説明

高周波スイッチモジュール

【課題】FETスイッチを用いた高周波スイッチモジュールの高調波歪みを抑制する。
【解決手段】FETからなるFETスイッチSW10は、アンテナに接続するアンテナ入出力ポートANT0を、送信信号入力端子Tx1に接続するRF11ポート、2つの受信信号出力端子Rx1,Rx2にそれぞれ接続するRF12ポートおよびRF13ポートのいずれかに切り替えて接続させる。送信信号入力端子Tx1から送信信号が入力され、RF11ポートからFETスイッチSW10に入力されると、高調波歪みが発生して送信信号入力端子Tx1側に出力される。RF11ポートに接続された位相設定素子L1は、RF11ポートから入力側を見た場合の高調波のインピーダンスをオープン状態からショート方向に変化させて、高調波を分散させる。これにより、RF11ポートに戻る高調波は抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特定周波数の通信信号の送受信を切り替える高周波スイッチモジュール、特にFETスイッチを用いた高周波スイッチモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話等の無線通信方式には複数の仕様が存在し、例えばヨーロッパではマルチバンドのGSM方式が採用されている。GSM方式では使用する周波数帯が異なる複数の通信信号(送受信信号)が存在し、各周波数帯としては850MHz帯、および900MHz帯が存在する。さらには、1800MHz帯や1900MHz帯も存在する。このようなそれぞれに異なる周波数帯を利用する複数の通信信号を1つのアンテナで送受信する場合、目的とする周波数帯の通信信号以外は不要となり、さらには、1つ通信信号であっても送信時には受信信号は不要となり、受信時には送信信号が不要となる。このため、1つのアンテナで送受信を行う場合には、目的とする通信信号の送信信号を伝送する経路や目的とする通信信号の受信信号を伝送する経路を切り替える必要があり、この切り替えにFETスイッチを用いた高周波スイッチモジュールが各種考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、図7に示すような高周波スイッチモジュールが備えられている。
図7は従来の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
従来の高周波スイッチモジュールは、第1通信信号の送信信号(第1送信信号)と第2通信信号の送信信号(第2送信信号)とが入力される送信ポートRF101、第1通信信号の受信信号(第1受信信号)を出力する第1受信ポートRF102、第2通信信号の受信信号(第2受信信号)を出力する第2受信ポートRF103、アンテナに対して第1、第2送信信号、第1受信信号、および第2受信信号の入出力を行うアンテナポートANT0、を有するFETスイッチSW100を備えている。このFETスイッチSW100としては、半導体、特にFETからなるスイッチが用いられ、現状では多く、GeAsスイッチが用いられている。そして、従来の高周波スイッチモジュールは、第1、第2送信信号の高調波を減衰するローパスフィルタLPF201を送信ポートRF101に接続し、第1受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF301を第1受信ポートRF102に接続し、第2受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF302を第2受信ポートRF202に接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−185356公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような高周波スイッチモジュールでは、FETスイッチSW100の送信ポートRF101にローパスフィルタLPF201を介して接続された送信信号入力端子TX1へ送信信号が入力される。この送信信号は通常前段に接続されたパワーアンプPAにより増幅されてから入力されるが、この増幅の際に送信信号の基本周波数foに対する高次高調波が発生して基本周波数foの送信信号とともに入力される。ここで、図7に示す高周波スイッチモジュールのローパスフィルタLPF201を、前記高次高調波を減衰させる設定にしておけば、FETスイッチSW100に入力される送信信号の高次高調波を抑制することができる。例えば、ローパスフィルタLPF201を、基本周波数foの2次高調波(2・fo)を減衰させるローパスフィルタと、基本周波数foの3次高調波(3・fo)を減衰させるローパスフィルタと、から構成することで、これら2次高調波および3次高調波が抑制される。
【0006】
しかしながら、FETスイッチSW100がGaAsスイッチで形成されている場合、高周波の送信信号が入力されるとFETスイッチSW100で高調波歪みが発生して各ポートに対して均等に2倍高調波や3倍高調波等の高調波が出力される。この時、前記高調波の周波数において送信ポートRF101からローパスフィルタLPF201を見るとインピーダンスが無限大に近いオープン状態となり、FETスイッチSW100で発生した高調波がローパスフィルタLPF201の送信ポートRF101側端で全反射してFETスイッチSW100に入力される。この結果、最初の高調波を「X」、全反射による高調波の増加分を「α」とすると、アンテナポートANT0からは「X+α」の高調波が出力されてしまう。
【0007】
このような高調波を抑制するには、高調波の発生しにくいGaAsスイッチを用いればよいのだろうが、現実には高調波の発生しにくいGaAsスイッチは存在しない。また、ダイオードスイッチによるスイッチ回路を用いれば、高調波は発生し難いが、それぞれの通信信号の送受信の切り替えに対して少なくとも各2個のダイオードが必要であり、さらにこれらダイオードに負荷する回路が必要であるので、高周波スイッチモジュールを小型化することができない。また、ダイオードスイッチを複数利用することで消費電力が増加し、さらには応答速度が低下してしまう。特にFETスイッチのポート数が増加するとこの影響を受けやすい。
【0008】
したがって、この発明の目的は、GaAsスイッチ等のFETスイッチを用いながらも高調波歪みを抑制して、小型化された高周波スイッチモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、送信信号が入力される送信入力ポート、受信信号を出力する受信出力ポート、および、アンテナへ送信信号を出力するまたはアンテナから受信信号を入力するアンテナポートを備え、該アンテナポートを送信入力ポートまたは受信出力ポートに切り替えて接続するFETスイッチと、
送信入力ポートに接続され、送信信号の高次高調波を減衰させるフィルタと、を備えた高周波スイッチモジュールにおいて、
送信入力ポートとフィルタとに直列接続される伝送線路からなる位相設定手段が挿入され、
