説明

高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法および高電圧機器用絶縁材料

【課題】 層間挿入法による有機化処理を実施することなく、エポキシ樹脂に層状粘土鉱物を均一分散することが可能であり、環境負荷を低減することのできる方法に対するニーズが存在する。
【解決手段】 (a)層状粘土鉱物を水、水系混合溶媒のうちいずれか一方で膨潤させて層状粘土鉱物分散液を得る工程と、(b)前記層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加えて層状粘土鉱物表面を有機官能化し、有機官能化層状粘土鉱物分散液を得る工程と、(c)前記有機官能化層状粘土鉱物分散液に、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒を加えて混練する工程とを含む、高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法および高電圧機器用絶縁材料に関する。
【背景技術】
【0002】
開閉装置などの送変電機器に代表される高電圧機器は、主回路導体や遮断器、断路器などの電気機器を筐体内に配置したものであり、導体同士や導体と対地間を遮断する絶縁層を具備している。
【0003】
このような送変電機器における絶縁層は、電気絶縁能や機械的強度、環境負荷等を考慮し、熱硬化性エポキシ樹脂をベースとした注型用材料により形成されている。
【0004】
そのような注型用材料として、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、シリカ等の無機充填剤および層状粘土鉱物を含むエポキシ樹脂組成物が知られている。層状粘土鉱物は、これをエポキシ樹脂中に均一に分散させると、硬化物の機械的特性や熱安定性を著しく向上させる。例えば、スメクタイト等に代表される層状粘土鉱物はアスペクト比が大きく、均一分散させた複合材料は、絶縁破壊強さや耐熱性の指標となるガラス転移温度が向上する。
【0005】
しかしながら、層状粘土鉱物は本来、層間に親水性を示すアルカリ金属を含み、また結晶表面に水酸基を有するため、水などの特定の極性溶媒に対しては優れた親和性を示し、高度に膨潤するが、有機溶媒やエポキシ樹脂等の有機物質に対する親和性は乏しい。そのためエポキシ樹脂中に層状粘土鉱物を直接添加した場合、粘土鉱物の層同士が強く相互作用して大きな凝集構造が樹脂マトリクス中に生成し、この大きな凝集体が破壊の起点となって機械的強度の著しい低下を引き起こすという問題がある。この問題を解決するために層間挿入法によりエポキシ樹脂と層状粘土鉱物との親和性を向上させる手法が広く用いられている。
【0006】
層間挿入法とは、層状粘土鉱物の層間に含まれる親水性を有するアルカリ金属などの無機カチオンをイオン交換反応により親油性の有機カチオンに置換する方法で、有機化処理法とも呼ばれる。層間挿入法により有機化処理された層状粘土鉱物は、エポキシ樹脂等の樹脂に対して親和性を示すため、マトリクスとなる樹脂中に直接層状粘土鉱物を加えて混練することにより、層状粘土鉱物が層間剥離し、剥離した各層は樹脂中に均一分散し得る。また、有機化処理された層状粘土鉱物は有機溶媒に対しても親和性を示すため、これを有機溶媒で膨潤させた後、エポキシ樹脂と混練することにより層状粘土鉱物がより均一に分散した樹脂マトリクス構造を形成することが可能になる。
【0007】
しかし、有機化処理剤として用いられる有機カチオンはイオン交換の際、イオン交換率を高めるために、層状粘土鉱物のイオン交換能より過剰な有機カチオンを投入するため、層間に挿入されていない有機カチオンが残存することになる。この有機カチオンは、エポキシ樹脂の反応を促進する作用を持つ。したがって、余剰な有機カチオンを洗浄により除去する工程が必須である。しかし、当該除去工程には、副資材として大量の洗浄用溶媒(有機溶媒)が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−93956号公報
【特許文献2】特開2005−251543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した通り、層間挿入法による層状粘土鉱物の有機化処理は、余剰な有機化処理剤の除去ならびに脱水および乾燥が必要であるために多くの副資材(有機溶媒)とエネルギーが必要であり、環境に対して大きな負荷がかかるという問題があった。また、製造時間および工程数が増加するため工業的に最適な方法とはいえない。
【0010】
さらに、有機変性した層状粘土鉱物を有機溶媒で膨潤させ、樹脂と混練する方法では、再度膨潤溶液を用いて樹脂を分散させた後で溶媒を除去することが必要となり、洗浄溶媒や膨潤溶媒などの副資源を大量に使用することとなり、環境負荷の大きな製造方法である。
【0011】
