説明

高い接着性を有するポリイミドフィルムの製造方法

【課題】前駆体溶液の高貯蔵安定性を有しかつ高価な表面処理なしで高接着性を発現する非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【解決手段】熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法であり、(A)有機極性溶媒中で末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する工程、(B)前記プレポリマーと酸二無水物成分とジアミン成分を、全工程において実質的に等モルとなるように用いてポリイミド前駆体溶液を合成する工程、(C)前記ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、イミド化する工程を含み、(A)工程で用いられるジアミン成分及び酸二無水物成分は、これらを等モル反応させて得られるポリイミドが熱可塑性ポリイミドとなるように選択すると共に、前記ポリイミド前駆体は非熱可塑性ポリイミドの前駆体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤との高い密着性、特にはポリイミド系接着剤との高い密着性を示す非熱可塑性ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びているが、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する)の需要が特に伸びている。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼りあわせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている(これら熱硬化性接着剤を用いたFPCを以下、三層FPCともいう)。
【0004】
熱硬化性接着剤は比較的低温での接着が可能であるという利点がある。しかし今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられる。これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたり、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したFPC(以下、二層FPCともいう)が提案されている。この二層FPCは、三層FPCより優れた特性を有し、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0005】
しかしながら一般にポリイミドフィルムは熱可塑性ポリイミドからなるポリイミド系接着剤との接着性が低く、高い接着性を得るためにはプラズマ処理やコロナ処理などの表面粗化処理やカップリング剤や特定の金属成分を含有させるなどの処理が必要であり、コストが高くなったり、フィルムの特性が低下したりするという問題を有している。(特許文献1〜3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−222219号公報
【特許文献2】特開平6−32926号公報
【特許文献3】特開平11−158276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、接着剤との密着性、特にはポリイミド系接着剤との密着性を有するポリイミドフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドの分子設計・重合を適切に行うことにより、接着剤との密着性、特にはポリイミド系接着剤との高い密着性を有するポリイミドフィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち本発明は、以下の新規な製造方法により上記課題を解決しうる。
1)熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミドフィルムの製造方法であって、少なくとも下記工程
(A)有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過小モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端にアミノ基を有するプレポリマーを形成する工程、
(B)(A)工程で得られたプレポリマーと、酸無水物成分とジアミン成分とを、全工程において実質的に等モルとなるように用いてポリイミド前駆体溶液を合成する工程
(C)前記ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化する工程
を含み、
(A)工程で用いられるジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)は、これらを等モル反応させて得られるポリイミドが熱可塑性ポリイミドとなるように選択するとともに、(B)工程で得られるポリイミド前駆体は、非熱可塑性ポリイミドの前駆体であることを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
2)熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミドフィルムの製造方法であって、少なくとも下記工程
(A)有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過剰モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する工程、
(B)(A)工程で得られたプレポリマーと、酸無水物成分とジアミン成分とを、全工程において実質的に等モルとなるように用いて非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を合成する工程
(C)前記非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化する工程
を含み、
(A)工程で用いられるジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)は、これらを等モル反応させて得られるポリイミドが熱可塑性ポリイミドとなるように選択するとともに、(B)工程で得られるポリイミド前駆体は、非熱可塑性ポリイミドの前駆体であることを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
3)熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分が非熱可塑性ポリイミド全体の20〜60mol%含有することを特徴とする1)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
4)熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成するジアミン成分として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを必須成分として用いることを特徴とする1)または2)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
