黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜
【課題】深みのある黒真珠色塗膜を得る。
【解決手段】黒真珠色塗膜の形成方法は、鱗片状の鱗片状の酸化チタン化合物顔料または鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜10上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上に光吸収剤を含まないクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、ベース塗膜12とクリア塗膜14を焼き付けて硬化させる焼き付け工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光をクリア塗膜14上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する。
【解決手段】黒真珠色塗膜の形成方法は、鱗片状の鱗片状の酸化チタン化合物顔料または鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜10上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上に光吸収剤を含まないクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、ベース塗膜12とクリア塗膜14を焼き付けて硬化させる焼き付け工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光をクリア塗膜14上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜、特に、より漆黒性の高い、深みのある黒真珠色を表現可能な黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用や家電製品用の黒色塗装は、多数提案されており、その中には、高級感を漂わせる漆黒性の高い黒色塗装も提案されている。
【0003】
例えば、図12に示すように、黒中塗塗膜20上にマイカ等の光反射可能な鱗片状顔料を含有するパールベース塗膜26を形成し、このパールベース塗膜26の上にクリア塗膜24を形成することによって黒真珠の意匠を発現する塗膜形成方法も提案されている。
【0004】
なお、特許文献1には、普通の白色顔料である二酸化チタンは、樹脂の存在下で紫外線に暴露させると灰色になる傾向があることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−31359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図12に示すように塗膜を形成したとしても、黒真珠色は発現されるもののより深みのある、いわゆる漆黒性を有する黒真珠色の意匠を得ることはできなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、より漆黒性の高い、深みのある黒真珠色塗膜およびその黒真珠色塗膜を形成する黒真珠色塗膜の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の黒真珠色塗膜の形成方法は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)鱗片状の酸化チタン化合物顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上に光吸収剤を含まないクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光を前記クリア塗膜上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する黒真珠色塗膜の形成方法である。
【0010】
上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、ベース塗膜中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。一方、光吸収剤を含有しないクリア塗膜上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、ベース塗膜内に還元可能な光が到達し酸化チタン化合物が黒色化し、ベース塗膜中の顔料が黒色化する。その結果、ベース塗膜において、鱗片状の黒色顔料が緻密に高配向した深みのある漆黒感の高い黒真珠色塗膜が得られる。また、仮にクリア塗膜を透過して空気中の酸素が、クリア塗膜との境界面のベース塗膜に到達し、一旦還元された酸化チタン化合物が酸化され、ベース塗膜中の黒色顔料の一部が白色顔料に変わったとしても、黒色顔料はベース塗膜中に緻密に高配向しているため、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過していくことを抑制できる。したがって、ベース塗膜中に還元された状態の黒色顔料が安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、これにより、深みのある黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0011】
(2)上記(1)に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも前記中塗塗膜とベース塗膜とクリア塗膜とを焼き付ける焼付工程を有する。
【0012】
光照射前に焼付けを行うことによって、ベース塗膜中に存在する光照射で変性される可能性のある溶剤を塗膜中から除去することができ、さらにベース塗膜も硬化するので、ベース塗膜中の鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料がより緻密に高配向して固定される。その後、光吸収剤を含有しないクリア塗膜を形成し、このクリア塗膜上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、下層のベース塗膜にまでに還元可能な光が透過し、緻密に高配向した鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は黒色化する。さらに光照射前に焼付けを行うことにより、ベース塗膜中の黒色化した黒色顔料はより緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜を介して酸素がベース塗膜に到達したとしても、ベース塗膜の厚み方向に酸素が浸透していくことを阻止し、ベース塗膜中の黒色顔料のほとんどが酸化されずに黒色顔料として安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、その結果、漆黒性の高い黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記中塗塗膜は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜である。