従って、このような問題に対処し、層間挿入法による有機化処理を実施することなく、エポキシ樹脂に層状粘土鉱物を均一分散することが可能であり、環境負荷を低減することのできる方法に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態によれば、(a)層状粘土鉱物を水、水系混合溶媒のうちいずれか一方で膨潤させて層状粘土鉱物分散液を得る工程と、(b)前記層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加えて層状粘土鉱物表面を有機官能化し、有機官能化層状粘土鉱物分散液を得る工程と、(c)前記有機官能化層状粘土鉱物分散液に、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒を加えて混練する工程とを含む、高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法を模式的に示す図。
【図2】天然の層状粘土鉱物と実施例1の有機官能化層状粘土鉱物の29SiNMRスペクトル。
【図3】図2に示した29SiNMRスペクトルの各ピークに対応する結合状態を模式的に示す図。
【図4】実施例1および比較例1で作製した硬化物の貯蔵弾性率とガラス転移温度を示すグラフ。
【図5】実施例1で作製した硬化物の透過型電子顕微鏡写真を示す図。
【図6】実施例2および比較例2で作製した硬化物の絶縁破壊強さの測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について説明する。
【0015】
実施形態に係る高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法は、
(a)層状粘土鉱物を水、水系混合溶媒のうちいずれか一方で膨潤させて層状粘土鉱物分散液を得る工程と、
(b)前記層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加えて層状粘土鉱物表面を有機官能化し、有機官能化層状粘土鉱物分散液を得る工程と、
(c)前記有機官能化層状粘土鉱物分散液に、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒を加えて混練する工程と
を含む。
【0016】
上記製造方法について、(a)〜(c)の各工程に従って以下に説明する。
【0017】
<工程(a)>
工程(a)では、層状粘土鉱物を水、水系混合溶媒のうちいずれか一方で膨潤させ、層状粘土鉱物分散液を得る。
【0018】
層状粘土鉱物としては、例えばスメクタイト族、マイカ族、バーミキュライト族、から選択される少なくとも1種が挙げられる。スメクタイト族に属する層状粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトが挙げられる。マイカ族に属する層状粘土鉱物としては、例えばクロライト、フロゴパイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカが挙げられる。バーミキュライト族に属する層状粘土鉱物としては、例えばトリオクタヘドラルバーミキュライト、ジオクタヘドラルバーミキュライトが挙げられる。これらのうち、エポキシ樹脂への分散性等の点からスメクタイト族に属する層状粘土鉱物を用いることが望ましい。これらの層状粘土鉱物は単独で、または2種類以上の混合物として使用することができる。
【0019】
層状粘土鉱物の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して1〜50重量部の範囲とすることが好ましい。エポキシ樹脂100重量部に対して1重量部未満であると、機械的および電気的特性に与える影響が非常に小さい。また50重量部を超えると、粘土鉱物間の距離が非常に近くなり、凝集体を形成し機械的強度の低下を引き起こす可能性がある。
【0020】
層状粘土鉱物の一次粒径は、500nm以下とすることが好ましい。500nmを超えると、層状粘土鉱物のアスペクト比が非常に大きくなるため樹脂が増粘し、注型作業に悪影響を与える。
【0021】
層状粘土鉱物を膨潤させる溶媒としては、層状粘土鉱物の膨潤性およびシランカップリング剤との反応性を考慮して、水または水/アルコール混合溶媒を用いることが好ましい。水/アルコール混合溶媒の場合、アルコールの割合は、水100重量部に対して70重量部以下が好ましい。アルコールの割合が70重量部を越える場合、層状粘土鉱物の膨潤性が低下するため、シランカップリング処理が均一に施されず、マトリクス中で層状粘土鉱物の分散性が低下する。
【0022】
層状粘土鉱物分散液の濃度は、後述するシランカップリング剤との反応を考慮して1〜30重量%以下が好ましい。30重量%を超える場合、粘度が高くなりすぎて、反応が均一に進まない。また、1重量%未満の場合、製造できる樹脂組成物の量が少ない。
【0023】
<工程(b)>
工程(a)で得られた層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加えて層状粘土鉱物表面を有機官能化し、有機官能化層状粘土鉱物分散液を得る。
【0024】
シランカップリング剤としては例えば、下記式(I)で表わされるものが用いられる。
【0025】
−Si−Y4−n(I)
式中、nは1〜3である。
