説明

高移動度測定装置

【課題】 本発明の目的はTOF法におけるドリフト時間の短い部分の雑音を低減した高移動度測定装置を提供することにある。
【解決手段】 測定対象物に設けられた電極に接触可能なプローブを有する測定対象物設置手段12と、測定対象物に光を照射する光照射手段14と、プローブを介して前記電極に電圧を印加する電圧印加手段16と、測定対象物を流れる電流信号を検出する信号検出手段18と、検出信号を処理する信号処理手段20と、を備え、TOF法測定を行う高移動度測定装置10において、
光照射手段14と他の手段(16、18)との間の接続を光接続とし、電気的に分離絶縁することで光照射手段14から発生するノイズを低減する雑音低減手段、TOF法測定の検出信号に混入する前記光照射手段からのノイズを除去する雑音除去手段(20)を備えたことを特徴とする高移動度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体のキャリヤ移動度、キャリヤ寿命などの特性を測定する高移動度測定装置、特にその雑音除去、雑音低減機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料の電子素子などへの応用研究が盛んであり、半導体の基本物性であるキャリヤ移動度やキャリヤ寿命の測定は、ますます重要となっている。キャリヤの移動度や寿命の測定には種々の方法が知られているが、TOF法と略称される次の方法がよく用いられている。
TOF法とは、ドリフト電圧を印加した測定対象物にパルス光を照射してキャリヤを発生させ、ドリフト電圧によるキャリヤ流を測定することで移動度を求めるものである(例えば、特許文献1を参照)。つまり、図1に示すように測定対象物の一方を透明電極、他方を金属電極で挟み、この両電極間にドリフト電圧をパルス状に印加し、同時に透明電極側からパルス光を照射して、測定対象物表面近傍にキャリヤ塊を発生させる。そして、試料に流れる電流信号を検出することで、パルス光により生成したキャリヤ塊が発生側から対極までドリフト電圧によりドリフトする時間、すなわちキャリヤ移動時間を測定し、キャリヤ移動時間と測定対象物の厚さからキャリヤ移動度を求める。
【特許文献1】特開平6−186280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
TOF法では、キャリヤ発生手段としての光パルス幅はキャリヤ移動時間より一桁以上短いことが要求され、SiやGeなどの代表的な無機半導体では、キャリヤ移動時間が測定に都合のよい領域になるように、測定対象物の厚さを調整して測定が行なわれてきた。 しかしながら、有機半導体材料等において均一で膜厚の大きい試料を用意することは一般には難しい。つまり、膜厚を厚くするには高純度の試料が大量に必要であり、またその厚みを均一に制御することも容易ではない。そのため、キャリヤ移動時間を長くすることは難しく、TOF法では移動度を高精度に測定できなかった。
【0004】
一方、光パルス幅をある幅より短くするには(例えば、数百psec以下)、大掛かりで高価な装置が必要になり、装置入手とそのコストから制約が生ずる。また、そのような装置が用意できても、発生した電流信号は微弱で、信号周波数が高周波領域となり、ある移動時間以下については現状の技術では測定が難しい。
さらに、特に測定対象物厚が薄い場合、あるいは測定対象物が高移動度の場合には、雑音に信号が隠れて正確な移動時間の解析が不可能となることがある。これは、キャリヤ移動度情報を含む信号の継続時間が、雑音の継続時間と同程度、或いはそれ以下となってしまうためである。
【0005】
例えば、市販窒素レーザーを用い、1μm以下の厚さの試料について、0.01cm/V・sec以上の移動度を測定しようとした場合、キャリヤ移動時間は10−7sec以下となり、この領域には大きな雑音が発生するため、キャリヤ発生量を増やす、雑音を低減する等の工夫が必要である。しかしながら、キャリヤ発生量は、測定対象物の特性により制限があるため、装置の雑音低減が要求されていた。
