高炉スラグ顕熱回収装置
【課題】高炉スラグの顕熱を効率良く回収する。
【解決手段】圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザー3と、このガスアトマイザー3から上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる一次熱交換塔4とを備えてなることを特徴とする。
【解決手段】圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザー3と、このガスアトマイザー3から上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる一次熱交換塔4とを備えてなることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の銑鉄製造工程において副生成物として発生する高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができる高炉スラグ顕熱回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉では、10tの溶銑が生産される間に約1,500℃の高炉スラグが3t発生している。この高炉スラグは主にセメントの原料として利用されるが、その場合、全高炉スラグの95%以上がガラス化されている必要がある。
【0003】
高炉スラグを急激に冷却してガラス化(非晶質構造化)するには、図1に示す冷却速度が必要になる。
【0004】
すなわち、約1,400℃の溶融スラグを1,200℃まで21℃/sec以上、1,200℃から1,100℃までを6.0℃/sec以上、1,100℃から1,000℃までを2.5℃/sec以上そして1,000℃から850℃までを0.3℃/sec以上の冷却速度で冷却する必要がある。
【0005】
上記冷却速度を得るために、現状では一般に高炉スラグに水を吹きつけて破砕する水砕処理が採られており、高炉スラグの約90%がこの水砕処理によって75μm〜5mmの粒子に急冷破砕されている。
【0006】
上記水砕処理では高炉スラグと冷却水との熱交換によって50〜70℃の低温の廃水が大量に発生するが、この水温のレベルでは発電に使用することもできないという問題がある。
【0007】
投入した熱エネルギーが仕事や発電に利用される効率は、最大でも図2に示すカルノー効率を超えない。つまり、より高温で熱を回収する方が有利である。
【0008】
そこで、高炉スラグが顕熱として持っているエネルギーを高温で回収するための方法として空気噴流によるスラグの微粒化が数多く考案され続けている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−132546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、空気噴流によるスラグの微粒化によって高炉スラグの顕熱を回収する熱回収装置は現状では実用化されていない。
【0011】
その要因として、(1)水と高炉スラグの熱伝達係数と比較して、一般的に空気とスラグ粒子の熱伝達係数は1/10程度しかないために、図1に示した冷却速度を満足できないことが多いこと、(2)冷却速度を満足させるためには大量の冷却空気が必要になるため、1,500℃の高温で高炉から流出するスラグから熱風として回収される空気温度が約500℃にまで低下してしまい、最終的に発電のための蒸気として得られるのは200℃程度の低圧蒸気となって、図2のカルノー効率からそれほど高い効率で発電できないことが挙げられる。
【0012】
本発明は以上のような従来の熱回収装置における課題を考慮してなされたものであり、高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができる高炉スラグ顕熱回収装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、
重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザーと、
このガスアトマイザーから上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる熱交換塔とを備えてなる高炉スラグ顕熱回収装置である。
【0014】
本発明において、上記噴射ノズルの外周部に冷却用空気を上向きに噴射するためのノズルを配置することが好ましい。
【0015】
本発明において、上記熱交換塔は、下部から上部に向かって塔の径方向断面積が拡大されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、上記熱交換塔内を流れ、上記熱交換塔の上部から混合状態で噴射される上記アトマイザーガスと上記スラグ粒子とを沈降分離する分離塔を備えることができる。
【0017】
本発明において、上記分離塔の下部にゲート弁を有するとともに上記分離塔内に堆積した上記スラグ粒子の堆積高さを検出する位置センサを設け、上記ゲート弁を、上記位置センサから出力される信号に基づいて開閉動作させてスラグ排出量を調節すれば、スラグを常時、一定高さ分、分離塔の下部に堆積させることができるため、空気の漏れを防止することができる。
【0018】
本発明において、上記熱交換塔を、空気を透過させる内筒と空気を透過させない外筒を二重に配置した二重筒とし、上記内筒と上記外筒の間の環状空間を高さ方向に複数の部屋に仕切る仕切り板を設け、開閉弁と流量計を介して低圧空気を上記各部屋に供給する低圧空気供給路と、開閉弁を有し高圧空気を上記各部屋に供給する高圧空気供給路とを備え、上記流量計によって計測される低圧空気の流量が閾値を下回った時に上記高圧空気供給路の開閉弁を開動作させれば、上記熱交換塔の内壁にスラグ粒子が付着することを防止できる。
【0019】
本発明において、上記高圧空気供給路は、上記環状空間に向けて高圧空気を噴射する空気ノズルをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空気噴流を用いたスラグの微粒化によってガラス質スラグ粒を得るとともに、高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る溶融スラグのガラス化に必要な冷却速度を示すグラフである。
【図2】本発明に係るカルノー効率を示すグラフである。
【図3】本発明に係る高炉スラグ顕熱回収装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3のアトマイザーおよびその周辺部の拡大図である。
【図5】図4のアトマイザーに適用される加速ノズルの構成を示す拡大図である。
【図6】上向きアトマイズによる噴射状態を撮影した写真である。
【図7】アトマイズされるスラグ粒子の抗力係数を示したグラフである。
【図8】一次熱交換塔内での空気温度と各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【図9】一次熱交換塔内での各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【図10】粒子径毎の粒子温度と冷却速度の関係を示したグラフである。
【図11】ベルトコンベア上に堆積したスラグと冷却空気の温度変化を示したグラフである。
【図12】本発明に係る逆圧払い落とし機構の構成を示す該略図である。
【図13】スラグ流量を変動させた場合の熱交換諸性能の変化を示すグラフである。
【図14】スラグ流量1.25倍での一次熱交換塔内のスラグ粒子温度分布を示したグラフである。
【図15】空気スラグ比を一定に維持してスラグ流量を変化させた場合の効率と発電量変化を示したグラフである。
【図16】本発明の熱回収装置の第二実施形態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0023】
1 高炉スラグ顕熱回収装置
1.1 高炉スラグ顕熱回収装置の全体構成と運転方法
図3は、高炉スラグ顕熱回収装置(以下、熱回収装置と略称する)1の構成を示したブロック図である。
【0024】
同図において熱回収装置1は、スラグタンディッシュ2と、重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射するガスアトマイザー(以下、アトマイザーと略称する)3と、そのアトマイザー3から上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる一次熱交換塔(熱交換塔)4と、その一次熱交換塔4内を流れ一次熱交換塔4の上部から混合状態で噴射されるアトマイザーガスとスラグ粒子と沈降分離するスラグ集積塔(分離塔)5および二次熱交換室6を備えている。
【0025】
上記一次熱交換塔4も二次熱交換室6も、スラグ粒子に空気を接触させてスラグ粒子を冷却(このとき空気は加熱されて、熱交換される)することを目的にしており、一次熱交換塔4で加熱された空気と二次熱交換室6で加熱された空気は、それぞれ独立して一次系ラインL1と二次系ラインL2に流れるようになっている。
【0026】
一次系ラインL1については微粉を回収するための一次系サイクロン7、蒸気に熱を渡すための一次系蒸気ボイラー8、集塵機9、放散塔10を経て大気へ戻され、二次系ラインL2については、二次系サイクロン11、二次系蒸気ボイラー12、ブロアー13、集塵機9、放散塔10を経て大気へ戻されるようになっている。
【0027】
なお、本実施形態における上記一次熱交換塔4は、下部から上部に向けて断面積が1.5倍程度に拡大しており、直径1.3m×高さ40m程度の塔から構成されている。
【0028】
一次系ラインL1および二次系ラインL2の両系統にて一次系蒸気ボイラー8、二次系蒸気ボイラー12で空気によって加熱された蒸気の状態を比較すると、一次熱交換塔系統(一次系ラインL1)の空気温度が高いことにより、高温・高圧の高エンタルピの状態にある。
【0029】
したがって、一次系では発電機14により電力としてエネルギーを回収し、一次系と比較して低エンタルピの状態にある二次熱交換室系統(二次系ラインL2)では、一次系のアトマイザー3に高圧アトマイズ空気(このアトマイズ空気が一次系の熱交換媒体空気になる)Aaを送るための圧縮機15の動力、および二次熱交換室6に二次系の熱交換媒体空気を送るために大気を導入するとともに集塵機9を経て放散塔10に送るブロアー13の動力を供給するために、タービン16にて動力としてエネルギーを回収する。
【0030】
すなわち、一つのタービン16から共通の回転軸17を介して一次系の圧縮機15と二次系のブロアー13へそれぞれ動力を送るようになっている。
【0031】
実際の始動、運転、停止では、まず系外から電力を供給してブロアー13、圧縮機15を稼働させ、アトマイザー3と二次熱交換室6にそれぞれ空気を送る。
【0032】
次にスラグタンディッシュ2に高炉から溶融スラグを供給し、アトマイザー3よりも低い位置にある徐冷設備(図示しない)へのゲート18を開から閉へ切り替える。
【0033】
それにより、アトマイザー3へ溶融スラグが供給されて、アトマイズが開始される。
【0034】
アトマイザー3でアトマイズされたφ5mm以下のスラグ粒子は、さらに上向きのガスによって一次熱交換塔4内を上昇し、最終的にスラグ集積塔5内を落下する。
【0035】
