説明

高保磁力異方性磁石及びその製造方法

【課題】保磁力を向上させ、磁石の使用温度の限界を向上させ、耐熱性の向上を図ることを可能とした高保磁力異方性磁石及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁石原料をHDDR法により微粉砕したHDDR粉末41に対して、M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物が添加された有機金属化合物溶液を加え、磁石粒子表面に対して均一に有機金属化合物を付着させる。その後、乾燥した磁石粉末を真空中又は不活性化ガス雰囲気下において600℃以上900℃未満で0.01分以上1時間未満保持することにより加熱処理を行う。更に、加熱処理された磁石粉末を成形し、800℃〜1180℃で焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd−Fe−B系磁石材料の高保磁力化を目的とした高保磁力異方性磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、Nd−Fe−B系合金に対して水素吸収・脱水素処理を行って結晶粒径を微細化し、保磁力を発現して得られるHDDR法が開発され、磁石性能の高性能化を実現している。このHDDR粉末は異方性を示すNd−Fe−B系磁石粉末であり、この特徴を生かしてボンド磁石を中心として、磁石の高性能化を可能としている。
このHDDR法はNdFe14B相を有する母合金に850℃程度で水素を吸収させることによって、
NdFe14B→NdH+α−Fe+Fe
なる相分解を発生させ、その後、真空中で強制的に脱水素反応によって、
NdH+α−Fe+FeB→NdFe14
なる再結合を生じさせて、NdFe14B相結晶の微細化をもとに,保磁力を発現させるものである。
【0003】
一方、Nd−Fe−B系磁石の高保磁力化は、その一部をDyで置換することによってDyFe14B化合物を生成させ、DyFe14B化合物の巨大な結晶磁気異方性を利用して高保磁力材料が開発されている(非特許文献1参照)。この手法は種々のNd−Fe−B系磁石材料に適用されており、特に焼結磁石において効果が大きい。
【0004】
また、HDDR粉末とDyHの混合物の熱処理により保磁力の上昇を図る技術も開発されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Magn. Magn. Mater., 61, (1986), 363-369.
【非特許文献2】Proc. 16th Int. Workshop REM and their appolications, pp.813-819.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、異方性を有するHDDR粉末に、非特許文献1に記載のNd−Fe−B系磁石の一部をDyで置換しDyFe14B化合物を生成させる技術を適用した場合、DyFe14B相は水素との反応性が小さく、HDDR法のプロセスである水素吸収分解及び脱水素再結合反応が阻害されるため、高保磁力を有するDy含有のNd−Fe−B系微細結晶を作製して高保磁力を得ることが困難であった。
【0007】
また、非特許文献2に記載のHDDR粉末とDyHの混合物の熱処理では、僅かな
保磁力の上昇しか得られないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑み、HDDR法を用いた磁石粉末により成形した高保磁力異方性磁石の保磁力を向上させ、磁石の使用温度の限界を向上させ、耐熱性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る高保磁力異方性磁石の製造方法は、Nd−Fe−B系合金に水素の吸収・放出反応を利用して結晶粒を微細化するHDDR法を用い、HDDR粉末を得る工程と、前記粉砕されたHDDR粉末に以下の構造式M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物を添加することにより、前記HDDR粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、熱処理温度を600℃以上900℃未満とし、保磁時間を0.01分以上1時間未満とする加熱処理を行う工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る高保磁力異方性磁石の製造方法は、請求項1に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法において、前記有機金属化合物添加量は、前記HDDR粉末と前記有機金属化合物の合計量に対して1wt%〜10wt%であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る高保磁力異方性磁石の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法において、前記加熱処理は、前記HDDR粉末と前記有機金属化合物の混合粉末又は該混合粉末の圧粉体を、真空中又は不活性化ガス雰囲気下で加熱することを特徴とする。
【0012】
