説明

高圧ガスタンクと燃料ガス供給装置および燃料電池搭載車両

【課題】 タンク端部に設けた溶栓弁の作動の信頼性を確保した上で、高圧ガスタンクの軽量化を図る。
【解決手段】 高圧ガスタンクT4は、ライナー外周の不燃繊維補強層130に第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とを重ねて備える。第2可燃繊維層132は、可燃性のアクリル繊維の繊維層であるので、火炎に近い箇所から燃え始めて延焼する。第1可燃繊維層131は、可燃性と燃焼持続性のポリエステル繊維の繊維層であるので、第2可燃繊維層132の燃焼に伴う熱を受けて燃焼し、その燃焼を持続させる。不燃繊維補強層130は、不燃性のカーボン繊維を巻回した多層でライナー補強の用をなす厚い繊維層であり、ライナー補強を維持する。その上で、第2可燃繊維層132の燃焼持続によりバルブ周辺温度は上昇し、ガス放出弁150は正常に作動してタンク内ガスを放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを高圧で貯蔵する高圧ガスタンクと、この高圧ガスタンクから燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、燃料電池搭載車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、タンク取扱の簡便化や車載等の要請から、樹脂製或いは薄肉金属のライナーの外周を繊維補強層で補強することで高圧ガスタンクの軽量化や薄肉化が図られている。こうした高圧ガスタンクでは、雰囲気温度が火災等の何らかの理由で異常上昇すると、高圧ガスタンク内の内圧上昇やタンク自体の高温化によって高圧ガスタンクの耐久性が低下することから、耐久性の低下への対処が不可欠である。
【0003】
そこで、雰囲気温度の上昇により開弁してタンク内ガスを自動放出する溶栓弁をタンク一端側に設ける構成が種々提案されている(例えば、特許文献1)。溶栓弁によるタンク内ガスの自動放出がなされれば、その結果としてタンク内圧が下がることから、タンク耐久性が仮に低下したとしても、タンク破裂を未然に防ぐことができる。こうした対処に加え、特許文献1では、タンクに良熱伝導部材を別途設置することで、タンク端部の溶栓弁への熱伝達の迅速化を通して溶栓弁を作動させ、ガス自動放出の信頼性を高める工夫も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−315294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献で提案された良熱伝導部材は、温度上昇に伴うガス自動放出の信頼性確保の上から必要ではあるものの、タンクとは別部材であるためにタンク重量増加を招いていた。なお、燃料電池等の燃料ガス消費機器へのガス供給量はタンク容量に左右されることから、ガス供給の継続性確保のために高圧ガスタンクのタンク径の大径化やタンク長さの長寸化が要請されている。こうした高圧ガスタンクの大容量化に伴いタンク全体を覆う良熱伝導部材も大きくなるので、重量増加が顕在化する。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、温度上昇に伴うガス自動放出の信頼性信頼性を確保した上で、高圧ガスタンクの軽量化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:高圧ガスタンク]
高圧ガスタンクであって、
温度上昇に伴ってタンク内ガスを外部に自動放出するガス放出弁と、
タンク外周の表層に可燃性の薄膜層とを備える
