説明

高硬度で高靭性の鉄ベース合金及びその製造方法

本開示の態様は、高硬度を示し、軍事用装甲材用途に好適なレベルの弾道性能を付与する、亀裂伝搬の少ない又はない有利なレベルの多ヒット弾道抵抗性を示す低合金鋼に関する。本開示に係る鋼の種々の実施形態は、550BHNを超える硬度を有し、従来の軍事規格に比べて高レベルの弾道貫通抵抗性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2008年8月1日に出願された米国特許出願第12/184,573号の一部継続出願である。米国特許出願第12/184,573号は、米国特許法第(35 U.S.C.119(e)条)のもとで、2007年8月1日に出願された米国特許仮出願第60/953,269号に対して優先権を主張する。米国特許出願第12/184,573号及び同第60/953,269号は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、550BHN(ブリネル硬度数)を超える硬度を有し、標準的な弾道試験にて相当な且つ予想外の貫通抵抗性と亀裂抵抗性を示す鉄ベース合金に関する。本開示はまた、合金を含む装甲材及びそのほかの製造物品に関する。本開示はまた、弾道貫通及び亀裂に対する抵抗性を改善するように種々の鉄ベース合金を加工する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
装甲板、装甲シート及び装甲棒は一般に、強制的に発射された発射体に対する保護構造物として提供される。装甲板、装甲シート及び装甲棒は通常、人員及び車両や機械化された兵器における特性を保護する手段としてとして使用され、その製品はまた様々な民間人においても用途を有する。そのような用途には、たとえば、武装化した民間車両の被覆材及び爆発にに対する防備特性への囲いが挙げられる。装甲材はたとえば、ポリマー、セラミック及び金属合金を含む種々の材料から製造されている。装甲材は可動性物品に装着されることが多いので装甲材の重量は通常、重要な因子である。また、装甲材を製造することに関連する費用は、特に、外国製の装甲材の合金、セラミック及び特殊ポリマーに関しては相当なものであり得る。従って、目的は、既存の装甲材に代わって有効であり、所望のレベルの弾道性能(貫通抵抗及び亀裂抵抗)を達成するのに必要な装甲材の重量を有意に減らすことなくさらに低いコストを提供することであった。
【0004】
また、増え続ける装甲に対する脅威において、米軍は、長年にわたって戦車やそのほかの戦闘車両に使用される装甲品の重量を増やし続け、その結果、車両重量が有意に増加した。そのような傾向を継続することは、装甲戦闘車両の輸送性、移動可能な渡橋能力及び機敏性に劇的に有害に影響を及ぼす危険性がある。過去10年以内に、米軍は、必要が生じると世界中のどの地域にも非常に迅速に戦闘車両やそのほかの武装物を移動させることができるような戦略を適用している。従って、戦闘車両の重量を過剰に増やす懸念は注目の的となっている。したがって、米軍は、特定のチタン合金、セラミック及びハイブリッドセラミックタイル/ポリマーマトリクス複合材(PMC)などの、多くの可能性のある代替物である軽量の装甲材を検討しているところである。
【0005】
一般的なチタン合金装甲材の例には、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−4V ELI及びTi−4Al−2.5V−Fe−Oが挙げられる。チタン合金は、さらに従来の圧延均質鋼装甲よりも多くの利点を提供する。チタン合金は、弾道ミサイルの脅威における幅広い観点から、圧延均質鋼やアルミニウム合金に比べて高い質量効率を有し、好ましい多ヒット弾道貫通抵抗能も提供する。チタン合金はまた一般に高い強度対重量の比を示し、同様に相当な腐食耐性も示し、結果的に通常、低い物品維持コストを生じる。チタン合金は既存の製造施設で容易に製造でき、チタンのスクラップ及びミルリバート(mill revert)を、再び溶融して商業的なスケールで再利用することが出来る。それにも関わらず、チタン合金は欠点を有する。例えば、通常スポールライナーが必要とされ、チタン装甲板の製造、及びその材料からの製品の作製に関連するコスト(例えば、機械加工及び溶接のコスト)は、圧延された均質な鋼の装甲に関するコストより実質的に高い。
【0006】
PMCはいくつかの利点(例えば、化学的な脅威によって剥離しないこと、より静かな作業者の環境、及び弾丸及び破片による弾道の脅威に対する高い物質効率)を提供するが、同時に多くの欠点に悩まされている。例えば、PMC構成物を作製するコストは、圧延均質鋼又はチタン合金から構成物を作製するためのコストと比較して高く、PMCは、既存の製造施設において容易に作製することが出来ない。また、PMC材料の非破壊テストは、合金装甲材の試験ほどには良好に進行しない可能性がある。その上、PMCに関する多ヒット弾道貫通抵抗能力及び自動車の耐荷重能力は、最初に発射体が衝突した結果として生ずる構造的な変化によって不利に影響を及ぼされる可能性がある。加えて、PMC装甲材で覆われた戦闘車両の内部の乗員に対して炎と有毒ガスの危険が存在する可能性があり、そしてPMCの商業的な製造及び再利用の能力は十分に確立されていない。
【0007】
金属合金は、装甲材を選ぶ際にしばしば選択される材料である。金属合金は、実質的な多ヒット保護を提供し、通常、外国製のセラミック、ポリマー、及び複合材と比較して製造において高価ではなく、装甲材を有する戦闘車両及び可動性の装備システムのための構成物を容易に作製することが出来る。発射体は、より高い硬度の材料に衝突した場合により破片になりやすいので、装甲用途においては、非常に高い硬度を有する材料を使用することに利点があると従来考えられている。装甲用途に用いられる特定の金属の合金を、通常、非常に高い温度から冷却することによって、容易に高い硬度に加工することが出来る。
【0008】
圧延均質鋼合金は、一般的にチタン合金より高価でないために、弾道性能は漸増的な改善であっても意義があり、装甲用途に用いられる既存の圧延均質鋼の組成及び加工を変更することに実質的な努力が向けられている。例えば、改善された弾道の脅威に対する性能は、機能の損失を伴わずに装甲板の厚みの減少を可能にするので、これにより装甲システムの総重量が減少する。高いシステム重量は、例えば、ポリマー及びセラミック装甲と比較して、金属の合金システムの主な欠点であるために、弾道の脅威に対する性能を改善することにより、外国製の装甲システムと比較して、合金の装甲により競争力を与えることが出来る。
【0009】
過去25年の間、比較的軽量の被覆材及び複合材の鋼の装甲が開発されてきた。特定のこれらの複合材の装甲は、例えば、硬い、貫通抵抗性の鋼のベース層と治金的に結合した高硬度の鋼の前面層を組み合わせる。高硬度の鋼の層は、発射体を破壊することを意図しており、一方で硬い下層は、装甲の亀裂、粉砕、又は剥離を防ぐことを意図している。この種類の複合材の装甲を形成する従来の方法としては、2種類の鋼をロール圧接して積層した板にすることが挙げられる。複合材の装甲の1つの例は、K12(登録商標)装甲板であり、これはATI Allegheny Ludlum,Pittsburgh, Pennsylvaniaから入手可能な、二重硬度のロール圧接した複合材装甲板である。K12(登録商標)装甲板は、硬度が高い前側と、それに比べて柔らかい裏側を含む。K12(登録商標)装甲板の両方の面はNi−Mo−Cr合金の鋼であるが、前側は、裏側よりも高い炭素含有量を含む。K12(登録商標)装甲板は、従来の均質な装甲板と比較して、優れた弾道性能特性を有し、数多くの政府、軍、及び民間の装甲用途に関する弾道に対する要求を満たすか、またはその要求を超える。被覆材及び複合材の鋼の装甲は、数多くの利点を提供するが、被覆工程又はロール圧接工程を伴う追加の加工は、必然的に装甲システムのコストを増加させる。
【0010】
比較的高価でない低合金を含有する鋼もまた、特定の装甲用途に用いられる。炭素、クロム、モリブデン、及びその他の元素と合金化し、適切な加熱、焼き入れ、及び焼き戻し工程を用いる結果として、特定の、550BHN(ブリネル硬度数)よりも大きな非常に高い硬度を有する低合金鋼の装甲を生産することが出来る。そのような高い硬度の鋼は、「600BHN」鋼として一般的に知られている。表1は、装甲用途に用いられる入手可能な600BHN鋼のいくつかの例に関して、報告された組成及び機械的特性を提供する。MARS300及びMARS300Ni+は、フランスの会社であるArcelorによって製造される。ARMOX600T装甲は、スウェーデンのSSAB Oxelosund ABから入手可能である。高い硬度の600HBN鋼の装甲は、発射体を破壊し、又は平らにするには非常に効果的だが、これらの鋼の著しい欠点は、やや脆い傾向があり、例えば装甲貫通発射体に対する弾道試験の際に、容易に亀裂を起こすことである。これらの材料の亀裂は、多ヒット弾道抵抗能力を提供するための問題となり得る。
【表1】

