説明

高周波発熱体、加熱調理器具、および、高周波加熱調理器

【課題】マグネタイトを高周波吸収材料とする高周波発熱体は、初期の昇温性能に優れているが、酸化による結晶構造の変化により、昇温性能が低下し、被加熱物の焦げ目が付き難くなり、加熱調理器具としての耐久性、信頼性に劣る。
【解決手段】マグネタイトを含む高周波発熱体3において、マグネタイト粒子7に予めヘマタイト層8を形成した構成とすることにより、高温環境下での空気中の酸素、水蒸気などの酸化による結晶構造の変化を抑制することができるので、長期に渡り優れた昇温性能を実現することができ、おいしさと適度な焦げ目を両立させることができる。また、マグネタイト粒子7に形成されたヘマタイト層8によって、エラストマー6の架橋反応を抑制することができ、高周波発熱体3の剥離やクラックの発生を防止することができ、耐久性、信頼性に優れた加熱調理器具1を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジなどに用いられる高周波により発熱する高周波発熱体と、高周波加熱により被加熱物の表面に焦げ目を付けることのできる加熱調理器具と、この加熱調理器具を設けた高周波加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の高周波発熱体および加熱調理器具としては、被加熱物を載置する被加熱物載置皿の底面部にフェライトを主成分とする高周波発熱体を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、特許文献1に記載された従来の高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿28の斜視図である。高周波発熱体は、被加熱物載置皿28の底面(図示せず)に設けられている。
【0004】
図6は、高周波発熱体29が設けられた被加熱物載置皿28の一部断面図である。図6に示すように、高周波発熱体29は被加熱物置皿28を構成する塗装された金属基材30に設けられている。また、高周波発熱体29は、キュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料の粒子とゴム材料とからなり、高周波吸収材料の粒子が、ゴム材料の中に均一に分散した状態にある。
【0005】
調理物が載せられた被加熱物載置皿28を、高周波を発生させるマグネトロンを搭載した高周波加熱調理器の所定の位置に配置し、グリル調理を開始すると、マグネトロンから発振された高周波を被加熱物載置皿28に設けられた高周波発熱体29が吸収することによって熱に変換され、被加熱物載置皿28が加熱される。そして、加熱された被加熱物載置皿28に接触している被加熱物が加熱され、被加熱物は調理の進行に伴い焦げ目が付く。
【0006】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物のおいしさと適した焦げ目とを両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが、被加熱物載置皿28を150〜300℃の温度に短時間で昇温させる必要がある。
【0007】
また、適用可能な他の高周波発熱体の材料としては、マグネタイトとエラストマーの組成物がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−225186号公報
【特許文献2】特開2007−45975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の高周波発熱体29は、キュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料を用いているため、高周波吸収材料が高周波を吸収して発熱し、キュリー温度近くに昇温すると、高周波吸収材料が磁気相転移により磁気特性の一つである磁気損失が小さくなり、高周波の吸収性能が低下し、昇温速度が遅くなるという課題を有していた。
【0010】
また、キュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料からなる高周波発熱体を加熱調理器具として用いた場合、被加熱物に適した焦げ目を付けるためには短時間で被加熱物載置皿を昇温させる必要がある。
【0011】
この場合、高周波吸収材料の高周波の吸収性能が低下することにより、被加熱物載置皿28の昇温速度が遅くなるため、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、調理時間が長くなることによる被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われるという課題を有していた。
【0012】
一方、キュリー温度の高い材料としてマグネタイト(Fe3O4)がある。マグネタイトのキュリー温度は580℃と高く、300℃では磁気相転移は起こらないが、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、高周波の吸収性能が低いヘマタイト(Fe2O3)に結晶構造が変化する。
【0013】
したがって、マグネタイトは初期の高周波の吸収性能は高いが、酸化により、徐々に高周波の吸収性能が低下するため、長期的に安定した昇温性能が得られないという課題を有していた。
【0014】
