説明

高分子電解質複合体の製造方法

【課題】電気メッキ法を採用することにより、従来の無電解メッキ法のみにより得られる高分子電解質の表面や内部に形成した金属層(メッキ層)と比較して、表面抵抗の抑制や、高分子電解質に対する密着性の向上、短時間で金属層の膜厚(メッキ厚)の確保、工程数の簡略化、メッキ厚や電極形状を容易に調整でき、更に、異種金属を容易に積層できる高分子電解質複合体の製造方法、及び、前記製造方法により得られる高分子電解質複合体を提供する。
【解決手段】高分子電解質の少なくとも表面より内部に、電気メッキ法により、金属層を形成する工程を含むことを特徴とする高分子電解質複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質複合体の製造方法に関し、特に、電気メッキ法により金属層を形成する高分子電解質複合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、イオン交換樹脂の表面や内部に金属層を形成するため、無電解メッキ法を採用することが開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
無電解メッキ法を採用する理由としては、イオン交換樹脂などの素材の形状に影響されることなく、導電性を有しない素材に対しても、金属層(メッキ層)を形成できるためである。
【0004】
しかし、前記無電解メッキ法を用いる場合、金属層の膜厚(メッキ厚)を厚くすることや、膜厚を制御することが困難であった。
【0005】
また、無電解メッキ法においては、還元剤溶液等により、素材表面に吸着した金属錯体等を還元剤溶液等により、直接還元することにより、金属粒子を析出させるが、素材への金属の密着性にバラツキがあり、例えば、前記イオン交換樹脂と金属層からなる複合体を、高分子アクチュエータ素子として用いるような場合には、密着性のバラツキにより、動作時に剥離が生じる等、問題が発生する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−235064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気メッキ法を採用することにより、従来の無電解メッキ法のみにより得られる高分子電解質の表面や内部に形成した金属層(メッキ層)と比較して、表面抵抗の抑制や、高分子電解質に対する密着性の向上、短時間での金属層の膜厚(メッキ厚)の確保、工程数の簡略化、メッキ厚や電極形状を容易に調整でき、更に、異種金属を容易に積層できる高分子電解質複合体の製造方法、及び、前記製造方法により得られる高分子電解質複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、高分子電解質複合体の製造方法について鋭意検討した結果、下記の高分子電解質複合体の製造方法を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、高分子電解質の少なくとも表面より内部に、電気メッキ法により、金属層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記高分子電解質の前記内部より表面側に、前記電気メッキ法以外の方法により、金属層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記電気メッキ法以外の方法が、無電解メッキ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、PVD法、及び、スパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種の方法であることが好ましい。
【0012】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記電気メッキ法以外の方法が、前記高分子電解質を金属板に接触させる方法であることが好ましい。
【0013】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記金属層を、前記高分子電解質の片側に形成することが好ましい。
【0014】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記高分子電解質の一方の片側が、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の他方の片側が、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記金属層が、前記高分子電解質に対を形成することが好ましい。
【0016】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記対を形成する一方の金属層と、他方の金属層が、同一金属、又は、異なる金属から形成されることが好ましい。
【0017】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記高分子電解質の表面に向かって、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の中心に向かって、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。
【0018】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記金属層が、少なくとも1種の金属から形成されることが好ましい。
【0019】
また、本発明の高分子電解質複合体は、前記製造方法により得られる高分子電解質複合体であることが好ましい。
【0020】
