説明

高温場用表面プラズマアクチュエータ

【課題】高温でも絶縁材が絶縁破壊することなく、電極の剥がれが生じず、表面の気流による電極の破壊等を生じることがないことにより、長期間安定してプラズマジェットを発生することができる高温場用表面プラズマアクチュエータとする。
【解決手段】絶縁材1を挟んで表面側電極3と裏面側電極5を設け、表面側電極3の表面と絶縁材1の表面2に、アルミナ系材料やムライトを用いてEB−PVD法等によりコーティングし、多孔性の材料からなるコーディング層7を形成する。両電極に電源6から高電圧を印可するとコーティング層が多孔性のため、表面プラズマ9がコーティング層7の外に発生し、誘導気流11も発生するため表面プラズマアクチュエータとして用いることができる。電極は絶縁材に埋め込んでも良く、またコーティング層を多孔性にしないときには、表面電極3上のコーティング層の一部を削除し、突出電極を設けても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温場で用いる表面プラズマアクチュエータに関し、特に高温場でも安定して作動可能な電極構造とした高温場用表面プラズマアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より各種アクチュエータが開発されているが、近年表面プラズマを用いたアクチュエータが注目されている。表面プラズマアクチュエータは、例えば図5(a)に示すように、樹脂、セラミック等の絶縁体91を挟んで表面側電極92と裏面側電極93を設け、両電極に交流電源94によって交流電界を発生させると、表面側電極92の縁部95から絶縁体91の表面に沿ってプラズマジェット96が発生することを利用するものである。特にこの表面プラズマは周囲の気体を誘導し誘導気流57が発生するため、この作用を有効に利用する研究がなされている。
【0003】
その一つとして例えば図5(d)に示すような翼98の表面における、翼面から空気流が剥離しやすい部分に前記のような表面プラズマ発生装置99を設けるものであり、同図には翼の表面に表面側電極92を1列に形成したものを示している。このような表面プラズマ発生装置99を用いると、前記の原理により表面側電極92の縁部55に表面プラズマがプラズマジェットとして発生する。それによりこの翼98の表面を流れる気流に対して前記誘導気流の発生原理によって影響を与え、この部分に生じやすい剥離の防止作用を行うことができる。特にこのような表面プラズマは、翼表面には表面電極として薄い膜を形成するのみでよいので、翼表面を流れる気流に対する空気抵抗等の影響が少なく、且つ機械的な作動部分がないため、故障すること無く安定して作動させることができるものである。
【0004】
特に図5(a)に示すように、交流電源94を制御装置100によって制御可能とし、且つセンサ101によって気体速度や温度を検出して、その信号によって制御装置100が交流電源94を制御することにより、そのときの条件に対応して渦流の発生を防止することができるようになる。このときの制御信号としては、例えば図5(b)に示すように、 所定の狭い幅の交流パルスを図示の例では1/15秒間出力するようにし、更に図示の例ではその後13/30秒間休止してから同じ交流パルスを出力している。このような制御状態からより強いプラズマジェットを発生させようとするときには、例えば図5(c)に示すようにパルスの供給時間を多くするデューティー比制御を行うことにより対応することができる。
【0005】
表面プラズマは現在主として上記のような作動を行うアクチュエータとして利用することが研究されているが、その研究の過程で表面プラズマの特性が更に明らかになり、この表面プラズマアクチュエータは、電極の形状や配置により特有のプラズマジェットを発生させることができ、また、より広い分野のアクチュエータとして利用することが可能であることが明らかとなってきた。
【0006】
表面プラズマを発生させる表面側電極の形状と配置によって種々のプラズマジェットを発生させることができ、例えば図6(a)(b)のように絶縁体101の表面に互いに間隔をもって平行に第1表側電極102と第2表側電極103とを対向して配置し、裏面に設けた裏面側電極104との間に高電界を発生させると、表面側電極と裏面側電極の配置関係により、各表側電極の互いに対向する縁部から表面に平行に前記と同様のプラズマジェットが発生する。これらのプラズマジェットは各電極の中間部で衝突し、図6(b)に示すように絶縁体101の表面に垂直なプラズマジェット105が形成される。その際には周囲の気体は図示するように表面に直角に誘導される誘導気流106が発生する。