【0011】
前述の観点から、600BHN範囲内の硬度を有し、亀裂の伝搬の少ない相当の多ヒット弾道抵抗性を有する改善された鋼装甲材を提供することが有利であろう。
【発明の概要】
【0012】
本開示の種々の非限定の実施形態によれば、好ましい多ヒット弾道抵抗性、550BHNを超える硬度を有し、合金全重量に対する重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む鉄ベース合金が提供される。
【0013】
本開示の種々の非限定のそのほかの実施形態によれば、550BHNを超える硬度を有し、合金全重量に対する重量パーセントで0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む合金延伸材、たとえば、板、棒又はシートが提供される。
【0014】
本開示の種々のそのほかの非限定の実施形態によれば、550BHNを超える硬度を有し、規格MIL−DRL−46100Eのもとで性能要件を満たす又はそれを超えるV50弾道限界(保護)値を有する装甲板、装甲棒及び装甲シートから選択される装甲延伸材が提供される。種々の実施形態では、装甲延伸材は、低下した又は最低限の亀裂の伝搬を伴った規格MIL−A−46099Cのもとでの性能要件よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を有する。延伸材は、合金全重量に対する重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む合金である。
【0015】
本開示の種々のそのほかの非限定の実施形態によれば、550BHNを超える硬度を有し、規格MIL−DTL−32332のもとでのクラス1性能要件を満たす又はそれを超えるV50弾道限界(保護)値を有する装甲板、装甲棒及び装甲シートから選択される装甲延伸材が提供される。種々の実施形態では、装甲延伸材は、規格MIL−DTL−32332のもとでのクラス2性能要件よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を有する。延伸材は、合金全重量に対する重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む合金である。
【0016】
本開示に係る種々の実施形態は、低下した又は最低限の亀裂の伝搬と共に好ましい多ヒット弾道抵抗性を有し、550BHNを超える硬度を有する合金の製造方法に関するが、延伸材は、合金全重量に対する重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む合金である。合金は、少なくとも1450°Fの温度に合金を加熱することによってオーステナイト化する。次いで、オーステナイト化温度から装甲合金を冷却する従来の方法とは異なり、合金を従来の方法で冷却すると曲線が想定される軌道に対して合金の冷却曲線の軌道を変える方法にて合金をオーステナイト化温度から冷却する。オーステナイト化温度からの合金の冷却は、規格MIL−DTL−46100EのもとでのV50弾道限界値及びMIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの種々の実施形態におけるV50弾道限界値を満たす又はそれらを超えるV50弾道限界値を合金に提供し得る。
【0017】
種々の実施形態では、オーステナイト化温度からの合金の冷却は、規格MIL−A−46099Cのもとでの必要とされるV50弾道限界値及び低下した又は最低限の亀裂の伝搬を伴った規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの種々の実施形態における必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値を合金に提供する。言い換えれば、V50弾道限界値は、規格MIL−A−46099Cのもとでの必要とされるV50弾道限界値及び低下した又は最低限の亀裂の伝搬を伴った規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの種々の実施形態における必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいである。
【0018】
本開示に係る方法の種々の非限定の実施形態によれば、合金を冷却する工程は、互いに接触して配置した板と共にオーステナイト化温度から複数の合金の板を同時に冷却することを含む。
【0019】
種々の実施形態では、少なくとも1450°Fに合金物品を加熱することによって合金物品をオーステナイト化する。次いで、オーステナイト化温度から鋼合金を冷却する従来の方法で合金物品をオーステナイト化温度から冷却する。次いで、冷却した合金を250°F〜500°Fの範囲の温度にて焼き戻す。オーステナイト化温度からの合金の冷却と焼き戻しは、規格MIL−DTL−46100EのもとでのV50弾道限界値及びMIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの種々の実施形態におけるV50弾道限界値を満たす又はそれらを超えるV50弾道限界値を合金に提供し得る。
【0020】
種々の実施形態では、オーステナイト化温度からの合金物品の従来の冷却及び、焼き戻しは、規格MIL−A−46099Cのもとでの必要とされるV50弾道限界値及び低下した又は最低限の亀裂の伝搬を伴った規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの種々の実施形態における必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値を合金に提供する。言い換えれば、V50弾道限界値は、規格MIL−A−46099Cのもとでの必要とされるV50弾道限界値及び低下した又は最低限の亀裂の伝搬を伴った規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの種々の実施形態における必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいである。
【0021】
種々の実施形態では、合金物品は合金板又は合金シートであり得る。合金シート又は合金板は装甲シート又は装甲板であり得る。本開示の一実施形態は、本開示に係る合金及び合金物品の実施形態を含む製造物品に関する。そのような製造物品には、たとえば、装甲車両、装甲筐体、及び装甲移動式機器が挙げられる。
【0022】
本明細書で開示され、記載される本発明はこの要約で開示された実施形態に限定されないことが理解される。
【0023】
本明細書で開示され、記載される非限定の実施形態の種々の特徴は、添付の図面を参照してさらに良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】以下に記載されるように加工された特定の実験板試料におけるオーステナイト化処理加熱温度の関数としてのHRC硬度のプロットを示す図である。
【図2】以下に記載されるように加工された特定の非限定の実験板試料におけるオーステナイト化処理加熱温度の関数としてのHRC硬度のプロットを示す図である。
【図3】以下に記載されるように加工された特定の非限定の実験板試料におけるオーステナイト化処理加熱温度の関数としてのHRC硬度のプロットを示す図である。
【図4】オーステナイト化温度からの冷却の間に使用された試験試料の配置の模式図である。
【図5】オーステナイト化温度からの冷却の間に使用された試験試料の配置の模式図である。
【図6】特定の試験試料における焼き戻し実行の関数として必要とされる最小限のV50速度(MIL−A−46099Cによる)を超えるV50速度のプロットを示す図である。
【図7】オーステナイト化温度からの冷却の間に使用された試験試料の配置の模式図である。
【図8】オーステナイト化温度からの特定の試験試料の冷却工程の間の時間に対する試料温度のプロットを示す図である。
【図9】オーステナイト化温度からの特定の試験試料の冷却工程の間の時間に対する試料温度のプロットを示す図である。
【図10】オーステナイト化温度からの冷却の間使用された試験試料の配置の模式図である。
【図11】オーステナイト化温度からの冷却の間使用された試験試料の配置の模式図である。
【図12】以下で議論されるような、オーステナイト化温度から冷却された幾つかの実験試料について時間に対して試料温度をプロットしたグラフである。
【図13】以下で議論されるような、オーステナイト化温度から冷却された幾つかの実験試料について時間に対して試料温度をプロットしたグラフである。
【図14】以下で議論されるような、オーステナイト化温度から冷却された幾つかの実験試料について時間に対して試料温度をプロットしたグラフである。
【図15】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【図16】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【図17】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【図18】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【図19】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【図20】本明細書で開示され、記載される高硬度合金から形成された弾道試験パネルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示に係る合金、物品及び方法の種々の非限定の実施形態の以下の詳細な説明を考慮する際、読者は、そのほかと同様に前述の詳細を十分に理解するであろう。読者はまた、本明細書で記載される合金、物品及び方法を実施する又は使用する際、追加の詳細を理解するであろう。
【0026】
開示される実施形態の種々の記載は簡略化されて、開示される実施形態の明瞭な理解に関連する要素、特徴及び態様のみを説明する一方で、明瞭な目的のためにそのほかの特性、特徴、態様などを排除することが理解されるべきである。当業者は、開示される実施形態の本記載を考慮する際、そのほかの特性、特徴、態様などが開示される実施形態の特定の実施又は用途で望ましくてもよいことを認識するであろう。しかしながら、そのような特性、特徴、態様などは、開示される実施形態の本記載を考慮する際、当業者によって容易に確認され、実施され得るので開示される実施形態の完全な理解には必要ではないため、そのような特性、特徴、態様などの記載は本明細書では提供されない。従って、本明細書で言及される記載は、開示される実施形態の単なる例示であり、説明であり、特許請求の範囲によって単に定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0027】
本開示では、特に指示されない限り、量又は特性を表す数はすべて、用語「約」が前置きされる又はそれによって修飾されるとして理解されるべきである。従って、それとは反対に指示されなければ、以下の記載で言及されるどの数的パラメータも、本開示に係る組成及び方法で得るように求められる所望の特性によって変化してもよい。最低限、且つ特許請求の範囲の同等物の原則の適用を限定することを試みずに、本説明に記載される各数的パラメータは少なくとも、報告された有意な数字の数の観点で、及び通常の四捨五入法を適用することによって解釈されるべきである。
【0028】
また、本明細書で言及される数的範囲は、その中に含められる下位範囲すべてを含むことが意図される。たとえば、「1〜10」の範囲は、言及される最小値1〜言及される最大値10の間(及びそれらを含む)、すなわち、1以上の最小値と10以下の最大値を有する下位範囲すべてを含むことが意図される。本明細書で言及される任意の最大数限界は、その中に含まれるさらに小さな数の限界すべてを含むことが意図され、本明細書で言及される任意の最小数限界は、その中に含まれるさらに大きな数の限界すべてを含むことが意図される。従って、出願者らは、特許請求の範囲を含む本開示を補正して明らかに本明細書で言及される範囲内に含まれる下位範囲を明らかに言及する権利を留保する。そのような範囲はすべて、そのような下位範囲を明らかに言及するような補正が米国特許法第(35 U.S.C.112条第1段落及び同第132(a)条)に従うように本明細書で本質的に開示されることが意図される。
【0029】
文法上の冠詞等である「one」、「a」、「an」及び「the」は、本明細書で使用されるとき、特に指示されない限り、「少なくとも1つ」又は「1以上」を含むことが意図される。従って、冠詞等は、冠詞等の文法的目的の1を超えた1以上(すなわち、少なくとも1)を指すように本明細書で使用される。例証として、「a component」は1以上の成分を意味するので多分、1を超える成分が熟考され、記載される実施形態の実施において採用され、又は使用されてもよい。
【0030】
全体として又は部分的に参照により本明細書に組み込まれると言われる特許、出版物又はそのほかの開示資料は、その全体または部分的に本明細書に組み込まれるが、本開示で明らかに言及される既存の定義、記述、又はそのほかの開示資料と組み込まれたものが矛盾しない程度でのみ本明細書に組み込まれる。そのようなものとして、及び必要な程度に、本明細書で言及される明白な開示は、参照により本明細書に組み込まれる矛盾する資料に取って代わる。参照により本明細書に組み込まれると言われるが、本開示で言及される既存の定義、記述、又はそのほかの開示資料と矛盾する任意の資料又はその一部は、組み込まれる資料と既存の開示資料の間で矛盾が生じない程度でのみ本明細書に組み込まれる。出願者は本開示を補正して、参照により本明細書に組み入れられた任意の主題を明白に言及する権利を留保する。
【0031】
本開示は種々の実施形態の説明を含む。本明細書で記載される実施形態は例となり、説明であり、非限定であることが理解されるべきである。従って、本発明は、種々の例となる、説明に役立ち、非限定的な実施形態の記載によって限定されることはない。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によってのみ定義され、それは、本開示にて明白に若しくは本質的に記載される特徴又は本開示によって明白に若しくは本質的に記載される又は本質的に支えられる特徴を言及するために補正されてもよい。
【0032】
本開示は、一つには、有意な硬度を有し、亀裂及び/又は亀裂の伝搬が低減した、最少化した又はなくなった、相当な且つ予想外の多ヒット弾道抵抗性を示す低合金鋼に関し、それは、たとえば、軍の装甲用途に好適なレベルの弾道貫通抵抗性を付与する。本開示に係る鋼の種々の実施形態は、550BHNを超える硬度値を示し、MIL−DTL−46100Eにより評価した場合、及びMIL−A−46099Cにより評価した場合、相当なレベルの弾道貫通抵抗性を示す。本開示に係る鋼の種々の実施形態は、570BHNを超える硬度値を示し、MIL−DTL−32332のクラス1又はクラス2により評価した場合、相当なレベルの弾道貫通抵抗性を示す。米軍規格「MIL−DTL−46100E」、「MIL−A−46099C」、及び「MIL−DTL−32332」は参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
特定の既存の600BHN鋼装甲板材に比べて、本開示に係る合金の種々の実施形態は、徹甲弾(AP)発射体に対して調べた場合、亀裂及び貫通に対して有意に影響を受けにくい。合金の種々の実施形態はまた、たとえば、K−12(登録商標)装甲板のような高合金装甲材の性能に匹敵する弾道性能を示す。本開示に係る鋼合金の種々の実施形態の弾道性能は、全体的に予想外に与えられた、たとえば、従来の600BHN鋼装甲材と比べて合金の低い合金含量と合金の相対的に適度な硬度であった。
【0034】
さらに詳しくは、本開示に係る合金の種々の実施形態は相対的に適度な硬度(相対的に遅い冷却速度又は従来の速度にてオーステナイト化温度から合金を冷却することによって提供され得る)を示すが、合金の試料はK−12(登録商標)装甲板の性能に少なくとも匹敵する相当な弾道性能を示すことが予想外に認められた。この驚くべき且つ自明ではない発見は、鋼装甲材の硬度を高めることが弾道性能を改善するという従来の信念に直接矛盾する。
【0035】
本開示に係る鋼の種々の実施形態は低レベルの残留元素、イオウ、リン、窒素及び酸素を含む。また、鋼の種々の実施形態は1つ以上のセリウム、ランタン及び希土類金属の濃縮を含む。操作の特定の理論に束縛されないで、本発明者らは、希土類の添加が合金に存在するイオウ、リン、及び/又は酸素の一部に結合してこれら残留物が粒界であまり濃縮せず、材料の多ヒット弾道抵抗性を低減しないように作用し得ると考えている。さらに、鋼の粒界の中でイオウ、リン、及び/又は酸素を濃縮することは、高速弾道の際、粒間分離を促進し、材料の破損、亀裂の伝搬、及び衝突する発射体の貫通の可能性を招き得ることが考えられる。本開示に係る鋼の種々の実施形態はまた、相対的に高いニッケル含量、たとえば、3.30〜4.30重量%のニッケルを含んで相対的に頑丈なマトリクスを提供し、それによって弾道性能を有意に改善する。種々の実施形態では、ニッケル含量は、本明細書で開示される鋼の3.75〜4.25重量%を構成する。
【0036】
種々の実施形態では、本明細書で開示される鋼合金は、(合金の全重量に対する重量パーセントで)0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む。種々の実施形態では、鋼合金はまた0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム及び/又は0.001〜0.015のランタンも含む。
【0037】
種々の実施形態では、炭素含量は、0.40〜0.53重量%の範囲内、たとえば、0.48〜0.52重量%又は0.49〜0.51重量%の部分範囲を含んでもよい。マンガンの含量は、0.15〜1.00重量%の範囲内、たとえば、0.20〜0.80重量%の部分範囲を含んでもよい。珪素の含量は、0.15〜0.45重量%の範囲内、たとえば、0.50〜0.40重量%の部分範囲を含んでもよい。クロムの含量は、0.95〜1.70重量%の範囲内、たとえば、1.00〜1.50重量%の部分範囲を含んでもよい。ニッケルの含量は、3.30〜4.30重量%の範囲内、たとえば、3.75〜4.25重量%の部分範囲を含んでもよい。モリブデンの含量は、0.35〜0.65重量%の範囲内、たとえば、0.40〜0.60重量%の部分範囲を含んでもよい。
【0038】
種々の実施形態では、イオウ含量は0.001重量%以下の含量を含んでもよく、リンの含量は、0.010重量%以下の含量を含んでもよく、及び/又は窒素の含量は0.010重量%以下の含量を含んでもよい。種々の実施形態では、ホウ素の含量は0.0002〜0.0050重量%の範囲内、たとえば、0.008〜0.0024、0.0010〜0.0030、又は0.0015〜0.0025重量%の部分範囲を含んでもよい。
セリウム含量は、0.001〜0.015重量%の範囲内、たとえば、0.003〜0.10重量%の部分範囲を含んでもよい。ランタン含量は0.001〜0.015重量%の範囲内、たとえば、0.002〜0.010重量%の部分範囲を含んでもよい。
【0039】
新奇の合金系を開発することに加えて、本発明者らはまた以下のように検討を行い、議論し、既知の軍規格MIL−DTL−46100E、MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332により評価されるような硬度及び弾道性能を改善するために本開示の範囲内でどのように鋼を加工するかを決定した。本発明者らはまた、鋼の中で炭化物粒子を溶解し、拡散を可能にし、鋼の中で有利な程度の均質性を生じることが意図される種々に温度に本開示に係る鋼の試料を供した。この試験の目的は、材料の靭性を低下させ、それによって弾道性能を低下させる、過剰な炭化を生じない、且つ過剰で受け入れ難い粒成長を生じない熱試験温度を決定することだった。種々の加工において、鋼の板はクロスロールされ、ある程度の等方性を提供した。
【0040】
本明細書に記載される加工法の種々の実施形態は鋼合金に特定の微細構造を付与するとも考えられる。たとえば、種々の実施形態では、開示された鋼はオーステナイト化温度から冷却されてマルテンサイトを形成する。冷却された合金は有意な量の双晶マルテンサイトと種々の量の残留オーステナイトを含有し得る。本明細書で開示される種々の実施形態に係る冷却された合金の焼き戻しは、残留オーステナイトを下部ベイナイト及び/又はラスマルテンサイトに変換し得る。このことによって結果的に、硬い双晶マルテンサイト微細構造と靭性の高い、さらに延性の下部ベイナイト及び/又はラスマルテンサイトの微細構造の相乗的な組み合わせを有する鋼合金を生じ得る。硬度、靭性及び延性の相乗的な組み合わせは、本明細書で記載される合金に優れた弾道貫通特性と亀裂抵抗性を付与し得る。
【0041】
オーステナイト化温度から異なった温度で冷却されたので異なった硬度を有する試料の弾道性能を評価する試みも行った。本発明者らの試験には、亀裂の伝搬が軽減した、最少化した、又はなくなった多ヒット弾道抵抗性を最良にどのように促すのかを評価することを意図した焼き戻し試験及び冷却試験が含まれた。7.62mm(.30の口径M2,AP)の発射体を用いてMIL−DTL−46100E、MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332ごとに種々の試験試料のV50弾道限界値を決定することによって試料を評価した。本発明者らの合金試験の詳細は以下のとおりである。
【0042】
1.実験合金板の調製
低合金鋼装甲材の新規の組成物を処方した。本発明者らは、そのような合金組成は好ましくは、相対的に高いニッケル含量と低レベルのイオウ、リン及びニッケルの残留元素を含むべきであり、均質性を促すように板形状に加工されるべきであると結論付けた。アルゴン/酸素脱炭化)「AOD」又はAODとエレクトロスラグ再溶解(「ESR」)によって、表2に示す実験的化学成分を有する合金の幾つかのインゴットを調製した。表2は、合金元素の所要最小値及び所要最大値、好ましい最小値及び好ましい最大値(あれば)、および名目上の目標レベル、並びに製造された合金の実際の化学成分を示す。合金の残りには鉄及び付随する不純物が含まれた。付随する不純物として存在するかも知れない元素の非限定例には、銅、アルミニウム、チタン、タングステン及びコバルトが挙げられる。出発材料に由来する及び/又は合金の加工を介する可能性がある付随する不純物は、冶金学の当業者に既知であろう。特に指示されない限り、合金全重量に対する重量パーセントとして、合金の組成は表2に報告され、さらに一般的には本明細書で報告される。また、表2では、「LAP」は「できるだけ低い」を指す。
【表2】

