説明

高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物

【課題】無機充填材の含有量を50%以上にする場合には、製造される成形体の外観、意匠性の点において、問題がある。
【解決手段】本発明は、質量比で、ポリプロピレン5〜15%、無機充填剤55〜75%、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体10〜25%、メタロセン触媒を用いて製造されるポリエチレンワックス2〜10%及び金属セッケン0.1〜0.3%からなることを特徴とする高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物に関する。さらに本発明は、所定濃度の無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)並びにポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチをポリプロピレン系樹脂に混合して、直接射出成形することにより製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体及びその製造方法に関する。
本発明により製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体は、特に、自動車内外装部品に要求される剛性、耐衝撃性を維持しつつ、顔料の分散性が良好で外観が美麗であるという特長を有する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン、特にポリプロピレンは、自動車内外装部品や家電部品として汎用されている。一般に、これらの製品の剛性や耐熱性を向上させるため、無機充填剤が配合される。しかし、部品が大型化するに伴い、樹脂成形体の外観不良を起こし易いこともわかってきた。特に、タルクのような無機充填剤を多量に含有する場合には、深刻な問題となっている。
【0003】
ポリプロピレン製樹脂製品の外観や意匠性を向上させるため、基材となる樹脂の成形時に、顔料を分散させたカラーマスターバッチ(ポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチ)を所定量添加して樹脂成形体を直接着色する方法や、樹脂成形体を成形した後、後工程で成形体に塗装を施す方法が一般的に行なわれている。
【0004】
着色用マスターバッチを用いる方法は、単一色を有する成形体を大量生産する場合に向いており、ポリプロピレン樹脂製の自動車用バンパーの着色方法の一つとして広く用いられている。更に、意匠性を向上させる観点から、ポリプロピレン樹脂自体の着色と、塗装による着色とを併用する場合がある。しかしながら、マスターバッチにより着色されたポリプロピレン樹脂に塗装した場合は、マスターバッチを含まないポリプロピレン樹脂担体に塗装した場合に較べて、経時的に塗膜の変色が生じやすいという問題点があった。
【0005】
特許文献1は、このような問題を解決するため、質量比で、40〜50%のポリエチレンと、5〜20%のポリエチレンワックスと、35〜45%の着色用顔料を含有し、さらに分子量500以上のモノエステル型ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.05〜0.15%と、2,4−tert−ブチルフェニル基を持つ分子量500以上の有機リン系酸化防止剤0.05〜0.15%を含むことを特長とするポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチ組成物を提案している。そして、同文献1は、質量比で、50〜60%のエチレン−プロピレン共重合体と、20〜40%のエラストマーと、10〜20%の無機充填材を含有するポリプロピレン樹脂組成物に、この着色用マスターバッチ組成物を50〜200倍で希釈してなることを特長とするポリプロピレン樹脂成形体を提案している。
しかしながら、樹脂成形体の剛性、耐衝撃性、耐熱性を向上させるため、無機充填材の含有量を50%以上にする場合には、製造される成形体の外観、意匠性の点において、特許文献1で提案されている方法では、対応できない。
【特許文献1】特開2003−321552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、無機充填剤の分散性が優れた高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)並びに所定濃度の無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)並びにポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチをポリプロピレン系樹脂に混合して、直接射出成形することにより製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1に、本発明の高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物は、質量比で、ポリプロピレン5〜15%、無機充填剤55〜75%、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体10〜25%、メタロセン触媒で製造されるポリエチレンワックス2〜10%及び金属セッケン0.1〜0.3%からなることを特徴とする。
第2に、本発明の無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチからなることを特徴とする。
【0008】
第3に、本発明の無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂、高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチを混合し、直接射出成形することを特徴とする。
第4に、本発明は、このようにして成形された無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体は、特に、自動車内外装部品に要求される剛性、耐衝撃性を維持しつつ、顔料の分散性が良好で外観が美麗であるという特長を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1に、本発明の高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)は、質量比で、ポリプロピレン5〜15%、無機充填剤55〜75%、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体10〜25%、メタロセン触媒で製造されるポリエチレンワックス2〜10%及び金属セッケン0.1〜0.3%からなることを特徴とする。
【0011】
本発明のポリプロピレンとは、ポリプロピレン単独重合体及びプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体である。樹脂組成物(マスターバッチ)に対して5〜15%使用される。
本発明で使用される無機充填剤は、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、ドロマイト、塩基性炭酸マグネシウム、ガラス等が挙げられるが、中でもタルクの使用が最もこのましい。樹脂組成物(マスターバッチ)に対して55〜75%使用される。
【0012】
本発明の最大の特徴は、含有される無機充填剤が、樹脂組成物(マスターバッチ)に対して55〜75%という高濃度であることである。このような高濃度の無機充填剤を含有するマスターバッチを製造することが可能になったのは、本発明の成分であるメタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体、メタロセン触媒を用いて製造されるポリエチレンワックス及び金属セッケンの相乗効果であると推定される。
【0013】
本発明で使用されるエラストマー性重合体は、メタロセン触媒を用いたプロピレン系の機能性エラストマーが好ましい。三井化学株式会社製の商品名「タフマー」(登録商標)が挙げられる。樹脂組成物(マスターバッチ)に対して10〜25%、好ましくは、15〜20%使用される。
【0014】
本発明で使用されるポリエチレンワックスは、メタロセン触媒で製造されるワックスである。ポリエチレン製造工程で回収される、いわゆるアタクチック・ポリエチレンでは、本発明の目的は達成できない。天然ワックスも本発明の効果を得ることができない。三井化学株式会社製「エクセレックス」(登録商標)が挙げられる。樹脂組成物(マスターバッチ)に対して2〜10%、好ましくは、3〜8%使用される。
【0015】
本発明で使用される金属セッケンとしては、各種のステアリン酸セッケン、ラウリン酸セッケン、12−ヒドロキシステアリン酸セッケン、モンタン酸セッケン、ベヘン酸セッケンが挙げられる。樹脂組成物(マスターバッチ)に対して0.1〜0.3%使用される。
【0016】
本発明で配合されるポリプロピレン、無機充填剤、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体、メタロセン触媒で製造されるポリエチレンワックス及び金属セッケンは、ヘンシェルミキサー等で混合後、1軸又は2軸押出機等で溶融混練してペレット化される。かくして高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)を得ることができる。
【0017】
第2に、本発明の無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、前記した高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチからなることを特徴とする。
【0018】
ここで使用されるポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチは、市販のものを使用することができる。例えば、質量比で、40〜50%のポリエチレンと、5〜20%のポリエチレンワックスと、35〜45%の着色用顔料を含有しているポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチを挙げることができる。
【0019】
第3に、本発明の無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂、前記した高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)及び前記したポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチを混合し、直接射出成形することを特徴とする。
【0020】
第4に、本発明は、このようにして成形された無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体にある。
本発明により製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体は、特に、自動車内外装部品に要求される剛性、耐衝撃性を維持しつつ、顔料の分散性が良好で外観が美麗であるという特長を有する。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の構成を実施例により具体的に説明する。
実施例1〜3及び比較例1〜10
高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物(マスターバッチ)を次のようにして製造した。
ポリプロピレン(三井ブロックコポリマー J707G)、無機充填剤としてタルク(浅田製粉株式会社製NNR、平均粒子径4〜5μm(島津SALD−2000Jによりレーザ法で測定)、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体(三井タフマー(登録商標)1050(三井化学株式会社製))、メタロセン触媒で製造されるポリエチレンワックス(エクセレックス(登録商標)30200B(三井化学株式会社製))及び金属セッケンとしてステアリン酸カルシウム(日東化成工業株式会社製)をヘンシェルミキサーで混合し、1軸押出機を用いて高濃度タルク含有ポリプロピレンペレット(マスターバッチ)を得た。原材料の配合比は、表1、表2に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1及び表2の数値は、質量比での%である。表において、
PP:三井ブロックコポリマーJ707G(商品名)
FRP:三井タフマー(登録商標)
PEワックス1:三井化学製ポリエチレンワックス30200B(商品名)
PEワックス2:三井化学製ポリエチレンワックス48070B(商品名)
【0025】
実施例4
実施例1のステアリン酸カルシウムに代えて、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウムを同量使用した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチMB−4を得た。
【0026】
実施例5〜8及び比較例11〜19
実施例1〜4及び比較例1〜10で製造したマスターバッチ及びポリプロピレン(三井ブロックコポリマー J830HV)を、質量比でそれぞれ15%、85%を溶融混合してPPペレットを得た。PPペレットの評価結果を表3に示す。比較例12〜19については、顔料分散及び外観が悪かったので、物性は測定しなかった。
【0027】
【表3】