【0007】
その他例えば図6(c)(d)(e)に示すように、表面側電極を中心開口107を備えたリング状、或いは中心開口107を備えた四角形状の表面側電極108とし、裏面に設けた裏面側電極との間に高電界を発生させると、表面側電極と裏面側電極の配置関係により、表側電極108の中心開口107側の縁部から中心に向けてプラズマジェット109が表面に平行に発生する。このプラズマジェットは中心部において互いに衝突し、そこから直角に上方に向けて移動するプラズマジェット110が形成される。また、そのプラズマジェット120に誘導されて誘導気流111が表面に直角に発生することとなる。
【0008】
このように、電極の形状や配置により、種々のプラズマジェットを発生させることができ、これを前記のような翼の渦流発生制御による剥離防止作用を行わせるほか、更に各種のアクチュエータとして利用することが考えられる。
【0009】
なお、プラズマアクチュエータについては下記文献に詳細に記載されており、特に下記非特許文献3の技術は本発明者とによる論文であるが、ここでは500℃迄プラズマジェットの生成を確認している。
【非特許文献1】Roth, J. R., Sherman, D. M., and Wilkinson, S. P. (1998). Boundary layer flow control with a one atmosphere uniform glow discharge. AIAA Paper 98-0328, 36th Aerospace Sciences Meeting and Exhibit, Reno, Nevada.
【非特許文献2】Corke, T. C., Jumper, E. J., Post, M. L., Orlov, D., and McLaughlin, T. E. (2002). Application of weakly-ionized plasmas as wing flow-control devices. AIAA paper 2002-0350, 40th Aerospace Sciences Meeting & Exhibit, Reno, Nevada.
【非特許文献3】T. Segawa, H. Furutani, H. Yoshida, T. Jukes, K-S. Choi, (2007). Wall Normal Jet under Elevated Temperatures Produced by Surface Plasma Actuator, AIAA paper 2007-784, 45th Aerospace Sciences Meeting & Exhibit, Reno, Nevada.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような表面プラズマは、通常はほぼ1気圧、常温下での利用が考えられているが、例えばガスタービン等の実機への搭載に際しては、高温場で表面プラズマを発生させなければならないが困難であり、前記非特許文献3の論文に記載したように500℃程度までのプラズジェットの発生が確認されているに過ぎない。特にプラズマアクチュエータは高温になるにつれて性能が劣化することも確認されており、その要因の一つとして絶縁材料の絶縁性が温度と共に劣化することも本発明者等の研究により確認されている。その他、特に実用化に向けて問題となるのが電極の劣化である。
【0011】
即ち、高温場でプラズマを発生させようとすると、絶縁体として従来の樹脂・ポリマーを使用する場合と異なり、セラミック誘電体を用いることとなり、その表面にNiやMoなどの耐熱性金属の電極を貼り付けることとなるが、これらの電極とセラミック誘電体との熱膨張率の差が大きく、例えば冷却時に剥がれが生じてしまうこととなる。
【0012】
その対策として本発明者等によって、特願2006−323509号として出願した発明がある。この発明によると、個別の電極を互いに間隔を置いて1列に配置した第1電極列と、この第1電極列の互いに隣接する個別の電極を接続するように配置してなる個別の電極を、互いに間隔を置いて1列に配置した第2電極列とから電極を形成し、電極をフレキシブルとすることにより電極と絶縁材との熱膨張率の大きな差に追従できるようにしたものである。
【0013】
