説明

高圧焼結方法を利用した高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法

【課題】 ZT値が「2」以上の熱電材料の製造を可能にする。
【解決手段】 高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法は、(1)ナノパウダーの生成ステップにおいて、原料として対応する元素材料を使用し、融解または機械的合金化法により融点温度Tmを有する熱電合金を生成し、不活性雰囲気あるいは真空下で合金をボール製粉して、5−30nmの平均粒径を有する合金パウダーを生成し、(2)高圧焼結ステップにおいて、不活性雰囲気あるいは真空下で製粉したパウダーをプレスしてプリホームを成形し、高圧金型にプリホームを入れ、0.8−6.0のGPaの圧力、0.25−0.8Tmの温度で10−120分間プリホームを焼結し、90−100%の相対密度および10−50nmの平均粒径を有するナノ結晶バルク熱電材料を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料の分野に関し、特に、高圧焼結法を利用した高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料(high-performance densified nanocrystalline bulk thermoelectric
materials)の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護、廃熱利用の観点だけでなく、工業および軍事的用途等からの要求によって、高効率で汚染の無いエネルギー変換方法を見出すことが、エネルギー産業において非常に関心の高い問題となっている。
熱電材料は、直接、熱(温度差)を電気(電気的な電圧)に変換することを可能にし、またその逆の変換も可能にする。それらの材料で製造された熱電デバイスは、小型であり、騒音が無く、汚染が無く、かつ可動する部品がなく、メンテナンスフリーであるという利点を有している。従って、熱電材料は、発電および電子冷凍の分野において非常に重要な適用可能性を有している。
【0003】
熱電材料の性能は、無次元の性能指数ZTで表され、ZT値は
ZT =α2σT/κ
と定義される。
ここで、α、σ、Tおよびκは、それぞれゼーベック係数、導電率、温度および熱伝導率である。
高性能の熱電材料は、ジュール熱損失を少なくするために高い導電率を有し、かつ接点で熱エネルギーを保持するために低い熱伝導率に加えて高いゼーベック係数を有する必要がある。
1つの物理的なパラメータの最適化が大抵の場合他に悪影響を及ぼすので、過去数十年の間、ZT値を「2」以上の値まで大きくすることが課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「Thin-Film Thermoelectric Devices With HighRoom-Temperature Figures Of Merit」(Ventkatasubramanianet al. Nature, 413, 597, 2001)
【非特許文献2】「Quantum Dot Superlattice ThermoelectricMaterials and Devices」(Harman et al. Science, 297, 2229, 2002)
【非特許文献3】「Nanostructured Thermoelectric Materials」(Harman et al. Journal ofElectronic Materials, 34, L19, 2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱電材料の最近の研究および開発は、ナノ構造の熱電材料(nanostructured thermoelectric materials)においてZT値を高めることができることを示している。
ドレセルハウゼ(Dresselhuass)とヒックス(Hicks)等は、キャリアエネルギーフィルタ効果、量子制限効果、さらに大量の結晶粒界の存在によって、ナノ構造熱電材料において力率(power
factor)(α2σ)の増加と熱伝導率の減少が同時に起こることを理論上証明している。
以下の文献に示すように、一連の研究活動がナノ構造材料について既に行われている。
「Thin-Film Thermoelectric Devices With High
Room-Temperature Figures Of Merit」(Ventkatasubramanian
et al. Nature, 413, 597, 2001)(非特許文献1)、「Quantum Dot Superlattice Thermoelectric
Materials and Devices」(Harman et al. Science, 297, 2229, 2002)(非特許文献2)、「Nanostructured Thermoelectric Materials」(Harman et al. Journal of Electronic Materials, 34,
L19, 2005)(非特許文献3)
これらの研究は、超格子(superlattice)構造あるいは量子ドット超格子(quantum
dot superlattice)構造によるZT値の増大に集中している。
しかし、これらの方法は何れも面白い結果を達成しているけれども、高熱電変換効率に対する切実な要求を満たす高性能高密度化バルク熱電材料の実現可能な製造方法を提供できていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明の目的は、高圧焼結方法を使用して高性能高密度ナノ結晶バルク熱電材料を製造することを可能にする方法を提供することにある。本発明による方法で生成されたバルク熱電材料は、低い熱伝導率および高いZT値を示し、ZT値は「2」以上である。
