説明

高解像度核酸融解分析用の非対称シアニン色素

本発明は、新規な非対称シアニン色素、及び係る色素の存在下で核酸分析を実施する方法に関する。より詳細には、本発明は、2本鎖核酸に対する高い親和性を有し、また増幅反応、とりわけポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を阻害しない新規な非対称シアニン色素に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な非対称シアニン色素、及び係る色素の存在下で核酸分析を実施する方法に関する。より詳細には、本発明は、2本鎖核酸に対する高い親和性を有し、また増幅反応、とりわけポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を阻害しない新規な非対称シアニン色素に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医療、法医科学、産業プロセス処理、作物栽培及び家畜繁殖、並びに他の多くの分野の中核をなす。病状(例えば、癌)、感染性微生物(例えば、HIV)、遺伝子系統、遺伝子マーカー等を検出する能力は、疾患の診断及び予後診断、マーカー利用選抜、事件現場の特徴の正確な鑑識、産業生物を増殖させる能力、及び他の多くの技法のためのユビキタス技術である。対象とされる核酸の完全性の判定は、感染症又は癌の病理に関連し得る。少量の核酸を検出する最も有力かつ基本的な技術の1つは、核酸配列の一部又は全てを何度も複製し、その後、増幅産物を分析することである。PCRはおそらく、多数の様々な増幅技法の中で最もよく知られたものである。
【0003】
PCRは、DNAの短い区間を増幅する有力な技法である。PCRを用いれば、単一の鋳型DNA分子から始めて、何百万ものDNAのコピーを迅速に生成することができる。PCRは、DNAの1本鎖への変性と、変性させた鎖に対するプライマーのアニーリングと、耐熱性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長との3段階の温度サイクルを含む。このサイクルは、検出及び分析されるコピーが十分に存在するまで繰り返される。原則として、PCRの各サイクルはコピーの数を2倍にすることができると考えられる。実際のところ、各サイクル後に達成される増殖は常に2倍に満たない。さらに、PCRサイクルを続けると、必要な反応物質の濃度が減少するため、最終的に、増幅DNA産物の構築が停止する。PCRに関する包括的な詳細については、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3を参照されたい。
【0004】
リアルタイムPCRの開発が近年さかんに行われている。リアルタイムPCRとは、反応が進行するのに伴い(一般にPCR1サイクルにつき1回)増幅されたDNA産物の構築を測定する一連の技法を指す。経時的に産物の蓄積をモニタリングすることにより、反応の効率を判定すると共に、鋳型DNA分子の初期濃度を推定することが可能である。リアルタイムPCRに関するhttp://techterm.astamuse.com/ja/全般的?from=patent_techterm包括的な詳細については、非特許文献4を参照されたい。
【0005】
融解曲線分析は、核酸を分析するのに重要な技法である。この方法では、2本の鎖が結合しているか又はしていないかを示す色素の存在下で、2本鎖核酸を変性させる。このような指示色素としては、色素が2本鎖DNAに結合しているか否かによってその蛍光収率が大きく左右される、SYBR(登録商標)Green I等の非特異的結合色素が挙げられる。混合物の温度を上げると、色素由来の蛍光が低減することにより、核酸分子が、部分的に又は完全に融解した、すなわち、その2本鎖がほどかれた(unzipped)ことが示される。それゆえ、温度に応じて色素蛍光を測定することによって、二重鎖の長さ、GC含量、又はさらには、正確な配列に関する情報が得られる。例えば、Ririe et al.(非特許文献5)、Wittwer et al.(非特許文献6)、Liew et al.(非特許文献7)、Herrmann et al.(非特許文献8)、Knapp et al.(特許文献1)、Wittwer et al.(特許文献2)、Wittwer et al.(特許文献3)、Wittwer et al.(特許文献4)及びSundberg et al.(特許文献5)を参照されたい。
【0006】
非対称シアニン色素は、核酸及びタンパク質の染色に用いられてきた色素の一群である。RNA及び/又はDNAに結合するように用いられるさらなる非対称シアニン色素も開発されている。例えば、Lee et al.(特許文献6)、Lee et al.(特許文献7)、Yue et al.(特許文献8)、Wittwer et al.(特許文献3)、Wittwer et al.(特許文献4)、Haugland et al.(特許文献9)、Yamamoto et al.(特許文献10)、Yue et al.(特許文献11)、Mizukami et al.(特許文献12)、Bieniarz et al.(特許文献13)、Glazer et al.(特許文献14)、Lee et al.(特許文献15)、Kubista et al.(特許文献16)、Deka et al.(特許文献17)、及びHaugland et al.(特許文献18)を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0197630号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0233335号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0019253号
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0020672号
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0026421号
【特許文献6】米国特許第4,883,867号
【特許文献7】米国特許第4,937,198号
【特許文献8】米国特許第5,321,130号
【特許文献9】米国特許第5,436,134号
【特許文献10】米国特許第5,563,070号
【特許文献11】米国特許第5,658,751号
【特許文献12】米国特許第6,004,816号
【特許文献13】米国特許第6,015,902号
【特許文献14】米国特許第6,054,272号
【特許文献15】米国特許第6,080,868号
【特許文献16】米国特許第6,329,144号
【特許文献17】米国特許第6,368,864号
【特許文献18】米国特許第6,664,047号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sambrook and Russell, Molecular Cloning -- A Laboratory Manual (3rd Ed.), Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (2000)
【非特許文献2】Current Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (2005年に追補)
【非特許文献3】PCR Protocols A Guide to Methods and Applications , M. A. Innis et al., eds., Academic Press Inc. San Diego, Calif. (1990)
【非特許文献4】Real-Time PCR: An Essential Guide, K. Edwards et al., eds., Horizon Bioscience, Norwich, U.K. (2004)
【非特許文献5】Anal Biochem 245: 154-160, 1997
【非特許文献6】Clin Chem 49: 853-860, 2003
【非特許文献7】Clin Chem 50: 1156-1164 (2004)
【非特許文献8】Clin Chem 52: 494-503, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既知の非対称シアニン色素に関する問題が幾つか存在する。例えば、或る特定の非対称シアニン色素はPCR反応を損なわせるおそれがある。他の非対称シアニン色素は核酸との結合が弱いという問題がある。さらに他の非対称シアニン色素は、PCR反応を損なわせると共に、核酸に弱くしか結合しない。非対称シアニン色素のこれらの及び他の欠点はいまだ存在している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、新規な非対称シアニン色素、及び係る色素の存在下で核酸分析を実施する方法に関する。より詳細には、本発明は、2本鎖核酸に対する高い親和性を有し、また増幅反応、とりわけポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を阻害しない新規な非対称シアニン色素に関する。
【0011】
それゆえ、第一の態様では、本発明は新規な非対称シアニン色素を提供する。一実施の形態では、非対称シアニン色素は、式I
【化1】


