説明

高耐久性水素分離膜及びその製造方法

【課題】高耐久性水素分離膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する水素分離膜を製造する方法であって、多孔質基材に金属を充填させる際に、基材表層への保護多孔体層1の被覆、活性化処理、保護多孔体層1の除去、基材表層への保護多孔体層2の再被覆、金属の無電解めっき、の手順をとることにより表面から一定の深さに緻密層を有する細孔充填型分離膜を製造することを特徴とする水素分離膜の製造方法、及びその水素分離膜。
【効果】多孔質材料内部に金属緻密層を充填させた構造を有する水素分離膜を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性水素分離膜に関するものであり、更に詳しくは、多孔質材料内部に金属緻密層を充填させた構造を有する複合膜からなり、水素選択透過性を有する水素分離膜及びその製造方法に関するものである。本発明に係る水素分離膜は、500〜600℃の高温領域で安定した水素の選択透過性を有し、例えば、水蒸気改質等の高温の反応容器内から高純度の水素を連続的に回収することを可能とする水素分離膜に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
多成分の高温のガス中から水素のみを選択的に分離する技術として、水素分離膜による膜分離が知られている。水素分離膜には、大きく分けて、微細な空孔を有する分子ふるい膜及び緻密な金属により構成される膜が知られている。例えば、前者には、幾つかの先行技術が知られている(特許文献1〜6等)が、分子ふるい膜は、孔径が小さいために圧力損失が大きく、また、分離係数が大きくないという欠点を有する。一方、緻密な金属により構成される膜(緻密金属膜)は、一段で高い分離を得ることが可能である。
【0003】
緻密金属膜は、膜圧が薄いほど透過速度が大きく、また、金属使用量を低減するために、例えば、パラジウム膜では、ミクロンオーダーの薄膜として使用されている。しかし、ミクロンオーダーの薄膜は、自立膜として使用できないので、多孔体に担持して用いられる。例えば、他の先行技術として、多孔体表面に金属微粒子により活性化処理を行った後、化学めっき法によりパラジウムを析出させる方法が提案されている(特許文献7、8)。通常は、緻密金属膜は、アルミナなどのセラミック多孔体の表層に、化学めっき、CVD、スパッタリング法等によりパラジウム薄膜が形成され、水素分離膜として用いられる。
【0004】
水素を大量に消費する用途としては、都市ガス等から水蒸気改質法により水素を製造し、燃料電池で発電を行う技術がある。メタンやプロパンを600℃前後に水蒸気と共に加熱し、水素と二酸化炭素等の混合ガスへ転化し、水素のみを反応容器から分離することが求められている。水蒸気改質で得られた水素を高温下で連続的に分離・回収するためには、水素分離膜は、600℃前後の高温度領域に長期間曝されても安定に分離機能を維持する必要がある。更に、水素分離膜は、起動−作動−停止の段階において、室温と高温の間で加熱・冷却を繰り返すこと、あるいは水素と非透過性ガスに繰り返し曝されること、にも耐えなくてはならない。
【0005】
パラジウム薄膜が損傷される要因の一つとして、多孔質基材とパラジウムの熱膨張係数の違いにより高温下で膜に歪みが蓄積され、膜の剥離や亀裂を生ずることがある。また、多孔体表面に貼られた膜は、機械的衝撃に弱く、擦りや接触により容易に破損する。損傷に耐え得るものとするには、例えば、膜圧を20μm以上と厚くすればよいが、水素透過流束が減少し、また、高価なパラジウムのコストが増大するので、好ましい手法ではない。パラジウム膜を厚くすることなく、高い耐久性を示す水素分離膜の開発が強く求められている。
【0006】
これを解消するためには、多孔質基材内部に位置を特定してパラジウムを析出させる手法が必要となる。例えば、多孔質内部に水素分離膜を構成する方法としては、他の先行技術では、多孔質基材内部にパラジウムを含むと共に、表面にもパラジウム膜を形成させて欠陥のない水素透過膜としている(特許文献9、10等)。しかし、これらの手法では、依然として表面にパラジウム膜を有しており、その耐久性は十分とは言い難い。同様に、表面のパラジウム層に無機材料微粒子を混入させた、他の先行技術の手法も(特許文献11)、水素分離層が表面に露出しており、満足できるものではない。
【0007】
多孔質体内部にめっき法やCVD法でパラジウムを担持させる手法が、他の先行技術として知られている(特許文献12、13)。しかし、これらの方法では、パラジウムの担持位置の制御が困難であり、細孔を塞ぐために、多量のパラジウムを投入する必要が生じかねないという欠点がある。また、他の先行技術として、多孔体を埋めるように水素透過性金属を配置する手法が提案されている(特許文献14、15等)。これらは、多孔体内部に金属を均一に分散した材料であり、また、金属担持層は外面に露出しており、細孔内部への位置選択的な担持に関して何らの知見を与えるものではない。
【0008】
多孔質内部に膜状に金属薄膜を形成させる手法として、他の先行技術文献でそれが示されている(特許文献16)。この文献では、水素分離金属を細孔内に担持した多孔質支持体を、多孔質支持体に接合することにより、それを実現することが示されており、例えば、接合の例として、セラミックの微粒子と有機溶媒とを混合したペーストを両者間に塗布し、焼成することが示されている。しかし、これは、高温で強固に焼結すれば、水素分離金属薄膜の損傷は免れず、また、低温で焼結される接着材料を用いれば、耐熱性が得られず、実効性のある知見を与えるものではない。
