説明

高周波電気信号用伝送路

【課題】壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去することが可能であり、しかも、さらなる小型化が可能で、また製造コストを低く抑えることが可能な高周波電気信号用伝送路を提供する。
【解決手段】本発明の高周波電気信号用伝送路1は、誘電体基板2の表面2aに形成された高周波の電気信号を伝送するための信号ライン3と、信号ライン3の外側かつ表面2aの端部近傍に形成されたGND電極4と、誘電体基板2の裏面2b全体に形成されビア5を介してGND電極4と電気的に接続されるGND電極6と、GND電極4の外側かつ表面2aの端部に形成されGND電極4と電気的に接続される帯状の抵抗体7とにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電気信号用伝送路に関し、特に詳しくは、高周波の電気信号の使用周波数の範囲における壁面共振の発生を除去した高周波電気信号用伝送路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、20GHz以上の周波数帯域を用いる高周波電気信号の伝送路としては、誘電体基板の表面(一主面)に高周波の電気信号を伝送するための信号電極が設けられ、裏面(他の主面)にGND電極(接地電極)が形成されたマイクロストリップラインと称されるマイクロストリップ(MSW)型伝送路、あるいは誘電体基板の表面(一主面)に高周波の電気信号を伝送するための信号電極及びGND電極(接地電極)が形成されたコプレーナラインと称されるコプレーナ(CPW)型伝送路が一般的である(特許文献1、2等参照)。
しかしながら、このマイクロストリップ(MSW)型伝送路は、基板の厚み及び誘電率によりGND電極の幅及び厚みが制限され、また、他の電極パターンからGND電極への接続を設計することが困難であるということから、他の部品との電気的接続が制限されるという問題点があった。
【0003】
また、コプレーナ(CPW)型伝送路は、基板の表面に信号電極とGND電極とが形成されているので、他の部品との接続が容易であり、また、インピーダンスを信号電極とGND電極との間のギャップ(間隔)で制御することができるので設計上の制限が少ないという利点がある。
このコプレーナ(CPW)型伝送路では、実使用時には、電磁シールドあるいは保護のために基板を金属箱内に収容する必要がある。この場合、収容される基板の下面がグラウンド(接地)として作用し、グラウンデッドコプレーナラインと称されるグラウンデッドコプレーナ(GCPW)型伝送路となる。
このGCPW型伝送路においては、金属壁面の影響が顕著となり、使用周波数内に共振による伝送特性のディップ状(S21)損失が増大するという劣化現象が発生する。そこで、この劣化が使用周波数範囲に発生しないようにするために、金属壁の位置の最適化を行ったもの(構造1)、あるいは、コプレーナ(GCPW)型伝送路のグラウンド面と基板の下面のグラウンド面を電気的に接続する多数のビアを設けたもの(構造2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−73225号公報
【特許文献2】特開2005−236826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のGCPW型伝送路(構造1、2)では、設計における自由度が大きく制限されるという問題点があった。
例えば、従来の壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去するために金属壁の位置を最適化させたもの(構造1)では、回路基板を金属箱に収納した高周波モジュールを小型化することが難しく、したがって、所望のサイズの高周波モジュールを実現することが困難になるという問題点があった。
また、多数のビアを設けたもの(構造2)では、ビアの間隔、及びビアとGND電極端部との間隔を狭めて設計する必要があり、したがって、基板の強度の低下により破壊し易くなり、また、ビアの間隔、及びビアとGND電極端部との間隔に下限値があり、さらなる小型化が難しいという問題点があった。
また、ビアの形成及びメッキの工数が増大し、製造コストが上昇するという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去することが可能であり、しかも、さらなる小型化が可能で、また製造コストを低く抑えることが可能な高周波電気信号用伝送路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、誘電体基板の一主面に高周波の電気信号を伝送するための信号ライン及び第1の接地電極を形成するとともに、他の主面に前記第1の接地電極と電気的に接続する第2の接地電極を形成し、前記第1の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、帯状の抵抗体を接続してなることとすれば、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去することが可能であり、しかも、製造コストを低く抑えることが可能であることを見出し、さらに、帯状の抵