【0043】
従来の手法を用いてインゴットの表面を磨いた。次いでインゴットを約1300°Fに加熱し、均等化し、この第1の温度で6〜8時間保持し、約200°F/時間(93℃/時間)で約2050°F(1121℃)に加熱し、厚さ1インチ当たり約30〜40分間第2の温度で保持した。次いでインゴットを6〜7インチ(15.2〜17.8cm)の厚さに熱間圧延し、末端を切り取り、必要に応じて約2050°F(1121℃)で1〜2時間再加熱し、その後、厚さ約1.50〜2.65インチ(3.81〜6.73cm)のリスラブに追加的に熱間圧延した。従来の手法を用いてリスラブを応力除去焼きなましし、次いでスラブの表面を吹き付け磨きし、約0.188インチ(4.8mm)〜約0.310インチ(7.8mm)に及ぶ仕上げ標準厚さを有する長い板に仕上げロールした。次いで長い板を完全に焼き戻し、吹き付け磨きし、平坦化し、剪断して複数の個々の板を形成した。
【0044】
特定の場合、仕上げ厚さを達成するのに必要な最終ロール工程の直前にリスラブをロール温度に再加熱した。さらに具体的には、特定の板試料を表3に示すように最終ロールした。表3に示すように最終ロールした0.275インチと0.310インチ(7mmと7.8mm)の厚さ(名目上)の試料にて試験を行い、表面硬度及び弾道性能特性を最適化する可能性のある加熱温度パラメータを評価した。
【表3】

【0045】
2.硬度試験
第1節で製造した板をオーステナイト化処理及び硬化工程に供し、3つに切り分け、さらなる試験のための試料を形成し、任意で焼き戻し処理に供した。オーステナイト化処理には、1550〜1650°F(843〜899℃)で40分間の温度での時間で試料を加熱することが関与した。硬化には、オーステナイト化処理から室温(「RT」)まで試料を空冷すること又は油中で試料を冷ますことを含める。
【0046】
本明細書で使用されるとき、用語「温度での時間」は、少なくとも物品の表面が特定の温度に達した後、その温度で物品を維持する時間の持続時間を指す。たとえば、試料を1650°Fで40分間の温度での時間で試料を加熱することは、試料を1650°Fの温度に試料を加熱し、いったん試料が1650°Fに達したら、試料を1650°Fで40分間維持することを意味する。指定の温度での時間が経過した後、物品の温度は指定の温度から変化してもよい。本明細書で使用されるとき、用語「最少限の加熱炉時間」は、物品が炉に入れられ、指定の温度で加熱される時間の最少限の持続時間を指す。たとえば、語句「1650°Fで40分間の最少限の加熱炉時間で試料を加熱すること」は、試料を1650°Fの加熱炉に40分間入れ、次いで1650°Fの加熱炉から取り出すことを意味する。
【0047】
それぞれオーステナイト化され、硬化された板からの3つの試料の1つを試験用に硬化状態で保持した。それぞれオーステナイト化され、硬化された板から切り出された残りの2つの試料は、250°F(121℃)又は300°F(149℃)で90分間の温度での時間にて焼き戻した。試料の硬度を評価するのに必要とされる時間を減らすために、ブリネル硬度試験ではなく、まずロックウエルC(HR)試験を用いて試料すべてを調べた。硬化状態で最高のHRC値を示す2つの試料も調べて硬化状態(すなわち、焼き戻し処理の前)でのブリネル硬度(BHN)を決定した。表4は、250°F(121℃)又は300°F(149℃)で焼き戻した試料のオーステナイト化処理温度、冷却型、標準厚さ及びHR値を列記する。表4はまた、試験に用いた板が最終標準厚さに圧延される直前に再加熱に供されたかどうかも示す。加えて、表4は、硬化されたままの状態で最高のHR値を示す、焼き戻さなかった硬化試料についてのBHN硬度も列記する。
【表4】

【0048】
表5は、硬化状態での、及び250°F(121℃)又は300°F(149℃)で90分間の温度での時間で焼き戻した後の表4に含まれる試料の平均HRC値を提供する。
【表5】

【0049】
一般に、指定の負荷のもとで指定の径の硬質鋼又は炭化物の球の形状での圧子を試料の表面に押し付け、試験後に残った圧痕の径を測定することによってブリネル硬度は、規格ASTM E10ごとに決定される。ブリネル硬度数又は「BHN」は、使用した圧子負荷(キログラムでの)を圧痕の実際の表面積(平方ミリメートル)で割ることによって得られる。結果は圧力測定であるが、BHN値が報告される場合、単位は稀にしか述べられない。
【0050】
鋼装甲試料のブリネル硬度数の評価では、卓上機器を用いて10mm径のタングステン炭化物球圧子を試験検体の表面に押し付ける。機器は3000キログラムの負荷を普通10秒間適用する。球体を離した後、得られた丸い圧痕の径を測定する。BHN値は以下の式に従って算出されるが、
【数1】