【0009】
こうした方法の欠陥を克服する方法として、他の先行技術において、(A)多孔質基材(B)多孔質基材とその細孔隙に充填され該細孔隙を閉塞する金属からなる金属緻密充填材及び(C)多孔質保護材が順に成層された材料が提案されている(特許文献17)。しかし、この手法では、該(B)層が基材に後付けされるために、この手法による材料は、強度に乏しく、特に金属種核を担持した(B)層は、多孔質基材粒子表面が金属粒子で覆われるために、保護層(C)が強固に接合できず、温度や気体雰囲気の変化等により剥離を起こしやすいという欠点を有していた。
【0010】
【特許文献1】特開平8−38864号公報
【特許文献2】特開平11−57432号公報
【特許文献3】特開2001−120969号公報
【特許文献4】特開2002−348579号公報
【特許文献5】特開2005−254161号公報
【特許文献6】特開2006−239663号公報
【特許文献7】特開昭62−273030号公報
【特許文献8】特開2004−122006号公報
【特許文献9】特開2002−239352号公報
【特許文献10】特開2005−66427号公報
【特許文献11】特開2000−189771号公報
【特許文献12】国際公開WO2002/064241号
【特許文献13】特開2003−183840号公報
【特許文献14】特開2005−270966号公報
【特許文献15】特開2005−58867号公報
【特許文献16】特開2002−33113号公報
【特許文献17】特開2006−95521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高耐久性水素分離膜を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、多孔質基材にパラジウム等の金属を析出、充填させて金属緻密層を形成した複合膜とすることで所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、多孔質基材に金属層を配した複合膜において、それを多孔質基材内部に薄膜化しても機械的な欠陥やピンホールを生じることなく、高温下でも強度を保持させ、接触等による損傷や剥離のないようにして、上記の従来の欠点を解消することを可能とし、更に、このような複合膜を水素分離膜に応用することで、高温下で長時間の水素透過性能を維持させることを可能とする新規水素分離膜及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する複合膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、多孔質基材に金属を充填させる際に、(a)基材表層への第1保護多孔体層1の被覆、(b)金属種核を担持させる活性化処理、(c)保護多孔体層1の除去、(d)基材表層への第2保護多孔体層2の被覆、(e)金属の無電解めっき、の手順をとることにより、表面から一定の深さに金属緻密層を有する複合膜からなる細孔充填型分離膜を製造することを特徴とする水素分離膜の製造方法。
(2)充填させる金属が、パラジウムないしパラジウム合金である、前記(1)に記載の水素分離膜の製造方法。
(3)多孔質基材及び保護多孔体層1及び2が、多孔質セラミックスである、前記(1)ないし(2)に記載の水素分離膜の製造方法。
(4)多孔質基材及び保護多孔体層1及び2が、ジルコニアないしジルコニア化合物である、前記(3)記載の水素分離膜の製造方法。
(5)多孔質基材及び保護多孔体層1及び2の細孔径が、0.1〜1μm、並びに空隙率が10〜60%である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
(6)保護多孔体層1及び2の被覆において、溶媒中に分散した無機粒子を減圧吸引する方法により担持し、有機バインダーを含まない、前記(1)から(5)のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
(7)金属の無電解めっきの際に、めっき液を吸引、循環させる、前記(1)から(6)のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
(8)多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する複合膜からなる水素分離膜であって、a)基材表面に保護多孔体層が被覆されている、b)表面から一定の深さに金属緻密層を有する、c)多孔質基材及び保護多孔体層が多孔質セラミックスである、d)多孔質基材の多孔度は0.2〜0.7cm/gであり、保護多孔体層の多孔度は0.3〜0.7cm/gである、e)水素選択透過性を有する、ことを特徴とする水素分離膜。
(9)充填させた金属が、パラジウムないしパラジウム合金である、前記(8)に記載の水素分離膜。
(10)パラジウム合金が、パラジウム−銀合金である、前記(9)に記載の水素分離膜。
(11)多孔質基材又は保護多孔体層が、ジルコニアである、前記(8)に記載の水素分離膜。
(12)多孔質基材及び保護多孔体層の細孔径が、0.1〜1μm、並びに空隙率が10〜60%である、前記(8)に記載の水素分離膜。