【0014】
酸化チタン化合物を還元可能な光はベース塗膜を透過し、中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜に到達し、中塗塗膜中あるいは着色ベース塗膜中の顔料も黒色化する。これによって、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、鱗片状の酸化チタン顔料また鱗片状のチタン酸顔料である。
【0016】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在し、さらに、極薄の鱗片状のチタン酸顔料に光を照射して還元させ黒色化させることによって、ベース塗膜中に黒色顔料をより緻密で高配向させることができ、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができるとともに、緻密で高配向であるため、ベース塗膜の厚み方向への酸素透過を大幅に抑制することができ、その結果、安定したより深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0017】
(5)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の頃真珠色塗膜の形成方法において、前記鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料である。
【0018】
上記顔料も、ベース塗膜中に高配向に並べることにより、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過して行くことを抑制できるため、上述同様、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0019】
(6)請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線であり、前記光吸収剤は、紫外線吸収剤である。
【0020】
紫外線は、上記酸化チタン化合物のバンドギャップに合うエネルギー波長を有するため、酸化チタン化合物を還元することができ、その結果、酸化チタン化合物を黒色化することができる。また、クリア塗膜中に紫外線吸収剤を含有させないことによって、クリア塗膜上から紫外線を照射した場合、紫外線がクリア塗膜を透過してベース塗膜に到達し、ベース塗膜中の顔料を黒色化させることができる。
【0021】
本発明の黒真珠色塗膜は、以下の特徴を有する。
【0022】
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜である。
【0023】
また、照射光により還元され黒色化した黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含む黒真珠色塗膜である。
【0024】
黒色化した黒色鱗片状顔料が緻密に高配向し、さらに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくため、深みのある漆黒性の高い黒真珠色の塗膜となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、顔料の緻密な高配向により真珠意匠が得られるとともに、光照射による黒色化顔料の黒色発現により、漆黒性の高い黒真珠色の意匠が発現される。さらに、ベース塗膜において、クリア塗膜境界面から徐々に白色、灰色、黒色に色調が傾向変化するため、深み感のある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0027】
[黒真珠色塗膜の形成方法]
本発明の好適な実施の形態の黒真珠色塗膜の形成方法は、図1,図2,図3に示すように、鱗片状の酸化チタン化合物顔料または鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を図1に示す中塗塗膜10上あるいは図2に示す着色ベース塗膜11上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上に光吸収剤を含まないクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光をクリア塗膜14上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する。
【0028】
上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、ベース塗膜12中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。一方、光吸収剤を含有しないクリア塗膜14上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、ベース塗膜12内に還元可能な光が到達し酸化チタン化合物が黒色化し、ベース塗膜12中の顔料が黒色化する。このため、黒色化ベース塗膜16では、鱗片状の黒色顔料が緻密に高配向した状態になる。その結果、深みのある漆黒感の高い黒真珠色塗膜が得られる。また、仮にクリア塗膜14を透過して空気中の酸素(O2)が、クリア塗膜14との境界面の黒色化ベース塗膜16に到達し、一旦還元された酸化チタン化合物が酸化され、ベース塗膜12中の黒色顔料の一部が白色顔料に変わったとしても、黒色顔料は黒色化ベース塗膜16中に緻密に高配向しているため、黒色顔料のガスパリア性によって、酸素が黒色化ベース塗膜16の厚み方向に透過していくことは抑制される。したがって、黒色化ベース塗膜16中に還元された状態の黒色顔料が安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、これにより、深みのある黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0029】
また、好ましくは、クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも中塗塗膜10とベース塗膜12とクリア塗膜14とを焼き付ける焼付工程を有する。