【0007】
技術的な障害を解決する本発明のキーポイントは、熱電材料のミクロ構造の制御および調整にある。
ボール製粉および高圧焼結方法によって、小さな平均結晶粒度(10−50nm)および高い相対密度(90−100%)を有する結晶材料を実現することができる。
生成した材料の熱電特性は非常に向上する。
本発明の一実施の形態によれば、この方法は、ボール製粉によって十分に調整された純度と粒度を有するナノパウダーの準備工程、高圧下で固形パウダーを焼結する工程を含む。最終的な結晶材料のミクロ構造および粒径は、焼結させるパラメータ(圧力、温度、工程所要時間)の調整によって制御することが可能である。
【0008】
高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法であって、以下のステップを有する。
【0009】
1)ナノパウダーの生成ステップ
原料として対応する元素材料を使用し、融解または機械的合金化法(mechanical alloying process)により融点温度Tmを有する熱電合金を生成し、不活性雰囲気あるいは真空下で合金をボール製粉して、5−30nmの平均粒径を有する合金パウダーを生成する。
【0010】
2)高圧焼結ステップ
a)不活性雰囲気あるいは真空下で製粉したパウダーをプレスしてプリホームを成形する。
b)高圧金型にプリホームを入れ、0.8−6.0のGPaの圧力、0.25−0.8Tmの温度で10−120分間プリホームを焼結し、90−100%の相対密度および10−50nmの平均粒径を有するナノ結晶バルク熱電材料を取得する。
【0011】
本発明のその他の特徴および効果ついては、以下の詳細な説明に示される。しかし、本発明の好ましい実施例を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神と範囲内において様々な変更および変形が可能であることは当業者にとって明らかであるので、その詳細な説明および特定の例は一例としてのみ示されるものであることを理解できるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、「2」以上のZT値を有する高性能高密度のナノ結晶バルク熱電材料を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、さらに本発明の特徴を説明するために添付されている。以下に示す特定の実施の形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面を参照することにより本発明を一層よく理解することができるのであろう。
【図1】本発明の実施例1および2によって取得した、常圧焼結法で形成したBi2Te3ナノ結晶バルク熱電合金、およびゾーン溶融処理で形成した大結晶粒Bi2Te3バルク熱電合金の熱電合金サンプルの熱伝導率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例1および2によって取得した、常圧半融法で形成したBi2Te3ナノ結晶バルク熱電合金、およびゾーン溶融処理で形成した大結晶粒Bi2Te3バルク熱電合金の熱電合金サンプルの抵抗率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施例1および2によって取得した、常圧半融法で形成したBi2Te3ナノ結晶バルク熱電合金、およびゾーン溶融処理で形成した大結晶粒Bi2Te3バルク熱電合金の熱電合金サンプルのゼーベック係数の対温度特性を示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施例1および2によって取得した、常圧半融法で形成したBi2Te3ナノ結晶バルク熱電合金、およびゾーン溶融処理で形成した大結晶粒Bi2Te3バルク熱電合金の熱電合金サンプルのZT値の対温度特性を示すグラフ図である。
【図5】本発明の実施例3によって取得したサンプルの熱伝導率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実施例3によって取得したサンプルの抵抗率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例3によって取得したサンプルのゼーベック係数の対温度特性を示すグラフ図である。
【図8】本発明の実施例3によって取得したサンプルのZT値の対温度特性を示すグラフ図である。
【図9】本発明の実施例4によって取得したサンプルの熱伝導率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図10】本発明の実施例4によって取得したサンプルの抵抗率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図11】本発明の実施例4によって取得したサンプルのゼーベック係数の対温度特性を示すグラフ図である。
【図12】本発明の実施例4によって取得したサンプルのZT値の対温度特性を示すグラフ図である。
【図13】本発明の実施例5によって取得したサンプルの熱伝導率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図14】本発明の実施例5によって取得したサンプルの抵抗率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図15】本発明の実施例5によって取得したサンプルのゼーベック係数の対温度特性を示すグラフ図である。
【図16】本発明の実施例5によって取得したサンプルのZT値対温度特性を示すグラフ図である。