(式中、
Aは、
【化2】


又は
【化3】


(式中、
XはO又はSであり、
、R、R、R、R、R及びRは独立して水素、ハロゲン、チオール、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたポリアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたポリアルキニル、任意に置換されたチオアルキル、任意に置換されたアミノアルキル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール、及び任意に置換されたアリールアルキルであり、
及び/又はRは、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びており、
及び/又はR及び/又はR及び/又はR及び/又はRは、R、R、R、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びている)
である)
の化合物である。
【0012】
アルキルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ1個〜12個の炭素を含有し得る。アルコキシは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ1個〜12個の炭素を含有し得る。アルケニルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ2個〜12個の炭素を含有し得る。アルキニルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ2個〜12個の炭素を含有し得る。ポリアルケニルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ4個〜12個の炭素を含有し得る。ポリアルキニルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ4個〜12個の炭素を含有し得る。チオアルキルは直鎖又は分岐鎖であり得る、1個〜12個の炭素を含有し得る、かつアルキル基を介して親分子に繋がる。アミノアルキルは直鎖又は分岐鎖で含有し得る、1個〜12個の炭素を含有し得る、かつアルキル基を介して親分子に繋がる。アリールは約6個〜約14個の炭素原子を含む芳香族の単環式又は多環式環系であり得る。ヘテロアリールは約5個〜約14個の環原子を含む芳香族の単環式又は多環式環系であり得る、ここで1つ又は複数の環原子は、単独又は組み合わせで、炭素ではない元素、例えば、窒素、酸素又は硫黄である。アリールアルキル中のアルキルは直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ1個〜12個の炭素を含有し得る。アリールアルキルは、アルキル基を介して親分子と繋がる。
【0013】
任意の置換基は、例えば1つ又は複数の置換基、それぞれ独立してハロゲン(halo)、ヒドロキシル、アミノ、チオール、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、ハロシクロアルキル、アルコキシ、シクロアルコキシ、ハロアルコキシ、アルキルアミノジアルキル、アルキルアミノトリアルキル、アルキルチオ、ハロアルキル、シクロアルキル、アリールカルボニル、アリールスルホニル、任意に置換されたヘテロシクリル及びカルボキシル誘導体(カルボン酸、エステル、及びアミド等)、又は本明細書中に記載される他の置換基が挙げられ得る。ヘテロシクリルは約3個から約10個の環原子を含む芳香族ではない飽和単環式又は多環式環系であり得る、ここで環系中の1つ又は複数の原子は、単独又は組み合わせで、炭素ではない元素、例えば、窒素、酸素又は硫黄である。
【0014】
一実施の形態ではR及びR上、又はR、R、R、R及びR上の正電荷(複数可)は、自然の構成において正電荷を有する非対称のシアニン色素上の置換基に起因する。別の実施の形態では、R及びR上、又はR、R、R、R及びR上の正電荷(複数可)は、ポリメラーゼ連鎖反応等の増幅反応が行われるpHで正電荷を有する置換基(単数又は複数)に起因する。
【0015】
一実施の形態では、Aは式IIの構造を有する。実施の形態によっては、Rが、アリール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、アルコキシで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されたアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、チオール、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである。
【0016】
別の実施の形態では、Aは式IIIの構造を有する。実施の形態によっては、Rが、水素、メチル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、アリール、チオール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されたアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、ハロゲン、アルキル、アリール又はジアルキルアミノで置換されたアルコキシで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである。
【0017】
第2の態様において、本発明は、本発明の新規な非対称シアニン色素の存在下で核酸分析を実施する方法を提供する。一実施の形態において、本方法は、本発明の非対称シアニン色素を、標的核酸と標的核酸を増幅するように構成される1つ又は複数のプライマーとを含む試料と混合する工程と、非対称シアニン色素の存在下で標的核酸を増幅する工程と、非対称シアニン色素の蛍光をモニタリングする工程とを含む。別の実施の形態では、モニタリング工程が、増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む。さらなる実施の形態では、標的核酸が一塩基多型を含む。付加的な実施の形態において、本方法は、モニタリングされた蛍光に基づき遺伝子型を同定することをさらに含む。一実施の形態では、遺伝子型が融解曲線に基づき同定される。別の実施の形態では、増幅及びモニタリングをマイクロ流体チャネルにおいて行う。一実施の形態において、モニタリング工程を増幅工程中に行う。別の実施の形態では、モニタリング工程を増幅工程に続いて行う。さらなる実施の形態では、モニタリングを増幅工程中及び増幅工程に続いて行う。一実施の形態において、増幅工程に続くモニタリング工程は、増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、複数の実施形態を有し、また当業者に既知の詳細については特許、特許出願及び他の引用文献に依拠する。したがって、特許、特許出願又は他の引用文献を本明細書中で引用する又は繰り返す場合、あらゆる目的でまた記載される陳述についてその全体が参照により援用されることを理解されたい。
【0019】
本発明の実施は、他に指定のない限り、当業者の範囲内である、有機化学、高分子技術、分子生物学(組み換え技法を含む)、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技法及び記述を採用し得る。このような従来の技法としては、ポリマーアレイ合成、ハイブリダイゼーション、ライゲーション、及び標識を用いたハイブリダイゼーションの検出が挙げられる。好適な技法の具体例は以下の本明細書中の実施例を参照してもたらされ得る。しかしながら、他の等価な従来の手法も当然のことながら使用することができる。このような従来の技法及び記述は、Genome Analysis: A Laboratory Manual Series (Vols. I-IV)(Antibodies: A Laboratory Manual、Cells: A Laboratory Manual、PCR Primer: A Laboratory Manual及びMolecular Cloning: A Laboratory Manualを使用)(全てCold Spring Harbor Laboratory Press出版)、Stryer, L. (1995) Biochemistry (4th Ed.) Freeman, N.Y., Gait, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, 1984, IRL Press, London、Nelson and Cox (2000), Lehninger, Principles of Biochemistry 3rd Ed., W.H. Freeman Pub., New York, N.Y.、並びにBerg et al. (2002) Biochemistry, 5th Ed., W.H. Freeman Pub., New York, N.Y.(あらゆる目的でその全体が参照により本明細書中に援用される)等の基本的な手引書に見ることができる。
【0020】
本発明は、新規な非対称シアニン色素、及び係る色素の存在下で核酸分析を実施する方法に関する。より詳細には、本発明は、2本鎖核酸に対する高い親和性を有し、また増幅反応、とりわけポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を阻害しない新規な非対称シアニン色素に関する。
【0021】
それゆえ、一態様では、本発明は、新規の非対称シアニン色素を提供する。一実施形態では、非対称シアニン色素は、式I:
【化4】