伝送線路からなる位相設定手段により、送信信号の2次高調波および3次高調波における位相を変化させて高調波を抑制した、ことを特徴としている。
【0010】
この構成では、伝送線路のみからなる位相設定手段により、送信入力ポートからフィルタ方向を見た場合の2次高調波や3次高調波を含む高次高調波の位相が、当該高調波を抑制するように調整される。
【0011】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、位相設定手段が、FETスイッチの送信入力ポートにおける特性インピーダンスとフィルタのFETスイッチ側端部における特性インピーダンスと同じ特性インピーダンスを有し、送信信号の基本波の位相のみを変化させてインピーダンスの絶対値を当該位相設定手段を挿入する前後で実質的に変化させない電気長の伝送線路で形成されることを特徴としている。
この構成では、位相設定手段(伝送線路)によって送信信号の基本波に対するインピーダンスの絶対値の変化がないので、この伝送線路による送信信号(基本波)の伝送損失は発生しない。
【0012】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、電気長を2次高調波の波長の1/4未満にすることを特徴としている。
【0013】
この構成では、具体的に電気長を2次高調波の波長の1/4未満にすることで、高調波が抑制されるとともにモジュール全体の損失が抑制される。
【0014】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、位相設定手段によって、送信入力ポートからフィルタ方向を見た場合における送信信号の2次高調波と3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置がインピーダンス0を挟むように配置されていることを特徴としている。
【0015】
この構成では、具体的な設定方法の一例として、送信入力ポートからフィルタ方向を見た場合における送信信号の2次高調波と3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置がインピーダンス0を挟むように配置される。
【0016】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、フィルタに2次または3次高調波の周波数を阻止域に含むローパスフィルタを用いることを特徴としている。
【0017】
この構成では、前段のパワーアンプから高調波が伝送されても、ローパスフィルタで抑制される。
【0018】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、ローパスフィルタとして、送信信号の2次高調波の周波数を阻止域に含む第1ローパスフィルタと、送信信号の3次高調波の周波数を阻止域に含む第2ローパスフィルタと、を含むことを特徴としている。
【0019】
この構成では、前段のパワーアンプから高調波が伝送されても、第1ローパスフィルタで2次高調波が抑制され、第2ローパスフィルタで3次高調波が抑制される。
【0020】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、それぞれに特定の周波数帯を送信信号および受信信号で利用する通信信号を複数入出力して切り替え、FETスイッチに少なくとも通信信号毎に受信出力ポートを備えることを特徴としている。
【0021】
この構成では、複数の通信信号を入出力する高周波スイッチモジュールであっても、送信入力ポートに位相調整手段が備えられることで、高調波が抑制される。
【0022】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、送信入力ポートが複数あり、これらの送信入力ポート毎に位相設定手段が接続されていることを特徴としている。
【0023】
この構成では、各送信入力ポートに入力される送信信号の高調波に応じて各位相設定手段が設定されることで、いずれの送信入力ポートに送信信号が入力されたとしても、高調波歪みが抑制される。
【0024】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、第1周波数帯を利用する第1通信信号の送信信号と第2周波数帯を利用する第2通信信号の送信信号とが入力される第1送信入力ポート、第3周波数帯を利用する第3通信信号の送信信号と第4周波数帯を利用する第4通信信号の送信信号とが入力される第2送信入力ポート、第1通信信号の受信信号を出力する第1受信出力ポート、第2通信信号の受信信号を出力する第2受信出力ポート、第3通信信号の受信信号を出力する第3受信出力ポート、および第4通信信号の受信信号を出力する第4受信出力ポートをFETスイッチに備えることを特徴としている。
【0025】
この構成では、第1送信入力ポートに入力される送信信号が第1送信信号であっても第2送信信号であっても、各送信信号による高調波が第1の位相設定手段により部分的にフィルタ方向に通過されて分散されるので、FETスイッチの第1送信入力ポートに再入力される高調波が抑制されて、FETスイッチのアンテナポートから出力される高調波が従来よりも減少する。また、第2送信入力ポートに入力される送信信号が第3送信信号であっても第4送信信号であっても、各送信信号による高調波が第2位相設定手段により部分的にフィルタ方向に通過されて分散されるので、FETスイッチの第2送信入力ポートに再入力される高調波が抑制されて、FETスイッチのアンテナポートから出力される高調波が従来よりも減少する。このように、4つの異なる周波数帯を使用する通信信号に対して、いずれの送信信号であってもFETスイッチにより発生する高調波が抑制される。
【0026】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、FETスイッチ、フィルタ、および位相設定手段は、複数の誘電体層を積層してなる積層体により一体形成されてなることを特徴としている。
【0027】
また、この発明の高周波スイッチモジュールは、フィルタおよび位相設定手段を積層体内に形成することを特徴としている。
【0028】
この構成では、高周波スイッチモジュールが積層体により一体形成されることで小型化される。さらに、フィルタおよび位相設定手段が積層体に内蔵されることで、より一層小型化される。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、位相設定手段を設置することで、FETスイッチのアンテナポートから出力される高調波を従来よりも低減する。すなわち、高調波の少ない高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0030】
また、この構成によれば、送信信号の基本波の伝送損失に影響を与えることなく、高次高調波のみを低減する高周波スイッチモジュールを簡素な構造で実現することができる。