また、マグネタイトを主成分とする高周波吸収材料からなる高周波発熱体を加熱調理器具として用いた場合、高周波発熱体の昇温性能が低下する方向に経時変化するため、被加熱物の初期の適した焦げ目が長期の使用において再現できなくなり、ユーザーの不満につながる。
【0015】
さらに、適した焦げ目を得ようとすると、オート調理からマニュアル調理する必要があり、調理機器の操作が煩雑になるとともに、焦げ目を優先すると被加熱物の内部が過加熱になり、被加熱物のおいしさが失われるという課題を有していた。
【0016】
また、マグネタイトとシリコンゴムの組み合わせにおいて、高温環境下でマグネタイトによってシリコンゴムの架橋反応を促進し、シリコンゴムの収縮、硬化の現象が起きる。これによって、高周波発熱体はシリコンゴムの収縮による被加熱物載置皿からの剥離や硬化によるクラックが発生し、高周波発熱体としての機能が失われ、加熱調理器具としての耐久性、信頼性が劣るという課題を有していた。
【0017】
なお、マグネタイトの酸化は、空気中の酸素、調理中に発生する水蒸気の拡散、被加熱物載置皿の温度が高い状態で洗浄、冷却される際に用いられる水との接触、ゴム中の酸素原子との反応によって起こるものである。
【0018】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高周波発熱体に用いる高周波吸収材料であるマグネタイトの安定化を図り、高周波発熱体の昇温性能の経時変化を防止し、常に安定した被加熱物の調理状態を実現することができるとともに、高周波発熱体の剥離、クラックを防止し、優れた耐久性、信頼性を確保することのできる高周波発熱体と、この高周波発熱体を用いた加熱調理器具と、この加熱調理器具を用いた高周波加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波発熱体は、少なくともマグネタイト粒子を含む高周波発熱体において、マグネタイト粒子表面にヘマタイト層を形成したものである。
【0020】
これによって、被加熱物載置皿の使用温度範囲において、マグネタイトの酸化による高
周波の吸収性能の低下が防止され、常に安定した高周波発熱体の昇温性能を実現することができるとともに、エラストマーの架橋反応が抑制され、発熱体の剥離やクラックが防止され、優れた耐久性を実現することができる。
【0021】
また、本発明の加熱調理器具は、被加熱物を載置する有機高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に、本発明の高周波発熱体を設けた構成としたものである。
【0022】
これによって、高周波発熱体は常に安定した高い昇温性能を有し、かつ、この高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に熱伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物内部の水分の減少につながる被加熱物の過加熱が防止され、被加熱物のおいしさを実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高周波発熱体およびそれを用いた加熱調理器具によれば、高周波吸収材料であるマグネタイトの酸化による高周波の吸収性能の低下を防止することができるので昇温性能に優れた高周波発熱体を実現することができるとともに、この優れた昇温性能を長期に渡り安定して得ることができる。
【0024】
また、マグネタイトによるエラストマーの架橋反応を抑止することができるので、高周波発熱体の剥離やクラックを防止することができ、優れた耐久性、信頼性を実現することができる。
【0025】
さらに、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさと適度な焦げ目を両立させる新しい調理方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態における高周波発熱体が設けられた加熱調理器具の断面図
【図2】本発明の実施の形態における高周波発熱体の構造を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態における被覆層が形成されたマグネタイトの粒子の断面構造を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態における加熱調理器具が搭載される高周波加熱調理器の断面図
【図5】従来の高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿の斜視図
【図6】従来の被加熱物載置皿の一部断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の発明は、少なくともマグネタイト粒子を含む高周波発熱体において、前記マグネタイト粒子の表面にヘマタイト層を形成した構成とするものである。
【0028】
これにより、マグネタイトの酸化が原因で起こる高周波の吸収性能の低下を防止することができ、常に安定した高い昇温性能が得られるとともに、エラストマーの架橋反応による収縮や硬化を抑制することができる。その結果、高周波発熱体の剥離やクラックの発生を防止することができ、高い耐久性を実現することができる。
【0029】
第2の発明は、特に、第1の発明の高周波発熱体において、少なくとも1種のエラストマーを含む構成とするものである。これにより、第1の発明の効果に加えて、高周波吸収材料の粒子がエラストマーの中に分散した構造とすることができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃を受けても高周波発熱体の脱落や破壊を防止