(式中、
Aは、
【化5】


又は
【化6】


(式中、
XはO又はSであり、
、R、R、R、R、R及びRは独立して水素、ハロゲン、チオール、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたチオアルキル、任意に置換されたアミノアルキル、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたポリアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたポリアルキニル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール、任意に置換されたアリールアルキル、及び任意に置換されたヘテロアリールアルキルであり、
及び/又はRは、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びており、
及び/又はR及び/又はR及び/又はR及び/又はRは、R、R、R、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びている)
である)
の化合物である。
【0022】
「アルキル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ鎖状の約1個から約12個、好ましくは鎖状の約1個から約8個の炭素原子を含む脂肪族炭化水素基を意味する。分岐鎖は、例えばメチル、エチル又はプロピルのような1つ又は複数の低級アルキル基が、直線状のアルキル鎖に付いていることを意味する。「低級アルキル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る鎖状の約1個から約5個の炭素原子を有する基を意味する。「アルキル」は、置換されていないか、又は任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0023】
「アルケニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ鎖状の約2個から約12個、好ましくは鎖状の約2個から約8個の鎖状の炭素原子を含む、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する脂肪族炭化水素基を意味する。分岐鎖は、例えばメチル、エチル又はプロピルのような1つ又は複数の低級アルキル基が、直線状のアルケニル鎖に付いていることを意味する。「低級アルケニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る鎖状の約2個から約5個の炭素原子を意味する。「アルケニル」は、置換されていないか、又は任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0024】
「アルキニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ鎖状の約2個から約12個、好ましくは鎖状の約2個から約8個の炭素原子を含む、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する脂肪族炭化水素基を意味する。分岐鎖は、例えばメチル、エチル又はプロピルのような1つ又は複数の低級アルキル基が、直線状のアルキニル鎖に付いていることを意味する。「低級アルキニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る鎖状の約2個から約5個の鎖状の炭素原子を意味する。「アルキニル」は、置換されていないか、又は任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0025】
「アリール」は約6個から約14個の炭素原子、好ましくは約6個から約10個の炭素原子を含む芳香族の単環式又は多環式環系を意味する。アリール基は、任意に、1つ又は複数の同じ又は異なっていてもよい置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。好適なアリール基の非限定的な例は、例えば、フェニル及びナフチルが挙げられる。
【0026】
「ヘテロアリール」は約5個から約14個の環原子、好ましくは約5個から約10個の環原子を含む芳香族の単環式又は多環式環系を意味する、ここで1つ又は複数の環原子は、単独又は組み合わせで、炭素ではない元素、例えば窒素、酸素又は硫黄である。「ヘテロアリール」は、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。好適なヘテロアリールの非限定的な例としては、ピリジル、ピラジニル、フラニル、チエニル、ピリミジニル、ピリドン(N置換ピリドン類を含む)、イソキサゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピラゾリル、フラザニル、ピロリル、ピラゾリル、トリアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、ピラジニル、ピリダジニル、キノキサリニル、フタラジニル、オキシインドリル、イミダゾ[1,2−a]ピリジニル、イミダゾ[2,1−b]チアゾリル、ベンゾフラザニル、インドリル、アザインドリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチエニル、キノリニル、イミダゾリル、チエノピリジル、キナゾリニル、チエノピリミジル、ピロロピリジル、イミダゾピリジル、イソキノリニル、ベンゾアザインドリル、1,2,4−トリアジニル、ベンゾチアゾリル等が挙げられる。「ヘテロアリール」という用語はまた、例えば、テトラヒドロイソキノリル、テトラヒドロキノリル等のような部分的に飽和したヘテロアリール部も示す。
【0027】
「アリールアルキル」はアリール−アルキル基を意味する。ここでアリール及びアルキルは上で説明したとおりである。親部位への結合はアルキルを介する。
【0028】
「シクロアルキル」は、約3個から約10個の炭素原子を含む、芳香族ではない単環式又は多環式環系を意味する。シクロアルキルは、任意に1つ又は複数の同じ又は異なっていてもよい置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0029】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を意味する。
【0030】
「ヘテロアリールアルキル」は、ヘテロアリール−アルキル基を意味する。ここでヘテロアリール及びアルキルは上で説明したとおりである。親部位との結合はアルキルを介する。
【0031】
「ヘテロシクリル」は約3個から約10個の環原子、好ましくは約5個から約10個の環原子からなる、芳香族ではない飽和単環式又は多環式環系を意味する。ここで環系中の1つ又は複数の原子は、単独又は組み合わせで、炭素ではない元素、例えば窒素、酸素又は硫黄である。ヘテロシクリルは、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。好適な単環式ヘテロシクリル環の非限定的な例としては、ピペリジル、ピロリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チアゾリジニル、1,4−ジオキサニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ラクタム、ラクトン等が挙げられる。「ヘテロシクリル」は、また、環系の同じ炭素原子上にある2つの置換可能な水素が同時に置換されている単一の部分(例えばカルボニル)も意味する。
【0032】