【図17】本発明の実施例6によって取得したサンプルの熱伝導率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図18】本発明の実施例6によって取得したサンプルの抵抗率の対温度特性を示すグラフ図である。
【図19】本発明の実施例6によって取得したサンプルのゼーベック係数の対温度特性を示すグラフ図である。
【図20】本発明の実施例6によって取得したサンプルのZT値の対温度特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ナノパウダー(nanopowders)の生成
本発明による方法は、化学量的な熱電化合物(stoichiometric
thermoelectric compounds)、非化学量的な熱電固溶体合金(non-stoichiometric thermoelectric solid
solution alloys)およびドープした熱電合金(doped thermoelectric alloys)等を含む、本技術分野において既知のすべての種類の熱電材料に適用可能な汎用的な方法である。
本発明に適する熱電合金の具体例は、(Bi,Sb)2(Te,Se)3系の材料、PbTe系の材料、Bi1-xSbx固溶体(0<x<1)、SiGe系の合金、Skutterudte結晶構造化合物等を含むが、これらに限定されない。
これらの材料は、当技術分野において既知の任意の方法によって生成することが可能である。
例えば、これらの熱電化合物又は固溶体合金は、Bi, Te, Sb, Se, Pb, Co, Si, Ge, Fe, Cd, Sn, La, Ce, Ag, Sr, P等の金属および非金属を含む対応する元素材料から機械的合金化法あるいは融解方法によって生成することが可能である。
適切な元素材料の選択および合金又は融解方法の詳細は、当業者にとって周知であり、本発明の実施の形態を不必要に不明瞭にしないようここではこれ以上の説明を省略する。
【0015】
本発明において使用する元素材料は、通常90%を越える純度であり、95%を越えることが好ましい。さらに99%を超える純度が望ましく、99.9%、さらに99.99%を越えることが最も望ましい。
【0016】
本発明による方法に特に適する熱電合金材料は、Bi2Te3, SiGe, PbTe, およびCoSb3などの二元合金、Bi2-xSbxTe3
(0<x<2), CoSb3-xTex (0<x<3), およびCo4-xSb12Fex
(0<x<4)などの三元合金、Bi2-xSbxSeyTe3-y
(0<x<2, 0<y<3)などの四元合金、Si80Ge20Px
(0<x<5)などのドープした合金等である。しかし、これらに限定されないのは言うまでもない。
【0017】
熱電合金を調製すると、5−30nm(例えば、5−20nmあるいは8−30nm)の平均粒径(average grain size)を有する合金ナノパウダーを生成するために、不活性雰囲気(inert atmosphere)あるいは真空の下でボール製粉する。
ボール製粉は、FRITSCH社製のPulveristte 4 Vario−Planetary Millなどのような任意の従来のボールミル装置で実行することができる。
一般的知識によれば、当業者であれば、5−30nmの平均粒径を持つ合金ナノパウダーを生成するためのボール製粉の最適な動作パラメータを、数回のテストから決定することができる。
ここで使用される平均粒径は、パウダー中の単結晶の平均サイズを意味し、X線回折測定器(X−Ray Diffractometry:XRD)あるいは透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy)(TEM)によって測定することが可能である。
【0018】
本発明による一実施の形態においては、機械的合金化法が熱電合金を生成するために使用され、合金化ステップとボール製粉ステップは同時に実行される。
【0019】
2.高圧焼結(High pressure
sintering)
1)製粉されたナノパウダーは、不活性雰囲気あるいは真空下で加圧されてプリホームに成形される。
このステップにおける圧力は重要ではなく合金材料およびプレス装置によって定まる。例えば、本発明による1実施の形態においては、圧力は10MPa−50MPaの間である。
2)プリホームは高圧焼結モールドに入れられ、90−100%(好ましくは、95−100%)の相対密度および10nm−50nm(例えば、15nm−40nm、あるいは10nm−30nm)の平均粒径を有するナノ結晶バルク熱電材料を取得するために、0.25Tm−0.8Tm(好ましくは0.25Tm−0.6Tm、さらに好ましくは0.25Tm−0.4Tm)の融点温度、0.8GPa−6GPa(好ましくは1.0GPa−5GPa、さらに好ましくは2.0GPa−4GPa)の圧力の下で焼結工程が実行される。
ここで使用される相対密度は、理論上の密度に対する材料の実際の密度(例えば、周知の浮力法によって測定された密度)の比率を意味する。
十分な焼結を得るために、焼結時間は十分に長くすべきであり、少なくとも10分以上(例えば、少なくとも15分あるいは30分)とすべきである。
一方、材料中の粒径の増大を防ぐために、焼結時間は、長くとも120分(例えば、90分あるいは60分)とすべきである。
【0020】
3.ナノ結晶バルク熱電材料の熱電特性の測定
製造されたナノ結晶バルク熱電材料から試料(sample)を切削し、熱伝導率と電気特性について、TC-7000
Laser Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck
Coefficient Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて検査を実行した。
【0021】
ナノ結晶バルク熱電材料は、ゼーベック係数α、導電率σ、熱伝導率κおよびZT値によって主にその性能が評価される。