(13)多孔質基材の厚さが、2〜5mmであり、保護多孔体層の厚さが、1〜5μmである、前記(8)に記載の水素分離膜。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する水素分離膜を製造する方法であって、多孔質基材に金属を充填させる際に、基材表層への第1保護多孔体層1の被覆、金属種核を担持させる活性化処理、保護多孔体層1の除去、基材表層への第2保護多孔体層2の被覆、金属の無電解めっき、の手順をとることにより、表面から一定の深さに金属緻密層を有する複合膜からなる細孔充填型分離膜を製造することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明は、多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する複合膜からなる水素分離膜であって、基材表面に保護多孔体層が被覆されている、表面から一定の深さに金属緻密層を有する、多孔質基材及び保護多孔体層が多孔質セラミックスである、多孔質基材の多孔度は0.2〜0.7cm/gであり、保護多孔体層の多孔度は0.3〜0.7cm/gである、水素選択透過性を有する、ことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の複合膜は、多孔質基材及び保護多孔体層の二層からなる多孔体、及びその境界に充填される金属緻密層からなる複合材料であって、多孔質基材及び保護多孔体層は、通気性のもの、例えば、各材が一方側から他方側に連通して開口している細孔、すなわち、連通孔や開気孔を多数有するものから構成される。
【0017】
本発明の複合膜に係る多孔質基材を構成する多孔質体としては、第1保護多孔体層1及び第2保護多孔体層2(以下、これを保護多孔体層1及び2と記載することがある。)、及び金属緻密充填材を内部に保持した形態で、全体としての機械的強度と通気性を有するものであれば特に制限はないが、耐熱性の観点から、好ましくは多孔質セラミックや多孔質金属からなるものが挙げられる。
【0018】
この多孔質セラミックについては、酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれた少なくとも1種、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ニオビア、セリア、シリカ、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素が好ましく、その他、多孔質ガラス、ゼオライトが好適なものとして挙げられる。これらの中でも、パラジウム金属に熱膨張係数が近似するジルコニアが好ましく用いられる。
【0019】
多孔質金属については、その構造上からは、例えば、金属不織布、金属粉焼結多孔体、金属穿孔体等が挙げられ、また、その物性上からは、耐熱性や耐食性を有する金属や合金、例えば、ニッケルやステンレス鋼等が挙げられる。
【0020】
また、多孔質基材の形態としては、例えば、管状、板状のものが挙げられる。この多孔質基材には、0.01〜10μmの平均細孔径を有するものが好ましく用いられる。10μm以上の穴を有する多孔質体は、その内部を充填するために、より多くの緻密金属を要することにより、また、0.01μm以下の細孔径を有する多孔質体は、気体の透過性が低くなるために、好ましいものではない。
【0021】
好適には、例えば、0.1〜1μmの平均細孔径を有する多孔質基材が用いられる。更に、該多孔質基材の空隙率が10〜60%であるものが好ましく用いられる。空隙率が10%以下では、気体の透過が妨げられ、また、60%以上では、機械的強度が損なわれるので、望ましくない。
【0022】
本発明の複合膜における保護多孔体層1及び2を構成する多孔質体は、微粒子由来のものが好ましく用いられる。この微粒子由来の多孔質体は、微粒子としてセラミックスや金属、中でもセラミックスからなるものを用いることが好ましく、好適には熱膨張の観点から、多孔質基材と同じものを用いることが推奨される。
【0023】
具体例としては、微粒子含有被着物の焼成物、例えば、微粒子、及び適宜用いられるバインダーを溶媒に分散させたスラリーやペーストやゾルを、多孔質基材に浸漬や塗布等の被着手法で被着し、得られた被着物を適宜乾燥し、通気性を保持し得る適当な高温で焼成してなるものや、溶射法によるものが挙げられる。
【0024】
多孔質セラミックスには、その他、シリコンアルコキシド溶液を加水分解して得られるスラリーを多孔質基材に被着し、得られた被着物を適宜乾燥し、焼成してなるものも用いられる。
【0025】
この保護多孔体層1及び2には、0.01〜10μmの平均細孔径を有するものが主として用いられる。10μm以上の穴を有する多孔体では、その下層に充填される金属を十分に保護することが困難であり、また、0.01μm以下の細孔径を有する多孔体では、気体の透過性が低くなるために、好ましくない。
【0026】
好適には、0.1〜1μmの平均細孔径を有する膜が用いられる。更に、該保護多孔体層1及び2には、空隙率が10〜60%であるものが好ましく用いられる。空隙率が10%以下では、気体の透過が妨げられ、また、60%以上では、機械的強度が損なわれるので、望ましくない。
【0027】
本発明の複合膜における充填金属としては、金属単体や合金、中でも無電解めっきの可能な金属、例えば、遷移金属が用いられる。遷移金属としては、好ましくは周期律表の4族、5族、8族、9族、10族及び11族の金属の中から選ばれた少なくとも1種、中でも銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム及びチタンの中から選ばれた少なくとも1種が用いられる。