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える高圧ガスタンクでは、高圧ガスタンクの周囲で火炎が発生すれば、その火炎発生箇所に近い箇所からタンク外周表層の可燃性の薄膜層が燃え始め、当該可燃性の薄膜層はその燃え始めた箇所から薄膜層形成範囲に亘って延焼する。このため、ガス放出弁には可燃性の薄膜層の延焼に伴う熱が速やかに伝わるので、この熱を受けてガス放出弁はタンク内ガスを速やかに外部に自動放出する。つまり、上記構成の高圧ガスタンクによれば、タンク内ガスの自動放出を起こすガス放出弁への迅速な熱伝達を行うに当たり、タンクとは別体の部材を必要とはせず、タンク外周表層に可燃性の薄膜層を備えるに過ぎないので、温度上昇に伴うガス自動放出の信頼性を確保した上で、高圧ガスタンクの軽量化を図ることができる。また、次の利点もある。
【0010】
ガス放出弁によるタンク内ガスの自動放出は、ガス放出弁の配設箇所周辺の温度が上昇しないと起きないのに対して、温度上昇を招く火災は、ガス放出弁の配設箇所周辺で起きるとは限らない。ところが、上記構成を備える高圧ガスタンクでは、高圧ガスタンクの周囲で火炎が発生すれば、その火炎発生箇所に近い箇所からタンク外周表層の可燃性の薄膜層が燃え始め、その燃え始めた箇所から当該可燃性の薄膜層の形成範囲に亘って延焼する。可燃性の薄膜層の延焼はガス放出弁の配設箇所周辺にまで達するので、ガス放出弁の配設箇所から離れた箇所にて火炎が発生した場合であっても、高い信頼性でガス放出弁によるタンク内ガスの自動放出を行うことができる。なお、タンク容量増加の上からタンクの長寸化や大径化を図った場合、ガス放出弁への熱伝達にタンクと別部材を用いれば重量増加が顕在化するのに対し、上記構成の高圧ガスタンクでは、タンク外周表層に可燃性の薄膜層を備えるようにするだけで良いので、高圧ガスタンクが大容量であっても、軽量化を図ることができる。
【0011】
上記した高圧ガスタンクは、次のような態様とすることができる。例えば、ライナーと、該ライナーの外周から巻き始められてライナー補強の用をなすようタンク長手方向に亘って巻回された難燃性の補強用繊維を樹脂にて硬化させた多層の難燃繊維補強層とを備えた上で、該難燃繊維補強層に重ねてタンク長手方向に亘って巻回された可燃性の繊維を樹脂にて硬化させ、前記難燃性繊維補強層に比して薄い層に形成された可燃繊維層を前記可燃性の薄膜層とすることができる。
【0012】
上記構成を備える高圧ガスタンクでは、ライナーをその外周に形成した多層の難燃繊維補強層で補強した上で、この難燃繊維補強層の外側に可燃性の薄膜層としての可燃繊維層を備える。この可燃繊維層は、可燃性の繊維を難燃繊維補強層に巻回して樹脂にて硬化させた繊維層であることから、高圧ガスタンクの周囲で火炎が発生すれば、その火炎発生箇所に近い箇所から燃え始め、その燃え始めた箇所から当該繊維層形成範囲に亘って延焼する。その一方、可燃繊維層の下層側の難燃繊維補強層は、難燃性の補強用繊維を繰り返し巻回してライナー補強の用をなす厚みを備えた多層の繊維補強層である。このため、可燃繊維層が延焼していても、その下層側の難燃繊維補強層は、当該繊維補強層自体が燃え難いことからライナー補強の実効性を維持する。しかも、可燃繊維層は、難燃性繊維補強層に比して薄い層であることから、難燃繊維補強層がその表層側から燃えるようになるまでは継続して燃焼しないので、難燃繊維補強層は高い実効性でライナーを補強する。こうして難燃繊維補強層によりライナー補強が維持されている状態で、可燃繊維層の延焼はガス放出弁の配設箇所周辺にまで達するので、当該ガス放出弁からタンク内ガスを外部に速やかに且つ高い信頼性で放出できる。
【0013】
このようにガス放出弁によるタンク内ガスの自動放出の信頼性を高めるに当たり、上記構成の高圧ガスタンクでは、ライナー補強のための多層の難燃繊維補強層の外側に可燃繊維層を繊維巻回を経て形成するに過ぎない。よって、上記構成の高圧ガスタンクによれば、高圧ガスタンクの軽量化を図ることができる。また、巻回する繊維を変えればよいことから、タンクとは別部材をタンクに装着する構成に比べて、構成が簡便であるばかりか、組み付け工数の低減やコスト低減を図ることができる。
【0014】
また、前記可燃繊維層を、前記難燃繊維補強層を覆い隠す程度に前記可燃性の繊維を巻回したものとでき、こうすれば、可燃繊維層を不用意に長い時間に亘って燃焼させないようにできる。このため、可燃繊維層の燃焼に伴う熱によるタンク周囲機器への影響を抑制できる。
