説明

高分子超薄膜

【課題】本発明は、製造適性、耐久性に優れ、かつ基板との密着性に優れ、さらに光学用途に適した、ナノメートルレベルで構造制御された高分子超薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】露光によりラジカルを発生しうる基板表面とラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される高分子超薄膜であって、膜厚が1〜10nmである高分子超薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子超薄膜に関するものである。より詳しくは、露光によりラジカルを発生しうる基板表面と直接結合した高分子超薄膜であって、膜厚が10nm以下である高分子超薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な機能やより優れた性能を求める新材料の研究開発が活発に行われるなか、膜厚がナノメートルレベル(特に、50nm以下)の高分子超薄膜(以後、超薄膜とも称する)への関心が高まっている。このようなナノレベルで構造制御された薄膜は通常の材料とは異なった性質を示すため、エレクトロニクス分野、環境分野、生命科学分野などの種々の先端分野において重要な材料の一つと位置づけられており、電子デバイス、固体センサー、物質分離材、光機能膜などへの応用が期待されている。
【0003】
薄膜の作製方法としては、例えば、スピンコート法、LB(ラングミュアーブロジェット)法(特許文献1)、モノマーグラフト法などが挙げられる。スピンコート法は、回転させた固体基板の表面に高分子含有液などを滴下して膜を作製する方法であり、代表的な薄膜作製方法である。しかしながら、スピンコート法では、膜厚を50nm以下とすることはきわめて困難であった。具体的には、得られた薄膜の膜厚の均一性や膜の平坦性が乏しく、さらに膜中にピンホールなどが数多く発生してしまう。
一方、LB法を用いてナノメートルレベルの薄膜を作製することはできるが、適用できる高分子は、極性基、親水性基、イオン性基などの置換基をもつ緻密に分子設計された特定の構造を持つ高分子に限定されている。例えば、疎水的な性質を示す高分子はLB法の適用対象外であるため、LB法は薄膜の作製方法として汎用性が乏しい。また、LB法は大面積化での製造が難しく、工業性・生産性という点では必ずしも満足できるものでなかった。
さらに、スピンコート法やLB法で得られた薄膜は、基板との密着性が十分でないため、摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理によって容易に基板から剥がれてしまう。また、光学的な用途として曲率のある光学ガラスに10nm以下の超薄膜を作製しようとすると、スピンコート法では中心付近と周辺で膜厚が異なり、光学的なゆがみが生じることが問題であり、LB法では曲率面には対応できないという問題があった。
【0004】
他の薄膜の作製方法としては、基板上よりモノマーの重合を行い、基板に結合したポリマーを製造するモノマーグラフト法などが提案されている。しかしながら、該方法では、バッチ方式で基板を液状モノマー中に浸漬させる必要があるため、生産性に乏しく、かつ大面積化も困難である。また、重合の制御が難しいため、膜厚にバラツキが生じやすく再現性に劣る。さらには、モノマーの揮発により異臭が発生するため作業環境面の点においても好ましくない。
さらに、他の作製方法として、増感剤を用いて、露光により基板上に基板と直接結合したグラフトポリマー膜を作製する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−265005号公報
【特許文献2】特開2006−350307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが特許文献2に具体的に開示されている増感剤を使用した方法について鋭意検討を行ったところ、この方法ではナノメートルレベルで構造制御された超薄膜を得ることが困難であることを見出した。より具体的には、露光によって得られる薄膜は、基板上にスピンコートなどで形成される重合性化合物を含む塗布膜と同程度の厚みを有しており、膜厚が50nm以下の超薄膜を得ることが困難であった。その理由は必ずしも明確でないが、重合性化合物を含む塗布層に増感剤を添加し露光すると、増感剤が分解し、塗布層内部で重合が進行し、基板上での界面反応が選択的に進行しないためと考えられる。このことから、曲面などの凹凸表面上で薄膜を作製する場合は、通常、塗布膜内の位置によって塗膜厚みの差が生じやすいため、上述の方法では凹凸表面上に一定の膜厚を有する薄膜を得ることが困難となることも予想される。
さらに本発明者らが特許文献2に具体的に開示されている増感剤を使用した方法で、光学レンズの表面に薄膜を形成しようとすると、増感剤の可視域での吸収により、レンズが着色し、光学用途としては適用できないことが明らかになった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点を解決すべく、製造適性、耐久性に優れ、かつ基板との密着性に優れ、かつ光学用途に適した、ナノメートルレベルで構造制御された高分子超薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<6>の構成により解決されることを見出した。
【0009】
<1> 露光によりラジカルを発生しうる基板表面とラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される高分子超薄膜であって、膜厚が1〜10nmである高分子超薄膜。
<2> 光露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される重合開始層を、前記基板が表面上に備えることを特徴とする<1>に記載の高分子超薄膜。
<3> 前記重合開始層の膜厚が、1〜15nmであることを特徴とする<2>に記載の高分子超薄膜。
<4> 平均表面粗さRaが1nm以下である<1>〜<3>のいずれかに記載の高分子超薄膜。
<5> 溶媒に浸漬したときの膨潤度が300%〜2000%であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の高分子超薄膜。
<6> 膜厚の標準偏差(σ)が1nm以下であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれかに記載の高分子超薄膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造適性、耐久性に優れ、かつ基板との密着性に優れ、かつ光学用途に適した、ナノメートルレベルで構造制御された高分子超薄膜を提供することができる。
また、本願の高分子超薄膜は、塗布した膜厚に関わらず、露光後には均一な膜厚を有する薄膜が得られるという特徴を有しており、基板の表面形状に対して優れた追随性を示す。すなわち、種々の形状に沿った均一な膜厚の薄膜を得ることができ、このことは凹凸面を有する基板上などに好適に適用できることを意味する。この表面凹凸追随性は本発明の薄膜形成法によって初めて可能となったものであり、曲率を有するレンズ表面などへの薄膜形成が可能になり、光学レンズへの適性が大きく広がることが、本発明の大きな特徴の一つである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的態様について説明する。
本発明の高分子超薄膜は、露光によりラジカルを発生しうる基板表面とラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して形成され、膜厚が1〜10nmである。