本発明の方法によって製造されたバルク熱電材料は、低い熱伝導率と高いZT値を有する。そのZT値は、「2」よりも大きく、「2.5」より大きい可能性もある。
【0022】
本発明の様々な実施の形態は、以下に述べる効果の1つ以上を実現する。
1)本発明による方法は、製造工程を簡単にする。動作パラメータの制御が簡単である。
最初に、融解法および機械的合金法などの従来方式によって熱電合金を生成することができる。機械的合金法は、工程が簡単で環境にやさしいという利点を有している。
2)ボール製粉処理は工程が簡単であり、また、生成されるナノパウダーの粒度分布を制御するのが簡単である。
3)高圧焼結法は、比較的短時間の間比較的低温で実行されるので、コスト的に有効である。
製造される材料は、小さくかつ一様に分布した粒径で非常に密度が高くなっている。
4)本発明は、「2」以上のZT値を有する熱電材料の製造を可能にする。このことは熱電材料の分野に重要な突破口を提示する。
現在まで、市販の多くの熱電材料は、ZT値が「1.4」以下であり、熱電気変換効率が低い。
従って、本発明は、熱電装置の熱電気変換効率を大幅に増大し、熱電発電を、有望で環境にやさしい新たなエネルギー源とし、従来の冷却方式を熱電冷却に置き換えてフロンの放射を減少させることを可能にするものである。
【0023】
本発明の種々の実施の形態について、以下に実施例をあげて説明する。本発明の範囲はこれらの例に限定されないことは言うまでもない。
【0024】
(実施例)
実施例1:高性能ナノ結晶バルクN型2元Bi2Te3熱電合金(High Performance Nanocrystalline
Bulk N-typed Binary Bi2Te3 Thermoelectric Alloy)の製造1
(1)元素Bi(Elemental Bi)(99.999%)および元素Te(99.999%)をBi2Te3の化学量論比(stoichiometric
ratio)に基づいて合計20gを秤取し、炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボール製粉は、Pulveristte 4 Vario−Planetary Mill(FRITSCH社製)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、Bi2Te3合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Disc rotation speed(ディスク回転速度):300RPM
Vial rotation speed(瓶回転速度):900RPM
Milling time(製粉時間):100時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約10nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックス(glove box)に入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いてプレスして3mmの厚さのプリホーム(preform)に成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
焼結工程は以下のように実行した。
まず、圧力と温度を、それぞれ約2GPa、280°Cまで上げ、約30分間維持した。その後、圧力と温度を、それぞれ約1GPaと250°Cまで下げ、約30分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約93%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約30nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser
Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient
Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図1〜図4に示す。
【0025】
実施例2:高性能ナノ結晶バルクN型2元Bi2Te3熱電合金(High Performance Nanocrystalline
Bulk N-typed Binary Bi2Te3 Thermoelectric Alloy)の製造2
(1)元素Bi(Elemental Bi)(99.999%)および元素Te(99.999%)をBi2Te3の化学量論比に基づいて合計20gを秤取し、真空下で石英チューブの中に密閉した。
その石英管を電気炉に入れ、以下の設定の融解工程によって、Bi2Te3合金を生成した。
Temperature rising rate(温度上昇速度):20°C/分
Melting temperature(融解温度):750°C
Temperature holding time(温度保持時間):15時間
Cooling rat(冷却速度):2°C/分
生成したBi2Te3合金を粉砕し、炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボールの製粉は、Pulveristte 4 Vario−Planetary Mill(FRITSCH社製)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、Bi2Te3合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Disc rotation speed(ディスク回転速度):300RPM
Vial rotation speed(瓶回転速度):900RPM