【0015】
また、前記可燃繊維層を、前記難燃繊維補強層の側の内側可燃繊維層とその外側の最外表可燃繊維層の2層とした上で、前記内側可燃繊維層を可燃性であって前記最外表可燃繊維層の繊維より燃焼を持続する性状の繊維を巻回して形成することもできる。こうすれば、可燃繊維層が薄くても、ガス放出弁の作動に必要な燃焼持続が可能である。こうした内側可燃繊維層を形成する繊維としては、ポリエステル繊維や、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの可燃性であって燃焼を持続する性状の繊維を用いることができる。
【0016】
このように2層とした可燃繊維層の最外表可燃繊維層を、前記内側可燃繊維層の前記繊維より可燃性が高い性状の繊維を巻回して形成することもできる。こうすれば、最外表可燃繊維層の発火を早いタイミングで起こすことができるので、火炎発生の際のガス放出弁の作動タイミングを早めることが可能となる。こうした最外表可燃繊維層を形成する繊維としては、アクリル繊維や、レーヨン繊維、キュプラー繊維などの可燃性の高い繊維を用いることができる。
【0017】
また、可燃繊維層を内側可燃繊維層と最外表可燃繊維層の2層とするに当たり、前記内側可燃繊維層の繊維巻回数より少ない巻回数で最外表可燃繊維層を形成すれば、簡便である。
【0018】
また、前記ガス放出弁を、タンク内ガスを外部に通気させるガス流路を、前記供給状況下の温度を超える温度で溶融する溶栓部材の溶融を経て開放する溶栓弁とすることもできる。こうすれば、溶栓弁を例えばタンク端側に有する一般的な高圧ガスタンクにまで適用を広げることができ、汎用性が高まる。
【0019】
そして、前記燃料ガス消費機器としての燃料電池に用いられる水素ガス(燃料ガス)を貯蔵する高圧ガスタンクとすれば、燃料電池に水素ガスを供給しつつ、火災発生時には速やかに且つ高い信頼性でタンク内ガスを外部に自動放出できる。
【0020】
[適用2:燃料電池搭載車両]
燃料電池と上記した水素ガスを貯蔵した高圧ガスタンクとを搭載し、該高圧ガスタンクから前記燃料電池に燃料ガスを供給する車両であれば、搭載した高圧ガスタンクの周辺で火災が発生すれば、速やかにタンク内ガスを外部に自動放出できる。
【0021】
本発明は、上述した燃料電池搭載車両としての構成の他、工場や店舗或いは住居等に設置した燃料電池とこれに水素ガスを供給する水素ガス供給装置とを含んだ水素ガス供給システムとして構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例としての車両10におけるタンク搭載の様子を含めてその構成を概略的に示す説明図である。
【図2】高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【図3】ガス放出弁150の概略構成を動作前後の様子と合わせて示す説明図である。
【図4】火災発生からタンク内ガスの放出までの状況を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての車両10におけるタンク搭載の様子を含めてその構成を概略的に示す説明図である。
【0024】
図1に示すように、車両10は、水素ガス供給装置100と燃料電池110とを備える。燃料電池110は、水素ガス供給装置100におけるそれぞれの高圧ガスタンクT1〜T4からの水素ガス供給と、図示しないエアー供給系からのエアー供給とを受け、水素と酸素の電気化学反応を起こして発電する。この発電電力は、車両10の駆動力に用いられる。
【0025】
水素ガス供給装置100は、4本の高圧ガスタンクT1〜T4を備え、これらタンクは、タンク長手方向が車両幅方向となるように、プラットフォームFの下方に横置きに搭載される。高圧ガスタンクT1〜T4は、水素ガスを最大70MPaという高圧で貯留する。水素ガス供給装置100は、各タンクに貯留された水素ガスを、車両10が搭載した燃料電池110に高圧ガスタンクT1〜T4からガス配管Pを経て供給する。なお、水素ガスは、図示しない減圧弁により減圧された上で燃料電池110に供給される。