次いで、スラグ粒子はスラグ集積塔5内からゲート弁19を経て二次熱交換室6内を移動し、さらに二次系熱交換媒体空気によって冷却され、大気温度+5℃程度の温度で排出される。
【0036】
通常、高炉の運転では複数ある出銑口を約3時間毎に切り替えながら、途切れることなく連続出銑を行っており、これら複数ある出銑口を樋で一箇所のタンディッシュに接続することにより、休風時以外は連続運転することが可能である。
【0037】
休風などによる出銑の停止時には、ゲート18を開けて徐冷設備へ溶融スラグを送ればアトマイザー3へのスラグ供給が停止する。
【0038】
スラグ供給が停止されてから、ブロアー13、圧縮機15を停止することで、アトマイザー3の運転を終了できる。
【0039】
1.2 アトマイザー
図4は、図3に示したアトマイザー3およびその周辺部の拡大図である。
【0040】
図4において、アトマイザー3は、一次熱交換塔4の中心に配置されアトマイズガスを上向きに噴射するアトマイズガス噴射装置3aおよび溶融スラグを上向きに放出する溶融スラグノズル3bを有し、アトマイズガス噴射装置3aの周囲に、冷却空気を上向きに噴射する冷却空気ノズル20が備えられている。なお、図中Sは落下してきたスラグ粒子を示している。
【0041】
アトマイズガス噴射装置3aから溶融スラグに向けて噴射されるアトマイズ空気Aaと、放出される溶融スラグから離れた位置で一次熱交換塔4の内壁近傍から直上に向けて筒状に噴射される冷却空気Caの合計は、溶融スラグとほぼ同一の質量流量になるように調整される。
【0042】
具体的には、アトマイズによる最大粒子径が5mmになるように、まずアトマイザーが設計されてアトマイザー空気流量が決定され、次いで合計質量流量がスラグ質量流量と一致するように冷却空気ノズル21のノズル径とノズル穴数が調整される。
【0043】
しかし、アトマイザー3としては速やかにスラグ粒子と熱交換を行い、かつ運転の余裕度を確保することが望ましいため、極力少ない空気流量で最大粒子径5mmまで溶融スラグをアトマイズできる高効率のアトマイザーを採用すべきである。
【0044】
そこで、本熱回収装置では本願出願人によって先に出願した特許第4268193号に記載されている加速ノズルの一段タイプをアトマイザーとして使用する。
【0045】
図5は上記加速ノズルの構成を拡大して示した縦断面図である。
【0046】
同図において、アトマイズガス噴射装置3aは、上向き放出口3b′を備えた円錐形状の溶融スラグノズル3bと、上向き放出口3b′に隣接してその周囲に配置されるリング部品3cとから主として構成されている。リング部品3cの中心に形成された噴射口3c′は下向きに拡径されるように断面円弧状に形成されている。図中、3dはアトマイズ空気Aaが導入されるガス通路である。
【0047】
上記ガス通路3dに供給されたアトマイズ空気Aaは、溶融スラグノズル3bの外壁とリング部品3cの噴射口3c′との間に形成されるスロート部Tを通過することによって高速ガス流を形成し、その高圧ガス流によって溶融スラグを微粒化し、その微粒化したスラグ粒子を噴射口3c′から噴射するようになっている。
【0048】
図6は溶融スラグを水で模擬して運転を行った時の上向き噴射状態を撮影した写真であり、アトマイズされた粒子がすぐには拡がらずに直進性が強いことを示している。
【0049】
上記構成を有するアトマイザー3は、噴流を1点に結ぶ従来の多孔ノズル列タイプのアトマイザーと比較して、約1/3の空気流量で同等のアトマイズと粒子冷却が可能になるという有利な特徴を持っている。
【0050】
1.3 一次熱交換塔
本発明のスラグ顕熱回収装置1において最もユニークな特徴は、重力方向と反対方向にスラグ粒子を飛行させる一次熱交換塔4である。
【0051】
この一次熱交換塔4は、図1で説明した冷却速度を満足しながら、図2で説明した、ほぼ効率が最大値に漸近する550℃の蒸気を得るため、850℃の熱風でのエネルギー回収を行うことを実現することを目的として構成されている。
【0052】
非晶質では潜熱が存在しないので、一般的に低レイノルズ数での冷却速度dTs/dtは式(1)で記述される。
【0053】
【数1】
ここで記号の意味は、T:温度、t:時間、Re:レイノルズ数、λ:熱伝導率、D:粒子径、ρ:密度、Cp:定圧比熱、u:速度、μ:粘性係数。添え字の意味は、g:ガス(空気)、s:スラグである。
【0054】
冷却速度は空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|の0.6乗に比例することが分かる。
【0055】
他の条件が物性値や温度であるために基本的に全て同一であり、変更困難であることから、ガラス化に必要な冷却速度を得るためには、空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|を大きくする以外にない。
【0056】
そこで平衡状態での空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|について、運動方程式を解くことにより、式(2)が得られる。
【0057】
【数2】
【0058】
ここで記号の意味は、g:重力加速度、Cd:スラグ粒子の抗力係数。重力加速度gは速度uと同一方向を正の方向としている。抗力係数Cdはもしスラグ粒子が球形であれば、φ5mm粒子のように大きな粒子(レイノルズ数が大きな条件)になれば、Cd=0.44のように一定値に漸近する値である。正確には図7に示すように、レイノルズ数の関数になる。
【0059】
重力加速度gが正の場合(速度と重力の向きが同一、つまり下向きガスアトマイズに相当)と負の場合(速度と重力の向きが反対、つまり上向きガスアトマイズに相当)に場合分けして式(2)を解くと、式(3)と式(4)のようになる。
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
式(3)と式(4)の比較から分かるように、式(3)の下向きガスアトマイズでは粒子速度usは空気速度ugよりも大きくなり、実現するには非常に長い粒子の飛行距離が必要になる。他方、式(4)の上向きガスアトマイズでは、粒子速度usを
【0063】
【数5】
に設計することも可能であり、上向きアトマイザーと比較して短い飛行距離で目標達成した装置を実現できる。
【0064】
式(1)と式(2)から相対速度差|ug−us|を消去すると式(6)が得られる。
【0065】
【数6】
【0066】
式(6)より、最終的に冷却速度は粒子径Dsの1.1乗に反比例することから、想定している粒子の中で最も径が大きいφ5mmが、ここでは最も冷却速度が小さくなるためにガラス化が難しくなることが分かる。
【0067】
なお、アトマイザー3、一次熱交換塔4、スラグ集積塔5を含めて加圧し、空気密度ρgを大きくすることは式(6)よりρgの0.3乗に比例して冷却速度は大きくなり、式(4)より空気速度ugも小さく設計できる(空気量を低減し、より高温で熱を回収できる)という利点がある。
【0068】
この点については、後述する高炉送風に適用した第二実施形態で説明する。
【0069】
式(4)において、最も大きな5mm粒子(Ds=0.005[m])を一次熱交換塔4内で静止させる条件(us=0)で設計を行うと、一次熱交換塔4内での空気速度ugは式(7)により与えられる。
【0070】
【数7】
【0071】
他方、一次熱交換塔4の断面積をAとすると、一次熱交換塔4内での空気質量流量ドットmgは塔内のどの高さでも一定であることから、式(7)と連成させて、式(8)が成立する。
【0072】
【数8】
【0073】
式(8)を変形することにより、式(9)が得られる。
【0074】
【数9】
【0075】
空気温度Tgは一次熱交換塔4内で一定ではなく、スラグ粒子が冷却されると空気温度は増加するので、塔内の高さ方向に空気温度Tgは増加し、空気密度ρgは減少する。粒子速度usを一定に維持して、一次熱交換塔4の高さを必要最低限に抑えるためには、式(9)の関係に従って、一次熱交換塔4の断面積を、減少する空気密度ρgの1/2乗に反比例させて増加させるのが効果的である。
【0076】
具体的には図3において、アトマイザー空気の温度は180℃から870℃に上昇し、それにより空気密度は1.17kg/m3から0.461kg/m3へ初期の約40%まで低下する。そこで、式(9)に従い、一次熱交換塔4の断面積を底部から頂部へ向かって、頂部の断面積が底部の断面積の1.5倍になるように、徐々に拡大する管を用いる。
【0077】
図8は、粒子と空気のエネルギー方程式を連成させて解いた、一次熱交換塔4内での空気と粒子の温度変化の計算結果を示したグラフである。
【0078】
この結果から、一次熱交換塔4の高さ(粒子飛行距離)として40m程度あれば、粒径0.075〜5.0mmのどの粒子径でも空気温度とほぼ同じ平衡温度に到達することがわかる。
【0079】
図9は一次熱交換塔4内での各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【0080】
図10は粒子径毎の粒子温度と冷却速度の関係、および図1より加工した、スラグ温度と必要冷却速度の関係を示したグラフである。
【0081】
図10において、粒子径5mm(図中、F1参照)では必要冷却条件を満足できておらず、粒子径3.375mm(図中、F2参照)が冷却速度の必要条件を満足できる最大径であることが分かる。
【0082】
ガスアトマイズの段階で目標としている粒径分布では、粒子径2mm以上の比率は5%、粒子径3.375mm以上は2%、粒子径5mm以上は0%である。したがって、一次熱交換塔4の性能としてガラス化率98%が予想され、セメント材仕様のガラス化率95%以上を満足できると予測される。
【0083】
1.4 スラグ集積塔
スラグ集積塔5では重力を利用してスラグ粒子を下部に堆積させて空気と分離し、空気をスラグ集積塔5の上部から一次系サイクロン7を経て一次系蒸気ボイラー8へ送り、他方、スラグ粒子のみを第二熱交換室6へ送り出す準備を行う。考慮しなければならない点は下記(a)、(b)の2点である。
【0084】
(a)空気と共に巻き上げられる粒子を最小限にすること
空気に随伴したスラグ粒子は二次熱交換室6へ送られることなく、一次系サイクロン7で回収され、このスラグ粒子が860℃から冷却される分の顕熱は熱回収に寄与しないので、最小限にする必要がある。そこで、スラグ集積塔5の天井部には流体抵抗を与えて流れを均一にするための多孔板5a(図3参照)を設置し、全面から均一に0.85m/sの速度で空気を吸引するように設計する。
【0085】
この時に空気速度と静止する粒子径の関係は式(7)によって表される。また、図7に示された抗力係数Cdは、レイノルズ数の関数として、1<Re<104の区間では式(10)によって近似される。
【0086】
【数10】
【0087】
スラグ粒子はその内部に気泡を含む可能性が高いため、粒子密度ρsにスラグの真密度2,600kg/m3を用いると危険側の評価になる。そこで、空隙を含んで充填されたスラグ粒子の単位容積質量である1,300kg/m3を使用して安全側の評価にする。
【0088】
式(7)と式(10)を連立させ、ug=0.85、us=0として理論上はスラグ集積塔5内に静止する粒子径を求めると、Ds=0.25mmが得られる。
【0089】
つまり粒子径0.25mm以下は一次系サイクロン7側へ空気と共に送られることになる。ガスアトマイズにて目標にしている粒子径0.25mm以下の比率は5%であり、粒子径0.25mm以下の860℃スラグ粒子が持ち出す顕熱は1.4MWになる。