Xは、加水分解性基または水酸基であり、例えば炭素数1〜8のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)、炭素数3〜8のアルケニルオキシ基(例えばイソプロペノキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシム基など)、炭素数3〜8のケトオキシム基(ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基など)、炭素数2〜8のアルキルオキシ基(アセトキシ基、プロピオノキシ基、ブチロイロキシ基、ベンォイルオキシム基など)、アミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基など)、アミノキシ基(ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基など)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子など)などである。これらの中で炭素数1〜4のアルコキシ基が反応性の点から好ましい。Xが複数個存在する場合、それらは互いに異なっていてもよい。
Yは、炭素数1〜25の炭化水素基であって置換基を有していても良い。当該置換基としては、エポキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、メルカプト基、ビニル基、メタクリル基、スフィド基、水酸基、ハロゲン原子などである。Yが複数個存在する場合、それらは互いに異なっていてもよい。
【0026】
シランカップリング剤は例えば、γ−グリシドオキシ-プロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピル-トリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシランなどが挙げられる。
【0027】
シランカップリング剤の使用割合は、層状粘土鉱物の重量に対して、0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。シランカップリング剤の割合が10重量%を超える場合、シランカップリング剤同士が隣接するため自己重合が起こりやすくなり、層状粘土鉱物と反応するシランカップリング剤量が減少する可能性がある。また0.1重量%未満の場合、シランカップリング処理される層状粘土鉱物の端面の水酸基の数が少なく、均一分散させるだけのマトリクス樹脂との親和性が向上されない。
【0028】
シランカップリング剤は、例えば以下のようにして層状粘土鉱物に結合させることができる。工程(a)で得られた層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加え、60℃で反応させて層状粘土鉱物に結合させることにより層状粘土鉱物を有機官能化することができる。シランカップリング剤と層状粘土鉱物との結合状態は、NMRから得られるスペクトルのピークシフトにより確認できる。
【0029】
<工程(c)>
工程(b)で得られた有機官能化層状粘土鉱物分散液に、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒を加えて混練する。
【0030】
エポキシ樹脂としては、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が用いられてよい。エポキシ樹脂は例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノール類などの多価アルコールとの縮合により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、エピクロルヒドリンとカルボン酸の縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシド樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダントイン類との反応により得られるヒダトイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂等であり、これらは単独または2種類以上の混合物として使用される。
【0031】
エポキシ樹脂と相溶な有機溶媒は、エポキシ樹脂と有機官能化層状粘土鉱物分散液との親和性を向上させる。エポキシ樹脂と相溶な有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、ケトン類が好ましい。芳香族炭化水素類は例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンである。ケトン類は例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンである。
【0032】
有機官能化層状粘土鉱物分散液とエポキシ樹脂は、例えば以下のようにして混練される。まず有機官能化層状粘土鉱物分散液中にエポキシを加え、60℃で30〜2時間攪拌する。その後、脱溶媒工程にて全溶媒の除去を行い、高電圧機器用絶縁樹脂組成物を作製する。
