次電池の許容最大電圧,前記二次電池の許容最大入力電流,前記二次電池の許容最大入力電力のうちのいずれかであるものとすることもできる。また、前記制御量は前記電動機のトルク指令であるものとすることもできる。さらに、前記制御量は、前記電動機の駆動に用いる制御用の前記二次電池の入力電力制限であるものとすることもできる。制御用の二次電池の入力電力制限を超えないように電動機を駆動制御することにより、電池用パラメータが上限値を超えないように抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施例の電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】第1実施例の電子制御ユニット50により実行される回生駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えたときの目標補正量Taj*と補正量Tajの時間的変化の一例を示す説明図である。
【図5】第2実施例の電子制御ユニット50により実行される回生駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1実施例の駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。第1実施例の電気自動車20は、図示するように、例えば同期発電電動機として構成されて駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)44とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)42とに接続されて高電圧系電力ライン44の電圧VHを電池電圧系電力ライン22の電圧VL以上かつ最大許容電圧VHmax以下の範囲内で調節すると共に高電圧系電力ライン44と電池電圧系電力ライン42との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、駆動輪26a,26bや図示しない従動輪のブレーキを制御するためのブレーキアクチュエータ72と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。また、電池電圧系電力ライン42には、バッテリ36を遮断するためのシステムメインリレー(SMR)41が取り付けられていると共にシステムメインリレー52と昇圧コンバータ40との間には平滑用のコンデンサ46が取り付けられており、高電圧系電力ライン44にも平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
【0014】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されており、回転に伴って逆起電圧を発生する。インバータ34は、図示しないが、6つのスイッチング素子としてのトランジスタと、6つのトランジスタの各々に逆方向に並列接続された6つのダイオードと、により周知のインバータとして構成されている。昇圧コンバータ40は、図示しないが、2つのトランジスタとこの2つのトランジスタに逆方向に並列接続された2つのダイオードとリアクトルとからなる周知の昇圧コンバータとして構成されている。
【0015】
ブレーキアクチュエータ72は、ブレーキペダル65の踏み込みに応じて生じるブレーキマスターシリンダ70の圧力(ブレーキ圧)と車速Vとにより車両に作用させる制動力におけるブレーキの分担分に応じた制動力が駆動輪26a,26bや図示しない従動輪に作用するよう各車輪に取り付けられた図示しないブレーキホイールシリンダの油圧を調整したり、ブレーキペダル85の踏み込みに無関係に、駆動輪26a,26bや従動輪に制動力が作用するようブレーキホイールシリンダの油圧を調整したりすることができるように構成されている。以下、ブレーキアクチュエータ72の作動により駆動輪26a,26bや従動輪に作用させる制動力を油圧ブレーキと称することがある。このブレーキアクチュエータ72は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)74により制御されている。ブレーキECU74は、電子制御ユニット50と通信しており、電子制御ユニット50からの制御信号によってブレーキアクチュエータ72を駆動制御したり、必要に応じてブレーキアクチュエータ72の状態に関するデータを電子制御ユニット50に出力する。
【0016】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置や、モータ32とインバータ34との接続ライン(電力ライン)に取り付けられた図示しない電流センサからの相電流,バッテリ36の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ36に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(電池電圧系電力ライン42の電圧)VL,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(高電圧系電力ライン44の電圧)VH,低圧側電力ライン42に取り付けられた電流センサ46bからの電流Ib,スタートスイッチ60からのスタート信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタへのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタへのスイッチング制御信号,システムメインリレー41への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置に基づいてモータ32の回転数Nmを演算したり、電圧センサ46aからの電圧VLや電流センサ46bからの電流Ibに基づいてバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合としての蓄電割合SOCを演算したり、蓄電割合SOCやバッテリ36の温度に基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大電力としての入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0017】