本発明の高分子電解質複合体は、前記金属層の表面抵抗が、0.001〜3Ω/cmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、電気メッキ法を採用することにより、従来の無電解メッキ法のみにより得られる高分子電解質の表面/及び内部に形成した金属層(メッキ層)と比較して、表面抵抗を小さく抑えることができ、高分子電解質に対する密着性の向上や、短時間での金属層の膜厚(メッキ厚)の確保、工程数の簡略化を可能とし、また、印加電圧などを経時的に変化(電圧や電流の波形を変化)させたり、通電量を調整することにより、メッキ厚や電極形状を容易に調整することができ、更に、異種金属を容易に積層することができるため、優れた性能を有する高分子電解質複合体を得ることができ、有用である。また、前記製造方法により得られた高分子電解質複合体は、高分子アクチュエータ素子やセンサー、キャパシタ、電池用電極、シールド材、太陽電池用電極などの用途にも使用でき、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率800倍)
【図2】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図3】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図4】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図5】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図6】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図7】無電解メッキ法及び電気メッキ法を採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図8】無電解メッキ法のみを採用した際の本発明の高分子電解質複合体のSEM写真(倍率1000倍)
【図9】非対称金属層を有する高分子電解質複合体の製造装置の概略図(片面メッキ)
【発明を実施するための形態】
【0023】
<高分子電解質複合体の製造方法>
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、以下の(i)〜(iii)の工程により、実施することができる。
【0024】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、(i)高分子電解質を、溶媒により膨潤させる前処理工程と、(ii)電気メッキ法以外の方法である、無電解メッキ法、真空蒸着、イオンプレーティング法、CVD法(例えば、熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、及び、スパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種の方法や、前記高分子電解質を金属板に接触させる方法(例えば、前記高分子電解質の表面に金属板(金属箔等を含む)に接触(貼付等)させる方法や、前記高分子電解質であるイオン交換樹脂を溶媒に溶解して、金属板(金属箔等を含む)に接触(キャスティング法等)させる方法)等により、前記高分子電解質の表面(及びその近傍に)に金属層を形成する工程(非電気メッキ工程:表面メッキ)、及び、(iii)電気メッキ法により、前記高分子電解質の前記表面より内部(場合によっては、表面を含む)に、前記金属層を形成する工程(電気メッキ工程:内部メッキ)を含むことが好ましい。以下に、本発明の高分子電解質複合体の製造方法について、詳細に説明する。
【0025】
(i)前処理工程
本発明の高分子電解質複合体の製造方法において、メッキ方法(電気メッキや非電気メッキ)の事前に行われる前処理工程として、前記高分子電解質(例えば、イオン交換樹脂)を膨潤させる膨潤工程を行うことができる。前記膨潤工程は、前記高分子電解質に、膨潤用の溶媒(膨潤溶媒)を浸透させるものである。なお、前記高分子電解質の膨潤した状態での厚さを前記高分子電解質の乾燥した状態での厚さに対して10%以上とする膨潤が好ましく、より好ましくは、25%以上である。前記膨潤工程を経ることにより、前記メッキ方法における金属錯体(金属イオンを含む)の吸着工程において、金属錯体が前記高分子電解質の表面(及びその近傍)に浸透・吸着しやすくなり、また、還元工程においても、還元剤溶液中の還元剤が、高分子電解質表面(及びその近傍)に、吸着しやすくなると考えられる。また、前記膨潤工程により金属メッキ(金属層)形成後の高分子電解質(膜状高分子電解質)内のイオン伝導度が向上し、膜内部抵抗が低下する。なお、前記膨潤工程を行うかは、任意である。
【0026】
(高分子電解質)
前記高分子電解質としては、金属錯体(金属イオンを含む)を透過でき、更に、十分に吸着させることができれば、特に制限されないが、たとえば、イオン交換樹脂を用いることが好ましく、フッ素系イオン交換樹脂や、スチレン等の炭化水素系イオン交換樹脂などを用いることがより好ましい。前記イオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、公知の樹脂を用いることができ、スルホン酸基や、カルボキシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。前記フッ素系イオン交換樹脂の具体例としては、パーフルオロカルボン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂を用いることができ、例えばNafion樹脂(パーフルオロスルホン酸樹脂、DuPont社製)、フレミオン(パーフルオロカルボン酸樹脂またはパーフルオロスルホン酸樹脂、旭硝子社製)等を用いることができる。前記炭化水素系イオン交換樹脂の具体例としては、例えばアシプレックス(旭化成社製)、セレミオン(AGCエンジニアリング社製)、ネオセプタ(アストム社製)等を用いることができる。前記イオン交換樹脂は、高分子電解質複合体が電解質塩を含有する場合に、電解質塩のイオン種を選択する自由度が大きく、用途や特性に応じた組み合わせの幅を広げることができることから、陽イオン交換樹脂であることが、より好ましい。なお、前記高分子電解質は、前記非電気メッキ工程や電気メッキ工程により得られる高分子電解質複合体として適した形状のものを用いることができ、膜状、板(シート)状、筒(円筒)状、柱状や管状等の所望の形状を用いることができる。
【0027】