【0033】
この工程では、エポキシ樹脂を加えた後溶媒除去前に、さらに無機フィラーを加えて混練してもよい。アルミや銅からなる金属導体をモールドする注型用材料は、金属と樹脂の線膨張率が大きく異なるため、硬化時に剥離が生じることが多い。そこで、無機フィラーを混合することにより、樹脂の線膨張率を低下させアルミまたは銅の線膨張率に近づけている。さらに無機フィラーはビーズミルの役割を果たすため、層状粘土鉱物のさらなる分散性向上を図ることができる。
【0034】
無機フィラーとしては、シリカまたはアルミナが好ましく、その粒子径は1〜100 μmが望ましい。1μm未満では樹脂粘度が著しく増加するため、注型作業が困難になり、硬化物のボイドやヒケの原因となる。また100μmを超えると、充填可能な無機フィラー量が低下するため、十分な基礎特性が得られない。
【0035】
無機フィラーの充填量はエポキシ樹脂100重量部に対し、50〜500重量部であることが好ましい。50重量部未満では無機フィラーのビーズミル効果が小さく、分散性の向上が期待できない。また500重量部を超えると、樹脂の粘度が上昇し、注型作業が困難になることに加え、硬化物の靭性が低下し、材料として脆くなる。
【0036】
有機官能化層状粘土鉱物分散液とエポキシ樹脂と無機フィラーは、例えば以下のようにして混練される。有機官能化層状粘土鉱物分散液にエポキシ樹脂を加え、60℃で30分〜2時間攪拌する。その後無機フィラーを加えて同様の条件で加熱混合した後、脱溶媒工程にて溶媒の除去を行う。
【0037】
図1は、実施形態に係る高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法について示したものである。攪拌機2を備えた反応容器1の中に水または水系混合溶媒3、層状粘土鉱物4、およびシランカップリング剤4を入れ攪拌することにより、層状粘土鉱物を有機官能化する。その後、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒(図示せず)を加えて混練する。さらに必要に応じて無機フィラー(図示せず)を加えて混練する。上記製造方法によれば、工程(a)〜(c)までのすべての工程を1つの反応容器中で行うことが可能である。
【0038】
上記エポキシ樹脂はエポキシ樹脂用硬化剤により硬化されてよい。エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹と化学反応してエポキシ樹脂を硬化させ得るものであれば、その種類は特に限定されない。エポキシ樹脂用硬化剤としては例えば、アミン系硬化剤、酸無水系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、フェノール系硬化剤、ルイス酸系硬化剤、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。
【0039】
上記したアミン系硬化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、ジプロプレンジアミン、ポリエーテルジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチル)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)へキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロへキサン、N -アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、m−キシレンジアミン、メタフェニレ
ンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエ
チルジフェニルメタン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジドが挙げられる。
【0040】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、例えばドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸
無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル
酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタ
ル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシク
ロへキセンジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット
酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセ
ロールトリストリメリテート、無水ヘット酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ナジック