こうして構成された第1実施例の電気自動車20は、図示しない駆動制御ルーチンにより駆動制御されている。駆動制御では、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*をモータ32から出力すべきトルク指令Tm*として設定し、設定したトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる動作点でモータ32を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン44の目標電圧VH*として設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタをスイッチング制御すると共に高電圧系電力ライン44の電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタをスイッチング制御する。走行中にアクセオフして減速するときには、ブレーキペダル65の踏み込み量と車速Vとに応じて制動力としての要求トルクTr*(負の値のトルク)を設定し、設定した要求トルクTr*のうちモータ32の定格値の範囲内で出力可能なトルクをトルク指令Tm*として設定し、設定したトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる動作点でモータ32を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン44の目標電圧VH*として設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタをスイッチング制御すると共に高電圧系電力ライン44の電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタをスイッチング制御する。制動力としての要求トルクTr*のうちモータ32からの制動トルク出力では不足する制動トルクは、これに相当する制動力が図示しない油圧ブレーキ装置から出力されるよう油圧ブレーキ装置を制御する。そして、車速が小さくなると車両にショックなどを生じさせずに車両をスムーズに停止するために、モータ32による制動力を油圧ブレーキ装置による制動力に置き換える処理が行なわれる。
【0018】
次に、第1実施例の電気自動車20の制動時におけるモータ32の駆動制御について説明する。図2は、制動時に電子制御ユニット50により実行される回生駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、アクセルオフ時に所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0019】
回生駆動制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、ブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBPや車速センサ68からの車速V,モータ32の回転数Nm,バッテリ電圧Vb,バッテリ36の入力制限Winなどのモータ32の駆動制御に用いるデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータ32の回転数Nmは、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置に基づいて演算されてRAM56の所定領域に記憶された回転数Nmを読み込むことにより入力するものとした。バッテリ電圧Vbは、電圧センサ46により検出された電圧VLを用いるものとした。バッテリ36の入力制限Winは、蓄電割合SOCやバッテリ36の温度に基づいて演算されてRAM56の所定領域に記憶された入力制限Winを読み込むことにより入力するものとした。
【0020】
こうしてデータを入力すると、入力したブレーキペダルポジションBPと車速Vとに基づいて駆動軸22に出力すべき制動トルクとしての要求トルクTd*を設定すると共に(ステップS110)、入力した入力制限Winをモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定し(ステップS120)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32から出力すべき仮のトルク(仮トルク)Tmtmpとして設定する(ステップS130)。ここで、要求トルクTd*は、第1実施例では、ブレーキペダルポジションBPと車速Vと要求トルクTd*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM54に記憶しておき、ブレーキペダルポジションBPと車速Vとが与えられるとマップから対応する要求トルクTd*を導出することにより設定するものとした。要求トルク設定用マップの一例を図3に示す。図示するように、第1実施例では、要求トルクTd*は制動トルクのときには負の値として設定される。また、回生側の定格トルクTmsetもトルク下限Tminも負の値であるから、要求トルクTd*と定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものを仮トルクTmtmpとして設定する処理は、要求トルクTd*と定格トルクTmsetとトルク下限Tminのそれぞれの絶対値が最も小さいものを仮トルクTmtmpとして設定するとなる。この処理は、要求トルクTd*を入力制限Winと定格トルクTmsetにより制限する処理ということもできる。