5)熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが3〜99であることを特徴とする1)〜3)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
6)熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが4〜90であることを特徴とする1)〜4)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によりフレキシブル金属張積層板の金属箔とポリイミドフィルムとの接着性を改善したポリイミドフィルムを製造することができる。具体的には、高い密着性を実現することにより高密度実装に伴う配線パターンの微細化に対応することができる。また特に、接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いた場合の低い密着性を改善できるため、半田の無鉛化に伴うリフロー温度の上昇にも対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
本発明は、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミドフィルムの製造方法である。具体的には、
(A)有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過小モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端にアミノ基を有するプレポリマーを形成する工程、
(B)(A)工程で得られたプレポリマーと、酸無水物成分とジアミン成分とを、全工程において実質的に等モルとなるように用いてポリイミド前駆体溶液を合成する工程
(C)前記ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化する工程
を含んでおり、これら3つの工程を含んでいれば公知のいかなる方法をも併用することができる。
【0012】
また、別の方法として、
(A)有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過剰モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する工程、
(B)(A)工程で得られたプレポリマーと、酸無水物成分とジアミンと成分を、全工程において実質的に等モルとなるように用いて非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を合成する工程
(C)前記非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化する工程を含んでいてもよい。
【0013】
(A)工程
(A)工程では、有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過小モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端にアミノ基を有するプレポリマーを形成する。あるいは、ジアミン成分(a)とこれに対し過剰モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する。ここで、ジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)は、これらを等モル反応させて得られるポリイミドが熱可塑性ポリイミドとなるように選択することが重要である。これにより、最終的に得られる非熱可塑性ポリイミドに、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を導入することができる。熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分が導入された非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミドフィルムは、金属箔と張り合わせて得られるフレキシブル金属張積層板の、金属箔とポリイミドフィルムとの接着性が優れたものとなっている。
【0014】
本発明において熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分とは、その高分子量体のフィルムが450℃で1分間加熱した際に熔融し、フィルムの形状を保持しないようなものを指す。具体的には、ジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)を等モル反応させて得られるポリイミドが、上記温度で溶融するか、あるいはフィルムの形状を保持しないかを確認することで、ジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)を選定する。このようにして選定した(a)成分と、これと過小量の(b)成分を、有機極性溶媒中で反応させて末端にアミノ基を有するプレポリマーを形成するか、前記(a)成分と、これと過剰量の(b)成分を、有機極性溶媒中で反応させて末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する。ここで得られるプレポリマーが、熱可塑性ポリイミドブロック成分となる。
【0015】
上述の熔融する温度はさらには250〜450℃が好ましく、特には300〜400℃が好ましい。この温度が低すぎると、最終的に非熱可塑性ポリイミドフィルムを得ることが困難になる場合があり、この温度が高すぎると本発明の効果である優れた密着性を得にくくなる傾向にある。
【0016】
またさらに熱可塑性ポリイミドブロック成分は、ポリイミド全体の20〜60mol%好ましくは25〜55mol%、特に好ましくは30〜50mol%含有される。
【0017】
熱可塑性ポリイミドブロック成分がこの範囲を下回ると本発明の優れた接着性を発現することが困難となる場合があり、この範囲を上回ると最終的に非熱可塑性ポリイミドフィルムとすることが困難となる場合がある。なお、本発明において熱可塑性ポリイミドブロック成分の含有量は、ジアミンが酸成分に対して過剰に用いて合成された場合は下記の計算式(1)に、酸成分がジアミン成分に対して過剰に用いて合成された場合は計算式(2)に従って計算される。
(熱可塑性ブロック成分含有量) = a/P×100 (1)
a:(a)成分の量(mol)
P:全ジアミン量(mol)
(熱可塑性ブロック成分含有量) = b/Q×100 (2)
b:(b)成分の量(mol)
Q:全酸成分量(mol)
またさらに熱可塑性ブロック成分の繰り返し単位nは3〜99が好ましく、4〜90がより好ましい。繰り返し単位nがこの範囲を下回ると優れた接着性が発現しにくく、且つ吸湿膨張係数が大きくなりやすい。また、繰り返し単位nがこの範囲を上回るとポリイミド前駆体溶液の貯蔵安定性が悪くなる傾向にあり、かつ重合の再現性が低下する傾向にあり好ましくない。この繰返し単位nは(a)/(b)の仕込み比で制御することが可能である。繰り返し単位nは、攪拌効率などにより影響される可能性もあるが、本発明においてはこれらの影響は無視し、(a)/(b)のモル比から理論的に導かれる繰返し単位nを用いる。
