説明

高周波発熱性成形体およびその用途

【課題】 高周波発熱性が良好な成形体およびその用途を提供すること。
【解決手段】 表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、または、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー組成物(A)5重量%以上、及び(A)以外の合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)95重量%以下を含有する組成物からなる発熱層を芯層とし、該芯層の両外層にポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンから選ばれた合成樹脂層を形成させてなる高周波発熱性成形体およびその用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波発熱性成形体及びその用途に関するものである。さらに詳しくは、特定値以下の表面抵抗率を有するイオン導電性ポリマー、または、特定値以下の表面抵抗率を有するイオン導電性ポリマー組成物から形成された発熱層を有する高周波発熱性成形体およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電界内で発熱する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ナイロン、ニトリルゴム、フェノール樹脂等の極性プラスチックがあるが、その他大部分の合成樹脂は高周波電界内でほとんど発熱しない。高分子が高周波電界内で発熱するか否かの尺度として誘電正接(以下tanδと称することがある)がある。この値が大きい高分子は高周波電界内で発熱しやすく、逆にこの値が小さい高分子は高周波電界内で発熱しにくい。例えば、1MHzで測定した場合、軟質ポリ塩化ビニルのtanδ値は4×10-2〜1.4×10-1である。これに対しポリエチレンのtanδ値は5×10-4以下である。このようなtanδ値の低い合成樹脂に高周波電界内での発熱性を付与する方法として、第4級アンモニウム塩、2−オキサゾリジノン化合物、ジエチレングリコール、エタノールアミン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ベントナイト粘土、カーボンブラック等を配合する方法が検討されている(二宮山人,高分子加工,vol.38,No.7)。しかしながら、これらの方法によって得られる組成物は、高周波照射条件の制御が難しく、発熱過多による合成樹脂の劣化や、スパークの発生などといった問題点があった。また、これらのうちジエチレングリコール等の低分子量のものを用いた場合はブリードアウトするため効果の持続性に乏しく、無機物やカーボンブラックを用いた場合は透明性が失われたり着色が困難であるという問題点があった。
【0003】
また、食品等の物品を加温する際に、高周波を利用することは従来から一般的に行われてきた。しかしながら物品の中には高周波電界内で発熱性を示さないものもあり、これら物品を高周波電界内で効率的に加温する手段が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開平08−267671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたもので、高周波発熱性が良好な成形体およびその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高周波を照射することによって発熱する合成樹脂について鋭意研究を重ねた結果、合成樹脂の表面抵抗率と高周波発熱性とは密接な関連があり、一定値以下の表面抵抗率を有する合成樹脂が良好な高周波発熱性を示すことを見いだしたのである。本発明者らはさらに研究を重ねた結果、特定の表面抵抗率を有するイオン導電性ポリマー、または、イオン導電性ポリマー組成物を必須成分として含む組成物から構成される発熱層を有する成形体が高周波発熱性を示すことを見いだし本発明に到った。すなわち本発明によれば、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、または、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー組成物(A)5重量%以上、及び(A)以外の合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)95重量%以下を含有する組成物からなる発熱層を芯層とし、該芯層の両外層にポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンから選ばれた合成樹脂層を形成させてなる高周波発熱性成形体が提供される。また、上記合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)の1MHzで測定した誘電正接(tanδ)が1.0×10−2以下であることを特徴とする上記の高周波発熱性成形体が提供される。また、好ましくは、上記(A)中に多価アルコールが含有されていることを特徴とする上記いずれかの高周波発熱性成形体が提供される。さらに、上記いずれかに記載された高周波発熱性成形体を加熱用媒体として用いる用途が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、または、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー組成物(A)5重量%以上、及び(A)以外の合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)95重量%以下を含有する組成物からなる発熱層と、該発熱層の両外層にポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンから選ばれた合成樹脂層を形成させてなる高周波発熱性成形体が提供される。