以下に本発明で使用される基板、高分子材料について詳述する。
【0012】
<露光によりラジカルを発生しうる基板>
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、後述する特定の波長の光露光により、ラジカルを発生させることができれば、如何なる基板を用いてもよい。
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、例えば、(a)ラジカル発生剤を含有する基板、(b)ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基板、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基板、などが挙げられる。他には、(d)光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位を共有結合により基板表面に設けた基板がある。より具体的には、光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物を、基板結合部位を介して基板表面に結合させ、形成される重合開始層を有する基板である。なかでも、得られる高分子超薄膜の膜厚の均一性・平坦性が優れる点から、(d)の方法が好ましい。
【0013】
上記(a)の方法で使用される露光によりラジカルを発生しうる化合物(以下、適宜、ラジカル発生剤と称する)は低分子化合物でも、高分子化合物でもよく、一般に公知のものが使用される。低分子のラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントン等の公知のラジカル発生剤を使用できる。
また、上記(b)の方法で使用されるラジカル発生部位を有する高分子化合物(高分子ラジカル発生剤)としては特開平9−77891号段落番号〔0012〕〜〔0030〕や、特開平10−45927号段落番号〔0020〕〜〔0073〕に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物などを使用することができる。
【0014】
また、上記(c)の方法では、任意の支持体上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる光開始剤層を形成することで、露光によりラジカルを発生しうる基板とする。具体的には、架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体(基板)表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させて光開始剤層を形成する。このような重合開始層の形成方法については、例えば、特開2004−123837号公報に詳細に記載され、このような重合開始層を本発明に適用することができる。
【0015】
上記(d)の方法に適用しうる重合開始能を有する化合物としては、例えば、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Y)と基板結合部位(Q)とを有する化合物(以下、適宜「光開裂化合物(Q−Y)」と称する。)等が挙げられる。
ここで、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に「重合開始部位(Y)」と称する。)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応、などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合などが挙げられる。
【0016】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、後述するラジカル重合性基を有する高分子のグラフト反応の起点となることから、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、以下に挙げる基を含む構造が挙げられる。即ち、芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基、などである。
【0017】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂して、ラジカルが発生すると、そのラジカル周辺にラジカル重合性基を有する高分子が存在する場合には、このラジカルがグラフト反応の起点として機能し、グラフトポリマーを生成することができる。
このため、表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入された基板を用いてグラフトポリマーを生成させる場合には、エネルギー付与手段として、重合開始部位(Y)を開裂させうる波長での露光を用いることが必要である。
【0018】
また、基板結合部位(Q)としては、ガラスに代表される絶縁基板表面に存在する官能基(水酸基、カルボキシル基など)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、具体的には、以下に示すような基板結合基が挙げられる。なかでも、反応性に優れる点で、−Si(OA)基(Aは、アルキル基を表す。好ましくは、メチル基、エチル基)、−SiX基(Xはハロゲン原子を表す。好ましくは、塩素原子)などが挙げられる。基板表面と光開始部位との結合の例としては、O−C、O−Si、N−C、N−Si、S−C、S−Si、S−Oなどの共有結合が好ましく挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
重合開始部位(Y)と、基板結合部位(Q)とは直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。連結基(L)を有する場合、光開裂化合物は(Q−L−Y)と表される。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及びイオウからなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられる。具体的には、飽和炭化水素基(アルキレン基など)、アリーレン基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。また、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、などが挙げられる。
【0021】
以下、光開裂化合物(Q−Y)の例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの化合物は基板表面と化学反応させることにより表面に固定化される。
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
本発明において用いられる基板は、特に制限はなく、その構成材料も有機材料、無機材料、有機と無機とのハイブリッド材料のいずれでもよい。具体的には、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する各種基板、PET、ポリプロピレン、ポリイミド、アクリルなどのプラスチック基板などが挙げられる。なかでも、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する基板が好ましい。基板の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には10μm〜10cm程度である。基板は、平坦であっても、平坦でなくてもよい。