式中、BHN=ブリネル硬度数、P=キログラムでの押し付け負荷、D=球形圧子のmmでの径、及びd=得られた圧子の圧痕のmmでの径である。
【0051】
装甲板の表面領域で何回かのBHN試験を行い、各試験は、やや異なった硬度数を生じてもよい。硬度におけるこの変異は、均質の装甲材でさえ絶対的には均一ではないので局所の化学成分や微細構造における軽微な変異により得る。硬度測定における小さな変異は検体における圧子の圧痕の径の測定での誤差からも生じ得る。任意の単一検体における硬度測定の予想される変異を考えて、BHN値は単一の別個の値ではなく範囲として提供されることが多い。
【0052】
表4に示すように、試料で測定された最高のブリネル硬度は624及び587だった。それらの特定の硬化された試料は、1550°F(843℃)(BHN624)又は1600°F(871℃)(BHN587)にてオーステナイト化された。2つの試料の一方は油焼入れし(BHN624)、他方は空冷し、2つの使用の一方(BHN624)は最終の標準厚さに圧延する前に再加熱した。
【0053】
一般に、焼き戻しを用いることは試料の硬度を高める傾向があることが認められ、300°F(149℃)の焼き戻し温度は各オーステナイト化温度にてさらに大きな硬度の上昇を生じた。また、オーステナイト化温度を上昇させることは一般に達成される最終的な硬度を低下させる傾向があることが認められた。これらの相関を図1に示すが、それは、硬化状態(「AgeN」)又は250°F(121℃)(「Age25」)又は300°F(149℃)(Age30」)のいずれかで焼き戻した後における0.275インチ(7mm)の試料(左図)及び0.310インチ(7.8mm)(右図)についてオーステナイト化温度の関数として平均HR硬度をプロットしている。
【0054】
図2及び図3は、冷却型による硬度、及び0.275及び0.310インチ(7及び7.8mm)の名目最終の標準厚さに圧延する前にリスラブを加熱したかどうかの場合の硬度に対する効果を考慮している。図2は、硬化状態(「AgeN」)又は250°F(121℃)(「Age25」)又は300°F(149℃)(Age30」)のいずれかで焼き戻した後における、非再加熱0.275インチ(7mm)試料(上左図)、再加熱0.275インチ(7mm)試料(下左図)、非再加熱0.310インチ(7.8mm)試料(上右図)、及び再加熱0.310インチ(7.8mm)試料(下右図)についてオーステナイト化温度の関数としてHR硬度をプロットしている。同様に図3は、硬化状態(「AgeN」)又は250°F(121℃)(「Age25」)又は300°F(149℃)(Age30」)のいずれかで焼き戻した後における、空冷0.275インチ(7mm)試料(上左図)、油焼入れした0.275インチ(7mm)試料(下左図)、空冷0.310インチ(7.8mm)試料(上右図)、及び油焼入れした0.310インチ(7.8mm)試料(下右図)についてオーステナイト化温度の関数としてHR硬度をプロットしている。各オーステナイト化温度で加工し、図2及び図3における各図に関する条件を満たす試料の平均硬度を四角のデータ点として各図でプロットし、傾向を上手く視覚化できるように各図におけるそのようなデータ点を点線で繋ぐ。図2及び図3の各図で考慮された試料すべての全体的な平均硬度を菱形データ点として各図でプロットする。
【0055】
図2を参照して、最終的な標準厚さに圧延する前の再加熱の硬度効果は軽微であり、他の変数の効果に対して明らかではないことが一般に認められた。たとえば、最高の2つのブリネル硬度を持つ試料の1つだけが最終的な標準厚さに圧延する前に再加熱された。図3を参照して、オーステナイト化加熱処理の後、油焼入れすことに対して空冷を用いた結果生じる硬度の差異は極わずかであることが一般に認められた。たとえば、最高の2つのブリネル硬度を持つ試料の1つだけが最終的な標準厚さに圧延する前に板形状で再加熱された。
【0056】
実験合金試料は、オーステナイト化焼きなまし後、高濃度の残留オーステナイトを含むことが判った。板厚が大きく、オーステナイト化の処理温度が高いと高レベルの残留オーステナイトを生じる傾向があった。また、焼き戻しの間にオーステナイトの少なくとも一部がマルテンサイトに変換することが認められた。焼き戻し処理後に存在する焼き戻しされていないマルテンサイトは最終物質の靭性を下げ得る。最適な靭性をさらに上手く確保するには、追加の焼き戻しを用いて残留オーステナイトをマルテンサイトにさらに変換し得ることが結論付けられた。本発明者らの観察に基づいて、少なくとも約1500°F(815℃)、さらに好ましくは少なくとも約1550°F(843℃)のオーステナイト化温度が、高い硬度を達成するという点で評価される物品について申し分ないと思われる。
【0057】
3.弾道性能評価
0.275インチ(7mm)の名目厚さを有する18×18インチ(45.7×45.7cm)の試験パネルを幾つか、上記第1節で記載されたように調製し、次いで以下で議論されるようにさらに加工した。次いでパネルを以下で記載されるように弾道性能試験に供した。
【0058】
第1節で記載されたように製造した8個の試験パネルを以下のようにさらに加工した。8個のパネルを1600°F(871℃)で35分間(±5分)オーステナイト化し、室温に空冷し、硬度を調べた。1600°F(871℃)でオーステナイト化した8個のパネルの1つのBHN硬度をオーステナイト化したまま、焼き戻ししない(「硬化したまま」)状態で測定した。硬化パネルは約600BHNの硬度を示した。
【0059】
1600°F(871℃)でオーステナイト化し、空冷した8個のパネルのうち6個を2つずつ3セットに分け、各セットを250°F(121℃)、300°F(149℃)及び350°F(177℃)の1つで90分間(±5分)焼き戻し、室温に空冷し、硬度を調べた。焼き戻したパネルの3セットのそれぞれの1個(合計3パネル)を取り除けておき、残りの3個を元々の250°F(121℃)、300°F(149℃)及び350°F(177℃)の焼き戻し温度の1つで90分間(±5分)再び焼き戻し、室温に空冷し、硬度を調べた。試料ID番号1〜6によってこれら6個のパネルを以下の表6で特定する。
【0060】
1600°F(871℃)でオーステナイト化し、空冷した8個のパネルのうち1個を32°F(0℃)の氷水におよそ15分間浸漬し、次いで取り出し、硬度を調べた。次いでパネルを300°F(149℃)で90分間(±5分)焼き戻し、室温に空冷し、32°F(0℃)の氷水におよそ15分間浸漬し、次いで取り出し、硬度を調べた。次いで試料を300°F(149℃)で90分間(±5分)再び焼き戻し、室温に空冷し、32°F(0℃)の氷水におよそ15分間再び入れ、再び取り出し、硬度を調べた。表6にてこのパネルをID番号7によって参照する。
【0061】
上記第1節に記載されたように調製した3個の追加のパネルをさらに以下のように加工し、次いで弾道性能試験に供した。3個のパネルそれぞれを1950°F(1065℃)で35分間(±5分)オーステナイト化し、室温に空冷し、硬度を調べた。次に3個のパネルそれぞれを300°Fで90分間(±5分)焼き戻し、室温に空冷し、硬度を調べた。焼き戻し、空冷した3個のパネルのうち2個を次いで300°F(149℃)で90分間(±5分)再び焼き戻し、室温に空冷し、次いで硬度を調べた。再び焼き戻したパネルの1個を次に低温で−120°F(−84℃)に冷却し、室温に温め、硬度を調べた。これら3個のパネルを表6ではID番号9〜11によって特定する。
【0062】
MIL−DTL−46100Eによる7.62mm(.30口径M2、AP)発射体を用いてV50弾道限界(保護)を評価することによって、表6にて特定された11個のパネルを弾道性能について個々に評価した。V50弾道限界値は、発射体が装甲試験パネルを貫通する確率が50%で算出された発射体速度である。
【0063】
さらに正確には、米軍規格MIL−DTL−46100E(「装甲、板、鋼、鍛錬用、高硬度」)、MIL−A−46099C(「装甲、板、鋼、ロール圧接、二重硬度(0.187インチ〜0.700インチを含む)」)及びMIL−DTL−32332(装甲、板、鋼、鍛錬用、超高硬度」)のもとで、V50弾道限界(保護)値は、完全な貫通を生じる3つの最低発射体速度と部分的貫通を生じる3つの最高発射体速度を含む6つの公平な弾道速度の平均速度である。150フィート/秒(fps)の最高速度が、V50弾道限界値を決定するのに採用される最低と最高の速度の間で容認される。
【0064】
完全貫通の最低速度が、部分貫通の最高速度より150fpsを超えて低い場合、弾道限界は、10の速度(完全貫通を生じる5つの最低速度と部分貫通を生じる5つの最高速度)に基づく。10回の過度に広がった弾道限界を使用する場合、速度の広がりは、最低部分レベル、150fpsにできるだけ近くに減らさなければならない。V50弾道限界(保護)値を決定するのに通常の上下点火法を用い、速度はすべて着速に補正される。計算されたV50弾道限界が、必要とされる最小を超える30fps未満であり、30fps以上のギャップ(完全貫通の最低速度未満の部分貫通の最高速度)が存在するのであれば、発射体の点火を必要に応じて継続し、ギャップを25fps以下に減らす。
【0065】
試験パネルについて決定されたV50弾道限界値を特定の厚さの試験パネルについて必要とされる最小V50弾道限界値と比較してもよい。試験パネルについて計算されたV50弾道限界値が必要とされる最小V50弾道限界値を超えるならば、試験パネルは必要な弾道性能の基準を「パス」していると言われ得る。板状装甲材の最小V50弾道限界値は、MIL−DTL−46100E、MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332を含む種々の米軍規格に設定されている。
【0066】
表6は11個の弾道試験パネルのそれぞれの以下の情報を列記する:試料のID番号;オーステナイト化温度;オーステナイト化処理から室温に冷却した後(「硬化したまま」)のBHN硬度;焼き戻し処理のパラメータ(使用した場合);焼き戻し温度から室温に冷却した後のBHN硬度;再焼き戻し処理のパラメータ(使用した場合);再焼き戻し温度から室温に冷却した後のBHN硬度;及びパネルの計算されたV50弾道限界値とMIL−DTL−46100Eによる及びMIL−A−46099Cによる必要とされる最小V50弾道限界値との間でのfpsの差異。表6における正のV50の差異値(たとえば、「+419」)は、パネルについて計算されたV50弾道限界が示された程度に必要とされるV50を超えたことを示す。負の差異値(たとえば、「−44」)は、パネルについて計算されたV50弾道限界が示された程度に、示された軍規格による必要とされるV50弾道限界値に届かなかったことを示す。
【表6】

【0067】
12〜19と番号を付け、実験合金から構成される追加の8個の18×18インチ(45.7×45.7cm)(名目)の試験パネルを上記第1節で記載されたように調製した。パネルのそれぞれは名目上、0.275インチ(7mm)又は0.320インチ(7.8mm)の厚さだった。8個のパネルのそれぞれを1600°F(871℃)で35分間(±5分)加熱することによるオーステナイト化に供し、次いで室温に空冷した。硬化状態で(冷却し、焼き戻し処理を行わない)、7.62mm(.30口径)M2、AP発射体に対して弾道性能についてパネル12を評価した。パネル13〜19は表7に載せた個々の焼き戻し工程に供し、室温に空冷し、次いで上記パネル1〜11と同様に弾道性能について評価した。表7に載せた焼き戻し時間のそれぞれは近似であり、実際には載せた時間の±5分以内だった。表8は、表7に載せた特定のパネル厚さについてのMIL−DTL−46100Eによる及びMIL−A−46099Cによる必要とされる最小V50弾道限界値と共に、試験パネル12〜19のそれぞれの計算されたV50弾道限界(性能)値を列記する。
【表7】

