高周波加熱装置の加熱導体
【課題】表面に凹凸がある被加熱物を良好に焼入れすることができると共に、容易に製造することができる高周波加熱装置の加熱導体を提供することである。
【解決手段】被加熱物4を高周波誘導加熱する高周波加熱装置1の加熱導体3において、加熱導体3は複数の湾曲片9a〜9cを有しており、各湾曲片9a〜9cは同一半径の円弧状であり、各湾曲片9a〜9cの円弧の中心を同一直線L上に配置し、各湾曲片9a〜9cを直線L方向に段状に連結する。
【解決手段】被加熱物4を高周波誘導加熱する高周波加熱装置1の加熱導体3において、加熱導体3は複数の湾曲片9a〜9cを有しており、各湾曲片9a〜9cは同一半径の円弧状であり、各湾曲片9a〜9cの円弧の中心を同一直線L上に配置し、各湾曲片9a〜9cを直線L方向に段状に連結する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流を通じた加熱導体を被加熱物に近接配置し、被加熱物を誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼素材からなる被加熱物に、高周波電流を通じた加熱導体を近接配置すると、被加熱物の表面には高周波の誘導電流が励起される。励起された誘導電流は、被加熱物の表面に沿って流れる。ここで被加熱物の表面に凹凸があると、誘導電流は基本的には凸部から凹部を経て別の凸部へ流れる。
【0003】
特許文献1の高周波焼入れ装置では、歯車の歯面を歯先から歯底に至るまで誘導加熱することができるワンターン形状の加熱導体(特許文献1では高周波コイルと称している。)が採用されている。すなわち、歯車の周囲に環状の加熱導体を配置し、加熱導体を流れる高周波電流によって、歯車の歯面に励起される誘導電流が歯先(凸部)から歯底(凹部)を経て別の歯先(凸部)に流れる。その結果、歯面は一様の焼入れ深さで焼入れされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−73456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、被加熱物がねじである場合、特許文献1に開示されている加熱導体(高周波コイル)を採用すると、ねじ山は焼入れされ易いが、ねじ底はほとんど焼入れされない。これは、加熱導体がねじの螺旋に対してほとんど角度差がないために、誘導電流が加熱導体から比較的近いねじ山に沿って流れ易くなり、逆にねじ底はねじ山よりも加熱導体から遠いために誘導電流が流れにくくなるためであると考えられる。
【0006】
そこで本件出願人は、誘導電流がねじ山からねじ底を経て隣接する別のねじ山に流れるように、加熱導体を配置する高周波焼入装置(特願2009−23773)を創案した。特願2009−23773の発明では、はすば歯車の歯筋に対して、加熱導体部を45度乃至135度の範囲の傾斜角を成して対向させている。その結果、はすば歯車に励起される誘導電流は、歯先に沿って流れるよりも、歯先から歯底を経て別の歯先に向かう方向に流れ易くなり、はすば歯車は良好に焼入れされる。
【0007】
ところが、この特願2009−23773号の発明で採用する加熱導体は、はすば歯車の同一横断面上の円周に沿って湾曲するだけではなく、軸方向にも湾曲しており、形状が複雑であり、熟練者でなければ精度よく製造することができない。特に、はすば歯車の直径が小さくなる程、対応する加熱導体の加工は困難である。
【0008】
そこで本発明は、表面に凹凸がある被加熱物を良好に焼入れすることができると共に、容易に製造することができる高周波加熱装置の加熱導体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、被加熱物を高周波誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体において、前記加熱導体は複数の分割片を有しており、誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、前記各分割片が段状に連結されることを特徴とする高周波加熱装置の加熱導体である。
【0010】
請求項1の発明では、誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、加熱導体の各分割片が段状に連結されるので、誘導加熱時に設置された被加熱物の円周方向に各分割片が沿うと共に、各分割片の段状に連結される部分が被加熱物の軸方向に沿う。そのため、加熱導体に供給される高周波電流は被加熱物の周囲を円周上に流れると共に軸方向にも流れる。その結果、被加熱物の表面に筋状の凸部と凹部とが形成されていても、各分割片か、又は各分割片が連結される部分のいずれか一方が、必ず被加熱物の表面の凸部と凹部の筋と45度以上135度以下の角度で対向する。よって、被加熱物の表面に励起される高周波誘導電流は、凸部に沿って流れるだけではなく、必ず凸部から凹部を経て別の凸部へと流れ、被加熱物の表面を略一様に誘導加熱することができる。
【0011】
また、仮に被加熱物が、軸方向に平行な歯筋を有する歯車である場合には、分割片によって歯先から歯底を経て別の歯先へと誘導電流を励起させることができる。その結果、被加熱物の表面を略一様な焼入れ深さで焼入れすることができる。
【0012】
請求項2の発明は、前記各分割片が、同一半径又は略同一半径の円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置の加熱導体である。
【0013】
請求項2の発明では、各分割片が同一半径又は略同一半径であるので、各分割片を被加熱物の円周方向に沿って配置することができる。その結果、被加熱物の表面に安定した誘導電流を励起させ易くなる。
【0014】
請求項3の発明は、各分割片の端部同士が直に連結される部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波加熱装置の加熱導体である。
【0015】