【0028】
合金としては、例えば、パラジウムと、銀、銅、ニッケル等の金属とからなるものが挙げられる。本発明の複合膜においては、前記の多孔質基材及び保護多孔体層2が順に成層され、緻密金属がその境界付近に充填される。
【0029】
前記各層の厚さは、通常、多孔質基材では1〜10mm、保護多孔体層1及び2では0.5〜20μm、好ましくは、多孔質基材では2〜5mm、保護多孔体層1及び2では1〜5μmの範囲である。また、多孔度については、通常、多孔質基材では0.2〜0.7cm/g、保護多孔体層1及び2では0.3〜0.7cm/gの範囲、好ましくは、多孔質基材では0.4〜0.6cm/g、多孔質保護層1及び2では0.4〜0.6cm/gの範囲である。
【0030】
本発明の複合膜においては、金属緻密充填材の金属として、水素選択透過性金属、例えば、パラジウムや、パラジウム−銀合金のようなパラジウム合金等を用いたものは、水素分離膜として有用である。
【0031】
次に、本発明の複合膜、より詳細に言えば、金属緻密充填層含有多孔質複合膜の製造方法について説明する。本発明の製造方法では、多孔質基材表層への保護多孔体層1の被覆後、金属種核を担持させる活性化処理を施し、更に、保護多孔体層1の除去後、再び基材表層へ保護多孔体層2を被覆した後、担持させた金属種核を種核として無電解めっきを施して、金属緻密充填層を形成する。多孔質基材に被覆する担体微粒子は、セラミックスからなることが好ましく、金属種核は、無電解めっきの可能な金属(以下、めっき金属と記載することがある。)からなることが好ましい。
【0032】
更に、本発明の方法を詳しく説明すると、先ず、多孔質基材表面に保護多孔体層1を以下の方法で担持する。すなわち、担体微粒子を含むスラリー、ペースト又はゾルを多孔質基材に被着させる、あるいは担体微粒子を水に分散させた懸濁液を反対側の面より減圧吸引することにより得た被着物を、適宜乾燥し、焼成して通気性の保護多孔体層を得る。
【0033】
このような調製方法において、管状の基材の場合は、管を担体微粒子の分散ゾルに浸して垂直に引き上げるディップコーティング法によることが可能であり、また、板状の基材の場合は、回転させた基材にゾルを垂らして被覆するスピンコーティング法によることも可能である。
【0034】
好適には、多孔質基材に均一に被覆するには、担体微粒子を分散させた分散液を減圧吸引する方法が、バインダーが不要となり、望ましく用いられる。いずれも、コーティング後、乾燥し、焼成することで、被覆層が形成される。焼成は、400〜700℃、好ましくは400〜500℃の範囲の温度で行う。
【0035】
この場合、温度が低すぎれば、保護多孔体層1は十分な強度をもって付着できず、以後の操作中に剥離する。また、温度が高すぎれば、保護多孔体層1は強固に付着し、容易に除去することができなくなる。
【0036】
このような多孔質基材への被覆は、好ましくは管状や板状の多孔質基材の一方の面、例えば、外面あるいは内面や、片面に施す。多孔質基材には、平均細孔径0.01〜10μmの範囲のものを用いることができ、とりわけ、0.1〜1μmの平均細孔径を有する膜を用いることが好ましい。
【0037】
また、保護多孔体層1には、空隙率が10〜60%であるものが好ましく用いられる。空隙率が10%以下では、気体の透過が妨げられ、とりわけ、細孔を有しない緻密な保護層では、多孔体内部に活性化処理を行うことができなくなるので注意が必要である。また、空隙率が60%以上では、機械的強度が損なわれるので望ましくない。
【0038】
次いで、保護多孔体層1を担持した多孔質基材に、金属種核を担持させることで、活性化処理を行う。すなわち、金属化合物を溶解した溶液に多孔質基材を浸して該溶液を細孔内部に担持後、乾燥して溶媒を除去する。続いて、これを金属化合物を金属に還元することを可能とする溶液又は気体に接触させることにより微粒子を生成させる。
【0039】
活性化処理に用いられる金属としては、めっき金属の析出を促進させる触媒作用があるものであれば特に制約はないが、好適には、例えば、パラジウム、金、銀、白金、スズ等が使用される。特に、水素分離膜では、不純物が水素透過性能に影響を及ぼすので、パラジウムで活性化することが好ましい。
【0040】
これらの金属の化合物としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、プロピオン酸塩、アセチルアセトン錯体、エチレンジアミン四酢酸錯体等が挙げられるが、該化合物は、使用する溶剤に十分な溶解度を持つことが必要である。
【0041】
溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ケロセン等が挙げられ、金属化合物を十分に溶解する必要がある。特に、沸点が低く、除去が容易なクロロホルムやジクロロメタンが好ましく用いられる。
【0042】
還元剤としては、担持された金属化合物から金属微粒子を作製できるものであれば特に制約はないが、好適には、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒド等が挙げられる。金属化合物の担持と還元の操作を繰り返すことにより、金属種核の担持量を増やすことが可能となる。
【0043】