本発明においては後述するラジカル重合性基を有する高分子を含む溶液の塗布膜の膜厚に関わらず、露光後に均一な膜厚の高分子超薄膜が得られるという特徴がある。基板が平坦でない凹凸表面で、塗布時に膜厚の差が大きくあったとしても、後述する方法によれば、種々の基板上に均一な膜厚の高分子超薄膜を作製できる。つまり、本発明に係る高分子超薄膜は基板の表面形状に対して優れた追随性(凹凸追随性)を示す。そのため、各種レンズ(両凸レンズ、凹凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凹レンズ)などの凹凸曲面や、剣山状の微細突起を有する面などに対して、その表面形状を保持しつつ、種々の面上に均一な膜厚の超薄膜コートが可能となる。例えば、基板の表面平均粗さと、その基板上に形成される高分子超薄膜の表面平均粗さとの差は、好ましくはRaの値で10nm以下程度である。
【0027】
上記基板は、その材質に起因して水酸基などの官能基(Z)が、基板表面上に存在している。そこで、基板と上述の光開裂化合物(Q−Y)を接触させ、官能基(Z)と基板結合部位(Q)とを結合させることで、基板表面上に光開裂化合物(Q−Y)を導入することができる。また、各種基板、特に樹脂基板などの絶縁基板を用いる場合は、基板表面にコロナ処理、グロー処理、UV処理、プラズマ処理などの表面処理により、水酸基、カルボキシル基などを発生させてもよい。
【0028】
光開裂化合物(Q−Y)を基板結合部位(Q)を介して基板に結合させて、重合開始層を作製する方法(光開裂化合物結合工程)としては、光開裂化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解または分散させ、その溶液または分散液を基板表面にスピンコートなどによって塗布する方法(塗布方法)、または、溶液または分散液中に基板を一定時間浸漬させ、洗浄する方法(浸漬方法)などを用いることができる。
浸漬方法を用いると、膜厚が薄く、平坦性に優れた重合開始層を得ることができ、基板表面の重合開始層上に作製される高分子超薄膜の膜厚の均一性がより優れたものとなる。好ましくは、得られた重合開始層は、光開裂化合物(Q−Y)からなる自己組織化単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)である。
なかでも、得られる高分子超薄膜の膜厚の均一性がより優れ、後述する用途などに好適に用いることができるという点で、重合開始層の膜厚が1〜15nmであることが好ましく、さらに1.0〜5.0nmが好ましく、特に1.5〜5.0nmが好ましい。重合開始層の膜厚の測定方法は、エリプソメトリー(溝尻光学社製 DHA−XA/S4)を用いて、膜表面上の任意の点を12ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0029】
また、得られる高分子超薄膜の膜厚の均一性がより優れ、後述する用途などに好適に用いることができるという点で、重合開始層の平均表面粗さRaが、0.01〜2nmであることが好ましく、さらに0.05〜1nmが好ましく、特に0.1〜0.6nmが好ましい。なお、平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)は、JIS B 0601によりRaの略号で表される値であり、表面粗さの値の平均線から絶対値偏差の平均値を表す。測定方法は、AFM(原子間力顕微鏡)などにより測定することができ、任意の点を2ヵ所以上測定して求めた値である。
【0030】
なお、上述の塗布方法または浸漬方法で使用される溶液中または分散液の光開裂化合物(Q−Y)の濃度としては、溶液または分散液全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。また、接触させる際の液温としては、10〜50℃が好ましい。接触時間としては、10秒〜24時間が好ましく、3分〜10時間がより好ましい。
【0031】
<ラジカル重合性基を有する高分子>
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子とは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのラジカル重合性基(エチレン付加重合性不飽和基など)を導入した高分子をさす。この高分子は、少なくとも末端または側鎖にラジカル重合性基を有するものであり、側鎖にラジカル重合性基を有するものがより好ましい。なお、このラジカル重合性基を介して高分子と上述の基板(または基板表面上の重合開始層)との間で直接結合(共有結合)が形成され、基板表面上に高分子超薄膜が形成される。
【0032】
なお、ラジカル重合性基を有する高分子は、得られる高分子超薄膜の機能性付与の観点から、親水性基などの相互作用性基をさらに有することが好ましい。相互作用性基としては、例えば、極性基が挙げられる。この極性基の中でも、親水性基が好ましく、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウなどの正の荷電を有する官能基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有する官能基、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性基が挙げられる。防曇性などの目的のために表面親水性を高くするには特にスルホン酸基、カルボキシル基,リン酸基、ホスホン酸基などが好ましい。
【0033】
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、溶媒への溶解性などの観点から、1000〜1000000が好ましく、3000〜400000がより好ましい。本発明で得られる高分子超薄膜は使用される分子量と相関し、分子量が小さいと膜厚は小さく、分子量が大きいと膜厚が大きい。したがって、1000より小さいと膜厚は小さく均一な膜が得られにくくなり、また分子量が1000000より大きいと10nm以上の膜厚となりやすい。
【0034】
ラジカル重合性基を有する高分子の合成方法としては、例えば、(i)ラジカル重合性基を有するモノマーと他のモノマー(例えば、相互作用性基を有するモノマー)とを共重合する方法、(ii)ラジカル重合性基前駆体を有するモノマーと他のモノマー(例えば、相互作用性基を有するモノマー)とを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(iii)カルボン酸などの官能基を有する高分子とラジカル重合性基を有するモノマーとを反応させ、ラジカル重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、(iii)の方法が好ましい。
【0035】
上記(i)および(ii)の合成方法でラジカル重合性基を有するモノマーと共に使用される他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、スチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、スチレン、エチル(メタ)アクリル酸エステル、n−ブチル(メタ)アクリル酸エステルなど炭素数1〜24までのアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
なかでも、相互作用性基を有するモノマーが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基及びエーテル基などの親水性基を有するモノマーが挙げられる。
【0036】
上記(i)の方法で使用されるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーであり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0037】
