説明

高温で安定な2つの不透明ポリマー材料の溶接方法

【課題】2つの不透明な部材を、2つの部材間の境界面で、部材の材料性状を変えることなく溶接できる方法を提供する。
【解決手段】溶接方法は、高温安定で、レーザー光を吸収できる程にカーボン粉末を加えた不透明ポリマー材料の下部部材2を準備し、高温安定なポリマー材料の上部部材4を準備し、レーザー光1を、上部部材4を通過して、上部部材4と下部部材2の境界面に届かせて、下部部材2と上部部材4をレーザー溶接する、のステップからなっている。上部部材4は、準備段階で、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対し透明で、かつ高温で安定な鉱物または有機タイプ顔料をポリマー材料に加えて、可視光に対し不透明で、レーザー光に対し透明にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で安定な2つの不透明ポリマー材料を溶接する方法に関する。
本発明は、さらに、高温で安定な熱可塑性材料のアセンブリ、およびそのアセンブリよりなる電力変換器の包込み装置または外装に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既知の電力変換器では、電力変換器の包込み装置または外装は、ポリマー材料部材を、シリコーンのような接着性があり、隙間のないジョイントを形成する材料で合わせて組立てている。これらの部材は、例えば、エネルギー変換器を冷却するための流管を厚みに入れて保護カバーを形成して組立てている。
電力変換器は、実質250℃より高い高温があり、熱が流れ出るのは許されない。そこで、流管に水とエチレングリコールの混合物などの熱媒体または冷却液体が流している。
【0003】
しかしながら、接着ジョイントは、その物理化学的性質により、外装の部材間を長期間完全に隙間なくしておくこと不十分である。それ故、冷却液が漏れ、電力変換器の短絡といった問題に結びつくことがある。
この欠点を克服するための理想的解決は、ポリマー材料部材を互いに溶接することである。すなわち、溶接は、アセンブリゾーンに連続した材料がきて、組立て部材と同じ物理化学的性状をもつポリマー材料のジョイントであるので、部材間のアセンブリゾーンが完全に隙間なしになる。
【0004】
しかしながら、2つの高温で安定なポリマー材料でなる不透明部材をレーザー溶接するには、レーザー光が一方の部材を通過でき、かつポリマー材料の電気的、機械的および化学的性状を変えずに2つの部材間の境界面で溶接できることが要求される、という問題がある。
【0005】
特許文献1には、一方が可視光およびレーザー光に対し不透明な材料で、他方がアントラキノンタイプの色素を加えて可視光に対し不透明で、レーザー光に対し透明な材料でなる2つのポリマー材料部材を溶接する方法について記載している。
この色素は、250℃から起きる色素の分解温度より低い融点と作業温度をもつポリマーの溶接ができる。この溶接方法は、高温の、特に300℃以上の作業温度のポリマーの溶接をすることができない。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/085643号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、上記の問題を解決すべくなされたものであり、2つの不透明な部材を、2つの部材間の境界面で、部材の材料性状を変えることなく溶接できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は上記したタイプの溶接方法であり、上部部材が、準備段階で、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対し透明で、かつ高温で安定な鉱物または有機タイプ顔料をポリマー材料に加えて、可視光に対し不透明で、レーザー光に対し透明にされている。
【0009】
本発明の別の特徴は、以下に挙げられる。
−上部部材と下部部材は、レーザー溶接段階において互いに押し合わせられる。
−下部部材と上部部材のポリマー材料、および上部部材に加えられる顔料は、少なくとも250℃の温度で安定である。
−下部部材と上部部材のポリマー材料は、次の群から選ばれる。
−ポリエーテルイミド、
−ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他誘導体のスルホン結合を有する熱可塑性樹脂、
−ポリエーテルエーテルケトン、
−ポリフェニレンスルフィド、
−ポリカーボネート、
−上記化合物を混合または共重合して得られるもの、
−顔料は、コバルトとアルミニウムの酸化物(Al、CoO)、またはコバルト酸化物単独(CoO)、またはコバルトリン酸塩(Co3(PO4)2)、またはマンガンバイオレットである。