【0018】
本発明における熱可塑性ポリイミドブロック成分は、ジアミン成分(a)および酸無水物成分(b)を等モル反応させて得られるポリイミドが150〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有するように(a)成分および(b)成分を選定して導入することが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値等により求めることができる。
【0019】
本発明の熱可塑性ポリイミドブロック成分を形成するモノマーについて説明する。
ジアミン主成分として好ましく用い得る例としては4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。これらの例は主成分として好適に用いられる例であり、副成分としていかなるジアミンを用いることもできる。これらの中で特に好ましく用い得るジアミンの例として、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンが挙げられる。これらを用いた場合、熱可塑性ポリイミドブロック成分を得やすい傾向にある。また、本発明において主成分とは10mol%以上を言う。
【0020】
また、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を構成する酸成分として好適に用い得る例としてはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物などが挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。本発明においては、少なくとも3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物から1種以上の酸二無水物を用いることが好ましい。これら酸二無水物を用いることで本発明の効果である接着剤との高い密着性が得られやすくなる。
【0021】
(B)工程
(B)工程では、(A)工程で得られたプレポリマーと、酸無水物成分とジアミン成分を、用いてポリイミド前駆体溶液を合成する。(B)工程で得られるポリイミド前駆体溶液は、対応するポリイミドが非熱可塑性ポリイミドとなるように、酸無水物成分とジアミン成分を選定する。非熱可塑性ポリイミドであるか否かの確認は、フィルムを金属枠で固定し450℃で1分間加熱処理した後、その外観により判定でき、溶融したり、シワが入ったりせず、外観を保持していることで確認できる。(B)工程では、(A)工程で得られたプレポリマー、酸無水物成分、ジアミン成分が実質的に等モルになるように用いればよく、2段階以上の工程を経てポリイミド前駆体を得ても構わない。
【0022】
このようにして得られるポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0023】
本発明において、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分と反応させて非熱可塑性ポリイミド前駆体を製造する際に用いられるジアミンと酸二無水物の好適な例を挙げる。ジアミンと酸二無水物の組み合わせにより種々特性が変化するため一概に規定することはできないが、ジアミンとしては剛直な成分、例えばパラフェニレンジアミンおよびその誘導体、ベンジジン及びその誘導体を主成分として用いるのが好ましい。これら剛直構造を有するジアミンを用いることにより非熱可塑性とし、且つ高い弾性率を達成しやすくなる。また酸成分としてはピロメリット酸二無水物、2,3,7,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などがあるが、ピロメリット酸二無水物を主成分として用いることが好ましい。ピロメリット酸二無水物はよく知られているようにその構造の剛直性から非熱可塑性ポリイミドを与えやすい傾向にある。
【0024】
本発明においては、重合制御のしやすさや装置の利便性から、まず熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を合成した後、さらに適宜設計されたモル分率でジアミン及び酸二無水物を加えて非熱可塑性ポリイミド前駆体とする重合方法を用いることが好ましい。
【0025】
ポリイミド前駆体(以下ポリアミド酸という)を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
【0026】
このようにして得られるポリアミド酸溶液は、貯蔵安定性にも優れるので、本発明の製造方法によれば、ポリイミドフィルムを安定的に工業生産することができる。
【0027】
(C)工程
(C)工程では、前記ポリイミド前駆体溶液(ポリアミド酸)を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化して、最終的に非熱可塑性ポリイミドフィルムを製造する。製膜ドープ液には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0028】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0029】
本発明のポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドを50重量%以上含有することが密着性の点から好ましい。
【0030】
これらポリアミド酸を含む製膜ドープからポリイミドフィルムを製造する方法については従来公知の方法を用いることができる。この方法には熱イミド化法と化学イミド化法が挙げられ、どちらの方法を用いてフィルムを製造してもかまわないが、化学イミド化法によるイミド化の方が本発明に好適に用いられる諸特性を有したポリイミドフィルムを得やすい傾向にある。
【0031】
また、本発明において特に好ましいポリイミドフィルムの製造工程は、
(1)上記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
(2)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
(3)更に加熱して、残ったアミド酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程、
を含むことが好ましい。
【0032】
上記工程において無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表されるイミド化触媒とを含む硬化剤を用いても良い。
【0033】
以下本発明の好ましい一形態、化学イミド法を一例にとり、ポリイミドフィルムの製造工程を説明する。ただし、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0034】
製膜条件や加熱条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ等により、変動し得る。