更に、請求項4に係る高保磁力異方性磁石は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高保磁力異方性磁石の製造方法を用いて製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
前記構成を有する請求項1に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法によれば、Dy、Tb又はHoで表わされる有機金属化合物を混合し、これに対して加熱処理を行うことにより保磁力を飛躍的に増大することができる。更に、この粉末を用いた高保磁力異方性磁石の使用温度範囲をより高温にシフトすることが可能となり、産業上の適用範囲が飛躍的に拡大することができる。
また、Dy、Tb又はHoの添加する量を少量としたとしても、添加されたDy、Tb又はHoを磁石の粒界に効率よく偏在させることができる。その結果、Dy、Tb又はHoの使用量を減少させ、残留磁束密度の低下を抑制できるとともに、Dy、Tb又はHoによる保磁力の向上を十分に図ることが可能となる。また、他の有機金属化合物を添加する場合と比較して脱カーボンを容易に行うことが可能であり、焼結後の磁石内に含まれる炭素によって磁石特性が低下する虞が無く、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法によれば、有機金属化合物添加量は、HDDR粉末と有機金属化合物の合計量に対して1wt%〜10wt%であるので、磁石の保磁力を向上させることができるとともに、残留磁束密度の低下も防止することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法によれば、加熱処理は、HDDR粉末と有機金属化合物の混合粉末又は該混合粉末の圧粉体を、真空中又は不活性化ガス雰囲気下で加熱するので、磁石粉末の過度の酸化を抑制することできる。
【0016】
更に、請求項4に記載の高保磁力異方性磁石によれば、保磁力が飛躍的に増大する。更に、使用温度範囲をより高温にシフトすることが可能となり、産業上の適用範囲が飛躍的に拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る永久磁石を示した全体図である。
【図2】本発明に係る永久磁石の粒界付近を拡大して示した模式図である。
【図3】本発明に係る永久磁石の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る永久磁石及び永久磁石の製造方法について具体化した実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示す永久磁石1は円柱形状を備えるが、永久磁石1の形状は成形に用いるキャビティの形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1としては例えばNd−Fe−B系磁石を用いる。また、永久磁石1を形成する各Nd結晶粒子の界面(粒界)には、永久磁石1の保磁力を高める為のDy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)又はHo(ホルミウム)の層が形成される。尚、各成分の含有量はNd:10〜27wt%、Dy(又はTb、Ho):1〜10wt%、B:5〜7wt%、Co:15〜20wt%、Fe(電解鉄):60〜75wt%とする。また、磁気特性向上の為、Cu、Al、Zr、Ga、Si等の他元素を少量含んでも良い。
【0020】
具体的に、本発明に係る永久磁石1は、図2に示すように永久磁石1を構成するNd結晶粒子11の表面にDy層(又はTb層、Ho層)12をコーディングすることにより、DyやTbやHoをNd結晶粒子11の粒界に対して偏在させる。図2は永久磁石1を構成するNd結晶粒子11を拡大して示した図である。
【0021】
図2に示すように永久磁石1は、Nd結晶粒子11と、Nd結晶粒子11の表面をコーディングするDy層(又はTb層、Ho層)12から構成される。尚、Nd結晶粒子11は、例えばNdFe14B金属間化合物から構成され、Dy層12は例えば(DyNd1-xFe14B金属間化合物やDy酸化物であるDyから構成される。
【0022】
ここで、Dy層12にあるDy酸化物(例えばDy)は、酸素との結合において安定的な物質であり、磁石粉末内のNdが酸素を奪い取り、酸化されることがない。従って、永久磁石1の保磁力が低下することを防止できる。同様にTb酸化物やHo酸化物についても酸素との結合において安定的な物質であるので、保磁力が低下することを防止できる。一方、酸素との結合力が小さい他の酸化物の場合には、磁石粉末内のNdが酸素を奪い取り、酸化しやすいため、保磁力の劣化が予想される。
【0023】
また、本発明ではDy(又はTb、Ho)の磁石粉末への添加は、Dy(又はTb、Ho)を粉砕対象とする磁石原料に予め含めるのではなく、後述のように粉砕された磁石粉末を成形する前にDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物が添加されることにより行われる。具体的には、Dy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物を添加した磁石粉末を焼結する際に、湿式分散によりNd磁石粒子の粒子表面に均一付着された該有機金属化合物中のDy(又はTb、Ho)が、Nd磁石粒子の結晶成長領域へと拡散侵入して置換が行われ、図2に示すDy層(又はTb層、Ho層)12を形成する。その結果、Nd結晶粒子11の界面にDy層(又はTb層、Ho層)12が形成され、永久磁石1の保磁力を向上させることができる。