「アルコキシ」はアルキル−O−基を意味する。ここでアルキル基は、上で説明したとおりである。アルコキシは、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。好適なアルコキシ基の非限定的な例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ及びn−ブトキシ等が挙げられる。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0033】
「アリールオキシ」はアリール−O−基を意味する。ここでアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0034】
「アリールアルコキシ」はアリールアルキル−O−基を意味する。ここでアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0035】
「シクロアルキルオキシ」はシクロアルキル−O−基を意味する。ここでシクロアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0036】
「ヘテロアリールオキシ」はヘテロアリール−O−基を意味する。ここでヘテロアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0037】
「ヘテロアリールアルキルオキシ」はヘテロアリールアルキル−O−基を意味する。ここでヘテロアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はエーテル酸素を介する。
【0038】
「アルキルチオ」はアルキル−S−基を意味する。ここでアルキルチオ基は、上で説明したとおりである。アルキルチオは、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換され得る(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。好適なアルキルチオ基の非限定的な例としては、メチルチオ及びエチルチオが挙げられる。親部位への結合は硫黄を介する。
【0039】
「アリールチオ」はアリール−S−基を意味する。ここでアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合は硫黄を介する。
【0040】
「アリールアルキルチオ」はアリールアルキル−S−基を意味する。ここでアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合は硫黄を介する。
【0041】
「シクロアルキルチオ」はシクロアルキル−S−基を意味する。ここでシクロアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合は硫黄を介する。
【0042】
「ヘテロアリールチオ」はヘテロアリール−S−基を意味する。ここでヘテロアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合は硫黄を介する。
【0043】
「ヘテロアリールアルキルチオ」はヘテロアリールアルキル−S−基を意味する。ここでヘテロアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合は硫黄を介する。
【0044】
「アルキルカルボニル」はアルキル−C(O)−基を意味する。ここでアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0045】
「アリールカルボニル」はアリール−C(O)−基を意味する。ここでアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0046】
「アリールアルキルカルボニル」はアリールアルキル−C(O)−基を意味する。ここでアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0047】
「ヘテロアリールカルボニル」はヘテロアリール−C(O)−基を意味する。ここでヘテロアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0048】
「ヘテロアリールアルキルカルボニル」はヘテロアリールアルキル−C(O)−基を意味する。ここでヘテロアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0049】
「アルキルスルホニル」はアルキル−SO−基を意味する。ここでアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はスルホニルを介する。
【0050】
「アリールスルホニル」はアリール−SO−基を意味する。ここでアリールは、上で説明したとおりである。親部位への結合はスルホニルを介する。
【0051】
「アリールアルキルスルホニル」はアリールアルキル−SO−基を意味する。ここでアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はスルホニルを介する。
【0052】
「ヘテロアリールスルホニル」はヘテロアリール−SO−基を意味する。ここでヘテロアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はスルホニルを介する。
【0053】
「ヘテロアリールアルキルスルホニル」はヘテロアリールアルキル−SO−基を意味する。ここでヘテロアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はスルホニルを介する。
【0054】
「アルコキシカルボニル」はアルキル−O−C(O)−基を意味する。ここでアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0055】
「アリールオキシカルボニル」はアリール−O−C(O)−基を意味する。ここでアリール基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0056】
「アリールアルコキシカルボニル」はアラルキル−O−C(O)−基を意味する。ここでアリールアルキル基は、上で説明したとおりである。親部位への結合はカルボニルを介する。
【0057】
「ヒドロキシアルキル」はHO−アルキル−基を意味する。ここでアルキルは、上で定義したとおりである。親部位への結合はアルキルを介する。
【0058】
「アミノアルキル」はNH−アルキル基を意味する。ここでアルキルは上で定義したとおりである。親部位との結合はアルキル基を介する。アミノアルキル上での置換は、アルキル水素及び/又はアミン水素で起こり得る。
【0059】
「ポリアルケニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ鎖状の約4個から約12個、好ましくは約4個から約8個の炭素原子を含む、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を含有する脂肪族炭化水素基を意味する。分岐鎖は、例えば1つ又は複数の、メsチル、エチル若しくはプロピルのような低級アルキル基、又は低級アルケニル基が、直線状のアルケニル鎖に付いていることを意味する。「ポリアルケニル」は、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0060】
「ポリアルキニル」は、直鎖又は分岐鎖であり得る、かつ鎖状の約4個から約12個、好ましくは約4個から約8個の炭素原子を含む、少なくとも2つの炭素−炭素三重結合を含有する脂肪族炭化水素基を意味する。分岐鎖は、例えばメチル、エチル若しくはプロピルのような1つ又は複数の低級アルキル基、又は低級アルキニル基が、直線状のアルキニル鎖に付いていることを意味する。「ポリアルキニル」は、任意に、同じ又は異なっていてもよい1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい(各置換基は独立して、本明細書中に記載される置換基から選択される)。
【0061】
