説明

高純度SrTaとSrNbのダブルアルコキシドの製造方法

【課題】SrBiTaまたはSrBi(Ta,Nb)の強誘電体膜をMOCVD法で製造するための原料として、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbと高純度であるSr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)の製造方法を提供する。
【解決手段】Srとエタノールを反応させて得たSr(OCをエタノール中で再結晶し、次いで、回収したSr(OCと過剰のメトキシエタノールを反応させ、Sr(OCOCHに変換し、次いでこのSr(OCOCH1モルとM(OC2モルと反応させ、Sr[M(OC(OCOCH)]を合成し、次いでこのSrMダブルアルコキシドを精密蒸留する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度SrTaダブルアルコキシド、及びSrNbダブルアルコキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発メモリFeRAMの強誘電体膜として、SrBiTaまたはSrBi(Ta,Nb)が実用化されている。その膜製法として、現在はMOD法、ゾルゲル法が用いられているが、より微細化、高集積化に伴い、MOCVD法が検討されている。膜組成の制御性の観点から、SrTa、SrNbのMOCVD用の原料としては、SrTaダブルアルコキシド、SrNbダブルアルコキシドが最も実用化に近い情況である。
【0003】
その中で、特許文献1に記載されたSr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)は、気化時に熱解離しにくく、量論での気化が可能で、好ましい温度範囲でSrBiTaまたはSrBi(Ta,Nb)の組成を制御性よく析出させるのに有効である。
【特許文献1】特開2000−344789
【0004】
近年はこれを用いたCVDの報告が最も多い。
【非特許文献1】W.C.Shin et al.Chem.Vapor Deposition,Vol.8,221(2002)
【非特許文献2】矢元久良ら、第64回半導体集積回路技術シンポジウム講演論文集p30(2003.6.5)
【非特許文献3】H.Yamoto et al.15▲th▼International Symp.on Integrated Ferroelectrics p374(2003.3.9)
【非特許文献4】K.Uchiyama et al.Integrated Ferroelectrics,Vol.36,119(2001)
【非特許文献5】N.Nukaga et al.Jpn.J.Appl.Phys.Vol.41,L710(2002)
【0005】
特に近年、更なる高集積化のために、三次元での薄膜形成が要求され、膜厚が100μm以下と薄くすることが必要となっている。MOCVD原料に微量に含まれるNa、Mgなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属やFeなどの遷移金属元素が膜の電気特性とその信頼性を損ねるので、できるだけこれらの不純物濃度を低くすることが、重要となってきた。その要求レベルはSr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)中、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppb程度である。
【0006】
これらの化合物の純度を記載した文献はほとんど見つけられないが、一つある非特許文献6によれば、以下のとおりである。
Sr[Ta(OC(OCOCH)]
不純物濃度(ppm)Na<1、K<1、Mg1、Ca25、Ba90、Fe1、
Cu<1、Cr<1、Ni<1
Sr[Nb(OC(OCOCH)]
不純物濃度(ppm)Na<1、K<1、Mg2、Ca49、Ba80、Fe1、
Cu<1、Cr<1、Ni<1
どちらも要求レベルを満足させられないことが明らかである。
【非特許文献6】(株)高純度化学研究所総合カタログp432(2003.4)
【0007】
Bi原料として、使われるBi[OC(CHは、単一金属のアルコキシドで、蒸気圧が高いので、精留により、比較的容易に各不純物金属元素を5ppb以下にできる。
【0008】
Sr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)については、その合成原料の一つであるTa(OCやNb(OCは蒸気圧が高いので、精留により、比較的容易に各不純物金属元素を5ppb以下にできるが、もう一つの原料であるSr(OCOCHは、多量体に会合しているため分子量が非常に大きく、蒸気圧がなく、蒸留による精製は不可能である。
【0009】