【0090】
(b)スラグ集積塔から二次熱交換室へ漏れる空気を最小限にすること
スラグ集積塔5内の圧力が50,000Pa(G)に対して、二次熱交換室6内の圧力が−300Pa(G)であることから、スラグ集積塔5内から二次熱交換室6内へスラグ粒子の径路内を空気が漏れて、一次系での発電量を低下させる可能性がある。
【0091】
それを防止するため、スラグ集積塔5内の下部では常時、スラグを一定高さだけ堆積させて、そのスラグ粒子充填層Pの流体抵抗により空気の漏れを防止する。
【0092】
まず初めに、スラグ粒子の流量を調節するゲート弁19の開口面積を求める。ゲートをオリフィスでモデル化して、スラグ粒子を28kg/sの質量流量で通過させるオリフィス径D0をBeverlooの式
【0093】
【数11】
より求めると、D0=0.171mになる。嵩密度1,300kg/m3のスラグ粒子が嵩速度0.94m/sでオリフィスを通過していることになる。
【0094】
次にエルガン式を用いて、ゲート弁19上のスラグ粒子充填層Pの圧力損失より、充填高さと漏れ空気流量の関係を求める。エルガンの式(12)より、
【0095】
【数12】
【0096】
充填高さLと空気流量ドットmg,leakの関係は式(13)で表される。
【0097】
【数13】
ここで、Δp:スラグ集積塔と二次熱交換室の圧力差、ε:充填層空隙率である。
【0098】
式(13)より、例えば充填高さ0.5mでの漏れ空気流量ドットmg,leakはスラグ集積塔5内空気流量の0.07%になることが分かる。
【0099】
したがって、スラグ集積塔5の下部に500mm程度のスラグ粒子を常時堆積させておけば、漏れ空気量を実質的に無視できるレベルまで低減できる。
【0100】
本実施形態の熱回収装置1では、位置センサとしての上限ファイバーセンサー5bおよび下限ファイバーセンサー5c(図3参照)を、スラグ集積塔5の下部に上下に離した状態で取り付けてスラグ充填高さの上限と下限の信号を出力させ、上限を超えればゲート弁19を開動作させ、下限を切ればゲート弁19を閉動作させ、それにより、スラグ粒子充填層Pの高さが下限ファイバーセンサー5cと上限ファイバーセンサー5bの間に位置するように制御する。
【0101】
なお、高炉スラグに関する非晶質スラグ粒子間の付着温度に関する調査によると、非晶質スラグ間の付着温度の下限は950℃であるので、本熱回収装置1ではスラグ集積塔5の下部にスラグ粒子が堆積する間において860℃のスラグ粒子同士が付着結合することはない。
【0102】
1.5 二次熱交換室
(a)装置の概要
二次熱交換室6では平均温度860℃で一次熱交換室としての一次熱交換塔4からスラグ集積塔5を介して流入するスラグ粒子の顕熱をさらに回収して、主に熱回収装置1全体の動力(アトマイザーガスの圧縮動力と二次熱交換室6内の冷却空気送風動力)を賄うことを目的にしている。
【0103】
図1のグラフに示した冷却速度に従って一次熱交換塔4ではスラグ粒子温度を1,000℃以下まで低下させているので、二次熱交換室6では最低限0.3℃/sの冷却速度があれば良いことになる。
【0104】
したがって、ベルトコンベア6a〜6d(図3参照)に堆積させて搬送している間に、二次冷却空気Aa′を堆積層に透過させることで、十分にこの程度の冷却速度は得られる。
【0105】
図3に示したように、ベルトコンベア6a〜6dは、上から下へスラグ粒子が移動するように、高さ方向に多段に配置されており、各ベルトは通気可能なスクリーンから構成されている。ベルトとスラグ堆積層を通過して二次冷却空気Aa′は下から上へ流れるので、二次熱交換室6の側壁とベルトの隙間が最小になるように隙間詰めを行う。
【0106】
具体的には、幅5m×長さ23m弱のベルトコンベアを上下方向4段で組み立てる。
【0107】
したがって、二次熱交換室6内の水平面断面は5×23m程度であり、断面積は115m2になる。
【0108】
また、ベルトコンベア6a〜6dのベルト総延長は92mになり、スラグが二次熱交換室6内に流入してから室外に搬出されるまでの滞留時間として250秒を計画しているので、ベルトの移動速度は0.368m/s(22m/min)になる。
【0109】
上記ベルトとしては、空気を通過させるために多孔でありながらスラグ粒子を保持することができるように、100メッシュのステンレススクリーン(目開き0.15mm程度)を使用する。
【0110】
各段のベルト6a〜6d上に堆積するスラグの総嵩容積は4.6m3、質量合計は6.7kgになる。この時のスラグの平均ベルト堆積嵩高は10mmである。
【0111】
スラグの単位堆積質量より、空隙率εは43%程度になる。冷却過程の計算より、空気/スラグ比は1.23になる。したがって、二次熱交換室6内での冷却空気平均上昇速度は0.6m/s程度である。
【0112】
スラグはベルトコンベアに載せたまま室外に搬出されることから、二次熱交換室6内を大気圧に対して負圧とし、二次熱交換室6外への発塵を防止する必要がある。したがって、ブロアー13の吸引側に二次熱交換室6を設置する。
【0113】
(b)熱交換過程計算
4段×堆積厚10mmの合計40mm厚さについて、スラグ粒子は上から下へ、二次冷却空気(流体)Aa′は下から上へ、二相が向流式で移動する向流熱交換において、スラグ厚み方向の一次元流れと熱伝達の計算を行った。スラグ粒子−流体間の熱伝達には、関らによる低レイノルズ数での実験式(14)を用いた。
【0114】
【数14】
【0115】
図11は、ベルトコンベア上に堆積したスラグ粒子の厚み方向の温度分布と、冷却空気の厚み方向温度分布を示したグラフである。
【0116】
250秒間かけて温度が800℃低下しているので、平均でも3.2℃/sの冷却速度を達成している。ベルトコンベアでのスラグ粒子の流れと冷却空気の流れを対向させた一次元の向流式熱交換を仮定したこの計算モデルでは上段から排出される冷却空気の最高温度には、1,044K(771℃)が予想される。スラグ粒子側の排出温度には冷却空気入口温度+5℃が予想されるので、ほぼ完全に顕熱を回収できている。
【0117】
(c)堆積層の圧力損失
100メッシュスクリーンのベルトを空塔速度0.6m/sで空気が通過する際の圧力損失は、ベルトコンベア6a〜6dを4段構成にしても合計25Pa程度であり、スラグ粒子堆積層での圧力損失の方が支配的である。
【0118】
エルガンの式(12)を用いて合計40mmのスラグ粒子堆積層を、温度と共に空気の密度と粘性が変化することを考慮して計算すると、250Paであった。したがって、ベルトの圧力損失を合わせて300Pa程度が予想される。この300Paが上段ベルトコンベア6a上部空間での負圧に相当する。一方、下段側ベルトコンベア6d部分ではほぼ大気圧に等しく、冷却が終了したスラグ粒子のスムースな排出が可能になる。
【0119】
1.6 一次系ボイラーと発電機
一次系蒸気ボイラー8と発電機14は、製鉄所で実際に使用されているコークス乾式消火設備(CDQ)の仕様とほぼ同一になる。
【0120】
詳しくは、乾留が終了した赤熱コークス(1,050℃)がCDQチャンバーを降下しながら下部から送られた窒素ガスにより冷却される。
【0121】
窒素ガスは980℃まで加熱されてボイラーに送られ、そこで蒸気へ熱交換し、蒸気は発電機用タービンを回している。
【0122】
上記CDQは窒素ガスを用いた非開放型循環系になっているが、スラグ顕熱回収設備では、一次熱交換塔4内で、スラグ粒子を決められた冷却速度を守って冷却するために0.3MPaの高圧まで圧縮機で断熱圧縮した比較的低温(200℃以下)の空気が必要であることから、循環系を組んで高温排気空気を取り込んで、そのまま断熱圧縮して使用することができず、この場合には空気冷却機が必要になる。したがって、経済性の理由から開放型のシステムを組んでいる。
【0123】
表1に、CDQと熱回収装置1における一次系蒸気ボイラーから発電までの対比を示す。
【0124】
CDQでは熱交換媒体温度が980℃であるのに対し、本実施形態における熱回収装置1の一次系蒸気ボイラー8では870℃であり、100℃低い点が相違しているが、ボイラーのチューブ本数を増加させることで、熱交換器の性能を上げ、製鉄所のボイラー出口蒸気条件と一致させることが可能である。ボイラー以降は蒸気を合流させることで、現有するタービンと発電機を利用することができる。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示すように、本実施形態の熱回収装置1により6.7MW/高炉の発電が可能になると考えられる。この発電量に相当する分だけ、CO2排出寄与の大きい石炭を燃料源とするボイラー・発電機を休止させれば、このボイラー燃料の購入費用を削減することができ、CO2排出も削減することができる。
【0127】
1.7 二次系蒸気ボイラーとタービン
二次系蒸気ボイラー12では、700℃の空気から400℃、4MPaの過熱蒸気を作り出し、タービンで圧縮機を回すための動力を効率26%で作り出すようになっている。
【0128】
1.8 圧縮機
圧縮機15は高炉送風と同じ圧力レンジであることから、同じタイプの軸流圧縮機を用いることができる。
【0129】
1.9 ブロワー
ブロワー13は1,000〜5,000Pa程度の圧力で足りるため、ターボファンブロワを使用することができる。
【0130】
2 第一熱交換塔内壁へのスラグ粒子付着防止対策
飛行中の高炉スラグ粒子が粒子間で付着することが可能な最低温度と、飛行中の高炉スラグ粒子が衝突板に衝突した際に衝突板に付着することが可能な最低温度については既に実験より求めている。それによると、粒子間の付着が生じる最低温度は950℃、衝突板に付着が生じる最低温度は1,050℃であった。
【0131】
したがって本実施形態の熱回収装置においても、一次熱交換塔4内を上昇する間に、1,050℃以上のスラグ粒子については一次熱交換塔4の内壁に付着する可能性がある。
【0132】
図7に、その1,050℃のラインを破線で示している。
【0133】
ただし、上記の実験はスラグ粒子を衝突板に対してほぼ垂直に衝突させた場合であり、本装置では内壁に対して接線方向に接触するため、付着の強さは垂直に衝突する場合に比べ、弱くなることが想定される。
【0134】
スラグ粒子付着防止対策としては、アトマイザー3を円筒形からなる一次熱交換塔4の中心軸上に配置し、初期の段階でスラグ粒子を一次熱交換塔4の壁面から極力遠ざけ、アトマイザーの外周部からはスラグを含まない冷却空気のみを送風するようにして、スラグ粒子は中央部を、スラグ粒子を含まない空気は壁面近傍を流れるようにしている。
【0135】
しかしながら、粒子飛行方向の分散性を計測すれば、40mの距離を飛行したスラグ粒子は、いずれ塔内でほぼ均一な分布になることが予想される。
【0136】
図8において、全スラグ粒子の50%(粒子径0.85mm以下)は10mm未満の飛行距離で1,050℃を下回るが、最も対地的に冷却が遅れる代表径3.4mmの粒子(比率5%)は1,050℃(1,323K)を下回るまでに25m(X軸参照)の飛行距離を要している。したがって、実質的に40mの全区間で対策が必要になる。
【0137】
そこで40m全区間でのスラグ粒子付着防止対策として、バグフィルターで使用されている逆圧払い落とし機構を応用する。
【0138】
2.1 逆圧払い落とし機構
図12はその仕組みを示した概略図である。
【0139】
