説明

高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料

本発明は、酸化チタンと酸化イッテルビウムとを4:1〜1:4のモル比で含む、高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料に関する。発明はまたその調製方法、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化イッテルビウムとの混合物中に酸化チタンを含む、高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的成分には、通常、表面保護のためまたは特定の光学的特性を達成するために適用される薄い被覆が設けられる。
このタイプの光学的成分は、例えば、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラ、双眼鏡または他の光学的器具用のレンズ、ビーム分割器、プリズム、鏡、窓ガラス等である。
被覆は、第1に、前記表面を、機械的、化学的または環境的影響による損傷を軽減または防止するように、硬化することによりおよび/または化学的抵抗を増加させることにより処理するのに役立つが、第2に、多くの場合、眼鏡レンズおよびカメラレンズ用でそうである低下した反射を達成するのに役立つ。適当な被覆材料、異なる層厚、および単層または適当な場合に異なる屈折率を有する異なる材料を含む多層構造を選択することにより、全可視光領域において反射率を1%未満に低下させることができる。このようにして、干渉鏡、ビーム分割器、偏光子、熱フィルターまたは冷光鏡を製造することもできる。
【0003】
前記被覆層を製造するために、種々の材料、特に、酸化材料、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、Al23が知られているが、MgF2のようなフッ化物、およびこれらの物質の混合物も知られている。
【0004】
被覆材料は、ここで、目的の光学的特性に従って、および材料の加工特性に従って選択される。
【0005】
光学的基材の被覆は、通常、高真空蒸着プロセスを用いて行われる。ここで、まず、基材および蒸着物質を含むフラスコを適当な高真空蒸着装置内に配し、続いて装置を減圧し、蒸着物質を加熱および/または電子線衝撃により蒸発させ、蒸着材料を薄層として基材表面に析出させる。対応する装置およびプロセスは従来技術のものである。
【0006】
高屈折率、すなわち、2以上の屈折率を有する層の製造に適した出発材料の選択は、比較的制限されている。ここで、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびタンタルの酸化物、およびそれらの混合酸化物が本質的に適している。酸化チタンが最も頻繁に用いられる。それらから製造される層は、可視光および380nm〜5μmの近赤外線領域において透明であり、出発材料と同様に、著しい吸収を有すべきでない。約500nmの波長において酸化チタンを用いて達成することができる屈折率は約2.4である。しかしながら、UV照射時に吸収が観察される。
【0007】
特に純酸化チタン(IV)の場合、蒸発中に酸素の損失が生じるという危険性も生じ、その結果、化学量論量を下回る量の酸化チタンの層が蒸着し、可視光領域で吸収する層が生じる。これは、蒸発中に適当な手段により、例えば、酸素残留圧の達成により、あるいは、例えば独国特許1228489による希土類群からの元素または酸化物のような特定の物質の添加により、防止することができる。ここで、特に、酸化チタンとプラセオジムおよび/または酸化プラセオジウムとの混合物または酸化チタンとセリウムおよび/または酸化セリウムとの混合物が挙げられた。酸化チタンと酸化イッテルビウムとの混合物は記載されていなかった。
【0008】
しかしながら、これらの既知の混合物が比較的吸収がないのは、可視光領域に限定される。これに対して、独国特許1228489は、紫外線または近赤外線領域に言及していない。
【0009】
純酸化物のさらなる不利な点は、それらの融点および沸点が通常高く、さらに、これらの点が近いことでもある。しかしながら、加工のために、蒸発が著しく開始する前に蒸着材料が完全に溶融することが好ましい。この方法においてのみ、均一厚さの均質層の形成に必要な、均一で適切な蒸発速度を達成することができる。しかしながら、通常の作業条件下において、溶融に関する困難が、特にジルコニウムおよびハフニウムの酸化物の場合に生じ、チタン/ジルコニウム混合酸化物の場合にも生じる。
得られる層は、しばしば、光学的に不均一であり、通常の多層適用の場合、屈折率の再現性に困難が生じる。
【0010】
この理由で、金属酸化物の融点を下げることを意図すると共に特に屈折率の特定の変化のためにも用いられる材料も、純金属酸化物に添加される。しかしながら、これらの材料は、形成される層において著しい吸収が可視領域で生じないように選択されるべきである。