前記イオン交換樹脂のイオン交換容量としては、0.5〜4.0meq/gのものを用いることが好ましく、より好ましくは、1.5〜3.0meq/gであり、特に好ましくは、2.0〜2.5meq/gである。前記範囲内にあるイオン交換樹脂を用いることにより、イオン伝導性、造膜特性、及び、メッキ特性(適性)に優れ、有用である。
【0028】
前記膨潤用の溶媒としては、架橋した高分子電解質(イオン交換樹脂等)を良く膨潤させることができる溶媒であり、高分子電解質の種類により異なるが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ジエチレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド等を用いることが好適である。特に、前記膨潤工程において、メタノール及び/又はエタノールを含み、更に他の溶媒を含む混合溶媒を浸透させて、前記高分子電解質(イオン交換樹脂)を膨潤させることが好ましい。これらの溶媒は、膨潤しやすく、取り扱いが容易であり、作業性が良好であるため、特に好ましい。また、高分子電解質を膨潤させることにより、高分子電解質の結晶化度が低下し、高分子電解質中の官能基を有する側鎖の絡み合いが緩和され、側鎖についてのセグメント運動の自由度が増大する。
【0029】
前記前処理工程は、温度及び浸漬時間等の条件が特に限定されるものではないが、温度20℃以上であることが効率よく膨潤するために好ましく、より好ましくは、30℃以上であり、特に好ましくは、35〜55℃である。
【0030】
前記前処理工程において、膨潤用の溶媒中に、高分子電解質(例えば、イオン交換樹脂)を浸漬させる方法を用いてもよく、また前記溶媒を高分子電解質の表面に塗布する方法を用いても良いが、高分子電解質を浸漬させる方法を用いることが、作業が容易であるため、好ましい。
【0031】
(ii)非電気メッキ工程(電気メッキ法以外の方法:表面メッキ)
本発明におけるメッキ方法としては、電気メッキ法を採用する方法であれば、特に制限されないが、例えば、前記電気メッキ法を実施する前、もしくは実施した後に、無電解メッキ法、キャスティング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば、熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、及び、スパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種の方法や、前記高分子電解質を金属板に接触させる方法、例えば、前記高分子電解質の表面に金属板(金属箔等を含む)に接触(貼付等)させる方法や、前記高分子電解質であるイオン交換樹脂を溶媒に溶解して、金属板(金属箔等を含む)に接触(キャスティング法等)させる方法等により、前記高分子電解質の表面(及びその近傍に)に金属層を形成する工程(非電気メッキ工程:表面メッキ)を採用することが好ましい態様である。特に無電解メッキ法は、高分子電解質等にも適用でき、素材形状の複雑なもの(高分子電解質等)に対しても、金属層(メッキ層)を形成することができ、有用である。また、前記キャスティング法は、金属板(金属箔等)上に溶解した高分子電解質(イオン交換樹脂等)の層を形成し、金属板(金属箔等)の良好な導電性を利用するため、電極及び集電体として使用するのに好ましい態様である。
【0032】
<表面メッキ(無電解メッキ法)>
(吸着工程)
本発明の高分子電解質複合体の製造方法において、電気メッキ法を実施する前、もしくは実施した後に、無電解メッキ法を採用する場合、吸着工程としては、金属錯体溶液や金属イオン溶液、またはこれらの混合溶液(以下、金属錯体溶液という。)を高分子電解質に塗布してもよいが、高分子電解質を金属錯体溶液に浸漬させることにより行えば、作業が容易であるため、より好ましい態様である。
【0033】
前記吸着工程は、高分子電解質に金属錯体(金属イオンを含む。以下同様。)を吸着させる工程であれば、温度及び浸漬時間等の条件が特に限定されるものではないが、温度20℃以上であることが効率よく吸着するために好ましく、より好ましくは、30℃以上であり、特に好ましくは、35〜55℃である。また、前記吸着工程は、金属錯体が高分子電解質中へ容易に吸着させるために、金属錯体溶液の中に、前記前処理工程において用いられる溶媒を含んでいても良い。ここで、前記吸着工程の金属錯体溶液は、還元されることにより形成される金属層(メッキ層:金属電極)が、電極として機能することができる金属錯体を含むものであれば、特に限定されるものではないが、たとえば、硫酸銅、硫酸スズ、フェナントロリン金属錯体、ジクロロフェナントロリン金属錯体(例えば、金錯体等)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を用いたキレート化金属錯体等が挙げられる。前記金属錯体溶液の濃度としては、特に限定されないが、たとえば0.05〜2.0mol/lであるものが好ましく、0.1〜1.5mol/lがより好ましく、0.2〜1.0mol/lであることが特に好ましい。また、前記金属錯体は、導電性を確保できる金属であって、無電解メッキ法として用いることができる金属錯体であれば、特に限定されるものではない。
【0034】
(還元工程)
本発明における還元工程は、前記吸着工程により高分子電解質中に吸着された金属錯体を還元し、金属を析出させる工程である。また、本発明における還元工程は、1種類の濃度の還元剤溶液を用いることも可能であり、複数濃度の還元剤溶液を用いることも可能である。なお、従来公知の方法を使用でき、特に限定されるものではない。
【0035】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法により得られる高分子電解質複合構造体は、前記高分子電解質上に金属層が形成(金属を析出)されるものであるから、金属層と高分子電解質の界面は、必ずしも明確なものではなく、高分子電解質中において、金属成分がリッチな領域や、高分子電解質成分がリッチになる構造をとりうる。すなわち、本発明の高分子電解質複合体における金属層とは、高分子電解質上に明確な金属の層として存在している必要はなく、少なくとも金属成分が互いに繋がることにより、電極として使用可能な通電性の良い部分が形成されていることで足りるものである。従って、本発明における高分子電解質複合体では、金属層と高分子電解質の層とが、目視による明確な界面を持たない構造であって、高分子電解質の層としての抵抗値を有する高分子電解質部分が、金属を主成分として含み、電極として使用可能な通電性の良い部分である構造をとることができる。
