説明

高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物及び高熱伝導性ポッティング材の選定方法

【解決手段】(A)一分子中にケイ素原子結合アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)平均粒子径が1〜100μmの熱伝導性充填剤、
(C)一分子中にケイ素原子結合水素原子を含有する硬化剤
を含有する下記流れ性試験方法にて流れ性が50mm以上の流動性を与える高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物。
*流れ性
上記組成物を0.6ml取り、Al板に垂らし、垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れて10分間硬化させ、硬化後のサンプルを取り出し、流れた組成物の長さを端から端まで測定する。
【効果】本発明の組成物は、熱伝導性充填剤が高充填されていても、取扱性、成形性が良好であり、その硬化物は、硬さ、伸び、引っ張り強さ、接着強さなどの物性が良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性のシリコーン組成物を得るために熱伝導性充填剤が高充填されていても、流動性が良好であり、細密な基板にポッティングが可能で、硬化後の物性が良好である高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物及び高熱伝導性ポッティング材の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスター、IC、メモリー素子等の電子部品を搭載したプリント回路基板やハイブリッド車内に搭載されているインバータやDC−DCコンバータの高性能化に伴い、それらの構成電子部品を効率よく冷却させるために、熱伝導性シリコーングリース、熱伝導性シリコーンゲル組成物、熱伝導性シリコーンゴム組成物等の熱伝導性シリコーン組成物が使用されている。
【0003】
このような熱伝導性シリコーン組成物中に熱伝導性充填剤を高充填して該組成物の熱伝導率を向上させるために、例えば、オルガノポリシロキサン、加水分解性基含有メチルポリシロキサン、熱伝導性充填剤、及び硬化剤からなる熱伝導性シリコーンゴム組成物(特許文献1:特開2000−256558号公報)や、硬化性オルガノポリシロキサン、硬化剤、熱伝導性充填剤からなり、該充填剤の表面がケイ素原子結合アルコキシ基を有するオリゴシロキサンで処理されていることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物(特許文献2:特開2001−139815号公報)が提案されている。
【0004】
しかし、このような熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率を向上させるために、更にアルミナ等の熱伝導性充填剤を高充填しようとした場合、硬化後に物性が著しく低下するという問題があった。また、近年のハイブリッド車や電気自動車のパワーコントロールユニット内には、バッテリー電圧を昇圧してモータに加えるためにリアクトルが必要とされるようになってきている。なお、そのパワーコントロールユニットの省スペース化・小型化に伴い、構成部品の一つであるリアクトルも小型化する必要が生じてきており、その内部構造も近年益々微細化し複雑なものになってきている。その上、リアクトル内は高温になるために、0.5W/mK以上という高い放熱性能と硬化後の物性も同時に併せ持つことが必要である。従来の熱伝導性ポッティング材料を用いて、必要とされる熱伝導性を満たそうとすると、熱伝導性充填剤を高充填する必要が出てくるため、流れ性や硬化後の物性が悪化してしまうという問題があった。つまり、ハイブリッド車や電気自動車に必要とされるような高熱伝導性ポッティング材においても、リアクトル内のような微細な構造中に容易に流れ込むことができ、且つその硬化後の物性も不足しないような材料の開発が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−256558号公報
【特許文献2】特開2001−139815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高熱伝導性のシリコーン組成物を得るために熱伝導性充填剤が高充填されていても、流れ性、特にリアクトル部分へのポッティング性が良好であり、硬化後の物性も良好である高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物及び高熱伝導性ポッティング材の選定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、下記に示す流れ性試験方法において、50mm以上の流れ性を有するシリコーン組成物が、リアクトル内のような微細部分へも良好に流れ込み、かかる微細部分に対し、良好なポッティング性を有することを知見し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物及び高熱伝導性ポッティング材の選定方法を提供する。
請求項1:
(A)一分子中にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒子径が1〜100μmの熱伝導性充填剤 50〜1,500質量部、
(C)上記(A)成分を硬化しうる量の一分子中にケイ素原子と結合する水素原子を含有する硬化剤
を含有することを特徴とする下記流れ性試験方法にて流れ性が50mm以上の流動性を与える高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物。
*流れ性