【0031】
また、この発明によれば、具体的に電気長を2次高調波の波長の1/4未満にすることで、高調波が抑制されるとともに全体の損失が抑制される高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0032】
また、この発明によれば、さらに具体的に送信入力ポートからフィルタ方向を見た場合における送信信号の2次高調波と3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置を、インピーダンス0を挟むように配置することで、より高調波を抑制することができる。
【0033】
また、この発明によれば、基本波の送信信号とともに前段のパワーアンプから高調波が伝送されても、ローパスフィルタで抑制され、元々送信入力ポートに入力される高調波を抑制し、より一層高調波を抑制した高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0034】
また、この発明によれば、基本波の送信信号とともに前段のパワーアンプから高調波が伝送されても、第1ローパスフィルタで2次高調波が抑制され、第2ローパスフィルタで3次高調波が抑制され、元々送信ポートに入力される高調波を抑制し、より一層高調波を抑制した高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0035】
また、この発明によれば、複数の通信信号を入出力する高周波スイッチモジュールであっても、各送信入力ポートにそれぞれ位相調整手段が備えられているので、通信信号の種類数によらず、どの通信信号であっても高調波歪みを抑制した高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0036】
また、この発明によれば、4つの異なる周波数帯を使用する通信信号に対して、いずれの送信信号に対しても高調波を抑制する高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0037】
また、この発明によれば、高周波スイッチモジュールを構成する各要素が積層体で一体化されるので、前述の高調波を抑制する高周波スイッチモジュールを小型に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
【図2】FETスイッチから送信信号入力端子Tx1側を見たインピーダンスの周波数特性を示すスミスチャートである。
【図3】FETスイッチから送信信号入力端子Tx1側を見たインピーダンスの周波数特性を示すスミスチャートである。
【図4】第2の実施形態の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示した高周波スイッチモジュールの積層図である。
【図6】図4に示した高周波スイッチモジュールの積層図である。
【図7】従来の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の第1の実施形態に係る高周波スイッチモジュールについて図1、図2、図3を参照して説明する。
図1は本実施形態の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
なお、本実施形態の説明では送信信号入力端子Tx1からGSM850MHz送信信号またはGSM900MHz送信信号を入力し、受信信号出力端子Rx1からGSM850MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx2からGSM900MHz受信信号を出力する高周波スイッチモジュールについて説明する。GaAsスイッチからなるFETスイッチSW10は、アンテナANTに接続するアンテナ入出力ポートANT0と、GSM850MHz信号の送受信信号、GSM900MHz信号の送受信信号のいずれかを入出力するRF入出力ポートRF11,RF12,RF13(以下、単に「RF11ポート」、「RF12ポート」、「RF13ポート」と称す。)と、を備える。また、FETスイッチSW10は、図示しないが、駆動電圧が入力される駆動電圧入力端子と、スイッチ切り替え制御に用いる制御信号が入力される制御信号入力端子とを備え、制御信号入力端子に入力される制御信号により、アンテナ入出力ポートANT0をRF11ポート〜RF13ポートのいずれかに導通する。なお、本実施形態では、RF11ポートに送信信号入力端子Tx1が接続され、RF12ポート、RF13ポートのそれぞれに受信信号出力端子Rx1,Rx2が接続されているので、RF11ポートが本発明の「送信信号入力ポート」に相当し、RF12ポート、RF13ポートがそれぞれ「受信信号出力ポート」に相当する。
【0040】
FETスイッチSW10のRF11ポートには、伝送線路からなる位相設定素子L1が接続されており、位相設定素子L1のRF11ポートと対向する側の端部はローパスフィルタLPF20が接続されている。位相設定素子L1の電気長は、伝送する送信信号すなわちGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号に対して、位相設定素子L1の電気長を「A」として、送信信号の波長を「λ」すると、0<A<λ/4を満たす長さに設定されている。ここで、送信信号の波長λはGSM850MHz送信信号とGSM900MHz送信信号とで若干異なるが、殆どかわらないとしてよく、例えば、波長の長いGSM850MHz送信信号の波長を前記「λ」に設定する。そして、この伝送線路である位相設定素子L1が本発明の「位相設定手段」に相当する。
【0041】
ローパスフィルタLPF20は、それぞれに異なる周波数特性(減衰特性)を有する2つのローパスフィルタLPF21aとローパスフィルタLPF21bとを備え、位相設定素子L1側からローパスフィルタLPF21a、ローパスフィルタLPF21bの順に接続されている。ローパスフィルタLPF21aはGSM850MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。また、ローパスフィルタLPF21bはGSM850MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。
【0042】
ローパスフィルタLPF20の位相設定素子L1に対向する側の端部は、前段のパワーアンプPA(図示せず)に接続する送信信号入力端子Tx1が接続されている。
【0043】
FETスイッチSW10のRF12ポートには、GSM850MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF30が接続されており、このバンドパスフィルタBPF30に受信信号出力端子Rx1が接続されている。また、スイッチ回路SW10のRF13ポートには、GSM900MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF40が接続されており、このバンドパスフィルタBPF40に受信信号出力端子Rx2が接続されている。
