説明

高熱伝導ゴムローラの製造装置

【課題】ゴム注型時の圧力による熱伝導性フィラーの分離を小さくし、表面硬さのばらつきの小さい高熱伝導ゴムローラを製造できる高熱伝導ゴムローラの製造装置を提供する。
【解決手段】直立に配置された円筒形の金型12と、金型内に同軸に配置されてローラのゴム層を形成するための空間14を設ける芯軸16と、下面と空間14とに開口するゴム注入孔20を有し、金型12の下部に嵌合されて芯軸16の下端を保持する下部栓体22と、金型12の上部に嵌合されて芯軸16の上端を保持する上部栓体26とを備えている。さらに、金型12の上部及び又は上部栓体26に、ゴム注入孔20から注入されたゴムを排出しない通気孔を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子複写機やレーザビームプリンタ(LBP)の定着ローラ(加圧ローラを含む。以下同じ。)として使用される高熱伝導ゴムローラの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子複写機、LBP等の電子機器では、ウォームアップタイムの短縮や、電源を入れた時、もしくはスタンバイ状態からの復帰に対して初期通紙を速くすることにより省エネ対策を行っている。その際、定着ローラの表面温度を速く設定値にまで上げることが課題となっている。
【0003】
電子複写機やLBPに使用される定着ローラで、表面温度を設定値に素早く立ち上げるためには、ローラ弾性層に高熱伝導ゴムを使用することが好ましい。高熱伝導ゴムとしては、例えば、シリコーンゴムに、熱伝導付加剤として熱伝導性フィラーを配合したものが使用される。
【0004】
従来、高熱伝導ゴムローラを製造する場合は、図3に示す製造装置を使用している。すなわち、円筒金型30と、この円筒金型内に同軸に配置された芯軸32と、芯軸32を保持する上部栓体34及び下部栓体35とを備えている。上部栓体34には円形の逃げ孔36が設けられている。下部栓体35には口径1〜3mmの円形のゴム注入孔38が栓体外周縁に沿って4〜16個設けられている。これらのゴム注入孔38から、熱伝導性フィラーを配合したゴムを流し込み、円筒金型30と芯軸32との空間40内にゴムを充填するようにしている。このとき、ゴム注入孔38から空間40内にゴムが注入されるにしたがって空間40内の空気と共にゴムが上部栓体34の逃げ孔36から一部排出される。
【0005】
なお、定着温度を低く設定でき、その結果、消費電力が少なく、ウォームアッブ時間も短くするために、定着ローラの被覆層に熱伝導性フィラーを配合することは、従来から知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−237007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示した従来の技術には、次のような解決すべき課題がある。熱伝導性フィラーを配合したゴムを、図3に示す従来の製造装置の円形の各ゴム注入孔38から注入したときは、高比重の熱伝導性フィラーが注型圧力により分離してゴム硬さ(ローラの表面硬さ)のばらつきが発生する。すなわち、高比重のフィラーが分離することから、ローラ長手方向の、ゴム注入孔側とその反対側とでローラ表面の硬さに差が生じてしまう。これは、当然のことながら、ゴムローラ製品としては好ましくない。
【0007】
本発明は、以上の点に着目してなされたもので、ゴム注型時の圧力による熱伝導性フィラーの分離を小さくし、表面硬さのばらつきの小さい高熱伝導ゴムローラを製造できる高熱伝導ゴムローラの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の各実施例においては、それぞれ次のような構成により上記の課題を解決する。
〈構成1〉
直立に配置された円筒形の金型と、上記金型内に同軸に配置されてローラのゴム層を形成するための空間を設ける芯軸と、下面と上記空間とに開口するゴム注入孔を有し、上記金型の下部に嵌合されて上記芯軸の下端を保持する下部栓体と、上記金型の上部に嵌合されて上記芯軸の上端を保持する上部栓体とを備え、上記金型の上部及び又は上記上部栓体に、上記ゴム注入孔から注入されたゴムを排出しない通気孔を設けたことを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。
【0009】
上部にゴムを排出しない通気孔を設けたことにより、ゴム注入孔から液状ゴムを注入している段階で、ゴムに配合されている熱伝導性フィラーが注入圧の影響を受け難いので、同フィラーの分離によるゴム硬さのばらつきを小さくできる。従って表面硬さのばらつきの小さい高熱伝導ゴムローラが得られる。
【0010】
〈構成2〉
構成1に記載の高熱伝導ゴムローラの製造装置において、上記ゴム注入孔の開口面積は、0.5〜20mm2であることを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。
【0011】
ゴムに配合されている熱伝導性フィラーが注入圧の影響を受け難い適度の範囲である。0.5mm2未満では開口面積が小さ過ぎてゴム含有物が注入圧力により分離することとなるので、好ましくない。また20mm2より大きいと開口面積が大き過ぎて製品ゴム圧との関係で所望の金型構造が得られない。
【0012】
〈構成3〉
構成1又は2に記載の高熱伝導ゴムローラの製造装置において、上記通気孔は、上記上部栓体に設けられている逃げ孔を透気材料で閉塞したものであることを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。
【0013】
逃げ孔を備えた既存の上部栓体を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を実施例ごとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1の高熱伝導ゴムローラの製造装置(以下、本装置という。)を示す図で、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
図示したように、本装置は、円筒金型12と、芯軸16と、ゴム注入孔20を有する下部栓体22と、上部栓体26とを備えている。