上記シリコーン組成物を0.6ml取り、Al板に垂らし、垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れて10分間硬化させ、硬化後のサンプルを取り出し、流れた組成物の長さを端から端まで測定する。
請求項2:
更に、(D)下記一般式(1)
3SiO(R2SiO)nSiR3-a(OR1a (1)
(式中、Rは一価炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、aは2又は3であり、nは5〜200の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンを含有する請求項1記載のシリコーン組成物。
請求項3:
(B)成分の熱伝導性充填剤が、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウムの中から選ばれ、平均粒子径が1〜100μmである請求項1又は2記載のシリコーン組成物。
請求項4:
硬化物の熱伝導率が0.5W/mK以上である請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーン組成物。
請求項5:
(A)一分子中にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒子径が1〜100μmの熱伝導性充填剤 50〜1,500質量部、
(C)上記(A)成分を硬化しうる量の一分子中にケイ素原子と結合する水素原子を含有する硬化剤
を含有するシリコーン組成物を0.6ml取り、Al板に垂らし、垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れて10分間硬化させ、硬化後のサンプルを取り出し、流れた組成物の長さを端から端まで測定して、その長さが50mm以上の流れ性を有するシリコーン組成物を高熱伝導性ポッティング材として使用することを特徴とする高熱伝導性ポッティング材の選定方法。
請求項6:
シリコーン組成物が、更に、(D)下記一般式(1)
3SiO(R2SiO)nSiR3-a(OR1a (1)
(式中、Rは一価炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、aは2又は3であり、nは5〜200の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンを含有する請求項5記載の選定方法。
請求項7:
(B)成分の熱伝導性充填剤が、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウムの中から選ばれ、平均粒子径が1〜100μmである請求項5又は6記載の選定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物は、高熱伝導性のシリコーン組成物を得るために熱伝導性充填剤が高充填されていても、取扱性、成形性が良好であり、その硬化物は、硬さ、伸び、引っ張り強さ、接着強さなどの物性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】流れ性の評価方法の説明図で、(A)は組成物をAl板に垂らした後、Al板を傾斜させた状態の側面図、(B)は同平面図、(C)は組成物の流れた状態を示す側面図、(D)は同平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明組成物は、上記(A)成分のオルガノポリシロキサン、(B)成分の熱伝導性充填剤、及び(C)成分の上記(A)成分を硬化しうる硬化剤を含んでなる流動性に優れた高熱伝導性のシリコーン組成物である。本発明組成物の性状は、上記流れ性試験に合格すれば特に限定されず、例えば、常温でグリース状、スラリー状、ペースト状、又は粘土状である。本発明組成物は、硬化してゲル状の硬化物(即ち、熱伝導性シリコーンゲル)又はゴム状の硬化物(即ち、熱伝導性シリコーンゴム)を形成する熱伝導性シリコーン組成物である。本発明組成物の硬化機構は、速やかに硬化し、副生成物が発生しないことから、ヒドロシリル化反応である。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分は本発明組成物のベースポリマーであり、オルガノポリシロキサンである。
(A)成分中のケイ素原子に結合している有機基としては、アルケニル基を1個以上、好ましくは2個以上分子中に持つオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基としてはビニル基、アリル基、ブテニル基等が例示される。ケイ素原子に結合している有機基としては、他に直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは直鎖状アルキル基、アリール基であり、特に好ましくはメチル基、ビニル基、フェニル基である。
【0013】
(A)成分の23℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは20〜100,000mPa・sの範囲内であり、より好ましくは50〜100,000mPa・sの範囲内であり、更に好ましくは50〜50,000mPa・sの範囲内であり、特に好ましくは100〜50,000mPa・sの範囲内である。該粘度がこの範囲内であると、本発明組成物の取扱作業性を確保し易く、本発明組成物の硬化物の良好な物性を確保し易い。なお、この粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0014】
(A)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられ、好ましくは直鎖状、一部分岐を有する直鎖状である。(A)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を有する共重合体、又はこれらの重合体の混合物であってもよい。