【0044】
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールでのGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号(以下、総称して「GSM送信信号」と称す。)の伝送時の動作について説明する。なお、これら2つの送信信号は同時には入力されず、一方の送信信号のみが入力される。
【0045】
FETスイッチSW10の制御信号入力端子にRF11ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通するための制御信号が入力されると、FETスイッチSW10はRF11ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通させる。この状態で、送信信号入力端子Tx1にGSM送信信号が入力されると、ローパスフィルタLPF20でGSM送信信号の基本波とともに入力される2次高調波および3次高調波が減衰されて、位相設定素子L1を介してRF11ポートに入力される。
【0046】
FETスイッチSW10にGSM送信信号入力されると、GaAsスイッチの非線形性から高調波歪みが発生して、各ポート(RF11ポート、RF12ポート、RF13ポート、およびアンテナ入出力ポートANT0)へ均等に所定の大きさ「X」の高調波が出力される。
【0047】
RF11ポートから出力された高調波は位相設定素子L1に伝送される。ここで、位相設定素子L1は以下に示す条件から所定の電気長に設定されている。この電気長とは、RF11ポートから出力されたGSM送信信号の高調波を位相設定素子L1で伝送することで位相変化させて、この高調波に対してRF11ポートからローパスフィルタLPF20側を見たインピーダンスを無限大から0方向へ所定量変化させる電気長である。これにより、RF11ポートから見るとローパスフィルタLPF20側がオープン状態からショート状態となる方向に変化する。
【0048】
ところで、本実施形態のように、2次高調波用のローパスフィルタLPF21aと3次高調波用のローパスフィルタLPF21bとが直列に接続されている場合、2次高調波に対しては位相設定素子L1のみで所定の電気長を設定し、3次高調波に対しては位相設定素子L1とローパスフィルタLPF21aの伝送線路とにより設定する。すなわち、2次高調波に対するインピーダンスと3次高調波に対するインピーダンスとを考慮して最適な電気長「A」を設定する。
【0049】
このような条件のもとで、さらに他の損失要因を考慮して、具体的には高調波の波長の1/4程度もしくはそれ未満(0<A<λ/4)とするとよい。
【0050】
これをスミスチャートに示すと図2のようになる。図2はFETスイッチから送信信号入力端子Tx1側を見たインピーダンスチャートであり、(a)が本実施形態の構成すなわち位相設定素子L1が有る場合を示し、(b)が従来の構成すなわち位相設定素子L1が無い場合を示す。図中の実線(太線)がインピーダンスの軌跡を示す。また、図中のm1はGSM850MHz送信信号の周波数である820MHz点を示し、m2はGSM900MHz送信信号の周波数である920MHz点を示し、図中のm11はGSM850MHz送信信号の2倍高調波の周波数である1650MHz点を示し、m12はGSM900MHz送信信号の2倍高調波の周波数である1830MHz点を示し、図中のm13はGSM850MHz送信信号の3倍高調波の周波数である2470MHz点を示し、m14はGSM900MHz送信信号の3倍高調波の周波数である2750MHz点を示す。そして、本データは位相設定素子L1の電気長AをGSM850MHz送信信号の波長の約1/4の長さにした場合の結果である。また、図3も同様にFETスイッチから送信信号入力端子Tx1側を見たインピーダンスチャートであり、(a)は2次高調波2foや3次高調波3foのインピーダンスのスミスチャート位置を、インピーダンス0の近傍に配置する場合を示し、(b)は2次高調波2foと3次高調波3foのインピーダンスのスミスチャート位置を、インピーダンス0を挟むように配置する場合を示す。なお、図3においても、m11〜m14は図2と同じ内容で定義されている。
図2(b)に示すように、位相設定素子L1がRF11ポートとローパスフィルタLPF20との間に挿入されていないと、GSM850MHz送信信号の2倍高調波の周波数およびGSM900MHz送信信号の2倍高調波の周波数におけるインピーダンスが無限大となる。これは、RF11ポートからローパスフィルタLPF20を見るとオープン状態であること示しており、GSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の2倍高調波は全反射することを示す。また、GSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号のRF11ポートに反射される3倍高調波も大きくなる。
図2(a)に示すように、位相設定素子L1が挿入されていると、GSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の2倍高調波、3倍高調波の周波数におけるインピーダンスが、スミスチャート上で時計回りに無限大から0方向へ約1/4周だけ回転する。このようにインピーダンスが変化する。
【0051】
また、図3(a)のように、伝送線路からなる位相設定素子L1の電気長を図2(a)のものより長くし、スミスチャート上でインピーダンス0の近傍へさらに近づけることができる。同様に、図3(b)のように、伝送線路からなる位相設定素子L1の電気長を図3(a)のものより長くし、2次高調波をインピーダンス0の近傍にしつつ、且つ2次高調波と3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置を、インピーダンス0を挟むように配置することができる。
【0052】
ここで、図2に示すように、位相設定素子L1をRF11ポートとローパスフィルタLPF20との間に挿入しても、GSM850MHz送信信号の基本波の周波数とGSM900MHz送信信号の基本波の周波数とは、位相設定素子L1を挿入する前とインピーダンスが殆ど変化しない。このため、位相設定素子L1は基本波の伝送に対して悪い影響を与えない。
【0053】
一方、RF12ポートおよびRF13ポートから出力された高調波はバンドパスフィルタBPF30,BPF40に伝送されて減衰されるのでRF12ポートおよびRF13ポートには戻らない。
【0054】
この結果、アンテナ入出力ポートANT0に出力される高調波の大きさは、従来の高周波スイッチモジュール(図7)の高調波の大きさよりも小さくなる。
【0055】