【0030】
光照射前に焼き付けを行うことによって、ベース塗膜12中に存在する光照射で変性される可能性のある溶剤を塗膜中から除去することができ、さらにベース塗膜12も硬化するので、ベース塗膜12中の鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料がより緻密に高配向して固定される。その後、光吸収剤を含有しないクリア塗膜14を形成し、このクリア塗膜14上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、下層のベース塗膜12にまでに還元可能な光が透過し、緻密に高配向した鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は黒色化する。さらに光照射前に焼付けを行うことにより、黒色化ベース塗膜16中の黒色顔料はより緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜14を介して酸素が黒色化ベース塗膜16に到達したとしても、黒色顔料は黒色化ベース塗膜16の厚み方向に酸素が浸透していくことを阻止し、黒色化ベース塗膜16中の黒色顔料のほとんどが酸化されずに黒色顔料として安定して存在する。また、クリア塗膜14との境界面から黒色化ベース塗膜16の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくので、深みのあるより漆黒性の高い黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0031】
本実施の形態では、ベース塗膜12上にクリア塗膜を形成したのち、焼き付けを行うことが望ましく、すなわち、中塗塗膜10あるいは着色ベース塗膜11、ベース塗膜12、クリア塗膜14において、3コート2ベークが好ましい。ベース塗料が水性塗料の場合には、中塗塗装を行ったのち中塗塗膜10を焼き付け、次いでベース塗装を行った後ベース塗膜12をプレヒートし、さらにクリア塗装によりクリア塗膜14を形成し焼き付ける、3コート1プレヒート2ベークが望ましい。
【0032】
また、上記中塗塗膜10は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜であることがより好ましい。
【0033】
酸化チタン化合物を還元可能な光は、ベース塗膜12を透過し、さらに図1に示す中塗塗膜10あるいは図2に示す着色ベース塗膜11に到達し、中塗塗膜10中あるいは着色ベース塗膜11中の酸化チタン化合物顔料も還元し黒色化する。一方、黒色化ベース塗膜16中に黒色顔料が高配向で緻密に並んでいるのでガスバリア性が発現され、酸素は中塗塗膜10まで到達せず、その結果、図4に例示するように、中塗塗膜10の黒色化ベース塗膜16境界付近より深いところに存在する黒色化顔料は黒色のまま保持されるため、黒色化中塗り塗膜18となり、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。図2の構成についても同様に、着色ベース塗膜11の黒色化ベース塗膜16境界付近より深いところに存在する黒色化顔料は黒色のまま保持されるため、黒色化着色ベース塗膜となり、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0034】
上記酸化チタン化合物としては、Ti2O3,TiO2を含む酸化チタン、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなる群から選択される化合物が好ましい。
【0035】
そして、上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、Ti2O3,TiO2を含む鱗片状の酸化チタン顔料、または、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなるチタン酸顔料から選択される顔料である。
【0036】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在し、さらに、極薄の鱗片状のチタン酸顔料に光を照射して還元させ黒色化させることによって、ベース塗膜中に黒色顔料をより緻密で高配向させることができ、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができるとともに、緻密で高配向であるため、ベース塗膜の厚み方向への酸素透過を大幅に抑制することができ、その結果、安定したより深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0037】
また、上記酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料から選択される。
【0038】
上記顔料も、ベース塗膜中に高配向に並べることにより、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過して行くことを抑制できるため、上述同様、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0039】
さらに、上記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線である。紫外線は、上記酸化チタン化合物のバンドギャップに合うエネルギー波長を有する。したがって、上記酸化チタン化合物を還元することができる。例えば、酸化チタンの場合には、紫外線照射により次のような還元反応が生じる。
【0040】
(化1)
TiO2 →TiO2-x
Ti2O3 →Ti2-yO3-x
【0041】
上記還元反応により、酸化チタン化合物を黒色化する。ここで、紫外線は、200〜380nmの波長を有するものであり、還元度合いおよび黒色度合いに応じて、自然界に存在するUV−A(320〜380nm)、UV−B(280〜320nm)を用い、照射量を調整することが望ましい。黒色度合いは、クリア塗膜まで形成された積層塗膜において、L*a*b*表色系のL*値が72以下にすることが好ましく、より好ましくはL*値が71以下である。L*値を72以下にすることによって、漆黒感の高い黒真珠色感を得ることができる。紫外線の照度は200〜250W・s/m2が好ましく、その照射時間は30〜300分が好ましく、より好ましくは60〜250分である。
【0042】
また、光として上記紫外線を照射する場合、上記クリア塗膜には、光吸収剤である紫外線吸収剤は含ませない。クリア塗膜中に紫外線吸収剤を含有させないことによって、クリア塗膜上から紫外線を照射した場合、紫外線がクリア塗膜を透過してベース塗膜に到達し、ベース塗膜中の顔料を黒色化させることができる。