本発明によれば、高周波発熱性の良好な成形体が提供される。そして本発明によって得られる成形体は高周波電界内で発熱するという特長を生かして、該成形体に接触する物品を加温することができるという特徴を有しており、一般家庭、産業界に置いて広く活用されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明をより詳細に説明する。本発明の高周波発熱性成形体は、高周波により発熱する発熱層を少なくとも1層有するものであり、該発熱層は、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、または、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下に調整されたイオン導電性ポリマー組成物(A)と、必要により配合されるこれら以外の合成樹脂(B)よりなるものである(以下においては簡単のため、イオン導電性ポリマー、および、イオン導電性ポリマー組成物をイオン導電材料と総称する)。また、本発明でいう表面抵抗率とは、イオン導電材料を成形した後、23℃、50%RHの条件下に24時間保ち、10Vの電圧を印加し、10秒後の抵抗値を測定したものをいう。表面抵抗率が1×1011(Ω/□)を越えるイオン導電材料を用いた場合は、最終的に得られる成形体に良好な高周波発熱性を付与することができず好ましくない。
【0009】
以下に本発明で用いられるイオン導電材料について説明する。本発明において用いられるイオン導電材料は、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、あるいは、各種添加剤が配合され、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下に調製されたイオン導電性ポリマー組成物から選ばれる。すなわち、イオン導電性ポリマーのみで、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下の場合は必ずしも組成物の形態をとる必要はない。また、これらイオン導電性ポリマーはその分子構造が異なると最終的に得られる高周波発熱性樹脂組成物の高周波発熱性に違いが生じるが、同系統の分子構造を有するものであれば、表面抵抗率がより低いものが高周波発熱性樹脂組成物に良好な高周波発熱性を付与できるので、好ましい。
【0010】
表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電材料に用いられるポリマーとしては、分子中に4級アンモニウム塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩等のイオン基を含有するポリマー、所謂、アイオノマーが挙げられる。また、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、エチレンオキサイドとエピクロロヒドリンとの共重合体、ポリエーテルエステル、ポリエーテルエステルアミド等の分子中にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマーが挙げられる。これらポリマーはいずれも3000以上の分子量を有していることが望ましい。また、ポリマー自体の表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下である場合は単独で本発明のイオン導電材料として用いることができる。なお、以上述べたポリマーはあくまで例示であり、これらに限定されるものではない。
【0011】
次に、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電材料を得るために、上記ポリマーに必要により配合される各種添加剤について説明する。上記ポリマーのうち分子中にイオン基を有するポリマー、所謂、アイオノマーに配合される添加剤としては、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールが挙げられる。これら多価アルコールはアイオノマーの表面抵抗率をより一層低下させる作用を有している。例えば、分子中にカルボン酸のナトリウム塩を有するアイオノマーのような、それ自体では表面抵抗率が1×1011(Ω/□)より高いポリマーに、多価アルコールを表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下となるように配合すると本発明に用いられるイオン導電材料として好適なものとなる。多価アルコールの具体的な配合量としては、アイオノマー100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0012】
一方、前記ポリマーのうち分子中にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマーに配合される添加剤としては、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属のチオシアン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、ハロゲンの酸素酸塩等のイオン電解質が挙げられる。より具体的には、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム等が例示できる。これらイオン電解質の配合量は特に限定されるものではないが、ポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマー100重量部に対し0.1〜30重量部、より好ましくは、0.2〜20重量部である。なお、ポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマー自体の表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下である場合でも、これらのイオン電解質を併用することによって、該ポリマーの表面抵抗率をさらに低下させることができ、本発明に用いられるイオン導電材料としてさらに好適なものとなる。また、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールは、ポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマーからなるイオン導電材料においても表面抵抗率をより一層低下させる作用を有する。したがって、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリマーからなるイオン導電材料でも、さらに多価アルコールを配合することが好ましい。多価アルコールの具体的な配合量としては、アイオノマー100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0013】