【0015】
(A)成分としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、式:(CH33SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH32(CH2=CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:CH3SiO3/2で表されるシロキサン単位と式:(CH32SiO2/2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体等が挙げられるが、他にアルケニル基が付いていないオルガノポリシロキサンも併用してよい。その例としては、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端メチルジメトキシシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリエトキシシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメトキシシリルエチル基封鎖ジメチルポリシロキサン、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
なお、(A)成分は、後述する(D)成分が含有するようなアルコキシ基は含有しない。
【0016】
[(B)成分]
(B)成分は本発明組成物に熱伝導性を付与するための熱伝導性充填剤である。その例としては、アルミニウム粉末、銅粉末、ニッケル粉末等の金属系粉末;アルミナ粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化ベリリウム粉末、酸化クロム粉末、酸化チタン粉末、酸化ケイ素等の金属酸化物系粉末;窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末等の金属窒化物系粉末;炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、炭化ケイ素粉末等の金属炭化物系粉末;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。本発明組成物又は本発明組成物を硬化して得られるシリコーン硬化物に電気絶縁性が要求される場合には、(B)成分は、金属酸化物系粉末、金属窒化物系粉末、又は金属炭化物系粉末であることが好ましく、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウムがより好ましく、酸化ケイ素、アルミナ粉末であることが特に好ましい。
【0017】
また、(B)成分の形状としては、例えば、球状、棒状、針状、円盤状、不定形状が挙げられる。ここで、「球状」とは、全表面が凸表面で構成されている形状であることを意味する。よって、(B)成分の形状が球状である場合、(B)成分においては、面と面との交差で生じる稜線や辺は存在せず、最長軸の長さ/最短軸の長さ(アスペクト比)が、通常、1〜2、好ましくは1〜1.6、より好ましくは1〜1.4である。「棒状」とは、一つの軸方向に伸長しており、太さが最長軸方向に沿ってほぼ一定している形状であることを意味する。「針状」とは、「棒状」と同様に一つの軸方向に伸長した形状ではあるが、最長軸方向に沿って先端に接近するにつれて太さが小さくなる部分を有し、それ以外の部分では太さが最長軸方向に沿ってほぼ一定しており、該先端において尖っている形状を意味する。「円盤状」とは、最長軸の長さ、最短軸の長さに加えて厚みを有する扁平な形状を意味する。「不定形状」とは、特定の形状に分類されない形状を意味する。
【0018】
(B)成分の平均粒子径は、1〜100μmの範囲内であることが必要であり、5〜50μmの範囲内であることが好ましい。該平均粒子径がこの範囲内であれば、本発明組成物は流動性と熱伝導性とのバランスが良好となり易く、組成物の硬化物の物性も良好なものとなる。ここで、「平均粒子径」とは、レーザー光回折法を用いた粒度分布測定装置により求めた累積重量平均値D50(又はメジアン径)である。
(B)成分の熱伝導性充填剤としてアルミナ粉末を用いる場合には、ポリシロキサンに対する充填効率の点から、(B1)平均粒子径が5μmを超え50μm以下である球状のアルミナ粉末と(B2)平均粒子径が0.1μm以上5μm以下である球状又は不定形状のアルミナ粉末との混合物を(B)成分として用いることが好ましい。
【0019】
本発明組成物における(B)成分の含有量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して50〜1,500質量部であり、好ましくは100〜1,000質量部、特に好ましくは200〜800質量部である。50質量部未満では、十分な熱伝導性が得られないことがあり、1,500質量部を超えると本発明で規定する流れ性を満たせないことがある。
(B)成分は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
[(C)成分]
(C)成分は本発明組成物の硬化剤であり、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒である。
(C)成分の硬化剤は、一分子中にケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒とを含む。このオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の水素原子以外のケイ素原子に結合している基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは直鎖状アルキル基、アリール基であり、特に好ましくはメチル基、フェニル基である。このオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子の数は0.1個以上で、(A)成分と混合して硬化すればよく、1個以上が好ましい。