−レーザー源は、2つの部材を組立てるゾーン上を移動させて、レーザー源から放出されるレーザー光が、アセンブリゾーン上を通るようにする。
−下部部材のポリマー材料に混合されカーボン粉末は、ミクロンカーボン粉末である。
【0010】
本発明は、また可視光に対して不透明で、高温で安定である複数のポリマー材料部材でなる高温安定熱可塑性材料部材のアセンブリであって、部材の少なくとも一方に、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対して透明で、高温で安定な鉱物または有機タイプ顔料が加えられる。
【0011】
アセンブリの別の特徴は、以下に挙げられる。
−部材間のアセンブリゾーンは隙間なくなっている、
−アセンブリは電気的に絶縁されている、
−部材は、上に定義した溶接方法によって組み立てられる。
【0012】
本発明は、また上に記載した少なくとも1つのアセンブリでなる電力変換器外装に関するものである。
【0013】
本発明は、また可視光に対して不透明で、高温で安定なポリマー材料に関するものであり、このポリマー材料は、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対して透明で、かつ高温で安定な鉱物または有機タイプの顔料が加えられて、それ自身がレーザー光に対して透明である。
【0014】
本発明は、またポリマー材料の使用に関するものであり、上に述べた溶接方法に、上に述べたポリマー材料を使用することである。
【0015】
本発明は、他の形態および利点は、例として挙げた以下の記載を読み、添付した2つの部材を溶接する一つのステップを模式的に描いた図面から理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一つある図を参照すると、レーザー源(図示していない)からのレーザー光照射手段1によって、下部部材2を上部部材4にレーザー溶接することが描かれている。
【0017】
下部部材2と上部部材4は、高温安定な同じ熱可塑性ポリマー材料からできている。
この材料は、例えば、ポリエーテルイミド類、ポリスルホンやポリエーテルスルホンおよびこれらの誘導体などスルホン結合をもつ熱可塑性プラスチック類、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはポリフェニレンスルフィド(PPS)、その他熱可塑性プラスチック類のグループに属し、高性能な、特にアモルファスなものである。
【0018】
下部部材2は、ポリマー材料にミクロンカーボン粉末が混合されて、レーザー光および可視光に対して不透明にされている。ここで、“レーザー光および可視光に対して不透明”なる用語は、レーザー光または可視光が、下部素材2を通り抜けないことを意味している。
下部部材2は、例えば、ミクロンカーボン粉末(径が2〜15μmの粒子)が0.6容量%でポリマーと混合されている。カーボン粉末は、レーザー光1を受けたときレーザー光1を吸収して下部部材2の表面6を加熱して、溶融する効果をもつ。
【0019】
上部部材4は、鉱物顔料によって可視光照射に対して不透明になっている。この顔料は、レーザー光照射1に対して半透明、すなわちレーザー光を少し吸収し、可視光に対しては不透明である性質を有している。
【0020】
さらに、この添加物は、上部部材4のポリマー材料の性状、特にその機械的、化学的および電気的性状を変えない。この添加物によって変わらない機械的性状のうちの1つは、例えばポリマー材料のヤング率である。この添加物によって変わらない電気的性状は、例えばポリマー材料の破壊電圧および絶縁性である。この添加物によって変わらない化学性状の1つは、例えばポリマー材料の化学的不活性、すなわち他の材料との適合性である。これらの性状は、例に挙げただけであり、これに限るものではない。
【0021】
顔料は、例えば800℃以上、特に1000℃以上の非常に高い温度で安定であり、それ故に、PEEKのように作業温度が非常に高いポリマーと一緒にして使用できる。鉱物顔料は、例えばコバルトとアルミニウムの酸化物の尖晶石(Al、CoO)、またはコバルト酸化物単独、コバルトリン酸塩(Co(PO)またはマンガンバイオレットがある。上部部材4は、例えばコバルトとアルミニウム酸化物(Al、CoO)タイプ顔料を、0.14容量%混合する。
【0022】
下部部材2と上部部材4のポリマー材料、および上部部材4の顔料は、少なくとも250℃の温度で安定である。
【0023】
溶接を行うには、アセンブリゾーン8で、上部部材4を下部部材2の表面6上に置く。