Sr(OCOCHは、金属Srと過剰のメトキシエタノールCHOCOHとを反応させ、未反応のメトキシエタノールを減圧留去することにより、容易に得られるものである。しかしこの場合には、原料の金属Srに不純物としてあるNa、K、Mg、Ca、Al、Baなどは、Srと同様に反応してしまうため、全て生成物のSr(OCOCH中に入ってきてしまうことになる。不純物濃度がSr[Ta(OC(OCOCH)]中で50ppb以下となるには、原料Srに許容される不純物濃度は、50×1050/87.62=600ppbとなる。しかし、一般に入手可能なSrの不純物濃度は各元素が5〜10ppm、Baは、200ppm程度である。再蒸留精製により得られたSrは、Na、K、Mg、Alなどは、100ppb以下であるが、Ca、Baは20〜100ppmと高く、またロットにより、個々の不純物濃度が大きく異なる。よって、上記のSrを使い、Sr(OCOCHを合成し、Ta(OCと反応させSr[Ta(OC(OCOCH)]を合成し、それを単蒸留したのでは、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbにすることは、不可能である。
【0010】
そのため、Sr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)を合成してから、精留するこになるが、それは、以下の問題がある。まず第一に、Sr[M(OC(OCOCH)]の蒸気圧は、1Torr/215℃と低く、温度を上げすぎると、熱解離がおきて、蒸留が上手くできないこと、第二に、Mg、Ca、BaはN[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta、N=Mg,Ca,Ba)なる化合物を作り、それらが、Sr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)と似た蒸気圧を示すので、精留だけによる精製が容易でないことである。
【0011】
今までに、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbと高純度であるSr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)の報告はなく、その製造方法も開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする課題は、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbと高純度であるSr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、Srとエタノールを反応させて得たSr(OCをエタノール中で再結晶し、次いで、回収したSr(OCと過剰のメトキシエタノールを反応させ、Sr(OCOCHに変換し、次いでこのSr(OCOCH1モルとM(OC2モルと反応させ、Sr[M(OC(OCOCH)](M=Nb,Ta)を合成し、次いでこのSrMダブルアルコキシドを精留することを特徴とする高純度Sr[M(OC(OCOCH)]の製造方法である。
【0014】
また、不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbであることを特徴とする上記発明により製造された高純度Sr[M(OC(OCOCH)]である。
以下本発明の詳細について述べる。
【0015】
原料Sr中の5〜10ppmのNa、K、Mg、Ca、Alと100ppm程度のBaは、Sr(OCOCHへ変換させた後では、ほとんど除くことはできない。なぜなら、Sr(OCOCHは、多量体に会合しでいるので、蒸留ができなく、また、再結晶で精製できないからである。そこで、Srとエタノールを反応させて得たSr(OCをエタノール中で再結晶して精製し、次いで、回収したSr(OCと過剰のメトキシエタノールを反応させ、Sr(OCOCHに変換すれば、Na、K、Mg、Ca、Al、Baがよく除かれることを、本発明者は見出した。
【0016】
VonN.J.Turovaらは、Mg(OC−COH系、Ca(OC−COH系、Sr(OC−COH系、Ba(OC−COH系の溶解度の温度依存性を報告しているが、N(OC(N=Mg,Ca,Sr,Ba)に2COHまたは4COHが配位したアルコラートがあり、その安定性は、温度域により異なることを報告している。
【非特許文献7】VonN.J.Turova et al.Z.Anorg.allgem.Chmie,1969,Band365,p100
【0017】
Sr(OCの場合、針状晶のSr(OC・4COHは、20℃以上で、不安定相であり、その溶解度は60℃で、8%、20℃で4%である。微結晶のSr(OC・2COHは、20℃以上で、安定相であるが、その溶解度は60℃で<1%、20℃で2%である。よって、本発明では、針状晶のSr(OC・4COHで存在しないと、再結晶による精製は不可能となる。そうあるためには、どのような条件が必要であるかは、記載されていない。
【0018】
Mg(OCの溶解度は、20℃で0.2%以下である。Ca(OCの溶解度は、60℃で14%、20℃で2%である。Ba(OCの溶解度は、60℃で40%、20℃で30%である。Al(OCのデータはない。
以上のように、単一のN(OC−COH系のデータは報告されているが、Sr(OCをマトリックスとする多成分系で、個々の成分の溶解度がどのようになるかは、予測しがたい。
【0019】
本発明者は、Sr(OC中に、N(OCのエトキシドの化合物として、Na、Mg、Ca、Ba、Alを数百〜1000ppm含むものを、再結晶精製し、1回の再結晶操作で達成できる濃度低下を調べた。その結果を表1に示した。
【0020】
【表1】