【0043】
また、ベース塗膜12を形成するベース塗料としては、溶剤系ベース塗料と水性ベース塗料とがある。そして、水性ベース塗料、特に熱硬化型水性塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有する。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基等の親水基と水酸基等の架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。一方、溶剤系ベース塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有する。
【0044】
また、ベース塗膜12は、水性ベース塗料を用いた場合には膜厚10〜15μmで塗装され、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、膜厚12〜18μmで塗装される。
【0045】
クリア塗膜14を形成するクリア塗料は、本実施の形態では無色透明の塗膜を形成可能な熱硬化性塗料が好ましく、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて、紫外線吸収剤等が含有されている。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなる。
【0046】
また、クリア塗膜14は、30〜50μmの膜厚で塗装される。
【0047】
上述したチタン酸顔料としては、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸を得ることができる。
【0048】
以下に、極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法の一例を図5を用いて説明する。
【0049】
層状チタン酸塩K0.8Li0.27Ti1.73O4を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより層状チタン酸(例えば、H1.07Ti1.73O4・nH2O)が得られる。この層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)が得られる。有機塩基性化合物としては、ジメチルエタノールアミン(DMEA)が望ましい。
【0050】
好ましくは、次いで、上記剥離ゾルに炭酸セシウムを添加して有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換し、遠心洗浄で過剰炭酸セシウムおよび生成アミン炭酸塩を除去し、さらに炭酸ガスのバブリングにより、チタン酸の中和ゾルを形成する。得られた薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)は、耐光性が向上する。
【0051】
得られた水性媒体分散液(剥離ゾル)の薄片状チタン酸は、図6に示すように、1枚約1nmのチタン酸が積層し、2〜50層チタン酸が積層された鱗片状チタン酸として得られる。この鱗片状チタン酸は、その厚みが最大でも50nm以下、好ましくは10〜50nmであり、鱗片状の長手方向の長さ(粒径)が15〜20μmである。この鱗片状のチタン酸の顔料は、上述した塗膜形成方法を用いることにより、ベース塗膜中で、図9に示すベース塗膜断面の走査電子顕微鏡写真のように、高配向で緻密に並ぶ。
【0052】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.73O3.9であり、平均長径15μmであった。
【0053】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散撹拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0054】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6kgに分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間撹拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0055】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、撹拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間撹拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みとともに除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液を長時間静置して固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0056】
本実施の形態において、上述した製造方法で得られた鱗片状のチタン酸顔料は、主に、図7に示すような厚さ50nmでその長手方向の長さ(粒径)が15μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は250〜400である。このように極薄の鱗片状チタン酸顔料は、他の顔料に比べ、超高アスペクト比であり、したがって、ベース塗膜中に高配向で緻密に並び、紫外線暴露により黒色化させることによって、漆黒感の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。また、極薄の鱗片状チタン酸顔料が、緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜から酸素がベース塗膜に透過してきても、クリア塗膜との境界面のベース塗膜にしか酸素が透過せず、ベース塗膜の厚み方向にほとんど酸素が到達せず、酸素による酸化を抑制することができ、その結果、黒色化した黒色顔料のままでベース塗膜に存在させることができる。
【0057】
また、鱗片状の酸化チタン顔料は、通常、厚さ10〜200nmでその長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は50〜3000である。
【0058】