酸、無水メチルナジック酸、無水ポリアゼライン酸が挙げられる。
【0041】
イミダゾール系硬化剤の具体例としては、例えば2−メチルイミダゾール、2−エチル
−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールが挙げられる。また、ポリメ
ルカプタン系硬化剤の具体例としては、例えばポリサルファイド、チオエステルが挙げら
れる。
【0042】
ポリメルカプタン系硬化剤の具体例としては、ポリオキシプロピレンポリ2ーハイドロオキシチオール、リモネンジハイドロオキシチオール、ビスフェノールA型ジハイドロオキシチオール、ビスフェノールF型ジハイドロオキシチオール等のエーテル型ポリメルカプタン類やフタル酸エステル型ジメルカプタン、トリメチロールプロパンポリメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールポリメルカプトプロピオネート等のエステル型ポリメルカプタン等が挙げられる。フェノール系硬化剤の具体例としては、カテコ−ル、ビスフェノ−ルF、ビスフェノ−ルA等の2価フェノール類、フェノ−ルノボラック類、クレゾ−ルノボラック類、ビスフェノ−ルAノボラック化物類等の多価フェノール類が挙げられる。
【0043】
ルイス酸系硬化剤の具体例としては、BF、BCl、TiCl、SnCl、SnCl、ZnBr、ZnCl、AlCl、AlBr、SiCl、FeCl等のルイス酸と、モノエチルアミン、n−ヘキシルアミン、ベンジルアミン、トリエチルアミン、アニリン、ピペリジン等のアミン化合物との錯体等が挙げられる。
【0044】
イソシアネート系硬化剤の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族系イソシアネートが挙げられる。
【0045】
上述した硬化剤はいずれも単独もしくは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0046】
エポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、使用した硬化剤の種類等に応じて有効量の範囲内で適宜設定されるが、一般的にはエポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、2分の1当量〜2当量の範囲とすることが好ましい。硬化剤の配合量がエポキシ当量に対して2分の1当量未満であると、エポキシ樹脂の硬化反応を十分に生起することができないおそれがある。一方、硬化剤の配合量がエポキシ当量に対して2当量を超えると、絶縁樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)の硬化物の耐熱性等の基礎物性が低下する。
【0047】
さらに、エポキシ樹脂用硬化剤と併用して、エポキシ樹脂の硬化反応を促進あるいは制御するエポキシ樹脂用硬化促進剤を使用してもよい。特に、酸無水物系硬化剤を使用した場合、その硬化反応はアミン系硬化剤等の他の硬化剤と比較して遅いため、エポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することが多い。酸無水物系硬化剤用の硬化促進剤としては、三級アミンまたはその塩、四級アンモニウム化合物、イミダゾール、アルカリ金属アルコキシド等を用いることが好ましい。
【0048】
また、本実施形態に係る製造方法により製造された高電圧機器用絶縁樹脂組成物の硬化物は、高電圧機器用絶縁材料として用いることができる。
【0049】
さらに、前記高圧機器用絶縁材料は、高電圧電流を流す導体と絶縁物を含む高電圧機器用構造体における絶縁物の構成材料として用いることができる。前記絶縁物は、前記導体と対地または他の部材との間を遮断する絶縁物および/または前記導体を絶縁支持する絶縁物が含まれる。
【実施例】
【0050】
次に、具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0051】
(実施例1)
メタノール20重量%を含む水/メタノール混合溶媒に、層状粘土鉱物(クニミネ工業社製クレイ、クニピアF)を加えて攪拌し、層状粘土鉱物を膨潤および剥離させた濃度5重量%の層状粘土鉱物分散液を準備した。この層状粘土鉱物分散液に、シランカップリング剤であるZ−6040(東レ・ダウコーニング社製)をクレイの重量に対して3重量%加え、60℃で4時間加熱および混合した後、アセトンとトルエンをメタノールと同量加え、30分攪拌した。その後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)100重量部を加えて60℃にて30分間攪拌した後、脱溶媒した。脱溶媒後の水分量は0.06ppmであった。次いで、これを3本ロールミル混合機(井上製作所社製、S−43/4×11)に5回以上通過させ、混練し、層状粘土鉱物分散樹脂を得た。
【0052】
得られた層状粘土鉱物分散樹脂に、酸無水物系硬化剤86重量部とアミン系硬化剤促進剤1重量部からなる混合物を加えて混練した後、100℃、5mbarにて15分間真空混合を行った。その後、100℃で3時間一次硬化させ、150℃で15時間二次硬化させ、65mm×3mm×1mmの試験片を作製した。