レーザー光1は、上部部材4の上のレーザー源から照射される。顔料が、レーザー光1に対して透明であるため、レーザー光は上部部材4を通り抜け、アセンブリゾーン8にある下部部材2の表面6に達する。下部部材2中にカーボン粉末が存在することにより、レーザー光1は表面6の領域で吸収され、下部部材2の材料を融解させ、上部部材4と下部部材2の境界面で溶接ができる。
【0024】
溶接作業を行う間、図の矢10で説明しているように下部部材2と上部部材4は互いに押さえつけておく。
レーザー源は、図の矢12で説明しているように移動できるようになっていて、レーザー光1がアセンブリゾーン8を上を通過して、全ゾーンで溶接ができる。
【0025】
下部部材2と上部部材4は、どんな形でもよい。部材の位置決めは、平らな部材では簡単な3−軸幾何図形テーブルによってできる。複雑な形体の場合には、レーザー光は、アセンブリゾーン8でレーザー光の正確な位置決めができる光ファイバーによって達せられる。
【0026】
レーザー源は、例えば、可視光領域または近赤外線領域、好ましくは実質808nmの波長を放射する連続的な放射ダイオードである。
レーザー光は、実質0.1mm.s−1と1mm.s−1の間、好ましくは実質0.5mm.s−1の速度での一回通過で、溶接するに充分である。
レーザービームは、均質で、実質的に幅が4〜5cm、長さが0.5〜5mmの長方形である。レーザーの電力は、実質的に100〜500W、好ましくは350Wである。レーザーダイオードは、電流が実質的に10〜50A、好ましくは20〜30Aで、これで電力密度が実質的に0.8〜1.6W.mm−1で供給される。
【0027】
上に記載した方法により、可視光に対して不透明な2つの部材を、ポリマー材料の電気的、機械的および化学的な性状を変えずに溶接できる。特に、非常に高温で安定な2つの部材の溶接を行うことができる。しかしながら、この方法は、どんなタイプのポリマー材料、特に低融点の工業用ポリマーでも行うことができる。
【0028】
顔料を加えることは、それ故、ポリマー材料の溶接にとって、色素を使用するよりもより万能的な解決法である。
色素を使用するのは、色素の熱的安定性に限界があるので、溶接され得るポリマー材料のタイプを制限することになる。色素を用いては、低融点の工業用ポリマーだけが溶接できるが、顔料を用いることで、さらに、作業温度が非常に高いポリマーも溶接ができる。
【0029】
更に、部材が同じ材料の連続した接合であるときは、溶接ビードが完全に密であり、このビードは、下部部材2と上部部材4と同じ性状を持っている。
【0030】
溶接ジョイントの全体的性能は、PTFE(これまで説明していない)を溶接される部材の周辺の形に合わせて側縁に使用することにより大幅に改善される。
この外部テンプレートは、プラスチック材料の流出を防ぐことができる。これはまた、電気的な作業に害となる溶接ビード内の泡の形成を防ぐことになる(部分的な流出)。
【0031】
上に記載した方法は、高温で安定なポリマー材料の部材を組立てたアセンブリ、特に、電力変換器の外装に使用することができる。この外装は、上記方法によって組み立てられる複数の部材の少なくとも1つのアセンブリを有している。
【0032】
この変換器は、大きな熱を出し、この方法は、少なくとも250℃に達することがある温度に耐える外装を作ることを可能にしている。
組み立てられた部材には、例えば水とエチレングリコールでなる冷媒が流れる冷却流路の形成も可能である。溶接によるシールで、形成された流路に漏れの危険がなく、従って電気の短絡がない。
更に、組み立てられた部材および溶接ビードの電気的性状により、外装は電気的に絶縁体である。
【0033】
高温で安定なポリマー材料の部材のアセンブリは、さらに、自動車産業、航空機産業、マイクロエレクトロニクスなど他の分野にも応用範囲を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】レーザー光(1)による、上部部材(4)への下部部材(2)のレーザー溶接を記載する図である。
【符号の説明】
【0035】
1:レーザー光
2:下部部材
4:上部部材
6:表面
8:アセンブリゾーン
10:溶接作業において、下部部材(2)と上部部材(4)を互いに押し合わせる方向
12:レーザー光(1)の移動できる方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光に対し不透明で、高温で安定なポリマー材料の2つの部材(2、4)を溶接する方法であって、
−高温で安定であり、カーボン粉末を加えて可視光に対して不透明で、レーザー光(1)を吸収できるようにしたポリマー材料でなる下部部材(2)を準備し、
−高温で安定なポリマー材料でなる上部部材(4)を準備し、
−前記上部部材(4)にレーザー光(1)を通り抜けさせ、前記上部部材(4)と前記下部部材(2)の境界面で溶接する方法により前記上部部材(4)と前記下部部材(2)をレーザー溶接する、ことからなる可視光に対して不透明で、高温で安定なポリマー材料である2つの部材(2、4)の溶接方法で、