請求項3の発明では、各分割片の端部同士が直に連結される部分を有するので、当該部分において高周波電流は、各分割片の端から端まで流れ、そして隣接する分割片に跨がって流れる。よって、被加熱物の周方向に励起される高周波誘導電流が増加すると共に、被加熱物の軸方向にも高周波電流が流れる。その結果、被加熱物の表面の凹凸が、各分割片に対して45度以上の角度で対向する筋状の凹凸である場合に、各分割片及び各分割片を跨がって流れる高周波電流によって、被加熱物には凹凸を横切って高周波誘導電流が流れる。また、被加熱物が歯車であって、歯筋が歯車の軸方向に沿っている場合においても、各分割片及び各分割片を跨がって流れる高周波電流によって励起される高周波誘導電流が、歯先から歯底に至るまで良好に流れる。よって、被加熱物の表面を良好に焼入れすることができる。
【0016】
各分割片を連結して段状部を構成し、段状部の両端が被加熱物の軸回りの略半周に至るように構成するのが好ましい。このように構成すると、加熱導体は被加熱物に対して半径方向に接近及び離間することができる。よって、高周波加熱装置の設備の省スペース化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高周波加熱装置の加熱導体は、加熱導体に供給される高周波電流が、被加熱物の周囲を円周方向に流れると共に軸方向にも直交して流れる。その結果、被加熱物の表面に筋状の凸部と凹部とが形成されていても、各分割片か、又は各分割片が連結される部分のいずれか一方が、被加熱物の筋状の凸部及び凹部と必ず45度以上135度以下の角度で対向する。よって、被加熱物の表面に励起される高周波誘導電流は、凸部に沿って流れるだけではなく、必ず凸部から凹部を経て別の凸部へと流れ、被加熱物の表面を略一様な焼入れ深さで焼入れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の加熱導体を備えた高周波加熱装置の系統図である。
【図2】高周波加熱装置に設けた本発明の加熱導体の斜視図である。
【図3】(a)は、加熱導体の段状部の分解斜視図であり、(b)は、段状部の組立斜視図である。
【図4】図3の段状部を平面視した際の断面図であり、(a)は分解図であり、(b)は(a)の状態から各湾曲片の両端に蝋を充填して閉塞した状態を示しており、(c)は組立図である。
【図5】加熱導体の平面図であり、(a)は段状部が3つの湾曲片で構成されている場合を示し、(b)は段状部が4つの湾曲片で構成されている場合を示し、(c)は段状部が5つの湾曲片で構成されている場合を示している。
【図6】図3とは別の形態の段状部の斜視図であり、(a)は分解図を示し、(b)は組立図を示している。
【図7】図6の段状部を平面視した断面図であり、(a)は分解図を示し、(b)は組立図を示している。
【図8】(a)は、図6の段状部を備えた加熱導体の平面図であり、(b)は、4つの湾曲片と3つの接続片からなる段状部を備えた加熱導体の平面図である。
【図9】本発明の段状部を有する加熱導体を備えた高周波加熱装置によって誘導加熱されたはすば歯車の部分拡大断面図である。
【図10】(a)は、図6とは別の段状部の分解斜視図であり、(b)は、(a)の組立斜視図である。
【図11】直線状の分割片で構成された段状部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の加熱導体の構成を説明する。
図1に示すように高周波加熱装置10は、高周波電源1,トランス2,加熱導体3を有している。高周波電源1は、交流電源から供給される交流を高周波化する高周波発信器を備えている。そして、高周波発信器で高周波に変換された交流が、トランス2へ出力される。トランス2は1次側2aと2次側2bの巻き線を有しており、1次側2aが高周波電源1に接続されており、2次側2bが後述の加熱導体3に接続されている。そして、トランス2によって高周波電力が高圧化され、加熱導体3へ出力される。すなわち、トランス2は、図示しない出力端子を備えている。
【0020】
図1に示すように加熱導体3は、焼入れ時に被加熱物4に近接配置される。加熱導体3は、中空の導体で形成されている。また、加熱導体3は、本発明の特徴的な構成部分である段状部5(後述)の両側に、各々1本の中空の導体が接続される構成を有している。以下、加熱導体3の構成を説明する。
【0021】
加熱導体3は、複数の中空の導体が直列に接続される構成を有しており、その両端には図示しない入力端子が設けられている。この入力端子には、トランス2の出力端子が接続される。そして加熱導体3には、この入力端子を介して、高周波電源側から高周波電流が供給される。
【0022】
加熱導体3は、大きく分類して段状部5,直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,リード部8a,8bを有している。このうち、リード部8a,8bは、高周波電源側から高周波電流を受ける入力端子が設けられる部位である。また、リード部8a,8bの間には、直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,段状部5が配置される。直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,リード部8a,8bの外径は四角柱状であり、各々銅や銅合金等の中空の良導体で形成されている。
【0023】
本実施の形態では、リード部8aには、円周部7a,直線部6a,円周部7b,直線部6bが、この順に接続されている。また、リード部8bには、円周部7d,直線部6d,円周部7c,直線部6cが、この順に接続されている。そして、直線部6bと直線部6cは、段状部5で接続されている。図2に示すように、円周部7a〜7dは同じ半径を有しており、円周部7a〜7dの円弧中心c2,c1,c7,c6は、同一の直線L上に配置されている。図2において一点鎖線で示す直線Lは、誘導加熱時における被加熱物の中心(軸)と一致する。
【0024】