抗体の幅を信号ラインの幅以上とし、かつ帯状の抵抗体の面積抵抗を5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下とすれば、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去することがさらに容易になり、しかも、製造コストを低く抑えることがさらに容易になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の高周波電気信号用伝送路は、高周波の電気信号を伝送する伝送路であって、誘電体基板の一主面に高周波の電気信号を伝送するための信号ライン及び第1の接地電極を形成するとともに、他の主面に前記第1の接地電極と電気的に接続する第2の接地電極を形成し、前記第1の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、帯状の抵抗体を接続してなることを特徴とする。
【0009】
従来のGCPW型伝送路においては、信号ラインを伝送方向に伝播する主たる電波のほかに信号ラインと垂直方向に両方の側壁へ向かって伝播する微弱な電波が発生する。この側壁へ向かう電波が、側壁面で反射し、この反射波が信号ラインへもどり、伝送方向への伝播する主たる電波と干渉し、ある周波数で共振が起こり、伝送特性のディップ状(S21)損失が生じる。
【0010】
本発明の高周波電気信号用伝送路では、誘電体基板の一主面に高周波の電気信号を伝送するための信号ライン及び第1の接地電極を形成するとともに、他の主面に前記第1の接地電極と電気的に接続する第2の接地電極を形成し、前記第1の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、帯状の抵抗体を接続したことにより、この帯状の抵抗体が誘電体基板の信号ラインから側壁面方向に伝播する微弱な電波を吸収し、側面に達する電波が弱まる。また、側壁から反射し、信号ラインへ向かう反射電波も再び、この帯状の抵抗体によって吸収される。これにより、伝送方向への伝播する主たる電波と壁面からの反射電波との干渉が無視できるほどに小さくなり、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象が発生し難くなる。
【0011】
本発明の高周波電気信号用伝送路は、前記帯状の抵抗体の幅を前記信号ラインの幅以上とし、かつ該帯状の抵抗体の面積抵抗を5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下としたことを特徴とする。
この高周波電気信号用伝送路では、帯状の抵抗体の幅及び面積抵抗を規定したことにより、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象が消失する。
【0012】
本発明の高周波電気信号用伝送路は、前記第2の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、第2の帯状の抵抗体を接続してなることを特徴とする。
この高周波電気信号用伝送路では、第2の接地電極の外側かつ信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、第2の帯状の抵抗体を接続したことにより、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を除去することがさらに可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高周波電気信号用伝送路によれば、誘電体基板の一主面に高周波の電気信号を伝送するための信号ライン及び第1の接地電極を形成するとともに、他の主面に前記第1の接地電極と電気的に接続する第2の接地電極を形成し、前記第1の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、帯状の抵抗体を接続したので、伝送方向への伝播する主たる電波と壁面からの反射電波との干渉を無視できるほどに小さくすることができる。したがって、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象を発生し難くすることができる。
【0014】
この高周波電気信号用伝送路では、帯状の抵抗体を第1の接地電極に接続するように形成する簡易な工程を加えるだけでよい。
また、誘電体基板の一主面に、第1の接地電極に接続するように帯状の抵抗体を形成したので、帯状の抵抗体の大きさに起因する小型化への制限も無く、誘電体基板の基板強度が低下する虞もない。
【0015】
また、帯状の抵抗体を、第1の接地電極の外側かつ信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って接続した構成とすることにより、この帯状の抵抗体により誘電体基板の一主面に発生する定在波の電流を効率的に吸収することができる。
