説明

高温環境用光ファイバセンサ

【課題】箱体で一体化されていて高温環境での使用にも適う光ファイバセンサを実現。
【解決手段】 箱体11と、一対のファイバ保持具20,30と、両保持具間に張られた部分が内部空間12に収容されその張設部分にFBG8aが形成されている光ファイバ8とを備え、ファイバ保持具20,30が離接方向への相対移動を許容する形で箱体11に装着されており、巻付部材からなるファイバ係止部21,31と被測定物に対する取付部26,36との間の中継部23〜25,33〜35に断熱材が組み込まれており、箱体11には冷却手段15が付設されている。中継部23〜25が上層断熱板23と中層連結板24と下層断熱板25とを具備し、ファイバ係止部21と中層連結板24とが上層断熱板23を挟んで断熱性締結具28にて連結され、中層連結板24と取付部26とが下層断熱板25を挟んで耐熱性締結具27にて連結される。ファイバ保持具30も同様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、FBG(Fiber Bragg Grating,ファイバ・ブラッグ・グレーティング,ブラッグ回折格子)を形成した光ファイバが歪み測定部材として組み込まれている光ファイバセンサに関し、詳しくは、歪みが集中的に生じる溶接箇所など局所的な歪を近傍域内で且つ高温環境下で測定するのに好適な高温環境用光ファイバセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバにFBGを形成し、その光ファイバを被測定物に張設して、張設範囲の歪を測定する技術が知られている(例えば特許文献1,5参照)。光ファイバに送光してFBGからの反射光を測りそのピーク波長のシフト量から歪みを算出するものである。
FBGを形成した光ファイバは折れやすく切れやすいので、巻付部材に巻き付けてから引っ張って支持するようになったものもある(例えば特許文献1,4参照)。巻付部材は円柱状や円筒状で縦置きか横置きで支持され、巻き量は半周もあれば数周もあるが、巻き方は右巻きであれ左巻きであれ総ての巻付部材で同じに向きになっている。
【0003】
金属部材の使用中にその表面歪を測定して金属部材のクリープ余寿命を予測する方法が知られており(例えば特許文献2参照)、火力発電用ボイラ高温蒸気配管の溶接部の歪を長時間計測できる歪計や歪測定装置も開発されている(例えば特許文献3,非特許文献1参照)。これは、スライド式静電容量型ひずみ計と呼ばれ、測定対象物の歪に応じて第二電極が第一電極の内側へ進退移動することにより、コンデンサの静電容量が変化するのを利用して歪みを測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−513806号公報
【特許文献2】特開2007−303980号公報
【特許文献3】特開2007−315853号公報
【特許文献4】特開2008−224635号公報
【特許文献5】特願2008−132549号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】西田秀高著「高温ひずみ計によるクリープ損傷オンラインモニタリングシステムの開発」日本機械学会論文集(A編)75巻753号(2009−5)p.148−150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したスライド式静電容量型ひずみ計は、加工や組立ばかりか取付にも高い精度が求められるため、コストダウンが難しいうえ、取付先の形状や状態が制約されるので、適用範囲も限定されがちである。
これに対し、FBGを形成した光ファイバを歪み測定部材として用いれば、そのような不都合はなく、光ファイバやファイバ保持具を箱体・筐体にて纏めて一体化・ユニット化すれば、光ファイバを保護しつつ取り扱い易くすることができる。
【0007】
しかしながら、光ファイバは、耐熱温度があまり高くないため、そのままでは高温環境下で使用できない。例えば、上述した火力発電用ボイラ高温蒸気配管などのように、被測定物の表面温度が600℃を超える高温になる場合、被測定物に従来の遣り方で取り付けたのでは、長期間の歪測定に耐えられない。
そこで、箱体で一体化するに際して高温環境での使用にも適うように、高温環境用光ファイバセンサの構造を工夫することが、技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、内部空間を囲う箱体と、ファイバ係止部が前記内部空間に収まっており且つ被測定物への取付部が前記箱体の外に出ている一対のファイバ保持具と、前記両ファイバ係止部間に張られた部分が前記内部空間に収容されており且つその部分にFBGが形成されている光ファイバとを備えた高温環境用光ファイバセンサであって、前記両ファイバ保持具が前記光ファイバの伸縮に基づく歪測定を可能とする範囲で離接方向への相対移動を許容する形で前記箱体に装着されており、前記ファイバ保持具それぞれにおいて前記ファイバ係止部と前記取付部との間の中継部に断熱材が組み込まれており、前記箱体には冷却手段が付設されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段2)、上記解決手段1の高温環境用光ファイバセンサであって、前記中継部が上層断熱板と中層連結板と下層断熱板とを具備したものであり、前記ファイバ係止部と前記中層連結板とが(直に又は他部材の介在にて間接的に)前記上層断熱板を挟んで断熱性締結具にて連結され、前記中層連結板と前記取付部とが(直に又は他部材の介在にて間接的に)前記下層断熱板を挟んで耐熱性締結具にて連結され、前記断熱性締結具は前記耐熱性締結具よりも断熱性に優れており、前記耐熱性締結具は前記断熱性締結具よりも耐熱性に優れており、前記中層連結板における前記断熱性締結具の位置と前記耐熱性締結具の位置とが離隔していることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段3)、上記解決手段1,2の高温環境用光ファイバセンサであって、前記取付部から前記箱体を迂回して前記冷却手段に至る熱流路を形成する迂回伝熱部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段4)、上記解決手段1〜3の高温環境用光ファイバセンサであって、前記内部空間が粘液で満たされていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段5)、上記解決手段1〜4の高温環境用光ファイバセンサであって、前記冷却手段が、前記内部空間に流体を流す強制冷却手段を含んでいることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段6)、上記解決手段5の高温環境用光ファイバセンサであって、前記冷却手段が、前記強制冷却手段に加え、外気に触れる多数の放熱フィンを具備した放熱部材も含んでいて、何れも着脱可能になっていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサは(解決手段7)、上記解決手段1〜6の高温環境用光ファイバセンサであって、前記取付部が前記箱体に関して可動部材になっていて、前記被測定物の歪発生部に対する前記箱体の向きを変えても前記取付部を反対側に動かすことにより前記歪発生部に対する前記取付部の向きは同じに維持されるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段1)、被測定物の歪発生部で生じた歪が離接方向相対移動可能な両ファイバ保持具と張設状態の光ファイバとを介してFBGに伝わるので、その歪が測定可能となる。また、両ファイバ保持具が歪発生部の両側に分かれていれば離隔距離は比較的自由でかなり小さくすることも可能である。さらに、各部材を箱体にて一体化したことにより、現場での設置作業が容易かつ迅速に行えることとなる。そして、このような高温環境用光ファイバセンサは、溶接部などの局所的な歪を近傍域内で測定するのに適した態様でFBG形成済み光ファイバを組み込んだものとなる。
【0016】
また、ファイバ保持具には箱体の内側のファイバ係止部と箱体の外側の取付部との間の中継部が介在しているが、その中継部には断熱材が組み込まれているので、被測定物からファイバ保持具に流入してからファイバ保持具において取付部から中継部を経てファイバ係止部へ向かう熱の流れが、断熱材によって抑制される。しかも、ファイバ係止部を収容している箱体には冷却手段が付設されていて、箱体からは効率良く熱が流出する。そして、それらが相まって、箱体の中へ流れ込む総熱量が小さく抑えられる。これにより、被測定物が高温になっても、歪み測定に供される光ファイバ及びFBGは適温に保たれる。
したがって、この発明によれば、箱体で一体化されていて高温環境での使用にも適う高温環境用光ファイバセンサを実現することができる。
【0017】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段2)、ファイバ保持具の中継部に断熱材を組み込むに際して、断熱材を上層断熱板と下層断熱板との上下二層に分けたうえで、その中間層に中層連結板を介在させ、高温になる取付部に寄っている下層断熱板は耐熱性締結具にて連結した中層連結板と取付部とで挟みつけて固定するとともに、高温にはならないファイバ係止部に寄っている上層断熱板は断熱性締結具にて連結して中層連結板とファイバ係止部とで挟みつけて固定している。このような間接的な締結により直接締結に不向きな断熱材を簡便な締結にて固定するとともに、耐熱性締結具だけでは断熱性能が不足し断熱性締結具だけでは耐熱性が不足するのに対して両締結具を適材適所に配したことにより締結具の貫通による断熱材の機能不全化が防止される。
【0018】
しかも、そのような多層構造と締結構造を中継部に採用したファイバ保持具では、取付部から中継部を経てファイバ係止部へ向かう熱の流れが、下層断熱板と中層連結板と上層断熱板とを貫く最短経路を従たる熱流路にとどめ、耐熱性締結具と中層連結板と断熱性締結具とを繋ぐ経路を主たる熱流路とする。そして、この主熱流路では、途中の中層連結板にて経路が曲げられて経路長が長くなって伝熱の抵抗が増すうえ、経路が小断面の締結具から中層連結板の板面全域に広げられて伝熱と共に熱が拡散するため、中層連結板における耐熱性締結具から断熱性締結具への伝熱の過程でも相当の降温が期待できる。
これにより、耐熱性締結具を用いて断熱板を固定しても、ファイバ保持具が不所望に高くなるのを回避することができるので、その結果、箱体で一体化されていて高温環境での使用にも適う小形の高温環境用光ファイバセンサを簡便に実現することができる。
【0019】
さらに、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段3)、被測定物から取付部を介して冷却手段に至る熱の主な流れが、取付部から箱体を介して冷却手段に至る熱流路だけでなく、取付部から箱体を迂回して冷却手段に至る熱流路をも流れる。このように熱流路を分岐させて箱体に流れ込む熱量を減らしたことにより、箱体の内部空間の中の光ファイバ及びFBGの不所望な昇温を良く抑制することができる。
【0020】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段4)、両ファイバ係止部間に張られた光ファイバ部分の揺れや振れが粘液の粘性抵抗により抑制されるので光ファイバが折切しにくいうえ、一般に空気より液体の方が伝熱性に優れているので、冷却手段の付設された箱体を介して光ファイバ及びFBGが良く冷却されることとなる。
【0021】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段5)、箱体の内部空間に流体を流すことにより、そこに収容されている光ファイバ及びFBGが直接的かつ強制的に冷却されるので、かなり高温の環境の中でも不都合なく使用することができる。
【0022】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段6)、流体による強制冷却手段を使用するか否かも、フィンによる放熱を使用するか否かも、着脱にて簡便に選択できるので、被測定物の形状や周囲の温度などに応じて適当な冷却方式が使い分けられる。
【0023】
また、本発明の高温環境用光ファイバセンサにあっては(解決手段7)、箱体で一体化されていても、設置に際して被測定物への取り付け向きを変えるのが自在にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1について、高温環境用光ファイバセンサの構造を示し、(a)が全体の縦断面図、(b)がファイバ保持具の縦断面図、(c)及び(d)がファイバ保持具の斜視図である。
【図2】上記光ファイバセンサの使い方を示し、(a)が被測定物に取り付けたところの側面図、(b)がその正面図、(c)が要部だけの平面図である。
【図3】本発明の実施例2について、光ファイバセンサの縦断面図である。
【図4】本発明の実施例3について、光ファイバセンサの縦断面図である。
【図5】本発明の実施例4について、光ファイバセンサの構造を示し、(a),(b)何れも縦断面図である。