このように、本実施形態の構成を用いることにより、アンテナに出力される高調波が低減されて送信特性が改善される。また、位相設定素子L1は高調波に対してのみインピーダンスが変化する設定がされているので、GSM送信信号の基本波に対しては位相が変化するのみで、インピーダンスは殆ど変化することがない。この結果、GSM送信号の基本波は殆ど減衰されることなく伝送される。すなわち、GSM送信信号の高調波のみを抑制して、基本波に損失を殆ど生じさせることなく伝送する高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0056】
次に、第2の実施形態に係る高周波スイッチモジュールについて図4〜図6を参照して説明する。
図4は本実施形態の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。
なお、本実施形態の説明では送信信号入力端子Tx1からGSM850MHz送信信号またはGSM900MHz送信信号を入力し、送信信号入力端子Tx2からGSM1800MHz送信信号またはGSM1900MHz送信信号を入力し、受信信号出力端子Rx1からGSM850MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx2からGSM900MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx3からGSM1800MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx4からGSM1900MHz受信信号の出力を行う高周波スイッチモジュールについて説明する。GaAsスイッチであるFETスイッチSW50は、アンテナANTに接続するアンテナ入出力ポートANT0と、GSM850MHz信号の送受信信号、GSM900MHz信号、GSM1800MHz信号の送受信信号、GSM1900MHz信号のいずれかを入出力するRF入出力ポートRF61〜RF66(以下、単に「RF61ポート」〜「RF66ポート」と称す。)と、を備える。また、FETスイッチSW50は、図示しないが、駆動電圧が入力される駆動電圧入力ポートと、スイッチ切り替え制御に用いる制御信号が入力される制御信号入力ポートとを備え、制御信号入力ポートに入力される制御信号により、アンテナ入出力ポートANT0をRF61ポート〜RF66ポートのいずれかに導通する。なお、RF61ポートが本発明の「第1送信ポート」に相当し、RF62ポートが本発明の「第2送信ポート」に相当する。また、RF63ポートが本発明の「第1受信ポート」に相当し、RF64ポートが本発明の「第2受信ポート」に相当し、RF65ポートが本発明の「第3受信ポート」に相当し、RF66ポートが本発明の「第4受信ポート」に相当する。
【0057】
FETスイッチSW50のRF61ポートには、伝送線路からなる位相設定素子GL1が接続されており、位相設定素子GL1のRF61ポートと対向する側の端部はローパスフィルタLPF71が接続されている。位相設定素子GL1の電気長は、伝送する送信信号すなわちGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号に対して、位相設定素子L1の電気長を「A」として、送信信号の波長を「λA」すると、0<A<λA/4を満たす長さに設定されている。ここで、送信信号の波長λAはGSM850MHz送信信号とGSM900MHz送信信号とで若干異なるが、例えば、波長の長いGSM850MHz送信信号の波長を前記「λA」に設定する。そして、この伝送線路である位相設定素子GL1が本発明の「第1の位相設定手段」に相当する。
【0058】
ローパスフィルタLPF71はローパスフィルタLPF72に接続し、このローパスフィルタLPF72が送信信号入力端子Tx1に接続しており、ローパスフィルタLPF71とローパスフィルタLPF72との接続点はキャパシタGCu2を介してグランドに接続(接地)されている。
【0059】
ローパスフィルタLPF71は、一方端が位相設定素子GL1に接続し、他方端がローパスフィルタLPF72に接続する伝送線路からなるインダクタGLt1と、このインダクタGLt1に並列接続されたキャパシタGCc1と、インダクタGLt1の位相設定素子GL1側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu1と、を備える。このローパスフィルタLPF71は、これらインダクタGLt1、キャパシタGCc1,GCu1によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の2次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
【0060】
ローパスフィルタLPF72は、一方端がローパスフィルタLPF71に接続し、他方端が送信信号入力端子Tx1に接続する伝送線路からなるインダクタGLt2と、このインダクタGLt2に並列接続されたキャパシタGCc2と、を備える。このローパスフィルタLPF72は、これらインダクタGLt2、キャパシタGCc2によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の3次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。なお、ここで、ローパスフィルタLPF72にはインピーダンス調整のために、インダクタGLt2の送信信号入力端子Tx1側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu3(図4の()内に示す。)を設置してもよい。
【0061】
FETスイッチSW50のRF62ポートには、伝送線路からなる位相設定素子DL1が接続されており、位相設定素子DL1のRF62ポートと対向する側の端部はローパスフィルタLPF81が接続されている。位相設定素子DL1の電気長は、伝送する送信信号すなわちGSM1800MHz送信信号およびGSM1900MHz送信信号に対して、位相設定素子L1の電気長を「B」として、送信信号の波長を「λB」すると、0<B<λB/4を満たす長さに設定されている。ここで、送信信号の波長λBはGSM1800MHz送信信号とGSM1900MHz送信信号とで若干異なるが、例えば、波長の長いGSM1800MHz送信信号の波長を前記「λB」に設定する。そして、この伝送線路である位相設定素子DL1が本発明の「第2の位相設定手段」に相当する。
【0062】
ローパスフィルタLPF81はローパスフィルタLPF82に接続し、このローパスフィルタLPF82が送信信号入力端子Tx2に接続しており、ローパスフィルタLPF81とローパスフィルタLPF82との接続点はキャパシタDCu2を介してグランドに接続(接地)されている。
【0063】