【0021】
続いて、バッテリ電圧Vbをバッテリ36の適正な使用範囲における電圧上限値として予め定められている補償電圧Vrefと比較し(ステップS140)、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vref以下のときには、バッテリ36は適正使用範囲で使用されていると判断し、仮トルクTmtmpをモータ32のトルク指令Tm*として設定すると共に(ステップS150)、補正量減少フラグFに値0をセットし(ステップS160)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。このようにモータ32を制御することにより、バッテリ36を適正使用しつつ、駆動軸22に要求される要求トルクTd*をバッテリ36の入力制限Winとモータ32の定格トルクTmsetで制限した回生トルクをモータ32から出力することができる。モータ32から出力するトルクと要求トルクTd*との差分については、油圧ブレーキにより補われる。なお、補正量減少フラグFについては後述する。
【0022】
ステップS140でバッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えていると判定されたときには、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefになるようにバッテリ電圧Vbと補償電圧Vrefとの差に基づいて次式(1)によりモータ32から出力するトルクを制限するよう補正するための目標補正量Taj*を計算する(ステップS180)。式(1)は、フィードバック制御における補正量を計算する式であり、右辺第1項のKpは比例項のゲインであり、右辺第2項のKiは積分項のゲインである。第1実施例では、目標補正量Taj*は正の値となるよう計算するものとした。即ち、バッテリ電圧Vbと補償電圧Vrefとの差が大きいほど大きな正の値となるよう計算するのである。
【0023】
Taj*=Kp(Vb-Vref)+Ki∫(Vb-Vref)dt (1)
【0024】
続いて、補正量減少フラグFの値を調べ(ステップS180)、補正量減少フラグFが値0のときには、前回このルーチンが実行されたときに設定された目標補正量Taj*(以下、前回目標補正量Taj*という)から目標補正量Taj*が減少しているか否かを判定する(ステップS190)。目標補正量Taj*は、モータ32から出力するトルクを制限するために補正するものであるから、大きくなるとより大きな制限を課すことになり、小さくなるとより小さな制限を課すことになる。したがって、目標補正量Taj*の減少の判定は、制限を解除する方向か否かの判定となる。目標補正量Taj*が減少していないとき、即ち、制限を解除する方向ではないときには、目標補正量Taj*を補正量Tajとして設定し(ステップS200)、仮トルクTmtmpに補正量Tajを加えた値としてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS280)、設定したトルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。ここで、仮トルクTmtmpは、回生トルクであるため負の値であり、補正量Tajは正の値であるから、仮トルクTmtmpに補正量Tajを加えて得られるトルク指令Tm*は、絶対値としては仮トルクTmtmpより小さなものとなる。このように、モータ32の回生トルクを小さく補正することにより、バッテリ36の充電電力は小さくなり、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vref以下になるようにすることができる。
【0025】
ステップS190で目標補正量Taj*が減少しているとき、即ち、制限を解除する方向であるときには、補正量減少フラグFに値1をセットすると共に(ステップS210)、前回このルーチンが実行されたときに設定された補正量Taj(以下、前回補正量Tajという。)を新たな補正量Tajに設定し(ステップS220)、仮トルクTmtmpに設定した補正量Tajを加えた値としてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS280)、設定したトルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。即ち、目標補正量Taj*が減少しているときには、制限の解除を遅らせるために、目標補正量Taj*が減少する前の値を保持するのである。このように、目標補正量Taj*が減少したときに補正量減少フラグFに値1がセットされるから、次回このルーチンが実行されたときには、ステップS180では、補正量減少フラグFは値1であると判定される。
【0026】
ステップS180で補正量減少フラグFは値1であると判定されると、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過したか否かを判定し(ステップS230)、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過していないときには前回補正量Tajを新たな補正量Tajに設定すると共に(ステップS220)、仮トルクTmtmpに設定した補正量Tajを加えた値としてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS280)、設定したトルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。即ち、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過するまで、目標補正量Taj*が減少する前の値を補正量Tajとして保持するのである。ここで、所定時間としては、モータ32を含む駆動系の共振周波数の周期とは異なる時間として設定されており、実験などにより、例えば100msecや200msec,300msecなどを用いることができる。