【0021】
上記結果から、再結晶操作を2回すれば、Na1/33、Mg1/2.3、Ca1/7.3、Ba1/17、Al1/37に濃度を低下させられると推定される。
【0022】
次ぎに、Sr[Ta(OC(OCOCH)]の精留によって得られた主留分の、不純物元素の濃度低下を調べた結果を表2に示した。
【0023】
【表2】

【0024】
この結果、Mg、Ca、Baは比較的効果的に除けるが、Na、Alは、効果がなかった。Fe、Cu、Cr、Ni、Znなどの遷移金属不純物元素は(OC)基や(OCOCH)基を含んだ化合物で蒸気圧がSr[Ta(OC(OCOCH)]と似た化合物は、少ないため、精留により、比較的容易に除去できた。
【0025】
よって、Sr(OCでの2回の再結晶精製とSr[Ta(OC(OCOCH)]の精留とを組合すことにより、原料Sr中の各不純物元素の濃度は、計算上、表3のようになる。
【0026】
【表3】

【0027】
原料Sr中の不純物元素が全量Sr[Ta(OC(OCOCH)]に行く場合、分子量の関係で、濃度は、87.62/1050=1/12となる。
すなわち原料Srの不純物をNa、Mg、Ca、Alを各10ppm、Baを100ppmとすると、これから得られるSr[Ta(OC(OCOCH)]の不純物濃度は表4となる。
【0028】
【表4】