【0021】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの23℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは1〜100,000mPa・sの範囲内であり、特に好ましくは1〜5,000mPa・sの範囲内である。該粘度がこの範囲内であると、本発明組成物の取扱作業性を確保し易く、本発明組成物の硬化物の良好な物性を確保し易い。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を有する共重合体、又はこれらの混合物であってもよい。上記ケイ素原子結合水素原子は分子鎖末端部分及び分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ存在していてもよいし、その両方に存在していてもよい。
【0022】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、式:(CH33SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH32HSiO1/2で表されるシロキサン単位と式:SiO4/2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
なお、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、基本的にシロキサン骨格からなり、アルコキシ基は含まないものである。
【0023】
本発明組成物におけるこのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、本発明組成物が硬化することができる限り、特に限定されない。具体的には、該含有量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の量が、0.1〜10モルの範囲内となる量であることが好ましく、0.1〜5モルの範囲内となる量であることがより好ましく、0.1〜3モルの範囲内となる量であることが特に好ましい。該含有量がこのような量であると、本発明組成物は十分に硬化し易い一方で、本発明組成物の硬化物が非常に硬質になるのを防ぎ易く、該硬化物の表面には多数のクラックが生じにくい。
【0024】
白金系触媒は、本発明組成物の硬化を促進するための触媒であり、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体等が挙げられる。
白金系触媒の含有量は、ヒドロシリル化反応触媒として有効量でよい。具体的には、該含有量は、(A)成分に対して本(C)成分中の白金族金属の量が質量基準で0.01〜1,000ppmの範囲内となる量であることが好ましく、0.1〜500ppmの範囲内となる量であることが特に好ましい。該含有量がこのような量だと、本発明組成物が十分に硬化し易く、該含有量の増加に応じて該組成物の硬化速度が顕著に向上し易い。
【0025】
本発明組成物には、更に(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンを配合することが好ましい。(D)成分は、高熱伝導性のシリコーン組成物を得るために(B)成分の熱伝導性充填剤を本発明のシリコーン組成物に高充填しても、本発明組成物の取扱性を悪化させず、良好な成形性を本発明組成物に付与すると共に、(B)成分の表面を処理して、本発明の熱伝導性シリコーン組成物中における(B)成分の分散性を向上させる。また、硬化後の物性を良好なものとする。
3SiO(R2SiO)nSiR3-a(OR1a (1)
(式中、Rは一価炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、aは2又は3であり、nは5〜200の整数である。)
【0026】
上記一般式(1)中、Rは、同一又は異種の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、2−メチルウンデシル基、1−ヘキシルヘプチル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、2−(2,4,6−トリメチルフェニル)プロピル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状アルキル基、アルケニル基、アリール基であり、特に好ましくはメチル基、フェニル基、ビニル基である。
【0027】
上記一般式(1)中、R1は、一価炭化水素基である。R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、その例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、2−メチルウンデシル基、1−ヘキシルヘプチル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、2−(2,4,6−トリメチルフェニル)プロピル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状アルキル基、アルケニル基、アリール基であり、特に好ましくはメチル基である。
上記一般式(1)中、nは5〜200の整数である。好ましくは15〜100、特に好ましくは20〜40の整数である。aは2又は3であり、好ましくは3である。
【0028】
(D)成分の具体例としては、下記式で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【化1】