【0027】
ステップS180で補正量減少フラグFが値1であると判定され、且つ、ステップS230で補正量減少フラグFに値1がセットされてから所定時間経過したと判定されたときには、前回補正量Tajからレート値Trtを減じた値を新たな補正量Tajとして計算し(ステップS240)、計算した補正量Tajが目標補正量Taj*以下であるか否かを判定し(ステップS250)、補正量Tajが目標補正量Taj*より大きいときには、仮トルクTmtmpに設定した補正量Tajを加えた値としてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS280)、設定したトルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。この処理を繰り返し実行することにより、補正量Tajは、レート値Trtずつ目標補正量Taj*の方向に小さくなる。即ち、補正量Tajは、目標補正量Tajに一致するかそれより小さくなるまで目標補正量Taj*に向けて単調に変化するものとなる。ここで、レート値Trtは、補正量Tajを単調に変化させると共にモータ32を十分に制御することができる程度の値として設定されるものである。
【0028】
一方、ステップS250で計算した補正量Tajが目標補正量Taj*以下であると判定されたときには、補正量減少フラグFに値0をセットすると共に(ステップS260)、目標補正量Taj*を補正量Tajに設定し(ステップS270)、仮トルクTmtmpに設定した補正量Tajを加えた値としてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS280)、設定したトルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。このように、補正量減少フラグFに値0がセットされるから、次回本ルーチンが実行されたときには、ステップS180では補正量減少フラグFは値0と判定されることになる。補正量減少フラグFは、以上の説明から明らかなように、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vref以下のときには値0がセットされ、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えており、且つ、バッテリ電圧Vbを補償電圧Vref以下にするためのフィードバック制御における補正量として計算される目標補正量Taj*が減少したときに値1がセットされ、値1がセットされてから所定時間経過し、且つ、補正量Tajをレート値Trtを用いて単調に目標補正量Taj*に向けて変化させたときに補正量Tajが目標補正量Taj以下に至ったときに値0がセットされるものとなる。
【0029】
図4は、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えたときの目標補正量Taj*と補正量Tajの時間的変化の一例を示す説明図である。図中、一点鎖線が目標補正量Taj*を示し、実線が補正量Tajを示す。補正量Tajは、図示するように、目標補正量Taj*が減少する時間T1までは目標補正量Taj*と同様に増加するが、時間T1から時間T2までの所定時間(例えば100msecや200msec,300msec)は、目標補正量Taj*が減少する前の値を保持する。そして、時間T2から補正量Tajが目標補正量Taj*に一致する時間T3までは、時間の経過に対してレート値Trtずつ単調に減少し、時間T3以降は目標補正量Taj*が減少するまで目標補正量Taj*と同様に増加する。
【0030】
以上説明した第1実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置によれば、バッテリ電圧Vbがバッテリ36の適正な使用範囲における電圧上限値として予め定められている補償電圧Vrefを超えているときには、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vref以下になるようフィードバック制御における補正量として目標補正量Taj*を計算し、計算した目標補正量Taj*を基本的には補正量Tajとしてモータ32から出力すべきトルク指令Tm*を設定する際に用い、目標補正量Taj*が減少したときには、モータ32を含む駆動系の共振周波数の周期とは異なる時間として予め定められた所定時間に亘って、目標補正量Taj*が減少する前の値を補正量Tajとして保持してモータ32から出力すべきトルク指令Tm*を設定する際に用いるから、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えたときにモータ32から出力されるトルクの変動に伴ってモータ32を含む駆動系が共振するのを抑制することができる。しかも、補正量Tajを保持した後は、補正量Tajを、目標補正量Taj*に一致するまでレート値Trtずつ目標補正量Taj*に向けて単調に変化させるから、補正量Tajの急変に伴ってモータ32の出力トルクが急変することによる不都合、例えば、ショックによる乗り心地の悪化などの不都合を抑制することができる。もとより、バッテリ電圧Vbを補償電圧Vref以下にすることができる。
【0031】