することができる。
【0030】
第3の発明は、特に、第1または第2の高周波発熱体において、マグネタイト粒子の表面に形成されるヘマタイト層を予めマグネタイト粒子の酸化処理によって形成するものである。
【0031】
これにより、高温に加熱された空気中の酸素や水蒸気などの拡散を抑制する作用が発現するため、マグネタイトの酸素や水蒸気による酸化の進行を抑制することができ、マグネタイトの有する優れた高周波の吸収性能を維持することができるとともに、ヘマタイト層をマグネタイト粒子の表面に形成することができる。
【0032】
その結果、マグネタイトとエラストマーが接触しない構造とすることができるのでマグネタイトによるエラストマーの架橋反応が阻止され、エラストマーの収縮と硬化による高周波発熱体の剥離、クラックを防止することができる。
【0033】
また、予めマグネタイト粒子にヘマタイト層が形成されているので高周波発熱体の形状、大きさが変わってもこれに対応したヘマタイト層の形成処理工程が必要なく、高周波発熱体の生産性を向上させることができる。
【0034】
第4の発明は、特に、第3の発明のエラストマーとして、シリコンゴムまたはフッ素ゴムを用いるものである。これにより、それらが優れた耐熱性と耐化学薬品性を有するため、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体を実現することができる。
【0035】
第5の発明は、加熱調理器具として、被加熱物を載置する有機高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に、特に第1〜第4のいずれか1つの発明の高周波発熱体を設けるものである。これにより、常に安定した高い昇温性能を実現することができる。
【0036】
また、高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物の過加熱が防止され、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0037】
第6の発明は、特に、第5の発明の高周波発熱体において、金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積を0.1m2以下とするものである。これにより、所定の消費電力の高周波で被加熱物載置皿およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0038】
第7の発明は、特に、第5または第6の発明の高周波発熱体の膜厚を0.5〜2mmとするものである。
【0039】
これにより、膜厚が厚くなることによる被加熱物載置皿への熱伝達の低下と、高周波発熱体自身の熱容量の増加による昇温速度の低下を抑制することができるとともに、膜厚が薄いことによる高周波発熱体の高周波吸収性能の低下を抑制することができる。その結果、高周波発熱体が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿や被加熱物に効率よく伝達させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0040】
第8の発明は、特に、第5から第7の発明の加熱調理器具を加熱室に備えるものである。これにより、高周波加熱調理器の調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また各実施の形態特有の構成を適宜組み合わせることができる。
【0042】
図1は、本発明の実施の形態における高周波発熱体を設けた加熱調理器具の断面図を示すものである。なお、本発明加熱調理器具として用いられる被加熱物載置皿は、図6に示される従来例で述べた形態が適用される。
【0043】
図1において、加熱調理器具1は、有機高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿2と、被加熱物載置皿2の下面の一部に高周波発熱体3を設けた構成としている。
【0044】
また、被加熱物載置皿2の両端には、電子レンジなどの高周波加熱調理器の庫内の所定の位置に配置するための固定部材4が取り付けられている。この固定部材4は、被加熱物載置皿2の位置決めの機能だけでなく、持ち運びや取り出しなどを行う際の取手の機能と、金属製の被加熱物載置皿2を高周波過熱機器内に配置し、高周波を給電した際のスパーク防止の機能とを有するものである。
【0045】
図2は、高周波発熱体3の構造を示す模式図である。図2において、高周波発熱体3は、被覆層が形成されたマグネタイト粒子5とエラストマー6とからなり、ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5は、エラストマー6の中に分散した構造となっている。
【0046】
図3は、ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5の断面構造を示す模式図である。図3において、マグネタイト粒子7に、ヘマタイト層8が形成されている。ヘマタイト層8は、マグネタイト粒子7の酸化による結晶構造の変化を抑制するために設けられるものであり、マグネタイト粒子7を予め酸化処理して形成される。
【0047】