【0028】
表3において
MI:溶融粘度(g/10分)
TS:引張強度
FM:曲げ弾性(Mpa)
Izod:アイゾット衝撃強度
顔料分散:×悪い。○良好。◎非常に良好。顔料濃度は3phr
外観:×悪い。○良好。◎非常に良好。
【0029】
実施例1により製造した高濃度タルク含有ポリプロピレンペレット及びポリプロピレン樹脂を質量比で15%、80%、及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチを、ヘンシェルミキサ−で混合し、直接射出成形して、通常の成形条件で自動車用コンソールボックスを成形した。
外観が極めて良好な自動車用コンソールボックスが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により製造される無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体は、剛性、耐衝撃性を維持しつつ、顔料の分散性が良好で外観が美麗であるという特長を有するので、特に、自動車内外装部品や家電部品用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比で、ポリプロピレン5〜15%、無機充填剤55〜75%、メタロセン触媒を用いて製造されるエラストマー性重合体10〜25%、メタロセン触媒を用いて製造されるポリエチレンワックス2〜10%及び金属セッケン0.1〜0.3%からなることを特徴とする高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂、請求項1記載の高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物であるマスターバッチ及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチからなることを特徴とする無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂、請求項1記載の高濃度無機充填剤含有ポリプロピレン樹脂組成物であるマスターバッチ及びポリオレフィン樹脂着色用マスターバッチを混合し、直接射出成形することを特徴とする無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法により製造された無機充填剤強化ポリプロピレン樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−133376(P2008−133376A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321039(P2006−321039)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(593132526)株式会社ヘキサケミカル (2)
【Fターム(参考)】