同図において、逆圧払い落とし機構21は、一次熱交換塔4を、空気を浸透させる内筒4aと空気を浸透させない外筒4bの二重構造としており、内筒4aの内側をアトマイズ空気、スラグ粒子、冷却空気が上に向かって流れるようになっている。外筒4bの外部は図3に示したスラグ集積塔5に相当する。
【0140】
内筒4aと外筒4bに挟まれたドーナッツ状の空間は、環状の仕切板4cによって塔の高さ40mを1m毎の40区間になるよう気密に仕切られている。
【0141】
内筒4aはステンレスの金属メッシュ材を使用しており、外筒4bと内筒4aの間の空間Sに供給した空気が、そのメッシュ材を通過して内筒4a内部に染み出すように構成されている。
【0142】
そのための構成として、外筒4bと内筒4aとの間の環状空間には空気を供給するためのノズル4dが、同一リングヘッダ4e上、90°毎に4ケ所配設されている。
【0143】
高さ1mの区間に、4つのノズル4dを備えた1本のリングヘッダ4eが設置されて、合計40本のリングヘッダ4eが一次熱交換塔4に設置される。
【0144】
そして、それぞれのリングヘッダ4eが流量計FM1〜FM40と電磁弁VN1〜VN40を経て共通の低圧空気ヘッダ4fに接続され、低圧空気供給路を構成している。
【0145】
この低圧空気ヘッダ4fには冷却空気から分岐させて空気を供給し、最終的に低圧空気ヘッダ空気流量、アトマイザー3の外周部の冷却空気流量、アトマイザー3の空気流量の3者を合計して、スラグ流量との空気/スラグ比が1になるように流量を決める。
【0146】
運転中、電磁弁VN1〜VN40は開動作しており、ステンレスメッシュから空気が染み出すことで、スラグ粒子がステンレスメッシュに付着することをある程度防止する。この時、各リングヘッダ4eへ供給される流量を流量計FM1〜FM40で計測し、もしある区間の流量計指示値が低下した場合には、その区間のステンレスメッシュにスラグ粒子が付着して空気の流路が塞がれたと判断する。
【0147】
その場合、当該配管ライン上の電磁弁VNを閉動作させ、瞬間的に高圧3MPaの高圧ヘッダ4gに接続されている電磁弁VEを開動作させる。これにより、当該区間のステンレスメッシュを大流量の空気が通過し、かつ4ケ所のノズル4dから4ケ所の狭い範囲に向けて集中的に高速気流が流れるために衝撃が発生してステンレスメッシュが振動し、内筒4aの内面に付着したスラグ粒子が内側へ払い落とされる。
【0148】
なお、上記高圧ヘッダ4g、電磁弁VEを含む配管ラインは高圧空気供給路として機能する。
【0149】
2.2スラグ流量変化に対する対応性
基本的な設計では、空気/スラグ比を1として、この空気流量内でガスアトマイズを実行し、870℃の平衡温度まで空気を加熱して一次系ボイラーに送り出す仕組みになっている。
【0150】
ガスアトマイズで微粒化される粒子径も、単純化すると、アトマイズ空気/スラグ比を維持するなら、完全に一致しないとしても、ほぼ同じ粒子径が得られる。
【0151】
また、一次熱交換塔4内でスラグ粒子の冷却時間を確保しながら、粒子径5mm以上のスラグ粒子を一次熱交換塔4内で上昇させるためには、冷却空気とアトマイズ空気とを合わせた空気量を一定に維持しなければならない。
【0152】
一方、出銑中のスラグ流量は変動する。
【0153】
そこでスラグ流量が変動した場合に、その変動に合わせて運転できる範囲について説明する。
【0154】
一次熱交換塔4内での空気量を一定に維持した状態で、スラグ流量を変動させた場合の熱交換諸性能の変化を図13に示す。
【0155】
スラグ流量の最小限度を時間平均値の0.75倍に、最大限度を時間平均値の1.25倍にしているが、これが予想される運転範囲に相当する。つまり、設計値±25%の範囲しかスラグ流動変動は許されない。したがって、スラグの流量調整値が必要になる。なお、上記時間平均値とは、ある一つの高炉出銑口からの出銑鉄量を、出銑時間で割った平均時間を意味している。
【0156】
運転範囲の最小限度は一次系蒸気ボイラー8の入口空気温度(一次熱交換塔出口空気温度−70℃)の低下によって制限される。
【0157】
スラグ流量が1倍の時(設計値)、一次系蒸気ボイラー8の入口空気温度は800℃(1,073K)であるが、スラグ流量を0.75倍にすると、707℃(980K)まで約100℃低下する。
【0158】
そのため、かなり余裕を持って一次系蒸気ボイラー8を大型に設計しておかないと556℃との温度差が250℃から150℃へ約3/5になる影響を吸収することができない。
【0159】
すなわち、−25%のスラグ流量に対応するためには、空気−蒸気温度差150℃で一次系蒸気ボイラー8を設計する必要がある。
【0160】
一方、運転範囲の最大限度は一次熱交換塔4内でスラグ粒子温度が壁面付着限度の1,050℃以下まで冷却される条件で制限される。
【0161】
図14はスラグ流量1.25倍での一次熱交換塔内のスラグ粒子温度分布を示したグラフである。粒子飛行距離40mの塔出口において、辛うじて1,050℃(1,323K)に到達していることが分かる。
【0162】
図15は、空気スラグ比を一定に維持してスラグ流量を時間平均値の0.75〜1.25倍に変動させた場合における一次熱交換塔4と二次熱交換室6の熱回収効率、および一次系発電量の変化を示したグラフである。
【0163】
同グラフにおいて、一次系の熱回収効率は低スラグ流量で高く(グラフF3参照)、二次系の熱回収効率は高スラグ流量で高くなる(グラフF4参照)傾向がある。その結果、一次系蒸気由来の発電量を見ると、スラグ流量に比例して発電量は増加せずに、スラグ流量の増加に対してほぼ1/2乗に比例して発電量は増加する(グラフF5参照)。
【0164】
3 本発明の第二実施形態
ガスアトマイザー、一次熱交換塔、スラグ集積塔を含めて加圧し、空気密度ρgを大きくすることは式(6)よりρgの0.3乗に比例して冷却速度は大きくなり、式(4)より空気速度ugも小さく設計できる。すなわち、空気量を低減し、より高温で熱を回収できるという利点がある。
【0165】
図16は本発明の熱回収装置の第二実施形態を示したものであり、0.5MPaに加圧した上向きガスアトマイザーで溶融スラグのアトマイズを行い、同様に熱交換塔にてアトマイズ空気との間で熱交換を行うことにより870℃の高温空気を得て、その空気をさらに1,200℃まで加熱した後に高炉送風として利用している。
【0166】
同図において、30はシャフト炉であり、その出滓口31から排出されたスラグは一旦、スラグタンディッシュ32に貯溜される。
【0167】
このスラグタンディッシュ32の底部からは筒状のスラグ降下通路33が下向きに延設されており、スラグタンディッシュ32からスラグ降下通路33下端までの距離は20mに設定されている。
【0168】
なお、スラグ降下通路33の外側は筒状の高周波加熱装置34によって取り囲まれており、スラグ降下通路33内を移動する溶融スラグの温度降下を抑制し所定の温度に維持するようになっている。
【0169】
スラグ降下通路33の下部近傍には図3に示したアトマイザーと同じ構成からなるアトマイザー35が設けられている。
【0170】
0.5MPaに加圧されたアトマイザー35に溶融スラグを押し込むためには、溶融スラグについても同様に0.5MPaに加圧して送る必要がある。そのため、上記したように深さ20mのスラグタンディッシュ32を設置し、溶融スラグの静水圧を利用して0.5MPaに加圧している。
【0171】
上記アトマイザー35には、圧縮機36によって加圧されたアトマイズ空気が供給されるようになっており、圧縮機36は蒸気ボイラー37によって回転するタービン38によって稼働するようになっている。
【0172】
なお、符号39は、直径1mからなる円筒状の一次熱交換塔であり、溶融スラグの上向きアトマイズが行われるようになっている。また、符号Sは溶融スラグ、Mは溶鉄、40はガス清浄装置、41は熱風炉、42はサイクロン、43は溶鉄を取り出すための取出口である。
【0173】
第二実施形態によれば、図3における一次系冷却空気がもつエネルギー24MWを高炉送風に利用することで、現在稼働している熱風炉での燃料ガス(製鉄所の副成ガス)使用量を13%程度削減することが可能になる。
【0174】
そして、製鉄所の発電所でこの燃料ガスをボイラー燃料に使用して蒸気タービンで発電すれば、CDQタイプのボイラーを経て蒸気タービン発電を行う図3に記載の熱回収装置に比べ1.3倍の発電量が得られる。
【符号の説明】
【0175】
1 熱回収装置(高炉スラグ顕熱回収装置)
2 スラグタンディッシュ
3 アトマイザー(上向きのガスアトマイザー)
3a アトマイズガス噴射装置
3b 溶融スラグノズル
3b′ 上向き放出口
3c リング部品
3c′ 噴射口
3d ガス通路
4 一次熱交換塔
5 スラグ集積塔
5b,5c 位置センサ
6 二次熱交換室
7 一次系サイクロン
8 一次系蒸気ボイラー
9 集塵機
10 放散塔
11 二次系サイクロン
12 二次系蒸気ボイラー
13 ブロアー
14 発電機
15 圧縮機
16 タービン
17 回転軸
18 ゲート
19 ゲート弁
20 冷却空気ノズル
21 逆圧払い落とし機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の銑鉄製造工程において副生成物として発生する高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができる高炉スラグ顕熱回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉では、10tの溶銑が生産される間に約1,500℃の高炉スラグが3t発生している。この高炉スラグは主にセメントの原料として利用されるが、その場合、全高炉スラグの95%以上がガラス化されている必要がある。
【0003】
高炉スラグを急激に冷却してガラス化(非晶質構造化)するには、図1に示す冷却速度が必要になる。
【0004】
すなわち、約1,400℃の溶融スラグを1,200℃まで21℃/sec以上、1,200℃から1,100℃までを6.0℃/sec以上、1,100℃から1,000℃までを2.5℃/sec以上そして1,000℃から850℃までを0.3℃/sec以上の冷却速度で冷却する必要がある。
【0005】
上記冷却速度を得るために、現状では一般に高炉スラグに水を吹きつけて破砕する水砕処理が採られており、高炉スラグの約90%がこの水砕処理によって75μm〜5mmの粒子に急冷破砕されている。
【0006】
上記水砕処理では高炉スラグと冷却水との熱交換によって50〜70℃の低温の廃水が大量に発生するが、この水温のレベルでは発電に使用することもできないという問題がある。
【0007】
投入した熱エネルギーが仕事や発電に利用される効率は、最大でも図2に示すカルノー効率を超えない。つまり、より高温で熱を回収する方が有利である。
【0008】
そこで、高炉スラグが顕熱として持っているエネルギーを高温で回収するための方法として空気噴流によるスラグの微粒化が数多く考案され続けている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−132546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、空気噴流によるスラグの微粒化によって高炉スラグの顕熱を回収する熱回収装置は現状では実用化されていない。
【0011】