図3に示すように段状部5は、中空で外形が四角柱状の3つの湾曲片9a〜9c(分割片)で構成されている。図3に示す各湾曲片9a〜9cは、形状及び大きさが同じである。すなわち、各湾曲片9a〜9cは、円周部7a〜7dと同じ半径の円弧状の中空導体である。また、湾曲片9a〜9cは中空の導体であるが、図4(b)に示すように両方の端面11a,11bは蝋16a,16bによって閉塞され、側面12a,12bの端部にそれぞれ開口13a及び13bが設けられている。すなわち、開口13aは、一方の側面12aの端面11b側に設けられており、開口13bは、他方の側面12bの端面11a側に設けられている。よって、開口13aは、開口13bを設けた側面12bとは反対側の側面12aに設けられており、さらに開口13aは、開口13bが設けられた端部11aとは反対側の端部11bの近傍に設けてある。
【0025】
各湾曲片9a〜9cは、以上のような形状を呈している。そして、湾曲片9aの開口13aと湾曲片9bの開口13bが位置合わせされて、図4(c)に示すように湾曲片9aと湾曲片9bは接合(蝋付け)される。同様に、湾曲片9bの開口13aと湾曲片9cの開口13bが位置合わせされて、湾曲片9bと湾曲片9cが接合(蝋付け)される。その結果、図4(c)に示すように、湾曲片9a〜9cは段状に接合されて段状部5が形成される。すなわち、図2に示すように、段状部5を構成する湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5は、同一の直線L上に配置されている。この直線Lは、誘導加熱時における被加熱物の中心(軸)と一致する。また、各湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5と、円周部7a〜7dの円弧中心c2,c1,c7,c6は、同一の直線L上に配置されている。
【0026】
湾曲片9aの開口13bは、段状部5の一方の端部に位置しており、湾曲片9cの開口13aは、段状部5の他方の端部に位置している。そして、湾曲片9aの開口13b側には直線部6bが接続(蝋付け)され、湾曲片9cの開口13aには直線部6cが接続(蝋付け)される。その結果、段状部5は円周部7a〜7dと同じ半径で湾曲すると共に、湾曲片9a〜9cは、対向相手の被加熱物4の軸方向(直線Lが延びる方向)に段状に位置がずれている。
【0027】
そして、加熱導体3の各円周部7a〜7d,直線部6a〜6d,及び段状部5(湾曲片9a〜9c)は中空の導体であり、各々が接続されると、一連の冷却水通路が形成される。すなわち、加熱導体3の内部には図示しない冷却水供給管から冷却水が供給可能であり、冷却水は加熱導体3内を流通できる。
【0028】
ここで各湾曲片9a〜9cの半径は、図3に示すように同じであってもよいが、ある特定の湾曲片(例えば湾曲片9b)の半径に対して、その他の湾曲片(例えば湾曲片9a,9c)の半径はプラスマイナス10%の範囲内であればよく、特にプラスマイナス5%以内であるのが好ましい。そして各湾曲片9a〜9cの半径を相違させる場合には、各湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5を同一の直線L上に配置せず、各湾曲片9a〜9cを被加熱物4の外周の形状に合わせて配置する。
【0029】
以上のように加熱導体3は構成されており、高周波電源から供給される高周波電流は、リード部8a,8bの間を、円周部7a,直線部6a,円周部7b,直線部6b,段状部5,直線部6c,円周部7c,直線部6d,円周部7dの順(又はこの逆の順)に流れる。
【0030】
加熱導体3は、下方が開いたいわゆる半開放鞍型と呼ばれる形式である。よって、加熱導体3は、被加熱物4に対して半径方向に接近及び離間することができる。具体的には、被加熱物4がはすば歯車であるとすると、はすば歯車4に対して加熱導体3を、はすば歯車4の半径方向に接近又は離間させることができる。よって、加熱導体3の段状部5を、はすば歯車4に容易に対向配置することができる。
【0031】
次に、以上説明したように構成された加熱導体3を備えた高周波加熱装置10(図1)によって、被加熱物4を誘導加熱する際の状況を説明する。
まず、図示しない駆動装置によって加熱導体3を移動させ、被加熱物4に近接配置する。そして被加熱物4は、図示しない別の駆動装置によって回転駆動され、さらに高周波電源1からトランス2を経て高周波電流が加熱導体3に供給される。高周波電流は加熱導体3内の段状部5を流れる。高周波電流は、段状部5の湾曲片9a〜9cに沿って被加熱物4の円周方向に流れると共に、各湾曲片の接続部において湾曲片と直交する方向(直線Lが延びる方向)に流れる。すなわち高周波電流は、図4(c)において矢印Bで示す円周方向と、矢印Cで示す円周方向と直交する方向(図2の直線Lが延びる方向)に直交するように流れる。
【0032】
ここで、被加熱物4が仮にねじであって、螺旋状のねじ山及びねじ底が湾曲片9a〜9cと45度以下の角度で対向している場合には、螺旋状のねじ山及びねじ底は、各湾曲片の接続部における高周波電流の流れ(矢印Cで示す方向の流れ)に対して45度以上135度以下の角度で対向する。よって、高周波電流の矢印Cで示す方向の流れによって、被加熱物4の表面にはねじ山からねじ底を経て別のねじ山へと誘導電流が励起される。その結果、ねじ底も誘導加熱され焼入れされる。
【0033】
また、被加熱物4がはすば歯車であって、歯筋が各湾曲片9a〜9cに対して45度以上の角度で対向していると、各湾曲片9a〜9cを矢印B方向(円周方向)に流れる高周波電流によって被加熱物4の表面には歯先から歯元(歯底)を経て別の歯先へと誘導電流が励起される。その結果、はすば歯車の表面(歯筋)は、良好に焼入れされる。
【0034】
すなわち、図9に示すように、被加熱物4に近接した加熱導体3(段状部5)を流れる高周波電流21によって、被加熱物4の表面には高周波誘導電流22が励起される。高周波誘導電流22は、被加熱物4の表面の凹凸を越えて流れ、その結果、符号4aで示す表面からの深さの焼入れパターンが得られる。
【0035】
このように、高周波加熱装置10の加熱導体3に備えた段状部5では、高周波電流が被加熱物4の円周方向と、円周方向に対して直交する方向に流れるので、被加熱物4にどのような方向の筋(螺旋溝や歯筋等)が形成されていても、被加熱物4の凹部にも高周波誘導電流を励起させることができ、良好に焼入れすることができる。
【0036】