【0026】
高圧ガスタンクT1〜T4は、図示しないタンクフレームに固定されてユニット化され、或いは、タンク個別に、後輪RTの車軸の前後に並んで横置き搭載され、タンク一方端のタンクバルブTVにガス放出弁150を有する。本実施例では、図示するように4個の高圧ガスタンクT1を車両10に搭載するが、後輪RTの前方側或いは後方側の一方に2個の高圧ガスタンクを搭載したり、後輪RTの前後に1個ずつ高圧ガスタンクを搭載する、或いは単一のタンクを後輪RTの前方または後方に搭載するようにすることもできる。
【0027】
次に、高圧ガスタンクT1〜T4の構成とその製造方法について説明する。高圧ガスタンクT1〜T4は、同一の構成であるので、高圧ガスタンクT1を例に取り説明する。図2は高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【0028】
本実施例の高圧ガスタンクT1を製造するに当たっては、まず、ライナー120を用意する。ライナー120は、樹脂製容器であり、その両端に口金121、122を有する。両口金は、後述の繊維層形成の際のタンク回転保持用に用いられ、一端側の口金121は、ライナー内に繋がった流路を備え、タンクバルブTVの装着用口金となる。他端の口金122は、ライナーの内部とは連通するものではなく、タンク回転保持のために用いられる。本実施例では、ライナー120として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよく、ライナー120を薄肉の金属製ライナーとすることもできる。
【0029】
次に、図1(a)に示すように、ライナー120を水平に保持して回転させつつ、ライナー120の外周部に、不燃繊維補強層130を形成する。本実施例では、この不燃繊維補強層130の形成に当たり、ライナー120の外周部に、フィラメント・ワインディング法(FW法)によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸した不燃性のカーボン繊維を繰り返し巻回する。この不燃繊維補強層130は、70Mpaと言う高圧でのガス貯蔵を達成できるようライナー120を補強するための層であり、こうしたライナー補強の用をなす程度にカーボン繊維を繰り返し巻回して形成される。また、繊維送り出し機器を口金121〜口金122の範囲まで往復駆動させることで、不燃繊維補強層130は、両口金の基部を含めてタンク外表面を覆うよう形成される。本実施例では、不燃性のカーボン繊維を用いて不燃繊維補強層130を形成したが、不燃性のガラス繊維を用いることができるほか、後述の可燃繊維層形成のための可燃性繊維に比べて難燃性の性状を有するアラミド繊維(メタ系アラミド繊維)等を用いることもできる。
【0030】
その後、図1(b)に示すように、不燃繊維補強層130の外周部に第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132を重ねて形成する。両可燃繊維層の形成にあっても、FW法によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸した可燃性のポリエステル繊維を巻回して第1可燃繊維層131を形成し、エポキシ樹脂を含浸した可燃性のアクリル繊維を巻回して第2可燃繊維層132を形成する。両可燃繊維層にあっても、不燃繊維補強層130と同様、両口金の基部を含めてタンク外表面を覆うよう形成される。第1可燃繊維層131は、ポリエステル繊維を2〜3回程度巻回させることで不燃繊維補強層130の外表面を覆い隠し、第2可燃繊維層132は、1回のアクリル繊維の巻回で第1可燃繊維層131を覆い隠す。第1可燃繊維層131の形成に用いたポリエステル繊維は、第2可燃繊維層132の形成用のアクリル繊維と同様、可燃性を有するが、アクリル繊維に比して燃焼を持続する性状を備える。第2可燃繊維層132の形成に用いるアクリル繊維は、第1可燃繊維層131の形成用のポリエステル繊維より可燃性が高い性状を有する。なお、上記したFW法により形成された繊維層は、後述の熱硬化処理を経ることでエポキシ樹脂が熱硬化した樹脂硬化層となる。