【表8】

【0068】
たとえば、板、棒及びシートの形態での延伸材は、合金の硬度及び弾道性能を最適化するために前述の所見と結論を考慮して作成する工程を含む加工によって本開示に従って合金から作製され得る。当業者によって理解されるように、「板」製品は少なくとも3/16インチの名目厚さと少なくとも10インチの幅を有し、「シート」製品は3/16以下の名目厚さと少なくとも10インチの幅を有する。当業者は、板、シート及び棒のような種々の従来の延伸材の間での差異を容易に理解するであろう。
【0069】
4.冷却試験
a.試行1
表2に示す実際の化学成分を有する0.275×18×18インチの試料の群を1600°F±10°F(871℃±6℃)で35分間±5分間加熱することによるオーステナイト化サイクルを介して加工し、次いで冷却軌道に影響を及ぼす種々の方法を用いて室温に冷却した。次いで冷却した試料を定義した時間焼き戻し、室温に冷却した。試料は、ブリネル硬度を調べ、弾道試験を行った。規格MIL−DTL−46100Eのもとでの要件を満たす弾道V50値が所望だった。好ましくは、弾道V50値によって評価されるような弾道性能は、規格MIL−A−46099Cのもとで必要とされるV50値よりもまさに150fps小さい。一般に、MIL−A−46099Cは、MIL−DTL−46100Eのもとで必要とされるものより300〜400fps大きい有意に高いV50値を要求する。
【0070】
表9は、試料間で1インチの隙間を空けた冷却棚に試料を縦に並べ、室温環境における静止空気にて試料を室温に冷却することによってオーステナイト化温度から冷却した試料についての硬度とV50の結果を列記する。図4はこれら試料の積み重ね配置を模式的に説明する。
【0071】
表10は、表9の試料と同じ一般冷却条件と同じ試料縦型棚配置を用いるが、冷却ファンが試料の周りの室温を循環させてオーステナイト化温度から冷却した試料についての硬度とV50の結果を列記する。従って、表10の試料がオーステナイト化温度から冷却する平均速度は表9に載せた試料のそれを超えた。
【0072】
表11は、試料がオーステナイト化温度から冷却する速度に影響を及ぼすように、冷却棚で水平に配置し、隣接する試料と接触して並べた、静止空気で冷却した試料についての硬度とV50の結果を列記する。表11に含まれるV50値を図6にて焼き戻しの実行の関数としてプロットする。4つの異なった並べ方配置を表11の試料に用いた。配置の1つでは、図5の上部に示すように、2つの試料を互いに接触して置いた。別の配置では、図5の下部に示すように、3つの試料を互いに接触して置いた。図8は、図5の上部と下部で示すように並べた試料についての冷却曲線のプロットである。図7は、2つのさらなる並べ方配置を示し、オーステナイト化温度から冷却する間、4枚の板(上部)又は5枚の板(下部)を互いに接触して置いた。図9は、図7の上部と下部で示すように並べた試料についての冷却曲線のプロットである。
【0073】
表11に載せた各試料について、表の第2欄は、並べ方配置に関連する試料の総数を示す。試料の周りで空気を循環させること(静止空気で冷却することに対して)及び表9、10及び11における試料と同様に異なった数の試料を互いに接触させて置くことは種々の試料についての冷却曲線の形状に影響を及ぼすことが予想された。言い換えれば、冷却曲線によって辿られる特定の軌道(すなわち、曲線の形状)は表9、10及び11における検体の種々の配置に関して異なることが予想された。たとえば、他の試料と接触させて冷却した試料についての冷却曲線の1つ以上の領域における冷却速度は同じ冷却曲線の領域における縦に置き、間隔を空けた試料の冷却速度よりも小さい可能性がある。試料の冷却における差異は、以下で議論するように試料の弾道貫通抵抗性に予想外に影響を及ぼす試料における微細構造の差異を生じたと考えられる。
【0074】
表9〜11は、これらの表に載せた各試料で使用した焼き戻し処理を特定する。表9〜11におけるV50の結果は、規格MIL−A−46099Cのもとでの特定の試験試料サイズについての必要とされるV50弾道限界値に対するフィート/秒(fps)での差異として記載される。例として、「−156」の値は、7.62mm(.30口径M2、AP)の銃弾を用いた軍規格ごとに評価されるその試料についてのV50弾道限界値が軍規格のもとで必要とされる値よりも156fps小さいことを意味し、「+82」の値は、V50弾道限界値が必要とされる値を82fps超えることを意味する。従って、大きな正の差異の値は、軍規格のもとで必要とされるV50弾道限界値を超える弾道貫通抵抗性を反映するので最も望ましい。表9で報告されるV50値は、標的板が弾道試験の間、割れた(劣化した)ので推定した。表9及び表10に載せた試料の弾道試験結果は、亀裂のさらに高い発生を経験した。
【表9】

【表10】

【表11】

【0075】
表11に載せた試料硬度値は、表9及び表10の試料のそれよりも有意に小さかった。差異は、オーステナイト化温度から試料を冷却する際、試料を互いに接触して置いた結果であると考えられ、それは、表9及び表10及び図4で参照される「空冷」試料に対して試料の冷却曲線を改変した。表11の試料に用いた緩慢な冷却はまた、オーステナイト化温度から室温への冷却の間、物質を自己焼き戻しするように作用するとも考えられる。
【0076】
上記で議論したように、従来の信念は、鋼装甲材の硬度を高めることは衝突する発射体を破損する装甲材の能力を高め、それによって、たとえば、V50弾道限界値試験により評価されるような弾道性能を向上させるはずであるということである。表9及び表10における試料は、組成上は表11のものと同一であり、オーステナイト化温度からの冷却方法を除いて、実質的に同じ方法で加工した。従って、鋼装甲材の製造における当業者は、表11における試料の低い表面硬度が弾道貫通抵抗性に否定的に影響すると予想するであろう。
【0077】
その代わりに、本発明者らは、表11の試料が正のV50値を維持しつつ、有意に改善された貫通抵抗性を予想外に示すことを見い出した。オーステナイト化温度からの冷却後、鋼を焼き戻す場合の実験試行における弾道特性の明らかな改善を考慮すると、ミルスケール試行での種々の実施形態では、オーステナイト化温度からの冷却後、250〜450°F、好ましくは約375°Fにて約1時間焼き戻すことが有益であると考えられる。
【0078】
表11における平均V50弾道限界値は、MIL−A−46099Cのもとで試料に必要とされるV50弾道限界値よりも119.6fps高い。従って、表11における実験データは、本開示に係る鋼装甲材の実施形態がMIL−A−46099Cのもとで必要とされる値に近い又はそれを超えるV50速度を有することを示している。それに対して、早い速度で冷却した試料について表10に載せた平均V50弾道限界値は、規格のもとで必要とされるものよりわずか2fps大きいに過ぎず、試料は、受け入れ難い多ヒット亀裂抵抗性を経験した。MIL−A−46099CのV50弾道限界値の要件が規格MIL−DTL−46100Eのもとでのものよりおよそ300〜400fps大きいことを考えると、本開示に係る種々の鋼装甲材の実施形態もMIL−DTL−46100Eのもとで必要とされる値に近いか又はそれを満たす。本開示における発明を全く限定しないが、V50弾道限界値は好ましくは、MIL−A−46099Cのもとで必要とされる値に150fps以上満たない。言い換えれば、V50弾道限界値は好ましくは、最少限の亀裂伝搬を伴った規格MIL−A−46099Cのもとで必要とされるV50値よりも150fps小さいV50値と少なくとも同じくらいである。
【0079】
表11の実施形態の平均貫通抵抗性能は、相当なものであり、特定のさらにコストの高い装甲材又はK12(登録商標)二重硬度装甲板に少なくとも匹敵すると考えられる。要するに、表11における鋼装甲材試料は表9及び表10における試料よりも有意に低い表面硬度を有したが、それらは、特定の高級な高合金の装甲合金の弾道抵抗性に匹敵する、実質的に高い弾道貫通抵抗性を、亀裂伝搬の低い発生と共に予想外に示した。
【0080】
特定の理論に束縛されることを意図しないで、本発明者らは、本開示に係る鋼装甲材の新奇の組成とオーステナイト化温度からの装甲材の冷却の従来にない手法が予想外に高い貫通抵抗性を伴った鋼装甲材を提供するのに重要であると考えている。本発明者らは、表11における試料の相当な弾道性能が単に、表9及び表10における試料に比べて試料の低い硬度の関数ではないことを認めた。実際、以下の表12で示すように、表9における特定の試料は、表11における試料の焼き戻し後の硬度と実質的に同じである焼き戻し後の硬度を有したが、表9及び表10の試料とは異なってオーステナイト化温度から冷却した表11の試料は亀裂の低い発生と共に相当に高いV50弾道限界値を有した。従って、操作の特定の理論に束縛されることを意図しないで、表11における貫通抵抗性の有意な改善は、従来にない冷却方法の間に生じ、さらに室温に冷却する間に物質が自己焼き戻しされるのを可能にする予想外の且つ有意な微細構造変化の結果生じ得たと考えられる。
【0081】
本試行では、本明細書で議論される本発明者らの所見に基づいて、冷却棚で水平方向に互いに接触させて試料を置くことによって従来の空冷工程のものから冷却曲線を改変したが、従来の冷却曲線を改変する他の手段を用いて本開示に係る合金の弾道性能に有益に影響を及ぼし得ることが考えられる。合金の冷却曲線を有益に改変する可能な方法の例には、制御された冷却ゾーンでオーステナイト化温度から冷却すること、又はオーステナイト化温度からの合金の冷却工程のすべて又は一部の間で熱的に絶縁された物質、たとえば、カオウールによって合金を変換することが挙げられる。
【表12】

【0082】
装甲材の用途にて高硬度によって得られる利点を考慮すると、本開示に係る低合金鋼は少なくとも550BHN、種々の実施形態では少なくとも570BHN又は600BHNの硬度を有してもよい。前述の試験結果及び本発明者らの所見に基づいて、本発明に係る鋼は、550BHNを超え、700BHN未満である、種々の実施形態では、550又は570BHNを超え、675BHN未満である硬度を有してもよい。種々のそのほかの実施形態によれば、本開示に係る鋼は、少なくとも600BHNであり、675BHN未満である硬度を有する。硬度は弾道性能を確立するのに重要な役割を担っている可能性がある。しかしながら、本方法に従って製造された実験的装甲材合金はまた、空気中でオーステナイト化温度から試料を冷却する従来の工程を特徴とする曲線から試料の冷却曲線を改変した、試料の従来にない冷却方法の結果生じた微細構造変化から予想外の相当な貫通抵抗性も推進する。
【0083】
b.試行2
実験的試行を行って、本開示に係る合金の弾道貫通抵抗性における予想外の改善に少なくとも部分的に関与し得るオーステナイト化温度から冷却された合金の冷却曲線への特定の変化を検討した。表2で示す実際の化学成分を有する3枚の0.310インチの試料板を2群、1600°F±10°F(871℃±6℃)のオーステナイト化温度で35分間±5分間加熱した。オーステナイト化温度からの試料の冷却曲線に影響を及ぼすために2つの異なった配置で群を炉のトレイに配置した。図10で説明される第1の配置では、3枚の試料(番号、DA−7、DA−8及びDA−9)を試料間で最小1インチの間隔を空けて縦に棚に入れた。第1の熱電対(「チャンネル1」と呼ぶ)を棚に入れた試料の中間の試料(DA−8)の面に置いた。第2の熱電対(チャンネル2)を外側の板(DA−7)の外側の面(すなわち、中間の板に面していない)に置いた。図11に示す第2の配置では、3枚の試料を互いに接触させて水平に重ね合わせ、試料番号DA−10が底、BA−2が一番上、BA−1が中間だった。第1の熱電対(チャンネル3)は底の試料の上面に置き、第2の熱電対(チャンネル4)は一番上の試料の裏面(中間の試料の上面と相対する)に置いた。各配置の試料をオーステナイト化温度に加熱し、そこで維持した後、試料トレイを炉から取り出し、試料が300°F(149℃)未満になるまで静止空気中で冷却した。
【0084】
オーステナイト化温度から室温に試料を冷却した後、各試料の角位置で硬度(BHN)を評価し、その後再びオーステナイト化試料を225°F(107℃)で60分間焼き戻した。結果を表13に示す。
【表13】