【0036】
また、本発明の高分子電解質複合体は、前記金属層を、前記高分子電解質の片側に形成する態様を採ることができる。前記片側のみに金属層を形成する場合、前記高分子電解質の一方の片側(表面側)が、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の他方の片側(表面側)が、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。なお、無電解メッキ法により、高分子電解質の表面付近全体に金属層を形成することができるが、表面の一部にマスキング等を施すことで、還元剤溶液を接触させないようにすることにより、マスキング等を施していない部分、例えば、片側(側面)のみに、金属層を形成することもできる。
【0037】
一方、本発明の高分子電解質複合体は、前記金属層を、前記高分子電解質の対を形成するものであっても構わない。また、前記対を形成する一方の金属層と、他方の金属層が、同一金属、又は、異なる金属から形成されていても構わないし、前記高分子電解質の表面に向かって、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の中心に向かって、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。前記金属層が対を形成している高分子電解質複合体は、そのまま、高分子アクチュエータ素子やセンサー、キャパシタ、電池用電極、シールド材、太陽電池用電極などの用途にも使用でき、有用である。
【0038】
本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記金属層が、少なくとも1種の金属から形成されることが好ましい。すなわち、1種(単独)の金属種から形成されていても構わないし、複数の金属種を含んだものであっても、電極として使用可能な通電性の良い部分(構造)をとることができるものであれば、問題ない。
【0039】
<表面メッキ(無電解メッキ法以外のキャスティング法等)>
また、無電解メッキ法以外の電気メッキ法以外の方法として、高分子電解質の表面に金属板(金属箔等を含む)に接触(貼付等)させる方法や、キャスティング法を採用することができる。前記キャスティング法とは、高分子電解質(イオン交換樹脂等)を溶媒に溶かし、金属箔や金属板上にキャスティングし、その後乾燥させて、金属箔等と高分子電解質を一体化させる事で高分子電解質複合体を得る方法である。なお、前記キャスティング法を行った後に、電気メッキ法を実施することにより、高分子電解質層と金属層の密着性を向上させることができ、好ましい。また、無電解メッキ法やキャスティング法以外の方法として、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば、熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、及び、スパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を選択することができるが、これらの方法としては、従来公知の方法を制限なく使用できる。
【0040】
(iii)電気メッキ工程(電気メッキ法:内部メッキ)
電気メッキ法としては、特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。電気メッキ法を採用することにより、従来の無電解メッキ法のみにより得られる高分子電解質の表面や内部に形成した金属層(メッキ層)と比較して、高分子電解質複合体における表面抵抗を抑制でき、高分子電解質に対する密着性の向上や、短時間で金属層の膜厚(メッキ厚)の確保、工程数の簡略化を可能とし、また、印加電圧などを経時的に変化(電圧や電流の波形を変化)させたり、通電量を調整することにより、メッキ厚や電極形状を容易に調整することができ、更に、異種金属を容易に積層することができるという点で、非常に優れている。なお、本発明において、特に好ましい態様として、以下に詳細な電気メッキ法を説明する。
【0041】
前記電気メッキ法(電解メッキ法)としては、例えば、本発明のように高分子電解質の片面又は両面に従来公知の電気メッキ法を使用することができる。また、片面のみ、無電解メッキ法を行い、その後、電気メッキ法を使用したもの、あるいは、電気メッキ法のみを使用して金属層を形成したものを、2枚を貼り合わせて、両面共に電気メッキしたものとしても使用することもできる。更に、本発明のように高分子電解質のような微細の構造のものを使用する場合や、通電性に乏しい樹脂等を使用する場合には、あらかじめ上述したように、前記無電解メッキ法等の表面メッキ(電気メッキ法以外の方法)により、金属層を形成し、通電性を向上させた後に、電気メッキ法により、印加電圧や通電量を変調しながら、金属層(メッキ層:金属電極)の膜厚(メッキ厚)や、電極形状を調製する方法等が挙げられる。特に、電気メッキ法を採用することにより、より表面積の大きな樹状の金属層、及び、より膜厚の厚い金属層(バルキーな金属部位)を自在に形成することができ、非常に有用である。なお、無電解メッキ法により、高分子電解質の表面付近全体に金属層を形成することができるが、続いて、電気メッキ法を採用する場合、前記金属層の一部の端面をカットし、金属層を除去して、絶縁層である高分子電解質層のみを露出した後で、残った金属層上に電気メッキ法を採用することで、金属層の膜厚等を調整してもよい。
【0042】
より具体的には、前記無電解メッキ法等を行った後、定電流方式により、一定電流を通電し、金属層(金属電極)を形成することも可能であるし、前記前記無電解メッキ法等を行った後、定電圧方式又は電圧制御方式により、金属層(金属電極)を形成することも可能であり、これらを組み合わせても実施することができる。また、印加電圧、電流波形を変え、様々な電圧、電流を与える事で自在に電極形状を変えることができる。