上記(ii)の合成方法に使用される重合性基前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレートや、特開2003−335814号公報に記載の化合物(i−1〜i−60)を使用することができる。
【0038】
更に、上記(iii)の合成方法に用いられる相互作用性基を有する高分子中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して、重合性基を導入するために用いられるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
ラジカル重合性基を有する高分子中の高分子骨格の種類は、特に制限されないが、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ノボラック樹脂、クレゾール樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。これらのうち本発明で有用なポリマーはアクリル樹脂、スチレン樹脂が好ましい。
【0040】
なかでも、ラジカル重合性基を有する高分子の好ましい態様として、下記一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)が挙げられる。
【0041】
【化6】

【0042】
(一般式(1)中、Rは、水素原子、またはアルキル基を表す。Rは、カルボキシ基、エステル基、アミド基、二トリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、またはアルキルカルボニルオキシ基を表す。
一般式(2)中、Rは、水素原子、またはアルキル基を表す。Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。Zは、アリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表す。)
【0043】
一般式(1)中、Rは、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1が好ましく、例えば、メチル基などが挙げられる。Rとして、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0044】
一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、アルキルカルボニルオキシ基(例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基)、エステル基、アミド基、ニトリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、またはホスホン酸エステル基を表す。なかでも、カルボキシル基、エステル基、アミド基またはアリール基が好ましい。
【0045】
一般式(2)中、Rは、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基などが挙げられる。Rとして、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0046】
一般式(2)中、Lは、2価の連結基または単なる結合手を表す。連結基としては、具体的に、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。)、−O−、アリーレン基(フェニレン基など)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。なお、これら連結基は、ヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよい。
Lが単なる結合手の場合、一般式(1)のZがC(炭素原子)と直接結合することをさす。
【0047】
一般式(2)中、Zはアリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表し、なかでもアクリロイル基、またはメタクリロイル基が好ましい。なお、これらの基は、上述のラジカル重合性基として作用し、基板(または基板表面上の重合開始層)と反応して直接結合を形成する。つまり、これらの基を介して一般式(1)および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子と基板との間で直接結合(共有結合)が形成される。
【0048】
上述の一般式(1)および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子は、連結の様式は特に限定されず、それらが1ずつ交互に連結しても、複数ずつ交互に連結しても、ランダムに連結してもよい。また、他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0049】
上述の一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、全繰り返し単位に対して、10〜99モル%が好ましく、60〜95モル%がより好ましい。10モル%より少ないと、重合性基の比率が多くなり、ポリマー分子同士の架橋反応が起り、膜厚が厚くなりやすい。また99モル%より多いと重合性基の比率が少なくなり、膜厚が薄くなると共に、欠陥のない均一な薄膜が得られにくくなる。
なお、上述の一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、全繰り返し単位に対して、1〜90モル%が好ましく、5〜30モル%がより好ましい。
【0050】
上述の一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子は、上記(i)〜(iii)の方法を用いて合成することができる。
【0051】
以下に本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、ラジカル重合性基を有する高分子は、公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。
【0052】
【化7】

【0053】
<製造方法>
本発明に係る高分子超薄膜は、主に以下の3つの工程より製造される。
<工程1>露光によりラジカルを発生しうる基板に、ラジカル重合性基を有する高分子を接触させる工程
<工程2>工程1で得られた基板に露光を行い、ラジカル重合性基を有する高分子を基板表面に結合させる工程
<工程3>工程2で得られた基板を溶媒で洗浄する工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0054】
<工程1>
工程1は、露光によりラジカルを発生しうる基板に、ラジカル重合性基を有する高分子を接触させる工程である。具体的な方法としては、ラジカル重合性基を有する高分子を溶解した溶液または分散した分散液をスピンコート法などによって基板に塗布する方法(塗布方法)、溶液または分散液に基板を浸漬する方法(浸漬方法)などが挙げられる。これらの方法により基板上に塗膜が形成される。取り扱いや製造効率の観点からは、塗布方法が好ましい。
【0055】
使用される溶媒は、使用されるラジカル重合性基を有する高分子などの種類によって適宜最適な溶媒が選択される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、水などが挙げられる。なかでも、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノールが好ましい。
【0056】