前記上部部材(4)が、その準備段階で、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対し透明で、かつ高温で安定な鉱物または有機タイプ顔料をポリマー材料に加えて、可視光に対し不透明で、レーザー光に対し透明にされていることを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記上部部材(4)と前記下部部材(2)は、レーザー溶接段階において互いに押し合わせることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記下部部材(2)と前記上部部材(4)のポリマー材料、および前記上部部材(4)に加えられる顔料は、少なくとも250℃の温度で安定であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記下部部材(2)と前記上部部材(4)のポリマー材料は、
−ポリエーテルイミド、
−ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他誘導体のスルホン結合を有する熱可塑性樹脂、
−ポリエーテルエーテルケトン、
−ポリフェニレンスルフィド、
−ポリカーボネート、
−上記化合物を混合または共重合して得られるもの、
の群から選ばれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記顔料が、コバルトとアルミニウムの酸化物(Al、CoO)、またはコバルト酸化物単独(CoO)、またはコバルトリン酸塩(Co(PO)、またはマンガンバイオレットであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項6】
レーザー源を2つの部材(2,4)をアセンブリゾーン(8)上を移動させて、前記レーザー源から放出されるレーザー光(1)が、アセンブリゾーン(8)上を通るようにすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項7】
下部部材(2)のポリマー材料に混合されるカーボン粉末は、ミクロンカーボン粉末であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項8】
可視光に対して不透明で、高温で安定である複数のポリマー材料部材(2,4)でなる高温で安定な熱可塑性材料部材のアセンブリであって、
前記部材の少なくとも一方に、ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対して透明で、高温で安定な鉱物または有機タイプ顔料が加えられることを特徴とするアセンブリ。
【請求項9】
前記部材(2,4)間のアセンブリゾーン(8)は、隙間なくなっていることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性材料部材のアセンブリ。
【請求項10】
電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項8または9に記載の熱可塑性材料部材のアセンブリ。
【請求項11】
前記部材(2,4)が、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の溶接方法により互いに組立てられていることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項に記載のアセンブリを少なくとも1つもつことを特徴とする電力変換器外装。
【請求項13】
可視光に対して不透明で、高温で安定なポリマー材料であって、
ポリマー材料のもつ性状を変えず、レーザー光に対して透明で、かつ高温で安定な鉱物または有機タイプの顔料が加えられて、それ自身がレーザー光に対して透明であることを特徴とするポリマー材料。
【請求項14】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の溶接方法に、請求項13に記載のポリマー材料を使用することを特徴とするポリマー材料の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2009−107335(P2009−107335A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−263423(P2008−263423)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(506339567)アルストム トランスポール エス・ア (18)
【Fターム(参考)】