【0053】
(実施例2)
メタノール20重量%を含む水/メタノール混合溶媒に層状粘土鉱物(クニミネ工業社製クレイ、クニピアF)を加えて攪拌し、膨潤および剥離させた濃度5重量%の層状粘土鉱物分散液を得た。この層状粘土鉱物分散液に、シランカップリング剤であるZ−6040(東レ・ダウコーニング社製)をクレイの重量に対して3重量%加え、60℃で4時間加熱および混合した後、アセトンとトルエンをメタノールと同量加え、30分攪拌した。その後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)100重量部を加えて60℃にて30分間攪拌した。その後、さらに無機フィラーとして粒子径約20μmのシリカ粒子を120重量部加えて攪拌しながら脱溶媒して層状粘土鉱物分散樹脂を得た。脱溶媒後の水分量は0.06ppmであった。
【0054】
得られた層状粘土鉱物分散樹脂に、酸無水物系硬化剤86重量部とアミン系硬化剤促進剤1重量部と前記シリカ粒子230重量部とからなる混合物を加えて混練した後、100℃、5mbarにて15分間真空混合を行った。実施例1と同様の条件で一次硬化および二次硬化を行い、同様の試験片を作製した。
【0055】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、酸無水物系硬化剤86重量部とアミン系硬化促進剤1重量部からなる混合物を加え、混練した後、100℃、5mbarにて15分間真空混合を行った。実施例1と同様の条件で一次硬化および二次硬化を行い、同様の試験片を作製した。
【0056】
(比較例2)
エポキシ樹脂100重量部とシリカ粒子(粒子径約20μm)120重量部との混合物に、酸無水物系硬化剤86重量部とアミン系硬化促進剤1重量部と前記シリカ粒子230重量部との混合物を加えて混練した後、100℃、5mbarにて15分間真空混合を行った。実施例1と同様の条件で一次硬化および二次硬化を行い、同様の試験片を作製した。
【0057】
実施例1および2ならびに比較例1および2で得られた樹脂組成物および試験片について以下の方法により評価した。
【0058】
29SiNMRによる有機官能化層状粘土鉱物の同定>
シランカップリング剤と層状粘土鉱物との反応を確認するため、日本電子社製、JMN−ECA400を用いてNMR測定を行った。実施例1に記載の条件でシランカップリング処理した後、エポキシ樹脂投入前に回収した層状粘土鉱物分散液をメタノール、アセトン、トルエンによりこの順番で洗浄し、遠心分離により沈降した層状粘土鉱物を回収し、十分に乾燥させたものをサンプルとして用いた。測定核は29Siとし、交差分極マジックスピニング法(CP/MAS:コンタクトタイム1 ms、90°パルス2.8 ms)により測定した。
【0059】
測定により得られた29SiNMRスペクトルを図2に、また29SiNMRスペクトルの各ピークに対応する結合状態を図3に模式的に示す。シランカップリング処理前の層状粘土鉱物は−92ppmに図3に示すQ1サイトと考えられるピークが見られたが、シランカップリング処理をした層状粘土鉱物については、−96.8および−102ppmにそれぞれQ2およびQ3サイトと考えられるピークが見られた。このことから、シランカップリング剤が層状粘土鉱物に化学的に結合したことが確認された。
【0060】
<動的粘弾性測定における機械的特性評価>
各実施例において得られた65mm×3mm×1mmの各試験片について、オリエンテック社製、RHEOVIBRONを用いて動的粘弾測定を行った。測定周波数1Hz、昇温速度2℃/min、引っ張りモードにて測定した。実施例1および比較例1の試験片について得られた結果を図4に示す。
【0061】
図4において曲線aおよびcはそれぞれ、実施例1および比較例1で得られた樹脂組成物の温度に対する貯蔵弾性率E’の変化を示す。また曲線bおよびdはそれぞれ、実施例1および比較例1で得られた樹脂組成物の温度に対するエネルギー吸収性の指標tanδの変化を示し、この曲線のピークに対応する温度がガラス転移温度である。
【0062】
これらの曲線から、比較例1および実施例1のガラス転移温度はそれぞれ160℃および162℃であり、層状粘土鉱物を分散させたことによりわずかではあるがガラス転移温度が上昇したことが確認された。また貯蔵弾性率は、ガラス状態(ガラス転移前)で約20%、ゴム状態(ガラス転移後)で約50%増加することが確認された。
【0063】
<透過型電子顕微鏡(TEM)による分散形態の観察>
実施例1で得られた層状粘土鉱物樹脂の硬化物における層状粘土鉱物の分散状態を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立社製、H−7100:加速電圧100kV)を用いて観察した。結果を図5に示す。
【0064】