脱水剤及びイミド化触媒を低温でポリアミド酸溶液中に混合して製膜ドープを得る。引き続いてこの製膜ドープをガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャストし、支持体上で80℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃の温度領域で加熱することで脱水剤及びイミド化触媒を活性化することによって部分的に硬化及び/または乾燥した後支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有し、式(3)
(A−B)×100/B・・・・(3)
式(3)中
A,Bは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量
B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量
から算出される揮発分含量は5〜500重量%の範囲、好ましくは5〜200重量%、より好ましくは5〜150重量%の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、焼成過程でフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ、特性ばらつき等の不具合が起こることがある。
脱水剤の好ましい量は、ポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5〜5モル、好ましくは1.0〜4モルである。
また、イミド化触媒の好ましい量はポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05〜3モル、好ましくは0.2〜2モルである。
脱水剤及びイミド化触媒が上記範囲を下回ると化学的イミド化が不十分で、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、フィルム状にキャストすることが困難となることがあるため好ましくない。
【0035】
前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤及び触媒を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、本発明のポリイミドフィルムが得られる。
【0036】
この時、最終的に400〜650℃の温度で5〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり問題が生じることがある。逆にこの温度より低い及び/または時間が短いと所定の効果が発現しないことがある。
【0037】
また、ゲルフィルムの固定前後でフィルムを延伸することもできる。この時、このましい揮発分含有量は100〜500重量%、好ましくは150〜500重量%である。揮発分含有量がこの範囲を下回ると延伸しにくくなる傾向にあり、この範囲を上回るとフィルムの自己支持性が悪く、延伸操作そのものが困難になる傾向にある。
【0038】
延伸は、差動ロールを用いる方法、テンターの固定間隔を広げていく方法等公知のいかなる方法を用いてもよい。
【0039】
また、フィルム中に残留している内部応力を緩和させるためにフィルムを搬送するに必要最低限の張力下において加熱処理をすることもできる。この加熱処理はフィルム製造工程において行ってもよいし、また、別途この工程を設けても良い。加熱条件はフィルムの特性や用いる装置に応じて変動するため一概に決定することはできないが、一般的には200℃以上500℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下、特に好ましくは300℃以上450℃以下の温度で、1〜300秒、好ましくは2〜250秒、特に好ましくは5〜200秒程度の熱処理により内部応力を緩和することができる。
【0040】
本発明の製造方法により得られるフィルムは、直接金属層を設けた場合、あるいは各種接着剤を介して金属箔を積層した場合の優れた接着性を発現する。特に、従来、ポリイミドフィルムとの接着性が弱いとされる、イミド系接着剤を用いた場合の接着性にも優れる。また、線膨張係数、吸湿膨張係数のバランスにも優れたものとなる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、合成例、実施例及び比較例における熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度、フレキシブル積層板の寸法変化率、金属箔引き剥し強度の評価法は次の通りである。
【0042】
(金属箔の引き剥がし強度:接着強度)
JIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、5mm幅の金属箔部分を、180度の剥離角度、50mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定した。
【0043】
(弾性率)
弾性率の測定はASTM D882に準じて行った。
【0044】
(線膨張係数)
50〜200℃の線膨張係数の測定は、セイコー電子(株)社製TMA120Cを用いて(サンプルサイズ 幅3mm、長さ10mm)、荷重3gで10℃/minで10℃〜400℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに10℃/minで昇温させて、2回目の昇温時の50℃及び200℃における熱膨張率から平均値として計算した。
【0045】
(吸湿膨張係数)
吸湿膨張係数は、50℃30%Rhの環境下でのフィルム寸法(L1)を測定した後、湿度を変化させて50℃80%Rhの環境下でのフィルム寸法を測定し(L2)、下記式より算出する。
吸湿膨張係数(ppm)=(L1−L2)÷L1÷(80−30)×106
(動的粘弾性測定)
セイコー電子(株)社製DMS200を用いて(サンプルサイズ 巾9mm、長さ40mm)、周波数1、5、10Hzで昇温速度3℃/minで20〜400℃の温度範囲で測定した。温度に対して貯蔵弾性率をプロットした曲線の変曲点となる温度をガラス転移温度とした。
【0046】
(溶液貯蔵安定性)
ポリイミド前駆体溶液の貯蔵安定性は、製造した溶液を5℃の冷蔵庫で1ヶ月保管し、目視により判定した。
【0047】
(可塑性の判定)
可塑性の判定は、得られたフィルム20×20cmを正方形のSUS製枠(外径20×20cm、内径18×18cm)に固定し、450℃1分間加熱処理した後、その外観を観察し、溶融したり、シワが入ったりせず、外観を保持しているものを非熱可塑性と判定した。
【0048】
(参考例1;熱可塑性ポリイミド前駆体の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を115.6g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を78.7g徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を3.8g添加し、氷浴下で30分間撹拌した。2.0gのTMEGを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が3000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は240℃であった。また、このフィルムを金属枠に固定し450℃に加熱したところ形態を保持せず、熱可塑性であることがわかった。
【0049】
(接着性評価)