【図6】本発明の実施例5について、高温環境用光ファイバセンサの構造や使い方を示し、(a)がファイバ保持具の縦断面図、(b)がファイバ保持具の下半分の縦断面図、(c)及び(d)がファイバ保持具の中継板の平面図、(e)が全体の斜視図、(f)が要部だけの平面図である。
【図7】本発明の実施例6について、高温環境用光ファイバセンサの巻付部材の構造例を幾つか示しており、(a)が一溝形の巻付部材の正面図と断面図、(b)が対をなす二溝形の巻付部材の正面図、(c)が対をなす螺旋溝形の巻付部材の正面図である。
【図8】本発明の実施例7について、光ファイバの巻付部材への取付構造を示し、(a)が平面図、(b)が斜視図、(c),(d)が平面図、(e),(f)が溝部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
このような本発明の高温環境用光ファイバセンサについて、これを実施するのに好適な幾つかの実施形態を説明する。
実施形態1の高温環境用光ファイバセンサは、前記ファイバ保持具が巻付部材の周面に前記光ファイバを巻き付けた状態で張ることにより光ファイバを保持するものであり、両巻付部材に対する前記光ファイバの巻き方が一方は右巻きで他方は左巻きの逆巻きになっている、というものである。
【0026】
この場合、光ファイバは、巻付部材の周面に巻き付けられて張られているので、両巻付部材を近づけて設置しても、光ファイバに無理な曲げ力や引っ張り力が掛かる可能性は設置時も設置後も小さい。しかも、両巻付部材で光ファイバが逆巻きになっているので、両巻付部材を単純に歪方向へ離しておく基本的な配置状態でさえ自然に光ファイバと歪拡大方向とが斜交する。そのため、歪発生部の歪量がそのまま光ファイバの歪量になるのでなく、光ファイバには射影成分に低減された歪が生じるだけなので、両巻付部材を接近させて配置せざるを得ないような場合でも、両巻付部材の近接配置による光ファイバの歪の過大化を回避できる余地が広い。
【0027】
また、実施形態2の高温環境用光ファイバセンサは、前記巻付部材の周面に前記光ファイバの巻き付け位置を規定する溝が形成されている、というものである。
この場合、溝で光ファイバの巻き付け位置が案内されるので巻付作業が遣りやすいうえ、巻き付けた光ファイバが溝で移動を規制されて安定する。
【0028】
さらに、実施形態3の高温環境用光ファイバセンサは、前記巻付部材の周面に対する前記光ファイバの巻き付け部分が接着にて固定され、その接着程度が接着始端から徐々に若しくは段階的に又は間欠的に上がっている、というものである。
また、実施形態4の高温環境用光ファイバセンサは、前記接着程度の上がるのが、接着剤の接着力の強弱と接着剤の弾性率の大小と接着剤の塗布幅の拡縮と接着剤の断面積の増減とのうち何れか一つ又は複数のものによって実現されている、というものである。
【0029】
また、実施形態5の高温環境用光ファイバセンサは、前記巻付部材の周面に対する前記光ファイバの巻き付け部分が、前記周面に8分の1周以上巻き付いてから接着にて固定されている、というものである。
これらの実施形態3〜5の場合、光ファイバの巻き付け部分を巻付部材の周面に対して接着にて止めるに際し、巻付始端からいきなり固く止めるのでなく、最初は緩くて途中から固くなるようにしたことにより、周面巻付によるファイバの折損防止機能・切断防止機能が更に高まることとなる。
【0030】
このような解決手段や実施形態からなる本発明の高温環境用光ファイバセンサについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜7により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図3に示した実施例2や,図4に示した実施例3は、上述した解決手段3〜4(出願当初の請求項3〜4)を具現化したものであり、図5に示した実施例4は、上述した解決手段5〜6(出願当初の請求項5〜6)を具現化したものであり、図6に示した実施例5は、上述した解決手段7(出願当初の請求項7)を具現化したものであり、図7の実施例6や図8の実施例7は、上記実施形態を具現化した変形例である。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、仮止め部材や治具等の一時的部材,高温環境用光ファイバセンサを使用する測定器,冷却用流体を供給する冷却ユニットなどは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【実施例1】
【0031】
本発明の高温環境用光ファイバセンサの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が高温環境用光ファイバセンサ10全体の縦断面図、(b)がファイバ保持具20,30の縦断面図、(c)及び(d)がファイバ保持具30の斜視図である。
【0032】
高温環境用光ファイバセンサ10は、歪み測定のためにFBG8aが形成されている光ファイバ8と、それを両側から引っ張るようにして歪み測定可能に保持する一対のファイバ保持具20,30と、それらを纏めて一体化するとともに光ファイバ8及びFBG8aを囲って保護する箱体11と、高温環境下で過熱から光ファイバ8及びFBG8aを保護するために組み込まれた断熱材(17,23,25,33,35)及び冷却手段(15)とを具備している。断熱材には或る程度の剛性を具えた例えばケイ酸カルシウム板が用いられる。
【0033】
光ファイバ8は、FBG8aを形成できて歪測定に適したものであれば市販の汎用品でも特注品でも良く、例えばガラス製の光ファイバ裸線にプラスチック被覆を強接着した光ファイバ素線で良く、典型的な直径は245μm〜250μmであるが、それより細くても太くても良い。FBG8aは、標準温度かつ無歪み状態でピーク波長(反射光のスペクトル中心波長)が例えば1540nmになるものが形成され、一つだけでも間に合うが、複数形成する場合はピーク波長が例えば1535nmや1545nmなど適宜ずらされる。
【0034】
箱体11は、光ファイバ8のうち歪み測定に供される張設ファイバ部分とそこに形成されているFBG8aを収容するための内部空間12を囲っており、例えば、頑丈で熱伝導性の良いアルミニウム等の金属を機械加工して作られた下側の底板と横四方の側板と天板とからなり、箱形に組み立てられている。箱体11の底板には、ファイバ保持具30を遊挿させるための貫通穴13が穿孔形成されている。貫通穴13の形成位置は箱体11の底板において片寄っており、箱体11の底板において貫通穴13の形成されていない方にはファイバ保持具20が取り付けられるようになっている。この箱体11の典型的サイズは70mm×132mm×40mmであるが、それより小さくても大きくても良い。