【0029】
表4の結果から、不純物濃度Na、Mg、Ca、Alの各々≦50ppb、Ba≦500ppbと高純度であるSr[Ta(OC(OCOCH)]が得られることになる。なおFe、Cu、Cr、Ni、Znなどの遷移金属不純物元素は精留で効果的に除去できること、KはSr中にもともと少ないことから、本発明の目標を達成することができる。
【0030】
Ta(OCをNb(OCに代えて、Sr[Ta(OC(OCOCH)]と同様な操作をすることにより、高純度のSr[Nb(OC(OCOCH)]を製造することができる。但し、SrNbダブルアルコキシドはSrTaダブルアルコキシドより、熱解離しやすいので、精留の釜の仕込量を少なくし、短時間で精留を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
不純物含有量Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbである高純度Sr[M(OC(OCOCH)]を製造することができる。この化合物とBi化合物と酸化剤を使い、MOCVD法で、高純度のSrBiTaまたはSrBi(Ta,Nb)強誘電体膜を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
使用する原料SrのNa、K、Mg、Ca、Al濃度は、10ppm以下、好ましくは、5ppm以下であり、Ba濃度は、200ppm以下、好ましくは、100ppm以下である。低濃度であればあるほど、再結晶の回数を減らすことができ、経済性もでる。
【実施例1】
【0033】
原料Srとして、大豆程度のチップ形状で、不純物濃度(ppm)Na7、K<1、Mg10、Ca5、Al12、Ba170、Fe5、Cr<1、Ni<1を用意した。
攪拌翼、リフラックスコンデンサーを供えたパイレックス製の5Lフラスコに、精製したエタノール5Lを仕込み、オイルバスで60〜70℃程度に加熱し、上記のSr140gを3分割して投入し、徐々に反応させ、2時間で反応し尽くした。
【0034】
室温まで除冷し、1晩おいて1回目晶析をし、上澄み液3.9Lを抜き取った。次いで、精製エタノール4.4Lを仕込み、加熱して結晶を溶解し、次いで室温まで除冷し、1晩おいて、2回目晶析をし、上澄み液5.0Lを抜き取った。
次いで、Sr(OC結晶に付着残存しているエタノールを常圧、減圧の留去で除いた。
【0035】
次いで、精製したメトキシエタノール1090gを仕込み、リフラックスさせ、結晶を全て溶解、3時間反応させた。次いで、副生のエタノールと未反応のメトキシエタノールを加熱しながら、常圧、減圧で留去すると、あめ色の固体としてSr(OCOCHが127g(0.534mol)得られた(仕込みSrに対して、収率33%)。
【0036】
このSr化合物に2mol倍量の精製Ta(OC434g(1.068mol)、トルエン1.15Lを加え、6時間リフラックスし、Sr[Ta(OC(OCOCH)]を合成し、次いで、常圧、減圧でトルエンを留去した。
【0037】
このSr[Ta(OC(OCOCH)]を0.3Torr、浴温212〜235℃、留出温度180〜210℃で単蒸留し、主留として、粗Sr[Ta(OC(OCOCH)]484g(0.461mol)を得た。
【0038】
段数2、還流比4で操作される高真空精留装置に、上記の粗Sr[Ta(OC(OCOCH)]480gを仕込み、浴温205〜220℃で精留し、初留54g、主留351g(0.334mol)、釜残73gを得た。
【0039】
上記の主留の不純物元素定量分析を行った。試料を秤取して蒸発乾固させたのち、残さをフッ化水素酸および硝酸の混酸に溶解し、純水に定容とした。この定容液について、Na、Mg、Al、K、Ca、Ba、Fe、Cr、Ni、Cu、ZnをICP質量分析法により定量分析した。
【0040】
分析結果(単位ppb)
Na<20、K<30、Mg40、Ca40、Ba400、Al20、
Fe<30、Cr<20、Ni<20、Cu<20、Zn<20、
この結果から、目標としていた純度が達成されたことがわかる。
【比較例1】
【0041】
実施例1の原料Srを用い、Sr(OCOCHを直接合成し、精製Ta(OCと反応させ、単蒸留で粗Sr[Ta(OC(OCOCH)]を得た。
その分析結果(単位ppb)は、
Na830、K<100、Mg1200、Ca410、Ba8900、Al1200、Fe150、Cr<100、Ni<100、Cu<100、Zn<100
この結果、目標としている純度は、全く達成されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
強誘電体メモリーは近年、需要が急速に高まり、同時に製造技術の改善が進み、電子産業において、重要な位置を占めるようになった。
本発明は、高純度な原料を提供するものであり、これにより高純度のSrBiTaまたはSrBi(Ta,Nb)強誘電体膜を製造でき、その膜の電気特性、信頼性の向上が計られるので、産業上の利用可能性は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Srとエタノールを反応させて得たSr(OCをエタノール中で再結晶し、次いで、回収したSr(OCと過剰のメトキシエタノールを反応させ、Sr(OCOCHに変換し、次いでこのSr(OCOCH1モルとM(OC2モルと反応させ、Sr[M(OC(OCOCH)]を合成し、次いでこのSrMダブルアルコキシドを精密蒸留することを特徴とする高純度Sr[M(OC(OCOCH)]の製造方法。
ここで、M=TaまたはNbである。
【請求項2】
不純物濃度Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Cu、Cr、Ni、Znの各々≦50ppb、Ba≦500ppbであることを特徴とする請求項1により製造された高純度Sr[M(OC(OCOCH)]

【公開番号】特開2006−96732(P2006−96732A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311540(P2004−311540)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000143411)株式会社高純度化学研究所 (18)
【Fターム(参考)】