例えば、特許文献1ではノイズの発生を測定対象物に印加する電圧波形のオーバーシュートによるものと考え、これを印加電圧から取り除くことで雑音低減を行っているが、この効果は十分なものとはいえなかった。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的はTOF法におけるドリフト時間の短い部分の雑音を低減した半導体特性高移動度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明者らが鋭意検討した結果、TOF法での測定の際に現れる雑音成分の特性、及びその発生源がパルス光源に由来するものであること、を突き止めた。上記の雑音成分は使用するパルス光源に起因するものであり、光源の種類に応じた周波数成分を持つ特徴的な形状をしている。パルス光源の作動時に発生するノイズが、ラジオ波として空中を伝播、もしくは各装置間のタイミング制御信号線を伝播し、これらが測定信号に混ざりノイズとなる。
上記の雑音成分は、使用する光源にも依存するが、おおよそ18〜22MHzの周波数成分及びその高周波成分であることが分かった。そのため、これらのノイズを信号成分からデジタルフィルタによって除去を行うこと、主な雑音発生源である光照射手段を他の構成要素と電気的に分離絶縁することが効果的であること、が判明した。
【0007】
そのため本発明の高移動度測定装置は、測定対象物に設けられた電極に接触可能なプローブ部を有する測定対象物設置手段と、測定対象物にパルス光を照射する光照射手段と、前記プローブを介して前記電極に電圧を印加する電圧印加手段と、前記プローブを介して、測定対象物を流れる電流信号を検出する信号検出手段と、該信号検出手段にて検出した信号を処理するための信号処理手段と、を備え、前記測定対象物設置手段のプローブを測定試料に設けられた2つの対向した電極にそれぞれ接触させ、前記電圧印加手段により、該接触したプローブを通して該電極間にパルス電圧を印加し、それに同期して前記光照射手段から測定対象物にパルス光を照射し、発生したキャリヤによる電流信号を信号検出手段により検出するTOF法測定を行う高移動度測定装置において、前記光照射手段と前記他の手段との間の同期をとるための接続を光接続とし、電気的に分離絶縁することで該光照射手段で発生するノイズの混入を低減する雑音低減手段、及び/またはTOF法測定の検出信号に混入する前記光照射手段からのノイズを除去する雑音除去手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記の高移動度測定装置において、前記雑音除去手段は、前記信号処理手段に設けられたデジタルフィルタとして構成されていることが好適である。
上記の高移動度測定装置において、前記デジタルフィルタは、TOF法測定の検出信号から18〜22MHzの周波数成分及びその高調波成分を持つノイズを除去することが好適である。
上記の高移動度測定装置において、前記デジタルフィルタはFFTフィルタであることが好適である。
上記の高移動度測定装置において、前記雑音低減手段は、光照射手段と電圧印加手段とを電気的に絶縁した状態で接続を行うためのフォトカプラを含み、前記電圧印加手段と光照射手段とを同期させるための信号線を該フォトカプラを介して接続し、光照射手段と電圧印加手段とを電気的に絶縁することが好適である。
【0009】
上記の高移動度測定装置において、前記雑音低減手段は、TOF法測定時に前記光照射手段と信号検出手段とを同期させる信号を光信号で伝達するよう構成されていることが好適である。
上記の高移動度測定装置において、前記光照射手段からの光を分割し、一方を測定対象物へ照射する光、他方を前記同期信号のための光とするビームスプリッタと、該同期信号用の光を受光する光検出手段と、を備え、前記光検出手段は光を検出した時点で信号検出手段にトリガ信号を送ることで、前記光照射手段と信号検出手段との同期をとることが好適である。
上記の高移動度測定装置において、前記光照射手段からの光の偏光状態を制御するための偏光手段を備えることが好適である。
上記の高移動度測定装置において、測定対象物を観察するための画像検出器を備えることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高移動度測定装置によれば、光照射手段と他の手段とを電気的に分離絶縁することで該光照射手段から発生するノイズを低減する雑音低減手段、及び/またはTOF法測定の検出信号に混入する前記光照射手段からのノイズを除去する雑音除去手段を備えたため、検出信号からノイズ成分を好適に除くことができ、TOF法においても高移動度の試料、薄い膜厚の試料に対しても高精度に移動度を測定することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