また、アルミナ表面に酸化チタン膜が被覆された鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料は、図8に示すように、その厚みが400〜500nmであり、その長手方向の長さ(粒径)が約20μmであり、そのアスペクト比が40〜50である。また、マイカ表面に酸化チタン膜が被覆された鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料も、上記鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料と同様の厚み、粒径およびアスペクト比を有する。
【0059】
上記チタン酸顔料、酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料および酸化チタン化合物被覆マイカ顔料は、上記チタン酸顔料に比べ、その厚みが厚く、アスペクト比も小さいため、ベース塗膜中に配向性はチタン酸顔料より低くなるものの、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過していくことを抑制できる程度に緻密に配向している場合、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。なお、チタン酸顔料に比べ緻密性、配向性がやや劣るため、クリア塗膜から透過してくる酸素が黒色化ベース塗膜の厚み方向のやや深くところまで浸透する。これにより、クリア塗膜との境界面からやや深いところまでに存在するベース塗膜の黒色顔料は、酸化され白色化する。その結果、得られる黒真珠色塗膜の漆黒性はやや低下する傾向がある。
【0060】
ここで、上記酸化チタン顔料および酸化チタン被覆顔料における酸素による酸化反応は次の通りである。
【0061】
(化2)
TiO2-x →TiO2
Ti2-yO3-x →Ti2O3
この酸化反応によって、酸化された顔料は白色化する。
【0062】
また、上記鱗片状のチタン酸顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料および鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料は、上述のベース塗料に、含有率PWC(pigment wright content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されている。
【0063】
なお、上述したように、上記極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法では、層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゲル)が得られる。図10に示すように、この剥離ゾルに紫外線を照射して黒色化を行うことも想定されるが、剥離ゾル内に存在するアミン類が紫外線により変性して、剥離ゾル自体が黄変してしまい、良好な黒色顔料は得られない。
【0064】
また、上述したように、ベース塗膜上にクリア塗膜を形成した後に焼き付けを行う、又はベース塗膜を焼き付け硬化させた後にクリア塗膜を形成し焼き付けを行うことによって、チタン酸顔料を用いたベース塗料によって形成されたベース塗膜から、光変性を起こすアミン類を除去することができる。
【0065】
[黒真珠色塗膜]
本実施の形態の黒真珠色塗膜は、上述の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜であり、図1および図2に示すように、上述した鱗片状のチタン酸顔料、鱗片状の酸化チタン顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料を光、特に紫外線によって還元され黒色化された黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態の黒色化ベース塗膜16を有する黒真珠色塗膜である。
【0066】
黒色化した黒色鱗片状顔料が、黒色化ベース塗膜中に緻密に高配向しているため、漆黒感の高い黒真珠色の塗膜が得られるとともに、緻密に高配向した黒色鱗片状顔料により酸素透過が抑制され、黒色化ベース塗膜中の黒色鱗片状顔料は安定的に黒色で保持される。さらに、黒色化ベース塗膜中の黒色鱗片状顔料が酸素による酸化され、白色化したとしても、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくので、深み感が表現できる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の黒真珠色塗膜の形成方法について、実施例を用いて説明する。
【0068】
本実施例では、以下の塗料を用いた。すなわち、中塗塗料として、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とする塗料を用いた。また、ベース塗料として、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とし、上述した平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が15μmである鱗片状チタン酸顔料を含有率PWC20%で含有する塗料を用いた。さらに、クリア塗料として、アクリル樹脂・メラミン樹脂・酸アクリル樹脂/エポキシアクリル樹脂の2液型ウレタン樹脂からなる基材樹脂を含有する塗料を用いた。
【0069】
図3を用いて、本実施例の塗膜形成方法を説明する。まず、電着済みの鋼板に二酸化チタン顔料を含有する白中塗り塗料を膜厚35μmとなるように塗装し、最高到達温度140℃で18分間焼き付けを行った。あるいは、さらに着色ベース塗膜を35μmとなるように塗装し、140℃、18分間焼き付けを行った。次いで、鱗片状チタン酸顔料含有ベース塗料を、ベース塗料が水性ベース塗料である場合、膜厚13μmで塗装し、ベース塗料が溶剤系ベース塗料の場合には、膜厚15μmで塗装した。ここで、水性ベース塗料を用いた場合、最高到達温度80℃で10分間焼き付けを行い、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、フラッシュタイムを1分間設けた。ここで、フラッシュタイムとは、ベース塗料を塗布した後、クリア塗料を塗布するまでの時間をいう。その後、ベース塗膜上に膜厚35μmとなるように紫外線吸収剤を含まないクリア塗料を塗布し、最高到達温度140℃で18分間保持して焼き付けを行った。次に、クリア塗膜上に、紫外線を照度230W・s/m2で60〜250分間照射した。
【0070】