「置換基」はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、チオール、アルキル、アルケニル、ポリアルケニル、アルキニル、ポリアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ハロアルキル、ハロアルケニル、シクロアルキル、ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルコキシ、シクロアルキルオキシ、ハロアルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アリールアルコキシカルボニル、ヘテロアリールオキシカルボニル、ヘテロアリールアルコキシカルボニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アリールアルキルスルホニル、ヘテロアリールスルホニル、ヘテロアリールアルキルスルホニル、アルキルチオ、シクロアルキルチオ、アリールチオ、ヘテロアリールチオ、アリールアルキルチオ、ヘテロアリールアルキルチオ、−NHY、−NY又は−N+(ここで、Y、Y及びYは同じ又は異なっており、それぞれが本明細書中に記載されるようなアルキルである)を意味する。
【0062】
「置換された」とは、指定の原子上の1つ又は複数の水素を、示した基から選択されるものと置き換えることを意味するが、但し、現状における指定の原子の正常な原子価を超えることなく、また、置換によって安定な化合物がもたらされる。置換基及び/又は変動要素の組合せは、このような組合せによって安定な化合物がもたらされる場合にのみ許容可能である。「安定な化合物」又は「安定な構造」とは、反応混合物からの有用な純度での単離、及び本明細書中に記載されるような使用に耐えるように十分に堅牢である化合物を意味する。
【0063】
「任意に置換された」とは、特定の基、ラジカル又は部位による任意の置換を意味する。
【0064】
当然のことながら、本明細書中に記載の非対称シアニン色素は、キラル中心を含有していてもよい。そのような場合、他に指定のない限り、立体異性体全てが、これらのシアニン色素構造の説明に含まれると理解される。このような立体異性体としては、純粋な光学活性異性体、ラセミ混合物、及び任意の相対量の1つ又は複数の立体異性体配置を含有するジアステレオマーの混合物が挙げられる。
【0065】
また当然のことながら、本明細書中に記載の非対称シアニン色素が、幾何学的中心を含有していてもよい。そのような場合、他に指定のない限り、幾何異性体全てが、シアニン色素構造の説明に含まれると理解される。このような幾何異性体としては、幾何配置の純粋な型、又は様々な混合物のいずれかの、シス異性体、トランス異性体、E異性体及びZ異性体が挙げられる。また、シアニン色素の構造に含まれる二重結合の性質に応じて、係る二重結合異性体が、シスとトランスとの間、又はEと、溶媒組成、溶媒極性、イオン強度等の条件に応じた構成との間で相互に交換し得ることが理解される。
【0066】
さらに当然のことながら、本明細書中に記載の非対称シアニン色素のベンズアゾリウム(benzazolium)部分上の正電荷が1であり、本明細書中に記載の非対称シアニン色素のプリニウム(purinium)部分又はキナゾリニウム(quinazolinium)部分(protion)上の正電荷が1〜3であることによって、係る互変異性体の混合物を含む、式Iの化合物の幾つかの互変異性体が存在し得る。例示的に、電荷は、式Iに示されるように窒素原子上に、若しくは2つのヘテロ環に結合する、アルキレンリンカーを形成する炭素原子の1つの上に形式的に局在化していてもよく、又は代替的に、電荷は、プリニウム若しくはキナゾリニウムのヘテロ環上に局在化していてもよい。式Iの荷電化合物の互変異性体は、式Iの化合物の二重結合−単結合構成の配置を入れ替えることによって示され得る。本明細書中に記載の非対称シアニン色素としては、幾つかの見込まれる互変異性体、又はそれらの互変異性体の様々な平衡混合物のいずれもが挙げられる。形式電荷の位置は、色素の部位の性質の影響を受けることが理解される。さらに、好まれる互変異性体又は互変異性体の平衡混合物は、溶媒組成、溶媒極性、イオン強度、配合等の条件に応じて決定され得ることが理解される。「共鳴構造」という用語も、これらの様々な電荷の局在を指し、かつ上記に例示される式について同様に示されるものであることが理解される。
【0067】
また、式Iの化合物が正味電荷を帯びているため、式Iのこれらの化合物は対イオンを付随することが理解される。任意の一価、二価又は多価の対イオンが、本明細書中に包含されるシアニン色素構造の説明に含まれる。例示的な対イオンとしては、負に帯電した対イオン、例えば、ヨウ化物、塩化物、臭化物、水酸化物、酸化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、一リン酸塩、二リン酸塩、三リン酸塩等が挙げられる。このような対イオンは、使用される合成方法、精製プロトコル、又は他のイオン交換プロセスに起因し得る。
【0068】
対イオンの性質及びタイプは、本明細書中に記載のシアニン色素の機能性に影響するようにはみえないと考えられる。当然のことながら、本明細書中に記載の色素を、溶媒又はPCR等の増幅反応を実施するのに用いられる他の媒体に溶解する場合、付随する対イオンが、溶媒又は他の媒体中に存在する他の対イオンと交換されてもよい。このような付加的な対イオンは、溶媒イオン、塩、バッファ及び/又は金属であってもよい。
【0069】
本明細書中の内容、スキーム、実施例及び表における、原子価が充足されていない任意の炭素及びヘテロ原子は、原子価を充足するのに十分な数の水素原子(複数可)を有することを前提としていることに留意されたい。加えて、互変異性体形態が、本発明の或る特定の実施形態では等価であるとみなされることも留意されたい。
【0070】
一実施形態において、R及び/若しくはR上、又はR及び/若しくはR及び/若しくはR及び/若しくはR及び/若しくはR上の正電荷(複数可)は、自然の構成において正電荷を有する非対称シアニン色素上の置換基に起因する。別の実施形態では、R及び/若しくはR上、又はR及び/若しくはR及び/若しくはR及び/若しくはR及び/若しくはR上の正電荷(複数可)は、ポリメラーゼ連鎖反応等の増幅反応が行われるpHで正電荷を有する置換基(単数又は複数)に起因する。
【0071】
一実施形態において、Aは式IIの構造を有する。実施形態によっては、Rが、アリール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、アルコキシで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、チオール、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである。
【0072】
別の実施形態では、Aが式IIIの構造を有する。実施形態によっては、Rが、水素、メチル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、アリール、チオール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又はジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、Rが、水素、アルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである。
【0073】
本発明の非対称シアニン色素は、分子のベンズアゾリウム部分を、メチン基(−C(H)=)を介してプリニウム部分又はキナゾリニウム部分に結合させる一般的な方法によって、調製することができる。本明細書中に記載の非対称シアニン色素の合成では、式Iの化合物を生成するような前駆体の組合せを使用する。例えば、ベンズアゾリウム前駆体は式IVの化合物であり、
【化7】