第1実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、バッテリ電圧Vbがバッテリ36の適正な使用範囲における電圧上限値として予め定められている補償電圧Vrefを超えているか否かによって、バッテリ電圧Vbを補償電圧Vref以下となるようフィードバック制御における補正量としてモータ32のトルク指令Tm*を設定する際に用いる目標補正量Taj*を計算するものとしたが、バッテリ36に流れるバッテリ電流Ibがバッテリ36の適正な使用範囲における電流上限値として予め定められている補償電流Irefを超えているか否かによって、バッテリ電流Ibを補償電流Iref以下となるようフィードバック制御における補正量としてモータ32のトルク指令Tm*を設定する際に用いる目標補正量Taj*を計算するものとしてもよい。また、バッテリ36に入力されるバッテリ入力電力Wbがバッテリ36の適正な使用範囲における入力電力上限値として予め定められている補償電力Wrefを超えているか否かによって、バッテリ入力電力Wbを補償電力Wref以下となるようフィードバック制御における補正量としてモータ32のトルク指令Tm*を設定する際に用いる目標補正量Taj*を計算するものとしてもよい。
【0032】
第1実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、バッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えているときには、補正量Tajを求めてモータ32のトルク指令Tm*を補正するものとしたが、モータ32を電流指令によって駆動する場合には、電流指令用の補正量を求めて電流指令を補正するものとしてもよい。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の第2実施例の駆動装置について説明する。第2実施例の駆動装置は、図1を用いて説明した第2実施例の電気自動車20に搭載された駆動装置と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するため、第2実施例の駆動装置のハード構成についての説明は、第1実施例の駆動装置のハード構成についての説明をもって省略する。以下、図1の電気自動車20は第2実施例の駆動装置を搭載する電気自動車20として用いる。
【0034】
また、第2実施例の電気自動車20でも、第1実施例の電気自動車20と同様に、駆動制御では、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*をモータ32から出力すべきトルク指令Tm*として設定し、設定したトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる動作点でモータ32を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン44の目標電圧VH*として設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタをスイッチング制御すると共に高電圧系電力ライン44の電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタをスイッチング制御する。走行中にアクセオフして減速するときには、ブレーキペダル65の踏み込み量と車速Vとに応じて制動力としての要求トルクTr*(負の値のトルク)を設定し、設定した要求トルクTr*のうちモータ32の定格値の範囲内で出力可能なトルクをトルク指令Tm*として設定し、設定したトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる動作点でモータ32を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン44の目標電圧VH*として設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタをスイッチング制御すると共に高電圧系電力ライン44の電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタをスイッチング制御する。制動力としての要求トルクTr*のうちモータ32からの制動トルク出力では不足する制動トルクは、これに相当する制動力が図示しない油圧ブレーキ装置から出力されるよう油圧ブレーキ装置を制御する。そして、車速が小さくなると車両にショックなどを生じさせずに車両をスムーズに停止するために、モータ32による制動力を油圧ブレーキ装置による制動力に置き換える処理が行なわれる。
【0035】
次に、第2実施例の電気自動車20の制動時におけるモータ32の駆動制御について説明する。図5は、制動時に電子制御ユニット50により実行される回生駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、アクセルオフ時に所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0036】
回生駆動制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、ブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBPや車速センサ68からの車速V,モータ32の回転数Nm,バッテリ入力電力Wb,バッテリ36の入力制限Winなどのモータ32の駆動制御に用いるデータを入力する処理を実行する(ステップS300)。ここで、バッテリ入力電力Wbは、電圧センサ46aにより検出された電圧VLと電流センサ46bにより検出された電流Ibとの積を用いるものとした。
【0037】