本実施の形態では、段状部5が3つの湾曲片9a〜9cで構成される場合を示したが、図5(b),図5(c)に示すように、4つ又は5つの湾曲片で段状部を構成してもよい。段状部は、被加熱物4の大きさ(特に半径)に応じて製造可能な数の湾曲片で構成するのが好ましい。すなわち、被加熱物4の半径が小さい場合には、湾曲片の数を増やすのは困難であり、2つの湾曲片で段状部を構成するのが好ましい。逆に、被加熱物4の半径が十分に大きい場合には、段状部を製造できる範囲で湾曲片の数を増やすこともできる。
【0037】
図3〜図5では、各湾曲片9a〜9cが直に接続されて段状部5を形成する場合を示したが、各湾曲片9a〜9cの間に、別部材を配置することもできる。すなわち、図6,図7に示すように、湾曲片9aの開口13aと、湾曲片9bの開口13bの間に接続片14aを配置し、湾曲片9bの開口13aと湾曲片9cの開口13bに接続片14bを接続(蝋付け)して段状部15を構成する。接続片14a,14bは、湾曲片9a等と同じ素材からなる四角柱状の中空管で構成されている。そして、接続片14a,14bは、各湾曲片9a〜9cと直交しており、直線L(図2)が延びる方向に段状部15を拡張する。
【0038】
すなわち、図7(b)に示す段状部15の矢印Cで示す方向(直線Lが延びる方向)の長さが、図3,図4に示す段状部5よりも接続片14aの長さ分だけ長くなっている。その結果、矢印C方向(軸方向)の高周波電流の流れる長さ(範囲)が大きくなる。よって、被加熱物4の表面に励起される矢印C方向(直線L方向)の高周波誘導電流が増大する。
【0039】
このように、段状部に3つの湾曲片がある場合には、2つの接続片14a,14bで各湾曲片を接続する。また、図8(b)に示すように、湾曲片の数が4つ以上の場合にも、各湾曲片の間に接続片を配置して段状部を構成する。具体的には、湾曲片が4つの場合には、湾曲片9a〜9dの間に、各々接続片14a〜14cを配置する。
【0040】
上述の例では、各湾曲片の形状及び大きさを同じとしたが、各湾曲片の形状及び大きさを相違させ、各湾曲片を半径方向に連結させてもよい。また、段状部を図10に示すように構成することもできる。
【0041】
図10(a)では、図6(a)における湾曲片9bの代わりに湾曲片20を用い、接続片14a,14bの代わりに接続片17a,17bを用いている。湾曲片20と湾曲片9bとでは、開口を設ける位置が異なっている。
【0042】
すなわち、湾曲片20では、被加熱物と対向する側の側面20aの両端に各々開口23a,23bが設けられている。また、接続片17a,17bの外形は、接続片14a,14bの外形と同じであるが、開口の設け方が相違している。すなわち、接続片17aでは、隣接する面18,19に各々開口18a,19aが形成されており、開口18aと開口19aとが連通している。同様に、接続片17bにおいても、隣接する面24,25に各々開口24a,25aが形成されており、各開口24a,25a同士が接続片17b内部で連通している。
【0043】
そして、次のように各部材を接続し、段状部26を組み立てる。
湾曲片9aの開口13aに、接続片17aの開口18aを位置合わせし、湾曲片9aの側面12aに接続片17aの面18を固着する。接続片17aの開口19aに、湾曲片20の開口23aを位置合わせし、接続片17aの面19と湾曲片20の側面20aとを固着する。また、湾曲片20の開口23bと接続片17bの開口24aとを位置合わせし、側面20aに接続片17bの面24を固着する。最後に、接続片17bの開口25aと湾曲片9cの開口13b(開口13aとは反対側の側面12bに設けた開口)とを位置合わせし、接続片17bの面25を湾曲片9cの側面12bに固着する。その結果、図10(b)に示すような段状部26が構成される。段状部26は、湾曲片9aと9cが同一半径であって、被加熱物に近接配置され、湾曲片20は接続片17a,17bの厚みの分だけ余計に湾曲片9a,9bよりも被加熱物から離間して配置される。
【0044】
すなわち、各湾曲片と接続片とを、被加熱物の径方向及び軸方向に適宜組み合わせて段状部を構成することができる。
【0045】
図示した各湾曲片の開口と各接続片の開口の形状は四角形状となっているが、開口は丸形状であっても差し支えない。すなわち、中空の加熱導体の内部通路の横断面の形状が四角形であっても、各開口の形状は丸形状であっても差し支えない。
【0046】
また、図3,図6,図10に示す段状部5,15,26は、いずれも湾曲片(9a等)が連結された構造を有しているが、代わりに図11に示すような段状部27を採用することもできる。段状部27は、3つの直線形状の分割片28a〜28cの端部同士が、紙面の奥側から手前側に段状に連結されている。分割片28a〜28cは中空であり、両端が閉鎖され、側面には開口29(一端側),30(他端側)が設けられている。
【0047】
すなわち、分割片28aの端部31(一端側)に設けられた開口29が、図2等に示す直線部6bに接続され、分割片28aの端部32(他端側)に設けられた開口30(図示せず)と分割片28bの端部33に設けられた開口29(図示せず)とが接続され、分割片28bの端部34に設けられた開口30と分割片28cの端部35に設けられた開口29とが接続され、分割片28cの端部36に設けられた開口30が、図2等に示す直線部6cと接続される。
【0048】
図11に示すように各分割片28a〜28cは、可能な限り被加熱物4の設置位置に沿って配置されるように、互いに適宜所定の角度を成して接続される。
【符号の説明】
【0049】
1 高周波電源
2 トランス
3 加熱導体
4 被加熱物
5 段状部
6a〜6d 直線部
7a〜7d 円周部
8a,8b リード部
9a〜9c 湾曲片(分割片)
10 高周波加熱装置
14a,14b 接続片
28a〜28c 直線状の分割片
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流を通じた加熱導体を被加熱物に近接配置し、被加熱物を誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼素材からなる被加熱物に、高周波電流を通じた加熱導体を近接配置すると、被加熱物の表面には高周波の誘導電流が励起される。励起された誘導電流は、被加熱物の表面に沿って流れる。ここで被加熱物の表面に凹凸があると、誘導電流は基本的には凸部から凹部を経て別の凸部へ流れる。