【0011】
しかしながら、前記金属酸化物の混合物が、融点低下性添加剤と調和せずに蒸発すること、すなわち、それらが蒸発プロセス中に組成を変化させ、蒸着層の組成物もそれに対応して変化することが不利であると分かった。
【0012】
この問題を解決するために、例えばLa2Ti27のような金属酸化物が提案された。しかしながら、これらは、蒸発中に酸化チタン(IV)と同様の方法で酸素を失い、その結果、蒸着層の化学量論量を下回る組成が得られ、吸収現象が生じる。
【0013】
高屈折率の層の製造に適した先に既述した金属酸化物に加えて、他の公報は、希土類金属の酸化物も既にとりあげている。
【0014】
すなわち、例えば、酸化プラセオジムと二酸化チタンとの混合物が知られている。これらは、プラセオジムイオンの吸収のために、400nmを下回るスペクトル領域に強度の吸収を有し、可視光領域に弱い吸収を有する。
【0015】
酸化ランタンと酸化チタンとの混合物も、既に何度も、例えば、DE 4208811およびDE 10065647に提案されている。しかしながら、酸化ランタンが含まれているために、それを用いて製造された層において湿分への感受性が増す。さらに、ランタンの天然放射活性同位体が、その放射活性輻射のために感受性光学的成分に損傷を引き起こす。
【0016】
米国特許第4,794,607号は、光学的増幅器用の抗反射性被覆として作用する酸化アルミニウム層と交互する酸化ガドリニウム層の使用を記載している。この材料の検討により、酸化ガドリニウムを用いる蒸着により、適用法に依存して1.75〜1.80の屈折率を有する均質層を得ることができることが示された(K.Truszkowska、C.Wesolowska、「Optical properties of evaporated gadolinium oxide films in the region 0.2−5μm」、Thin Solid Films(1976年)、第34(2)巻、391〜4頁)。
製造された層は、2以上の標的屈折率からこのようにかなり離れている。
【0017】
DE−A 3335557は、光学レンズの上に抗反射性被覆を製造するための、二酸化チタンと酸化イッテルビウムの交互層、または酸化アルミニウムと酸化イッテルビウムの層配列の使用を開示している。酸化イッテルビウムが、適用された層の厚さに依存しておよび適用法に依存して1.75〜1.9の屈折率を達成し得ることが知られている。これらの屈折率は、同様に、高屈折率範囲ではない。
【0018】
酸化チタンと酸化ジスプロシウムおよび/または酸化イッテルビウムとの混合物も知られているが、これらは、WO95/05670に従って、ゾル/ゲルプロセスにおいて半導体性金属酸化物層を生成するために、光電池に適用される。
製造された層の達成可能な屈折率についての情報はない。
【0019】
JP−A−03−129301は、高屈折率の層中に二酸化チタン、酸化イッテルビウムまたはそれらの混合物を含む、抗反射特性を有する多層膜を開示している。しかしながら、二酸化チタンと酸化イッテルビウムの混合物の例およびそれらを用いて達成し得る屈折率は記載されていない。
【0020】
DE−A 196 07 833は、酸化イッテルビウムを、その材料からなる型の機械的安定化のために0.1〜10重量%含み得る、TiOx(x=1.4〜1.8)の焼結蒸着混合物を記載している。安定化剤の添加は、TiOx層の光学的特性を損なってはいない。しかしながら、酸化チタンと酸化イッテルビウムとの混合物の例は記載されていなかった。それらを用いて達成し得る屈折率は分からない。それらを用いて達成し得る層の物理的特性への、安定化剤の添加の影響は、同様に記載されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、高い耐久力を有し、湿分、酸およびアルカリに対して不感性であり、放射能が低く、広スペクトル範囲において透明かつ非吸収性であり、溶融および蒸発中に最初の組成を変化させず、そして同じ特性を有する高屈折率の層の製造に適している、少なくとも2.0の高屈折率を有する層を製造するための蒸着材料を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、本発明に従って、酸化チタンと酸化イッテルビウムとを4:1〜1:4のモル比で含む、高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料により達成される。
【0023】
本発明の目的は、さらに、高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料を調製する方法であって、酸化チタンを酸化イッテルビウムと4:1〜1:4のモル比で混合し、混合物を圧縮または懸濁、造形および続いて焼結する方法により達成される。
【0024】
本発明は、さらに、高屈折率の光学的層を製造するための、酸化チタンと酸化イッテルビウムとを4:1〜1:4のモル比で含む蒸着材料の使用に関する。