こうしてデータを入力すると、入力したブレーキペダルポジションBPと車速Vとに基づいて駆動軸22に出力すべき制動トルクとしての要求トルクTd*を図3の要求トルク設定用マップを用いて設定すると共に(ステップS310)、入力したバッテリ入力電力Wbがバッテリ36の適正な使用範囲における入力電力上限値として予め定められている補償電力Wrefを超えているか否かを判定する(ステップS320)。バッテリ入力電力Wbが補償電力Wref以下のときには、バッテリ36は適正使用範囲で使用されていると判断し、バッテリ36の入力制限Winを制御用入力制限Win*として設定すると共に(ステップS330)、補正量減少フラグFに値0をセットし(ステップS340)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定し(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。第2実施例でも、要求トルクTd*は制動トルクのときには負の値として設定される。また、回生側の定格トルクTmsetもトルク下限Tminも負の値であるから、要求トルクTd*と定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをトルク指令Tm*として設定する処理は、要求トルクTd*と定格トルクTmsetとトルク下限Tminのそれぞれの絶対値が最も小さいものをトルク指令Tm*として設定するとなる。この処理は、要求トルクTd*を制御用入力制限Win*と定格トルクTmsetにより制限する処理ということもできる。このようにモータ32を制御することにより、バッテリ36を適正使用しつつ、駆動軸22に要求される要求トルクTd*をバッテリ36の入力制限Win(制御用入力制限Win*)とモータ32の定格トルクTmsetで制限した回生トルクをモータ32から出力することができる。なお、モータ32から出力するトルクと要求トルクTd*との差分については、油圧ブレーキにより補われる。
【0038】
ステップS320でバッテリ入力電力Wbが補償電力Wrefを超えていると判定されたときには、バッテリ入力電力Wbが補償電力Wrefになるようにバッテリ入力電力Wbと補償電力Wrefとの差に基づいて次式(2)により制御用入力制限Win*を制限する補正量Wajの設定に用いる目標補正量Waj*を計算する(ステップS350)。式(2)は、フィードバック制御における補正量を計算する式であり、右辺第1項のKp2は比例項のゲインであり、右辺第2項のKi2は積分項のゲインである。第2実施例では、目標補正量Waj*は正の値となるよう計算するものとした。即ち、バッテリ入力電力Wbと補償電力Wrefとの差が大きいほど大きな正の値となるよう計算するのである。
【0039】
Waj*=Kp2(Wb-Wref)+Ki2∫(Wb-Wref)dt (2)
【0040】
続いて、補正量減少フラグFの値を調べ(ステップS360)、補正量減少フラグFが値0のときには、前回このルーチンが実行されたときに設定された目標補正量Waj*(以下、前回目標補正量Waj*という)から目標補正量Waj*が減少しているか否かを判定する(ステップS370)。目標補正量Waj*は、制御用入力制限Win*を制限するためのものであるから、大きくなるとより大きな制限を課すことになり、小さくなるとより小さな制限を課すことになる。したがって、目標補正量Waj*の減少の判定は、制限を解除する方向か否かの判定となる。目標補正量Waj*が減少していないとき、即ち、制限を解除する方向ではないときには、目標補正量Waj*を補正量Wajとして設定し(ステップS380)、入力制限Winに補正量Wajを加えた値として制御用入力制限Win*を設定し(ステップS460)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定すると共に(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。ここで、制御用入力制限Win*は、トルク下限Tminの設定に用いられるから、補正量Wajが大きいほど制御用入力制限Win*の絶対値は小さくなり、トルク下限Tminの絶対値も小さくなる。そして、このトルク下限Tminにより要求トルクTd*が制限されてモータ32のトルク指令Tm*を設定するから、補正量Wajが大きくなるほどモータ32の回生トルクの絶対値は小さくなり、バッテリ36の充電電力も小さくなり、バッテリ入力電力Wbが補償電力Wref以下になるようにすることができる。
【0041】
ステップS370で目標補正量Waj*が減少しているとき、即ち、制限を解除する方向であるときには、補正量減少フラグFに値1をセットすると共に(ステップS390)、前回このルーチンが実行されたときに設定された補正量Waj(以下、前回補正量Wajという。)を新たな補正量Wajに設定し(ステップS400)、入力制限Winに補正量Wajを加えた値として制御用入力制限Win*を設定し(ステップS460)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定すると共に(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。即ち、目標補正量Waj*が減少しているときには、制限の解除を遅らせるために、目標補正量Waj*が減少する前の値を保持するのである。このように、目標補正量Waj*が減少したときに補正量減少フラグFに値1がセットされるから、次回このルーチンが実行されたときには、ステップS360では、補正量減少フラグFは値1であると判定される。
【0042】
ステップS360で補正量減少フラグFは値1であると判定されると、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過したか否かを判定し(ステップS410)、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過していないときには前回補正量Wajを新たな補正量Wajに設定すると共に(ステップS400)、以下、前回補正量Wajという。)を新たな補正量Wajに設定し(ステップS400)、入力制限Winに補正量Wajを加えた値として制御用入力制限Win*を設定し(ステップS460)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定すると共に(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。即ち、補正量減少フラグFに値1をセットしてから所定時間経過するまで、目標補正量Waj*が減少する前の値を補正量Wajとして保持するのである。ここで、所定時間としては、第1実施例と同様に、モータ32を含む駆動系の共振周波数の周期とは異なる時間として設定されており、実験などにより、例えば100msecや200msec,300msecなどを用いることができる。