【0016】
円筒金型12は、ローラ仕上り外径と同じもしくは大きい内径を有している。ここで、円筒金型12がローラ仕上り外径と同じもしくは大きい内径を有しているとは、円筒金型12の内径がローラ仕上り外径と全く同じか、ローラ仕上り外径より僅かに大きいということを意味している。芯軸16は、円筒金型12内に同軸に配置されてローラのゴム層(図示せず)を形成するための空間14を設けるものである。下部栓体22は、円筒金型12の一端に嵌合されて芯軸16の一端を保持している。上部栓体26は、円筒金型12の他端に嵌合されて芯軸16の他端を保持している。
【0017】
下部栓体22のゴム注入孔20は、図1(b)に示すように、複数の円孔により形成されている。複数の円孔は、下部栓体22の外周縁に沿って定間隔に配設されている。ゴム注入孔20の開口面積、すなわち、すべての長孔の開口面積を積算した総面積は、0.5〜20mm2とすることが望ましい。0.5mm2未満では開口面積が小さ過ぎてゴム含有物が注入圧力により分離することとなるので、好ましくないことと、20mm2より大きいと開口面積が大き過ぎて製品ゴム圧との関係で所望の金型構造が得られないからである。なお、各ゴム注入孔20には、図示しないが、ゴム圧入機構のノズルが接続される。
【0018】
ゴム注入孔20から熱伝導性フィラーを配合したゴムを注入したとき、円筒金型12と上部栓体26との嵌め込みの僅かな隙間から空気を大気に排出しながら、空間14内にゴムが充填される。ゴム注入時、円筒金型12と上部栓体26との僅かな隙間が通気孔となる。この僅かな隙間の通気孔から排気することにより、ゴム注入時のゴム流動抵抗がかなり大きくなる。従って、ゴム流動が鈍いことから、高比重の熱伝導性フィラーの分離が抑えられ、ゴム表面硬さのばらつきの小さい高熱伝導ゴムローラが得られる。
【0019】
次に、本装置を使って高熱伝導ゴムローラを製造した場合の表面硬さのばらつきの低減程度につき説明する。すなわち、図3に示したように上部栓体34に逃げ孔36設けてなる従来の製造装置を使って高熱伝導ゴムローラを製造した場合の表面硬さのばらつきは、4〜5ポイントであった。これは、アスカーC硬度計の1kgf荷重で4〜5ポイントの差が生じていることを意味している。これに対して、本装置を使って高熱伝導ゴムローラを製造した場合、表面硬さのばらつきは、1〜2ポイントであった。
【実施例2】
【0020】
図2は、実施例2の高熱伝導ゴムローラの製造装置の一部を示す縦断面図である。
前述の実施例1では上部栓体26に、図3に示したような逃げ孔36を設けないで、円筒金型12と上部栓体26との僅かな隙間を通気孔としたものであった。実施例2は、逃げ孔24を有する上部栓体26を使用した場合の例である。実際上、上部栓体26に逃げ孔を設けていることが多い。このような上部栓体26を使用する場合において、図示のように、上部栓体26に設けられている逃げ孔24を、周知の透気材料で閉塞することにより通気孔を形成したものである。この通気孔は、逃げ孔24を透気材料で閉塞したことにより、空気を通しても、ゴム注入孔から注入されたゴムを排出しない機能を有するものである。
【0021】
本発明の製造装置を使って高熱伝導ゴムローラを製造する場合は、以下の(1)、(2)の条件を満たすことがより好ましい。
(1)ゴム注入孔20から注入されるゴムの注入圧力は、0.1〜100 MPaとする。0.1MPa未満ではゴム注型に時間がかかり過ぎて実質的に製造効率が悪くなる。また、100 MPaより大きいとゴム流速が速すぎて金型内に加わる圧力が高まり、他の場所からのゴムの漏れ出しが多くなるので好ましくない。
(2)ゴム注入孔20から注入されるゴムとしては、熱伝導率が0.4〜1.5 W/m・Kの付加反応型シリコーンゴムを用いる。0.4 W/m・K未満では客先仕様上ウォームアップ等のメリットがない。また、1.5 W/m・Kは現在、ローラ用の液状シリコーンゴムの熱伝導率の上限値でこれ以上の熱伝導率まで上げられるものはない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の高熱伝導ゴムローラの製造装置(以下、本装置という。)を示す図で、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【図2】実施例2の高熱伝導ゴムローラの製造装置の要部を示す縦断面図である。
【図3】従来の高熱伝導ゴムローラの製造装置を示す図で、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【符号の説明】
【0023】
12 円筒金型
14 空間
16 芯軸
20 ゴム注入孔
22 下部栓体
26 上部栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直立に配置された円筒形の金型と、
前記金型内に同軸に配置されてローラのゴム層を形成するための空間を設ける芯軸と、
下面と前記空間とに開口するゴム注入孔を有し、前記金型の下部に嵌合されて前記芯軸の下端を保持する下部栓体と、
前記金型の上部に嵌合されて前記芯軸の上端を保持する上部栓体とを備え、
前記金型の上部及び又は前記上部栓体に、前記ゴム注入孔から注入されたゴムを排出しない通気孔を設けたことを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高熱伝導ゴムローラの製造装置において、
前記ゴム注入孔の開口面積は、0.5〜20mm2であることを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高熱伝導ゴムローラの製造装置において、
前記通気孔は、前記上部栓体に設けられている逃げ孔を透気材料で閉塞したものであることを特徴とする高熱伝導ゴムローラの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−80593(P2008−80593A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261847(P2006−261847)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】