エラストマー6の材料としては、250〜300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性に優れており、機械的衝撃、熱衝撃に強いシリコンゴムやフッ素ゴムを主成分とするものが適用される。
【0048】
次に、本発明の高周波発熱体3の製造方法の一実施の形態について述べる。先ず、マグネタイト粒子7を電気炉中で数百℃の温度で焼成することにより、マグネタイト粒子7の表面にヘマタイト層8を形成する。
【0049】
次に、ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5とエラストマー6をオープンロールやニーダーなどの混練加工装置を用い、ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5がエラストマー6の中に均一に分散するまで混練し、その後、必要に応じて架橋剤を添加し、再度混練する。
【0050】
次に、これらの混練物の固まり、もしくはオープンロールでシート状に分出ししたものを必要量採取し、被加熱物載置皿2の被加熱物を載置しない面に配置してホットプレスで加圧接着、および一次加硫を行う。
【0051】
その後、必要に応じて二次加硫等の熱処理を行うことによって、高周波発熱体3を被加熱物載置皿2に形成した状態の本発明の加熱調理器具1が得られる。
【0052】
なお、混練の際に高周波発熱体3のさらなる耐熱性を付与するための耐熱性剤、老化防止剤、柔軟性を付与するための油脂剤など必要に応じて添加してもよい。
【0053】
高周波発熱体3と被加熱物載置皿2との接着性を向上させるために、高周波発熱体3の接着面、あるいは被加熱物載置皿2の高周波発熱体3が設けられる面に、接着機能を有するプライマーを塗布し、そのプライマーを介して被加熱物載置皿2と高周波発熱体3を接着してもよい。また、予め、ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5とエラストマー6の混練時に接着剤を添加してもよい。
【0054】
マグネタイト粒子7の酸化処理を必要以上行うと、マグネタイト粒子7全体がヘマタイトに変化し、高周波の吸収性能が著しく低下するため、マグネタイト粒子7に形成するヘマタイト層8は、マグネタイト粒子7の極表面に緻密に形成する必要がある。緻密でかつ薄膜のヘマタイト層8が、酸素や水蒸気の拡散を抑制する作用を発現させ、高周波発熱体3の実使用時において、マグネタイト粒子7全体の酸化を抑制することができる。
【0055】
図4は、本発明の加熱調理器具1が搭載される高周波加熱調理器の断面図である。
【0056】
図4において、加熱室9は金属材料から構成された金属境界部である右側壁面10、左側壁面11、奥壁面12、上壁面13、底壁面14及び被加熱物を加熱室9内に出し入れする開閉壁面である開閉扉(図示せず)により略直方体形状に構成され、給電された高周波をその内部に実質的に閉じ込めるように形成している。
【0057】
底壁面14には断面が略四角形の絞り部15を設け、絞り部15の略中央部には加熱室9内に給電する高周波の励振部16を設けている。
【0058】
高周波発生手段であるマグネトロン17は、加熱室9に給電する高周波を発生するものであり、マグネトロン17から発生した高周波を励振部16に導くために、マグネトロン17と励振部16との間に導波管18を設けている。
【0059】
励振部16には導波管18内に延在し、導波管18を伝送してきた高周波と結合するアンテナ19を設け、このアンテナ19の一端は、導波管タイプの指向性を有する放射アンテナとして、電波放射手段20と接続している。
【0060】
アンテナ19の他端は、電波放射手段20を回転駆動させる駆動手段であるモータ21の出力軸を挿入組立てしている。この電波放射手段20は、モータ21を駆動することで扇型の上面が絞り部15の底面と略平行面において回転駆動する。絞り部15の開口部には電波透過材料、例えばガラス系やセラミックス系の材料からなる封口手段22を設けている。
【0061】
加熱室9の上部には、加熱ヒータ23が備えられ、奥壁面12の奥にはコンベクションヒータユニット(図示せず)が設けられ、被加熱物の高周波調理、グリル調理、オーブン調理の機能を有した構成となっている。
【0062】
加熱調理器具1は、加熱室9の右側壁面10、左側壁面11に設けられた係止手段であるレール部24に沿って加熱室9内に挿入され、取り付けられる。加熱室9には、加熱室9内の温度を検出するサーミスタ25や、被加熱物や加熱調理器具1などの温度を検出する赤外線センサ26が設けられている。
【0063】
以上の構成からなる高周波加熱調理器を用い、本発明の加熱調理器具1の動作と作用について説明する。
【0064】
加熱室9内に、被加熱物を載置した加熱調理器具1をレール部24に係止し、開閉扉を
閉めた状態で所定の指示操作を行うと、制御手段27によりマグネトロン17が動作して高周波が発生する。発生した高周波は、導波管18、励振部16を経て、電波放出手段20からセラミックなどで形成された封口手段22を通過して加熱室9内に給電される。
【0065】
加熱室9内に給電された高周波は、加熱調理器具1を構成する高周波発熱体3に吸収され、熱に変換される。その変換された熱が、加熱調理器具1を構成する被加熱物載置皿2に伝達され、被加熱物載置皿2と接触している被加熱物を加熱する。
【0066】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物のおいしさと適した焦げ目を両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが、被加熱物載置皿2を150〜300℃の温度に、極めて短時間で昇温させる必要がある。