【0003】
特許文献1の高周波焼入れ装置では、歯車の歯面を歯先から歯底に至るまで誘導加熱することができるワンターン形状の加熱導体(特許文献1では高周波コイルと称している。)が採用されている。すなわち、歯車の周囲に環状の加熱導体を配置し、加熱導体を流れる高周波電流によって、歯車の歯面に励起される誘導電流が歯先(凸部)から歯底(凹部)を経て別の歯先(凸部)に流れる。その結果、歯面は一様の焼入れ深さで焼入れされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−73456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、被加熱物がねじである場合、特許文献1に開示されている加熱導体(高周波コイル)を採用すると、ねじ山は焼入れされ易いが、ねじ底はほとんど焼入れされない。これは、加熱導体がねじの螺旋に対してほとんど角度差がないために、誘導電流が加熱導体から比較的近いねじ山に沿って流れ易くなり、逆にねじ底はねじ山よりも加熱導体から遠いために誘導電流が流れにくくなるためであると考えられる。
【0006】
そこで本件出願人は、誘導電流がねじ山からねじ底を経て隣接する別のねじ山に流れるように、加熱導体を配置する高周波焼入装置(特願2009−23773)を創案した。特願2009−23773の発明では、はすば歯車の歯筋に対して、加熱導体部を45度乃至135度の範囲の傾斜角を成して対向させている。その結果、はすば歯車に励起される誘導電流は、歯先に沿って流れるよりも、歯先から歯底を経て別の歯先に向かう方向に流れ易くなり、はすば歯車は良好に焼入れされる。
【0007】
ところが、この特願2009−23773号の発明で採用する加熱導体は、はすば歯車の同一横断面上の円周に沿って湾曲するだけではなく、軸方向にも湾曲しており、形状が複雑であり、熟練者でなければ精度よく製造することができない。特に、はすば歯車の直径が小さくなる程、対応する加熱導体の加工は困難である。
【0008】
そこで本発明は、表面に凹凸がある被加熱物を良好に焼入れすることができると共に、容易に製造することができる高周波加熱装置の加熱導体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、被加熱物を高周波誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体において、前記加熱導体は複数の分割片を有しており、誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、前記各分割片が段状に連結されることを特徴とする高周波加熱装置の加熱導体である。
【0010】
請求項1の発明では、誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、加熱導体の各分割片が段状に連結されるので、誘導加熱時に設置された被加熱物の円周方向に各分割片が沿うと共に、各分割片の段状に連結される部分が被加熱物の軸方向に沿う。そのため、加熱導体に供給される高周波電流は被加熱物の周囲を円周上に流れると共に軸方向にも流れる。その結果、被加熱物の表面に筋状の凸部と凹部とが形成されていても、各分割片か、又は各分割片が連結される部分のいずれか一方が、必ず被加熱物の表面の凸部と凹部の筋と45度以上135度以下の角度で対向する。よって、被加熱物の表面に励起される高周波誘導電流は、凸部に沿って流れるだけではなく、必ず凸部から凹部を経て別の凸部へと流れ、被加熱物の表面を略一様に誘導加熱することができる。
【0011】
また、仮に被加熱物が、軸方向に平行な歯筋を有する歯車である場合には、分割片によって歯先から歯底を経て別の歯先へと誘導電流を励起させることができる。その結果、被加熱物の表面を略一様な焼入れ深さで焼入れすることができる。
【0012】
請求項2の発明は、前記各分割片が、同一半径又は略同一半径の円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置の加熱導体である。
【0013】
請求項2の発明では、各分割片が同一半径又は略同一半径であるので、各分割片を被加熱物の円周方向に沿って配置することができる。その結果、被加熱物の表面に安定した誘導電流を励起させ易くなる。
【0014】
請求項3の発明は、各分割片の端部同士が直に連結される部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波加熱装置の加熱導体である。
【0015】
請求項3の発明では、各分割片の端部同士が直に連結される部分を有するので、当該部分において高周波電流は、各分割片の端から端まで流れ、そして隣接する分割片に跨がって流れる。よって、被加熱物の周方向に励起される高周波誘導電流が増加すると共に、被加熱物の軸方向にも高周波電流が流れる。その結果、被加熱物の表面の凹凸が、各分割片に対して45度以上の角度で対向する筋状の凹凸である場合に、各分割片及び各分割片を跨がって流れる高周波電流によって、被加熱物には凹凸を横切って高周波誘導電流が流れる。また、被加熱物が歯車であって、歯筋が歯車の軸方向に沿っている場合においても、各分割片及び各分割片を跨がって流れる高周波電流によって励起される高周波誘導電流が、歯先から歯底に至るまで良好に流れる。よって、被加熱物の表面を良好に焼入れすることができる。
【0016】
各分割片を連結して段状部を構成し、段状部の両端が被加熱物の軸回りの略半周に至るように構成するのが好ましい。このように構成すると、加熱導体は被加熱物に対して半径方向に接近及び離間することができる。よって、高周波加熱装置の設備の省スペース化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高周波加熱装置の加熱導体は、加熱導体に供給される高周波電流が、被加熱物の周囲を円周方向に流れると共に軸方向にも直交して流れる。その結果、被加熱物の表面に筋状の凸部と凹部とが形成されていても、各分割片か、又は各分割片が連結される部分のいずれか一方が、被加熱物の筋状の凸部及び凹部と必ず45度以上135度以下の角度で対向する。よって、被加熱物の表面に励起される高周波誘導電流は、凸部に沿って流れるだけではなく、必ず凸部から凹部を経て別の凸部へと流れ、被加熱物の表面を略一様な焼入れ深さで焼入れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の加熱導体を備えた高周波加熱装置の系統図である。