【0035】
両ファイバ保持具20,30は、箱体11の底板を取り込んで箱体11に固定されているファイバ保持具20と、箱体11の貫通穴13に遊挿されて箱体11に対して可動部材となっているファイバ保持具30とに分かれ、それらがほぼ平行に並んだ状態で立っている。ファイバ保持具20は、ファイバ係止部である巻付部材21と、箱体11の底板と、断熱材からなる上層断熱板23と、締結と耐熱に適う例えばステンレス製の中層連結板24と、断熱材からなる下層断熱板25と、被測定物1に溶接等で固定される取付部26とを、上から下へその順に並べて連結したものである。そのうち上層断熱板23と中層連結板24と下層断熱板25が、巻付部材21と取付部26との中継部となっている。
【0036】
ファイバ保持具30も概ね同様であるが、箱体11の底板でなく延長部32が組み込まれている。すなわち、ファイバ保持具30は、ファイバ係止部である巻付部材31と、それを下方へ延長して貫通穴13に遊挿される延長部32と、断熱材からなる上層断熱板33と、締結と耐熱に適う例えばステンレス製の中層連結板34と、断熱材からなる下層断熱板35と、被測定物1に溶接等で固定される取付部36とを、上から下へその順に並べて連結したものである。そのうち上層断熱板33と中層連結板34と下層断熱板35が、巻付部材31と取付部36との中継部となっている。
【0037】
このような両ファイバ保持具20,30にあっては、両巻付部材21,31(ファイバ係止部)が内部空間12に収まっているのに対し、両取付部26,36は箱体11の外に出ていて被測定物1に取り付けられるようになっており、しかもファイバ保持具30が貫通穴13に遊挿されていてその遊びの範囲内なら両ファイバ保持具20,30の離接方向への相対移動が許容されるようにもなっているので、被測定物1のうち両取付部26,36の間の部分(歪発生部4)が歪んで伸縮すると、それに応じて両ファイバ保持具20,30の離隔距離が変化する。この離隔距離の変化が両ファイバ保持具20,30にて張られた光ファイバ8に及んでその張設ファイバ部分とそこのFBG8aも伸縮し、この伸縮に基づいて歪測定がなされるので、その測定を可能にするよう箱体11の底板の貫通穴13におけるファイバ保持具30の延長部32の遊びの上下限が決められている。
【0038】
巻付部材21と巻付部材31は、何れも、光ファイバ8に無理のかからない穏やかな曲率で光ファイバ8を巻付けられる外周面が形成されたものであり、そのような周面が形成されていれば、円柱状部材でも、円筒状部材でも、環状部材でも、良い。外周面の横断面形状も、円形に限らず、楕円形でも、長円形でも、卵形でも、良い。金属製でも、非金属製でも良い。典型的な直径を挙げると30mm〜40mm程度であるが、計器が測定可能な光強度を得られる程度の曲率より太ければ良い。
両巻付部材21,31が内部空間12に収められ、光ファイバ8が両巻付部材21,31の間に張られているので、その張設ファイバ部分は内部空間12に収容されている。
【0039】
また、その張設ファイバ部分にFBG8aが形成されているので、FBG8aも内部空間12に収容されている。
さらに、巻付部材21に対する光ファイバ8の巻き方と巻付部材31に対する光ファイバ8の巻き方が逆巻きになっている。具体的には、光ファイバ8を一方から他方へ巻き進めるとして、例えば、一方の巻付部材21には右巻き即ち平面視では時計回りで光ファイバ8を巻付けたら、他方の巻付部材31には左巻き即ち平面視では反時計回りで光ファイバ8を巻付ける、といったことで逆巻きが実現されている。これにより、両ファイバ保持具20,30の離接方向(すなわち被測定物1の歪発生部4の歪方向)と張設ファイバ部分の方向とが平面視で斜交して、該当部分の光ファイバ8の長さが両巻付部材21,31の離隔距離より長くなっている。
【0040】
両取付部26,36は、いずれも、肉盛り溶接などで被測定物の表面に固定しやすいよう、例えば金属製で角度の広い楔状に形成されている。
巻付部材21と取付部26との中継部23〜25は、箱体11の外に出ており、そこでは、箱体11の底板のうち巻付部材21を固定された部分と中層連結板24とが上下から上層断熱板23を挟んで断熱性締結具28にて連結され、中層連結板24と取付部26とが上下から下層断熱板25を挟んで耐熱性締結具27にて連結されている。中層連結板24における断熱性締結具28の位置と耐熱性締結具27の位置は離隔している。
【0041】
巻付部材31と取付部36との中継部33〜35も、箱体11の外に出ており、そこでは、巻付部材31を下方へ延長した延長部32と中層連結板34とが上下から上層断熱板33を挟んで断熱性締結具38にて連結され、中層連結板34と取付部36とが上下から下層断熱板35を挟んで耐熱性締結具37にて連結されている。中層連結板34における断熱性締結具38の位置と耐熱性締結具37の位置も離隔している。
断熱性締結具28,38には断熱性重視で熱伝導率の特に小さな例えば樹脂製ボルトが採用され、耐熱性締結具27,37には耐熱性と強度を兼備したなかでは比較的熱伝導率の小さな例えばセラミック製ボルトが採用されて、断熱性締結具28,38は耐熱性締結具27,37よりも断熱性に優れたものとなり、耐熱性締結具27,37は断熱性締結具28,38よりも耐熱性に優れたものとなっている。
【0042】
箱体11の上には、伝熱性と強度と兼備した例えば金属製の天板16が載せられ、さらに、その天板16の上には、外気に触れる多数の放熱フィンを具備した放熱部材15が載せられ、それらが例えば適宜な止めネジ等で箱体11に固定されている。このような放熱部材15は、天板16を介して箱体11に付設された冷却手段となっている。また、箱体11の外側面は四方とも断熱材からなる外側部材17で覆われており、外側部材17は天板16と下方の底板18とで上下から挟んで保持されている。なお、外側部材17や箱体11の側板を貫いて、光ファイバ8の両端が、箱体11の外へ引き出されている。
【0043】
この実施例1の高温環境用光ファイバセンサ10について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図2は、(a)が高温環境用光ファイバセンサ10を被測定物1に取り付けたところの側面図、(b)がその正面図、(c)が要部だけの平面図である。
【0044】
高温環境用光ファイバセンサ10は、図示しないFBG光スペクトラム解析装置の歪測定用センサとしてその解析装置に接続されるとともに、歪測定の対象である被測定物1〜3に取り付けて用いられる