(式中、Meはメチル基を示す。)
【0029】
本発明組成物において(D)成分を配合する場合、その含有量は特に限定されず、(B)成分の表面を処理して、本発明の熱伝導性シリコーン組成物中における(B)成分の分散性及び流動性を向上できる量であればよい。具体的には、該含有量は、(B)成分100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部、特に好ましくは0.2〜5質量部である。(D)成分の含有量がこの範囲内であると、本発明組成物の物理的特性が低下しにくく、(B)成分を多量に含有する場合でも、本発明組成物の成形性を確保し易く、本発明組成物の貯蔵中に(B)成分が沈降分離しにくいという効果が特に顕著である。
(D)成分は、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
また種々の被着体との接着性を発現させるため、(A)〜(C)成分以外に以下に示すようなシランカップリング剤等の接着助剤を添加してもよい。なお、接着助剤の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0031】
【化2】


(式中、Meはメチル基を示す。)
【0032】
[流れ性試験方法]
本発明組成物の評価方法として使用される流れ性試験方法は、以下に示されるような方法にて確認される。
*流れ性
図1に示したように、上記シリコーン組成物1を0.6ml取り、Al板2(JIS,H,4000、0.5×25×250mm)に垂らす。垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角α=28度)させ(図1(A),(B))、40℃の恒温槽に入れる。40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れ、10分間硬化させる。硬化後サンプルを取り出し、組成物1’の長さLを流れた端から端まで測定する(図1(C),(D))。
【0033】
上記方法は、組成物の流れ性を評価する際に非常に重要な方法である。この方法はAl板を傾斜させることで簡単にできる方法であり、使用されるAl板はJISに準拠したAl板を使用することで表面状態を統一することができる。なお、この傾斜角度は28度が最も適性であるが、この角度の幅は26〜30度の範囲でもよい。この角度が26度未満になると流れにくくなり、また30度を超えると流れ性が悪い組成物でも使用可能な範囲に入ってしまう。次に組成物を垂らす量であるが、質量よりも体積が重要なので、0.6mlをシリンジ等で測定して、垂らすことが誤差も小さく有効な手段である。これについては0.6mlから約±10%の範囲内に測定されることが重要である。−10%を下まわると流れ性のよい組成物でも使用不可能になってしまい、逆に10%を上まわると流れ性の悪い組成物でも使用可能となってしまうからである。
【0034】
ここで、シリコーン組成物は、上記流れ性が50mm以上である必要があり、好ましくは55mm以上、更に好ましくは60mm以上であることがポッティング性の点で有効である。なお、流れ性の上限は、流れ性が高ければ高いほど好ましいが、通常500mm程度、特に300mm程度である。
【0035】
[組成物の製造方法]
本発明組成物は、例えば、(A)成分と(B)成分とを混合して混合物を得る方法(製造方法1)、(A)成分と(B)成分とを混合して混合物を得た後、該混合物に(D)成分を混合させる方法(製造方法2)、(A)、(B)、(D)成分を同時に混合させる方法(製造方法3)により製造することができる。混合は公知の方法で行うことができる。
【0036】
また、(B)成分の表面を(A)、(D)成分により処理する際、その処理を促進するために、加熱してもよい。
(C)成分の添加方法は特に制限されないが、(A)、(B)、(D)成分を含む組成物に(C)成分を添加して混合するのが好ましい。混合は公知の方法で行うことができる。
【0037】
[硬化物]
本発明組成物が硬化性の組成物である場合、それを硬化させる方法は特に限定されず、例えば、該組成物を成形後、室温で放置する方法、該組成物を成形後、50〜200℃に加熱する方法が挙げられる。また、このようにして得られるシリコーン硬化物の性状は限定されないが、好ましくは、例えば、ゲル状、低硬度のゴム状又は高硬度のゴム状が挙げられる。即ち、本発明組成物は、好ましくは、硬化して熱伝導性シリコーンゲル又は熱伝導性シリコーンゴムを形成する。
【0038】
ここで、「シリコーンゲル」とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K 2220(1/4コーン)による針入度が20〜200のものを意味する。これは、JIS K 6301によるゴム硬度測定で測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さないほど低硬度(即ち、軟らか)であるものに相当する。
【0039】
一方、「シリコーンゴム」とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする硬化物であって、JIS K 6301によるゴム硬度測定で測定値(ゴム硬度値)が0を超え、有効なゴム硬度値を示すものを意味する。本発明では、得られるシリコーン硬化物を放熱材料として部材に十分に密着させることができ、また、その取扱性が良好であることから、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータ硬さが10〜98の範囲内であるシリコーンゴムが好ましい。
【0040】
本発明組成物の硬化物は、熱伝導率が0.5W/mK以上であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、粘度等の特性は23℃における値である。また、下記式中、Meはメチル基を示す。