【0025】
本発明の一つの態様において、蒸着材料は、二酸化チタンと酸化イッテルビウム(Yb23)とを4:1〜1:4のモル比で含む。
【0026】
これらの材料は、好ましくは、2.6:1〜1:1.3のモル比で存在する。
【0027】
さらなる態様において、本発明の蒸着材料は、さらに、酸化ガドリニウム(Gd23)および/または酸化ジスプロシウム(Dy23)を含む。ここで、酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比の合計が80モル%を超えないことが有利である。そのような酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムの混合物を用いる場合、個々の物質の相対的割合はそれ自体重要でない。これは、広範囲に設定することができ、二元混合物の場合は99:1〜1:99の比であり、三元混合物の場合は1:1:98〜1:98:1〜98:1:1の比である。
【0028】
個々の成分での被覆により達成し得る屈折率を考慮する場合、これらは、二酸化チタンでの被覆の場合は約2.3〜2.4であり、一方、先に既述のように、純酸化イッテルビウム層を用いて約1.75〜1.9の屈折率を得ることができる。
【0029】
通常、成分のモル比に依存して2つの個々の値の間にある屈折率を有する層を、2つの成分の混合物を用いて達成することができる。したがって、かなり低い屈折率を有する成分のモル比が比較的高いことにより、比較的高屈折率成分の屈折率よりも、低屈折率成分の屈折率に近い、混合物の屈折率が得られる。
【0030】
それゆえ、驚くべきことに、二酸化チタンと酸化イッテルビウムとを前述のモル比で含む混合物が、予想される混合値よりもかなり高く、特に、純二酸化チタンの屈折率に近い屈折率を有する層の製造が可能になることが分かった。特に、これらの混合物を用いて、2.0をかなり超える、すなわち、約2.20〜2.30の屈折率を有する層を製造することができる。各場合に望まれる定められた屈折率を、酸化イッテルビウムのモル比を介してこの範囲内に特異的に設定することができる。この成分の比較的高い割合により、得られる屈折率が僅かに低下する。
【0031】
純酸化イッテルビウムの代わりに、酸化イッテルビウムと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとの混合物を用いる場合、前記混合物中のこれらの物質の相対比は、対照的に、二酸化チタン含有全体混合物を用いて得ることができる屈折率に著しい影響を与えない。それは、酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび酸化ジスプロシウムの屈折率が、互いに著しく異ならないからである。
【0032】
さらに、本発明の蒸着材料が調和して蒸発する、すなわち、蒸発プロセスの経過中にそれらの組成が実質的無変化のままであることが有利に発見された。これは、酸化イッテルビウムのみが酸化チタンに添加されるか、酸化イッテルビウムと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとの混合物が酸化チタンに添加されるかに拘わらず、適用される。このようにして、2.0以上の安定な高屈折率n、特に2.20以上のnを有する均質層を製造することができる。
【0033】
さらに、得られる光学的層は、広スペクトル範囲、すなわち約380nm〜5μmに高い透明度を有する。特に、可視領域および近赤外スペクトル領域において完全な透明性を達成することができる。
【0034】
高屈折率の層の製造用の従来技術から知られている蒸着材料と比較して、本発明の蒸着材料から製造された層は、向上した耐性を有する。本発明の蒸着材料は湿分を取り込む傾向がないので、このことは特に湿熱環境においてあてはまる。この特性は、混合物の取り扱いやさらに加工する特別の手段が必要でないから、蒸着材料の調製中の初期に有利であると分かる。しかしながら、適当な基材上に蒸着後に形成される高屈折率の層は、湿熱環境においても特に安定である。酸およびアルカリへの向上した耐性が同様に観察することができる。
【0035】
本発明の蒸着材料のさらなる利点は、用いられる基材が放射活性同位体を有さないことにある。蒸着材料そのものも、それを用いて製造された層も放射線を発せず、それは、安全用手段が不必要であること、および層に接触する光学的要素または検出器へのこの点に関する損害が予想されないことを意味する。
【0036】
本発明のさらなる態様において、高屈折率の光学層の製造用の蒸着材料は、二酸化チタン、チタンおよび酸化イッテルビウム(Yb23)を含み、酸化チタンと酸化イッテルビウムとのモル比は4:1〜1:4であるが、好ましくは、2.6:1〜1:1.3である。ここでも、純酸化イッテルビウムの代わりに、酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムの混合物を用いることができる。