これは、式Vのプリニウム化合物
【化8】


、又は式VIのキナゾリニウム化合物
【化9】


(式中、B又はDの一方はメチルであり、B又はDのもう一方は、典型的にはメチルチオ、メチルスルホニル又はクロロである反応性脱離基であるが、反応を完了させるのに十分な反応性をもたらす如何なる脱離基であってもよい)と反応する。
【0074】
これらの前駆体を調製及び化合するのに必要とされる化学的性質は、当業者により十分に理解されている(例えば、特許文献7;Neiman et al., Israel J Chem 3: 161 (1965);Brooker et al., J Am Chem Soc 67: 1889 (1945);Brooker et al., J Am Chem Soc 64: 199 (1942))。例えば、ベンズアゾリウム部分は、当該技術分野で既知の技法(例えば、Brooker et al., J Am Chem Soc 64: 199 (1942))により調製してもよく、又は商業的に入手してもよい。プリニウム部分又はキナゾリニウム部分は、当該技術分野で既知の技法により調製することができる。典型的に、プリニウム部分については6(メチル)プリン又は6(メチルチオ)プリン、又はキナゾリニウム部分については任意に置換された4(メチル)キナゾリン又は任意に4(メチルチオ)キナゾリンを、好適なアルキル化剤、例えば、R−Z、R−Z又はR−Z(式中、R、R及びRは、前述の通りであり、Zは電気陰性基である)を用いて親ヘテロ環をアルキル化する等の従来の技法によって、ベンズアゾリウム部分と化合させる前にアルキル化する。電気陰性基は典型的に、ヨウ化物、メタンスルホン酸塩、硫酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸塩、又はp−トルエンスルホン酸塩であるが、反応を完了させるのに十分な反応性をもたらす如何なる電気陰性基であってもよい。
【0075】
第2の態様において、本発明は、本発明の新規な非対称シアニン色素の存在下で核酸分析を実施する方法を提供する。一実施形態において、本方法は、本発明の非対称シアニン色素を、標的核酸と標的核酸を増幅するように構成される1つ又は複数のプライマーとを含む試料と混合する工程と、非対称シアニン色素の存在下で標的核酸を増幅する工程と、非対称シアニン色素の蛍光をモニタリングする工程とを含む。別の実施形態では、モニタリング工程が、増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む。さらなる実施形態では、標的核酸が一塩基多型を含む。付加的な実施形態において、本方法は、モニタリングされた蛍光に基づき遺伝子型を同定することをさらに含む。一実施形態では、遺伝子型が融解曲線に基づき同定される。別の実施形態では、増幅及びモニタリングをマイクロ流体チャネルにおいて行う。一実施形態では、モニタリング工程を増幅工程中に行う。別の実施形態では、モニタリング工程を増幅工程に続いて行う。さらなる実施形態では、モニタリングを増幅工程中及び増幅工程に続いて行う。一実施形態において、増幅工程に続くモニタリング工程は、増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む。
【0076】
核酸分析のこのような様々な実施形態は、当該技術分野で既知の技法において、用いられる色素の代わりに本発明の新規な非対称シアニン色素を代用することによって、実施される。例えば、本発明の色素を用いた融解分析は、Knight et al.(米国特許出願公開第2007/0231799号)、Knapp et al.(特許文献1)、Wittwer et al.(特許文献2)、Wittwer et al.(特許文献3)、Wittwer et al.(特許文献4)及びSundberg et al.(特許文献5)により記載されているような、機器又はマイクロチャンネルにおいて実施することができる。本発明の色素を用いた核酸の増幅は、Knight et al.(米国特許出願公開第2007/0231799号)、Hasson et al.(米国特許出願公開第2008/0003588号)、Hasson et al.(米国特許出願公開第2008/0130971号)、Owen et al.(米国特許出願公開第2008/0176230号)、Wittwer et al.(特許文献4)、及びSundberg et al.(特許文献5)に記載されているような、機器又はマイクロチャンネルにおいて実施することができる。核酸の増幅及び各段階中のモニタリングによる融解分析は、Knight et al.(米国特許出願公開第2007/0231799号)、Hasson et al.(米国特許出願公開第2008/0130971号)、及びOwen et al.(米国特許出願公開第2008/0176230号)により記載されているような、機器又はマイクロチャンネルにおいて実施することができる。本発明の色素は、これまでに指定した公開された米国特許出願に記載されているような、マルチプレックス反応のための他の既知の色素と併せて使用してもよい。これらの技法は、特定の核酸の有無の同定、一塩基多型の存在の同定、遺伝子型の同定、ホモ接合体及びヘテロ接合体の識別、核酸の遺伝子型判定、突然変異の検出等を決定するのに有用である。