【0085】
図12に示す冷却曲線は、オーステナイト化炉から試料を取り出した直後の時間から約200〜400°F(93〜204℃)の範囲の温度に達するまでの各チャンネル1〜4で記録された試料の温度をプロットする。図12はまた、高温から冷めるときの合金についての種々の相領域を説明する、合金についての可能な連続冷却変換(CCT)曲線も示す。図13は、チャンネル1〜4についての各冷却曲線が理論的CCT曲線と交差する領域を含む、図11の冷却曲線の一部の詳細な図を示す。同様に図14は、500〜900°F(260〜482℃)の試料温度の範囲における図12で示した冷却曲線とCCT曲線の一部を示す。チャンネル1と2(縦に並べた試料)についての冷却曲線は、チャンネル3と4(積み重ねた試料)についての冷却曲線に類似する。しかしながら、チャンネル1と2についての冷却曲線は、特に冷却曲線の早期部分(冷却工程の開始の間)にてチャンネル3と4についての曲線とは異なった軌道を辿る。
【0086】
その後、チャンネル1と2についての曲線の形状は、チャンネル3と4よりも速い冷却速度を反映する。たとえば、個々のチャンネルの冷却曲線が最初にCCT曲線と交差する冷却曲線の領域では、チャンネル1と2(縦に並べた試料)の冷却速度はおよそ136°F/分(75.6℃/分)であり、チャンネル3と4(積み重ねた試料)の冷却速度はそれぞれ、およそ98°F/分(54.4℃/分)とおよそ107°F/分(59.4℃/分)だった。予想されたように、チャンネル3と4の冷却速度は、上記で議論した、2枚積み重ねた板(111°F/分(61.7℃/分))と5枚積み重ねた板(95°F/分(52.8℃/分))を含む冷却試行で測定した冷却速度の間に入る。2枚積み重ねた板(「2PI」)と5枚積み重ねた板(「5PI」)の冷却試行についての冷却曲線も図12〜14に示す。
【0087】
チャンネル1〜4について図12〜14で示す冷却曲線は、冷却速度すべてが実質的に異なったわけではないことを示唆している。しかしながら、図12と図13に示すように、曲線のそれぞれが、最初に異なった時点でCCT曲線と交差するということは異なった量の転移を示しており、それは試料の相対的な微細構造に有意に影響し得る。CCT曲線との交差点の変異は、試料が高温にある間に生じる冷却の度合いによって主に決定される。従って、試料が炉から取り出された相対的に直後の時間で生じる冷却の量は試料の最終的な微細構造に有意に影響し得るし、これは、言い換えれば、本明細書で議論する弾道貫通抵抗性における予想外の改善を提供し得る、又はそれに寄与し得る。従って、実験的試行は、試料がオーステナイト温度から冷却される方法が合金の微細構造に影響をすることができ、このことが本開示に係る装甲材合金の弾道性能の改善に少なくとも部分的に関与し得ることを確認した。
【0088】
5.従来の冷却と焼き戻しの試験
上記表2に示す実験的化学成分を有する合金から弾道試験用パネルを調製した。アーク炉にて溶融することによって合金インゴットを調製し、AOD又はAODとESRを用いて精製した。従来の手法でインゴットの表面を磨いた。次いでインゴットを約1300°F(704℃)に加熱し、均一化し、この第1の温度で6〜8時間保持し、約200°F/時間(93℃/時間)で約2050°F(1121℃)まで加熱し、この第2の温度にて厚さのインチ当たり約30〜40分間保持した。次いでインゴットのさびを落とし、6〜7インチ(15.2〜17.8cm)のスラブに熱間圧延した。スラブを熱間剪断して厚さ約6〜7インチ、長さ38〜54インチ(96.5〜137.2cm)及び幅36インチ(91.4cm)の寸法を有するスラブを形成した。
【0089】
スラブを約2050°F(1121℃)で1〜2時間(温度での時間)再加熱し、その後、厚さ約1.50〜2.65インチ(3.81〜6.73cm)のリスラブにさらに熱間圧延した。従来の手法でリスラブを応力除去焼きなましした。次いでリスラブの表面を吹き付け磨きし、先端と末端を磨いた。
【0090】
リスラブを約1800°F(982℃)に加熱し、厚さのインチ当たり20分間その温度で保持した。次いでスラブを、約0.188インチ(4.8mm)〜約0.300インチ(7.6mm)の範囲の仕上げ標準厚さを有する長い板に仕上げ圧延した。
【0091】
次いで板を炉に入れ、板の表面がオーステナイト化温度の10°F以内に達したとき開始して1450°F〜1650°F(±10°F)の範囲の温度に60分間(±5分間)加熱することによって構成鋼合金をオーステナイト化した。60分間の温度での時間の後、板を炉から取り出し、静止空気中で従来のように室温に冷却した。室温への冷却の後、板をショットブラストして磨き、さびを落とした。
【0092】
次いで、250°F〜500°F(±5°F)の範囲の温度にて450分間〜650分間(±5分間)の温度での時間で板を焼き戻した。焼き戻した板を、0.188〜0.300インチの範囲で種々の仕上げ標準厚さを有する12インチ×12インチ(30.5×30.5cm)の板に区分した。6枚の12インチ×12インチの板を硬度試験及び弾道貫通抵抗性試験のために選択した。各焼き戻した板のBHNはASTM E−10によって決定した。各板のV50弾道限界(保護)値は、米軍規格(たとえば、MIL−DTL−46100E、MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332)によって.30口径M2、AP発射体を用いて決定した。
【0093】
焼き戻し温度と圧延仕上げの標準厚さを除いて一般に同一の方法で6枚の板すべてを加工した。板の厚さ、焼き戻し温度、及び各板で決定された焼き戻しBHNを表14に提供し、弾道試験の結果を表15に提供する。
【表14】

【表15】

【0094】
図15〜20は、米軍規格による弾道試験後に撮影された、それぞれ1005049A〜C及び1005049G〜Iの板の写真である。写真に示されるように、板は、複数の.30口径AP発射体の攻撃から生じる目に付く亀裂又は亀裂の伝搬を示さなかった。上記表4に示したように、板はそれぞれ570BHNを超え、6枚の板のうち4枚は600BHNを超えた。
【0095】
表16は、測定されたV50弾道限界値と米軍規格(MIL−DTL−46100E、MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332)による最小V50弾道限界値との差異として弾道試験の結果を列記する。たとえば、「481」の値は、特定の板のV50値が指示された米軍規格のもとで最小の必要とされるV50弾道限界値を481フィート/秒超えたことを意味する。「−34」の値は、特定の板のV50値が指示された米軍規格のもとで最小の必要とされるV50弾道限界値に34フィート/秒満たなかったことを意味する。
【表16】

【0096】
表16に示すように、各板は、米軍規格、MIL−DTL−46100E及びMIL−DTL−32332(クラス1)による最小V50弾道限界値を超えた。6枚の板のうち2枚はMIL−A−46099Cによる最小V50弾道限界値を超えた。各板は、MIL−A−46099Cのもとでの性能要件及びMIL−DTL−32332のもとでのクラス2性能要件より150fps小さいV50弾道限界値と同じくらいのV50弾道限界値を示した。実際、各板は、MIL−A−46099Cのもとでの性能要件よりも60fps小さく、MIL−DTL−32332のもとでのクラス2性能要件より110fps小さいV50弾道限界値と同じくらいのV50弾道限界値を示した。
【0097】
上述の予想外で驚くべき弾道性能特性は、弾道試験の間目に見える亀裂を示さない600BHNに近い又は600BHNを越える超高硬度の鋼合金板によって達成された。これらの特性は、オーステナイト化加熱処理、合金を硬化する冷却及び合金に靭性を与える焼き戻し処理を用いて達成された。合金化添加物、たとえば、ニッケル、クロム及びモリブデンはオーステナイト化加熱処理の間に形成されるオーステナイトを安定化する傾向があると考えられる。オーステナイトの安定化は、オーステナイト化温度からの冷却の間、オーステナイトから他の微細構造への変換を緩慢にする傾向があり得る。オーステナイトの変換速度の低下は、フェライト及びセメンタイトが豊富な微細構造を形成する傾向がある遅い冷却速度を用いてマルテンサイトを形成することを可能にし得る。
【0098】
上記表2に示した実験的化学成分を有する合金で熱膨張測定を行った。オーステナイト化温度(1450°F〜1650°F)で開始してほぼ室温までの冷却範囲にわたって熱膨張測定を行った。熱膨張測定は、少なくとも1回の相転移が300°F〜575°Fの温度範囲にて合金で生じることを示した。相転移は、オーステナイト相から下部ベイナイト相、ラスマルテンサイト相、又は下部ベイナイトとラスマルテンサイトの組み合わせまでであると考えられる。
【0099】
一般に、閾値冷却速度(たとえば、静止空気中で)を超える冷却速度で表2に示した実験的化学成分を有する合金をオーステナイト化温度から冷却すると、オーステナイト相は、相対的に硬い双晶マルテンサイト相と残留オーステナイトに変換する。残留オーステナイトは時間をかけて非焼き戻し双晶マルテンサイトに変換し得る。目に見える相転移に近い温度での開示された合金の焼き戻し(たとえば、250°F〜500°Fの範囲での温度での焼き戻し)は、残留オーステナイトを下部ベイナイト及び/又はラスマルテンサイトに変換し得ると考えられる。下部ベイナイト及びラスマルテンサイトの微細構造は、有意に硬い双晶マルテンサイトの微細構造よりも有意に延性が高く、靭性が高い。
【0100】
その結果、本開示の種々の実施形態に係る合金は、250°F〜500°Fの範囲での温度にて焼き戻した後、双晶マルテンサイト、ラスマルテンサイト及び/又は下部ベイナイトを含む微細構造を有し得る。このことによって、硬質の双晶マルテンサイトの微細構造と靭性が高く延性が高い下部ベイナイト及び/又はラスマルテンサイトの相乗的な組み合わせを有する鋼合金を生じる。硬度、靭性及び延性の相乗的な組み合わせは、本明細書で記載されるような合金に優れた弾道貫通抵抗性及び亀裂抵抗性を付与し得る。
【0101】
種々の実施形態では、本明細書で記載されるような合金を含む物品を1450°F〜1650°Fの温度に加熱して合金の微細構造をオーステナイト化してもよい。種々の実施形態では、合金物品を少なくとも15分間の最少炉内時間にて、少なくとも18分間の最少炉内時間にて、又は少なくとも21分間の最少炉内時間にて加熱して合金をオーステナイト化してもよい。種々の実施形態では、合金物品を15〜60分間の又は15〜30分間の最少炉内時間にて加熱して合金をオーステナイト化してもよい。たとえば、0.188〜0.225の標準厚さを有する合金板を1450°F〜1650°Fの温度にて少なくとも18分間の最少炉内時間で加熱して、及び0.226〜0.313の標準厚さを有する合金板を1450°F〜1650°Fの温度にて少なくとも21分間の最少炉内時間で加熱して、合金をオーステナイト化してもよい。種々の実施形態では、合金物品を1450°F〜1650°Fにて15〜60分間の又は15〜30分間の温度での時間で加熱して、合金をオーステナイト化してもよい。
【0102】
合金物品を静止空気中にてオーステナイト化温度から室温に冷却して合金を硬化してもよい。冷却の間、シート又は板を構成する合金物品は、物品への機械力の適用によって平坦化されてもよい。たとえば、静止空気中で物品を600°F〜700°Fの表面温度に冷却した後、平たく伸ばす装置又は水平にする装置で板を平坦化してもよい。平坦化操作には、物品の主平面への機械力の適用が含まれる。たとえば、圧延操作、引伸ばし操作及び/又は圧迫操作を用いて機械力を適用してもよい。機械力は、平坦化操作の間に物品の標準厚さを減らさないように適用する。平坦化操作の間、物品は冷却し続けることができるが、物品の表面温度が250°F未満になると中止してもよい。冷却物品の表面温度が200°F未満になるまで物品を一緒に重ね合わせない。
【0103】
種々の実施形態では、250°F〜500°Fの範囲での温度で合金物品を焼き戻してもよい。種々の実施形態では、300°F〜400°Fの範囲での温度で合金物品を焼き戻してもよい。種々の実施形態では、たとえば、325°F〜475°F、235°F〜350°F又は335°F〜350°Fの範囲での温度で合金物品を焼き戻してもよい。種々の実施形態では、450〜650分間の温度での時間にて合金物品を焼き戻してもよい。種々の実施形態では、480〜600分間の温度での時間にて合金物品を焼き戻してもよい。種々の実施形態では、450〜500分間の温度での時間にて合金物品を焼き戻してもよい。
【0104】
種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は合金シート又は合金板を構成してもよい。種々の実施形態では、合金物品は0.118〜0.630インチ(3〜16mm)の平均厚さを有する合金板を構成してもよい。種々の実施形態では、合金物品は0.188〜0.300インチの平均厚さを有する合金板を構成してもよい。種々の実施形態では、合金物品は550BHN、570BHN又は600BHNを超える硬度を有してもよい。種々の実施形態では、合金物品は700BHN又は675BHN未満の硬度を有してもよい。種々の実施形態では、合金物品は鋼装甲板を構成してもよい。
【0105】
種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、米軍規格、MIL−DTL−46100E及びMIL−DTL−32332(クラス1)による最小V50弾道限界値を超えるV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、規格MIL−DTL−46100Eによる最小V50弾道限界値を少なくとも300fps、少なくとも350fps、少なくとも400fps又は少なくとも450fps超えるV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、規格MIL−DTL−32332(クラス1)による最小V50弾道限界値を少なくとも50fps、すくなくとも100fps又は少なくとも150fps超えるV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、複数の徹甲弾発射体攻撃の結果生じる亀裂又は亀裂の伝搬が少ない、ほとんどない又は全くないものであってもよい。
【0106】
種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、規格MIL−A−46099Cによる最小V50弾道限界値を超えるV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、規格MIL−A−46099C及びMIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの性能要件よりも150fps小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、MIL−A−46099Cのもとでの性能要件よりも100fps又は60fps小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、MIL−DTL−32332(クラス2)のもとでの性能要件よりも125fps又は110fps小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50値を示してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、複数の徹甲弾発射体攻撃の結果生じる亀裂又は亀裂の伝搬が少ない、ほとんどない又は全くないものであってもよい。
【0107】
種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、ラスマルテンサイト及び下部ベイナイトの少なくとも一方を含む微細構造を有してもよい。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように加工される合金物品は、ラスマルテンサイト及び下部ベイナイトを含む微細構造を有してもよい。
【0108】
6.装甲板の作製プロセス
以下の説明に役立つ非限定の実施例は、その範囲を限定することなく本明細書で提示される種々の実施形態をさらに説明することが意図される。実施例は、高い硬度、高い靭性の弾道抵抗性及び亀裂抵抗性の装甲板を作製するのに利用されるプロセスを説明する。当業者は、本明細書で様々に記載されるような異なった組成、時間、温度及び寸法を用いた実施例の変異が可能であることを十分に理解するであろう。
【0109】
a.実施例1
表17に提示される化学成分を有するヒート(炉で1回処理される金属)を調製する。適切な供給原料をアーク炉で溶融する。適切な合金化添加物を溶融物に加えた柄杓にヒートを入れる。ヒートを柄杓に移し、AOD容器に注ぐ。従来のAOD操作を用いて脱炭素処理したヒートがある。脱炭素処理したヒートを柄杓に入れ、インゴットの金型に注ぎ、固化してインゴットを形成する。インゴットを金型から取り出し、インゴットを再溶融し、再成形して精製インゴットを形成するESR炉にインゴットを移してもよい。ESR操作は任意であり、ESRなしで固化後、AODの後インゴットを加工してもよい。インゴットは13×36インチの長方形寸法と4500lbsの名目重量を有する。
【表17】