【0043】
ステップS360で補正量減少フラグFが値1であると判定され、且つ、ステップS410で補正量減少フラグFに値1がセットされてから所定時間経過したと判定されると、前回補正量Wajからレート値Wrtを減じた値を新たな補正量Wajとして計算し(ステップS420)、計算した補正量Wajが目標補正量Waj*以下であるか否かを判定し(ステップS430)、補正量Wajが目標補正量Waj*より大きいときには、入力制限Winに補正量Wajを加えた値として制御用入力制限Win*を設定し(ステップS460)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定すると共に(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。この処理を繰り返し実行することにより、補正量Wajは、レート値Wrtずつ目標補正量Waj*の方向に小さくなる。即ち、補正量Wajは、目標補正量Wajに一致するかそれより小さくなるまで目標補正量Waj*に向けて単調に変化するものとなる。ここで、レート値Wrtは、補正量Wajを単調に変化させると共にモータ32を十分に制御することができる程度の値として設定されるものである。
【0044】
一方、ステップS430で計算した補正量Wajが目標補正量Taj*以下であると判定されたときには、補正量減少フラグFに値0をセットすると共に(ステップS440)、目標補正量Waj*を補正量Wajに設定し(ステップS450)、入力制限Winに補正量Wajを加えた値として制御用入力制限Win*を設定し(ステップS460)、設定した制御用入力制限Win*をモータ32の回転数Nmで除してトルク下限Tminを設定すると共に(ステップS470)、要求トルクTd*とモータ32の回生側の定格トルクTmsetとトルク下限Tminとのうち最も大きいものをモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS480)、トルク指令Tm*によりモータ32を駆動制御して(ステップS490)、本ルーチンを終了する。このように、補正量減少フラグFに値0がセットされるから、次回本ルーチンが実行されたときには、ステップS360では補正量減少フラグFは値0と判定されることになる。
【0045】
バッテリ入力電力Wbが補償電力Wrefを超えたときの補正量Wajの時間的変化は、図4のバッテリ電圧Vbが補償電圧Vrefを超えたときの補正量Tajの時間的変化と同様となる。
【0046】
以上説明した第2実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置によれば、バッテリ入力電力Wbがバッテリ36の適正な使用範囲における入力電力上限値として予め定められている補償電力Wrefを超えているときには、バッテリ入力電力Wbが補償電力Wref以下になるようフィードバック制御における補正量として目標補正量Waj*を計算し、計算した目標補正量Waj*を基本的には補正量Wajとしてバッテリ36の入力制限Winに対して制御用入力制限Win*を設定する際に用い、目標補正量Waj*が減少したときには、モータ32を含む駆動系の共振周波数の周期とは異なる時間として予め定められた所定時間に亘って、目標補正量Waj*が減少する前の値を補正量Wajとして保持して制御用入力制限Win*を設定する際に用いるから、バッテリ入力電力Wbが補償電力Wrefを超えたときに制御用入力制限Win*が変動することに伴ってトルク下限Tminおよびモータ32から出力するトルクが変動し、これに伴ってモータ32を含む駆動系が共振するのを抑制することができる。しかも、補正量Wajを保持した後は、補正量Wajを、目標補正量Waj*に一致するまでレート値Trtずつ目標補正量Waj*に向けて単調に変化させるから、補正量Wajの急変に伴ってモータ32の出力トルクが急変することによる不都合、例えば、ショックによる乗り心地の悪化などの不都合を抑制することができる。もとより、バッテリ入力電力Wbを補償電力Wref以下にすることができる。
【0047】
第2実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、バッテリ入力電力Wbがバッテリ36の適正な使用範囲における入力電力上限値として予め定められている補償電力Wrefを超えているか否かによって、バッテリ入力電力Wbを補償電力Wref以下となるようフィードバック制御における補正量として制御用入力制限Win*を設定する際に用いる目標補正量Waj*を計算するものとしたが、バッテリ36に流れるバッテリ電流Ibがバッテリ36の適正な使用範囲における電流上限値として予め定められている補償電流Irefを超えているか否かによって、バッテリ電流Ibを補償電流Iref以下となるようフィードバック制御における補正量として制御用入力制限Win*を設定する際に用いる目標補正量Waj*を計算するものとしてもよい。また、バッテリ電圧Vbがバッテリ36の適正な使用範囲における電圧上限値として予め定められている補償電圧Vrefを超えているか否かによって、バッテリ電圧Vbを補償電圧Vref以下となるようフィードバック制御における補正量として制御用入力制限Win*を設定する際に用いる目標補正量Waj*を計算するものとしてもよい。
【0048】