使用される溶液または分散液中のラジカル重合性基を有する高分子の濃度としては、用いられる高分子によって異なるが、溶液全量に対して、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる高分子超薄膜の膜厚の制御がより容易となり、膜厚の均一性がより高まる。
【0057】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて上記溶液に界面活性剤など添加剤を加えてもよい。例えば、界面活性剤としては、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品として、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0058】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた基板に露光を行い、基板表面に発生したラジカルを起点として、ラジカル重合性基を有する高分子を基板表面に結合させ、基板表面上に高分子超薄膜を作製する工程である。具体的には、重合性基を有する高分子を上述のように塗布方法や浸漬方法により基板と接触させた状態で、露光を行う。
【0059】
露光は、重合開始部位(Y)において開裂を生じさせることのできる露光を意味する。本発明に係る高分子超薄膜を得るためには、露光波長が300nm以上である必要があり、好ましくは310nm以上である。露光波長が300nm未満であると、ラジカル重合性基を有する高分子が基板と反応するだけでなく、高分子鎖の切断や、ラジカル重合性基の光吸収によりラジカルが発生し、高分子同士の分子内架橋が進行してしまう。そのため、得られる高分子膜の膜厚が厚いものとなってしまい、所望の範囲の膜厚を得ることができない。
【0060】
露光には、ラジカル重合性基を有する高分子が光吸収しない波長の光のみを発する光源を用いる方法や、ラジカル重合性基を有する高分子が光吸収しない波長の光のみを透過させる、つまり、高分子が光吸収してしまう波長の光をカットするカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。例えば、320nm未満の波長の光をカットするガラスなどのカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。
露光光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザーなどが用いられる。
【0061】
また、露光の際に、高精細なパターン露光を施すことにより、露光に応じた高精細(高解像度)パターンの高分子超薄膜を基板表面上に作製することもできる。高精細パターン形成方法のための露光方法としては、光学系を用いた光ビーム走査露光、マスクを用いた露光などが挙げられ、所望のパターンの解像度に応じた露光方法を用いることができる。
特に、ラインアンドスペースの線幅が1000nm以下の超微細な導電性パターンを形成する際のパターン露光としては、具体的には、i線ステッパー、g線ステッパー、KrFステッパー、ArFステッパーのようなステッパー露光や、二光束干渉露光機による露光などが挙げられる。
【0062】
露光は、酸素の影響を低減させるため、窒素などの不活性雰囲気下や真空下で行われることが好ましい。または、基板上にラジカル重合性基を有する高分子を含む溶液や分散液を接触させた後、グラフト反応を生起させるための光、即ち、本発明においては、例えば、320nm以上の波長の光が透過する材質(例えば、ガラス、石英、透明プラスチック製の板やフィルムなど)で当該溶液や分散液を覆ってもよい。これら、溶液や分散液を覆う部材は、上記の320nm未満の波長の光をカットするカットフィルターとして機能してもよい。
【0063】
露光条件は、使用するラジカル重合性基を有する高分子の種類や使用する光源などによって適宜最適な条件が選択されるが、通常、露光時間は0.1〜30分である。また、露光エネルギーとしては、1mJ/cm以上であることが好ましく、10mJ/cm以上であることがより好ましい。
【0064】
<工程3>
工程3は、工程2より得られたラジカル重合性基を有する高分子が直接結合した基板を洗浄する工程である。具体的には、得られた基板に溶媒浸漬や溶媒洗浄などの処理を施して、基板上に残存する高分子を除去する工程である。使用する溶媒は、工程2で使用したラジカル重合性基を有する高分子の種類などにより適宜最適な溶媒が使用される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、水、メタノール、アルカリ水などが挙げられる。なお、洗浄の際に、超音波などの手段を併用して用いてもよい。
【0065】
本発明に係る高分子超薄膜を製造する際、増感剤は実質的に使用されないことが好ましく、使用されないことがより好ましい。ここで、増感剤とは、後述する露光の際に使用される活性エネルギー線により励起状態となり、基板上のラジカル重合開始層などと相互作用(例えば、エネルギー移動、電子移動など)することにより、ラジカルの発生を促進する化合物をさす。より具体的には、特願2006−350307号明細書、段落番号[0032]〜[0056]に記載されている化合物をさす。本発明者らは、ラジカルを発生しうる基板中に増感剤などが含まれている場合、膜厚が10nm未満の高分子超薄膜が得られない場合があることを見出した。理由の詳細は不明であるが、基板中または基板表面上にある増感剤が重合性基を有する高分子の塗布膜中に移動して、露光の際に高分子同士の分子内架橋を誘起するラジカル発生源となり、基板表面以外で重合反応が進行するためと考えられる。
【0066】
本発明に係る高分子超薄膜の製造において重合性基を有する高分子は、実質的に基板表面に固定されたラジカルとのみ反応する。したがって発生するラジカルとラジカル重合性基を有する高分子は選択的に基板界面で反応すると考えられる。
【0067】
本発明に係る高分子超薄膜は、上記の方法により作製される。特に、得られる高分子薄膜の平坦性、膜厚の均一性がより優れるという点で、光開裂化合物(Q−Y)を用いて形成される重合開始層を表面上に有する基板(特に、浸漬方法で作製される基板)を用いることが好ましい。より具体的には、光開裂化合物(Q−Y)を含む溶液に基板を浸漬させ、基板表面上に重合開始層を作製する工程(工程A)と、工程Aで得られた基板とラジカル重合性基を有する高分子を接触させ、300nm以上の波長の光で露光を行い、ラジカル重合性基を有する高分子を該基板表面の重合開始層に結合させる工程(工程B)と、工程Bで得られた基板を洗浄する工程(工程C)を含む方法により得られる高分子超薄膜(または、高分子超薄膜を含む積層体)が好ましい。
【0068】
<高分子超薄膜>
上述の製造工程により得られる基板上の高分子超薄膜の膜厚は、通常1〜10nmであり、使用する重合性基を有する高分子の種類や露光条件などによりその厚みは適宜調整される。好ましい範囲は、使用用途によって大きく異なる。ITOなどの導電性基板の表面電位調整材料、または電子若しくはホール移動制御材料として使用する場合には1〜5nm、より好ましくは1〜3nmである。また表面親水性材料などに使用する場合には2〜10nm、より好ましくは4〜10nmである。なお、膜厚の測定方法は、エリプソメトリーなどの公知の方法により、膜表面上の任意の点を10ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0069】
さらに、後述する用途などに好適に用いることができるという点で、高分子超薄膜の膜厚の標準偏差は、1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましい。なお、下限については、小さければ小さいほど好ましく、特に0が好ましい。
【0070】