【図2】高周波加熱装置に設けた本発明の加熱導体の斜視図である。
【図3】(a)は、加熱導体の段状部の分解斜視図であり、(b)は、段状部の組立斜視図である。
【図4】図3の段状部を平面視した際の断面図であり、(a)は分解図であり、(b)は(a)の状態から各湾曲片の両端に蝋を充填して閉塞した状態を示しており、(c)は組立図である。
【図5】加熱導体の平面図であり、(a)は段状部が3つの湾曲片で構成されている場合を示し、(b)は段状部が4つの湾曲片で構成されている場合を示し、(c)は段状部が5つの湾曲片で構成されている場合を示している。
【図6】図3とは別の形態の段状部の斜視図であり、(a)は分解図を示し、(b)は組立図を示している。
【図7】図6の段状部を平面視した断面図であり、(a)は分解図を示し、(b)は組立図を示している。
【図8】(a)は、図6の段状部を備えた加熱導体の平面図であり、(b)は、4つの湾曲片と3つの接続片からなる段状部を備えた加熱導体の平面図である。
【図9】本発明の段状部を有する加熱導体を備えた高周波加熱装置によって誘導加熱されたはすば歯車の部分拡大断面図である。
【図10】(a)は、図6とは別の段状部の分解斜視図であり、(b)は、(a)の組立斜視図である。
【図11】直線状の分割片で構成された段状部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の加熱導体の構成を説明する。
図1に示すように高周波加熱装置10は、高周波電源1,トランス2,加熱導体3を有している。高周波電源1は、交流電源から供給される交流を高周波化する高周波発信器を備えている。そして、高周波発信器で高周波に変換された交流が、トランス2へ出力される。トランス2は1次側2aと2次側2bの巻き線を有しており、1次側2aが高周波電源1に接続されており、2次側2bが後述の加熱導体3に接続されている。そして、トランス2によって高周波電力が高圧化され、加熱導体3へ出力される。すなわち、トランス2は、図示しない出力端子を備えている。
【0020】
図1に示すように加熱導体3は、焼入れ時に被加熱物4に近接配置される。加熱導体3は、中空の導体で形成されている。また、加熱導体3は、本発明の特徴的な構成部分である段状部5(後述)の両側に、各々1本の中空の導体が接続される構成を有している。以下、加熱導体3の構成を説明する。
【0021】
加熱導体3は、複数の中空の導体が直列に接続される構成を有しており、その両端には図示しない入力端子が設けられている。この入力端子には、トランス2の出力端子が接続される。そして加熱導体3には、この入力端子を介して、高周波電源側から高周波電流が供給される。
【0022】
加熱導体3は、大きく分類して段状部5,直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,リード部8a,8bを有している。このうち、リード部8a,8bは、高周波電源側から高周波電流を受ける入力端子が設けられる部位である。また、リード部8a,8bの間には、直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,段状部5が配置される。直線部6a〜6d,円周部7a〜7d,リード部8a,8bの外径は四角柱状であり、各々銅や銅合金等の中空の良導体で形成されている。
【0023】
本実施の形態では、リード部8aには、円周部7a,直線部6a,円周部7b,直線部6bが、この順に接続されている。また、リード部8bには、円周部7d,直線部6d,円周部7c,直線部6cが、この順に接続されている。そして、直線部6bと直線部6cは、段状部5で接続されている。図2に示すように、円周部7a〜7dは同じ半径を有しており、円周部7a〜7dの円弧中心c2,c1,c7,c6は、同一の直線L上に配置されている。図2において一点鎖線で示す直線Lは、誘導加熱時における被加熱物の中心(軸)と一致する。
【0024】
図3に示すように段状部5は、中空で外形が四角柱状の3つの湾曲片9a〜9c(分割片)で構成されている。図3に示す各湾曲片9a〜9cは、形状及び大きさが同じである。すなわち、各湾曲片9a〜9cは、円周部7a〜7dと同じ半径の円弧状の中空導体である。また、湾曲片9a〜9cは中空の導体であるが、図4(b)に示すように両方の端面11a,11bは蝋16a,16bによって閉塞され、側面12a,12bの端部にそれぞれ開口13a及び13bが設けられている。すなわち、開口13aは、一方の側面12aの端面11b側に設けられており、開口13bは、他方の側面12bの端面11a側に設けられている。よって、開口13aは、開口13bを設けた側面12bとは反対側の側面12aに設けられており、さらに開口13aは、開口13bが設けられた端部11aとは反対側の端部11bの近傍に設けてある。
【0025】
各湾曲片9a〜9cは、以上のような形状を呈している。そして、湾曲片9aの開口13aと湾曲片9bの開口13bが位置合わせされて、図4(c)に示すように湾曲片9aと湾曲片9bは接合(蝋付け)される。同様に、湾曲片9bの開口13aと湾曲片9cの開口13bが位置合わせされて、湾曲片9bと湾曲片9cが接合(蝋付け)される。その結果、図4(c)に示すように、湾曲片9a〜9cは段状に接合されて段状部5が形成される。すなわち、図2に示すように、段状部5を構成する湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5は、同一の直線L上に配置されている。この直線Lは、誘導加熱時における被加熱物の中心(軸)と一致する。また、各湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5と、円周部7a〜7dの円弧中心c2,c1,c7,c6は、同一の直線L上に配置されている。
【0026】