溶剤の揮発と還元により、担持された金属種核は、多孔体の内部はもとより、その表面に多く分布しており、ここで、保護多孔体層1を除去することにより、金属種核が多孔質基材内部のみに存在する状態を作り出すことができる。保護多孔体層1の除去に際しては、該層を完全に除去させる一方で、多孔質基材には、傷や欠陥を作り出さない方法が望まれる。
【0044】
こうした条件を満たす好適な手法としては、超音波が挙げられる。金属種核の担持が終了した多孔体を、水中に入れ、外部から超音波をかけることにより、効率的に保護多孔体層1を剥離させることができる。該多孔体層を除去する速度は、該層の基材との結合の強さに依存し、過剰に強い焼結が行われた場合には、保護多孔体層1が残存する場合があるので注意が必要である。
【0045】
次いで、保護多孔体層2の担持を行い、金属種核が多孔体の内部に存在する状態を作り出す。保護多孔体層2の原料となる担体微粒子の多孔質基材表面への担持は、初めの保護多孔体層1の生成過程における場合と全く同様に行える。但し、該膜が金属緻密膜の保護膜となるので、多孔質素材と同一の物質であることが強く望まれる。
【0046】
担持された保護膜は、乾燥し、焼成することで、被覆層が形成される。焼成は800〜1100℃、好ましくは900〜1000℃の範囲の温度で行う。この場合、温度が低すぎると、保護膜は十分な強度を有せず、金属緻密膜の有効な保護層となり得ない。逆に、焼結温度が高すぎると、保護多孔体層2の細孔が損なわれて、通気性を失うと共に、金属種核が多孔体と反応を起こして触媒活性を失うこととなるので注意が必要である。
【0047】
酸化雰囲気で保護多孔質層2の焼結がなされる際には、内部に担持された金属種核は、酸化を受けて該金属酸化物に変化し、無電解めっきに必要な触媒活性を失うので、還元処理が必要である。金属酸化物を金属へと還元することが可能であれば特に制限はないが、還元剤としては、例えば、ヒドラジン、グルコース、アルデヒド類、水素化ホウ素ナトリウム、塩化スズ、高温水素等が挙げられる。具体的には、ヒドラジン及び高温水素は還元力が高く、また、金属を含まないために、好ましく用いられる。
【0048】
多孔質基材と保護多孔体層2との境界領域には、その担持金属を種核として優先的に該金属を無電解めっきすることができ、それにより、該担持多孔質材の細孔隙を充填して、金属緻密充填層を形成することができる。
【0049】
無電解めっき処理には、めっき液として、金属イオン、錯形成剤、還元剤、溶剤を含むものを用いることが好ましい。この金属イオンは、適当な金属塩、例えば、酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等のめっき液成分として供され、該金属イオンに相応する金属としては、前記したように、無電解めっきの可能な金属、例えば、遷移金属等が挙げられる。
【0050】
遷移金属としては、好ましくは周期律表の4族、5族、8族、9族、10族及び11族の金属の中から選ばれた少なくとも1種、中でも銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム及びチタンの中から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0051】
錯形成剤としては、金属イオンを安定に溶存させるものが用いられ、その具体例としては、好ましくはアンモニアとキレート剤との組合せ、中でもアンモニアとEDTAとの組合せが挙げられる。キレート剤としては、EDTAの他、NTA(ニトリロ三酢酸)や、クエン酸、酒石酸等の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。
【0052】
還元剤としては、例えば、ヒドラジン、グルコース、アルデヒド類、水素化ホウ素ナトリウム、塩化スズ等が挙げられる。溶剤としては、錯形成剤の種類等にもよるが、水、アセトニトリル、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒が挙げられる。
【0053】
めっき液組成については、例えば、金属イオン、キレート剤、アンモニア及び還元剤を含有する場合、各濃度は、0.001〜0.02M、0.01〜0.5M、5〜10M及び0.05〜0.005Mの範囲でそれぞれ選ぶことができる。
【0054】
めっき金属として金属パラジウムを用いた場合、それを均一に析出、分布させる方法には、金属担持微粒子の表面にパラジウム錯体を均一に保持させた後、還元する方法が好ましい。パラジウム錯体の例としては、好ましくは[PdCl2−錯イオンを有する錯体、[Pd(acac)](acac=アセチルアセトナートイオン)、酢酸パラジウム等が挙げられる。パラジウム錯体は、通常、その溶媒に可溶化させ、錯体溶液とし得る溶媒を伴って用いられる。
【0055】
このような溶媒としては、パラジウム錯体を溶解しやすいものであれば特に制限はないが、[PdCl2−のように電荷を持つ錯イオンの場合には、水等の極性溶媒が挙げられ、また、[Pd(acac)]、酢酸パラジウム等の中性錯体では、アセトニトリル、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒が挙げられる。また、還元剤としては、塩化スズやヒドラジン等が好ましい。
【0056】
無電解めっき処理においては、めっき液の進入・送入を真空吸引及び/又は加圧送給操作により補助することが好ましい。このような操作を施すことにより、保護多孔体層2に保護され、多孔質基材内部に位置する細孔隙内に、めっき液を容易に浸入、流入させることが可能になる。