【0043】
前記電気メッキ法と、前記無電解メッキ法等と併用することにより、より精密な金属メッキを施すことが可能となり、有用である。なお、金属錯体や金属イオン等を含む電解液に高分子電解質を浸漬等し、通電することにより、金属メッキを施すことが可能であり、また、前記電解液については、前記無電解メッキ法等と同様に、公知の電解液を公知のメッキ条件にて、使用することができる。
【0044】
前記電気メッキ法におけるメッキ条件としては、従来公知の方法を使用できるが、例えば、定電流方式を採用するのであれば、電解液(還元剤溶液)の濃度及び反応温度としては、例えば、20〜60℃において、0.05〜3.0mol/l(M)が好ましく、0.1〜2.0mol/lがより好ましく、0.5〜1.0mol/lが特に好ましい。また、反応時間としては、数分間〜10時間が好ましく、より好ましくは、20分間〜2時間である。また、通電量としては、0.1〜5A/dmが好ましく、0.5〜2A/dmがより好ましい。
【0045】
定電圧方式を採用する場合であれば、例えば、0.1〜3.0Vを、1分間〜1時間印加することが好ましく、0.2〜1.0Vを、数分間〜30分間印加することがより好ましい態様である。
【0046】
また、電圧制御方式による場合には、例えば、0.05〜0.5Vの電圧を、1分〜30分間印加し、更に0.5〜1.0Vの電圧を1秒〜5分間印加する事が好ましく、0.1〜0.3Vの電圧を、5分〜20分間印加し、更に0.6〜0.8Vの電圧を5秒〜2分印加する事がより好ましい態様である。
【0047】
更に、印加電圧や印加電流は、サイン波、三角波、のこぎり波、方形波等によって制御される事が特に好ましい。これら波形を制御することは容易であり、作業性に優れ、特に、金属層(金属電極)の膜厚や電極形状を容易に制御できるため、有用である。なお、サイン波、三角波にて電圧を印加した場合、高分子電解質内の金属層を形成する金属微細構造(金属部樹状メッキ形状等)が、滑らかな形状となり、のこぎり波にて電圧を印加した場合は、金属部樹状メッキ形状の根元側が太くなり、方形波にて電圧を印加した場合は樹状メッキの起点が増え、より微細な形状をとることができる。
【0048】
<金属層>
本発明の高分子電解質複合体で用いることのできる金属層の材料には特に制限されず、前記吸着工程において使用される金属錯体溶液に係る金属種をもしいることができる。例えば金属層の材料(原料)としては、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、インジウム、スズ、及び、鉄等を用いることが好ましい。
【0049】
また、本発明の高分子電解質複合体は、前記金属層を、前記高分子電解質の片側に形成する態様を採ることができる。前記片側のみに金属層を形成する場合、前記高分子電解質の一方の片側(表面側)が、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の他方の片側(表面側)が、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。
【0050】
一方、本発明の高分子電解質複合体は、前記金属層を、前記高分子電解質の対を形成するものであっても構わない。また、前記対を形成する一方の金属層と、他方の金属層が、同一金属、又は、異なる金属から形成(非対称金属層、非対称金属電極)されていても構わないし、前記高分子電解質の表面に向かって、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の中心に向かって、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することが好ましい。なお、異なる金属とは、例えば、対の一方が金層であり、他方が、金と白金の等の合金(複数層)であっても構わないが、それらの対が、異なる金属を使用している場合(非対称金属層)、互いに異なる電位を持つため、蓄電デバイスの活物質として、あるいは表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した太陽電池の電極や、色素増感型の太陽電池の電極として好ましい態様となる。また、前記金属層が対を形成していることにより、前記高分子電解質複合体は、そのまま、高分子アクチュエータ素子やセンサー、キャパシタ、電池用電極、シールド材などの用途にも使用でき、有用である。
【0051】
また、本発明の高分子電解質複合体の金属層(金属電極)が対を形成する場合においては、それぞれ対を形成する金属層を異なる方法にて、製造しても構わない。たとえば、一方の金属層を無電解メッキ法等で形成し、他方の金属層をその他の電気メッキ法以外の方法で形成しても構わないし、両金属層を一旦、無電解メッキ法等で形成し、一方のみの金属層につき、更に、電気メッキ法を採用して、膜厚(メッキ厚)を増大させた金属層(バルキーな金属部位)としても構わない。
【0052】
また、本発明の高分子電解質複合体の製造方法は、前記金属層が、少なくとも1種の金属から形成されることが好ましい。すなわち、1種(単独)の金属種から形成されていても構わないし、複数の金属種を含んだものであっても、電極として使用可能な通電性の良い部分を有する構造をとることができるものであれば、特に問題はない。つまりは、合金(異なる複数の金属からなる金属層:複合金属層)とすることも、所望の性能が得られるのであれば、問題はない。
【0053】
<洗浄工程>
また、前記無電解メッキ法を用いる場合であって、前記吸着工程と前記還元工程とを繰り返して行う場合においては、還元剤を高分子電解質より除去して、吸着工程における金属錯体の吸着を容易に行うために、還元工程の後に洗浄工程を行い、前記洗浄工程の後に吸着工程を行うことが好ましい。前記洗浄工程としては、特に限定されるものではなく、水やアルコール等を用いて洗浄し、還元剤等を除去してもよい。
【0054】