【0031】
次に、図1(c)に示すように、上記したFW法による繊維層形成済みの中間生成品タンクを熱硬化処理に処する。具体的には、中間生成品タンクを熱硬化炉200の架台210に軸支して回転させつつ、図示しないヒーターにてタンク長手方向に亘って加熱する。この加熱により、不燃繊維補強層130、第1可燃繊維層131および第2可燃繊維層132のエポキシ樹脂は、低粘度となった上で熱硬化する。そして、熱硬化後の冷却養生を経ることで、ライナー120の外周にエポキシ樹脂にて熱硬化済みの不燃繊維補強層130と第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とを有する高圧水素タンクT1が得られる。この得られた高圧ガスタンクT1の口金121にタンクバルブTVを装着し、当該バルブにガス放出弁150を装着する。図3はガス放出弁150の概略構成を動作前後の様子と合わせて示す説明図である。
【0032】
ガス放出弁150は、図示するように、タンク内部から水素ガスを大気に通気させるガス流路151を溶栓部材152の溶融を経て大気に開放する溶栓弁構造を備える。溶栓部材152は、タンク周囲温度(詳しくは、バルブ周囲温度)が水素ガス供給状況下で想定される温度より高い所定温度(例えば、110℃)に晒されると溶融する合金から形成されている。ガス放出弁150は、ガス流路151を弁体153で気密に閉塞し、この弁体153をスリーブ154の内部で進退可能に備える。ガス放出弁150の作動前のガス流路151の閉塞状態において、弁体153は、スリーブ154に組み込まれた鋼球155にて保持される。ガス放出弁150は、スリーブ154の一端側にスリーブ154を取り囲むようストッパリング156とリング状の溶栓部材152とを重ねて組み込んで備え、ストッパリング156をスプリング157で付勢する。ストッパリング156と溶栓部材152、およびスプリング157の組み込みは、ガス放出弁150を図における上下に分割した構造とすることで容易に行うことができる。
【0033】
こうした溶栓弁構成を備えるガス放出弁150では、タンク周囲温度(バルブ周囲温度)が上記した所定温度より上昇する状況となると、溶栓部材152が溶融する。つまり、この溶栓部材152がタンク周囲温度の上昇を検知することになる。こうなると、ストッパリング156は、スプリング157の付勢力を受けて、溶栓部材152が存在していた位置まで移動するので、鋼球155は、弁体153から離れるよう退避して弁体153の保持を解除する。このため、弁体153は、タンク内圧を受けてスリーブ154に沿って摺動してガス流路151を開放し、ガス放出弁150は、弁体153の弁体内流路158からタンク内ガスを大気に自動放出する。タンク周囲温度(バルブ周囲温度)と関連付けると、ガス放出弁150は、タンク周囲温度(バルブ周囲温度)の上昇に伴ってタンク内ガスを大気に自動放出することになる。なお、ガス放出弁150の溶栓弁構成としては、上記の構成に限れるわけではない。高圧ガスタンクT1〜T4の各タンクは、上記したガス放出弁150をタンクバルブTVを介して装着した上で、既述したように車両10に搭載される。
【0034】
次に、以上説明した高圧ガスタンクT1〜T4を搭載した車両10に火災が発生した場合のタンク内ガスの放出について説明する。火災発生箇所は図1における車両最後方側の高圧ガスタンクT4の一端側(図1の紙面奥側)であると仮定する。図4は火災発生からタンク内ガスの放出までの状況を模式的に示す説明図である。
【0035】