【0067】
従来、高周波発熱体3の高周波吸収材料として、Mn−Zn系フェライトが用いられるが、このフェライトのキュリー温度は組成によって異なるが、200〜300℃である。
【0068】
フェライト材料の発熱のメカニズムは、主として材料の磁気損失によるものであり、高周波を吸収し熱変換されてキュリー温度(近傍)に到達すると、磁気相転移により磁気損失が小さくなり、高周波の吸収性能が低下することによって、キュリー温度以上の昇温速度は著しく低下する。
【0069】
その結果、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われてしまう。
【0070】
一方、キュリー温度が500℃以上のマグネタイトは、300℃では磁気相転移が起こらないため、速い昇温速度を有する。しかし、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、高周波の吸収性能が低いヘマタイトに結晶構造が変化するため、初期の高周波の吸収性能は高いが、酸化によって徐々に高周波の吸収性能が低下する方向に経時変化する。
【0071】
この経時変化に伴い、高周波発熱体3の昇温性能が徐々に低下し、使用時間が長くなるにつれ、被加熱物に適した焦げ目が得られなくなってしまう。
【0072】
さらに、エラストマーの種類、化学組成にもよるが、マグネタイトは、シリコンゴムなどのエラストマーの架橋反応を促進し、エラストマーの収縮、硬化による高周波発熱体3の剥離、クラックが発生する。
【0073】
本発明の高周波発熱体3は、緻密で薄膜のヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5を用いている。この緻密で薄膜のヘマタイト層8が、高周波発熱体3を構成するマグネタイト粒子7の内部への酸素、水蒸気の拡散を妨げる作用を有するため、マグネタイト粒子7の酸化が抑制される。
【0074】
この酸化抑制効果により、マグネタイト粒子7の高周波の吸収性能の低下が防止され、高周波発熱体3の初期の優れた昇温性能を、長期に渡って維持することができる。
【0075】
また、ヘマタイト層8を形成することにより、マグネタイト粒子7とエラストマー6の接触を防止することができる。これによって、マグネタイトの粒子7によるエラストマー6の架橋反応が阻止され、エラストマー6の収縮と硬化による高周波発熱体の剥離、クラックを防止することができる。これによって、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体3を実現することができる。
【0076】
ヘマタイト層8はマグネタイト粒子7の一つ一つに形成されているので、マグネタイト粒子7のすべてが酸素や水蒸気の接触から遮断され、マグネタイト粒子7の酸化が原因で起こる結晶構造の変化の抑制をより効果的に発揮することができる。
【0077】
また、予めマグネタイト粒子7にヘマタイト層8を形成することにより、高周波発熱体3の形状、大きさが変わっても、これに対応したヘマタイト層8の形成処理工程が必要なく、高周波発熱体3の生産性を向上させることができるとともに、高周波発熱体3の形状、大きさによらず、常に安定したマグネタイト粒子7の酸化防止効果を実現することができる。
【0078】
本発明の加熱調理器具1は、被加熱物載置皿2が金属製の被加熱物載置皿2が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体3で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿2に熱を伝達することができる。したがって、被加熱物載置皿2を150〜300℃の調理温度に短時間で昇温させることができ、被加熱物に適度な焦げ目を短時間で付けることができる。
【0079】
加熱調理器具1は、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0080】
高周波発熱体3は、長期的に渡り安定した昇温性能を実現することができるので耐久性、信頼性に優れた加熱調理器具1を提供することができる。
【0081】
700〜1000Wの消費電力でマグネトロン17を動作させた場合、金属製の被加熱物載置皿2に設けられる高周波発熱体3の面積を0.1m2以上とすると、被加熱物載置皿2の面積が大きくなるため、加熱調理器具1自体の熱容量が大きくなることや、表面積の増加による放熱面積の拡大によって放熱ロスが大きくなることにより、被加熱物載置皿2の昇温速度が遅くなり、被加熱物の最適な焦げ目、おいしさが得られなくなる。
【0082】
したがって、最適な焦げ目、おいしさを得るためには、高周波発熱体3の面積を0.1m2以下とすることが望ましい。また、これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができるので、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0083】
また、高周波発熱体3の膜厚を2mm以上とすると、高周波発熱体3の熱容量が大きくなり、高周波発熱体3の昇温速度が遅くなること、および、高周波発熱体3の熱抵抗が大きくなり、高周波発熱体3の表面からの放熱ロスが大きくなることによって、被加熱物載置皿2へ熱伝導による熱伝達が低下し、被加熱物載置皿2の速い昇温速度が得られなくなる。また、膜厚が厚いことにより、コストが高くなる。