また、第2の接地電極の外側かつ信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、第2の帯状の抵抗体を接続した構成とすることにより、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失の除去をさらに容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るGCPW型高周波電気信号用伝送路の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るGCPW型高周波電気信号用伝送路の断面図である。
【図3】従来型のGCPW型高周波電気信号用伝送路を示す斜視図である。
【図4】従来型のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース1の計算結果を示す図である。
【図5】従来型のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース2の計算結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例のGCPW型高周波電気信号用伝送路を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース1の計算結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース2の計算結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース3の計算結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース4の計算結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース5の計算結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例のGCPW型伝送路のRse=100Ω/□とした場合の3次元電磁界シミュレーションによる計算結果を示す図である。
【図13】本発明の実施例のGCPW型伝送路のRse=25Ω/□とした場合の3次元電磁界シミュレーションによる計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の高周波電気信号用伝送路を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るGCPW型高周波電気信号用伝送路の断面図であり、20GHz以上の周波数の高周波電気信号に対応可能な伝送路である。図において、符号1はGCPW型高周波電気信号用伝送路であり、誘電体基板2の表面(一主面)2aに高周波の電気信号を伝送するための信号ライン3が形成され、この信号ライン3の外側かつ表面2aの端部近傍にGND電極(第1の接地電極)4が形成され、この誘電体基板2の裏面(他の主面)2b全体に、ビア5を介してGND電極4と電気的に接続されるGND電極(第2の接地電極)6が形成されている。
そして、このGND電極4の外側かつ表面2aの端部には、このGND電極4と電気的に接続される帯状の抵抗体7が形成されている。
【0019】
ここで、誘電体基板2としては、高い熱伝導率、優れた電気的絶縁性を有するセラミック基板が好ましく、例えば、アルミナ(Al)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板、窒化ケイ素(Si)基板等を目的や用途に合わせて選択使用することができる。特に、高周波電気信号用伝送路の基板としては、アルミナ(Al)基板が好適である。
【0020】
信号ライン3は、導体材料を用いて形成され高周波電気信号用伝送路の一部を構成するもので、導体材料としては、金(Au)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等から選択される1種からなる金属または2種以上を含む合金が挙げられる。
合金としては、金−クロム(Au−Cr)、金−ニクロム(Au−NiCr)、金−ニクロム−パラジウム(Au−NiCr−Pd)、金−パラジウム−チタン(Au−Pd−Ti)等の合金が挙げられる。
【0021】
GND電極4、6及びビア5は、信号ライン3と同様、通常の導体材料を用いて形成され高周波電気信号用伝送路の一部を構成するもので、導体材料としては、信号ライン3と同様の金属または合金が挙げられる。
【0022】
帯状の抵抗体7は、GND電極4の電気信号の伝送方向(図1では紙面に垂直な方向)に沿って形成されている。これにより、誘電体基板2の表面2aに発生する定在波の電流を効率的に吸収することが可能である。
【0023】
この帯状の抵抗体7の幅は、信号ライン3の幅以上であり、かつ、この帯状の抵抗体7の面積抵抗(シート抵抗)は、5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下が好ましい。
この帯状の抵抗体7の幅及び面積抵抗(シート抵抗)を上記の範囲とすることにより、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象がより発生し難くなる。
この帯状の抵抗体材料としては、窒化タンタル(TaN)、タンタル−ケイ素(Ta−Si)、タンタル−炭化ケイ素(Ta−SiC)、タンタル−アルミニウム−窒素(Ta−Al−N)等のタンタル系材料、ニクロム(NiCr)、ニクロム−ケイ素(NiCr−Si)等のニクロム系材料、酸化ルテニウム−ルテニウム(Ru−RuO)等のルテニウム系材料等が挙げられる。