【0037】
金属チタンを添加するために、この場合、酸素に関して混合物の化学量論量を下回る比が設定される。これにより、混合物の溶融および蒸発中の酸素の放出が避けられる。これは、溶融および蒸発中にさもなければ通常起こるスピッティングを防ぐことができるので、蒸着材料の取り扱いも向上させる。このようにして、混合物は、その後の加工中に変化しない特に安定な組成物を達成する。
【0038】
酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムの混合物を用いる場合、混合物中の個々の物質のモル比は、二元混合物の場合は99:1〜1:99、三元混合物の場合は1:1:98〜1:98:1〜98:1:1の混合物モル比において変えることができる。
【0039】
二酸化チタン、チタンおよび酸化イッテルビウムの混合物が特に有利であると分かった。
【0040】
重量部に関して、以下の比が有利に設定される:混合物の合計重量に基づいて、50〜92重量部の酸化イッテルビウム、7〜42重量部の二酸化チタンおよび0〜8重量部のチタン。
好ましくは、混合物の合計重量に基づいて、67〜76重量部の酸化イッテルビウム、15〜27重量部の二酸化チタンおよび2〜5重量部のチタンを用いることである。
【0041】
材料を用いて得られる光学層の達成可能な屈折率に関して、金属チタンの添加は不利益な効果を有さない。ここでも、2.0を超え、特に2.20〜2.30の屈折率を得ることができる。
【0042】
チタンを添加しない本発明の蒸着材料について前述した全ての利点が、二酸化チタンおよび酸化イッテルビウムに加えて金属チタンを含む混合物にも当てはまる。
【0043】
これは、混合物を良好に加工することができ、それを用いて、広スペクトル領域において非吸収性で透明であると共にさらに湿熱環境において安定で放射線を発しない安定高屈折率を有する均質層が得られることを意味している。
【0044】
本発明による蒸着材料は、酸化チタンを、酸化イッテルビウムと4:1〜1:4のモル比で混合し、混合物を圧縮または懸濁、造形および続いて焼結するプロセスにより調製される。
【0045】
酸化チタンと酸化イッテルビウムとを、2.6:1〜1:1.3のモル比で互いに密に混合するのが有利である。
【0046】
純酸化イッテルビウムの代わりに、ここで、酸化イッテルビウムと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとの混合物を用いることもできる。
【0047】
混合物を圧縮し、それ自体知られている適当な圧縮手段により造形する。しかしながら、適当なキャリア媒体中で混合成分の懸濁液を調製することもでき、これは造形され続いて乾燥される。適当なキャリア媒体は、例えば、水であり、そこに、要すれば、ポリビニルアルコール、メチルセルロースまたはポリエチレングリコールのようなバインダー、および要すれば、例えば、湿潤剤または消泡剤のような助剤が添加される。懸濁操作に、造形が続く。ここで、押し出し、射出成形または噴霧乾燥のような種々の既知の技術を用いることができる。得られる形状物を乾燥し、例えば、燃焼によりバインダーを除去する。これは、混合物の優れた取り扱いおよび計量のために行う。したがって、混合物を転化する形状は、限定されない。適当な形状は、特に、本発明の蒸着材料での基材の連続被覆、およびこの目的に必要な補充プロセスにおいて特別の役割を果たす単純な取り扱いおよび良好な計量を容易にする全ての形状である。それゆえ、好ましい形状は、種々の錠剤形状、ペレット、ディスク、円錐台、細粒または顆粒、棒またはビーズである。
【0048】
造形混合物を続いて焼結する。ここで、焼結プロセスを、種々の条件下に行うことができる。例えば、焼結を、空気中1200〜1600℃の温度で、例えばアルゴンのような不活性ガス下1200〜1600℃の温度で、または減圧下1300〜1700℃の温度で、および1Pa未満の残留圧で行うことができる。ここで、焼結プロセスは、さもなければ通常であるように、必ずしも減圧下に行う必要はない。これは、装置の複雑さを低下させ、時間を節約する。
【0049】
形成された造形焼結生成物は、貯蔵、輸送および蒸発装置への導入中にその形状を維持し、その後の全溶融および蒸発プロセス中に組成が安定である。
【0050】
しかしながら、二酸化チタンをチタンおよび酸化イッテルビウムと、二酸化チタンと酸化イッテルビウムとの4:1〜1:4のモル比で混合し、圧縮または懸濁し、造形し、続いて焼結すると、特に安定な蒸着材料が得られる。ここでも、酸化イッテルビウムと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとの混合物を、純酸化イッテルビウムの代わりに用いることができる。
【0051】
2.6:1〜1:1.3の二酸化チタンと酸化イッテルビウムとの混合モル比が特に有利である。
【0052】