従来、TOF法による測定では、測定対象物厚が薄い場合、或いは測定対象物が高移動度の場合には、キャリヤ移動度情報を含む信号の継続時間が非常に短く、この領域に存在する雑音に信号が隠されてしまい解析が不可能となることがあった。そのため、従来のTOF法での測定では移動度が小さい、もしくは厚い測定対象物を測定対象としていた。したがって、高移動度で、しかも試料として薄い膜厚しか得られない場合においても、TOF法によって測定できるようになることが望まれていた。
このため本発明者らが鋭意検討した結果、TOF法での測定の際に現れる雑音成分の特性、及びその発生源がパルス光源に由来するものであること、が判明した。
【0012】
まず、本発明者らはノイズ成分の特性を調べるため、試料を設置しない状態でTOF法による測定を行いノイズ成分の特性を調べた。ここでは光源としてNレーザーを用いた。 図2がそのグラフであり、横軸が時間、縦軸が信号強度を表している。このグラフから、ノイズ成分は周波数20MHzおよびその高周波成分を有した特徴的な形状をしていることが分かる。
【0013】
このことから、本発明者らはデジタルフィルタによって、検出信号の20MHzの周波数成分及びその高調波成分を除去することでノイズ成分が好適に除去できるのではないかと考え、試験を行った。
図3がその結果であり、横軸が時間、縦軸が信号強度を表している。図3(a)で示されるグラフがノイズ成分(試料なしで測定したもの)、同図(b)で示されるグラフが試料としてフタロシアニンを測定したときの検出信号、同図(c)がこの検出信号をFFTフィルタによって三角窓のフィルタ条件でフィルタ処理を施したものである。このグラフから明らかなように、上記のフィルタ処理を施した検出信号はきれいにノイズ成分が除去されており、極めて良好な結果となった。
【0014】
また、測定試料を変えて同様の試験を行った結果、上記と同様のフィルタ条件で良好な結果を得た。すなわち、上記のノイズ成分は使用する装置固有のものであり、測定対象の試料とは関係ないことが分かる。
さらに、本発明者らはこのノイズがパルス光源によるものであることを突き止めた。TOF法測定では、パルス光の照射と、試料へのパルス電圧の印加及び信号検出とを同期させる必要があり、そのため光源とパルス電圧を印加するための電源との間、光源と電流信号の検出手段との間にタイミング制御信号線が接続されている。光照射手段が作動時に発生するノイズにはラジオ波として空中を伝播する部分と、各装置間の前記タイミング制御信号線を伝播する部分があると考えられるが、タイミング信号線を伝搬する部分を低減するため、パルス光源と電源との接続をフォトカプラを介して行う装置構成で、図2のときと同様の条件でTOF法測定を行った。
図4がその結果であり、横軸が時間、縦軸が信号強度を示している。図2のグラフと比較すると明らかなように、通常の装置構成でのノイズ成分が、フォトカプラを通して接続することにより大きく低減された。すなわち、主な雑音発生源である光源を他の構成要素と電気的に分離絶縁することが効果的であることが判明した。
【0015】
以上の結果から、ノイズ成分が光源の種類に依存した周波数成分を持つことから、検出信号の信号処理をデジタルフィルタによって行うことが好適であることが分かる。また、デジタルフィルタによって除去する領域は、光源の種類等の装置構成によっても異なるが、18〜22MHzの周波数成分及びその高調波成分であることが好適である。また、このデジタルフィルタはFFTフィルタであることがより好適である。さらに、光源と他の構成要素を電気的に分離絶縁するために、制御信号を電気的接続ではなく光接続によって伝達することが好適である。
【0016】
本発明は以上の知見を基にしてなされたものであり、以下に図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明を行う。
図5は、本発明の実施形態にかかる高移動度測定装置の概略構成図である。本実施形態の高移動度測定装置10は、測定対象物を設置する測定対象物設置手段12と、測定対象物にパルス光を照射する光照射手段14と、測定対象物に電圧を印加する電圧印加手段16と、測定対象物を流れる電流信号を検出する信号検出手段18と、検出信号を処理する信号処理手段20と、光照射手段14と前記他の手段とを電気的に絶縁することで該光照射手段14で発生するノイズの混入を低減する雑音低減手段と、TOF法測定の検出信号に混入する前記光照射手段14からのノイズを除去する雑音除去手段と、を備える。
【0017】