マルチアングル測色計「X−Rite MA68II」(X−Rite社製)を用い、入射角45°、受光角45°にてL*値を測定した結果を、図11に示す。図11に示すように、紫外線照射により紫外線がクリア塗膜を介してベース塗膜中の極薄鱗片状チタン酸顔料を黒色化し、さらに中塗塗膜中の二酸化チタン顔料をも黒色化してゆくため、L*値は、78から72まで低下し、後に71になった。ここで、L*値が低いほど、黒色が濃いことを示し、図11より、極めて漆黒性の高い黒真珠色塗膜が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜は、深みのある漆黒性の高い黒真珠色塗装を必要とする用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、例えば車両用塗膜、家電製品用塗膜の形成に供することができ、特に車両用塗膜としては、車両用部品、例えばインパネ、ドアノブなどの塗膜形成に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の一態様を説明する図である。
【図2】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の他の態様を説明する図である。
【図3】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の一態様の工程のフロー図である。
【図4】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に得られた積層塗膜の一例の断面図である。
【図5】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に供するチタン酸顔料の製造方法の一例を説明する図である。
【図6】本発明の黒真珠色塗膜に用いるチタン酸顔料とそのベース塗膜中の配向度合いを説明する図である。
【図7】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に用いるチタン酸顔料の一例を説明する図である。
【図8】酸化チタン被膜アルミナ顔料の一例を説明する図である。
【図9】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法を用いて形成されたチタン酸顔料含有ベース塗膜の断面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図10】チタン酸顔料製造工程の途中で得られるチタン酸剥離ゲルに紫外線照射した状態を説明する図である。
【図11】本実施例における紫外線照射時間と黒真珠色塗膜のL*値との関係を示すグラフである。
【図12】従来の黒真珠色塗膜の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
10 中塗塗膜、12 ベース塗膜、14 クリア塗膜、16 黒色化ベース塗膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜、特に、より漆黒性の高い、深みのある黒真珠色を表現可能な黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用や家電製品用の黒色塗装は、多数提案されており、その中には、高級感を漂わせる漆黒性の高い黒色塗装も提案されている。
【0003】
例えば、図12に示すように、黒中塗塗膜20上にマイカ等の光反射可能な鱗片状顔料を含有するパールベース塗膜26を形成し、このパールベース塗膜26の上にクリア塗膜24を形成することによって黒真珠の意匠を発現する塗膜形成方法も提案されている。
【0004】
なお、特許文献1には、普通の白色顔料である二酸化チタンは、樹脂の存在下で紫外線に暴露させると灰色になる傾向があることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−31359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図12に示すように塗膜を形成したとしても、黒真珠色は発現されるもののより深みのある、いわゆる漆黒性を有する黒真珠色の意匠を得ることはできなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、より漆黒性の高い、深みのある黒真珠色塗膜およびその黒真珠色塗膜を形成する黒真珠色塗膜の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の黒真珠色塗膜の形成方法は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)鱗片状の酸化チタン化合物顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上に光吸収剤を含まないクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光を前記クリア塗膜上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する黒真珠色塗膜の形成方法である。
【0010】
上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、ベース塗膜中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。一方、光吸収剤を含有しないクリア塗膜上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、ベース塗膜内に還元可能な光が到達し酸化チタン化合物が黒色化し、ベース塗膜中の顔料が黒色化する。その結果、ベース塗膜において、鱗片状の黒色顔料が緻密に高配向した深みのある漆黒感の高い黒真珠色塗膜が得られる。また、仮にクリア塗膜を透過して空気中の酸素が、クリア塗膜との境界面のベース塗膜に到達し、一旦還元された酸化チタン化合物が酸化され、ベース塗膜中の黒色顔料の一部が白色顔料に変わったとしても、黒色顔料はベース塗膜中に緻密に高配向しているため、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過していくことを抑制できる。したがって、ベース塗膜中に還元された状態の黒色顔料が安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、これにより、深みのある黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0011】
(2)上記(1)に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも前記中塗塗膜とベース塗膜とクリア塗膜とを焼き付ける焼付工程を有する。