【0024】
また、本発明では、特に後述のようにM−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされるDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物(例えば、ジスプロシウムエトキシド、ジスプロシウムイソプロポキシド、テルビウムイソポロポキシド)を有機溶媒に添加し、湿式状態で磁石粉末に混合する。それにより、Dy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物を有機溶媒中で分散させ、Nd磁石粒子の粒子表面にDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物を効率よく付着することが可能となる。
【0025】
ここで、上記M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)の構造式を満たす有機金属化合物として金属アルコキシドがある。金属アルコキシドは、一般式M−(OR)(M:金属元素、R:有機基、n:金属又は半金属の価数)で表される。また、金属アルコキシドを形成する金属又は半金属としては、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Dy、Tb、Ho、Zr、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ge、Sb、Y、lanthanideなどが挙げられる。但し、本発明では特に、Dy、Tb又はHoを用いる。
【0026】
また、アルコキシドの種類は特に限定されることなく、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、炭素数4以上のアルコキシド等が挙げられる。但し、本発明では後述のように低温分解で残炭を抑制する目的から、低分子量のものを用いる。また、炭素数1のメトキシドについては分解し易く、取扱いが困難であるので、特に炭素数が2〜6のアルコキシドであるエトキシド、メトキシド、イソプロポキシド、プロポキシド、ブトキシドなどを用いることが好ましい。
【0027】
また、圧粉成形により成形された成形体を適切な焼成条件で焼成すれば、Dy(又はTb、Ho)が結晶粒子11内へと拡散浸透(固溶化)することを防止できる。それにより、本発明では、Dy(又はTb、Ho)を添加したとしてもDy(又はTb、Ho)による置換領域を外殻部分のみとすることができる。その結果、結晶粒全体としては(すなわち、焼結磁石全体としては)、コアのNdFe14B金属間化合物相が高い体積割合を占めた状態となる。それにより、その磁石の残留磁束密度(外部磁場の強さを0にしたときの磁束密度)の低下を抑制することができる。
【0028】
尚、Dy層(又はTb層、Ho層)12は、Dy化合物(又はTb化合物、Ho化合物)のみから構成される層である必要はなく、Dy化合物(又はTb化合物、Ho化合物)とNd化合物との混合体からなる層であっても良い。その場合には、Nd化合物を添加することによって、Dy化合物(又はTb化合物、Ho化合物)とNd化合物との混合体からなる層を形成する。その結果、Nd磁石粉末の焼結時の液相焼結を助長することができる。尚、添加するNd化合物としては、NdH、酢酸ネオジム水和物、ネオジム(III)アセチルアセトナート三水和物、2−エチルヘキサン酸ネオジム(III)、ネオジム(III)ヘキサフルオロアセチルアセトナート二水和物、ネオジムイソプロポキシド、リン酸ネオジニウム(III)n水和物、ネオジムトリフルオロアセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルホン酸ネオジム等が望ましい。
【0029】
尚、Dy(又はTb、Ho)をNd結晶粒子11の粒界に対して偏在させる構成としては、Nd結晶粒子11の粒界に対してDy(又はTb、Ho)からなる粒を点在させる構成としても良い。そのような構成であっても、同様の効果を得ることが可能となる。尚、Dy(又はTb、Ho)がNd結晶粒子11の粒界に対してどのように偏在しているかは、例えばSEMやTEMや3次元アトムプローブ法により確認することができる。
【0030】
また、特にDy又はTbを磁石粉末に添加する構成とすれば、磁石粒子の粒界にDy又はTbを偏在化することが可能となる。そして、粒界に偏在されたDyやTbが粒界の逆磁区の生成を抑制することで、保磁力の向上が可能となる。また、DyやTbの添加量が従来に比べて少なくすることができ、残留磁束密度の低下を抑制することができる。
【0031】
[永久磁石の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1の製造方法について図3を用いて説明する。図3は本発明に係る永久磁石1の製造方法における製造工程を示した説明図である。
【0032】