図4のステップ1に示すように、高圧ガスタンクT4の図におけるタンク右端で発生した火災の火炎は、その熱を最寄り箇所のタンク表層に放射する。火炎の熱を受けたタンク表層では、第2可燃繊維層132が露出しており、この第2可燃繊維層132は、比較的燃えやすい可燃性の繊維であるアクリル繊維を巻回した繊維層である。このため、この第2可燃繊維層132は、図4のステップ2に示すように、火炎に近い箇所から燃え始め、ステップ3に示すように、第2可燃繊維層132の形成範囲(タンク表層)のほぼ全域に亘って延焼する。このように燃え始めて延焼する第2可燃繊維層132の下層側の第1可燃繊維層131は、アクリル繊維よりは可燃性は低いとはいえ可燃性を備え燃焼を持続する性状のポリエステル繊維を2〜3回程度巻回した繊維層であるので、図4のステップ4に示すように、第2可燃繊維層132の燃焼と延焼に伴う熱を受けて燃焼し、その燃焼を持続させる。なお、第1可燃繊維層131の燃焼持続の間に、第2可燃繊維層132は消失すると予想される。
【0036】
第1可燃繊維層131の下層側の不燃繊維補強層130は、不燃性の補強用のカーボン繊維を繰り返し巻回してライナー補強の用をなす厚みを備えた多層の繊維補強層である。このため、第1可燃繊維層131がステップ4のように燃焼を持続させていても、その下層側の不燃繊維補強層130は、当該繊維補強層の形成用の繊維が不燃性のカーボン繊維であることからライナー補強の実効性を維持する。しかも、燃焼を持続している第1可燃繊維層131は、不燃繊維補強層130に比して薄い層であることから、不燃繊維補強層130がその表層側から燃えるようになるまでは延焼しないので、不燃繊維補強層130は高い実効性でライナーを補強する。こうして不燃繊維補強層130によりライナー補強が維持されている状態で、第1可燃繊維層131および第2可燃繊維層132の延焼はライナー一端側にまで達することになり、ガス放出弁150の周囲温度は上昇する。このため、ライナー端部のガス放出弁150から離れた箇所にて火炎が発生した場合であっても、ライナー一端側への第1可燃繊維層131および第2可燃繊維層132の延焼によりガス放出弁150を高い信頼性で作動させて、高圧ガスタンクT4のタンク内ガスを大気に自動放出することができる。このタンク内ガスの自動放出により、火炎に近い高圧ガスタンクT4をガス放出済みでタンク内圧低下状態とできるので、タンク破裂やタンク内ガスの発火と言った事態を高い実効性で回避することができる。
【0037】
このようにガス放出弁150の作動の信頼性を高めるに当たり、本実施例では、車両10への搭載対象となる高圧ガスタンクT1〜T4を、ライナー120の外周に補強のための多層の不燃繊維補強層130を形成し、さらにこの補強層を覆うよう、第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とをポリエステル繊維とアクリル繊維の繊維巻回を経て形成するに過ぎない。よって、本実施例にて用いる高圧ガスタンクT1〜T4によれば、タンク容量を大容量化しても、軽量化を図ることができる。また、巻回する繊維をFW法による繊維巻回の際に変えればよいことから、本実施例によれば、タンクとは別部材をタンクに装着する構成に比べて、構成の簡便化や取扱の簡略化、延いては、組み付け工数の低減やコスト低減を図ることができる。
【0038】
しかも、本実施例の車両10では、複数本搭載した高圧ガスタンクT1〜T4のいずれかのタンク(例えば、高圧ガスタンクT4)の近くで火災が発生した場合、その火災の火炎に最も近い高圧ガスタンクT4での第2可燃繊維層132の燃焼或いは第1可燃繊維層131の燃焼持続により、隣のタンク(高圧ガスタンクT3)でも、第2可燃繊維層132の燃焼と第1可燃繊維層131の燃焼持続を起こす。このため、火炎等から離れている高圧ガスタンクT3にあっても、ガス放出弁150の作動によるタンク内ガスの自動放出を早期に実行でき、ガス放出に伴うタンク破裂等を回避できる。
【0039】