Milling time(製粉時間):100時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約15nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックスに入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いて加圧して3mmの厚さのプリホームに成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
焼結工程は以下のように実行した。
まず、圧力と温度を、それぞれ約2GPa、280°Cまで上げ、約30分間維持した。その後、圧力と温度を、それぞれ約1GPaと250°Cまで下げ、約30分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約100%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約50nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser
Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient
Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図1〜図4に示す。
【0026】
実施例3:高性能ナノ結晶バルクP型3元Bi0.5Sb1.5Te3熱電合金(High Performance
Nanocrystalline Bulk P-typed Ternary Bi0.5Sb1.5Te3
Thermoelectric Alloy)の製造
(1)元素Bi(Elemental Bi)(99.999%)と、Sb
(99.999%)および元素Te(99.999%)をBi0.5Sb1.5Teの化学量論比に基づいて合計20gを秤取し、炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボールの製粉は、Pulveristte 4 Vario−Planetary Mill(FRITSCH社製)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、Bi0.5Sb1.5Te3合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Disc rotation speed(ディスク回転速度):300RPM
Vial rotation speed(瓶回転速度):900RPM
Milling time(製粉時間):100時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約17nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックスに入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いて加圧して3mmの厚さのプリホームに成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
圧力と温度を、それぞれ約4GPa、380°Cまで上げて、焼結工程を実行し、約15分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約96%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約38nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser
Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient
Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図5〜図8に示す。
【0027】
実施例4:高性能ナノ結晶バルクN型3元Si80Ge20P2熱電合金(High
Performance Nanocrystalline Bulk N-typed Ternary Si80Ge20P2 Thermoelectric Alloy)の製造方法
(1)元素Si(99.99%)と、Ge(99.99%)および元素P(99.99%)をSi80Ge20P2の化学量論比に基づいて合計20gを秤取し、炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボールの製粉は、Pulveristte 4 Vario−Planetary Mill(FRITSCH社製)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、Si80Ge20P2合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Disc rotation speed(ディスク回転速度):200RPM
Vial rotation speed(瓶回転速度):1000RPM
Milling time(製粉時間):70時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約12nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックスに入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いて加圧して3mmの厚さのプリホームに成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
圧力と温度を、それぞれ約3GPa、600°Cまで上げて、焼結工程を実行し、約30分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約98%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約30nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser
Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図9〜図12に示す。
【0028】
実施例5:高性能ナノ結晶バルクN型2元PbTe熱電合金(High Performance Nanocrystalline Bulk N-typed Binary PbTe
Thermoelectric Alloy)の製造方法
(1)元素Pb (99.9%)と、Te
(99.999%)をPbTeの化学量論比に基づいて合計20gを秤取し、炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボールの製粉は、Pulveristte 4 Vario−Planetary Mill(FRITSCH社製)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、Si80Ge20P2合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Disc rotation speed(ディスク回転速度):300RPM
Vial rotation speed(瓶回転速度):1200RPM
Milling time(製粉時間):100時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約13nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックスに入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いて加圧して3mmの厚さのプリホームに成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
焼結工程は以下のように実行した。
まず、圧力と温度を、それぞれ約2GPa、500°Cまで上げ、約20分間維持した。その後、圧力と温度を、それぞれ約1GPaと450°Cまで下げ、約20分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約97%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約40nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser Flash
Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient
Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図13〜図16に示す。
【0029】
実施例6:高性能ナノ結晶バルクN型方コバルト鉱CoSb3熱電合金(High Performance Nanocrystalline Bulk N-typed
Skutterudite CoSb3 Thermoelectric Alloy)の製造方法
(1)元素Co(99.8%)と、Sb(99.999%)をCo:Sb=1:3の化学量論比に基づいて合計20gを秤取し、互いに混合した。
その混合物を真空下で石英管の中に密閉し、約700°Cで約20時間焼結し、均質のCoSb3を形成した。その後、形成したCoSb3を炭化タングステンのボールミルジャーの中に入れた。
ボールの製粉は、GN−2型ボールミル(GN-2 Model Ball Mill)を用い、製粉媒体としてアルコールを使用して、アルゴン雰囲気(Ar atmosphere)の下で実行し、CoSb3合金パウダーを生成した。
製粉パラメータは以下のように設定した。
Ball-to-powder ratio(粉砕度):20:1
Rotation speed(回転速度):400RPM
Milling time(製粉時間):50時間
生成したナノパウダーは、XRD(X線回折測定器)によって測定すると、約5nmの平均粒径であった。
(2)製粉されたナノパウダーをグローブボックスに入れて真空封入し、次に、プレスのダイ(直径=10.8mm)を用いて加圧して3mmの厚さのプリホームに成形した。
(3)プリホームは、パイロフィライトとグラファイトで作られた高圧金型に入れ、ヒンジ型立方体プレス(cubic hinge press)内で高圧焼結させた。
圧力と温度を、それぞれ約4GPa、550°Cまで上げて、焼結工程を実行し、約15分間維持した。
生成されたナノ結晶バルク熱電材料は、約99%の相対密度を有し、XRDとTEMによる測定では、約45nmの平均粒径であった。
(4)試料を高圧焼結ナノ結晶バルク熱電材料から切削し、TC-7000 Laser
Flash Thermal Constants Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))およびZEM-3 Seebeck Coefficient
Analyzer(ULVAC−RIKO社製(日本))を用いて熱伝導率と電気特性について検査した。
ZT値は、式ZT=α2σT/κに基づいて計算した。
温度に対するそれらのデータを、図17〜図20に示す。
【0030】
図4、8、12、16および20から、上記の実施例1〜6全てが「2」以上のZT値を有する熱電材料を生成したことを見てとることができる。
図4に示すように、本発明によって取得した熱電材料は、ゾーン溶融処理によって取得した材料より約5倍のZT値を有し、かつ常圧焼結法によって取得した材料より高いZT値を有する。この高圧焼結法は、エネルギー変換の分野において多大な商業的将来性を提供する。
【0031】