本発明に係る高分子超薄膜の平均表面粗さRaは、好ましくは3nm以下である。特に、使用する基板表面上に作製される重合開始層が上述した浸漬方法により作製された場合、得られる高分子超薄膜の平坦性はより向上する。具体的に、得られる高分子超薄膜の平均表面粗さRaは、好ましくは0.1〜2.0nmである。平均表面粗さRaが上記範囲内であれば、この薄膜を用いた材料の信頼性があがることになる。例えば、ITOの上に設けた電荷制御用の薄膜に関していえば、薄膜を通した電子の移動などが均一に進行し、デバイスの性能、信頼性が高まることになる。なお、平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)は、JIS B 0601によりRaの略号で表される値であり、表面粗さの値の平均線から絶対値偏差の平均値を表す。測定方法は、AFM(原子間力顕微鏡)などにより測定することができる。
【0071】
本発明に係る高分子超薄膜は、重合性基を有する高分子の重合性基を介して基板と結合(グラフト)している。そのため、溶媒などと接触させても基板上から剥がれることなく膨潤し、基板表面に種々の機能性(低摩擦性、表面親水化)を付与できる。特に、本願に係る高分子超薄膜は、膜厚が薄く、高分子間の分子内架橋が抑制されているため、従来の薄膜よりも高い膨潤率を示す。例えば、重合性基を有する高分子が上述のように相互作用性基(特に、親水性基)を更に有する場合、pH8〜11の水溶液中での膜の膨潤率は好ましくは300〜2000%、より好ましくは400〜1000%となる。また重合性基を有する高分子として親水性ではなく疎水的な高分子を選択する場合は,膨潤率はその高分子が最も解けやすい有機溶媒が選択され,その膨潤度も好ましくは300〜2000%、より好ましくは400〜1000%となる。
なお、膨潤率は、乾燥時の層膜厚(a)および、25℃のpH8〜11の水溶液中に5分間浸漬した後の層膜厚(b)を測定し、以下の式より求める。
膨潤率(%)=100×[((b)-(a))/(a)]
【0072】
本発明においては、上述の製造方法(好ましくは工程A、工程B、および工程Cを含む方法)によって、露光によりラジカルを発生しうる基板と、上記基板と直接結合して上記基板表面上に形成される高分子超薄膜とを備え、高分子超薄膜の膜厚が1〜10nmであることを特徴とする積層体(構造体)が得られる。なかでも、基材と、基材表面上にラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が基板結合部位を介して基板と結合して形成される重合開始層と、重合開始層と直接結合して重合開始層上に形成される高分子超薄膜とをこの順で備える積層体(構造体)であって、高分子超薄膜の膜厚が1〜10nmであることを特徴とする積層体(構造体)が好ましい。
【0073】
本発明に係る高分子超薄膜は、基板と結合しているため摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理に対する耐性に優れるとともに、ナノメートルレベルでの構造制御が可能である。また、大面積かつ短時間での製造が可能であり、生産性・工業性という観点からも好ましい。さらには、製造方法によっては、膜の平坦性・膜厚の均一性が極めて高い高分子超薄膜が得られる。そのため、該高分子超薄膜は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、ディスプレイなどのフィルム材料、ITOなどの導電性基板の電位調節材料、または、電子やホール注入材料、表面親水性材料、表面撥水材料などが挙げられる。
特に、本発明に係る高分子超薄膜は、上述のように基板の表面形状に対する追随性に優れる。そのため、基板の曲面や凹凸表面などの初期表面形状を保持しつつ、基板上に均一な膜厚の高分子超薄膜が形成される。通常、レンズ表面を機能化するために塗布処理などを行うと、レンズの中心部と周辺部との間で塗布膜の膜厚差が生じ、歪みなどを引き起こして、レンズ自体の性能を落としてしまう。一方、本発明の高分子超薄膜は、種々の表面形状に対して優れた追随性を示すため、レンズ曲面の形状を保持したまま膜が形成される。つまり、曲面上に均一な膜厚の高分子超薄膜を作製することができる。そのため、レンズ自体の性能を落とすことなく種々の表面機能化が可能であり、例えば、防曇レンズや超撥水ガラスなどの作製に好適に使用することができる。
また、本発明に係る高分子超薄膜は膜厚が非常に薄いため、電子のトンネリングなどが起こりやすい。そのため、ITOなどの基板上に本発明に係る高分子超薄膜を作製することにより、ITO表面の親水化や高分子超薄膜上に積層される化合物の配向制御など所望の表面特性を与えることが出来ると共に、高分子超薄膜上に積層される有機半導体などに高分子超薄膜を介して電子を送ることができる。そのため、該膜は従来材料にない機能を有しており、有機デバイスなどの材料としての使用が期待される。なお、重合開始層を基板が備える場合は、該層の厚みが薄いほど、電子のトンネリングなどが起こりやすく好ましい。また、高分子超薄膜の平坦性・膜厚の均一性が高いと、作製される膜ごとの物性値のバラツキが小さく、再現性に優れるため生産性の点から好ましい。
さらには、高分子超薄膜上に金属膜を有する場合、膜厚が薄いために加熱することにより、金属膜が高分子超薄膜の分解を介して基板へマイグレーションする。そのため、金属膜の基板に対する密着性の向上が期待でき、従来よりも簡易な方法で基板と金属膜との密着性に優れた半導体集積回路などを作製できる可能性がある。
【実施例】
【0074】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
【0075】
後述する重合開始層および高分子超薄膜の測定は、溝尻光学(株)(DHA−XA/SA)を用いて測定を行った。
【0076】
(合成例1:ラジカル重合性基を有する高分子B1の合成)
500ml三口フラスコに、ジメチルアセトアミド200g、ポリアクリル酸(和光純薬製、分子量:25000)30g、テトラエチルアンモニウム、ベンジルクロライド2.4g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン25mg、サイクロマーA(ダイセル化学(株)製)25gを入れ、窒素気流下、100℃、5時間反応させた。その後、アセトニトリルで再沈を行い、固形物を濾取し、水で洗浄、乾燥して、重合性基含有ポリマーB1を23g(Mw:5.6万)得た。なお、以下の式中の数値は、各繰り返し単位のモル%を示す。
【0077】
【化8】

【0078】
(合成例2:ラジカル重合性基を有する高分子B5の合成)
窒素置換し、100ml/minにて窒素flow(以下反応終了まで流す)した300ml三口フラスコにNMP(N−メチルピロリドン)32.12gを量り取り、内温65℃、スリーワンモーターの回転速度250rpm/minにて安定させた。スチレン28.08g(0.27mol)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMA)3.90g(0.03mol)、NMP32.12g、V−601(0.69g)(1mol% vs monomer)を200mlメスシリンダーに量り取り30分撹拌した。プランジャーポンプを用いて、メスシリンダーにて撹拌した溶液を2時間かけて三口フラスコに滴下し、反応を開始した。滴下終了後、後反応を4時間行い、終了後室温まで放冷した。
次に、反応溶液をスリーワンモーターにて250rpm/min、室温で撹拌した。三口フラスコにTEMPO0.063g(1mol% vs カレンズAOI)のNMP1g溶液、tert-ブチルヒドロキノン0.060g(0.1mol% vs −OH)のNMP1g溶液、および、ネオスタンU−600(日東化成社製)0.0624g(0.2mol% vs −OH)のNMP1g溶液を加えた。反応溶液にカレンズAOI(昭和電工社製)5.715g(1.5mol vs −OH)のNMP2g溶液を、滴下ロートを用いて5minかけて滴下した。フラスコの内温を55℃まで昇温し、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノールに投入して再沈精製を行い、所望の重合性基含有ポリマーB5(12.69g)(Mw:26000)を得た。得られたポリマーの組成をNMRを用いて調べたところaは86モル%、bは14モル%であった。