測定対象物設置手段12は、図6、7に示すように測定対象物に設けられた電極に接触するための2本のプローブを有している。ここで、図6、7は本実施形態における測定対象物設置手段12を上からみた図、および側面から見た図である。図6に示すように2本のプローブ22a、22bは、可動なアーム部A、Bにそれぞれ保持され、それぞれのアーム部は、図の点線で示したように移動可能に構成されている。また、2本のプローブ22a、22bはそれぞれ電圧印加手段16、信号検出手段18に接続されている。さらに、図7に示すように測定対象物の設置場所の下部には孔が設けられ、該孔を通して光照射手段14からのパルス光が測定対象物へ照射される。
【0018】
TOF法測定時にはプローブ22a,22bの先端が、測定試料に設けられた2つの対向した電極にそれぞれ接触するよう位置決めされる。そして、電極に接触させた2本のプローブ22a,22bを介して、電圧印加手段16により測定対象物にパルス電圧を印加し、それに同期して光照射手段14からのパルス光を測定試料に照射する。発生したキャリヤによる電流信号はプローブ22bを通して信号検出手段18により検出され、該検出信号は信号処理手段20へと送られる。
信号処理手段20はデジタルフィルタ(雑音除去手段)を備えており、該デジタルフィルタによって検出信号に含まれる光照射手段14に起因するノイズを除去する。このノイズは光源に依存した特徴的な周波数成分、具体的には18〜22MHzの周波数成分及びその高周波成分を持つため、デジタルフィルタ、より好適にはFFTフィルタ、によって好適に除去することができる。
【0019】
光照射手段14と他の構成要素を電気的に分離絶縁するために、本実施形態の雑音低減手段は、光照射手段14と電圧印加手段16との間、及び光照射手段14と信号検出手段18との間の制御信号線を電気的接続ではなく光接続にすることで構成されている。
具体的には、図5に示すように、電圧印加手段16と光照射手段14とを同期させるための信号線26は、フォトカプラ28を介して接続されており、光照射手段14と信号検出手段18との同期は光信号を利用して行っている。
また、信号検出手段18と光照射手段14との間のタイミング制御は、図5の実施形態において示されるように、測定対象物設置手段12の前段に、ビームスプリッタ30を設置し、光照射手段14からの光を2つの光束に分割し、一方を測定対象物へ照射する光束、他方を同期信号のための光束として利用することで行っている。つまり、PINダイオード等で構成される光検出手段32が、同期信号のための光束を検出した時点で信号検出手段18にトリガ信号を送ることで、光照射手段14と信号検出手段18との同期をとっている。このように、光照射手段14と信号検出手段18との間、光照射手段14と電圧印加手段16との間を結ぶ経路の少なくとも一部分が光接続となっていればよい。
【0020】
TOF法測定時には、まずコンピュータから電圧印加手段16にトリガ信号がかけられ、電圧印加手段16は測定対象物にバイアス電圧を印加する。そして、フォトカプラ28を介して接続された信号線26を通して光照射手段14にトリガ信号を送る。トリガ信号を検出した光照射手段14は、パルスレーザー光を測定対象物及び光検出手段32へ照射する。レーザー光を受光した光検出手段32は信号検出手段18にトリガ信号を送る。トリガ信号を受けた信号検出手段18は、測定対象物からの電流信号を電圧信号に変換して検出し、検出信号をコンピュータ内の信号処理手段20へと送る。信号処理手段20へと送られた検出信号は、信号処理手段20においてノイズ除去処理等が行われる。
以上の構成の結果、本実施形態の高移動度測定装置では、TOF法での移動度の測定範囲を大幅に広げることができる。特に、従来のTOF法では測定困難な移動時間の短い場合、つまり高キャリヤ移動度領域や測定対象膜厚が薄い場合にも測定可能となる。具体的にはキャリヤ移動度情報を含む信号の継続時間が800nsec以下の試料に対しても好適に測定を行うことができる。また、SN比が向上し、雑音に隠れてしまうようなキャリヤ発生量の少ない測定対象物においても測定可能となる。
【0021】
以上が本実施形態の概略構成であり、以下に図5を参照して各構成要素のさらに詳しい説明を行う。
測定対象物に電極を設ける方法としては、例えば、金属線を測定対象物に接着する、針状の金属電極を測定対象物に接触させる、等の方法がある。また、パルス光の照射によりキャリヤを発生させる方法以外に、測定対象物とは別にキャリヤ発生層を設ける方法もある。つまり、該キャリヤ発生層で発生したキャリヤを測定対象物に注入する。該キャリヤ魁が測定対象物の内部を移動し、対向電極に到達する過程を電流として観測することにより、キャリヤ移動度測定が行われる。測定対象物の同じ面側に電圧を印加するための電極を接続し、キャリヤ魁をスリット状に発生させることにより、測定対象物の面内を面と平行に移動するキャリヤ移動度も測定できる。