前処理としてポリイミドフィルムをコロナ密度200W・min/m2で表面処理した。
参考例1で得られたポリアミド酸溶液を固形分濃度10重量%になるまでDMFで希釈した後、表面処理したポリイミドフィルムの両面に、熱可塑性ポリイミド層(接着層)の最終片面厚みが4μmとなるようにポリアミド酸を塗布した後、140℃で1分間加熱を行った。続いて、雰囲気温度390℃の遠赤外線ヒーター炉の中を20秒間通して加熱イミド化を行って、耐熱性接着フィルムを得た。得られた接着フィルムの両側に18μm圧延銅箔(BHY−22B−T,ジャパンエナジー社製)を、さらに銅箔の両側に保護材料(アピカル125NPI;鐘淵化学工業株式会社製)を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.5m/分の条件で熱ラミネートを行い、FCCLを作製した。このFCCLの接着強度を測定した。
【0050】
また、コロナ処理なしのFCCLについては、ポリイミドフィルムに表面処理をしない以外は上記方法と全く同様にしてFCCLを作成し、接着強度を測定した。
【0051】
(実施例1)
(1)10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)546gに2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)46.43g溶解した。ここに3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)9.12g添加して溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)16.06g添加して30分攪拌し、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を形成した。
(2)この溶液にp−フェニレンジアミン(p−PDA)18.37gを溶解した後、PMDA37.67gを添加し1時間撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったPMDAのDMF溶液(PMDA1.85g/DMF24.6g)を注意深く添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度約19重量%、23℃での回転粘度が3400ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミド酸溶液100gに、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比18.90/7.17/18.93)からなる硬化剤を50g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を130℃×100秒で加熱した後アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして(揮発分含量45重量%)金属枠に固定し、300℃×20秒、450℃×20秒、500℃×20秒で乾燥・イミド化させて厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性および接着特性を表1に示す。
なお、BAPP/BTDA/PMDA=46.43g/9.12g/18.53gの比で得たポリアミド酸溶液を同様にフィルム化しようとしたが、450℃の加熱段階で熔融し、形態を保持せず、(1)で得られたプレポリマーは熱可塑性ブロック成分となっていることが確認できた。
【0052】
(実施例2、3、比較例1、2)
モノマーの比を変えて実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
得られたフィルムの特性および接着特性を表1に示す。
また、比較例1はPDAとPMDAでブロック成分を形成した。なお、PDA/PMDA=42.92g/86.58gの比で得たポリアミド酸溶液を同様にフィルム化しようとしたが、脆くてフィルム化できず、本発明の熱可塑性ブロック成分でないことが確認された。
さらに、比較例2においてはブロック成分は形成していない。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によりフレキシブル金属張積層板の金属箔とポリイミドフィルムとの接着性を改善したポリイミドフィルムを製造することができる。具体的には、高い密着性を実現することにより高密度実装に伴う配線パターンの微細化に対応することができる。また特に、接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いた場合の低い密着性を改善できるため、半田の無鉛化に伴うリフロー温度の上昇にも対応することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミドフィルムの製造方法であって、少なくとも下記工程
(A)有機極性溶媒中で、ジアミン成分(a)とこれに対し過剰モル量の酸二無水物成分(b)を用いて、末端に酸無水物基を有するプレポリマーを形成する工程、
(B)(A)工程で得られたプレポリマーと、酸二無水物成分とジアミン成分とを、全工程において実質的に等モルとなるように用いて非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を合成する工程
(C)前記非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を含む製膜ドープ液を流延し、化学的及び/又は熱的にイミド化する工程
を含み、
(A)工程で用いられるジアミン成分(a)および酸二無水物成分(b)は、これらを等モル反応させて得られるポリイミドが熱可塑性ポリイミドとなるように選択するとともに、(B)工程で得られるポリイミド前駆体は、非熱可塑性ポリイミドの前駆体であることを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分は非熱可塑性ポリイミド全体の20〜60mol%含有されることを特徴とする請求項1記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成するジアミン成分として2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを必須成分として用いることを特徴とする請求項1または2記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが3〜99であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが4〜90であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−214807(P2012−214807A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−120003(P2012−120003)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2006−536378(P2006−536378)の分割
【原出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】