上記技術によって高温場でもある程度安定してプラズマジェットを発生する電極を形成することができるようになったものであるが、電極がむき出しになっているため、常に高温場にさらされ、高温気流を表面に受けると、不純物の衝突等によって劣化することも考えられ、更に高温場で不純物の混入した気流を受けても劣化せず、剥がれることなく、安定してプラズマジェットを発生することができる電極の開発が課題となっていた。
【0014】
したがって本発明は、例えば600℃以上の高温でも長期間安定してプラズマジェットを発生することができる電極を備えた高温場用表面プラズマアクチュエータを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る高温場用表面プラズマアクチュエータは、上記課題を解決するため、絶縁材を挟んで表面側電極と裏面側電極を設け、両電極に電圧を印可することにより表面側電極から表面プラズマを発生する表面プラズマアクチュエータにおいて、前記表面側電極と絶縁材の表面にコーディング層を形成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他の高温場用表面プラズマアクチュエータは、前記高温場用表面プラズマアクチュエータにおいて、前記コーティング層を多孔性としたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他の高温場用表面プラズマアクチュエータは、前記高温場用表面プラズマアクチュエータにおいて、少なくとも前記表面側電極は、絶縁材の表面に埋め込まれたものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る他の高温場用表面プラズマアクチュエータは、前記高温場用表面プラズマアクチュエータにおいて、前記表面側電極には、該表面側電極と絶縁材の表面に形成したコーティング層の一部を除去し、該除去部分に表面側電極に一端が接続し、他端がコーティング層から突出する突出電極を設けたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る他の高温場用表面プラズマアクチュエータは、前記高温場用表面プラズマアクチュエータにおいて、前記突出電極は、一端が表面側電極の端部と表面側電極を埋め込む絶縁材の表面側凹嵌部の内面とに嵌合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記のように構成したので、遮熱コーティング層によって絶縁材が保護され、高温による絶縁材の絶縁破壊を防止することができ、また電極が保護されるので不純物等の衝突による破損等を防止することができる。また絶縁材とこれに固定する表面側電極において、高温時と低温時の熱膨張差で表面側電極が絶縁材から剥がれることを防止することができるため、例えば600℃以上の高温でも長期間安定してプラズマジェットを発生することができ。特に遮熱コーティングを多孔性としたものにおいては、多孔性の遮熱コーティングを通して表面プラズマを発生させることができ、前記のような遮熱効果のほか断熱効果も向上し、より高温でも長期間安定してプラズマを発生することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、高温でも長期間安定してプラズマジェットを発生することができる電極を備えた高温場用表面プラズマアクチュエータとするという課題を、絶縁材を挟んで表面側電極と裏面側電極を設け、両電極に電圧を印可することにより表面側電極から表面プラズマを発生する表面プラズマアクチュエータにおいて、前記表面側電極と絶縁材の表面にコーディング層を形成することにより実現した。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の第1実施例を示し、図示実施例においてアルミナなどの耐熱性の絶縁材1を挟んで表面2に表面側電極3と裏面4に裏面側電極5とを、図示の例では互いに位置をずらして配置し、両電極に電源6を接続して両電極間に高電圧を印可する点は前記従来のものと同様である。図1に示す実施例においては特に高温にさらされ、表面プラズマが発生する表面側電極3を含む絶縁材1の表面2側全体に、ポーラス状の遮熱コーティング層7を設けている。
【0023】