【0024】
これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を含むものを用いてもよい。特に、面積抵抗が異なる2種類の帯状の抵抗体材料を用いれば、所望の面積抵抗を容易に得ることができるので、好ましい。
特に、窒化タンタル(TaN)は、面積抵抗(シート抵抗)が20Ω/□〜150Ω/□程度の帯状の抵抗体材料であり、陽極酸化による保護膜により抵抗値の経時変化が極めて小さい等の理由により好ましい材料である。
【0025】
この帯状の抵抗体7は、蒸着装置やスパッタ装置等の薄膜形成装置を用い、導体材料を用いて信号ライン3及びGND電極4を形成した後、帯状の抵抗体7のパターンを有するマスク及び帯状の抵抗体材料を用いて形成することにより、形成することができる。この方法は、従来の製造工程を僅かに改良するのみでよいので、従来の製造工程を大幅に変更することなく、そのまま使用することが可能であり、製造コストの上昇も最小限に抑制することが可能である。
【0026】
本実施形態の高周波電気信号用伝送路1によれば、誘電体基板2の表面2aに高周波の電気信号を伝送するための信号ライン3が形成され、この信号ライン3の外側かつ表面2aの端部近傍にGND電極4が形成され、この誘電体基板2の裏面2bにビア5を介してGND電極4と電気的に接続されるGND電極6が形成され、このGND電極4の外側かつ表面2aの端部に、このGND電極4と電気的に接続される帯状の抵抗体7を形成したので、この帯状の抵抗体7により誘電体基板2の表面2aに発生する高周波の電気信号の使用周波数における定在波の電流を吸収することができる。したがって、伝送方向への伝播する主たる電波と壁面からの反射電波との干渉を無視できるほどに小さくすることができ、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象を発生させ難くすることができる。
【0027】
また、誘電体基板2の表面2aの端部かつGND電極4の外側に、このGND電極4に電気的に接続するように帯状の抵抗体7を形成したので、帯状の抵抗体7の形状及び大きさを誘電体基板2及びGND電極4の形状及び大きさに合わせて設計することができ、帯状の抵抗体7の形状及び大きさにより高周波電気信号用伝送路1の形状及び大きさが制限されることは無い。
また、帯状の抵抗体7は、従来の製造工程を僅かに改良するのみで容易かつ安価に形成することができる。したがって、製造コストの上昇も最小限に抑制することができる。
【0028】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るGCPW型高周波電気信号用伝送路の断面図であり、本実施形態の高周波電気信号用伝送路11が第1の実施形態の高周波電気信号用伝送路1と異なる点は、第1の実施形態の高周波電気信号用伝送路1では、誘電体基板2の裏面2b全体にGND電極6を形成したのに対し、本実施形態の高周波電気信号用伝送路11では、誘電体基板2の裏面2bに、第1の実施形態のGND電極6より面積が狭く、かつビア5を介してGND電極4と電気的に接続するGND電極(第2の接地電極)12を形成し、このGND電極12の外側かつ裏面2bの端部に、このGND電極12と電気的に接続される(第2の)帯状の抵抗体13を形成した点であり、その他の構成要素については第1の実施形態の高周波電気信号用伝送路1と全く同様である。
【0029】
この帯状の抵抗体13においても、帯状の抵抗体7と同様、この帯状の抵抗体13の幅は、信号ライン3の幅以上であり、かつ、この帯状の抵抗体13の面積抵抗は、5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下が好ましい。
この帯状の抵抗体13の幅及び面積抵抗を上記の範囲とすることにより、帯状の抵抗体7と同様、共振によるディップ状(S21)損失という劣化現象がより発生し難くなる。
この帯状の抵抗体材料は、帯状の抵抗体7と同様であるので、説明を省略する。
【0030】
この帯状の抵抗体13においても、帯状の抵抗体7と同様、GND電極12の電気信号の伝送方向(図2では紙面に垂直な方向)に沿って形成されている。
このように、本実施形態の高周波電気信号用伝送路11では、帯状の抵抗体7により誘電体基板2の表面2aに発生する定在波の電流を効率的に吸収するとともに、帯状の抵抗体13により誘電体基板2の裏面2bに発生する定在波の電流を効率的に吸収するので、誘電体基板2に発生する定在波の電流を効率良く吸収することが可能である。
【0031】
本実施形態の高周波電気信号用伝送路11においても、第1の実施形態の高周波電気信号用伝送路1と同様の作用効果を奏することができる。
しかも、誘電体基板2の裏面2bにGND電極12を形成し、このGND電極12の外側かつ裏面2bの端部に、このGND電極12と電気的に接続される帯状の抵抗体13を形成したので、帯状の抵抗体7及び帯状の抵抗体13により誘電体基板2に発生する定在波の電流を効率的に吸収することができる。
したがって、