【0110】
インゴットを1300°Fの炉で7時間(最少炉内時間)加熱し、その後、200°F/時間で2050°Fまで加熱し、2050°Fにてインゴットの厚さのインチ当たり35分間(13インチ、455分)保持する。インゴットのさびを落とし、インゴットを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して6×36×長さ(インチ)のスラブを形成する。スラブを2050°Fの炉で1.5時間の最少炉内時間にて再加熱する。スラブを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して2.65×36×長さ(インチ)のリスラブを形成する。リスラブを熱間剪断して2枚の2.65×36×54インチのリスラブを形成する。従来の手法を用いて炉内でリスラブを応力除去焼きなましする。リスラブを吹き付け磨きし、先端と末端をすべて磨き、リスラブを1800°Fに加熱し、1800°Fにて厚さのインチ当たり20分間(2.65インチ、53分間)保持する。
【0111】
リスラブのさびを落とし、リスラブを1800°Fにて110インチの圧延素材に熱間圧延し、0.313×54×300インチの板を形成する。必要に応じて圧延素材でのパスの間にリスラブを再び1800°Fに加熱して1425°F未満で圧延操作を仕上げるのを回避する。
【0112】
0.313×54×300インチの板を1625°Fにて21分間(最少炉内時間)炉内で加熱し、板をオーステナイト化する。炉を1625°Fに予備加熱し、温度が1625°Fで安定した後、板を21分間挿入する。21分間の最少炉内時間の間に板は1600〜1625°Fの温度に達すると考えられる。
【0113】
21分間の最少炉内時間の完了後、オーステナイト化した板を炉から取り出し、静止空気中で1000°Fに冷却する。板を1000°Fに冷却した後、頭上クレーンを介して板をCauffiel(商標)フラットナーに移す。板が600°F〜700°Fに達した後、板の54×300インチの平面に機械力を適用することによってフラットナーにて板を平坦化する。板の標準厚さが平坦化操作の間に減らないように機械力を適用する。平坦化操作の間、板を冷却し続けることが可能であり、それは、板の温度が250°F未満に入った後、中止する。冷却している板の温度が200°F未満になるまで板を積み重ねない。
【0114】
冷却した板を吹き付け磨きし、砥石切断機による切断操作を用いて種々の長さ/幅の寸法に区分する。区分した板を炉にて335°F(±5°F)に加熱し、335°F(±5°F)にて480〜600分間(±5分間)(温度での時間)保持し、板を焼き戻し、静止空気中で室温に冷却する。焼き戻した板は少なくとも550BHNの硬度を示す。
【0115】
焼き戻した板には、高い硬度と高い靭性と優れた弾道抵抗性と優れた亀裂抵抗性を示す装甲板としての用途が見い出される。焼き戻した板は、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値よりも大きいV50弾道限界値を示す。焼き戻した板はまた、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値も示す。
【0116】
b.実施例2
表18に提示される化学成分を有するヒートを調製する。適切な供給原料をアーク炉で溶融する。適切な合金化添加物を溶融物に加えた柄杓にヒートを入れる。ヒートを柄杓に移し、AOD容器に注ぐ。従来のAOD操作を用いて脱炭素処理したヒートがある。脱炭素処理したヒートを柄杓に入れ、インゴットの金型に注ぎ、固化してインゴットを形成する。インゴットを金型から取り出し、インゴットを再溶融し、再成形して精製インゴットを形成するESR炉にインゴットを移してもよい。ESR操作は任意であり、ESRなしで固化後、AODの後インゴットを加工してもよい。インゴットは13×36インチの長方形寸法と4500lbsの名目重量を有する。
【表18】

【0117】
インゴットを1300°Fの炉で6時間(最少炉内時間)加熱し、その後、200°F/時間で2050°Fまで加熱し、2050°Fにてインゴットの厚さのインチ当たり30分間(13インチ、390分)保持する。インゴットのさびを落とし、インゴットを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して6×36×長さ(インチ)のスラブを形成する。スラブを2050°Fの炉で1.5時間再加熱する。スラブを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して1.75×36×長さ(インチ)のリスラブを形成する。リスラブを熱間剪断して2枚の1.75×36×38インチのリスラブを形成する。従来の手法を用いて炉内でリスラブを応力除去焼きなましする。リスラブを吹き付け磨きし、先端と末端をすべて磨き、リスラブを1800°Fにて厚さのインチ当たり20分間(1.75インチ、35分間)加熱する。
【0118】
リスラブのさびを落とし、リスラブを1800°Fにて110インチの圧延素材に熱間圧延し、0.188×54×222インチの板を形成する。必要に応じて圧延素材でのパスの間にリスラブを再び1800°Fに加熱して1425°F未満で圧延操作を仕上げるのを回避する。
【0119】
0.188×54×222インチの板を1600°Fにて18分間(最少炉内時間)炉内で加熱し、板をオーステナイト化する。炉を1600°Fに予備加熱し、温度が1600°Fで安定した後、板を18分間挿入する。18分間の最少炉内時間の間に板は1575〜1600°Fの温度に達すると考えられる。
【0120】
18分間の最少炉内時間の完了後、オーステナイト化した板を炉から取り出し、静止空気中で1000°Fに冷却する。板を1000°Fに冷却した後、頭上クレーンを介して板をCauffiel(商標)フラットナーに移す。板が600°F〜700°Fに達した後、板の54×222インチの平面に機械力を適用することによってフラットナーにて板を平坦化する。板の標準厚さが平坦化操作の間に減らないように機械力を適用する。平坦化操作の間、板を冷却し続けることが可能であり、それは、板の温度が250°F未満に入った後、中止する。冷却している板の温度が200°F未満になるまで板を積み重ねない。
【0121】
冷却した板を吹き付け磨きし、砥石切断機による切断操作を用いて種々の長さ/幅の寸法に区分する。区分した板を炉にて325°F(±5°F)に加熱し、325°F(±5°F)にて480〜600分間(±5分間)(温度での時間)保持し、板を焼き戻し、静止空気中で室温に冷却する。焼き戻した板は少なくとも550BHNの硬度を示す。
【0122】
焼き戻した板には、高い硬度と高い靭性と優れた弾道抵抗性と優れた亀裂抵抗性を有する装甲板としての用途が見い出される。焼き戻した板は、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値よりも大きいV50弾道限界値を示す。焼き戻した板はまた、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値も示す。
【0123】
c.実施例3
表19に提示される化学成分を有するヒートを調製する。適切な供給原料をアーク炉で溶融する。適切な合金化添加物を溶融物に加えた柄杓にヒートを入れる。ヒートを柄杓に移し、AOD容器に注ぐ。従来のAOD操作を用いて脱炭素処理したヒートがある。脱炭素処理したヒートを柄杓に入れ、インゴットの金型に注ぎ、固化してインゴットを形成する。インゴットを金型から取り出し、インゴットを再溶融し、再成形して精製インゴットを形成してもよいESR炉にインゴットを移してもよい。ESR操作は任意であり、ESRなしで固化後、AODの後インゴットを加工してもよい。インゴットは13×36インチの長方形寸法と4500lbsの名目重量を有する。
【表19】