先ず、上述した組成割合を満たす分率のNd−Fe(Co)−B(Nd:12.6wt%、Fe(電解鉄):63.1wt%、Co:17.4、B:6.5wt%、Zr:0.1wt%、Ga:0.3wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをHDDR法により微粉末に粉砕する。具体的には、水素処理炉31においてHフロー及びロータリポンプ32による減圧処理を850℃で行うことにより、所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕したHDDR粉末41を得る。
【0033】
一方で、HDDR法により微粉砕されたHDDR粉末41に添加する有機金属化合物溶液を作製する。ここで、有機金属化合物溶液には予めDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物を添加し、溶解させる。尚、溶解させる有機金属化合物としては、M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)に該当する有機金属化合物(例えば、ジスプロシウムエトキシド、ジスプロシウムイソプロポキシド、テルビウムイソポロポキシドなど)を用いる。また、溶解させるDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物の量は特に制限されないが、HDDR粉末41と有機金属化合物の合計量に対して1wt%〜10wt%となる量とするのが好ましい。
【0034】
続いて、HDDR法により微粉砕されたHDDR粉末41に対して上記有機金属化合物溶液を添加する。それによって、HDDR粉末41と有機金属化合物溶液とが混合されたスラリー42を生成する。尚、有機金属化合物溶液の添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。
【0035】
その後、生成したスラリー42を成形前に真空乾燥などで事前に乾燥させ、乾燥した磁石粉末43を取り出す。その後、乾燥した磁石粉末43を600℃以上900℃未満で0.01分以上1時間未満保持する加熱処理を行う。尚、加熱処理は、真空中又は不活性化ガス雰囲気下(例えばAr雰囲気下)で行う。
【0036】
その後、加熱処理が行われた磁石粉末44を成形装置50により所定形状に圧粉成形する。尚、圧粉成形には、上記の乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、溶媒などでスラリー状にしてからキャビティに充填する湿式法があるが、本発明では乾式法を用いる場合を例示する。
【0037】
図3に示すように、成形装置50は、円筒状のモールド51と、モールド51に対して上下方向に摺動する下パンチ52と、同じくモールド51に対して上下方向に摺動する上パンチ53とを有し、これらに囲まれた空間がキャビティ54を構成する。
また、成形装置50には一対の磁界発生コイル55、56がキャビティ54の上下位置に配置されており、磁力線をキャビティ54に充填された磁石粉末44に印加する。印加させる磁場は例えば1MA/mとする。
【0038】
そして、圧粉成形を行う際には、先ず乾燥した磁石粉末44をキャビティ54に充填する。その後、下パンチ52及び上パンチ53を駆動し、キャビティ54に充填された磁石粉末44に対して矢印61方向に圧力を加え、成形する。また、加圧と同時にキャビティ54に充填された磁石粉末44に対して、加圧方向と平行な矢印62方向に磁界発生コイル55、56によってパルス磁場を印加する。それによって、所望の方向に磁場を配向させる。尚、磁場を配向させる方向は、磁石粉末44から成形される永久磁石1に求められる磁場方向を考慮して決定する必要がある。
また、湿式法を用いる場合には、キャビティ54に磁場を印加しながらスラリーを注入し、注入途中又は注入終了後に、当初の磁場より強い磁場を印加して湿式成形しても良い。また、加圧方向に対して印加方向が垂直となるように磁界発生コイル55、56を配置しても良い。
【0039】
次に、圧粉成形により成形された成形体を焼結する焼結処理を行う。焼結処理では、所定の昇温速度で800℃〜1180℃程度まで昇温し、2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては10−4Torr以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び600℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0040】
上記永久磁石1の製造方法にて作成された永久磁石1は、HDDR粉末のみで作成された永久磁石1と比較して保磁力の向上が認められる。特に加熱処理を600℃以上900℃未満で行うことによって顕著な増加を示す。尚、600℃より低温においては、磁石化合物最表面の整合層の形成が不十分であり、一方、900℃以上においては、元来、HDDR粉末の保磁力を担っている300nm程度の微細結晶粒が結晶成長を起こすことによる保磁力の低下が顕著となる。また、加熱処理の保磁時間は1時間以下において10kOe以上の良好な保磁力を示す。これは処理時間が1時間以上になると、元来、HDDR粉末の保磁力を担っている300nm程度の微細結晶粒が結晶成長を起こすことによる保磁力の低下が顕著となると考えられる。また添加するDy(又はTb、Ho)を含む有機金属化合物の混合量が1wt%以上の範囲において、顕著な増加を示すことが分かる。尚、混合量の増加に伴い、残留磁束密度は低下する傾向を示すため、上限は10wt%程度が実用的である。