本発明について多くの実施の形態と実施例を説明したが、当業者であれば、これらかの開示から、ここで示した本発明の範囲および精神から外れない他の実施の形態を実現可能であることを十分に理解するだろう。
例えば、本発明の理解と実施を容易にするために、本明細書では、結晶粒度、焼結期間、焼結温度、焼結圧力、プレス圧力および焼なまし温度(annealing temperature)を含む動作パラメータについていくつかの特定のデータを供給している。しかしながら、当業者は、これらのデータがほんの好ましい値であることを理解するだろう。事実、当業者であれば、運用環境の特定の条件により値または値の範囲を調整し、本発明の範囲からの外れない指定範囲以外の動作パラメータのもとで本発明を実行することができるであろう。
【0032】
別段の定めがない限り、「含む」という文言は、本明細書に言及されているどうかによらず、他の工程、元素あるいは材料(それらの工程、元素、材料が本発明の根本的かつ新規な特徴に影響を与えない限り)の存在を除外するものではない。
例えば、本発明の1実施の形態による高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の準備のための方法は、材料中の残留応力を削除するために高圧焼結工程の完了後に不活性雰囲気あるいは真空下における焼なまし工程をさらに含む。
【0033】
説明を分かり易くするため、本明細書では一定の数値範囲についてのみ明示的に示している。しかしながら、それ以外の範囲が示されない場合、任意の下限から任意の上限の範囲が思考されることを十分に理解すべきである。全ての数値は、約或いはおよその値として示され、当業者によって予期できる実験誤差および変動量を考慮している。
【0034】
ここで引例された、刊行物、特許文献、学術論文等を含む全ての文書および参考文献は、参考としてここに組込まれ、それらの開示は本発明の記述と矛盾しない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法であって、以下のステップを有する。
1)ナノパウダーの生成ステップ
原料として対応する元素材料を使用し、融解または機械的合金化法により融点温度Tmを有する熱電合金を生成し、不活性雰囲気あるいは真空下で合金をボール製粉して、5−30nmの平均粒径を有する合金パウダーを生成する。
2)高圧焼結ステップ
a)不活性雰囲気あるいは真空下で製粉したパウダーをプレスしてプリホームを成形する。
b)高圧金型にプリホームを入れ、0.8−6.0のGPaの圧力、0.25−0.8Tmの温度で10−120分間プリホームを焼結し、90−100%の相対密度および10−50nmの平均粒径を有するナノ結晶バルク熱電材料を取得する。
【請求項2】
前記熱電合金を、(Bi, Sb)2(Te,
Se)3系材料、PbTe系材料、Bi1-xSbx固溶体(0<x<1)、SiGe系合金、Skutterudte結晶構造化合物を含むグループから選択することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項3】
前記熱電合金を、Bi2Te3,SiGe,PbTe,
およびCoSb3から選択した二元合金、Bi2-xSbxTe3(0<x<2),CoSb3-xTex(0<x<3),およびCo4-xSb12Fex
(0<x<4)から選択した三元合金、Bi2-xSbxSeyTe3-y(0<x<2,
0<y<3)から選択した四元合金、Si80Ge20Px
(0<x<5)から選択したドープした合金であることを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項4】
前記元素材料が、Bi,Te,Sb,Se,Pb,Co,Si,Ge,Fe,Cd,Sn,
La,Ce,Ag,Sr,Pの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項5】
前記元素材料が、90%以上の純度を有することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項6】
前記元素材料が、99%以上の純度を有することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項7】
前記元素材料が、99.9%以上の純度を有することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項8】
前記高圧焼結ステップの後に、焼なましのステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項9】
ステップ2)のb)の焼結処理を、10−120分間実行することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項10】
前記熱電合金を、Bi2Te3,Bi2-xSbxTe3(0<x<2),Si80Ge20P2,PbTe,CoSb3のグループから選択することを特徴とする請求項1に記載の高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1の方法によって取得した高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料であって、前記熱電材料が2以上のZT値を有することを特徴とする高密度化高性能ナノ結晶バルク熱電材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−29566(P2011−29566A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−180357(P2009−180357)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(509218629)
【氏名又は名称原語表記】YANSHAN UNIVERSITY
【Fターム(参考)】