型の性質および焼結条件に関して、金属チタンの添加がなくても本発明の蒸着材料に関する前記詳細に変化は生じない。
【0053】
混合中、混合物の全重量に基づいて酸化イッテルビウム50〜92重量部、酸化チタン7〜42重量部、およびチタン0〜8重量部の重量比が好ましく設定される。特に好ましくは、混合物の全重量に基づいて67〜76重量部の酸化イッテルビウム、15〜27重量部の酸化チタンおよび2〜5重量部のチタンを含む混合物の調製である。
【0054】
前記混合比を維持している間、酸化イッテルビウム、二酸化チタンおよびチタンの混合物が特に有利であると分かった。
【0055】
焼結および冷却後、本発明の蒸着材料は、屈折率nが2.0以上、特に2.20以上である高屈折率の光学的層を製造する準備ができている。
【0056】
本発明の蒸着材料を用いて、種々のガラスまたはプラスチックのような既知の適当な材料からなり得る、全ての適当な基材、特に、窓ガラス、プリズム、シート、造形基材、例えば、光学レンズ、眼鏡レンズおよびカメラレンズを被覆することができる。したがって、被覆すべき基材の性質、寸法、形状、材料および表面品質に関して、本発明の蒸着材料の使用は、基材が、真空装置に導入することができると共に支配的な温度および圧力条件下に安定を維持する限り、全く制限されない。しかしながら、適用される層の密度を増加させるために、蒸着材料が予備加熱された基材に衝突するように被覆操作の前および操作中に基材を加熱することが有利であると分かった。用いられる基材の性質に依存して、これらは、300℃までの温度に加熱される。しかしながら、この手段はそれ自体知られている。
【0057】
用いられる蒸着プロセスは、通常、蒸発るつぼまたはボートとしても知られている適当なフラスコ内の真空装置に、被覆すべき基材と共に蒸着材料を導入する高真空蒸着プロセスである。
【0058】
この装置を、続いて減圧し、蒸着材料を、加熱および/または電子線衝突により蒸発させる。蒸着材料が、薄層として基材の上に蒸着する。
【0059】
蒸発中、層の完全な酸化を確保するために酸素を有利に添加する。適用された層の、特に未加熱基材への接着を向上させるために、基材に、被覆中に、イオンを衝突させることができる(イオン補助蒸着、プラズマ補助蒸着)。
【0060】
通常、複数の層、有利には高屈折率n(1.80以上)と低屈折率n(1.80以下)を交互に有する複数の層が、交互に重なり合うように付着される。このようにして、多層配列が形成され、それが被覆された、特に反射性の低下した基材を提供することができる。しかしながら、光学的基材上のこのタイプの多層配列は、それ自体知られていたことがあり、広く用いられている。
【0061】
広スペクトル領域において非吸収性であり、透明かつ均質であり、特に2.20以上の高屈折率を有し、湿熱環境において酸およびアルカリに対して安定であり、放射線を発しない高屈折率の接着性光学的層を適当な基材上に製造するために本発明の蒸着材料を用いることができる。
【実施例】
【0062】
本発明を、多くの実施例により以下に説明するが、それらに限定されない。
【0063】
実施例1
Yb23およびTiO2の混合物
Yb2383重量部と二酸化チタン17重量部を互いに密に混合し、続いて錠剤に造形する。これらを、空気中約1500℃で4時間焼成する。続いて錠剤を、電子線蒸発器、例えばLeybold L560型を有する蒸着装置に導入し、約1900℃の温度および2×10-2Paの圧力で蒸発させる。蒸着前に約300℃に加熱された、基材として装置内に配された石英ガラス上に薄層を蒸着させる。この層の厚さを約340nmに設定する。冷却および蒸発装置からの除去後に、被覆ガラスの透過および反射スペクトルを、分光光度計を用いて測定する。スペクトルから層の屈折率を決める。500nmの波長で2.24の屈折率を有する均質層を得る。
層は、400nm〜約5μmのスペクトル範囲において透明であり、この範囲に吸収を有さない。層は、湿熱環境、例えば、相対大気湿度80%および50℃において、および酸およびアルカリに耐性であり、優れた硬度および接着力を有する。
【0064】
実施例2
Yb23、TiO2およびTiの混合物
Yb2372重量部、二酸化チタン25重量部およびチタン3重量部を互いに密に混合し、続いて錠剤に造形する。これらを、減圧下約1600℃および1×10-1Paの圧力で4時間焼成する。錠剤を、実施例1に記載の条件下にLeybold L560蒸着装置において蒸発させる。溶融および蒸発中に、酸素の放出(スピッティング)を観察することはできない。波長500nmで屈折率2.22を有する均質層を得る。
層は、400nm〜約5μmのスペクトル範囲において透明であり、この範囲に吸収を有さない。層は、湿熱環境において、および酸およびアルカリに耐性であり、優れた硬度および接着力を有する。
【0065】
実施例3
Yb23、Gd23およびTiO2の混合物