【0084】
一方、高周波熱発熱体3の膜厚を0.5mm以下にすると、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の量が少なくなり、高周波の吸収効率が低下し、速い昇温速度が得られなくなる。
【0085】
したがって、高周波発熱体3が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿2や被加熱物に効率よく伝達させるには、高周波発熱体3の膜厚を0.5〜2mmの範囲とすることが望ましい。これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0086】
被加熱物載置皿2に設けられる高周波発熱体3は、少なくともヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5を含む高周波吸収材料と、少なくとも1種のエラストマー6の複合
物の構成が望ましい。
【0087】
この構成によって、エラストマー6が、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の粒子を保護し、かつ、被加熱物載置皿2との強固な接着を実現することができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃に対して強くすることができ、高周波発熱体3の脱落や破壊を防止することができる。
【0088】
特に、本発明に用いるエラストマー6の材料は、加熱調理器具1として300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性、耐機械的衝撃性、耐熱衝撃性に優れていることが要求される。これらの要求仕様を満たす材料としては、シリコンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。
【0089】
高周波発熱体3に用いられるヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子5の含有量は、20体積%以下にすると高周波の吸収性能が低下し、高周波発熱体として満足する昇温性能が得られない。
【0090】
また、60体積%以上にするとエラストマーとの複合物が固くなり、ホットプレス時に複合物の流れが悪く、均一な膜厚の高周波発熱体3が得られなくなることや、高周波発熱体3の膜が固くなることから耐熱衝撃や耐機械的衝撃が低下し、落下や冷熱の繰り返しが起こると高周波発熱体3が破損する可能性がある。
【0091】
したがって、優れた昇温性能、耐久性、信頼性を確保するためには、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の含有量を20〜60%の範囲とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明の高周波発熱体は、昇温性能に優れているので、調理機器の発熱体のみでなく、産業用乾燥機や加熱機の用途としても適用可能であり、また、高周波の吸収性能に優れていることから、冷却装置を付加し、電波シールデバイスとしても適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 加熱調理器具
2 被加熱物載置皿
3 高周波発熱体
5 ヘマタイト層が形成されたマグネタイト粒子
6 エラストマー
7 マグネタイト粒子
8 ヘマタイト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマグネタイト粒子を含む高周波発熱体において、前記マグネタイト粒子の表面にヘマタイト層を形成した高周波発熱体。
【請求項2】
少なくとも1種のエラストマーを含む請求項1に記載の高周波発熱体。
【請求項3】
マグネタイト粒子の表面のヘマタイト層が、マグネタイトの酸化処理によって形成された請求項1または2に記載の高周波発熱体。
【請求項4】
エラストマーが、シリコンゴムまたはフッ素ゴムを含む請求項2に記載の高周波発熱体。
【請求項5】
被加熱物を載置する有機高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿と、前記被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に設けられた請求項1〜4のいずれか1項に記載の高周波発熱体とを有する加熱調理器具。
【請求項6】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積が0.1m2以下である請求項5に記載の加熱調理器具。
【請求項7】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の膜厚が0.5〜2mmである請求項5または6に記載の加熱調理器具。
【請求項8】
加熱室を有し、前記加熱室内に請求項5から7のいずれか1項に記載の加熱調理器具を備えた高周波加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−286162(P2010−286162A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139748(P2009−139748)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】