ポーラス状の遮熱コーティング層7は、従来から広く用いられている種々の遮熱コーティング手法を用いて形成することができるが、例えばEB−PVD(Electron Beam Physical Vapor deposited )法[電子ビーム物理蒸着法]を用いることも有効である。コーティングする物質としても種々のものを用いることができ、耐熱絶縁材1と表面側電極3の両方に結合性の良い材料が好ましいが、例えば導電性の少ないアルミナ系材料を用いることができ、その他アルミナとシリカの複合材料であるムライト等も用いても良い。
【0024】
このようなEB−PVD法を用いると、遮熱コーティング層7が多孔性となり絶縁性が向上するとともに、断熱性も良く、電極への熱伝導が少なくなる。また、絶縁材1の熱保護も行うことができるため、絶縁材1の高温劣化や絶縁破壊の防止にも寄与することができる。またこの遮熱コーティング層7は、表面側電極3を表面側から絶縁材側に押さえる作用をなし、表面側電極3の剥がれを直接押さえることができると共に、表面を流れる気流に含まれる不純物が表面側電極3に直接衝突することを防止でき、表面側電極の損傷や破損、更にはそれによる剥がれを防止することもできる。
【0025】
特に遮熱コーティング層7が多孔性であることにより、表面側電極3における裏面側電極5に近い端部8を中心に発生する表面プラズマが、多孔性物質の細孔を通り、図示するように遮熱コーティング層7の表面に沿って噴出する。この表面プラズマを直接用いたアクチュエータとすることができるほか、従来と同様にこの表面プラズマにより誘導される誘導気流11を利用したアクチュエータとして用いることもできる。
【実施例2】
【0026】
本発明は更に例えば図2に示すような構成により実施することもできる。即ち、図2に示す例においては、アルミナ等の耐熱絶縁材21の表面22に表面側凹嵌部23を形成し、その表面側凹嵌部23内にその内面形状に適合する表面側電極24を埋め込む。図示実施例では同様に、耐熱絶縁材21の裏面25にも裏面側凹嵌部26を形成し、その裏面側凹嵌部26内にその内面形状に適合する裏面側電極27を埋め込む。
【0027】
なお、図2に示す例においては裏面側凹嵌部26を形成して内部に裏面側電極27を埋め込む例を示したが、この裏面側電極については前記図1と同様に耐熱絶縁材21の裏面5にそのまま固定しても良い。
【0028】
上記のような耐熱絶縁材21の表面22に形成した凹嵌部23内に前記のように表面側電極24を埋め込んだ後、耐熱絶縁材21の表面22と表面側電極24の表面全体に、前記実施例1と同様に多孔性の遮熱コーティング層28を形成する。この遮熱コーティング層の形成に際してはEB−PVD法を用いることができること、コーティングする物質としてアルミナ系材料やムライト等を用いることができる点は前記実施例と同様である。
【0029】
上記表面側電極24と裏面側電極27に電源29から高電圧を印加すると、表面側電極24における裏面側電極27に近い端部側の表面から表面プラズマが発生し、そのプラズマは多孔性の遮熱コーティング層28を通って図示するように遮熱コーティング層28の表面に沿って表面プラズマ30として噴出する。この表面プラズマ30を直接用いたアクチュエータとし、或いはこの表面プラズマにより誘導される誘導気流31を利用したアクチュエータとして用いることができることも前記実施例と同様である。
【0030】
このような構成を採用することにより、前記実施例と同様に多孔性で遮熱性の遮熱コーティング層28により断熱性が向上し、耐熱絶縁材21及び表面側電極24を周囲の高温の熱から保護することができる。特にこの実施例においては、前記実施例と比較して耐熱絶縁材21の表面は平坦となり、この表面を流れる流体に対する抵抗を減少させることができる効果がある。
【実施例3】
【0031】
前記実施例1及び2においてはいずれも遮熱コーティング層を多孔性とし、耐熱絶縁材と表面側電極の全体を覆うことにより、表面側電極から発生する表面プラズマを遮熱コーティング層の細孔を通して遮熱コーティング層の表面に噴出させる例を示したが、それ以外に例えば図3(c)に示すように、表面側電極44と一部が接し、更に他の一部が遮熱コーティング層48の表面56から突出する突出電極60を設けるように構成しても良い。
【0032】
この突出電極60は例えば図3(a)〜(c)のようにして形成することができる。即ち、最初同図(a)に示すようにアルミナ等の耐熱絶縁材41の表面42に表面側凹嵌部43を形成し、その表面側凹嵌部43内に図示の例ではその内面形状よりも小さな表面側電極44を埋め込む。それにより表面側凹嵌部43の内端面52と、表面側電極44の端面53との間に間隙54を形成している。この間隙54の間隔s1は任意に設定することができるが、後述するようにこの部分に突出電極60の下端部を嵌入して表面側電極44の端面53と通電可能に接触させるため、その機能を行わせることができる程度の間隔s1とする。