【0124】
インゴットを1300°Fの炉で8時間(最少炉内時間)加熱し、その後、200°F/時間で2050°Fまで加熱し、2050°Fにてインゴットの厚さのインチ当たり40分間(13インチ、520分)保持する。インゴットのさびを落とし、インゴットを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して6×36×長さ(インチ)のスラブを形成する。スラブを2050°Fの炉で1.5時間再加熱する。スラブを2050°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して1.75×36×長さ(インチ)のリスラブを形成する。リスラブを熱間剪断して2枚の1.75×36×50インチのリスラブを形成する。従来の手法を用いて炉内でリスラブを応力除去焼きなましする。リスラブを吹き付け磨きし、先端と末端をすべて磨き、リスラブを1800°Fに加熱し、1800°Fにて厚さのインチ当たり20分間(1.75インチ、35分間)保持する。
【0125】
リスラブのさびを落とし、リスラブを1800°Fにて110インチの圧延素材に熱間圧延し、0.250×54×222インチの板を形成する。必要に応じて圧延素材でのパスの間にリスラブを再び1800°Fに加熱して1425°F未満で圧延操作を仕上げるのを回避する。
【0126】
0.250×54×222インチの板を1625°Fにて21分間(最少炉内時間)炉内で加熱し、板をオーステナイト化する。炉を1625°Fに予備加熱し、温度が1625°Fで安定した後、板を21分間挿入する。21分間の最少炉内時間の間に板は1600〜1625°Fの温度に達すると考えられる。
【0127】
21分間の最少炉内時間の完了後、オーステナイト化した板を炉から取り出し、静止空気中で1000°Fに冷却する。板を1000°Fに冷却した後、頭上クレーンを介して板をCauffiel(商標)フラットナーに移す。板が600°F〜700°Fに達した後、板の54×222インチの平面に機械力を適用することによってフラットナーにて板を平坦化する。板の標準厚さが平坦化操作の間に減らないように機械力を適用する。平坦化操作の間、板を冷却し続けることが可能であり、それは、板の温度が250°F未満に入った後、中止する。冷却している板の温度が200°F未満になるまで板を積み重ねない。
【0128】
冷却した板を吹き付け磨きし、砥石切断機による切断操作を用いて種々の長さ/幅の寸法に区分する。区分した板を炉にて350°F(±5°F)に加熱し、350°F(±5°F)にて480〜600分間(±5分間)(温度での時間)保持し、板を焼き戻し、静止空気中で室温に冷却する。焼き戻した板は少なくとも550BHNの硬度を示す。
【0129】
焼き戻した板には、高い硬度と高い靭性と優れた弾道抵抗性と優れた亀裂抵抗性を有する装甲板としての用途が見い出される。焼き戻した板は、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値よりも大きいV50弾道限界値を示す。焼き戻した板はまた、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値も示す。
【0130】
d.実施例4
表20に提示される化学成分を有するヒートを調製する。適切な供給原料をアーク炉で溶融する。適切な合金化添加物を溶融物に加えた柄杓にヒートを入れる。ヒートを柄杓に移し、AOD容器に注ぐ。従来のAOD操作を用いて脱炭素処理したヒートがある。脱炭素処理したヒートを柄杓に入れ、インゴットの金型に注ぎ、固化して8×38×115インチのインゴットを形成する。インゴットを金型から取り出し、インゴットを再溶融し、再成形して精製インゴットを形成するESR炉にインゴットを移す。精製インゴットは12×42インチの長方形寸法と9500lbsの名目重量を有する。
【表20】

【0131】
12×42インチの精製インゴットを2.7×42×63インチのスラブに変換する。スラブを1800°Fの炉で1時間(最少炉内時間)加熱し、その後、1800°Fにてインゴットの厚さのインチ当たりさらに20分間保持する(2.7インチ、さらに54分)。スラブのさびを落とし、スラブを1800°Fで110インチの圧延素材に熱間圧延して1.5×42×長さ(インチ)のリスラブを形成する。リスラブを熱間剪断して2枚の1.5×42×48インチのリスラブを形成する。従来の手法を用いて炉内でリスラブを応力除去焼きなましする。リスラブを吹き付け磨きし、先端と末端をすべて磨き、リスラブを1800°Fにて厚さのインチ当たり20分間(1.5インチ、30分間)加熱する。
【0132】
リスラブのさびを落とし、リスラブを1800°Fにて110インチの圧延素材に熱間圧延し、0.238×54×222インチの板を形成する。必要に応じて圧延素材でのパスの間にリスラブを再び1800°Fに加熱して1425°F未満で圧延操作を仕上げるのを回避する。
【0133】
0.238×54×222インチの板を1625°Fにて21分間(最少炉内時間)炉内で加熱し、板をオーステナイト化する。炉を1625°Fに予備加熱し、温度が1625°Fで安定した後、板を21分間挿入する。21分間の最少炉内時間の間に板は1600〜1625°Fの温度に達すると考えられる。
【0134】
21分間の最少炉内時間の完了後、オーステナイト化した板を炉から取り出し、静止空気中で1000°Fに冷却する。板を1000°Fに冷却した後、頭上クレーンを介して板をCauffiel(商標)フラットナーに移す。板が600°F〜700°Fに達した後、板の54×222インチの平面に機械力を適用することによってフラットナーにて板を平坦化する。板の標準厚さが平坦化操作の間に減らないように機械力を適用する。平坦化操作の間、板を冷却し続けることが可能であり、それは、板の温度が250°F未満に入った後、中止する。冷却している板の温度が200°F未満になるまで板を積み重ねない。
【0135】
冷却した板を吹き付け磨きし、砥石切断機による切断操作を用いて種々の長さ/幅の寸法に区分する。区分した板を炉にて335°F(±5°F)に加熱し、335°F(±5°F)にて480〜600分間(±5分間)(温度での時間)保持し、板を焼き戻し、静止空気中で室温に冷却する。焼き戻した板は少なくとも550BHNの硬度を示す。
【0136】
焼き戻した板には、高い硬度と高い靭性と優れた弾道抵抗性と優れた亀裂抵抗性を有する装甲板としての用途が見い出される。焼き戻した板は、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値よりも大きいV50弾道限界値を示す。焼き戻した板はまた、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値も示す。
【0137】
本開示に係る鋼装甲材は、たとえば、ニッケル、モリブデン及びクロムのような合金化成分の実質的に低いレベルのコストを含む一方で、高級な高合金装甲材合金に相応する弾道性能を示すので相当な価値を提供し得る。さらに、本開示に係る鋼装甲材は、たとえば、MIL−A−46099Cに記載されたもとでの要件のような二重硬度やロール圧接材についての米軍規格の要件に相応する弾道性能を示す。本開示に係る鋼装甲材の実施形態の性能及びコスト上の利点を考えると、そのような装甲材は種々の既存の装甲材合金を超えた非常に相当な進歩であると考えられる。
【0138】
本開示に従って作製される合金板及びそのほかの延伸材は従来の装甲材用途に使用され得る。そのような用途には、たとえば、戦闘用車両の強化被覆材及びそのほかの構成成分、兵器、強化ドア及び強化筐体、並びに発射体攻撃、爆薬爆破及びそのほかの高エネルギー攻撃からの保護を必要とする又はそれから利益を得る製造物品が挙げられる。本開示に係る合金の可能な用途のこれらの例は、例証としてのみ提供され、本合金が応用されてもよいあらゆる用途が排除されない。当業者は、本開示を読む際、本明細書に記載される合金について追加の用途を容易に特定するであろう。当業者は、当該技術の既存の知識に基づいて本開示に係る合金からそのような製造物品すべてを容易に製作できると考えられる。従って、そのような製造物品の製作手順のさらなる議論はここでは不要である。
【0139】
本開示は、種々の例となる、説明に役立つ、非限定の実施形態を参照して記述されている。しかしながら、開示された実施形態のいずれか(又はその一部)の種々の置換、改変又は組み合わせは、特許請求の範囲によって単に定義されるような本発明の範囲を逸脱することなく為されてもよいことが当業者によって認識されるであろう。従って、本開示は、本明細書で明白には言及されない追加の実施形態を包含することが企図され、理解される。そのような実施形態は、たとえば、本明細書に記載される実施形態の開示された工程、成分、構成材、構成成分、要素、特徴、態様などを組み合わせる、改変する又は再編成することによって得られてもよい。従って、本開示は、種々の例となる、説明に役立つ、非限定の実施形態によって限定されないが、単に特許請求の範囲によって限定される。このように、出願者は、本明細書で種々に記載したように特徴を加えるために審査の間、補正する権利を留保する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金物品を作製するプロセスであって、
少なくとも1450°Fにて少なくとも15分間の最少炉内時間で合金物品を加熱することによって合金物品をオーステナイト化することと、
静止空気中にてオーステナイト温度から合金物品を冷却することと、
250°F〜500°Fの温度にて、450分間〜650分間の温度での時間で合金物品を焼き戻し、それによって焼き戻し合金物品を提供することを含み、
前記合金が、合金全重量の重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含む、プロセス。
【請求項2】
325°F〜350°Fの温度にて、480分間〜600分間の温度での時間で合金物品を焼き戻し、それによって焼き戻し合金物品を提供することを含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記焼き戻し合金物品が570BHNより大きく、675BHNより小さい硬度を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記焼き戻し合金物品が600BHNより大きく、675BHNより小さい硬度を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記焼き戻し合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値より大きいV50弾道限界値を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
焼き戻し合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値を少なくとも50フィート/秒超過するV50弾道限界値を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記焼き戻し合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記焼き戻し合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも100フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を示す請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記焼き戻し合金物品が、.30口径M2、AP発射体攻撃を受けた場合、目に見える亀裂を示さない請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記焼き戻し合金物品が、ラスマルテンサイト相及び下部ベイナイト相の少なくとも一方を含む微細構造を有する請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記焼き戻し合金物品が、0.188〜0.300インチの範囲の厚さを有する板を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記焼き戻し合金物品が、装甲板又は装甲シートを構成する請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記合金が、0.49〜0.51の炭素、0.2〜0.8のマンガン、0.2〜0.40の珪素、1.00〜1.50のクロム、3.75〜4.25のニッケル、0.40〜0.60のモリブデン、0.0010〜0.0030のホウ素、0.003〜0.010のセリウム及び0.002〜0.010のランタンを含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記合金全重量の重量パーセントで、0.40〜0.53の炭素、0.15〜1.00のマンガン、0.15〜0.45の珪素、0.95〜1.70のクロム、3.30〜4.30のニッケル、0.35〜0.65のモリブデン、0.0002〜0.0050のホウ素、0.001〜0.015のセリウム、0.001〜0.015のランタン、0.002以下のイオウ、0.015以下のリン、0.011以下の窒素、鉄及び付随する不純物を含み、
前記合金物品が、570BHNを超える硬度を示す合金物品。
【請求項15】
前記合金物品が570BHNより大きく、675BHNより小さい硬度を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項16】
前記合金物品が600BHNより大きく、675BHNより小さい硬度を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項17】
前記合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最少V50弾道限界値より大きいV50弾道限界値を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項18】
前記合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス1)のもとでの最小V50弾道限界値を少なくとも50フィート/秒超過するV50弾道限界値を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項19】
前記合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも150フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項20】
前記合金物品が、規格MIL−DTL−32332(クラス2)のもとで必要とされるV50弾道限界値よりも100フィート/秒小さいV50弾道限界値と少なくとも同じくらいのV50弾道限界値を示す請求項14に記載の合金物品。
【請求項21】
前記合金物品が、a.30口径M2、AP発射体攻撃を受けた場合、目に見える亀裂を示さない請求項14に記載の合金物品。
【請求項22】
前記合金物品が、ラスマルテンサイト相及び下部ベイナイト相の少なくとも一方を含む微細構造を有する請求項14に記載の合金物品。
【請求項23】
前記合金物品が、0.188〜0.300インチの範囲の厚さを有する板を含む請求項14に記載の合金物品。
【請求項24】
前記焼き戻し合金物品が、装甲板又は装甲シートを構成する請求項14に記載の合金物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−508542(P2013−508542A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534243(P2012−534243)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/051884
【国際公開番号】WO2011/049755
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(501187033)エイティーアイ・プロパティーズ・インコーポレーテッド (39)
【Fターム(参考)】