【0042】
[実施例、比較例]
(組成に使用する化合物)
*ベースオイル
α,ω−ジメチルビニルシロキシポリジメチルシロキサン(粘度600mPa・s)
*熱伝導性充填剤
石英粉クリスタライトVX−S2((株)龍森製)
石英粉クリスタライト5X((株)龍森製)
アルミナAL−43KTA((株)昭和電工製)
【0043】
*下記構造の添加剤
【化3】

【0044】
*下記構造の架橋剤
【化4】

【0045】
*下記構造の接着助剤
【化5】

【0046】
*白金系触媒
塩化白金酸(2−エチルヘキサノール溶液):白金濃度(2質量%)
*制御剤
エチニルシクロヘキサノール
【0047】
(製造方法)
上記したベースオイル及び熱伝導性充填剤、添加剤を熱処理装置が付いたプラネタリーミキサーにて室温にて混合し、更に150℃×2時間熱処理した。熱処理終了後、白金系触媒、制御剤、架橋剤−1,2、接着助剤−1,2を表1に示した組成に準じて添加し、混合してシリコーン組成物を得た。
(評価方法)
得られたシリコーン組成物の粘度、流れ性、熱伝導率を評価した。その結果を表1,2に示す。
粘度については東機産業(株)製回転粘度計、熱伝導率については京都電子工業(株)製QTM−500により測定した。
以下に示す方法により流れ性試験を行った。
図1に示した通り、得られたシリコーン組成物を0.6ml取り、Al板(JIS,H,4000、0.5×25×250mm)に垂らした。垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れ、10分間硬化させた。硬化後、サンプルを取り出し、流れた端から端までを測定した(図1参照)。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記したように、流れ性という試験方法を用いることで、従来の粘度という測定方法では明らかにできなかった微細部分への流れ込みの評価を確認することができ、この方法によりハイブリッド車や電気自動車に必要とされるような流動性に優れた高熱伝導性ポッティング材を開発することが容易となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒子径が1〜100μmの熱伝導性充填剤 50〜1,500質量部、
(C)上記(A)成分を硬化しうる量の一分子中にケイ素原子と結合する水素原子を含有する硬化剤
を含有することを特徴とする下記流れ性試験方法にて流れ性が50mm以上の流動性を与える高熱伝導性ポッティング材用シリコーン組成物。
*流れ性
上記シリコーン組成物を0.6ml取り、Al板に垂らし、垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れて10分間硬化させ、硬化後のサンプルを取り出し、流れた組成物の長さを端から端まで測定する。
【請求項2】
更に、(D)下記一般式(1)
3SiO(R2SiO)nSiR3-a(OR1a (1)
(式中、Rは一価炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、aは2又は3であり、nは5〜200の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンを含有する請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項3】
(B)成分の熱伝導性充填剤が、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウムの中から選ばれ、平均粒子径が1〜100μmである請求項1又は2記載のシリコーン組成物。
【請求項4】
硬化物の熱伝導率が0.5W/mK以上である請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項5】
(A)一分子中にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)平均粒子径が1〜100μmの熱伝導性充填剤 50〜1,500質量部、
(C)上記(A)成分を硬化しうる量の一分子中にケイ素原子と結合する水素原子を含有する硬化剤
を含有するシリコーン組成物を0.6ml取り、Al板に垂らし、垂らした後、すぐに滴下したAl板を傾斜(傾斜角28度)させ、40℃の恒温槽に入れ、40℃×1時間後に取り出し、120℃の乾燥機に入れて10分間硬化させ、硬化後のサンプルを取り出し、流れた組成物の長さを端から端まで測定して、その長さが50mm以上の流れ性を有するシリコーン組成物を高熱伝導性ポッティング材として使用することを特徴とする高熱伝導性ポッティング材の選定方法。
【請求項6】
シリコーン組成物が、更に、(D)下記一般式(1)
3SiO(R2SiO)nSiR3-a(OR1a (1)
(式中、Rは一価炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、又はアシル基であり、aは2又は3であり、nは5〜200の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンを含有する請求項5記載の選定方法。
【請求項7】
(B)成分の熱伝導性充填剤が、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウムの中から選ばれ、平均粒子径が1〜100μmである請求項5又は6記載の選定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122000(P2011−122000A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278291(P2009−278291)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】