湾曲片9aの開口13bは、段状部5の一方の端部に位置しており、湾曲片9cの開口13aは、段状部5の他方の端部に位置している。そして、湾曲片9aの開口13b側には直線部6bが接続(蝋付け)され、湾曲片9cの開口13aには直線部6cが接続(蝋付け)される。その結果、段状部5は円周部7a〜7dと同じ半径で湾曲すると共に、湾曲片9a〜9cは、対向相手の被加熱物4の軸方向(直線Lが延びる方向)に段状に位置がずれている。
【0027】
そして、加熱導体3の各円周部7a〜7d,直線部6a〜6d,及び段状部5(湾曲片9a〜9c)は中空の導体であり、各々が接続されると、一連の冷却水通路が形成される。すなわち、加熱導体3の内部には図示しない冷却水供給管から冷却水が供給可能であり、冷却水は加熱導体3内を流通できる。
【0028】
ここで各湾曲片9a〜9cの半径は、図3に示すように同じであってもよいが、ある特定の湾曲片(例えば湾曲片9b)の半径に対して、その他の湾曲片(例えば湾曲片9a,9c)の半径はプラスマイナス10%の範囲内であればよく、特にプラスマイナス5%以内であるのが好ましい。そして各湾曲片9a〜9cの半径を相違させる場合には、各湾曲片9a〜9cの円弧中心c3〜c5を同一の直線L上に配置せず、各湾曲片9a〜9cを被加熱物4の外周の形状に合わせて配置する。
【0029】
以上のように加熱導体3は構成されており、高周波電源から供給される高周波電流は、リード部8a,8bの間を、円周部7a,直線部6a,円周部7b,直線部6b,段状部5,直線部6c,円周部7c,直線部6d,円周部7dの順(又はこの逆の順)に流れる。
【0030】
加熱導体3は、下方が開いたいわゆる半開放鞍型と呼ばれる形式である。よって、加熱導体3は、被加熱物4に対して半径方向に接近及び離間することができる。具体的には、被加熱物4がはすば歯車であるとすると、はすば歯車4に対して加熱導体3を、はすば歯車4の半径方向に接近又は離間させることができる。よって、加熱導体3の段状部5を、はすば歯車4に容易に対向配置することができる。
【0031】
次に、以上説明したように構成された加熱導体3を備えた高周波加熱装置10(図1)によって、被加熱物4を誘導加熱する際の状況を説明する。
まず、図示しない駆動装置によって加熱導体3を移動させ、被加熱物4に近接配置する。そして被加熱物4は、図示しない別の駆動装置によって回転駆動され、さらに高周波電源1からトランス2を経て高周波電流が加熱導体3に供給される。高周波電流は加熱導体3内の段状部5を流れる。高周波電流は、段状部5の湾曲片9a〜9cに沿って被加熱物4の円周方向に流れると共に、各湾曲片の接続部において湾曲片と直交する方向(直線Lが延びる方向)に流れる。すなわち高周波電流は、図4(c)において矢印Bで示す円周方向と、矢印Cで示す円周方向と直交する方向(図2の直線Lが延びる方向)に直交するように流れる。
【0032】
ここで、被加熱物4が仮にねじであって、螺旋状のねじ山及びねじ底が湾曲片9a〜9cと45度以下の角度で対向している場合には、螺旋状のねじ山及びねじ底は、各湾曲片の接続部における高周波電流の流れ(矢印Cで示す方向の流れ)に対して45度以上135度以下の角度で対向する。よって、高周波電流の矢印Cで示す方向の流れによって、被加熱物4の表面にはねじ山からねじ底を経て別のねじ山へと誘導電流が励起される。その結果、ねじ底も誘導加熱され焼入れされる。
【0033】
また、被加熱物4がはすば歯車であって、歯筋が各湾曲片9a〜9cに対して45度以上の角度で対向していると、各湾曲片9a〜9cを矢印B方向(円周方向)に流れる高周波電流によって被加熱物4の表面には歯先から歯元(歯底)を経て別の歯先へと誘導電流が励起される。その結果、はすば歯車の表面(歯筋)は、良好に焼入れされる。
【0034】
すなわち、図9に示すように、被加熱物4に近接した加熱導体3(段状部5)を流れる高周波電流21によって、被加熱物4の表面には高周波誘導電流22が励起される。高周波誘導電流22は、被加熱物4の表面の凹凸を越えて流れ、その結果、符号4aで示す表面からの深さの焼入れパターンが得られる。
【0035】
このように、高周波加熱装置10の加熱導体3に備えた段状部5では、高周波電流が被加熱物4の円周方向と、円周方向に対して直交する方向に流れるので、被加熱物4にどのような方向の筋(螺旋溝や歯筋等)が形成されていても、被加熱物4の凹部にも高周波誘導電流を励起させることができ、良好に焼入れすることができる。
【0036】
本実施の形態では、段状部5が3つの湾曲片9a〜9cで構成される場合を示したが、図5(b),図5(c)に示すように、4つ又は5つの湾曲片で段状部を構成してもよい。段状部は、被加熱物4の大きさ(特に半径)に応じて製造可能な数の湾曲片で構成するのが好ましい。すなわち、被加熱物4の半径が小さい場合には、湾曲片の数を増やすのは困難であり、2つの湾曲片で段状部を構成するのが好ましい。逆に、被加熱物4の半径が十分に大きい場合には、段状部を製造できる範囲で湾曲片の数を増やすこともできる。
【0037】
図3〜図5では、各湾曲片9a〜9cが直に接続されて段状部5を形成する場合を示したが、各湾曲片9a〜9cの間に、別部材を配置することもできる。すなわち、図6,図7に示すように、湾曲片9aの開口13aと、湾曲片9bの開口13bの間に接続片14aを配置し、湾曲片9bの開口13aと湾曲片9cの開口13bに接続片14bを接続(蝋付け)して段状部15を構成する。接続片14a,14bは、湾曲片9a等と同じ素材からなる四角柱状の中空管で構成されている。そして、接続片14a,14bは、各湾曲片9a〜9cと直交しており、直線L(図2)が延びる方向に段状部15を拡張する。
【0038】
すなわち、図7(b)に示す段状部15の矢印Cで示す方向(直線Lが延びる方向)の長さが、図3,図4に示す段状部5よりも接続片14aの長さ分だけ長くなっている。その結果、矢印C方向(軸方向)の高周波電流の流れる長さ(範囲)が大きくなる。よって、被加熱物4の表面に励起される矢印C方向(直線L方向)の高周波誘導電流が増大する。
【0039】
このように、段状部に3つの湾曲片がある場合には、2つの接続片14a,14bで各湾曲片を接続する。また、図8(b)に示すように、湾曲片の数が4つ以上の場合にも、各湾曲片の間に接続片を配置して段状部を構成する。具体的には、湾曲片が4つの場合には、湾曲片9a〜9dの間に、各々接続片14a〜14cを配置する。