図5のTEM写真から、実施例1の層状粘土鉱物樹脂組成物において、層状粘土鉱物の凝集体のサイズは数10nm程度のものが最も多く、層状粘土鉱物は分散していることがわかった。一方、層状粘土鉱物の層間距離は大部分が1〜2nm程度であり、シランカップリング処理をしていない天然の層状粘土鉱物の層間距離(約1nm)とほぼ同じであり、層間距離がほとんど広がっていないことが確認された。このことから、シランカップリング剤は層状粘土鉱物間に挿入されているのではなく、層状粘土鉱物端面の水酸基と化学的に結合することによって分散性に寄与していることがわかった。
【0065】
<耐電圧試験による電気的特性評価>
実施例2および比較例2で得られた層状粘土鉱物樹脂の硬化物の絶縁破壊強さを、球−平板電極を用いて昇圧速度0.6 kV/minで測定した。測定結果を図6に示す。
【0066】
図6から、層状粘土鉱物が分散した実施例2では、球電極と平板電極を用いた平等電界中での絶縁破壊強さが比較例2と比較して約8%向上していることが確認された。このことから、本実施例では層状粘土鉱物が均一に分散した構造を形成していることが確認された。
【0067】
これらの実施形態または実施例によれば、シランカップリング剤を層状粘土鉱物の端面に化学的に結合させることにより、エポキシに対してより均一に分散させることが可能になる。これは、従来の層間挿入法のように層間に有機化処理をして膨潤させ、エポキシ樹脂となじませる方法とは異なるものである。
【0068】
層間挿入法では、上述したように有機化処理剤を洗浄する必要であるだけでなく、エポキシに分散させる前に層状粘土鉱物を乾燥させ、その乾燥した固体を液状エポキシに分散させる必要があった。これらの洗浄工程および乾燥工程のため、処理が煩雑となっていた。
【0069】
これに対して、上記実施形態に係る製造方法によれば、有機化処理剤を洗浄により除去する必要がなく、途中に乾燥工程を経る必要がないため、処理が簡便であり、膨潤からエポキシとの混練までの全ての工程を連続的に同じ容器中で行うことができる。また、環境影響のある有機溶媒等の副資材の使用量を大幅に低減でき、工程の簡略化によりエネルギー使用量を抑制することができる。故に、優れた性能を有する材料を安価に提供することが可能である。
【0070】
また、従来用いられていた層間挿入法では、エポキシ樹脂との反応を回避するために層間にない未反応の余剰の有機カチオンが洗浄により除去されるが、層間に挿入されている有機カチオンもエポキシ樹脂と反応性があるため、貯蔵中に反応を起こして硬化し、ポットライフが短くなってしまうという問題があった。しかしながら、上記実施形態に係る製造方法によれば、上述のような有機カチオンを用いていないため、このような問題は起こらず、ポットライフを短縮させることなく貯蔵することが可能である。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1…反応容器
2…攪拌機
3…水または水系混合溶媒
4…層状粘土鉱物
5…シランカップリング剤
6…エポキシ樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)層状粘土鉱物を水、水系混合溶媒のうちいずれか一方で膨潤させて層状粘土鉱物分散液を得る工程と、
(b)前記層状粘土鉱物分散液にシランカップリング剤を加えて層状粘土鉱物表面を有機官能化し、有機官能化層状粘土鉱物分散液を得る工程と、
(c)前記有機官能化層状粘土鉱物分散液に、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂と相溶な有機溶媒を加えて混練する工程と
を含むことを特徴とする高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
工程(c)においてさらに無機フィラーを加えることを特徴とする請求項1に記載の高電圧機器用絶縁樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、前記層状粘土鉱物の重量に対して0.1〜10重量%用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤と前記層状粘土鉱物の表面の水酸基が化学結合を形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(c)で得られた混練物から溶媒を全て除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造される高電圧機器用絶縁樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の高電圧機器用絶縁樹脂組成物の硬化物からなる高電圧機器用絶縁材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−158622(P2012−158622A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17149(P2011−17149)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000104814)クニミネ工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】