ローパスフィルタLPF81は、一方端が位相設定素子DL1に接続し、他方端がローパスフィルタLPF82に接続する伝送線路からなるインダクタDLt1と、このインダクタDLt1に並列接続されたキャパシタDCc1と、インダクタDLt1の位相設定素子DL1側とグランドとの間に挿入されたキャパシタDCu1と、を備える。このローパスフィルタLPF81は、これらインダクタDLt1、キャパシタDCc1,DCu1によりGSM1800MHz送信信号およびGSM1900MHz送信信号の2次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
【0064】
ローパスフィルタLPF82は、一方端がローパスフィルタLPF81に接続し、他方端が送信信号入力端子Tx2に接続する伝送線路からなるインダクタDLt2と、このインダクタDLt2に並列接続されたキャパシタDCc2と、インダクタDLt2の送信信号入力端子Tx2側とグランドとの間に挿入されたキャパシタDCu3と、を備える。このローパスフィルタLPF82は、これらインダクタDLt2、キャパシタDCc2,DCu2によりGSM1800MHz送信信号およびGSM1900MHz送信信号の3次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
【0065】
FETスイッチSW50のRF63ポートには、GSM850MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF91が接続されており、このバンドパスフィルタBPF91に受信信号出力端子Rx1が接続されている。また、FETスイッチSW50のRF64ポートには、GSM900MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF92が接続されており、このバンドパスフィルタBPF92に受信信号出力端子Rx2が接続されている。また、FETスイッチSW50のRF65ポートには、GSM1800MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF93が接続されており、このバンドパスフィルタBPF93に受信信号出力端子Rx3が接続されている。また、FETスイッチSW50のRF66ポートには、GSM1900MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタBPF94が接続されており、このバンドパスフィルタBPF94に受信信号出力端子Rx4が接続されている。
【0066】
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールでのGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号(以下、総称して第1群GSM送信信号)の伝送時の動作について説明する。なお、これら2つの送信信号は同時には入力されず、一方の送信信号のみが入力される。また、ここで、GSM850MHz信号が本発明の「第1通信信号」に相当し、GSM900MHz信号が本発明の「第2通信信号」に相当する。
【0067】
FETスイッチSW50の制御信号入力ポートにRF61ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通するための制御信号が入力されると、FETスイッチSW50はRF61ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通させる。この状態で、送信信号入力端子Tx1に第1群GSM送信信号が入力されると、ローパスフィルタLPF72で第1群GSM送信信号の基本波とともに入力される3次高調波が減衰されて、さらにローパスフィルタLPF71で第1群GSM送信信号の基本波とともに入力される2次高調波が減衰されて、位相設定素子GL1を介してRF61ポートに入力される。
【0068】
FETスイッチSW50に第1群GSM送信信号入力されると、GaAsスイッチの非線形性から高調波歪みが発生して、各ポート(RF61ポート〜RF66ポート、およびアンテナ入出力ポートANT0)へ均等に所定の大きさ「Y」の高調波が出力される。
【0069】
RF61ポートから出力された高調波は位相設定素子GL1に伝送される。
【0070】
ここで、位相設定素子GL1は以下に示す条件から所定の電気長に設定されている。この電気長とは、RF61ポートから出力された第1群GSM送信信号の高調波を位相設定素子GL1で伝送することで位相変化させて、この高調波に対してRF61ポートからローパスフィルタLPF71,LPF72側を見たインピーダンスを無限大から0方向へ所定量変化させる電気長である。これにより、RF61ポートから見るとローパスフィルタLPF71,LPF72側がオープン状態からショート状態となる方向に変化する。この際、位相設定素子GL1のみで、第1群GSM送信信号の2次高調波のインピーダンスを所定量変化させ、位相設定素子GL1とローパスフィルタLPF71を構成する各素子の素子値(インダクタンス、キャパシタンス)とで第1群GSM送信信号の3次高調波のインピーダンスを所定量変化させるように位相設定素子GL1の電気長を設定する。
【0071】
この結果、アンテナ入出力ポートANT0に出力される高調波の大きさは、従来の高周波スイッチモジュール(図7)の高調波の大きさよりも小さくなる。
【0072】
このように、本実施形態の構成を用いることにより、アンテナに出力される高調波が低減されて送信特性が改善される。また、位相設定素子GL1は目的とする高調波に対してのみインピーダンスが変化する設定がされているので、第1群GSM送信信号の基本波に対しては位相が変化するのみで、インピーダンスは殆ど変化することがない。
【0073】
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールでのGSM1800MHz送信信号およびGSM1900MHz送信信号(以下、総称して第2群GSM送信信号)の伝送時の動作について説明する。なお、これら2つの送信信号は同時には入力されず、一方の送信信号のみが入力される。さらに、前述のGSM850MHz送信信号やGSM900MHz送信信号とも同時に入力されない。また、ここで、GSM1800MHz信号が本発明の「第3通信信号」に相当し、GSM1900MHz信号が本発明の「第4通信信号」に相当する。
【0074】
FETスイッチSW50の制御信号入力端子にRF62ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通するための制御信号が入力されると、FETスイッチSW50はRF62ポートとアンテナ入出力ポートANT0とを導通させる。この状態で、送信信号入力端子Tx2に第2群GSM送信信号が入力されると、ローパスフィルタLPF82で第2群GSM送信信号の基本波とともに入力される3次高調波が減衰されて、さらにローパスフィルタLPF81で第2群GSM送信信号の基本波とともに入力される2次高調波が減衰されて、位相設定素子DL1を介してRF62ポートに入力される。