Yb2343重量部、Gd2340重量部および二酸化チタン17重量部を互いに密に混合し、続いて錠剤に造形する。これらを、空気中約1500℃で4時間焼成する。錠剤を、実施例1に記載の条件下にLeybold L560蒸着装置において蒸発させる。波長500nmで屈折率2.20を有する均質層を得る。
層は、400nm〜約5μmのスペクトル範囲において透明であり、この範囲に吸収を有さない。層は、湿熱環境において、および酸およびアルカリに耐性であり、優れた硬度および接着力を有する。
【0066】
実施例4
Yb23、Gd23、TiO2およびTiの混合物
Yb2348重量部、Gd2324重量部、二酸化チタン25重量部およびチタン3重量部を互いに密に混合し、続いて錠剤に造形する。これらを、減圧下約1600℃および1×10-1Paの圧力で6時間焼成する。錠剤を、実施例1に記載の条件下にLeybold L560蒸着装置において蒸発させる。溶融および蒸発中に、酸素の放出(スピッティング)を観察することはできない。波長500nmで屈折率2.21を有する均質層を得る。層は、400nm〜約5μmのスペクトル範囲において透明であり、この範囲に吸収を有さない。層は、湿熱環境において、および酸およびアルカリに耐性であり、優れた硬度および接着力を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと酸化イッテルビウムとを4:1〜1:4のモル比で含む、高屈折率の光学的層を製造するための蒸着材料。
【請求項2】
二酸化チタンおよび酸化イッテルビウムを含む、請求項1に記載の蒸着材料。
【請求項3】
酸化チタンと酸化イッテルビウムとを2.6:1〜1:1.3のモル比で含む、請求項1または2に記載の蒸着材料。
【請求項4】
さらに、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムを含む請求項1〜3のいずれかに記載の蒸着材料。
【請求項5】
酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比の合計が80モル%を超えない請求項4に記載の蒸着材料。
【請求項6】
二酸化チタン、チタンおよび酸化イッテルビウムを含む請求項1〜5のいずれかに記載の蒸着材料。
【請求項7】
混合物の合計重量に基づいて、酸化イッテルビウム50〜92重量部、二酸化チタン7〜42重量部およびチタン0〜8重量部を含む請求項1〜6のいずれかに記載の蒸着材料。
【請求項8】
混合物の合計重量に基づいて、酸化イッテルビウム67〜76重量部、二酸化チタン15〜27重量部およびチタン2〜5重量部を含む請求項7に記載の蒸着材料。
【請求項9】
請求項1に記載の蒸着材料を調製する方法であって、酸化チタンを酸化イッテルビウムと4:1〜1:4のモル比で混合し、混合物を圧縮または懸濁、造形および続いて焼結する方法。
【請求項10】
二酸化チタンを酸化イッテルビウムと混合する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらに、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムを添加する請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比の合計が80モル%を超えない請求項11に記載の方法。
【請求項13】
空気を流入させて焼結を行う請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
減圧下に焼結を行う請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
不活性ガス下に焼結を行う請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
混合物を錠剤、窓ガラス、ペレット、円錐台、細粒、顆粒、棒またはビーズに造形する請求項9〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
高屈折率の光学的層を製造するための、請求項1〜8のいずれかに記載の蒸着材料の使用。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれかに記載の蒸着材料を含んでなる、屈折率が2.0以上である高屈折率の光学的層。
【請求項19】
請求項1〜8のいずれかに記載の蒸着材料を含んでなる、屈折率が2.0以上である高屈折率の少なくとも一つの光学的層を含んでなる多層光学的システム。

【公表番号】特表2006−519305(P2006−519305A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501588(P2006−501588)
【出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000554
【国際公開番号】WO2004/074200
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】