【0040】
上述の例では、各湾曲片の形状及び大きさを同じとしたが、各湾曲片の形状及び大きさを相違させ、各湾曲片を半径方向に連結させてもよい。また、段状部を図10に示すように構成することもできる。
【0041】
図10(a)では、図6(a)における湾曲片9bの代わりに湾曲片20を用い、接続片14a,14bの代わりに接続片17a,17bを用いている。湾曲片20と湾曲片9bとでは、開口を設ける位置が異なっている。
【0042】
すなわち、湾曲片20では、被加熱物と対向する側の側面20aの両端に各々開口23a,23bが設けられている。また、接続片17a,17bの外形は、接続片14a,14bの外形と同じであるが、開口の設け方が相違している。すなわち、接続片17aでは、隣接する面18,19に各々開口18a,19aが形成されており、開口18aと開口19aとが連通している。同様に、接続片17bにおいても、隣接する面24,25に各々開口24a,25aが形成されており、各開口24a,25a同士が接続片17b内部で連通している。
【0043】
そして、次のように各部材を接続し、段状部26を組み立てる。
湾曲片9aの開口13aに、接続片17aの開口18aを位置合わせし、湾曲片9aの側面12aに接続片17aの面18を固着する。接続片17aの開口19aに、湾曲片20の開口23aを位置合わせし、接続片17aの面19と湾曲片20の側面20aとを固着する。また、湾曲片20の開口23bと接続片17bの開口24aとを位置合わせし、側面20aに接続片17bの面24を固着する。最後に、接続片17bの開口25aと湾曲片9cの開口13b(開口13aとは反対側の側面12bに設けた開口)とを位置合わせし、接続片17bの面25を湾曲片9cの側面12bに固着する。その結果、図10(b)に示すような段状部26が構成される。段状部26は、湾曲片9aと9cが同一半径であって、被加熱物に近接配置され、湾曲片20は接続片17a,17bの厚みの分だけ余計に湾曲片9a,9bよりも被加熱物から離間して配置される。
【0044】
すなわち、各湾曲片と接続片とを、被加熱物の径方向及び軸方向に適宜組み合わせて段状部を構成することができる。
【0045】
図示した各湾曲片の開口と各接続片の開口の形状は四角形状となっているが、開口は丸形状であっても差し支えない。すなわち、中空の加熱導体の内部通路の横断面の形状が四角形であっても、各開口の形状は丸形状であっても差し支えない。
【0046】
また、図3,図6,図10に示す段状部5,15,26は、いずれも湾曲片(9a等)が連結された構造を有しているが、代わりに図11に示すような段状部27を採用することもできる。段状部27は、3つの直線形状の分割片28a〜28cの端部同士が、紙面の奥側から手前側に段状に連結されている。分割片28a〜28cは中空であり、両端が閉鎖され、側面には開口29(一端側),30(他端側)が設けられている。
【0047】
すなわち、分割片28aの端部31(一端側)に設けられた開口29が、図2等に示す直線部6bに接続され、分割片28aの端部32(他端側)に設けられた開口30(図示せず)と分割片28bの端部33に設けられた開口29(図示せず)とが接続され、分割片28bの端部34に設けられた開口30と分割片28cの端部35に設けられた開口29とが接続され、分割片28cの端部36に設けられた開口30が、図2等に示す直線部6cと接続される。
【0048】
図11に示すように各分割片28a〜28cは、可能な限り被加熱物4の設置位置に沿って配置されるように、互いに適宜所定の角度を成して接続される。
【符号の説明】
【0049】
1 高周波電源
2 トランス
3 加熱導体
4 被加熱物
5 段状部
6a〜6d 直線部
7a〜7d 円周部
8a,8b リード部
9a〜9c 湾曲片(分割片)
10 高周波加熱装置
14a,14b 接続片
28a〜28c 直線状の分割片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を高周波誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体において、
前記加熱導体は複数の分割片を有しており、
誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、前記各分割片が段状に連結されていることを特徴とする高周波加熱装置の加熱導体。
【請求項2】
前記各分割片が、同一半径又は略同一半径の円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置の加熱導体。
【請求項3】
各分割片の端部同士が直に連結される部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波加熱装置の加熱導体。
【請求項1】
被加熱物を高周波誘導加熱する高周波加熱装置の加熱導体において、
前記加熱導体は複数の分割片を有しており、
誘導加熱時における被加熱物の設置位置に沿って、前記各分割片が段状に連結されていることを特徴とする高周波加熱装置の加熱導体。
【請求項2】
前記各分割片が、同一半径又は略同一半径の円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置の加熱導体。
【請求項3】
各分割片の端部同士が直に連結される部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波加熱装置の加熱導体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−134080(P2012−134080A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286877(P2010−286877)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】
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