【0033】
このようにして一部に間隙54を備える耐熱絶縁材41の表面42と表面側電極44の表面全体に、前記実施例と同様に遮熱コーティング層48を形成する。このとき、間隔s1が比較的広く、また遮熱コーティング層48が薄いときにはこの間隙54の表面側には遮熱コーディング層48が形成されないこともありうるが、この部分には後述するような孔開け加工を施すので、特に問題とはならない。また、間隔s1が特に広いときには、間隙54内も遮熱コーティングが行われることもあり得るが、後述する孔開け加工時にこれを除去することもできる。
【0034】
次いで図3(b)のように、耐熱絶縁材41及び表面側電極40の表面全体に形成した遮熱コーティング層48における間隙54部分に対して、例えばレーザー等により孔開け加工を施す。それにより図3(b)の例では間隙54の部分を中心に、間隙54より大きな幅s2のコーティング除去溝55を形成し、表面側電極における表面への露出部とする。なお、ここに形成するコーティング除去溝55の幅は任意に設定することができ、またほぼ一点から表面プラズマを発生する態様の場合はこの部分を平面視円形のコーティング除去孔とすることもできる。また、前記のように間隙54が大きい等により間隙54内に遮熱コーティング層48が形成されたときには、このレーザ加工により同時に除去するようにしても良い。
【0035】
図3(b)のように加工された間隙54とコーティング除去溝55に対して、同図(c)に示すように下端部57が前記間隙54に嵌入し、中間部58が前記コーティング除去溝55に嵌合するとともに、頭部59がコーティング除去溝55より大きく形成されて遮熱コーティング層48の表面56から突出する突出電極60を固定する。その固定に際しては、例えば突出電極60の頭部59の下面と遮熱コーティング層48の表面56との間で接着により固定することができるが、その他突出電極60の下端部57を間隙54に圧入することによって固定する等、種々の態様で固定することができる。上記の例において突出電極60の頭部59はコーティング除去溝55より大きな幅に形成した例を示したが、コーティング除去溝55と同じ幅、或いはそれよりも狭い幅としても良い。
【0036】
突出電極60を形成するには更に種々の方法で実施することができ、例えば前記間隙54を形成することなく、図2と同様に絶縁材内に表面側電極を埋めた状態で表面にコーティング層を形成した後、表面側電極の端部近傍にコーティング層除去部を形成してその部分の表面側電極を露出させ、その露出部分に電極を溶接や溶着等により固定することによって突出電極を形成することもできる。
【0037】
このようにして遮熱コーティング層48の表面から突出電極60の頭部が突出した表面プラズマ発生体62が構成され、それに対して前記各実施例と同様に、表面側電極41と裏面側電極47に電源49から高電圧を供給すると、図3(d)に示すように、表面プラズマ61が発生する。また、この表面プラズマ61と、表面プラズマによって誘起される誘起気流によってアクチュエータ機能を行うことができるのは前記と同様である。
【0038】
上記のように、この実施例では遮熱コーティング層48の表面に表面側電極44の電極端子が突出電極60として表面から突出しているので、前記図1及び図2に示す実施例のように表面プラズマが遮熱コーティング層を透過する必要がないので、遮熱コーティング層48を多孔性にする必要が無くなり、従来から用いられている種々の遮熱コーティング材を用い、種々の手法によりコーティングを行うことができるため、安価な材料を用い、安価な手法で遮熱コーティング層を形成することが可能となる。ただし、多孔性としないことにより多孔性のものより断熱性に劣るため、両者のメリットとデメリットによってこの手法が採用され、あるいは他の手法が採用される。
【0039】
図4には本発明の作用を確かめるために行った、性能試験用の実験装置を示す。同図に示す装置においては、表面プラズマ発生装置の取り付け及び配線を容易にするため、直方体のブロック71の上端部を切り取って取付部材72を作成し、この取付部材72の第1端面73と上面74側に開口する取付溝75を形成している。
【0040】