【実施例】
【0077】
実例としてもたらされ、また本発明を何ら限定するよう意図されるものでない以下の実施例を参照して本発明を説明する。当該技術分野で既知の基本的な技法、又は以下で詳細に説明する技法を利用した。
【0078】
実施例1
プリニウムをベースとした新たな色素S1(4)の合成
1. 2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]p−トルエンスルホン酸塩(1)の合成
丸底フラスコに、50mlのCHCl溶媒に溶解した1.33gの2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール(Sigma)及び1.9gのp−トルエンスルホニルクロリドを充填する。混合物を40℃の油浴中で1時間加熱する。白色の結晶性固体が溶液から析出する。結晶性固体は、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]p−トルエンスルホン酸塩(1)である。
【0079】
2. 3−{2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]}−6−(メチルチオ)プリン(2)の合成
5.74gの2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]p−トルエンスルホン酸塩(1)、3.7gの6(メチルチオ)プリン(sigma製)、及び20mlのジメチルホルミド(dimethylformide)を、丸底フラスコ内で混合し、110℃の油浴中で3時間加熱する。冷却後、10mlの水を溶液に添加し、その後、20mlのベンジル酢酸塩で3回抽出して、未反応の出発試薬を除去する。水溶液のpHを、NaOHを添加して11に調整する。未反応の出発原料である白色の固体結晶性物質が溶液から析出する。この結晶性の未反応出発原料を除去した後、溶液のpHを14に調整する。2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]−6−(メチルチオ)プリン(2)である白色の結晶性固体が溶液から析出する。
【0080】
3. 3−{2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]}7−メチル−6−(メチルチオ)プリン(3)の合成
丸底フラスコ内で、3.1gの3−{2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]}−6−(メチルチオ)プリン(2)を、溶媒中で1.9gのp−トルエンスルホン酸メチルと混合する。混合物を100℃の油浴中で2時間加熱する。溶液を冷やし、アセトン及びエーテルで洗浄する。白色の非晶質固体物質が有機洗浄液から析出する。固体は3−{2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]}7−メチル−6−(メチルチオ)プリン(3)である。
【0081】
4. 構造(4)のプリニウムをベースとした新たな色素S1の合成
丸底フラスコ内で、3.0gの−{2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]}7−メチル−6−(メチルチオ)プリン(3)を、1.4gの2,3−ジメチルベンゾチアゾリウムヨージド(Sigma)、20mlのメタノール、及び0.5mlのトリエチルアミンと混合する。混合物を1時間還流させる。冷却後、混合物を濾過し、メタノール及び酢酸ベンジルで洗浄して、上記に挙げた化合物を黄色みがかった橙色の固体として生成する。新たな色素の合成をスキーム1に示す。
【化10】





【0082】
実施例2〜実施例13
プリニウムをベースとした新たな色素の合成
表1に示される置換基を有する、下記式を有するプリニウムをベースとした色素を、好適な出発原料を用いて実施例1の新たな色素と同様に合成する。R及び/又はRは、(ポリメラーゼ連鎖反応のpH(典型的にはおよそ7〜8)で正電荷を有すると考えられる。
【化11】

【表1】







【0083】
実施例14
キナゾリニウムをベースとした新たな色素S9(5)の合成
工程2で6(メチルチオ)プリンの代わりに4(メチルチオ)キナゾリンを使用する以外は実施例1の工程(1)、工程(2)及び工程(4)と同様に新たなキナゾリニウム色素S9を調製すると、構造5の色素が得られる。
【化12】

【0084】
実施例15〜実施例26
キナゾリニウムをベースとした新たな色素の合成
表2から表4に示される置換基を有する、下記式を有する色素を、適切な出発原料を用いて実施例14の色素と同様に合成する。R及び/又はR及び/又はR及び/又はR及び/又はRは、ポリメラーゼ連鎖反応のpH(典型的にはおよそ7〜8)で正電荷を有すると考えられる。
【化13】