第1実施例や第2実施例の電気自動車20では、昇圧コンバータ40を備えるものとしたが、昇圧コンバータ40を備えないものとしてもかまわない。
【0049】
第1実施例や第2実施例では、本発明を電気自動車に搭載された駆動装置に適用するものとしたが、図6に例示するハイブリッド自動車120に示すように、エンジン122と、モータ124と、エンジン122のクランクシャフトとモータ124の回転軸と駆動軸22とに3つの回転要素が接続されたプラネタリギヤ126と、駆動軸22に取り付けられたモータ32とを備える自動車に搭載された駆動装置に適用するものとしてもよいし、図7に例示するハイブリッド自動車220に示すように、駆動軸22にモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ229を介してエンジン122を接続する構成の自動車に搭載された駆動装置に適用するものとしてもよい。また、自動車以外の車両に搭載される駆動装置に適用するものとしてもかまわないし、車両以外のシステムに組み込まれる駆動装置に適用するものとしてもよい。
【0050】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。第1実施例では、モータ32が「電動機」に相当し、バッテリ36が「二次電池」に相当し、バッテリ電圧Vbが「電池用パラメータ」に相当し、トルク指令Tm*が「制御量」に相当し、図2の回生駆動制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。第2実施例では、モータ32が「電動機」に相当し、バッテリ36が「二次電池」に相当し、バッテリ入力電圧Wbが「電池用パラメータ」に相当し、制御用入力制限Win*が「制御量」に相当し、図5の回生駆動制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0051】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0052】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26 バッテリ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、34 インバータ、36 バッテリ、40 昇圧コンバータ、41 システムメインリレー、42 電池電圧系電力ライン、44 高電圧系電力ライン、46 コンデンサ、46a 電圧センサ、46b 電流センサ、48 コンデンサ、48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 スタートスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、70 ブレーキマスターシリンダ、72 ブレーキアクチュエータ、74 ブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)、120,220 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 プラネタリギヤ、229 クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりを行なう二次電池と、前記電動機からの回生電力により前記二次電池を充電する際に該二次電池の管理に用いる電池用パラメータが前記二次電池を適正使用するために設けられた上限値を超えるときには前記電池用パラメータと前記上限値との差に基づく目標補正量を用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記目標補正量の絶対値が小さく変化するときには、所定時間に亘って変化する前の補正量を用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する手段である、
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置であって、
前記所定時間は、前記電動機を含む駆動系の共振周波数における周期とは異なる時間として予め設定されてなる、
駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の駆動装置であって、
前記制御手段は、前記目標補正量の絶対値が小さく変化して前記所定時間経過した以降は、前記所定時間に亘って用いた補正量を前記目標補正量に向けて単調に変化させた単調変化値が前記目標補正量に一致するまで該単調変化値を補正量として用いて前記電動機の駆動に用いる制御量を補正する手段である、
駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか一つの請求項に記載の駆動装置であって、
前記電池用パラメータは、前記二次電池の許容最大電圧,前記二次電池の許容最大入力電流,前記二次電池の許容最大入力電力のうちのいずれかである、
駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれか一つの請求項に記載の駆動装置であって、
前記制御量は、前記電動機のトルク指令である、
駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のうちのいずれか一つの請求項に記載の駆動装置であって、
前記制御量は、前記電動機の駆動に用いる制御用の前記二次電池の入力電力制限である、
駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115867(P2013−115867A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257652(P2011−257652)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】