上記のような表面抵抗率がより低いイオン導電材料は、高周波発熱性成形体に、大きな発熱量が必要とされる場合、あるいは高周波発熱性成形体中のイオン導電材料の配合量を低減する必要がある用途においては特に有効である。
【0014】
以上のようにして、本発明の高周波発熱性成形体の発熱層に用いられるイオン導電材料が構成される。該イオン導電材料は単独で、あるいは、複数種組み合わせて用いることができる。
【0015】
一方、本発明において用いられるイオン導電材料以外の合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などのα−オレフィンホモポリマー、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのエチレンと他のモノマーとの共重合体などのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。そしてこれらは相溶性が良好であれば複数組み合わされた組成物の形で用いることもできる。
【0016】
なお、上記した樹脂群の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などのα−オレフィンホモポリマー、エチレン−極性モノマー共重合体であっても極性モノマーの含有率の低いポリマーなど、1MHzで測定したtanδ値が1.0×10−2以下で本来高周波発熱性を示さない合成樹脂に本発明が適応された場合に本発明の効果がより顕著に発現できる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂等、1MHzで測定したtanδ値が1.0×10−2を越え、本来高周波発熱性を有する合成樹脂でも、他の合成樹脂との複合化により、全体として1.0×10−2以下のtanδ値を示す場合は、本発明は顕著な効果を示す。また本発明においては、イオン導電材料との複合化が可能であるならば、合成樹脂として熱硬化性のものを用いることもできる。
【0017】
以上述べたように、本発明の高周波発熱性成形体の発熱層は、イオン導電材料と、必要により用いられるイオン導電材料以外の合成樹脂より構成される。この際、イオン導電材料は5重量%以上、該イオン導電材料以外の合成樹脂は95重量%以下となるように配合される。発熱層中のイオン導電材料の割合が5重量%以上であれば、発熱層に良好な高周波発熱性が付与される。発熱層中に占めるイオン導電材料の割合が5重量%を下回ると、該発熱層へ高周波発熱性を付与する効果が十分でなく好ましくない。
【0018】
また本発明においてはイオン導電材料と該イオン導電材料以外の合成樹脂との相溶性を向上させる目的で、組成物中に、不飽和カルボン酸や、その誘導体をグラフト反応して得られる変性ポリオレフィンなど、その合成樹脂に適した相溶化剤を適宜使用することができる。さらに必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、アンチブロッキング剤、加工助剤、顔料等を添加することができる。
【0019】
本発明の高周波発熱性成形体は、以上述べた発熱層を成形体中に少なくとも1層含有させることによって製造される。発熱層以外の層を構成する合成樹脂は特に限定されるものでなく、あらゆる合成樹脂を使用することができる。また、発熱層を芯層とし、該芯層の両外層に他の合成樹脂層が形成されているような形態が好ましく、さらには該両外層を形成する合成樹脂としてポリエステル、ポリプロピレン等の高融点で、耐熱性を有する合成樹脂が最も好ましい。なお、本発明の高周波発熱性成形体は発熱層のみから構成されるものであってもよい。またさらに、発熱層を成形体の全面にわたって設けるのではなく、成形体の必要箇所に部分的に設けるようにしてもよい。
【0020】
本発明の高周波発熱性成形体の成形方法は、目的とする成形体の形状に応じた公知の方法でよく、それらの方法を用いて、フィルム、シート、チューブ、パイプ、ブロックあるいは容器等の形状に成形される。さらに、本発明の高周波発熱性成形体を構成する各構成層の一層以上が三次元架橋構造をとっていることがより望ましい。このような構造をとることによって成形体の耐熱性が一層向上する。このような構造を形成するための具体的な手段としては、電子線等の各種電磁放射線を照射する方法、有機過酸化物を用いる方法など、用いられる合成樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0021】
このようにして得られた成形体は高周波発熱性を活かして各種用途に活用されるものであるが、とりわけ、本来高周波電界内で発熱を示さない物質の加熱用媒体として有用である。例えば、高周波発熱性の乏しい食品に応用する場合、本発明の高周波発熱性成形体の形状をトレー、あるいはフィルム、シート状とし、この上に該食品を載置して電子レンジで加温すればよい。また、オイル等の液状の物質に応用する場合には、本発明の高周波発熱性成形体の形状をカップ状、あるいは、ボトル状とすればよい。またパイプ状に長く成形された本発明の高周波発熱性成形体の一部を高周波電界内に位置させ、パイプ内部にオイル等の液状の物質を流せばこれらを連続的に加熱することができる。さらに、加温される物質が固体状、液状だけでなく、気体状のものにも応用できる。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例に基づき、より詳細に説明する。なお、これらの実施例は例示であって、限定されるものではない。また、以下の実施例においてはイオン導電材料として表1に示すものを用いた(なお、以下においてはイオン導電材料を表1に示したように略称する)。また、イオン導電材料以外の合成樹脂として以下に示すものを用いた。