また、前記膨潤工程が行われた後、電気メッキ法等により金属層(メッキ層:金属電極)が形成された高分子電解質複合体は、高分子電解質と金属層との界面において、金属層の断面が、走査電子顕微鏡(SEM)写真により観察できるフラクタル状、半島状、島状、ツララ形状、ポリープ形状、珊瑚状に首状の狭さく部を備えた形状、樹木形状、茸形状、綿(わた、繊維)状、帯状、及び不定形の少なくともいずれかの形状(金属粒子の平均粒子径はおおよそ1μmを超え、100μm程度まで)のものや、倍率5000〜10000倍のSEM写真でも、細部を観察することができない金属微細構造の密度の低い靄状、雲状、霞状、霧状、及び、ワタ(綿)状等の形状(金属微粒子(金属微細構造)の平均粒子径は、1μm以下)のものを使用することができる。前記形状は複雑で緻密な構造(ナノ構造を含む)を形成しているため、比表面積の非常に大きな金属層(ナノ構造金属電極等)となる。なお、前記金属層の表面抵抗としては、0.001〜3Ω/cmが好ましく、0.001〜1Ω/cmがより好ましく、0.001〜0.1Ω/cmが特に好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
(前処理工程と表面メッキ(無電解メッキ法)工程)
高分子電解質に対して、それぞれ下記(1)〜(4)の工程を実施した。
【0057】
(1)前処理工程:乾燥時の膜厚50μmの膜状高分子電解質(フッ素樹脂系イオン交換樹脂:パーフルオロカルボン酸樹脂、商品名「フレミオン」、旭硝子社製、イオン交換容量1.4meq/g)を膨潤溶媒であるエタノール中に50℃で30分以上浸漬した。膨潤した前記膜状高分子電解質の膜厚を測定して、乾燥膜厚に対して膨潤後の膜厚の増加した割合(膨潤度(%))を算出し、膨潤度が30%になるように前記膜状高分子電解質を膨潤溶媒に浸漬した。
【0058】
また、前記膜状高分子電解質としては、炭化水素系イオン交換樹脂を用いる場合には、乾燥時の膜厚130μmの膜状高分子電解質(炭化水素系イオン交換樹脂、商品名「セレミオンCMV」、AGCエンジニアリング社製、イオン交換容量2.0meq/g)を膨潤溶媒であるエタノール中に50℃で5分以上浸漬した。膨潤した前記膜状高分子電解質の膜厚を測定して、乾燥膜厚に対して膨潤後の膜厚の増加した割合(膨潤度(%))を算出し、膨潤度が30%になるように前記膜状高分子電解質を膨潤溶媒に浸漬した。
【0059】
なお、実施例1においては、膜状高分子電解質として、上記フッ素樹脂系イオン交換樹脂を使用した。
【0060】
(2)吸着工程:0.2mol/lの硫酸銅5水和物水溶液に1時間浸漬し、前記高分子電解質中(表面を含む)に銅イオンを吸着させ、薄青色化した膜を多量の水で洗浄し、余分な前記水溶液を除去して、金属イオン吸着高分子電解質を得た。
【0061】
(3)還元工程:次に、前記高分子電解質を、20〜30℃の水中に浸漬した後、0.002〜0.01mol/lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液500ml(50℃)に30分浸漬したところ、吸着した銅イオンを還元して、高分子電解質表面に銅層(銅電極)を形成した。
【0062】
(4)洗浄工程:表面及び内部に銅電極を形成した前記高分子電解質を取り出し、20℃のエタノールで30分洗浄して、高分子電解質複合体を得た。
【0063】
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
続いて、図9の電気メッキ装置を用いて、電解液(還元剤溶液)として、0.2mol/lの硫酸スズ水溶液(硫酸スズ濃度:40g/l、硫酸濃度:100g/l、クレゾールスルホン酸濃度:30g/l、ホルマリン(37%):5ml)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、1A/dmの一定電流が流れるように設定(定電流方式)し、45分通電したところ、前記高分子電解質複合体の陰極側(図9中の15’)に、更に、スズ(Sn)を電析(表層より内部)した高分子電解質複合体を得た。そして、得られた高分子電解質複合体を、20℃のエタノールで30分洗浄した後、高分子電解質複合体Aを得た(断面図:図1)。なお、得られた高分子電解質複合体Aの銅−スズ層(図9中の15’側のみが、銅−スズ電極(陰極側の片面)となっている。これは、無電解メッキ法により、表層に銅層を形成した後、電気メッキ法により、表層から内部にかけて、スズ層を形成している。)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0064】
<実施例2>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例1と同様の電気メッキ装置を用いて、電解液(還元剤溶液)として、0.5mol/lの硫酸銅5水和物水溶液(硫酸銅5水和物濃度:125g/l、硫酸濃度:37.5g/l、塩素濃度:60ml/l)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を30分かけたところ(定電圧方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体Bを得た(断面図:図2)。なお、得られた高分子電解質複合体Bの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0065】
<実施例3>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例1と同様の電気メッキ装置を用いて、電解液(還元剤溶液)として、1.0mol/lの硫酸銅5水和物水溶液(硫酸銅5水和物濃度:250g/l、硫酸濃度:75g/l、塩素濃度:120ml/l)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を15分かけた後、0.6Vの電圧を120秒かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体Cを得た。なお、得られた高分子電解質複合体Cの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0066】