【0057】
多孔体を通過しためっき液は、めっき槽に還流することによりめっき液の体積を維持し、有効に使用することが可能となる。細孔内がめっき金属により充填・閉塞されたことは、めっき液の流れが停止することにより判断される。更に好ましくは、真空吸引操作により、ピンホールが存在しないことを確認することが望ましい。
【0058】
無電解めっき処理の際のめっき液の温度は、通常、室温〜90℃の範囲で選ばれるが、一定以上の反応速度を維持し、しかもアンモニアの蒸散や薬剤の分解を少なくする観点から、40〜70℃、中でも50〜60℃の範囲とすることが好ましい。めっき時間は、めっき液温度や膜厚にもよるが、通常、1〜6時間の範囲で選ばれる。本発明の複合膜の製造方法の一例を図1に示す。
【0059】
本発明の複合膜としては、ジルコニア等の耐熱性セラミックスからなる多孔質基材、該セラミックスと粒径の近似した、同種のセラミックスからなる保護多孔質層1及び2、及びそれら二層の接合面付近の細孔隙に充填され、該孔隙を閉塞する金属とからなる金属緻密充填材からなる複合膜であって、該金属緻密充填材が、無電解めっきによるものが特に好ましく、中でも無電解めっきの可能な金属が、パラジウム又はパラジウム合金であるものが好ましい。このような好適な複合膜であって、金属緻密充填材の金属として、水素選択透過性金属を用いたものは、水素分離膜として有用である。
【0060】
本発明の複合膜の製造方法としては、先ず、ジルコニア等のセラミックスからなる多孔質基材に、保護多孔体層1を低温で焼結し、金属微粒子を種核として多孔体内部及び表面に析出後、超音波により保護多孔体層1を除去する。次いで、多孔質基材と同等の粒径からなるジルコニア等のセラミックスからなる保護多孔体層2を成層し、無電解めっきを施して種核の付与された金属担持多孔質基材の細孔に金属を充填することにより複合膜を製造する方法が特に好ましい。中でも無電解めっきの際に、細孔内にめっき液が浸入しやすくするように減圧吸引、循環を施す。無電解めっきの可能な金属としては、パラジウム又はパラジウム合金を用いることが好ましい。
【0061】
本発明によれば、強固な多孔体の内層部に位置を特定してパラジウム等の金属を充填し、膜化すれば、表面からの接触や高温等の衝撃に耐えられるとの見地から、多孔質基材及び保護多孔質層の二層、及びそれらの境界面付近の細孔隙を閉塞する金属とからなる、金属緻密充填材及び多孔質材の複合材料とすることで実現される。
【0062】
本発明においては、多孔質基材の表面付近に金属による活性化を行い、その上に多孔体層2を被覆することで、金属の種核の存在する箇所において、優先的に金属の析出が起こるという無電解めっきの特徴を利用することにより、金属緻密膜の析出位置を多孔体内部に規定することができ、また、充填されるパラジウム等の金属の量を少なくすることが可能になる。
【0063】
更には、該多孔質基材の表面には、金属種核が析出されないような制約を施すことにより、被覆される保護多孔体層2の接合をより強固となすことができる。すなわち、本発明では、多孔質基材に活性化を施す以前に、該基材表面に保護多孔体層1を仮付けし、活性化後に該保護多孔体層1のみを除去し、更に、保護多孔体層2を被覆することで、金属の種核を多孔体内部の決められた深さに層状に配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0064】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する新規高耐久性水素分離膜及びその製造方法を提供することができる。
(2)本発明の複合膜では、保護多孔体層2が強く基材に結合されるために、内部に作製される金属緻密層を安定に保護することが可能となる。
(3)それゆえに、金属緻密層を薄膜化しても、性能に影響する程の機械的な欠陥やピンホールを生じることがなく、ひっかきや接触による損傷やはがれがなく、機械的な損傷が防止される。
(4)また、多孔質材の細孔隙への充填のため、無電解めっきの可能な金属の使用量を節減することができる。
(5)本発明方法によれば、基材の上に堅牢に被覆された担持多孔質材の細孔隙にパラジウム等の金属を充填するに当り、無電解めっきの可能な金属、例えば、パラジウム等を充填する層にのみ該金属の種核を播種しておき、該中間層を保護多孔体層2で被覆して、無電解めっきを施すことで、種核の分布する中間に優先的に該金属をめっきすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、%は質量基準による。
【実施例1】
【0066】
一次粒子径が約60nmのジルコニア(イットリアYを8mol%含む)を等重量の水と混合し、これをジルコニア製のポット及びボール(直径5mm)からなる強力型ボールミル中で4時間粉砕した。その結果、190nmに粒度分布のピークを有するジルコニア分散液を得た。これを水で希釈することで、0.1%ジルコニア分散液を調製した。
【0067】
直径2mm、全長5cm、平均細孔径100〜200nmのジルコニア管の一方の口を栓で塞ぎ、他方を真空ポンプに繋がる管に接続した。該ジルコニア管の多孔体部を、0.1%ジルコニア分散液に浸し、内部を絶対圧で約400hPaに減圧し、1ml/min前後の通液速度でその3mlを吸引した。管の表面に触れないように栓及び管をはずし、セラミック製の直棒をその中に通した後、電気炉で400℃の低温で、約1時間焼成した。このようにして、多孔質基材表面に保護多孔体層1を形成することができた。