・ポリプロピレン(PPと略称する):住友化学(株)製「ノーブレンWF905E」(密度:0.89g/cm 、MI:3g/10min、融点:138℃、tanδ値(1MHz):0.0005)
・ポリスチレン(PSと略称する):三井東圧化学(株)製「トーポレックス555−57U」(密度:1.05g/cm 、MI:0.3g/10min、ビカット軟化点:103℃、tanδ値(1MHz):0.0002)
また、発熱層に積層される合成樹脂としても上記したPP、PSを用いた。さらに実施例12においては発熱層に積層される合成樹脂として、ポリエステルシート(商品名マイラー、厚み:100μm)を用いた。また、実施例9、10においては相溶化剤として以下のものを用いた。
・無水酸変性低分子量ポリエチレン:三洋化成工業(株)製「ユーメックス2000」(P4と略称する)
【0023】
一方、表1、2で示した表面抵抗率の測定は以下の手順で行った。試料を厚み100μmに調整し、23℃、50%RHの条件下に24時間保った後、三菱化学(株)製「ハイレスタIP」を用い、HRSプローブにより電圧10Vで印加し、10秒後の値を測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
[実施例1〜11、比較例1〜4]
加圧式ニーダーに、表3に示す割合で各成分を仕込み、溶融混練の後、ペレット化した。そして、Tダイスを備えた押出成形機(東洋精機製作所(株)製、ラボプラストミル)を用いて厚み約1mmの発熱層用のシートを得た。また、同じ押出成形機を用いて表3に示す所定の合成樹脂を厚み約1mmの外層用シートに成形した。次いで、2枚の外層用シート間に発熱層用のシートをはさんで熱圧プレスし、発熱性評価用サンプルを得た。得られた発熱性評価用サンプルを市販の電子レンジ(500W、1240MHz)内で3分間高周波を照射した後、直ちに発熱性評価用サンプルの表面の表面温度を表面温度計を用いて測定した。この結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3より、本発明で開示されたように1×1011(Ω/□)以下の表面抵抗率を有するイオン導電材料を所定量含む組成物から形成された発熱層を有する成形体は高周波電界内で発熱性を示すことがわかる。また実施例1と実施例2との比較、実施例6と実施例8との比較、実施例9と実施例10との比較により、イオン導電材料に多価アルコールを更に添加することにより、高周波発熱性が向上することがわかる。また、比較例1で示したように、所定値をこえる表面抵抗率を有するナトリウム塩系アイオノマーを発熱層として用いた成形体はほとんど高周波発熱性を示さないが、ナトリウム塩系アイオノマーに多価アルコールを併用して表面抵抗率を所定値以下にしたイオン導電材料を発熱層として用いた実施例5の成形体は発熱性を示すことがわかる。さらに比較例2より、所定値以下の表面抵抗率を示すイオン導電材料を発熱層に用いた成形体であっても、イオン導電材料の配合量が5重量%未満ではほとんど高周波発熱性を示さないことがわかる。
【0029】
[実施例12]
実施例7と同様の発熱層用のシートを得た。次いで、2枚のポリエステルシート(商品名マイラー、厚み:100μm)で該発熱層用のシートを挟み、熱圧プレスし、発熱性評価用サンプルを得た。得られた発熱性評価用サンプルを市販の電子レンジ(500W、1240MHz)に入れ、3分間高周波を照射した後、直ちに発熱性評価用サンプルの表面温度を表面温度計を用いて測定したところ、180℃であり、該発熱性評価用サンプルが良好な高周波発熱性を有することが確認された。
【0030】
[比較例5]
ポリエステルシート(商品名マイラー、厚み:100μm)を市販の電子レンジ(500W、1240MHz)に入れ、3分間高周波を照射した後、直ちに該ポリエステルシートの表面の表面温度を表面温度計を用いて測定したところ、38℃であり高周波発熱性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明したように本発明によれば、高周波発熱性の良好な成形体が提供される。そして本発明によって得られる成形体は高周波電界内で発熱するという特長を生かして、該成形体に接触する物品を加温することができるという特徴を有しており、一般家庭、産業界に置いて広く活用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー、または、表面抵抗率が1×1011(Ω/□)以下のイオン導電性ポリマー組成物(A)5重量%以上、及び(A)以外の合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)95重量%以下を含有する組成物からなる発熱層を芯層とし、該芯層の両外層にポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンから選ばれた合成樹脂層を形成させてなる高周波発熱性成形体。
【請求項2】
上記合成樹脂または、合成樹脂組成物(B)の1MHzで測定した誘電正接(tanδ)が1.0×10−2以下であることを特徴とする請求項1に記載の高周波発熱性成形体。
【請求項3】
上記(A)中に多価アルコールが含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高周波発熱性成形体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波発熱性成形体からなる加熱用媒体。

【公開番号】特開2006−312319(P2006−312319A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169031(P2006−169031)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願平10−44614の分割
【原出願日】平成10年2月9日(1998.2.9)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】