【0075】
FETスイッチSW50に第2群GSM送信信号入力されると、GaAsスイッチの非線形性から高調波歪みが発生して、各ポート(RF61ポート〜RF66ポート、およびアンテナ入出力ポートANT0)へ均等に所定の大きさ「Z」の高調波が出力される。
【0076】
RF61ポートから出力された高調波は位相設定素子DL1に伝送される。
【0077】
ここで、位相設定素子DL1は以下に示す条件から所定の電気長に設定されている。この電気長とは、RF62ポートから出力された第2群GSM送信信号の高調波を位相設定素子DL1で伝送することで位相変化させて、この高調波に対してRF62ポートからローパスフィルタLPF81,LPF82側を見たインピーダンスを無限大から0方向へ所定量変化させる電気長である。これにより、RF62ポートから見るとローパスフィルタLPF81,LPF82側がオープン状態からショート状態となる方向に変化する。この際、位相設定素子DL1のみで、第2群GSM送信信号の2次高調波のインピーダンスを所定量変化させ、位相設定素子DL1とローパスフィルタLPF81を構成する各素子の素子値(インダクタンス、キャパシタンス)とで第2群GSM送信信号の3次高調波のインピーダンスを所定量変化させるように、位相設定素子DL1の電気長を設定する。
【0078】
この結果、アンテナ入出力ポートANT0に出力される高調波の大きさは、従来の高周波スイッチモジュール(図7)の高調波の大きさよりも小さくなる。
【0079】
このように、本実施形態の構成を用いることにより、アンテナに出力される高調波が低減されて送信特性が改善される。また、位相設定素子DL1は高調波に対してのみインピーダンスが変化する設定がされているので、第2群GSM送信信号の基本波に対しては位相が変化するのみで、インピーダンスは殆ど変化することがない。
【0080】
表1は本実施形態の各高周波スイッチモジュールと従来の高周波スイッチモジュールとにおける入力電力に対する各GSM送信信号の2倍高調波および3倍高調波の比をデシベルで表したものであり、各数値の単位は[dBc]である。また、表1中の「本発明a」が図2(a)に対応し、「本発明c」が図3(a)に対応し、「本発明d」が図3(b)に対応する。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示すように、本実施形態の構成(位相設定素子を用いた構成)とすることで、各GSM送信信号における入力電力に対する高調波の比を小さく(デシベル値を大きく)することができる。すなわち、出力される送信信号に含まれる高調波を低減することができる。特に、GSM1800送信信号およびGSM1900送信信号では、従来の構成を用いると3倍高調波が規格値である70dBcを下回る(GSM1800MHz送信信号:67.05dBc、GSM1900MHz送信信号:67.15dBc)が、本実施形態の「本発明a」の構成を用いることにより規格値を満足する(GSM1800MHz送信信号:71.42dBc、GSM1900MHz送信信号:71.48dBc)。また、本実施形態の「本発明c」の構成を用いることにより規格値を満足する(GSM1800MHz送信信号:70.62dBc、GSM1900MHz送信信号:72.13dBc)。また、本実施形態の「本発明d」の構成を用いることにより規格値を満足する(GSM1800MHz送信信号:72.62dBc、GSM1900MHz送信信号:70.53dBc)。このように、位相設定素子によって、送信入力ポートからフィルタ方向を見た場合における送信信号の2次高調波または3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置を、インピーダンス0の近傍に配置させることにより、高次高調波を減衰させることができる。
【0083】
以上のように、本実施形態の構成を用いることで、それぞれに異なる周波数帯を利用する4つのGSM送信号の高調波は抑制されるが、基本波は殆ど減衰されることなく伝送される。すなわち、各GSM送信信号の高調波のみを抑制して、基本波に損失を殆ど生じさせることなく伝送する高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0084】
この際、位相調整量を設定した伝送線路のみで高調波を抑制するので、高周波スイッチモジュールが大型化せず、且つ簡素な構造で実現される。
【0085】
次に、図4に示した高周波スイッチモジュールの積層体の構造について図5,図6を参照して説明する。
図5、図6は本実施形態の高周波スイッチモジュールの積層図である。図5、図6は、本実施形態の積層体型高周波スイッチモジュールの各誘電体層(1)〜(28)を順に上から見た図であり、誘電体層(29)をして示しているものは誘電体層(28)の裏面、すなわち、高周波スイッチモジュールの底面である。これら図5、図6に示す記号は図4に示した各素子の記号に対応する。また、図5、図6において1は積層体、2はキャビティ、3はスルーホールを表す。スルーホール3は代表のものに記号を付したが、図に示されている同径の円形は全てスルーホールを示す。
【0086】
積層体1は、誘電体層(1)を最上層として、番号順に上から順に誘電体層(1)〜誘電体層(18)を積層することにより形成される。最上層の誘電体層(1)〜誘電体層(11)は中央に一辺が所定長さで正方形の孔が形成されており、誘電体層(1)〜(11)が積層されることでこれらの孔からキャビティ2が形成される。そして、このキャビティ2内にFETスイッチSW50が設置されている。FETスイッチSW50の天面およびこの天面に接続されたワイヤボンディングのワイヤは積層体1の天面から突出しておらず、FETスイッチSW50が積層体1に内蔵された形状になっている。最下層の誘電体層(28)の裏面(図6における誘電体層(29))には、グランド電極GNDを含む外部接続用電極が形成されており、これらの電極によりこの高周波スイッチモジュールは外部の回路基板に実装される。
【0087】
最上層の誘電体層(1)〜誘電体層(6)には孔が設けられるのみで電極パターンは形成されていない。
誘電体層(7)にはFETスイッチSW50の各端子電極にワイヤボンディングするためのパッド電極が形成されており、これら各パッド電極とFETスイッチSW50の各端子電極とをワイヤボンディングにより接続している。
誘電体層(8)〜誘電体層(11)にはスルーホール3のみが形成さている。
【0088】
誘電体層(12)、誘電体層(13)にはグランド電極GNDが形成されており、このグランド電極GNDはキャパシタDCu1,Gcu1の対向電極を兼ねている。
誘電体層(14)にはキャパシタDCc1,Gcc1の対向電極が形成されるとともに、インダクタDL1,GL1となる伝送線路が形成されている。ここで、キャパシタDCc1,Gcc1の対向電極はキャパシタDCu1,Gcu1の対向電極を兼ねている。