被測定物1は、安価な板巻き溶接管を火力発電用のボイラ配管に採用した高温蒸気配管が典型例であり、一方側2と他方側3とが歪発生部4を挟んで両側に分かれている。歪発生部4は、歪の生じやすい溶接部であり、直線状や曲線状に延びていて、その直交方向・幅方向が主たる歪方向になっている。
【0045】
使用に先立ち、被測定物1の仕様や設置状況から被測定物1に対する高温環境用光ファイバセンサ10の設置条件が定まり、その条件によって巻付部材21と巻付部材31との離隔距離の下限と上限とが定まり、その条件を満たす範囲内の離隔距離で歪発生部4の両側に分かれて両ファイバ保持具20,30が設置される。
具体的には、ファイバ保持具20の取付部26が歪発生部4の一方側2に溶接で固定され、ファイバ保持具30の取付部36が歪発生部4の他方側3に溶接で固定される。
【0046】
両ファイバ保持具20,30は接近しているが、両巻付部材21,31に対する光ファイバ8の巻き付け方が逆巻きなので、光ファイバ8のうち両巻付部材21,31間に張られた部分とその離接方向に合わせられた歪発生部4の歪方向とが平面視で斜交して(図2(c)参照)、該当部分の光ファイバ8の長さが両巻付部材21,31の離隔距離より長くなる。そのため、両巻付部材21,31間に張られた光ファイバ8ひいてはそこのFBG8aに生じる歪みは、歪発生部4に生じる歪みと同じではなく斜交角度に対応した射影成分に低減される。
【0047】
こうして高温環境用光ファイバセンサ10が被測定物1に取り付けられたら、光ファイバ8を光コネクタ等で図示しないFBG光スペクトラム解析装置に接続して送受光を行わせ、歪を測定する(例えば特許文献4や特許文献5参照)。歪発生部4が横幅を広げる態様で歪む場合は、すなわち線状の歪発生部4が割れるかのように横幅拡大態様で歪むだけの場合は、センサ組み立て段階で巻付部材21,31間の光ファイバ8を弛まないよう張っておけば歪測定を継続することができるが、歪発生部4の横幅が縮むこともある場合は、センサ組み立て段階で予め巻付部材21,31間の光ファイバ8に適度な例えば0.5%程度の伸びを付与しておけば歪測定を継続することができる。
【0048】
こうして、被測定物1の歪発生部4の歪みが高温環境用光ファイバセンサ10を用いて長時間に亘って検出されるが、光ファイバ8が巻付部材21,31の周面に巻き付けられて張られているので、両巻付部材21,31が近接設置されていても、光ファイバ8に無理な曲げ力や引っ張り力が掛かることがない。しかも、両巻付部材21,31で光ファイバ8が逆巻きになっているため、光ファイバ8の張設方向と歪発生部4の歪方向とが平面視で斜交していて、光ファイバ8に生じる歪が射影成分に低減されるので、両巻付部材21,31が近接設置されていても、その割には光ファイバ8の歪が過大にならない。そのため、両巻付部材21,31を寄せて、高温環境用光ファイバセンサ10を小形化しても、容易かつ的確に歪を測定することができる。
【0049】
また、被測定物1が高温になると、被測定物1から両ファイバ保持具20,30に熱が伝えられて両取付部26,36も高温になるが、光ファイバ8やFBG8aの温度が歪み測定に支承がでるほど高くなることはない。すなわち、被測定物1から両取付部26,36に流入した熱は、下層断熱板25,35を介して中層連結板24,34には少ししか伝わらず、耐熱性締結具27,37を介して中層連結板24,34に伝わる方が多いが、耐熱性締結具27,37によって熱流束が細く絞られているため、熱流量は比較的少ない。しかも、耐熱性締結具27,37から中層連結板24,34の全域に広がるときに熱が拡散するので、中層連結板24,34では、耐熱性締結具27,37から離れるにつれて温度が下がるが、その降下したところに断熱性締結具28,38が位置している。
【0050】
そして、中層連結板24,34より上方でも、中層連結板24,34から上層断熱板23,33を介して箱体11更には巻付部材21や延長部32更には巻付部材31に伝わる熱量に比べて、中層連結板24,34から断熱性締結具28,38を介して両巻付部材21,31に伝わる熱量の方が多くなるが、ここでも断熱性締結具28,38によって熱流束が細く絞られているため熱流量が多くないうえ、断熱性締結具28,38は断熱性に優れているので、上に行くほど温度は急激に低下する。しかも、そうして箱体11側に流入した熱が放熱部材15によって更に上方へ取り去られているうえ、四方の側面から箱体11に流れ入ろうとする熱も外側部材17によって流入が断たれる。そのため、箱体11の内部空間12に収まっている光ファイバ8やFBG8aは、温度が歪み測定に叶う範囲内に何時も維持される。
【実施例2】
【0051】
図3に縦断面図を示した本発明の高温環境用光ファイバセンサ40が上述した実施例1の高温環境用光ファイバセンサ10と相違するのは、箱体11に粘液44が充填されて内部空間12が粘液44によって満たされている点と、粘液44の漏れを防止するシール部材としてパッキン41が追加された点と、熱流路を分岐させて冷却性能を向上させるため耐熱性締結具27,37より熱伝導率の大きい迂回伝熱部材42,43が追加された点と、放熱部材15から一部の放熱部材15a,15bが切り離された点である。
【0052】
粘液44は、例えばJIS K2220−2003規定の混和ちょう度が310〜340(l/10mm)程度の適度な粘性を示す液体であり、好適な例としてはシリコングリースやベントングリースが挙げられる。
パッキン41は、貫通穴13を封止するものであり、粘液44と同程度の耐熱性があれば市販のOリングで足りる。図示は割愛したが、箱体11の側板のファイバ挿通穴も適宜なガスケット等のシール部材で封止されている。
【0053】
放熱部材15は箱体11の天板に連結されているが、放熱部材15a,15bと箱体11との間には、外側部材17を箱体11の天板上に延長した断熱材が介在している。
迂回伝熱部材42は、耐熱性にも伝熱性にも優れた例えば金属製ボルトであり、外側部材17を貫通して放熱部材15aと取付部26とを連結することにより、取付部26から箱体11を迂回して冷却手段のうち専用の放熱部材15aに至る熱流路を形成する。
迂回伝熱部材43も、耐熱性と伝熱性を兼備したものであり、別部位の外側部材17を貫通して放熱部材15bと取付部36とを連結することにより、取付部36から箱体11を迂回して冷却手段のうち専用の放熱部材15bに至る熱流路を形成している。
【0054】