【0068】
多孔質基材表面を保護した多孔質管を、4%酢酸パラジウム−クロロホルム溶液に浸し、これを引き上げて風乾した後、温風で乾燥した。次いで、これを2mol/lヒドラジン及び0.2mol/l水酸化ナトリウムを含む水溶液に浸し、窒素の発生が止んでから、取り出した。これを水洗後、110℃の恒温器で乾燥することで、パラジウム種核を付与して金属活性化した管を得た。この一連のプロセスを5回繰り返し、パラジウム種核を多孔基材表面及び内部に析出させた黒色の多孔質管を得た。
【0069】
このようにして得た、パラジウム種核を付与した多孔質管を、超音波洗浄槽に入れ、水中で、多孔質管全体に出力約60Wの超音波をかけることで、保護多孔体層1は、粉末状に剥離した。黒色の表面は約1分で薄灰色に変わり、保護層の除去を確認した。
【0070】
次いで、ジルコニア多孔質管の一方の口を栓で塞ぎ、他方を真空ポンプに繋がる管に接続した。該多孔質管の多孔体部を、0.1%ジルコニア分散液に浸し、内部を絶対圧で約400hPaに減圧し、1ml/min前後の通液速度でその3mlを吸引した。管の表面に触れないように、栓及び管をはずし、セラミック製の直棒を中に通した後、電気炉で950℃、1時間焼成した。このようにして、多孔質基材表面に保護多孔体層2を強固に被覆した。
【0071】
この管の中で、パラジウム種核は酸化パラジウムに変化しているので、管を2mol/lヒドラジン及び0.2mol/l水酸化ナトリウムを含む水溶液に一晩浸し、金属パラジウム粒子へと還元した。その結果、その色調は、黒色に戻った。これを水洗後、110℃で乾燥し、無電解めっきを適用可能な多孔質管を得た。
【0072】
塩化パラジウム0.01mol/l、アンモニア5mol/l、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.15mol/l及びヒドラジン0.013mol/lを含む水溶液を調製し、その10mlを容器に入れ、これを50℃の恒温槽に入れて、めっき浴とした。金属活性化されたジルコニア多孔質管の一方の口を栓で塞ぎ、他方をペリスタポンプに繋がる管に接続した。ペリスタポンプからの排出液は、めっき槽に還流するよう接続した。
【0073】
該多孔質管の多孔体部をめっき液に浸し、めっき液を撹拌すると共に、ペリスタポンプでめっき液を多孔質管内部に通じた。約6時間後に、通液が停止し、半日後に、真空ポンプで内部を吸引しても、めっき液の滲入は見られなかった。多孔質管を配管から取り出し、水洗し、110℃で乾燥した。
【0074】
以上の操作により、種核の存在する中間層に優先的にパラジウムのめっきが施された多孔質管を得た。この管構造体の断面の電子顕微鏡写真、及び同断面におけるパラジウム元素の分布状態を図2示す。パラジウムが、多孔質基材と保護多孔体層2の接合部付近に極大となる分布を示していることが分かる。
【実施例2】
【0075】
実施例1と同様にして作製した、多孔質管の多孔質部の直径2.2mm、長さ43mmのパラジウム充填型多孔質管を用いて、気体透過試験を行った。一端を閉じた管を、ガス導入口と排出口を持つシリンダーに固定し、環状電気炉内に設置した。管の外側より水素ないし窒素を加圧下で送った。窒素気流下で電気炉の温度を300℃まで上げ、水素ないし窒素の圧力を変えて、膜を透過した気体を石けん膜流量計により測定した。水素ないし窒素の絶対圧の平方根と外気圧の平方根の差をx軸、同透過速度をy軸としてプロットした結果を、図3にグラフで示す(水素(○、□)、窒素(●))。
【0076】
図3より、窒素は300kPa下でも0.05ml/min以下であり、ほとんど透過せず、水素のみを選択的に透過させ得ることが分かる。水素の絶対圧の平方根と外気圧の平方根の差と、同透過速度の間には、良好な直線関係が得られた。これは、一般のパラジウム薄膜の水素透過に見られるものと同様の挙動であり、この細孔充填膜が、薄膜と同様の特性を有することを示している。
【実施例3】
【0077】
実施例1と同様にして作製した、多孔質管の多孔質部の直径2.0mm、長さ43mmのパラジウム充填型多孔質管を用いて、実施例2と同様の装置により、200kPa下で気体透過試験を行った。電気炉の温度をx軸、気体流量を左側のy軸、気体の透過係数を右側のy軸にプロットした結果を、図4に示す(水素(○)、窒素(■))。
【0078】
300℃で、窒素の透過量は0.05ml/min以下、及び600℃で、0.08ml/minであった。本多孔質管は、600℃の温度下でも破壊されることなく、水素選択性を示した。温度上昇と共に、水素透過量は増大し、600℃では、300℃の約2.3倍の透過係数が得られた。
【実施例4】
【0079】
実施例1と同様にして作製した、多孔質管の多孔質部の直径2.0mm、長さ42mmのパラジウム充填型多孔質管を用いて、実施例2と同様の装置により、600℃、200kPa下で耐久透過試験を行った。経過時間をx軸、気体流量をy軸にプロットした結果を、図5に示す。
【0080】