その要因として、(1)水と高炉スラグの熱伝達係数と比較して、一般的に空気とスラグ粒子の熱伝達係数は1/10程度しかないために、図1に示した冷却速度を満足できないことが多いこと、(2)冷却速度を満足させるためには大量の冷却空気が必要になるため、1,500℃の高温で高炉から流出するスラグから熱風として回収される空気温度が約500℃にまで低下してしまい、最終的に発電のための蒸気として得られるのは200℃程度の低圧蒸気となって、図2のカルノー効率からそれほど高い効率で発電できないことが挙げられる。
【0012】
本発明は以上のような従来の熱回収装置における課題を考慮してなされたものであり、高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができる高炉スラグ顕熱回収装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、
重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザーと、
このガスアトマイザーから上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる熱交換塔とを備えてなる高炉スラグ顕熱回収装置である。
【0014】
本発明において、上記噴射ノズルの外周部に冷却用空気を上向きに噴射するためのノズルを配置することが好ましい。
【0015】
本発明において、上記熱交換塔は、下部から上部に向かって塔の径方向断面積が拡大されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、上記熱交換塔内を流れ、上記熱交換塔の上部から混合状態で噴射される上記アトマイザーガスと上記スラグ粒子とを沈降分離する分離塔を備えることができる。
【0017】
本発明において、上記分離塔の下部にゲート弁を有するとともに上記分離塔内に堆積した上記スラグ粒子の堆積高さを検出する位置センサを設け、上記ゲート弁を、上記位置センサから出力される信号に基づいて開閉動作させてスラグ排出量を調節すれば、スラグを常時、一定高さ分、分離塔の下部に堆積させることができるため、空気の漏れを防止することができる。
【0018】
本発明において、上記熱交換塔を、空気を透過させる内筒と空気を透過させない外筒を二重に配置した二重筒とし、上記内筒と上記外筒の間の環状空間を高さ方向に複数の部屋に仕切る仕切り板を設け、開閉弁と流量計を介して低圧空気を上記各部屋に供給する低圧空気供給路と、開閉弁を有し高圧空気を上記各部屋に供給する高圧空気供給路とを備え、上記流量計によって計測される低圧空気の流量が閾値を下回った時に上記高圧空気供給路の開閉弁を開動作させれば、上記熱交換塔の内壁にスラグ粒子が付着することを防止できる。
【0019】
本発明において、上記高圧空気供給路は、上記環状空間に向けて高圧空気を噴射する空気ノズルをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空気噴流を用いたスラグの微粒化によってガラス質スラグ粒を得るとともに、高炉スラグの顕熱を効率良く回収することができるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る溶融スラグのガラス化に必要な冷却速度を示すグラフである。
【図2】本発明に係るカルノー効率を示すグラフである。
【図3】本発明に係る高炉スラグ顕熱回収装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3のアトマイザーおよびその周辺部の拡大図である。
【図5】図4のアトマイザーに適用される加速ノズルの構成を示す拡大図である。
【図6】上向きアトマイズによる噴射状態を撮影した写真である。
【図7】アトマイズされるスラグ粒子の抗力係数を示したグラフである。
【図8】一次熱交換塔内での空気温度と各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【図9】一次熱交換塔内での各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【図10】粒子径毎の粒子温度と冷却速度の関係を示したグラフである。
【図11】ベルトコンベア上に堆積したスラグと冷却空気の温度変化を示したグラフである。
【図12】本発明に係る逆圧払い落とし機構の構成を示す該略図である。
【図13】スラグ流量を変動させた場合の熱交換諸性能の変化を示すグラフである。
【図14】スラグ流量1.25倍での一次熱交換塔内のスラグ粒子温度分布を示したグラフである。
【図15】空気スラグ比を一定に維持してスラグ流量を変化させた場合の効率と発電量変化を示したグラフである。
【図16】本発明の熱回収装置の第二実施形態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0023】
1 高炉スラグ顕熱回収装置
1.1 高炉スラグ顕熱回収装置の全体構成と運転方法
図3は、高炉スラグ顕熱回収装置(以下、熱回収装置と略称する)1の構成を示したブロック図である。
【0024】
同図において熱回収装置1は、スラグタンディッシュ2と、重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射するガスアトマイザー(以下、アトマイザーと略称する)3と、そのアトマイザー3から上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる一次熱交換塔(熱交換塔)4と、その一次熱交換塔4内を流れ一次熱交換塔4の上部から混合状態で噴射されるアトマイザーガスとスラグ粒子と沈降分離するスラグ集積塔(分離塔)5および二次熱交換室6を備えている。
【0025】
上記一次熱交換塔4も二次熱交換室6も、スラグ粒子に空気を接触させてスラグ粒子を冷却(このとき空気は加熱されて、熱交換される)することを目的にしており、一次熱交換塔4で加熱された空気と二次熱交換室6で加熱された空気は、それぞれ独立して一次系ラインL1と二次系ラインL2に流れるようになっている。
【0026】
一次系ラインL1については微粉を回収するための一次系サイクロン7、蒸気に熱を渡すための一次系蒸気ボイラー8、集塵機9、放散塔10を経て大気へ戻され、二次系ラインL2については、二次系サイクロン11、二次系蒸気ボイラー12、ブロアー13、集塵機9、放散塔10を経て大気へ戻されるようになっている。
【0027】
なお、本実施形態における上記一次熱交換塔4は、下部から上部に向けて断面積が1.5倍程度に拡大しており、直径1.3m×高さ40m程度の塔から構成されている。
【0028】
一次系ラインL1および二次系ラインL2の両系統にて一次系蒸気ボイラー8、二次系蒸気ボイラー12で空気によって加熱された蒸気の状態を比較すると、一次熱交換塔系統(一次系ラインL1)の空気温度が高いことにより、高温・高圧の高エンタルピの状態にある。
【0029】
したがって、一次系では発電機14により電力としてエネルギーを回収し、一次系と比較して低エンタルピの状態にある二次熱交換室系統(二次系ラインL2)では、一次系のアトマイザー3に高圧アトマイズ空気(このアトマイズ空気が一次系の熱交換媒体空気になる)Aaを送るための圧縮機15の動力、および二次熱交換室6に二次系の熱交換媒体空気を送るために大気を導入するとともに集塵機9を経て放散塔10に送るブロアー13の動力を供給するために、タービン16にて動力としてエネルギーを回収する。
【0030】
すなわち、一つのタービン16から共通の回転軸17を介して一次系の圧縮機15と二次系のブロアー13へそれぞれ動力を送るようになっている。
【0031】
実際の始動、運転、停止では、まず系外から電力を供給してブロアー13、圧縮機15を稼働させ、アトマイザー3と二次熱交換室6にそれぞれ空気を送る。
【0032】
次にスラグタンディッシュ2に高炉から溶融スラグを供給し、アトマイザー3よりも低い位置にある徐冷設備(図示しない)へのゲート18を開から閉へ切り替える。
【0033】
それにより、アトマイザー3へ溶融スラグが供給されて、アトマイズが開始される。
【0034】
アトマイザー3でアトマイズされたφ5mm以下のスラグ粒子は、さらに上向きのガスによって一次熱交換塔4内を上昇し、最終的にスラグ集積塔5内を落下する。
【0035】
次いで、スラグ粒子はスラグ集積塔5内からゲート弁19を経て二次熱交換室6内を移動し、さらに二次系熱交換媒体空気によって冷却され、大気温度+5℃程度の温度で排出される。
【0036】
通常、高炉の運転では複数ある出銑口を約3時間毎に切り替えながら、途切れることなく連続出銑を行っており、これら複数ある出銑口を樋で一箇所のタンディッシュに接続することにより、休風時以外は連続運転することが可能である。
【0037】
休風などによる出銑の停止時には、ゲート18を開けて徐冷設備へ溶融スラグを送ればアトマイザー3へのスラグ供給が停止する。
【0038】
スラグ供給が停止されてから、ブロアー13、圧縮機15を停止することで、アトマイザー3の運転を終了できる。
【0039】
1.2 アトマイザー
図4は、図3に示したアトマイザー3およびその周辺部の拡大図である。
【0040】
図4において、アトマイザー3は、一次熱交換塔4の中心に配置されアトマイズガスを上向きに噴射するアトマイズガス噴射装置3aおよび溶融スラグを上向きに放出する溶融スラグノズル3bを有し、アトマイズガス噴射装置3aの周囲に、冷却空気を上向きに噴射する冷却空気ノズル20が備えられている。なお、図中Sは落下してきたスラグ粒子を示している。
【0041】
アトマイズガス噴射装置3aから溶融スラグに向けて噴射されるアトマイズ空気Aaと、放出される溶融スラグから離れた位置で一次熱交換塔4の内壁近傍から直上に向けて筒状に噴射される冷却空気Caの合計は、溶融スラグとほぼ同一の質量流量になるように調整される。
【0042】
具体的には、アトマイズによる最大粒子径が5mmになるように、まずアトマイザーが設計されてアトマイザー空気流量が決定され、次いで合計質量流量がスラグ質量流量と一致するように冷却空気ノズル21のノズル径とノズル穴数が調整される。
【0043】
しかし、アトマイザー3としては速やかにスラグ粒子と熱交換を行い、かつ運転の余裕度を確保することが望ましいため、極力少ない空気流量で最大粒子径5mmまで溶融スラグをアトマイズできる高効率のアトマイザーを採用すべきである。
【0044】
そこで、本熱回収装置では本願出願人によって先に出願した特許第4268193号に記載されている加速ノズルの一段タイプをアトマイザーとして使用する。
【0045】
図5は上記加速ノズルの構成を拡大して示した縦断面図である。
【0046】
同図において、アトマイズガス噴射装置3aは、上向き放出口3b′を備えた円錐形状の溶融スラグノズル3bと、上向き放出口3b′に隣接してその周囲に配置されるリング部品3cとから主として構成されている。リング部品3cの中心に形成された噴射口3c′は下向きに拡径されるように断面円弧状に形成されている。図中、3dはアトマイズ空気Aaが導入されるガス通路である。
【0047】
上記ガス通路3dに供給されたアトマイズ空気Aaは、溶融スラグノズル3bの外壁とリング部品3cの噴射口3c′との間に形成されるスロート部Tを通過することによって高速ガス流を形成し、その高圧ガス流によって溶融スラグを微粒化し、その微粒化したスラグ粒子を噴射口3c′から噴射するようになっている。
【0048】
図6は溶融スラグを水で模擬して運転を行った時の上向き噴射状態を撮影した写真であり、アトマイズされた粒子がすぐには拡がらずに直進性が強いことを示している。