【表2】




【表3】

【表4】

【0085】
本発明を説明する文脈における(中でも、別添の特許請求の範囲の文脈における)「1つの(”a” and ”an”)」及び「前記/該(”the”)」という用語並びに類似の指示語の使用は、本明細書中に他に指定されるか又は文脈により明らかに否定されない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈される。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「挙げられる(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、特に断りのない限り、非限定(open-ended:オープンエンド)用語(すなわち、「挙げられる(含まれる)が、これらに限定されない」を意味する)として解釈される。本明細書中の値の範囲の記述は、本明細書中に他に指定のない限り、この範囲内にある各別個の値について個々に言及する省略方法として機能するよう意図されるものに過ぎず、各別個の値は、それが本明細書中に個々に記述されているかのように本明細書中に盛り込まれる。それゆえ例えば、範囲10〜15を開示する場合には、11、12、13及び14も開示される。本明細書中に記載の方法は全て、本明細書中に他に指定のない限り又は文脈により明らかに否定されない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書中に提示されるありとあらゆる例又は例示的な言葉(例えば「等(such as)」)の使用は、他に主張のない限り、単に本発明をより良く明白にする(illuminate)ように意図されるものに過ぎず、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書中の言葉は、特許請求がされていない任意の要素を本発明の実施に不可欠なものとして示すものとは解釈されるべきでない。
【0086】
当然のことながら、本発明の方法及び組成は、様々な実施形態の形で組み込むことができ、そのほんの一部が本明細書中に開示されているに過ぎない。それらの実施形態の変形形態は、上述の説明を読めば当業者には明らかになり得る。本発明者らは、熟練者がこのような変形形態を必要に応じて採用するものと見込んでおり、また本発明者らは、本明細書中に詳細に記載したものとは別の方法で本発明が実施されることを意図している。したがって、本発明は、適用法により認められるような、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の変更形態及び均等物を全て含む。その上、本明細書中に他に指定のない限り又は文脈により明らかに否定されない限り、その全ての可能な変形形態における上記要素の任意の組合せが本発明により網羅される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称シアニン色素であって、式I
【化1】

(式中、
Aは、
【化2】

又は
【化3】

(式中、
XはO又はSであり、
、R、R、R、R、R及びRは独立して水素、ハロゲン、チオール、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたポリアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたポリアルキニル、任意に置換されたチオアルキル、任意に置換されたアミノアルキル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール、及び任意に置換されたアリールアルキルであり、
及び/又はRは、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びており、
及び/又はR及び/又はR及び/又はR及び/又はRは、R、R、R、R及びR上の正電荷(複数可)の合計が1、2又は3となるように、1つ又は複数の正電荷を帯びている)
である)
を有する、非対称シアニン色素。
【請求項2】
Aが、
【化4】

である、請求項1に記載の非対称シアニン色素。
【請求項3】
Aが、
【化5】

である、請求項1に記載の非対称シアニン色素。
【請求項4】
が、水素、アルキル、チオール、トリアルキルアミノで置換されたアルキル又はアルコキシで置換されたアルキルである、請求項2に記載の非対称シアニン色素。
【請求項5】
が、アリール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、アルコキシで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルである、請求項2に記載の非対称シアニン色素。
【請求項6】
が、アリール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、アルコキシで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、
が、水素、アルキル、チオール、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである、請求項2に記載の非対称シアニン色素。
【請求項7】
が、水素、メチル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項8】
が、水素、アルキル、アリール、チオール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項9】
が、水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又はジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項10】
が、水素、アルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項11】
が、水素、アルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項12】
が、水素、メチル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、
が、水素、アルキル、アリール、チオール、ジアルキルアミノで置換されたアルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、ジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、
が、水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又はジアルキルアミノで置換されるアルコキシで置換されたアルキルであり、
が、水素、アルキル、トリアルキルアミノで置換されたアルキル、又はN置換ヘテロシクリルで置換されたアルキルであり、
が、水素、アルキル、又はアルコキシで置換されたアルキルである、請求項3に記載の非対称シアニン色素。
【請求項13】
1つ又は複数の正電荷が天然の色素中に存在する、請求項1に記載の非対称シアニン色素。
【請求項14】
1つ又は複数の正電荷が増幅反応のpHで色素中に存在する、請求項1に記載の非対称シアニン色素。
【請求項15】
核酸分析の方法であって、
請求項1に記載の非対称シアニン色素を、標的核酸と該標的核酸を増幅するように構成される1つ又は複数のプライマーとを含む試料と混合する工程と、
前記非対称シアニン色素の存在下で前記標的核酸を増幅する工程と、
前記非対称シアニン色素の蛍光をモニタリングする工程とを含む、核酸分析の方法。
【請求項16】
前記モニタリング工程が、前記増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的核酸が一塩基多型を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記モニタリングされた蛍光に基づき遺伝子型を同定することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記融解曲線に基づき遺伝子型を同定することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記増幅及びモニタリングをマイクロ流体チャネルにおいて行う、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記モニタリング工程を前記増幅工程中に行う、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記モニタリング工程を前記増幅工程に続いて行う、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記モニタリングを前記増幅工程中及び該増幅工程に続いて行う、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記増幅工程に続く前記モニタリング工程が、前記増幅された標的核酸を融解して融解曲線を作成することを含む、請求項23に記載の方法。

【公表番号】特表2012−514211(P2012−514211A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544502(P2011−544502)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/069211
【国際公開番号】WO2010/078154
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(507028217)キヤノン ユー.エス. ライフ サイエンシズ, インコーポレイテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】CANON U.S. LIFE SCIENCES, INC.
【住所又は居所原語表記】9800 Medical Center Drive Suite A−100 Rockville,Maryland 20850 U.S.A.
【Fターム(参考)】