【0022】
光照射手段14は、電圧印加手段16と同期して、測定対象物内にキャリヤ魁を発生させる必要があり、例えば、パルスレーザーが用いられる。パルスレーザー光は、測定対象物の表面層で吸収され、測定対象物の光電変換機能によりキャリヤ魁に変換される。該キャリヤ魁の幅はパルスレーザーの幅に依存するため、パルスレーザーの幅は短い程よく、好ましくは1nsec以下、より好ましくは0.3nsec以下である。該キャリヤ魁の強度は、パルスレーザーの強度と、測定対象物またはキャリヤ発生層の光吸収率や光電変換機能に依存するため、パルスレーザー光の強度は10−9〜10−12ジュール/パルスが好ましく、強すぎると測定対象物が損傷を受け、また発生したキャリヤ魁が測定対象物内の電界を修飾し、正確な移動度が求まらない。一方、弱すぎると十分な該キャリヤ魁が発生しない。パルスレーザーの波長は測定対象物の最大光吸収波長に合わせられるように可変であることが好ましい。パルスレーザーの好ましい例としては、窒素レーザー及びそれに色素溶液を備えた色素レーザーが挙げられる。
【0023】
光照射手段14から照射される光の偏光状態を制御するために、光照射手段14の後段に偏光手段40を備えることが好適である。TOF法測定時の光キャリヤの発生は測定対象物の表面層で起こる必要があり、そのためには照射した光パルスが測定対象物に強く吸収される必要がある。ここで、試料が直線二色性、円二色性を有するものである場合、直線偏光の方向、左右円偏光の光で吸収率が異なる。そのため、偏光状態が制御されていない光を使用した場合は、検出信号がなまってしまい、解析が難しくなる。しかしながら、偏光手段40により、大きな吸収率を持つ偏光状態にすることによって、より好適な測定を行うことが可能となる。また、例えば測定対象物に照射する光を直線偏光とし、直線偏光のP偏光とS偏光で別々に移動度を測定し、結果を比較することにより、薄膜の構造に関するより詳しい知見を得ることができる。偏光手段としては、偏光フィルタ(例えばグラン・トムソンプリズム)等の公知の光学素子を用いればよい。また、偏光手段40は光路上へ出し入れ自在に構成されており、偏光手段40を通した測定も、通さない測定も行うことができる。
【0024】
電圧印加手段16は、測定対象物にバイアス電圧を印加するために用意され、TOF法測定時において暗電流による測定対象物の分極を避けるために、ドリフト移動時間より少し長い継続時間のパルス状電圧を発生できる必要がある。本実施形態で用いる電圧印加手段16は、バイポーラ電源で、好ましくは−500〜+500V、より好ましくは−1000〜+1000Vの電圧が印加でき、パルス幅は1sec程度を中心に可変可能なものが好ましい。
信号検出手段18は、デジタルオッシロスコープ等により構成される。TOF法では電流を電圧に変換して測定する必要があり、キャリヤ移動による電流は負荷抵抗にて電圧に変換して検出される。
【0025】
制御手段24、信号処理手段20はコンピュータ等により構成され、測定時の各構成要素間のタイミングのコントロール、および信号の記録・処理をするためのものであり,信号検出手段18、電圧印加手段16、光照射手段14を制御し、信号検出手段18から送られてきたデータを解析し、キャリヤ移動度を求める。制御手段24の設定等は、コンピュータに接続された入力部38により行うことができる。
また、測定対象物を観察手段として画像検出器34を備えることが好適である。画像検出器34からの画像データはコンピュータに送られ、ディスプレイ等の表示部36に表示される。それにより、レーザー光が肉眼に触れることなく、測定部位をレーザー光照射位置に正確に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】TOF法によるキャリヤ移動度測定の説明図
【図2】従来の装置におけるノイズ成分を示すグラフ
【図3】ノイズ成分、TOF法における検出信号、ノイズ除去処理を施した検出信号をそれぞれ示したグラフ
【図4】本発明にかかる雑音低減手段を備えた装置により測定したノイズ成分を示すグラフ
【図5】本発明の実施形態にかかる高移動度測定装置の概略構成図
【図6】本発明の実施形態にかかる測定対象物設置手段を上から見た図