<実施例4>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例3と同様の電気メッキ装置を用いて、実施例3と同様の電解液(還元剤溶液)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を15分かけた後、0V、0.55Vの電圧を交互に60秒ごと4回かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体Dを得た(断面図:図3)。なお、得られた高分子電解質複合体Dの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0067】
<実施例5>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例1と同様の電気メッキ装置を用いて、電解液(還元剤溶液)として、0.2mol/lの硫酸銅5水和物水溶液(硫酸銅5水和物濃度:50g/l、硫酸濃度:15g/l、塩素濃度:5ml/l)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を60分かけた後、0V、0.8Vの電圧を交互に60秒ごと2回かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体Eを得た。なお、得られた高分子電解質複合体Eの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0068】
<実施例6>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例3と同様の電気メッキ装置を用いて、実施例3と同様の電解液(還元剤溶液)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を15分かけた後、0V−0.6Vの電圧を、周波数0.1Hzの三角波で150秒かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体Fを得た(断面図:図4)。なお、得られた高分子電解質複合体Fの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0069】
<実施例7>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例3と同様の電気メッキ装置を用いて、実施例3と同様の電解液(還元剤溶液)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を15分かけた後、0.2V5秒、0.8V1秒の方形波で電圧を2分間かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体を得た。更に、得られた高分子電解質複合体を、電解液(還元剤溶液)として、0.2mol/lの硫酸スズ水溶液(硫酸スズ濃度:40g/l、硫酸濃度:100g/l、クレゾールスルホン酸濃度:30g/l、ホルマリン(37%):5ml/l、チオ尿素:3g/l)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で2分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0V―0.1Vの電圧を、周波数0.17Hzののこぎり波で30分かけたところ(電圧制御方式)、銅−スズ層(図9中の15’側のみが、銅−スズ電極(陰極側の片面)となっている。これは、無電解メッキ法により、表層に銅層を形成した後、電気メッキ法により、表層から内部にかけて、スズ層を形成している。)を形成した高分子電解質複合体Gを得た(断面図:図5)。なお、得られた高分子電解質複合体Gの銅−スズ層(銅−スズ電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0070】
<実施例8>
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例1と同様の前処理工程、吸着工程、還元工程、及び洗浄工程にて得た高分子電解質複合体に、実施例3と同様の電気メッキ装置を用いて、実施例3と同様の電解液(還元剤溶液)のメッキ浴に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で3分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.2Vの電圧を15分かけた後、0.2V5秒、0.8V1秒の方形波で電圧を2分間かけたところ(電圧制御方式)、銅層(銅電極)を形成した高分子電解質複合体を得た。更に、得られた高分子電解質複合体を、電解液(還元剤溶液)として、金メッキ液(ミクロファブ、田中貴金属工業社製)に、前記高分子電解質複合体をあらかじめ、前記電解液に室温で2分以上浸漬した後、安定化電源(HA−501、北斗電工製)を用いて、0.1Vの電圧を30分かけたところ(定電圧方式)、銅−金層(銅−金電極)を形成した高分子電解質複合体Hを得た(断面図:図6)。なお、得られた高分子電解質複合体Hの銅−金層(図9中の15’側のみが、銅−金電極(陰極側の片面)となっている。これは、無電解メッキ法により、表層に銅層を形成した後、電気メッキ法により、表層から内部にかけて、金層を形成している。)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0071】
<実施例9>
(キャスティング工程)
実施例1とは異なり、乾燥時の膜厚100μmの膜状高分子電解質(フッ素樹脂系イオン交換樹脂:パーフルオロカルボン酸樹脂、商品名「フレミオン」、旭硝子社製、イオン交換容量1.8meq/g)をメタノールに溶かして、濃度を3重量%に調製し、この溶液を、銅箔(厚み:20μm)上にキャスティングした後、50℃で1時間乾燥させ、高分子電解質複合体を得た。
【0072】
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例3と同様の方法にて、銅層(銅のみからなる電極)を形成した高分子電解質複合体Iを得た(断面図:図7)。なお、得られた高分子電解質複合体Iの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0073】