【0012】
光照射前に焼付けを行うことによって、ベース塗膜中に存在する光照射で変性される可能性のある溶剤を塗膜中から除去することができ、さらにベース塗膜も硬化するので、ベース塗膜中の鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料がより緻密に高配向して固定される。その後、光吸収剤を含有しないクリア塗膜を形成し、このクリア塗膜上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、下層のベース塗膜にまでに還元可能な光が透過し、緻密に高配向した鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は黒色化する。さらに光照射前に焼付けを行うことにより、ベース塗膜中の黒色化した黒色顔料はより緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜を介して酸素がベース塗膜に到達したとしても、ベース塗膜の厚み方向に酸素が浸透していくことを阻止し、ベース塗膜中の黒色顔料のほとんどが酸化されずに黒色顔料として安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、その結果、漆黒性の高い黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記中塗塗膜は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜である。
【0014】
酸化チタン化合物を還元可能な光はベース塗膜を透過し、中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜に到達し、中塗塗膜中あるいは着色ベース塗膜中の顔料も黒色化する。これによって、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、鱗片状の酸化チタン顔料また鱗片状のチタン酸顔料である。
【0016】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在し、さらに、極薄の鱗片状のチタン酸顔料に光を照射して還元させ黒色化させることによって、ベース塗膜中に黒色顔料をより緻密で高配向させることができ、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができるとともに、緻密で高配向であるため、ベース塗膜の厚み方向への酸素透過を大幅に抑制することができ、その結果、安定したより深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0017】
(5)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の頃真珠色塗膜の形成方法において、前記鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料である。
【0018】
上記顔料も、ベース塗膜中に高配向に並べることにより、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過して行くことを抑制できるため、上述同様、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0019】
(6)請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、前記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線であり、前記光吸収剤は、紫外線吸収剤である。
【0020】
紫外線は、上記酸化チタン化合物のバンドギャップに合うエネルギー波長を有するため、酸化チタン化合物を還元することができ、その結果、酸化チタン化合物を黒色化することができる。また、クリア塗膜中に紫外線吸収剤を含有させないことによって、クリア塗膜上から紫外線を照射した場合、紫外線がクリア塗膜を透過してベース塗膜に到達し、ベース塗膜中の顔料を黒色化させることができる。
【0021】
本発明の黒真珠色塗膜は、以下の特徴を有する。
【0022】
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜である。
【0023】
また、照射光により還元され黒色化した黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含む黒真珠色塗膜である。
【0024】
黒色化した黒色鱗片状顔料が緻密に高配向し、さらに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくため、深みのある漆黒性の高い黒真珠色の塗膜となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、顔料の緻密な高配向により真珠意匠が得られるとともに、光照射による黒色化顔料の黒色発現により、漆黒性の高い黒真珠色の意匠が発現される。さらに、ベース塗膜において、クリア塗膜境界面から徐々に白色、灰色、黒色に色調が傾向変化するため、深み感のある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0027】
[黒真珠色塗膜の形成方法]
本発明の好適な実施の形態の黒真珠色塗膜の形成方法は、図1,図2,図3に示すように、鱗片状の酸化チタン化合物顔料または鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を図1に示す中塗塗膜10上あるいは図2に示す着色ベース塗膜11上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上に光吸収剤を含まないクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、酸化チタン化合物を還元可能な光をクリア塗膜14上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、を有する。
【0028】