【0079】
【化9】

【0080】
(合成例2:光開裂化合物P1の合成)
4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル29.33g(0.15mol)を200ml三口フラスコに量り取り、DMAc100mlを加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。発熱しないように少量ずつKCO22.81g(0.165mol)を加え、反応液を80℃に加温した。11−ブロモ−1−ウンデセン38.78g(0.166mol)を30分かけて滴下し、滴下後1.5時間攪拌し、さらに100℃にて2.5時間撹拌した。反応終了後、氷水へと反応溶液を流し入れ固体を析出させ、吸引ろ過後、大量の蒸留水にて洗浄した。得られた固体を、アセトニトリルにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体であるシアノエーテル体(40.21g)を得た。
得られたシアノエーテル体10.42g(0.03mol)を200ml三口フラスコに量り取り、三口フラスコを氷浴に浸し(塩化ナトリウム添加)冷却後、トリクロロアセトニトリル25.99g(0.18mol)を加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。反応溶液をHClガスで1時間バブリングした。バブリング終了後、5時間撹拌し、さらに氷浴で24時間撹拌を続けた。氷浴を外し、トリクロロアセトニトリル6.5gを追加後、室温にて24時間反応を続けた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて単離後、さらにn−hexaneにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体のトリアジン化合物(3.37g)を得た。
得られた二重結合を有するトリアジン化合物1.42gとTHF8mlを50mlナスフラスコに量り取り、氷水でナスフラスコを冷却し、窒素気流下、トリクロロシラン0.9gを滴下した。さらに、塩化白金酸60mgをイソプロピルアルコール0.6gに溶解した液を滴下した。反応液を氷冷下で6時間攪拌した後、室温に戻し、一晩放置した。反応液をエバポレーターにて濃縮し、さらに真空ポンプにて揮発成分を取り除き、所望の光開裂化合物P1(2.3g)を得た。
【0081】
【化10】

【0082】
<実施例1>
UVオゾンクリーナー処理したシリコン基板を、光開裂化合物P1の0.1wt%トルエン溶液に5時間浸漬した。浸漬後、基板表面をトルエンで洗浄した。シリコン基板表面上に作製された重合開始層の膜厚を、エリプソメトリー(溝尻光学)(測定範囲5mm)を用いて測定したところ、2.5nm(12点平均値、標準偏差0.91Å、平均表面粗さRa0.1nm)であった。
次に、ラジカル重合性基を有する高分子B1の濃度が1wt%の1−メトキシ−2−プロパノール溶液を、ラジカル重合開始層を備えるシリコン基板上にスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、30nmであった。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm)、365nm(光量35mW/cm))から出される光を、320nm以上の光のみを透過するガラス板(青色ガラス、松並ガラス社製)を通して、上述のシリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。露光後、1wt%の重層水にシリコン基板を10分間浸漬し、さらに基板表面を水洗いした。洗浄および乾燥後、シリコン基板上に得られた高分子超薄膜の膜厚を測定したところ、4.0nm(標準偏差0.5Å)であった。また、得られた高分子超薄膜の平均表面粗さRaは、0.2nmであった。また得られた膜は無色透明で目視により着色は認められなかった。
【0083】
<比較例1>
露光の際に、320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光した以外は、上記実施例1と同様の手順により高分子薄膜を作製した。得られた高分子薄膜の膜厚は、31.5nm(標準偏差30Å)で、平均表面粗さRaは、2.0nmであった。
【0084】
<比較例2>
実施例1で作製した光開裂化合物P1が結合した基板を使用し、この基板に下記化合物S1の1.0質量%のトルエン溶液を、スピンコーターを使用し、300rpmで5秒間、その後1000rpmで20秒間回転させることによりS1をコートした。
【0085】
【化11】

【0086】
次に、ラジカル重合性基を有する高分子B1の濃度が10wt%の1−メトキシ−2−プロパノール溶液を、上記のS1をコートした基板にスピンコートした。スピンコーターは、まず300rpmで5秒間、その後1000rpmで20秒間回転し、80℃で5分間乾燥した。次に上記実施例1と同様にガラスを通した光で60秒間露光し、露光後、1wt%の重層水にシリコン基板を10分間浸漬し、さらに基板表面を水洗いした。洗浄および乾燥後、得られた高分子薄膜の膜厚は150nmであり、所望の厚さではない膜であった。また得られた膜は黄色の着色が認められた。
【0087】
実施例1では、所望の膜厚を有する高分子超薄膜が得られた。一方、320nm以上の光のみを透過するガラス基板を用いずに露光した比較例1では、塗布膜の膜厚と同程度の膜厚を有する高分子薄膜が得られた。これは、基板表面からのグラフト反応のみならず、320nm未満の波長(例えば、254nm)の光により高分子同士の架橋が進行したためと考えられる。このことを確認するために開始剤を固定化していない表面未処理のガラス基板(松浪ガラス製)を用いた以外は比較例2と同様の操作を行ない、露光現像したところ100nmの膜厚が残存し、高分子同士の架橋が進行したことが確認された。
またこれに比較し、本願の増感剤を使用せず実施例1で未処理ガラス基板を使用した場合は、露光現像しても高分子膜の残存は認められなかった。
【0088】
<実施例3>
ラジカル重合性基を有する高分子B1が溶解した溶液の濃度を3wt%とした以外は、上記実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。その際、塗布膜の膜厚は、113nmであった。また、得られた高分子超薄膜の膜厚は、4nmであった。
【0089】
<実施例4>
ラジカル重合性基を有する高分子B1が溶解した溶液の濃度を5wt%とした以外は、上記実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。その際、塗布膜の膜厚は、240nmであった。また、得られた高分子超薄膜の膜厚は、4nmであった。
【0090】
<実施例5>
ラジカル重合性基を有する高分子B1が溶解した溶液の濃度を7wt%とした以外は、上記実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。その際、塗布膜の膜厚は、324nmであった。また、得られた高分子超薄膜の膜厚は、5nmであった。
【0091】
<実施例6>
ラジカル重合性基を有する高分子B1が溶解した溶液の濃度を10wt%とした以外は、上記実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。その際、塗布膜の膜厚は、583nmであった。また、得られた高分子超薄膜の膜厚は、6nmであった。