【図7】本発明の実施形態にかかる測定対象物設置手段を側面から見た図
【符号の説明】
【0027】
10 高移動度測定装置
12 測定対象物設置手段
14 光照射手段
16 電圧印加手段
18 信号検出手段
20 信号処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に設けられた電極に接触可能なプローブを有する測定対象物設置手段と、
測定対象物にパルス光を照射する光照射手段と、
前記プローブを介して前記電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記プローブを介して、測定対象物を流れる電流信号を検出する信号検出手段と、
該信号検出手段にて検出した信号を処理するための信号処理手段と、を備え、
前記測定対象物設置手段のプローブを測定試料に設けられた2つの対向した電極にそれぞれ接触させ、前記電圧印加手段により、該接触したプローブを通して該電極間にパルス電圧を印加し、それに同期して前記光照射手段から測定対象物にパルス光を照射し、発生したキャリヤによる電流信号を信号検出手段により検出するTOF法測定を行う高移動度測定装置において、
前記光照射手段と前記他の手段との間の同期をとるための接続を光接続とし、電気的に分離絶縁することで該光照射手段で発生するノイズの混入を低減する雑音低減手段、及び/またはTOF法測定の検出信号に混入する前記光照射手段からのノイズを除去する雑音除去手段を備えたことを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高移動度測定装置において、
前記雑音除去手段は、前記信号処理手段に設けられたデジタルフィルタとして構成されていることを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の高移動度測定装置において、
前記デジタルフィルタは、TOF法測定の検出信号から18〜22MHzの周波数成分及びその高調波成分を持つノイズを除去することを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項4】
請求項2または3のいずれかに記載の高移動度測定装置において、
前記デジタルフィルタはFFTフィルタであることを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の高移動度測定装置において、
前記雑音低減手段は、光照射手段と電圧印加手段とを電気的に絶縁した状態で接続を行うためのフォトカプラを含み、前記電圧印加手段と光照射手段とを同期させるための信号線を該フォトカプラを介して接続し、光照射手段と電圧印加手段とを電気的に絶縁することを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高移動度測定装置において、
前記雑音低減手段は、TOF法測定時に前記光照射手段と信号検出手段とを同期させる信号を光信号で伝達するよう構成されていることを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の高移動度測定装置において、
前記光照射手段からの光を分割し、一方を測定対象物へ照射する光、他方を前記同期信号のための光とするビームスプリッタと、
該同期信号用の光を受光する光検出手段と、を備え、前記光検出手段は光を検出した時点で信号検出手段にトリガー信号を送ることで、前記光照射手段と信号検出手段との同期をとることを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の高移動度測定装置において、
前記光照射手段からの光の偏光状態を制御するための偏光手段を備えることを特徴とする高移動度測定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の高移動度測定装置において、
測定対象物を観察するための画像検出器を備えることを特徴とする高移動度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−135125(P2006−135125A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323199(P2004−323199)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(501194123)分光計器株式会社 (6)
【Fターム(参考)】