この場合、箱体11に固定されているファイバ保持具20の取付部26に係合する迂回伝熱部材42は緊結合しても良いが、箱体11に固定されていないファイバ保持具30の取付部36に係合する迂回伝熱部材43はファイバ保持具30の移動を妨げない程度に緩く取付部36と結合していて外側部材17の脱落防止と熱流迂回に専念する。このように迂回伝熱部材42,43が取付部36の移動を妨げないうえ、パッキン41も巻付部材31の横移動を妨げないので、両ファイバ保持具20,30の相対移動に基づく歪み測定は上述したのと同様にして適切に行われる。
【0055】
また、迂回伝熱部材42,43の導入により、被測定物1から取付部26,36を介して放熱部材15,15a,15bに至る熱の流れが分岐するうえ、取付部26,36から中継部23〜28,33〜38と箱体11を介して放熱部材15に至る熱流路を流れる熱量は少なくなり、取付部26,36から迂回伝熱部材42,43を通ることにより箱体11を迂回して放熱部材15a,15bに至る熱流路を流れる熱量の方が多くなる。
このように熱流路を分岐させて箱体11に流れ込む熱量を減らしたことにより、箱体11の内部空間12の中の光ファイバ8及びFBG8aの不所望な昇温を良く抑制することができる。換言すると、同程度の昇温を許すなら、より小形にすることができる。
【0056】
さらに、箱体11の内部空間12への粘液44の充填により、被測定物1に高温環境用光ファイバセンサ40を設置する作業時やその後に、高温環境用光ファイバセンサ40に打撃等の衝撃を与えたとしても、光ファイバ8が、粘液44の中に入っているため、振れにくく、振れても直ぐに収まるので、折損や破損することはめったにない。
しかも、粘液44の熱伝達によって箱体11の内部温度が両巻付部材21,31も含めて均一化されるので、不所望な局所的昇温まで防止されることとなる。
【実施例3】
【0057】
図4に縦断面図を示した本発明の高温環境用光ファイバセンサ45が上述した実施例2の高温環境用光ファイバセンサ40と相違するのは、迂回伝熱部材42の係合先が取付部26から中層連結板24に替わった点と、迂回伝熱部材43の係合先が取付部36から中層連結板34に替わった点である。熱流路の分岐点が両取付部26,36から中層連結板24,34に変更されているが、両取付部26,36から箱体11を迂回して放熱部材15a,15bに至る熱流路が迂回伝熱部材42,43によって形成されていることに変わりはなく、高温環境下でも不都合なくFBG利用の歪み計測を継続することができる。
【0058】
なお、各部材の熱伝導率は、迂回伝熱部材42,43が最も大きく、次ぎに耐熱性締結具27,37が大きく、断熱性締結具28,38が小さく、断熱材17,23,25,33,35が最も小さくなっているのが望ましい。そのような条件を満たす材質の具体例を挙げると、迂回伝熱部材42,43にはSCM435を採用し、耐熱性締結具27,37にはセラミックス(例えばジルコニアやアルミナ)を採用し、断熱性締結具28,38には耐熱樹脂(例えばポリベンゾイミダゾール)を採用し、断熱材17,23,25,33,35にはケイ酸カルシウム板を採用すると良い。
【実施例4】
【0059】
本発明の高温環境用光ファイバセンサの実施例4について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図5は、(a),(b)何れも縦断面図であり、(a)が放熱部材15を選択した状態、(b)が強制冷却を選択した状態を示している。
【0060】
この高温環境用光ファイバセンサ50が上述した実施例1の高温環境用光ファイバセンサ10と相違するのは、箱体11の内部空間12に流体を流して通過させる強制冷却手段(52,53,55,56)が追加された点と、流体の流入出を止める盲栓51が装着可能になっている点と、底板18と被測定物1との間にも断熱材54が介挿されている点である。
なお、流体の漏れ防止のためパッキン41等が設けられている点は、上述した実施例2の高温環境用光ファイバセンサ40と同様である。
【0061】
断熱材54は、高温環境用光ファイバセンサ50を被測定物1に取り付けた後で付加的に追加されるものなので、現場合わせの容易な例えばケイ酸カルシウム板が良い。
強制冷却手段は、箱体11の一側方に穿孔形成されて内外貫通している流入孔52と、箱体11の他側方に穿孔形成されて内外貫通している流出孔53と、流入孔52に接続された送給管55と、流出孔53に接続された排出管56とからなり、図示しない別体の冷却ユニットから送給管55を介して冷却用の流体を供給されると同時に排出管56から流体を排出して送り返すようになっている。
【0062】
この場合、箱体11の内部空間12を流体が通過するのに連れて、そこの熱が流体によって強制的に取り去られる。そして、内部空間12に収容されている両巻付部材21,31も光ファイバ8の張設ファイバ部分もFBG8aも、流体に触れる部材は総て、直接的かつ強制的に冷却される。しかも、断熱材54の存在により底板18に流入する熱量も低減される。
そのため、この高温環境用光ファイバセンサ50は、かなり高温の環境の中でも不都合なく使用することができる。
【0063】
また、強制冷却の不要なときには、送給管55と排出管56を取り外し、流入孔52と流出孔53に盲栓51を装着して、そこを塞いでおけば良い。その際、内部空間12を空にして空気で満たせば高温環境用光ファイバセンサ50が高温環境用光ファイバセンサ10と同等品になり、内部空間12に粘性流体を満杯に残せば、上述した粘液44の作用効果まで享受することができる。さらに、放熱部材15もネジ止め等で着脱容易にしておけば、放熱部材15による安価で簡便な冷却手段も選択可能になるため、流体を利用した強力な強制冷却手段が選択可能なことと合わせると、何れか適当な冷却手段の単独採用も異質な冷却手段の併用も可能なので、応用目的や価格制約などに応じて最適の冷却手段を用いることができる。
【実施例5】
【0064】
本発明の高温環境用光ファイバセンサの実施例5について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図6は、(a)がファイバ保持具20,30の縦断面図、(b)がファイバ保持具20,30の下半分の縦断面図、(c)及び(d)がファイバ保持具20,30の中継板24,34の平面図、(e)が全体の斜視図、(f)が要部だけの平面図である。
【0065】
この高温環境用光ファイバセンサが上述した実施例のものと相違するのは、現場でも簡単に取付部26,36の向きを変えられるよう両取付部26,36が箱体11に対して可動部材である取付部61になった点である。具体的には、取付部26,36に代わる取付部61が縦軸周り・鉛直軸周りに軸回転しうるようになっていて、被測定物1の歪発生部4に対する箱体11の向きを変えても取付部61を反対側に動かすことにより被測定物1の歪発生部4に対する箱体11の向きは同じに維持することができるようになっている。