【0049】
上記構成を有するアトマイザー3は、噴流を1点に結ぶ従来の多孔ノズル列タイプのアトマイザーと比較して、約1/3の空気流量で同等のアトマイズと粒子冷却が可能になるという有利な特徴を持っている。
【0050】
1.3 一次熱交換塔
本発明のスラグ顕熱回収装置1において最もユニークな特徴は、重力方向と反対方向にスラグ粒子を飛行させる一次熱交換塔4である。
【0051】
この一次熱交換塔4は、図1で説明した冷却速度を満足しながら、図2で説明した、ほぼ効率が最大値に漸近する550℃の蒸気を得るため、850℃の熱風でのエネルギー回収を行うことを実現することを目的として構成されている。
【0052】
非晶質では潜熱が存在しないので、一般的に低レイノルズ数での冷却速度dTs/dtは式(1)で記述される。
【0053】
【数1】
ここで記号の意味は、T:温度、t:時間、Re:レイノルズ数、λ:熱伝導率、D:粒子径、ρ:密度、Cp:定圧比熱、u:速度、μ:粘性係数。添え字の意味は、g:ガス(空気)、s:スラグである。
【0054】
冷却速度は空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|の0.6乗に比例することが分かる。
【0055】
他の条件が物性値や温度であるために基本的に全て同一であり、変更困難であることから、ガラス化に必要な冷却速度を得るためには、空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|を大きくする以外にない。
【0056】
そこで平衡状態での空気とスラグ粒子間の相対速度差|ug−us|について、運動方程式を解くことにより、式(2)が得られる。
【0057】
【数2】
【0058】
ここで記号の意味は、g:重力加速度、Cd:スラグ粒子の抗力係数。重力加速度gは速度uと同一方向を正の方向としている。抗力係数Cdはもしスラグ粒子が球形であれば、φ5mm粒子のように大きな粒子(レイノルズ数が大きな条件)になれば、Cd=0.44のように一定値に漸近する値である。正確には図7に示すように、レイノルズ数の関数になる。
【0059】
重力加速度gが正の場合(速度と重力の向きが同一、つまり下向きガスアトマイズに相当)と負の場合(速度と重力の向きが反対、つまり上向きガスアトマイズに相当)に場合分けして式(2)を解くと、式(3)と式(4)のようになる。
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
式(3)と式(4)の比較から分かるように、式(3)の下向きガスアトマイズでは粒子速度usは空気速度ugよりも大きくなり、実現するには非常に長い粒子の飛行距離が必要になる。他方、式(4)の上向きガスアトマイズでは、粒子速度usを
【0063】
【数5】
に設計することも可能であり、上向きアトマイザーと比較して短い飛行距離で目標達成した装置を実現できる。
【0064】
式(1)と式(2)から相対速度差|ug−us|を消去すると式(6)が得られる。
【0065】
【数6】
【0066】
式(6)より、最終的に冷却速度は粒子径Dsの1.1乗に反比例することから、想定している粒子の中で最も径が大きいφ5mmが、ここでは最も冷却速度が小さくなるためにガラス化が難しくなることが分かる。
【0067】
なお、アトマイザー3、一次熱交換塔4、スラグ集積塔5を含めて加圧し、空気密度ρgを大きくすることは式(6)よりρgの0.3乗に比例して冷却速度は大きくなり、式(4)より空気速度ugも小さく設計できる(空気量を低減し、より高温で熱を回収できる)という利点がある。
【0068】
この点については、後述する高炉送風に適用した第二実施形態で説明する。
【0069】
式(4)において、最も大きな5mm粒子(Ds=0.005[m])を一次熱交換塔4内で静止させる条件(us=0)で設計を行うと、一次熱交換塔4内での空気速度ugは式(7)により与えられる。
【0070】
【数7】
【0071】
他方、一次熱交換塔4の断面積をAとすると、一次熱交換塔4内での空気質量流量ドットmgは塔内のどの高さでも一定であることから、式(7)と連成させて、式(8)が成立する。
【0072】
【数8】
【0073】
式(8)を変形することにより、式(9)が得られる。
【0074】
【数9】
【0075】
空気温度Tgは一次熱交換塔4内で一定ではなく、スラグ粒子が冷却されると空気温度は増加するので、塔内の高さ方向に空気温度Tgは増加し、空気密度ρgは減少する。粒子速度usを一定に維持して、一次熱交換塔4の高さを必要最低限に抑えるためには、式(9)の関係に従って、一次熱交換塔4の断面積を、減少する空気密度ρgの1/2乗に反比例させて増加させるのが効果的である。
【0076】
具体的には図3において、アトマイザー空気の温度は180℃から870℃に上昇し、それにより空気密度は1.17kg/m3から0.461kg/m3へ初期の約40%まで低下する。そこで、式(9)に従い、一次熱交換塔4の断面積を底部から頂部へ向かって、頂部の断面積が底部の断面積の1.5倍になるように、徐々に拡大する管を用いる。
【0077】
図8は、粒子と空気のエネルギー方程式を連成させて解いた、一次熱交換塔4内での空気と粒子の温度変化の計算結果を示したグラフである。
【0078】
この結果から、一次熱交換塔4の高さ(粒子飛行距離)として40m程度あれば、粒径0.075〜5.0mmのどの粒子径でも空気温度とほぼ同じ平衡温度に到達することがわかる。
【0079】
図9は一次熱交換塔4内での各粒子径毎の粒子温度時刻歴を示したグラフである。
【0080】
図10は粒子径毎の粒子温度と冷却速度の関係、および図1より加工した、スラグ温度と必要冷却速度の関係を示したグラフである。
【0081】
図10において、粒子径5mm(図中、F1参照)では必要冷却条件を満足できておらず、粒子径3.375mm(図中、F2参照)が冷却速度の必要条件を満足できる最大径であることが分かる。
【0082】
ガスアトマイズの段階で目標としている粒径分布では、粒子径2mm以上の比率は5%、粒子径3.375mm以上は2%、粒子径5mm以上は0%である。したがって、一次熱交換塔4の性能としてガラス化率98%が予想され、セメント材仕様のガラス化率95%以上を満足できると予測される。
【0083】
1.4 スラグ集積塔
スラグ集積塔5では重力を利用してスラグ粒子を下部に堆積させて空気と分離し、空気をスラグ集積塔5の上部から一次系サイクロン7を経て一次系蒸気ボイラー8へ送り、他方、スラグ粒子のみを第二熱交換室6へ送り出す準備を行う。考慮しなければならない点は下記(a)、(b)の2点である。
【0084】
(a)空気と共に巻き上げられる粒子を最小限にすること
空気に随伴したスラグ粒子は二次熱交換室6へ送られることなく、一次系サイクロン7で回収され、このスラグ粒子が860℃から冷却される分の顕熱は熱回収に寄与しないので、最小限にする必要がある。そこで、スラグ集積塔5の天井部には流体抵抗を与えて流れを均一にするための多孔板5a(図3参照)を設置し、全面から均一に0.85m/sの速度で空気を吸引するように設計する。
【0085】
この時に空気速度と静止する粒子径の関係は式(7)によって表される。また、図7に示された抗力係数Cdは、レイノルズ数の関数として、1<Re<104の区間では式(10)によって近似される。
【0086】
【数10】
【0087】
スラグ粒子はその内部に気泡を含む可能性が高いため、粒子密度ρsにスラグの真密度2,600kg/m3を用いると危険側の評価になる。そこで、空隙を含んで充填されたスラグ粒子の単位容積質量である1,300kg/m3を使用して安全側の評価にする。
【0088】
式(7)と式(10)を連立させ、ug=0.85、us=0として理論上はスラグ集積塔5内に静止する粒子径を求めると、Ds=0.25mmが得られる。
【0089】
つまり粒子径0.25mm以下は一次系サイクロン7側へ空気と共に送られることになる。ガスアトマイズにて目標にしている粒子径0.25mm以下の比率は5%であり、粒子径0.25mm以下の860℃スラグ粒子が持ち出す顕熱は1.4MWになる。
【0090】
(b)スラグ集積塔から二次熱交換室へ漏れる空気を最小限にすること
スラグ集積塔5内の圧力が50,000Pa(G)に対して、二次熱交換室6内の圧力が−300Pa(G)であることから、スラグ集積塔5内から二次熱交換室6内へスラグ粒子の径路内を空気が漏れて、一次系での発電量を低下させる可能性がある。
【0091】
それを防止するため、スラグ集積塔5内の下部では常時、スラグを一定高さだけ堆積させて、そのスラグ粒子充填層Pの流体抵抗により空気の漏れを防止する。
【0092】
まず初めに、スラグ粒子の流量を調節するゲート弁19の開口面積を求める。ゲートをオリフィスでモデル化して、スラグ粒子を28kg/sの質量流量で通過させるオリフィス径D0をBeverlooの式
【0093】
【数11】
より求めると、D0=0.171mになる。嵩密度1,300kg/m3のスラグ粒子が嵩速度0.94m/sでオリフィスを通過していることになる。
【0094】
次にエルガン式を用いて、ゲート弁19上のスラグ粒子充填層Pの圧力損失より、充填高さと漏れ空気流量の関係を求める。エルガンの式(12)より、
【0095】
【数12】
【0096】
充填高さLと空気流量ドットmg,leakの関係は式(13)で表される。
【0097】
【数13】
ここで、Δp:スラグ集積塔と二次熱交換室の圧力差、ε:充填層空隙率である。
【0098】
式(13)より、例えば充填高さ0.5mでの漏れ空気流量ドットmg,leakはスラグ集積塔5内空気流量の0.07%になることが分かる。
【0099】
したがって、スラグ集積塔5の下部に500mm程度のスラグ粒子を常時堆積させておけば、漏れ空気量を実質的に無視できるレベルまで低減できる。
【0100】
本実施形態の熱回収装置1では、位置センサとしての上限ファイバーセンサー5bおよび下限ファイバーセンサー5c(図3参照)を、スラグ集積塔5の下部に上下に離した状態で取り付けてスラグ充填高さの上限と下限の信号を出力させ、上限を超えればゲート弁19を開動作させ、下限を切ればゲート弁19を閉動作させ、それにより、スラグ粒子充填層Pの高さが下限ファイバーセンサー5cと上限ファイバーセンサー5bの間に位置するように制御する。
【0101】
なお、高炉スラグに関する非晶質スラグ粒子間の付着温度に関する調査によると、非晶質スラグ間の付着温度の下限は950℃であるので、本熱回収装置1ではスラグ集積塔5の下部にスラグ粒子が堆積する間において860℃のスラグ粒子同士が付着結合することはない。
【0102】
1.5 二次熱交換室
(a)装置の概要
二次熱交換室6では平均温度860℃で一次熱交換室としての一次熱交換塔4からスラグ集積塔5を介して流入するスラグ粒子の顕熱をさらに回収して、主に熱回収装置1全体の動力(アトマイザーガスの圧縮動力と二次熱交換室6内の冷却空気送風動力)を賄うことを目的にしている。
【0103】
図1のグラフに示した冷却速度に従って一次熱交換塔4ではスラグ粒子温度を1,000℃以下まで低下させているので、二次熱交換室6では最低限0.3℃/sの冷却速度があれば良いことになる。
【0104】
したがって、ベルトコンベア6a〜6d(図3参照)に堆積させて搬送している間に、二次冷却空気Aa′を堆積層に透過させることで、十分にこの程度の冷却速度は得られる。
【0105】