また、本実施例では、不燃繊維補強層130に重なる第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132を、不燃繊維補強層130を覆い隠す程度に僅かな繊維巻回数で巻回したものとした。具体的には、第1可燃繊維層131を2〜3回の繊維巻回数とし、第2可燃繊維層132にあっては、1回の繊維巻回数とした。このため、第2可燃繊維層132はもとより第1可燃繊維層131を不用意に長い時間に亘って燃焼持続させないので、こられ繊維層の燃焼の熱によるタンク周囲機器への影響を抑制できる。
【0040】
また、不燃繊維補強層130に第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とを重ねて形成した上で、不燃繊維補強層130の側の第1可燃繊維層131を可燃性であって燃焼を持続する性状のポリエステル繊維を巻回して形成した。よって、することもできる。こうすれば、第1可燃繊維層131が薄くても、ガス放出弁150の作動に必要な程度まで燃焼を持続でき、ガス放出弁150を高い信頼性で作動できる。
【0041】
加えて、上記の第1可燃繊維層131に重なる第2可燃繊維層132を、第1可燃繊維層131のポリエステル繊維より可燃性が高い性状のアクリル繊維を巻回して形成した。よって、火炎からの熱を直接受ける第2可燃繊維層132を早いタイミングで発火させることができるので、火炎発生の際のガス放出弁150の作動タイミングを早めることができ、望ましい。
【0042】
また、第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とを、FW法による繊維巻回に際して繊維交換を経て容易に形成できると共に、両可燃繊維層の繊維巻回数が少ないので、簡便である。
【0043】
また、本実施例の車両10では、搭載する高圧ガスタンクT1〜T4に装着するガス放出弁150を溶栓部材152の溶融を経てタンク内ガスの自動放出を図る溶栓弁構成とした。よって、溶栓弁をライナー一端側に有する一般的な高圧ガスタンクにまで適用を広げることができ、汎用性が高まる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、高圧ガスタンクを燃料電池110と共に搭載した車両10を例に取り説明したが、燃料電池110以外の他の水素ガス消費機器に水素ガスを供給するための高圧ガスタンクそれ自体や、この高圧ガスタンクと他の水素ガス消費機器に水素ガスを供給する水素ガス供給装置として構成することができる。
【0045】
また、高圧水素タンク製造工程での不燃繊維補強層130、第1可燃繊維層131および第2可燃繊維層132の形成に当たり、図2に示したようにFW法を用いたが、これに限られない。例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維の代わりに、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた織布をライナー120の外周に重ねて巻き付けようにしてもよい。
【0046】
上記実施例では、不燃繊維補強層130の形成に、不燃性のカーボン繊維を用いたが不燃性のガラス繊維や、可燃性のポリエステル繊維やアクリル繊維に比べて難燃性の性状を有するアラミド繊維(メタ系アラミド繊維)等を用いることもできる。第1可燃繊維層131におけるポリエステル繊維を可燃性と燃焼の持続性とを併せ持つナイロン繊維、ビニロン繊維などを用いたり、第2可燃繊維層132におけるアクリル繊維を可燃性の高いレーヨン繊維、キュプラー繊維などの繊維を用いることができる。繊維層硬化のための熱硬化性樹脂にあっても、エポキシ樹脂を他の熱硬化性樹脂に変えることもできる。
【0047】
上記実施例では、高圧ガスタンクT1〜T4を、水素ガスを高圧貯蔵するタンクとしたが、天然ガス等、他の高圧ガスを貯蔵する高圧ガスタンクとしてもよい。
【0048】
また、上記した実施例では、ガス放出弁150を溶栓部材152の溶融を経てタンク内ガスの自動放出を図る溶栓弁構成としたが、ガス放出弁150を溶栓弁とは別に設けることもできる。この場合には、そのガス放出弁150をタンク内ガスを外部に放出する弁として構成し、温度センサーにてガス消費機器へのタンク内ガスの供給状況下の温度を超える温度を検出すると、ガス放出弁150を強制的に作動させて、タンク内ガスを強制的に外部に放出するようにすることもできる。