<実施例10>
(キャスティング工程)
実施例9と同様の方法にて、乾燥時の膜厚130μmの膜状高分子電解質(炭化水素系イオン交換樹脂、商品名「セレミオンCMV」、AGCエンジニアリング社製、イオン交換容量2.0meq/g)をメタノールとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合比1:1)に溶かして、濃度を3重量%に調製し、この溶液を、銅箔(厚み:20μm)上にキャスティングした後、50℃で1時間乾燥させ、高分子電解質複合体を得た。
【0074】
(内部メッキ(電気メッキ法)工程)
実施例3と同様の方法にて、銅層(銅のみからなる電極)を形成した高分子電解質複合体Jを得た。なお、得られた高分子電解質複合体Jの銅層(銅電極:陰極側の片面)における表面抵抗は、0.1Ω/cmであった。
【0075】
<比較例1>
実施例1と同様に、前処理工程と表面メッキ(無電解メッキ法)工程を行った。なお、表面メッキ工程における還元工程として、0.25mol/lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液(50℃)500mlに30分間浸漬して還元し、銅電極を形成し、電気メッキ工程を行わない状態の高分子電解質複合体Kを得た(断面図:図8)。なお、得られた高分子電解質複合体Kの銅層(銅電極)における表面抵抗は、5.0Ω/cmであった。
【0076】
【表1】

【0077】
<評価結果>
上記実施例の結果から、本発明の高分子電解質複合体の製造方法のように、電気メッキ法を用いて金属層(金属電極)を形成した高分子電解質複合体は、比較例1のように無電解メッキ法のみを使用した高分子電解質複合体に比べて、表面抵抗が非常に小さく抑えられ、優れていることが確認された。また、図1〜7からも明らかなように、高分子電解質の表面より内部にバルキーな金属部位を形成され、前記金属部位(電極形状)を、様々な形状に制御できることも明らかとなった。
【符号の説明】
【0078】
A: 高分子電解質複合体A
1: 金属層(金属電極)
2: バルキーな金属部位(金属層:表面)
3: 微細な構造を有する金属部位(金属層:内部)
4: 高分子電解質
5: 高分子電解質複合体の断面部分(金属層の断面部分あり)
6: 高分子電解質複合体の側面部分(金属層の断面部分なし)
11: 安定化電源
12: 陽極
13: 陰極
14: 電極
15: 電極
15’:電極
16: メッキ浴
20: 片面電析装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質の少なくとも表面より内部に、電気メッキ法により、金属層を形成する工程を含むことを特徴とする高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項2】
前記高分子電解質の前記少なくとも内部より表面側に、前記電気メッキ法以外の方法により、金属層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項3】
前記電気メッキ法以外の方法が、無電解メッキ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、PVD法、及び、スパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種の方法であることを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項4】
前記電気メッキ法以外の方法が、前記高分子電解質を金属板に接触させる方法であることを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項5】
前記金属層を、前記高分子電解質の片側に形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子電解質の一方の片側が、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の他方の片側が、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することを特徴とする請求項5に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項7】
前記金属層が、前記高分子電解質に対を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項8】
前記対を形成する一方の金属層と、他方の金属層が、同一金属、又は、異なる金属から形成されることを特徴とする請求項7に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項9】
前記高分子電解質の表面に向かって、前記金属層を構成する金属微細構造が、リッチな領域を有し、前記高分子電解質の中心に向かって、前記高分子電解質が、リッチな領域又は前記高分子電解質のみの領域を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の高分子電解質複合体の製造方法。
【請求項10】
前記金属層が、少なくとも1種の金属から形成されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高分子電解質複合構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られる高分子電解質複合体。
【請求項12】
前記金属層の表面抵抗が、0.001〜3Ω/cmであることを特徴とする請求項11に記載の高分子電解質複合体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97319(P2012−97319A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245613(P2010−245613)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】