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び従来例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0033】
(従来例)
図3は、空気で満たされた6面体の金属箱の中に形成された従来型のGCPW型高周波電気信号用伝送路(以下、GCPW型伝送路と略称する)を示す図であり、図中、21は金属箱であり、金属壁21a、21b、21c、…を箱状に組み立てた6面体の構造である。
また、22はGCPW型伝送路であり、誘電体基板23の表面23aに高周波の電気信号を伝送するための信号ライン24が形成され、この信号ライン24の外側にGND電極(第1の接地電極)25、25が形成され、この誘電体基板23の裏面23b全体にGND電極25、25と電気的に接続されるGND電極(第2の接地電極)26が形成されている。
ここで、Port1は高周波信号を印加する端子、Port2は伝達される信号の大きさを観測する端子である。
【0034】
この従来型のGCPW型伝送路について、共振発生の現象の3次元電磁界シミュレーションを行った。ここでは、従来型のGCPW型伝送路22の形状パラメータについて、GCPW型伝送路22及び金属箱21の長さをL、GCPW型伝送路22及び金属箱21の幅をW、金属薄膜からなる信号ライン24の幅をW、金属薄膜からなる第1のGND電極25、25の幅をW、信号ライン24と第1のGND電極25、25との距離をS、誘電体板23の高さをH、金属箱21の高さをHとしたとき、L=2.0mm、W=2.1mm、W=0.2mm、W=0.3mm、S=0.1mm、H=0.5mm、H=2.5mmとし、Port1の信号源インピーダンス及びPort2の負荷インピーダンスを50Ωとし、誘電体板23には比誘電率9.9、誘電損失0.0001を有するアルミナ板(Al:99.8質量%)を用いた。なお、金属壁21a、21b、21c、…および信号ライン24の抵抗率を0とした。
【0035】
図4は、従来型のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース1の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、Port1からPort2への伝達の程度を示す伝送特性のディップ状(S21)損失及びPort1へ反射の程度を示す伝送特性のディップ状(S11)損失の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
図4によれば、28GHz付近にディップ状(S21)損失による劣化が認められた。
【0036】
図5は、従来型のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース2の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、L=1.0mmとし、他のパラメータは従来型のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
図5によれば、ディップ状(S21)損失による劣化は認められなかった。
【0037】
(実施例)
図6は、空気で満たされた6面体の金属箱の中に形成された本実施例のGCPW型伝送路31を示す図であり、図3の従来型のGCPW型伝送路と異なる点は、第1のGND電極25、25の外側に、伝送路方向に沿って金属薄膜からなる帯状の抵抗体32、32を接続した点である。
ここでは、帯状の抵抗体32、32の幅をW、シート抵抗をRse(Ω/□)とした。
【0038】
図7は、実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース1の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、W=W=0.2mm、Rse=50Ω/□とし、他のパラメータは従来型のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
図7では、図4と比べて、28GHz付近にディップ状(S21)損失による劣化が消滅していることが認められた。
【0039】
次に、Rse=50Ω/□とした場合のWの臨界幅を調べた。
図8は、実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース2の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、W=0.05mmとし、他のパラメータは実施例のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
【0040】
図9は、実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース3の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、W=0.10mmとし、他のパラメータは実施例のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
【0041】