【0049】
また、第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132を単一の可燃繊維層とすることもできる。この場合には、この単一の可燃繊維層を、ポリエステル繊維を巻回した繊維層や、ポリエステル繊維とアクリル繊維を混在して旋回した繊維層とすることができる。
【0050】
この他、金属製の高圧ガスタンクそのもののタンク外周表層に、既述した第1可燃繊維層131と第2可燃繊維層132とを形成したり、単一の可燃繊維層を形成したりすることもできる。
【符号の説明】
【0051】
10…車両
100…水素ガス供給装置
110…燃料電池
120…ライナー
121〜122…口金
130…不燃繊維補強層
131…第1可燃繊維層
132…第2可燃繊維層
150…ガス放出弁
151…ガス流路
152…溶栓部材
153…弁体
154…スリーブ
155…鋼球
156…ストッパリング
157…スプリング
158…弁体内流路
200…熱硬化炉
210…架台
F…プラットフォーム
P…ガス配管
T1〜T4…高圧ガスタンク
RT…後輪
TV…タンクバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンクであって、
温度上昇に伴ってタンク内ガスを外部に自動放出するガス放出弁と、
タンク外周の表層に可燃性の薄膜層とを備える
高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクであって、
ライナーと、
該ライナーの外周から巻き始められてライナー補強の用をなすようタンク長手方向に亘って巻回された難燃性の補強用繊維を樹脂にて硬化させた多層の難燃繊維補強層とを備え、
該難燃繊維補強層に重ねてタンク長手方向に亘って巻回された可燃性の繊維を樹脂にて硬化させ、前記難燃性繊維補強層に比して薄い層に形成された可燃繊維層を前記可燃性の薄膜層とする
高圧ガスタンク。
【請求項3】
前記可燃繊維層は、前記難燃繊維補強層を覆い隠す程度に前記可燃性の繊維を巻回して形成されている請求項2に記載の高圧ガスタンク。
【請求項4】
前記可燃繊維層は、前記難燃繊維補強層の側の内側可燃繊維層とその外側の最外表可燃繊維層とされ、前記内側可燃繊維層は、可燃性であって前記最外表可燃繊維層の繊維より燃焼を持続する性状の繊維を巻回して形成されている請求項2または請求項3に記載の高圧ガスタンク。
【請求項5】
前記最外表可燃繊維層は、前記内側可燃繊維層の繊維より可燃性が高い性状の繊維を巻回して形成されている請求項4に記載の高圧ガスタンク。
【請求項6】
前記最外表可燃繊維層は、前記内側可燃繊維層における前記繊維の巻回数より少ない巻回数で前記繊維を巻回して形成されている請求項4または請求項5に記載の高圧ガスタンク。
【請求項7】
前記ガス放出弁は、タンク内ガスを外部に通気させるガス流路を、前記供給状況下の温度を超える温度で溶融する溶栓部材の溶融を経て開放する溶栓弁とされている請求項1ないし請求項6いずれかに記載の高圧ガスタンク。
【請求項8】
燃料ガス消費機器としての燃料電池に用いられる水素ガスを燃料ガスとして貯蔵する請求項1ないし請求項7いずれかに記載の高圧ガスタンク。
【請求項9】
燃料電池と請求項8に記載の高圧ガスタンクとを搭載し、該高圧ガスタンクから前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料電池搭載車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−208737(P2011−208737A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77462(P2010−77462)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】