図3に示したように、ベルトコンベア6a〜6dは、上から下へスラグ粒子が移動するように、高さ方向に多段に配置されており、各ベルトは通気可能なスクリーンから構成されている。ベルトとスラグ堆積層を通過して二次冷却空気Aa′は下から上へ流れるので、二次熱交換室6の側壁とベルトの隙間が最小になるように隙間詰めを行う。
【0106】
具体的には、幅5m×長さ23m弱のベルトコンベアを上下方向4段で組み立てる。
【0107】
したがって、二次熱交換室6内の水平面断面は5×23m程度であり、断面積は115m2になる。
【0108】
また、ベルトコンベア6a〜6dのベルト総延長は92mになり、スラグが二次熱交換室6内に流入してから室外に搬出されるまでの滞留時間として250秒を計画しているので、ベルトの移動速度は0.368m/s(22m/min)になる。
【0109】
上記ベルトとしては、空気を通過させるために多孔でありながらスラグ粒子を保持することができるように、100メッシュのステンレススクリーン(目開き0.15mm程度)を使用する。
【0110】
各段のベルト6a〜6d上に堆積するスラグの総嵩容積は4.6m3、質量合計は6.7kgになる。この時のスラグの平均ベルト堆積嵩高は10mmである。
【0111】
スラグの単位堆積質量より、空隙率εは43%程度になる。冷却過程の計算より、空気/スラグ比は1.23になる。したがって、二次熱交換室6内での冷却空気平均上昇速度は0.6m/s程度である。
【0112】
スラグはベルトコンベアに載せたまま室外に搬出されることから、二次熱交換室6内を大気圧に対して負圧とし、二次熱交換室6外への発塵を防止する必要がある。したがって、ブロアー13の吸引側に二次熱交換室6を設置する。
【0113】
(b)熱交換過程計算
4段×堆積厚10mmの合計40mm厚さについて、スラグ粒子は上から下へ、二次冷却空気(流体)Aa′は下から上へ、二相が向流式で移動する向流熱交換において、スラグ厚み方向の一次元流れと熱伝達の計算を行った。スラグ粒子−流体間の熱伝達には、関らによる低レイノルズ数での実験式(14)を用いた。
【0114】
【数14】
【0115】
図11は、ベルトコンベア上に堆積したスラグ粒子の厚み方向の温度分布と、冷却空気の厚み方向温度分布を示したグラフである。
【0116】
250秒間かけて温度が800℃低下しているので、平均でも3.2℃/sの冷却速度を達成している。ベルトコンベアでのスラグ粒子の流れと冷却空気の流れを対向させた一次元の向流式熱交換を仮定したこの計算モデルでは上段から排出される冷却空気の最高温度には、1,044K(771℃)が予想される。スラグ粒子側の排出温度には冷却空気入口温度+5℃が予想されるので、ほぼ完全に顕熱を回収できている。
【0117】
(c)堆積層の圧力損失
100メッシュスクリーンのベルトを空塔速度0.6m/sで空気が通過する際の圧力損失は、ベルトコンベア6a〜6dを4段構成にしても合計25Pa程度であり、スラグ粒子堆積層での圧力損失の方が支配的である。
【0118】
エルガンの式(12)を用いて合計40mmのスラグ粒子堆積層を、温度と共に空気の密度と粘性が変化することを考慮して計算すると、250Paであった。したがって、ベルトの圧力損失を合わせて300Pa程度が予想される。この300Paが上段ベルトコンベア6a上部空間での負圧に相当する。一方、下段側ベルトコンベア6d部分ではほぼ大気圧に等しく、冷却が終了したスラグ粒子のスムースな排出が可能になる。
【0119】
1.6 一次系ボイラーと発電機
一次系蒸気ボイラー8と発電機14は、製鉄所で実際に使用されているコークス乾式消火設備(CDQ)の仕様とほぼ同一になる。
【0120】
詳しくは、乾留が終了した赤熱コークス(1,050℃)がCDQチャンバーを降下しながら下部から送られた窒素ガスにより冷却される。
【0121】
窒素ガスは980℃まで加熱されてボイラーに送られ、そこで蒸気へ熱交換し、蒸気は発電機用タービンを回している。
【0122】
上記CDQは窒素ガスを用いた非開放型循環系になっているが、スラグ顕熱回収設備では、一次熱交換塔4内で、スラグ粒子を決められた冷却速度を守って冷却するために0.3MPaの高圧まで圧縮機で断熱圧縮した比較的低温(200℃以下)の空気が必要であることから、循環系を組んで高温排気空気を取り込んで、そのまま断熱圧縮して使用することができず、この場合には空気冷却機が必要になる。したがって、経済性の理由から開放型のシステムを組んでいる。
【0123】
表1に、CDQと熱回収装置1における一次系蒸気ボイラーから発電までの対比を示す。
【0124】
CDQでは熱交換媒体温度が980℃であるのに対し、本実施形態における熱回収装置1の一次系蒸気ボイラー8では870℃であり、100℃低い点が相違しているが、ボイラーのチューブ本数を増加させることで、熱交換器の性能を上げ、製鉄所のボイラー出口蒸気条件と一致させることが可能である。ボイラー以降は蒸気を合流させることで、現有するタービンと発電機を利用することができる。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示すように、本実施形態の熱回収装置1により6.7MW/高炉の発電が可能になると考えられる。この発電量に相当する分だけ、CO2排出寄与の大きい石炭を燃料源とするボイラー・発電機を休止させれば、このボイラー燃料の購入費用を削減することができ、CO2排出も削減することができる。
【0127】
1.7 二次系蒸気ボイラーとタービン
二次系蒸気ボイラー12では、700℃の空気から400℃、4MPaの過熱蒸気を作り出し、タービンで圧縮機を回すための動力を効率26%で作り出すようになっている。
【0128】
1.8 圧縮機
圧縮機15は高炉送風と同じ圧力レンジであることから、同じタイプの軸流圧縮機を用いることができる。
【0129】
1.9 ブロワー
ブロワー13は1,000〜5,000Pa程度の圧力で足りるため、ターボファンブロワを使用することができる。
【0130】
2 第一熱交換塔内壁へのスラグ粒子付着防止対策
飛行中の高炉スラグ粒子が粒子間で付着することが可能な最低温度と、飛行中の高炉スラグ粒子が衝突板に衝突した際に衝突板に付着することが可能な最低温度については既に実験より求めている。それによると、粒子間の付着が生じる最低温度は950℃、衝突板に付着が生じる最低温度は1,050℃であった。
【0131】
したがって本実施形態の熱回収装置においても、一次熱交換塔4内を上昇する間に、1,050℃以上のスラグ粒子については一次熱交換塔4の内壁に付着する可能性がある。
【0132】
図7に、その1,050℃のラインを破線で示している。
【0133】
ただし、上記の実験はスラグ粒子を衝突板に対してほぼ垂直に衝突させた場合であり、本装置では内壁に対して接線方向に接触するため、付着の強さは垂直に衝突する場合に比べ、弱くなることが想定される。
【0134】
スラグ粒子付着防止対策としては、アトマイザー3を円筒形からなる一次熱交換塔4の中心軸上に配置し、初期の段階でスラグ粒子を一次熱交換塔4の壁面から極力遠ざけ、アトマイザーの外周部からはスラグを含まない冷却空気のみを送風するようにして、スラグ粒子は中央部を、スラグ粒子を含まない空気は壁面近傍を流れるようにしている。
【0135】
しかしながら、粒子飛行方向の分散性を計測すれば、40mの距離を飛行したスラグ粒子は、いずれ塔内でほぼ均一な分布になることが予想される。
【0136】
図8において、全スラグ粒子の50%(粒子径0.85mm以下)は10mm未満の飛行距離で1,050℃を下回るが、最も対地的に冷却が遅れる代表径3.4mmの粒子(比率5%)は1,050℃(1,323K)を下回るまでに25m(X軸参照)の飛行距離を要している。したがって、実質的に40mの全区間で対策が必要になる。
【0137】
そこで40m全区間でのスラグ粒子付着防止対策として、バグフィルターで使用されている逆圧払い落とし機構を応用する。
【0138】
2.1 逆圧払い落とし機構
図12はその仕組みを示した概略図である。
【0139】
同図において、逆圧払い落とし機構21は、一次熱交換塔4を、空気を浸透させる内筒4aと空気を浸透させない外筒4bの二重構造としており、内筒4aの内側をアトマイズ空気、スラグ粒子、冷却空気が上に向かって流れるようになっている。外筒4bの外部は図3に示したスラグ集積塔5に相当する。
【0140】
内筒4aと外筒4bに挟まれたドーナッツ状の空間は、環状の仕切板4cによって塔の高さ40mを1m毎の40区間になるよう気密に仕切られている。
【0141】
内筒4aはステンレスの金属メッシュ材を使用しており、外筒4bと内筒4aの間の空間Sに供給した空気が、そのメッシュ材を通過して内筒4a内部に染み出すように構成されている。
【0142】
そのための構成として、外筒4bと内筒4aとの間の環状空間には空気を供給するためのノズル4dが、同一リングヘッダ4e上、90°毎に4ケ所配設されている。
【0143】
高さ1mの区間に、4つのノズル4dを備えた1本のリングヘッダ4eが設置されて、合計40本のリングヘッダ4eが一次熱交換塔4に設置される。
【0144】
そして、それぞれのリングヘッダ4eが流量計FM1〜FM40と電磁弁VN1〜VN40を経て共通の低圧空気ヘッダ4fに接続され、低圧空気供給路を構成している。
【0145】
この低圧空気ヘッダ4fには冷却空気から分岐させて空気を供給し、最終的に低圧空気ヘッダ空気流量、アトマイザー3の外周部の冷却空気流量、アトマイザー3の空気流量の3者を合計して、スラグ流量との空気/スラグ比が1になるように流量を決める。
【0146】
運転中、電磁弁VN1〜VN40は開動作しており、ステンレスメッシュから空気が染み出すことで、スラグ粒子がステンレスメッシュに付着することをある程度防止する。この時、各リングヘッダ4eへ供給される流量を流量計FM1〜FM40で計測し、もしある区間の流量計指示値が低下した場合には、その区間のステンレスメッシュにスラグ粒子が付着して空気の流路が塞がれたと判断する。
【0147】
その場合、当該配管ライン上の電磁弁VNを閉動作させ、瞬間的に高圧3MPaの高圧ヘッダ4gに接続されている電磁弁VEを開動作させる。これにより、当該区間のステンレスメッシュを大流量の空気が通過し、かつ4ケ所のノズル4dから4ケ所の狭い範囲に向けて集中的に高速気流が流れるために衝撃が発生してステンレスメッシュが振動し、内筒4aの内面に付着したスラグ粒子が内側へ払い落とされる。
【0148】
なお、上記高圧ヘッダ4g、電磁弁VEを含む配管ラインは高圧空気供給路として機能する。
【0149】
2.2スラグ流量変化に対する対応性
基本的な設計では、空気/スラグ比を1として、この空気流量内でガスアトマイズを実行し、870℃の平衡温度まで空気を加熱して一次系ボイラーに送り出す仕組みになっている。
【0150】
ガスアトマイズで微粒化される粒子径も、単純化すると、アトマイズ空気/スラグ比を維持するなら、完全に一致しないとしても、ほぼ同じ粒子径が得られる。
【0151】
また、一次熱交換塔4内でスラグ粒子の冷却時間を確保しながら、粒子径5mm以上のスラグ粒子を一次熱交換塔4内で上昇させるためには、冷却空気とアトマイズ空気とを合わせた空気量を一定に維持しなければならない。
【0152】
一方、出銑中のスラグ流量は変動する。
【0153】
そこでスラグ流量が変動した場合に、その変動に合わせて運転できる範囲について説明する。
【0154】