図10は、実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース4の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、W=0.15mmとし、他のパラメータは実施例のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
【0042】
図11は、実施例のGCPW型伝送路の3次元電磁界シミュレーションによるケース5の計算結果(Sパラメータ)を示す図であり、W=0.25mmとし、他のパラメータは実施例のケース1と同一とした場合の3次元電磁界シミュレータによる計算結果である。
【0043】
実施例のケース1〜5の計算結果(Sパラメータ)を比較してみると、以下のことが分かった。
図8では、ディップ状(S21)損失による劣化現象が存在しているが、Wの値が大きくなるにしたがって、ディップの深さが減少し、Wが0.2mm、すなわちW=W=0.2mmの場合にほぼ完全に近い程にディップ状(S21)損失による劣化現象が消滅し、W>Wを満たす場合には、ディップ状(S21)損失による劣化が全く認められないことが分かった。
【0044】
以上により、Rse=50Ω/□とした場合の、ディップ状(S21)損失による劣化が消滅するためのWの臨界幅は、近似的にW=Wとなることが分かった。したがって、W=Wとなる領域においては、形状パラメータのいかんによらず、ディップ状(S21)損失による劣化現象を発生させないようにすることができることが分かった。
【0045】
次に、Rseの値を変えた場合のWの臨界幅を調べた。
3次元電磁界シミュレーションによる計算の結果、Wの臨界幅はRseのある範囲以内では、Rseの値にかかわらず、W=Wとなることが分かった。
図12に、Rse=100Ω/□とした場合の、臨界幅W=W=0.2mmの場合における3次元電磁界シミュレーションによる計算結果(Sパラメータ)を、図13に、Rse=25Ω/□とした場合の、臨界幅W=W=0.2mmの場合における3次元電磁界シミュレーションによる計算結果(Sパラメータ)を、それぞれ示す。
図12及び図13によれば、ディップ状(S21)損失による劣化が全く認められないことが分かった。
【0046】
さらに、同様の3次元電磁界シミュレーションによる計算の結果、Rseにおけるディップ状(S21)損失による劣化が消滅するための上限臨界値は2kΩ/□であり、下限臨界値は5Ω/□であることが分かった。
したがって、GND電極25、25の外側に、伝送路方向に沿って金属薄膜からなる帯状の抵抗体32、32を接続し、この帯状の抵抗体32、32の幅を信号ライン24の幅以上とし、かつ、この帯状の抵抗体32、32の面積抵抗を5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下の間の値に設定することにより、壁面共振による伝送特性のディップ状(S21)損失を消滅させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 高周波電気信号用伝送路
2 誘電体基板
2a 表面(一主面)
2b 裏面(他の主面)
3 信号ライン
4 GND電極(第1の接地電極)
5 ビア
6 GND電極(第2の接地電極)
7 帯状の抵抗体
11 高周波電気信号用伝送路
12 GND電極(第2の接地電極)
13 帯状の抵抗体
21 金属箱
21a、21b、21c 金属壁
22 GCPW型伝送路
23 誘電体基板
23a 表面
23b 裏面
24 信号ライン
25 GND電極(第1の接地電極)
26 GND電極(第2の接地電極)
31 GCPW型伝送路
32 帯状の抵抗体
Port1 高周波信号を印加する端子
Port2 伝達される信号の大きさを観測する端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の電気信号を伝送する伝送路であって、
誘電体基板の一主面に高周波の電気信号を伝送するための信号ライン及び第1の接地電極を形成するとともに、他の主面に前記第1の接地電極と電気的に接続する第2の接地電極を形成し、
前記第1の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、帯状の抵抗体を接続してなることを特徴とする高周波電気信号用伝送路。
【請求項2】
前記帯状の抵抗体の幅を前記信号ラインの幅以上とし、かつ該帯状の抵抗体の面積抵抗を5Ω/□以上かつ2kΩ/□以下としたことを特徴とする請求項1記載の高周波電気信号用伝送路。
【請求項3】
前記第2の接地電極の外側かつ前記信号ラインの電気信号の伝送方向に沿って、第2の帯状の抵抗体を接続してなることを特徴とする請求項1または2記載の高周波電気信号用伝送路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−253433(P2012−253433A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122439(P2011−122439)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(511132306)
【Fターム(参考)】