【0066】
図6(a)の高温環境用光ファイバセンサは、取付部61と下層断熱板25,35との間に軸受部62を介在させることにより、取付部61を軸回転可能にしたものである。
図6(b)の高温環境用光ファイバセンサは、耐熱性締結具27に代えて回転軸63を導入するとともに、回転軸63の軸端張出部64の揺動角度を中層連結板24,34の変形ザグリ67で規制することにより(図6(c),(d)参照)、取付部61が適切な範囲内に限って軸回転できるようにしたものである。
図6(e)の高温環境用光ファイバセンサは、被測定物1が曲管や分岐管であっても容易に設置できるように、点接触式で高さ固定の錐状部65や点接触式で高さ可変の螺状部66を取付部61の先端・下端に設けたものである。
【0067】
この場合、現場でも箱体11や両ファイバ保持具20,30を分解することなく簡単に取付部61を軸回転させられるので、被測定物1に高温環境用光ファイバセンサを設置する際、歪発生部4ひいては歪方向に対して箱体11の向きを所定角度だけ変えて斜めにしたときには(図6(f)参照)、両ファイバ保持具20,30の取付部61,61を反対向きに軸回転させることにより、しかも現場で箱体11の位置決めを済ませた後であっても取付部61,61を動かすことにより、歪発生部4に対する取付部61,61の向きが、標準方向のままで箱体11の向きを変えずに設置したときの両取付部26,36と(図2(c)参照)、同じに維持される(図6(f)参照)。
【0068】
すなわち、両ファイバ保持具20,30の取付部61,61の長手方向が線状の歪発生部4とほぼ平行になる。しかも、高温環境用光ファイバセンサが箱体11を利用してユニット化されているので、所定角度だけ向きを変えることを守れば簡単かつ迅速に設置作業を遂行することができ、的確な歪測定に適う設置作業が完了する。なお、製造組立段階等で予め向き変更の調整を済ませた場合は適当な仮止めを行っておき設置後に仮止めを外すと良い。
そして、このような強調的使用向け設置状態では(図6(f)参照)、光ファイバ8の張設方向と歪発生部4の歪方向との斜度が増して、両巻付部材21,31間に張られた光ファイバ8及びFBG8aに生じる歪みが更に低減される。
【実施例6】
【0069】
本発明の高温環境用光ファイバセンサの実施例6について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図7は、巻付部材21,31の構造例を幾つか示しており、(a)が一溝形の巻付部材21の正面図と断面図、(b)が対をなす二溝形の巻付部材21,31の正面図、(c)が対をなす螺旋溝形の巻付部材21,31の正面図である。
【0070】
この高温環境用光ファイバセンサの巻付部材21,31が上述した実施例1〜5のものと相違するのは、光ファイバ8を巻付ける周面に溝71が彫り込み形成されている点である。
溝71は、周面において光ファイバ8の巻き付け位置を規定することができれば、閉じた輪状でも良く(図7(a),(b)参照)、開いた螺旋状でも良く(図7(c)参照)、光ファイバ8を複数本収容できる太溝でも良く(図7(a),(b)参照)、光ファイバ8を一本だけ収容する細溝でも良く(図7(c)参照)、巻付部材21にだけ形成されていても良く(図7(a)参照)、巻付部材31にだけ形成されていても良く(不図示)、両巻付部材21,31の双方に形成されていても良い(図7(b),(c)参照)。
【0071】
この場合、光ファイバ8を両巻付部材21,31の周面に巻付けるとき、溝71によって光ファイバ8の巻き付け位置が案内されるので、巻付作業が遣りやすい。また、巻き付けた後も、光ファイバ8が溝71から出て横にずれるといった不所望なファイバ移動は溝71によって規制されるので、光ファイバ8の巻付け状態が安定し良好に維持される。
なお(図7(b),(c)参照)、両巻付部材21,31間にもう一本の光ファイバ9を導入して、それに形成されたFBGも両巻付部材21,31間に来るようにするが、光ファイバ9には張力がかからないよう光ファイバ9を弛ませておけば、公知の手法により温度補償を行うことができる。光ファイバ9は、光ファイバ8と別体のものでも良く、光ファイバ8を折り返したものでも良い。他の実施例でも同様の温度補償が可能である。光ファイバ9は光ファイバ8と共に溝71に入れても良く専用の溝72に入れても良い。
【実施例7】
【0072】
本発明の高温環境用光ファイバセンサの実施例7について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図8は、光ファイバ8の巻付部材21,31への取付構造を示し、(a)が平面図、(b)が斜視図、(c),(d)が平面図、(e),(f)が部分断面図である。
【0073】
この高温環境用光ファイバセンサが上述した実施例1〜6のものと相違するのは、巻付部材21や巻付部材31の周面に対して光ファイバ8が接着剤で固定されている点である。
周面への光ファイバ8の巻き付け部分の接着による固定は、巻付部材21にだけでも良く、巻付部材31にだけでも良く、両巻付部材21,31の双方に行っても良い。
何れの場合も、その接着程度が接着始端から巻付けの進行に伴って連続的に又は間欠的に上がっているのが好ましい。なお、そのうち連続的に上がる接着態様には、徐々に上がる接着態様の他、段階的に上がる接着態様も含まれる。なお、この実施例で、巻付始端や接着始端の始端は、両巻付部材21,31の間から巻付部を見た始端を指している。
【0074】
具体的には、例えば(図8(a)参照)、巻付始端の少し後から接着し、接着始端から数十度程度の巻付け角度θaでは接着剤の接着力を弱くし、少し空けて次の数十度程度の巻付け角度θbでは接着剤の接着力を中程度にし、また少し空けて次の数十度程度の巻付け角度θcでは接着剤の接着力を強くし、さらに少し空けて以後の巻付け角度θdでは総ての角度でそれまでの接着力を超える強さで接着するのである。あるいは、同様な間欠的接着において、巻付け角度θaでは接着剤の弾性率を小さくし、巻付け角度θbでは接着剤の弾性率を中程度にし、巻付け角度θcでは接着剤の弾性率を大きくし、巻付け角度θdではそれまでの弾性率を超える最も大きな弾性率の接着剤で接着するのである。
【0075】
また(図8(b)参照)、接着剤81を接着始端部82では斜めに塗るといったことにより、光ファイバ8の巻付の進行に連れて接着剤の塗布幅が徐々に広がるようにしても良い。