一次熱交換塔4内での空気量を一定に維持した状態で、スラグ流量を変動させた場合の熱交換諸性能の変化を図13に示す。
【0155】
スラグ流量の最小限度を時間平均値の0.75倍に、最大限度を時間平均値の1.25倍にしているが、これが予想される運転範囲に相当する。つまり、設計値±25%の範囲しかスラグ流動変動は許されない。したがって、スラグの流量調整値が必要になる。なお、上記時間平均値とは、ある一つの高炉出銑口からの出銑鉄量を、出銑時間で割った平均時間を意味している。
【0156】
運転範囲の最小限度は一次系蒸気ボイラー8の入口空気温度(一次熱交換塔出口空気温度−70℃)の低下によって制限される。
【0157】
スラグ流量が1倍の時(設計値)、一次系蒸気ボイラー8の入口空気温度は800℃(1,073K)であるが、スラグ流量を0.75倍にすると、707℃(980K)まで約100℃低下する。
【0158】
そのため、かなり余裕を持って一次系蒸気ボイラー8を大型に設計しておかないと556℃との温度差が250℃から150℃へ約3/5になる影響を吸収することができない。
【0159】
すなわち、−25%のスラグ流量に対応するためには、空気−蒸気温度差150℃で一次系蒸気ボイラー8を設計する必要がある。
【0160】
一方、運転範囲の最大限度は一次熱交換塔4内でスラグ粒子温度が壁面付着限度の1,050℃以下まで冷却される条件で制限される。
【0161】
図14はスラグ流量1.25倍での一次熱交換塔内のスラグ粒子温度分布を示したグラフである。粒子飛行距離40mの塔出口において、辛うじて1,050℃(1,323K)に到達していることが分かる。
【0162】
図15は、空気スラグ比を一定に維持してスラグ流量を時間平均値の0.75〜1.25倍に変動させた場合における一次熱交換塔4と二次熱交換室6の熱回収効率、および一次系発電量の変化を示したグラフである。
【0163】
同グラフにおいて、一次系の熱回収効率は低スラグ流量で高く(グラフF3参照)、二次系の熱回収効率は高スラグ流量で高くなる(グラフF4参照)傾向がある。その結果、一次系蒸気由来の発電量を見ると、スラグ流量に比例して発電量は増加せずに、スラグ流量の増加に対してほぼ1/2乗に比例して発電量は増加する(グラフF5参照)。
【0164】
3 本発明の第二実施形態
ガスアトマイザー、一次熱交換塔、スラグ集積塔を含めて加圧し、空気密度ρgを大きくすることは式(6)よりρgの0.3乗に比例して冷却速度は大きくなり、式(4)より空気速度ugも小さく設計できる。すなわち、空気量を低減し、より高温で熱を回収できるという利点がある。
【0165】
図16は本発明の熱回収装置の第二実施形態を示したものであり、0.5MPaに加圧した上向きガスアトマイザーで溶融スラグのアトマイズを行い、同様に熱交換塔にてアトマイズ空気との間で熱交換を行うことにより870℃の高温空気を得て、その空気をさらに1,200℃まで加熱した後に高炉送風として利用している。
【0166】
同図において、30はシャフト炉であり、その出滓口31から排出されたスラグは一旦、スラグタンディッシュ32に貯溜される。
【0167】
このスラグタンディッシュ32の底部からは筒状のスラグ降下通路33が下向きに延設されており、スラグタンディッシュ32からスラグ降下通路33下端までの距離は20mに設定されている。
【0168】
なお、スラグ降下通路33の外側は筒状の高周波加熱装置34によって取り囲まれており、スラグ降下通路33内を移動する溶融スラグの温度降下を抑制し所定の温度に維持するようになっている。
【0169】
スラグ降下通路33の下部近傍には図3に示したアトマイザーと同じ構成からなるアトマイザー35が設けられている。
【0170】
0.5MPaに加圧されたアトマイザー35に溶融スラグを押し込むためには、溶融スラグについても同様に0.5MPaに加圧して送る必要がある。そのため、上記したように深さ20mのスラグタンディッシュ32を設置し、溶融スラグの静水圧を利用して0.5MPaに加圧している。
【0171】
上記アトマイザー35には、圧縮機36によって加圧されたアトマイズ空気が供給されるようになっており、圧縮機36は蒸気ボイラー37によって回転するタービン38によって稼働するようになっている。
【0172】
なお、符号39は、直径1mからなる円筒状の一次熱交換塔であり、溶融スラグの上向きアトマイズが行われるようになっている。また、符号Sは溶融スラグ、Mは溶鉄、40はガス清浄装置、41は熱風炉、42はサイクロン、43は溶鉄を取り出すための取出口である。
【0173】
第二実施形態によれば、図3における一次系冷却空気がもつエネルギー24MWを高炉送風に利用することで、現在稼働している熱風炉での燃料ガス(製鉄所の副成ガス)使用量を13%程度削減することが可能になる。
【0174】
そして、製鉄所の発電所でこの燃料ガスをボイラー燃料に使用して蒸気タービンで発電すれば、CDQタイプのボイラーを経て蒸気タービン発電を行う図3に記載の熱回収装置に比べ1.3倍の発電量が得られる。
【符号の説明】
【0175】
1 熱回収装置(高炉スラグ顕熱回収装置)
2 スラグタンディッシュ
3 アトマイザー(上向きのガスアトマイザー)
3a アトマイズガス噴射装置
3b 溶融スラグノズル
3b′ 上向き放出口
3c リング部品
3c′ 噴射口
3d ガス通路
4 一次熱交換塔
5 スラグ集積塔
5b,5c 位置センサ
6 二次熱交換室
7 一次系サイクロン
8 一次系蒸気ボイラー
9 集塵機
10 放散塔
11 二次系サイクロン
12 二次系蒸気ボイラー
13 ブロアー
14 発電機
15 圧縮機
16 タービン
17 回転軸
18 ゲート
19 ゲート弁
20 冷却空気ノズル
21 逆圧払い落とし機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、
重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザーと、
このガスアトマイザーから上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる熱交換塔とを備えてなることを特徴とする高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項2】
上記噴射ノズルの外周部に冷却用空気を上向きに噴射するためのノズルが配置されている請求項1記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項3】
上記熱交換塔の下部から上部に向かって塔の径方向断面積が拡大されている請求項1または2に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項4】
上記熱交換塔内を流れ、上記熱交換塔の上部から混合状態で噴射される上記アトマイザーガスと上記スラグ粒子とを沈降分離する分離塔を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項5】
上記分離塔の下部にゲート弁を有するとともに上記分離塔内に堆積した上記スラグ粒子の堆積高さを検出する位置センサを有し、上記ゲート弁は、上記位置センサから出力される信号に基づいて開閉動作を行うことによりスラグ排出量を調節するように構成されている請求項4記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項6】
上記熱交換塔は、空気を透過させる内筒と空気を透過させない外筒を二重に配置した二重筒と、
上記内筒と上記外筒の間の環状空間を高さ方向に複数の部屋に仕切る仕切り板と、
開閉弁と流量計を介して低圧空気を上記各部屋に供給する低圧空気供給路と、
開閉弁を有し高圧空気を上記各部屋に供給する高圧空気供給路とを有し、
上記高圧空気供給路は、上記流量計によって計測される低圧空気の流量が閾値を下回った時に上記開閉弁を開動作させるように構成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項7】
上記高圧空気供給路は、上記環状空間に向けて高圧空気を噴射する空気ノズルをさらに備えている請求項6記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項1】
圧縮空気を用いて高炉スラグを微粒化し、さらに空気とスラグ粒子間の熱交換により高炉スラグが持つ顕熱を空気が吸収して、熱回収を行う高炉スラグ顕熱回収装置において、
重力方向と反対方向の上向きにガスを噴射する噴射ノズルを有しその噴射ノズルから噴射されるガスに向けて上記スラグ粒子が供給されるガスアトマイザーと、
このガスアトマイザーから上向きに延設される筒状体からなり、内部をアトマイザーガスと微粒化されたスラグ粒子が上向きに流れる熱交換塔とを備えてなることを特徴とする高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項2】
上記噴射ノズルの外周部に冷却用空気を上向きに噴射するためのノズルが配置されている請求項1記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項3】
上記熱交換塔の下部から上部に向かって塔の径方向断面積が拡大されている請求項1または2に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項4】
上記熱交換塔内を流れ、上記熱交換塔の上部から混合状態で噴射される上記アトマイザーガスと上記スラグ粒子とを沈降分離する分離塔を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項5】
上記分離塔の下部にゲート弁を有するとともに上記分離塔内に堆積した上記スラグ粒子の堆積高さを検出する位置センサを有し、上記ゲート弁は、上記位置センサから出力される信号に基づいて開閉動作を行うことによりスラグ排出量を調節するように構成されている請求項4記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項6】
上記熱交換塔は、空気を透過させる内筒と空気を透過させない外筒を二重に配置した二重筒と、
上記内筒と上記外筒の間の環状空間を高さ方向に複数の部屋に仕切る仕切り板と、
開閉弁と流量計を介して低圧空気を上記各部屋に供給する低圧空気供給路と、
開閉弁を有し高圧空気を上記各部屋に供給する高圧空気供給路とを有し、
上記高圧空気供給路は、上記流量計によって計測される低圧空気の流量が閾値を下回った時に上記開閉弁を開動作させるように構成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【請求項7】
上記高圧空気供給路は、上記環状空間に向けて高圧空気を噴射する空気ノズルをさらに備えている請求項6記載の高炉スラグ顕熱回収装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図6】
【図16】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図6】
【図16】
【公開番号】特開2012−131656(P2012−131656A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283656(P2010−283656)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]