【0092】
<比較例3>
露光の際に、320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光した以外は、上記実施例3と同様の手順により高分子薄膜を作製した。得られた高分子薄膜の膜厚は、53nmであった。
【0093】
<比較例4>
露光の際に、320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光した以外は、上記実施例4と同様の手順により高分子薄膜を作製した。得られた高分子薄膜の膜厚は、55nmであった。
【0094】
<比較例5>
露光の際に、320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光した以外は、上記実施例5と同様の手順により高分子薄膜を作製した。得られた高分子薄膜の膜厚は、310nmであった。
【0095】
<比較例6>
露光の際に、320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光した以外は、上記実施例6と同様の手順により高分子薄膜を作製した。得られた高分子薄膜の膜厚は、577nmであった。
【0096】
上記実施例3〜6、および比較例3〜6の結果を以下の表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
上記表1より、254nmの光をカットしたフィルター光で露光することにより、塗布膜の膜厚に関わらず10nm以下の高分子超薄膜が得られることが分かった。
【0099】
<実施例7>
ラジカル重合性基を有する高分子B1の代わりに、ラジカル重合性基を有する高分子B5を使用した以外は、実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。得られた高分子超薄膜の膜厚は、4nmであった。
【0100】
<実施例8:露光量による膜厚変化測定>
シリコン基板上の塗布膜への露光時間を、120秒、200秒に変更した以外、実施例1と同様の手順により高分子超薄膜を作製した。得られた高分子超薄膜の膜厚は、120秒の場合は4nm、200秒の場合は4nmであった。露光時間に関わらず、所望の高分子超薄膜が得られることが分かった。
【0101】
<実施例9:膨潤性試験>
実施例1で得られた高分子超薄膜を備える基板を、pH9の水溶液中に浸漬した。10分後、ウーラム社製(装置名)分光エリプソメトリーM2000Uを用いて水溶液中の高分子超薄膜の膜厚を測定したところ、膜厚は21nmで、膨潤度は425%であった。一方、比較例1で得られた高分子膜を備える基板を用いて、上記と同様の手順により水溶液中の高分子膜の膜厚を測定したところ、膜厚は52nmで、膨潤度は65%であった。本発明に係る高分子超薄膜は、膨潤性に優れることが分かった。
【0102】
<実施例10:レンズ上での高分子超薄膜の作製>
拡大鏡用レンズ(池田レンズ工業(株)社製、品番132、レンズサイズ直径40ミリ、サイズ92×41×8mm、倍率3.5倍)を使用し、実施例1と同様の方法にて光重合開始剤P1を付着させた。次に、ラジカル重合性基を有する高分子B1の濃度が10wt%の1−メトキシ−2−プロパノール溶液10mlをレンズ表面にたらし、直ちに80℃の乾燥機にて5分間乾燥した。得られた塗布膜の表面は、不均一な塗布面状をしていた。
次に、この塗布膜を有するレンズを実施例1と同じ方法によりガラスを通して露光し、実施例1と同じ方法により重曹水で洗浄した。乾燥後、レンズ上に作製された高分子超薄膜の膜厚をAFMにて測定したところ4nmであった。また、表面は親水性を示し、息を吹きかけても曇りが生じることはなく、レンズを介して新聞の文字を明瞭に読むことができた。
【0103】
<比較例7>
上記実施例10で作製した塗布膜を有するレンズを、ガラスのフィルターなしで露光を行った。得られたレンズは中心付近では薄い膜が形成され、端付近では厚い親水膜が形成された。息を吹きかけても曇りは生じなかったが、レンズ中心部と端部とで異なる膜厚の膜が形成されたためレンズはゆがみが生じており、レンズを介した新聞の文字は明瞭ではなかった。実施例10および比較例7から、膨潤度の優れた実施例10の薄膜は防曇性にも優れることが明らかである。
【0104】
実施例10および比較例7で作製されたレンズに注射針の針先で引っかき傷をつけ、その傷の深さをAFMで測定することにより、レンズ上に形成された膜の膜厚を測定した。結果を表2に示す。中心点での膜厚はレンズ中心から±3mmの位置で、端点での膜厚はレンズの端から5mmの位置で測定を実施した。なお、中心点では3点、端部点では6点測定した。
【0105】
【表2】

【0106】
表2から、実施例10において、塗布膜では中心点と端点とで膜厚差が生じているものの、露光後では中心点および端点において所望の膜厚を有する高分子超薄膜が得られたことが分かった。一方、比較例7においては、露光後も中心点と端点とで大きな膜厚差が生じており、ゆがみの原因となっていることが分かった。
【0107】
<実施例11:レンズ上での高分子超薄膜の作製>
上記のラジカル重合性基を有する高分子B1と分子量のみが異なる高分子B1b(分子量31.3万)および下記式で表わされる高分子B6(分子量4.1万)を用いて、以下に示すガラス上に高分子超薄膜を作製した。なお、高分子B1b中の繰り返し単位の割合は、高分子B1と同じである。また、以下の高分子B6の式中の数値は、各繰り返し単位のモル%を表す。
【0108】
【化12】

【0109】
ガラスとしてメレスグリオ社製平凹ガラスレンズ(10mmφ、r=−10.367mm、製品番号:01LPK001)を用いて、実施例1と同じ方法にて、光重合開始剤P1を付着させ、さらに上記の高分子を用いてガラスレンズ凹面に二種類の超薄膜を形成したレンズガラスを作製した。高分子B1bを塗布したものをG1レンズ、高分子B6を塗布したものをG2レンズと記号をつけた。つぎに加湿器の蒸気に暴露したところ、G1レンズ、G2レンズのいずれの凹面ガラスも曇りは発生しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光によりラジカルを発生しうる基板表面とラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される高分子超薄膜であって、膜厚が1〜10nmである高分子超薄膜。
【請求項2】
光露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される重合開始層を、前記基板が表面上に有することを特徴とする請求項1に記載の高分子超薄膜。
【請求項3】
前記重合開始層の膜厚が、1〜15nmであることを特徴とする請求項2に記載の高分子超薄膜。
【請求項4】
平均表面粗さRaが1nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の高分子超薄膜。
【請求項5】
溶媒に浸漬したときの膨潤度が300%〜2000%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子超薄膜。
【請求項6】
膜厚の標準偏差(σ)が1nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子超薄膜。

【公開番号】特開2010−42670(P2010−42670A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165439(P2009−165439)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】