誘電体層(15)にはキャパシタDCc1,GCc1の対向電極が形成されており、キャパシタDCc1の対向電極はキャパシタDCc2の対向電極を兼ねており、キャパシタGCc1の対向電極はキャパシタGCc2の対向電極を兼ねている。
誘電体層(16)にはキャパシタDCc2,GCc2の対向電極が形成されている。
【0089】
誘電体層(17)、誘電体層(18)にはスルーホール3のみが形成されている。
誘電体層(19)〜誘電体層(22)には4層に亘りインダクタDLt1,DLt2,GLt1,GLt2が形成されている。
誘電体層(23)、誘電体層(24)にはスルーホール3のみが形成されている。
誘電体層(25)にはキャパシタDCu2,GCu2の対向電極が形成されている。
誘電体層(26)にはグランド電極GNDが形成されており、このグランド電極GNDはキャパシタDCu2,GCu2,DCu3の対向電極を兼ねている。
誘電体層(27)にはキャパシタDCu3の対向電極が形成されている。
【0090】
誘電体層(28)の天面にはグランド電極GNDが形成されており、このグランド電極GNDはキャパシタDCu3の対向電極を兼ねている。また、誘電体層(28)の裏面(図6における誘電体層(29))にはグランド電極GNDと各種外部接続電極が形成されている。
これらの電極パターンはスルーホール3により層間の導通がされており、図4に示す回路が形成されている。
【0091】
このような構成とすることで、高周波スイッチモジュールを単体の積層体で実現することができる。これにより、高周波スイッチモジュールを小型に形成することができる。
【0092】
なお、前述の説明では、FETスイッチSW50が積層体内に内蔵される構造を示したが、積層体表面に実装しても良い。また、FETスイッチと積層体との接続をワイヤボンディングで行ったが、フリップチップ型のFETスイッチを用いてバンプ接続してもよい。さらには、高周波スイッチモジュールを構成する各回路素子を、各誘電体層表面に形成された電極で構成したが、実装型のインダクタおよびキャパシタを用いてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1−積層体
2−キャビティ
3−スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号が入力される送信入力ポート、受信信号を出力する受信出力ポート、および、アンテナへ前記送信信号を出力するまたは前記アンテナから前記受信信号を入力するアンテナポートを備え、該アンテナポートを送信入力ポートまたは受信出力ポートに切り替えて接続するFETスイッチと、
前記送信入力ポートに接続され、前記送信信号の高次高調波を減衰させるフィルタと、を備えた高周波スイッチモジュールにおいて、
前記送信入力ポートと前記フィルタとに直列接続される伝送線路からなる位相設定手段が挿入され、
前記伝送線路からなる位相設定手段により、前記送信信号の2次高調波および3次高調波における位相を変化させて高調波を抑制した、ことを特徴とする高周波スイッチモジュール。
【請求項2】
前記位相設定手段は、前記FETスイッチの送信入力ポートにおける特性インピーダンスと前記フィルタの前記FETスイッチ側端部における特性インピーダンスと同じ特性インピーダンスを有し、前記送信信号の基本波の位相のみを変化させてインピーダンスの絶対値を当該位相設定手段を挿入する前後で実質的に変化させない電気長の伝送線路で形成される請求項1に記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項3】
前記電気長は前記2次高調波の波長の1/4未満の長さである請求項2に記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項4】
前記位相設定手段によって、前記送信入力ポートから前記フィルタ方向を見た場合における前記送信信号の2次高調波と3次高調波のインピーダンスのスミスチャート位置が、インピーダンス0を挟むように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項5】
前記フィルタは前記2次または3次高調波の周波数を阻止域に含むローパスフィルタである請求項1〜4のいずれかに記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項6】
前記ローパルフィルタは、前記送信信号の2次高調波の周波数を阻止域に含む第1ローパスフィルタと、前記送信信号の3次高調波の周波数を阻止域に含む第2ローパスフィルタと、を備えることを特徴とする請求項5に記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項7】
それぞれに特定の周波数帯を送信信号および受信信号で利用する通信信号を複数入出力し、
前記FETスイッチは、少なくとも前記通信信号毎に受信出力ポートを備える請求項1〜6のいずれかに記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項8】
前記送信入力ポートが複数あり、該送信入力ポート毎に前記位相設定手段が接続されている請求項7に記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項9】
前記FETスイッチは、第1周波数帯を利用する第1通信信号の送信信号と第2周波数帯を利用する第2通信信号の送信信号とが入力される第1送信入力ポート、第3周波数帯を利用する第3通信信号の送信信号と第4周波数帯を利用する第4通信信号の送信信号とが入力される第2送信入力ポート、前記第1通信信号の受信信号を出力する第1受信出力ポートと、前記第2通信信号の受信信号を出力する第2受信出力ポート、および、前記第3通信信号の受信信号を出力する第3受信出力ポートと、前記第4通信信号の受信信号を出力する第4受信出力ポート、を備えた請求項8に記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項10】
前記FETスイッチ、前記フィルタ、および前記位相設定手段は、複数の誘電体層を積層してなる積層体により一体形成された請求項1〜9のいずれかに記載の高周波スイッチモジュール。
【請求項11】
前記フィルタおよび前記位相設定手段は前記積層体内に形成されている請求項10に記載の高周波スイッチモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−213152(P2009−213152A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114547(P2009−114547)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願2008−223393(P2008−223393)の分割
【原出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】