図5により、600℃の高温下で、窒素及び水素に繰り返し曝されても、このパラジウム充填膜は、90時間以上、水素透過性能を変化させず、高い耐久性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上詳述したように、本発明は、多孔質材料内部に金属緻密層を充填させた構造を有し、水素選択透過性を有する水素分離膜及びその製造方法に係るものであり、本発明により、多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する新規高耐久性水素分離膜及びその製造方法を提供することができる。本発明の複合膜は、保護多孔体層2が強く基材に結合されるために、内部に作製される金属緻密層を安定に保護することが可能となる。それゆえに、金属緻密層を薄膜化しても、性能に影響する程の機械的な欠陥やピンホールを生じることがなく、ひっかきや接触による損傷やはがれがなく、機械的な損傷が防止される。また、多孔質材の細孔隙への充填のために、無電解めっきの可能な金属の使用量が節減される。また、本発明方法によれば、基材の上に堅牢に被覆された担持多孔質材の細孔隙にパラジウム等の金属を充填するに当り、無電解めっきの可能な金属、例えば、パラジウム等を充填する層にのみ該金属の種核を播種しておき、該中間層を保護多孔体層2で被覆して、無電解めっきを施すので、種核の分布する中間に優先的に該金属をめっきすることが可能となる。本発明は、500〜600℃の高温領域で安定した水素の選択透過性を有し、例えば、水蒸気改質等の高温の反応容器内から高純度の水素を連続的に回収することを可能とする水素分離膜に関する新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の複合膜の調製手順及び断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明におけるパラジウムを無電解めっきした複合膜の断面電子顕微鏡写真(左)ならびにパラジウムの分布状態を示すグラフ(右)である。
【図3】本発明の実施例2における定温下での水素と窒素の透過速度と圧力の関係をそれぞれ示すグラフである。
【図4】本発明の実施例3における定圧下での水素と窒素の透過速度と温度の関係をそれぞれ示すグラフである。
【図5】本発明の実施例4における定温・定圧下での水素と窒素の透過速度と経過時間の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する複合膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、多孔質基材に金属を充填させる際に、(a)基材表層への第1保護多孔体層1の被覆、(b)金属種核を担持させる活性化処理、(c)保護多孔体層1の除去、(d)基材表層への第2保護多孔体層2の被覆、(e)金属の無電解めっき、の手順をとることにより、表面から一定の深さに金属緻密層を有する複合膜からなる細孔充填型分離膜を製造することを特徴とする水素分離膜の製造方法。
【請求項2】
充填させる金属が、パラジウムないしパラジウム合金である、請求項1に記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項3】
多孔質基材及び保護多孔体層1及び2が、多孔質セラミックスである、請求項1ないし2に記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項4】
多孔質基材及び保護多孔体層1及び2が、ジルコニアないしジルコニア化合物である、請求項3記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項5】
多孔質基材及び保護多孔体層1及び2の細孔径が、0.1〜1μm、並びに空隙率が10〜60%である、請求項1から4のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項6】
保護多孔体層1及び2の被覆において、溶媒中に分散した無機粒子を減圧吸引する方法により担持し、有機バインダーを含まない、請求項1から5のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項7】
金属の無電解めっきの際に、めっき液を吸引、循環させる、請求項1から6のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項8】
多孔質基材に金属緻密層を析出、充填させた構造を有する複合膜からなる水素分離膜であって、a)基材表面に保護多孔体層が被覆されている、b)表面から一定の深さに金属緻密層を有する、c)多孔質基材及び保護多孔体層が多孔質セラミックスである、d)多孔質基材の多孔度は0.2〜0.7cm/gであり、保護多孔体層の多孔度は0.3〜0.7cm/gである、e)水素選択透過性を有する、ことを特徴とする水素分離膜。
【請求項9】
充填させた金属が、パラジウムないしパラジウム合金である、請求項8に記載の水素分離膜。
【請求項10】
パラジウム合金が、パラジウム−銀合金である、請求項9に記載の水素分離膜。
【請求項11】
多孔質基材又は保護多孔体層が、ジルコニアである、請求項8に記載の水素分離膜。
【請求項12】
多孔質基材及び保護多孔体層の細孔径が、0.1〜1μm、並びに空隙率が10〜60%である、請求項8に記載の水素分離膜。
【請求項13】
多孔質基材の厚さが、2〜5mmであり、保護多孔体層の厚さが、1〜5μmである、請求項8に記載の水素分離膜。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−22843(P2009−22843A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186335(P2007−186335)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】