この取付溝75に対して図示するように裏面側電極78、絶縁材79、表面側電極80を順に載置し接着する。このとき、取付溝75の深さ、絶縁材等の厚さの調節により、表面側電極80と取付部材72の上面74の高さが一致するように設定する。また、取付部材72の下面と第2端面81に解放するリード線挿入溝82を設け、このリード線挿入溝82の端部にリード線挿入溝82に通じるリード線挿入孔83を取付溝85の底面に開口させる。このリード線挿入溝82とリード線挿入孔83を通して、裏面側電極78に接続した第1リード線84を外部に導出している。また、表面側電極80に接続した第2リード線85については、取付部材72の上面74に沿って外部に導出している。但し、この第2リード線85については取付部材72の上面74に溝を形成し、溝内を通して外部に導出するようにしても良い。第1及び第2リード線は前記各実施例のように電源に接続し、高電圧を供給することは同様である。
【0041】
上記のように構成した後、絶縁材79及び表面側電極80の各表面側を主として、前記のような多孔性の遮熱コーティングを施したものを実験装置とした。これを600℃程度に加熱した状態で表面プラズマを発生させ、常温に戻した後同様の作動を繰り返した結果、従来のものでは電極に剥がれが生じ、また絶縁材の絶縁破壊が生じてプラズマの発生が減少していたのに対して、この装置では長期間安定して表面プラズマが発生することを確認できた。今後はこの装置の改良によって1000℃近くの高温場で冷却なしに正しく作動するアクチュエータの開発が可能となることが期待されている。
【0042】
上記のような本発明は、前記のような種々の実施例のほか更に各種の態様で実施することができ、また電極形状についても例えば図6に示す従来の態様のほか、本発明者等による先の出願に記載されているようなフレキシブル電極に対しても有効に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、高温場における流れの制御が可能な全ての機械、ガスタービンにおける燃料混合比の制御装置、マイクロガスタービンを含む各種のガスタービンにおけるタービン翼列への燃焼ガス入射角の制御装置、熱交換器における流体の混合・拡散促進装置等、広範囲の分野に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例を示す図である。
【図2】本配の他の実施例を示す図である。
【図3】本発明の更に他の実施例について、製造方法及び構成を示す図である。
【図4】本発明の実験装置の概要を示す図である。
【図5】表面プラズマ発生の概要を説明する図である。
【図6】従来の表面プラズマ発生装置の各種電極例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 絶縁材
2 表面
3 表面側電極
4 裏面
5 裏面側電極
6 電源
7 遮熱コーティング層
8 端部
9 表面プラズマ
10 表面
11 誘導気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材を挟んで表面側電極と裏面側電極を設け、両電極に電圧を印可することにより表面側電極から表面プラズマを発生する表面プラズマアクチュエータにおいて、
前記表面側電極と絶縁材の表面にコーディング層を形成したことを特徴とする高温場用表面プラズマアクチュエータ。
【請求項2】
前記コーティング層は多孔性であることを特徴とする請求項1記載の高温場用表面プラズマアクチュエータ。
【請求項3】
少なくとも前記表面側電極は、絶縁材の表面に埋め込まれたものであることを特徴とする請求項1記載の高温場用表面プラズマアクチュエータ。
【請求項4】
前記表面側電極には、該表面側電極と絶縁材の表面に形成したコーティング層の一部を除去し、該除去部分に表面側電極に一端が接続し、他端がコーティング層から突出する突出電極を設けたことを特徴とする請求項1記載の高温場用表面プラズマアクチュエータ。
【請求項5】
前記突出電極は、一端が表面側電極の端部と表面側電極を埋め込む絶縁材の表面側凹嵌部の内面とに嵌合することを特徴とする請求項4記載の高温場用表面プラズマアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−270110(P2008−270110A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114863(P2007−114863)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】