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、磁石原料をHDDR法により微粉砕したHDDR粉末41に対して、M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物が添加された有機金属化合物溶液を加え、磁石粒子表面に対して均一に有機金属化合物を付着させる。その後、乾燥した磁石粉末を真空中又は不活性化ガス雰囲気下において600℃以上900℃未満で0.01分以上1時間未満保持することにより加熱処理を行う。更に、加熱処理された磁石粉末を成形し、800℃〜1180℃で焼成を行うことによって永久磁石1を製造する。その結果、保磁力を飛躍的に増大させた高保磁力異方性磁石を作成することができる。更に、HDDR粉末を用いた高保磁力異方性磁石の使用温度範囲をより高温にシフトすることが可能となり、産業上の適用範囲が飛躍的に拡大することができる。
また、M−(OR)(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物が添加された有機金属化合物溶液を磁石粉末に湿式状態で添加することによって、Dy、Tb又はHoの添加する量を少量としたとしても、添加されたDy、Tb又はHoを磁石の粒界に効率よく偏在させることができる。その結果、Dy、Tb又はHoの使用量を減少させ、残留磁束密度の低下を抑制できるとともに、Dy、Tb又はHoによる保磁力の向上を十分に図ることが可能となる。また、他の有機金属化合物を添加する場合と比較して脱カーボンを容易に行うことが可能であり、焼結後の磁石内に含まれる炭素によって磁石特性が低下する虞が無く、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となる。
また、有機金属化合物添加量は、HDDR粉末と有機金属化合物の合計量に対して1wt%〜10wt%であるので、磁石の保磁力を向上させることができるとともに、残留磁束密度の低下も防止することができる。
また、加熱処理は、HDDR粉末と有機金属化合物の混合粉末又は該混合粉末の圧粉体を、真空中又は不活性化ガス雰囲気下で加熱するので、磁石粉末の過度の酸化を抑制することできる。
【0042】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
また、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、加熱条件、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。
また、水素中仮焼処理については省略しても良い。
【0043】
例えば、本実施例では加熱処理を磁石粉末の成形前に行ったが、成形後に行うこととしても良い。
【0044】
また、上述した製造方法では、Dy、Tb又はHoについて、磁石粉末にM−(OR)で示される有機金属化合物を添加することによって添加する構成としているが、一部については予めインゴットに含める構成としても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 永久磁石
11 Nd結晶粒子
12 Dy層(Tb層、Ho層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd−Fe−B系合金に水素の吸収・放出反応を利用して結晶粒を微細化するHDDR法を用い、HDDR粉末を得る工程と、
前記粉砕されたHDDR粉末に以下の構造式
M−(OR)
(式中、MはDy、Tb、Hoの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素数2〜6のアルキル基のいずれかであり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)
で表わされる有機金属化合物を添加することにより、前記HDDR粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、
熱処理温度を600℃以上900℃未満とし、保磁時間を0.01分以上1時間未満とする加熱処理を行う工程と、
を有することを特徴とする高保磁力異方性磁石の製造方法。
【請求項2】
前記有機金属化合物添加量は、前記HDDR粉末と前記有機金属化合物の合計量に対して1wt%〜10wt%であることを特徴とする請求項1に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理は、前記HDDR粉末と前記有機金属化合物の混合粉末又は該混合粉末の圧粉体を、真空中又は不活性化ガス雰囲気下で加熱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高保磁力異方性磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高保磁力異方性磁石の製造方法を用いて製造することを特徴とする高保磁力異方性磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216618(P2011−216618A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82406(P2010−82406)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】