さらに(図8(c)参照)、巻付始端から8分の1周以上の巻付け角度θeでは接着剤を付けないでおき、周面に8分の1周以上巻き付いてから接着剤を付けるのも良い。この場合も、更に、初めの巻付け角度θfでは接着力や弾性率を弱小にし、巻付け角度θgでは接着力や弾性率を中程度にし、最後の巻付け角度θhでは接着力や弾性率を強大にする等のことも行って、その接着程度が接着始端から巻付けの進行に伴って間欠的に又は段階的に上がるようにすると、なお良い。
【0076】
また(図8(d)〜(f)参照)、巻付始端から8分の1周以上の巻付け角度θiではやはり接着剤を付けないでおき、周面に8分の1周以上巻き付いてから接着剤を付けるに際し、その後は巻付け角度θjが増すのに連れて接着剤81の断面積が増えるように塗布量を調整することにより、両巻付部材21,31の周面への光ファイバ8の巻き付け部分の接着の程度が接着始端から巻付けの進行に伴って徐々に上がるようにしても良い。
【0077】
この場合、光ファイバ8の巻き付け部分を両巻付部材21,31の周面に対して接着にて止めるに際し、巻付始端からいきなり固く止めるのでなく、最初は緩く止めて途中から固さが増すようにしたことにより、周面巻付によるファイバの折損防止機能・切断防止機能が一層高まるので、光ファイバ8が両巻付部材21,31への巻き付け部分で折損したり破損するといった不所望な事態に至ることはほとんどない。接着剤の無い巻付け角度θe,θiの部分も、光ファイバ8の伸びと摩擦力を分散させることで、周面巻付によるファイバの折損防止機能・切断防止機能の更なる向上に寄与している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の高温環境用光ファイバセンサは、化学プラントにおける高温配管の溶接部監視や製鉄機械の振動測定などに利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1…被測定物、2…一方側、3…他方側、4…歪発生部、5…溶接部、
8…光ファイバ(歪測定用)、9…光ファイバ(温度補償用)、
8a…FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング,FiberBraggGreting)、
10…高温環境用光ファイバセンサ、
11…箱体(筐体)、12…内部空間、13…貫通穴、
15…放熱部材、16…天板、17…外側部材(断熱材)、18…底板、
20,30…ファイバ保持具、21,31…巻付部材(ファイバ係止部)、
32…延長部(貫通穴遊挿部)、23,33…上層断熱板(中継部)、
24,34…中層連結板(中継部)、25,35…下層断熱板(中継部)、
26,36…取付部、27,37…耐熱性締結具、28,38…断熱性締結具、
40…高温環境用光ファイバセンサ、
41…パッキン、42,43…迂回伝熱部材、44…粘液、
45…高温環境用光ファイバセンサ、
50…高温環境用光ファイバセンサ、51…盲栓、52…流入孔、
53…流出孔、54…断熱材、55…送給管(強制冷却手段)、56…排出管、
61…取付部、62…軸受部、63…回転軸、64…軸端張出部、65…錐状部、
66…螺状部、71,72…溝、81…接着剤、82…接着始端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を囲う箱体と、ファイバ係止部が前記内部空間に収まっており且つ被測定物への取付部が前記箱体の外に出ている一対のファイバ保持具と、前記両ファイバ係止部間に張られた部分が前記内部空間に収容されており且つその部分にFBGが形成されている光ファイバとを備えた高温環境用光ファイバセンサであって、前記両ファイバ保持具が前記光ファイバの伸縮に基づく歪測定を可能とする範囲で離接方向への相対移動を許容する形で前記箱体に装着されており、前記ファイバ保持具それぞれにおいて前記ファイバ係止部と前記取付部との間の中継部に断熱材が組み込まれており、前記箱体には冷却手段が付設されていることを特徴とする高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項2】
前記中継部が上層断熱板と中層連結板と下層断熱板とを具備したものであり、前記ファイバ係止部と前記中層連結板とが前記上層断熱板を挟んで断熱性締結具にて連結され、前記中層連結板と前記取付部とが前記下層断熱板を挟んで耐熱性締結具にて連結され、前記断熱性締結具は前記耐熱性締結具よりも断熱性に優れており、前記耐熱性締結具は前記断熱性締結具よりも耐熱性に優れていることを特徴とする請求項1記載の高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項3】
前記取付部から前記箱体を迂回して前記冷却手段に至る熱流路を形成する迂回伝熱部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項4】
前記内部空間が粘液で満たされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載された高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項5】
前記冷却手段が、前記内部空間に流体を流す強制冷却手段を含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載された高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項6】
前記冷却手段が、前記強制冷却手段に加え、外気に触れる多数の放熱フィンを具備した放熱部材も含んでいて、何れも着脱可能になっていることを特徴とする請求項5記載の高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項7】
前記取付部が前記箱体に関して可動部材になっていて、前記被測定物の歪発生部に対する前記箱体の向きを変えても前記取付部を反対側に動かすことにより前記歪発生部に対する前記取付部の向きは同じに維持されるようになっていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載された高温環境用光ファイバセンサ。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載された高温環境用光ファイバセンサを使用して歪みを測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−80924(P2011−80924A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234866(P2009−234866)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】