上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、ベース塗膜12中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。一方、光吸収剤を含有しないクリア塗膜14上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、ベース塗膜12内に還元可能な光が到達し酸化チタン化合物が黒色化し、ベース塗膜12中の顔料が黒色化する。このため、黒色化ベース塗膜16では、鱗片状の黒色顔料が緻密に高配向した状態になる。その結果、深みのある漆黒感の高い黒真珠色塗膜が得られる。また、仮にクリア塗膜14を透過して空気中の酸素(O2)が、クリア塗膜14との境界面の黒色化ベース塗膜16に到達し、一旦還元された酸化チタン化合物が酸化され、ベース塗膜12中の黒色顔料の一部が白色顔料に変わったとしても、黒色顔料は黒色化ベース塗膜16中に緻密に高配向しているため、黒色顔料のガスパリア性によって、酸素が黒色化ベース塗膜16の厚み方向に透過していくことは抑制される。したがって、黒色化ベース塗膜16中に還元された状態の黒色顔料が安定して存在するとともに、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆき、これにより、深みのある黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0029】
また、好ましくは、クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも中塗塗膜10とベース塗膜12とクリア塗膜14とを焼き付ける焼付工程を有する。
【0030】
光照射前に焼き付けを行うことによって、ベース塗膜12中に存在する光照射で変性される可能性のある溶剤を塗膜中から除去することができ、さらにベース塗膜12も硬化するので、ベース塗膜12中の鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料がより緻密に高配向して固定される。その後、光吸収剤を含有しないクリア塗膜14を形成し、このクリア塗膜14上から酸化チタン化合物を還元可能な光を照射することによって、下層のベース塗膜12にまでに還元可能な光が透過し、緻密に高配向した鱗片状の酸化チタン化合物顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は黒色化する。さらに光照射前に焼付けを行うことにより、黒色化ベース塗膜16中の黒色顔料はより緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜14を介して酸素が黒色化ベース塗膜16に到達したとしても、黒色顔料は黒色化ベース塗膜16の厚み方向に酸素が浸透していくことを阻止し、黒色化ベース塗膜16中の黒色顔料のほとんどが酸化されずに黒色顔料として安定して存在する。また、クリア塗膜14との境界面から黒色化ベース塗膜16の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくので、深みのあるより漆黒性の高い黒真珠色塗膜を形成することができる。
【0031】
本実施の形態では、ベース塗膜12上にクリア塗膜を形成したのち、焼き付けを行うことが望ましく、すなわち、中塗塗膜10あるいは着色ベース塗膜11、ベース塗膜12、クリア塗膜14において、3コート2ベークが好ましい。ベース塗料が水性塗料の場合には、中塗塗装を行ったのち中塗塗膜10を焼き付け、次いでベース塗装を行った後ベース塗膜12をプレヒートし、さらにクリア塗装によりクリア塗膜14を形成し焼き付ける、3コート1プレヒート2ベークが望ましい。
【0032】
また、上記中塗塗膜10は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜であることがより好ましい。
【0033】
酸化チタン化合物を還元可能な光は、ベース塗膜12を透過し、さらに図1に示す中塗塗膜10あるいは図2に示す着色ベース塗膜11に到達し、中塗塗膜10中あるいは着色ベース塗膜11中の酸化チタン化合物顔料も還元し黒色化する。一方、黒色化ベース塗膜16中に黒色顔料が高配向で緻密に並んでいるのでガスバリア性が発現され、酸素は中塗塗膜10まで到達せず、その結果、図4に例示するように、中塗塗膜10の黒色化ベース塗膜16境界付近より深いところに存在する黒色化顔料は黒色のまま保持されるため、黒色化中塗り塗膜18となり、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。図2の構成についても同様に、着色ベース塗膜11の黒色化ベース塗膜16境界付近より深いところに存在する黒色化顔料は黒色のまま保持されるため、黒色化着色ベース塗膜となり、より漆黒性の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0034】
上記酸化チタン化合物としては、Ti2O3,TiO2を含む酸化チタン、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなる群から選択される化合物が好ましい。
【0035】
そして、上記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、Ti2O3,TiO2を含む鱗片状の酸化チタン顔料、または、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなるチタン酸顔料から選択される顔料である。
【0036】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在し、さらに、極薄の鱗片状のチタン酸顔料に光を照射して還元させ黒色化させることによって、ベース塗膜中に黒色顔料をより緻密で高配向させることができ、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができるとともに、緻密で高配向であるため、ベース塗膜の厚み方向への酸素透過を大幅に抑制することができ、その結果、安定したより深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0037】
また、上記酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料から選択される。
【0038】
上記顔料も、ベース塗膜中に高配向に並べることにより、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過して行くことを抑制できるため、上述同様、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。
【0039】
さらに、上記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線である。紫外線は、上記酸化チタン化合物のバンドギャップに合うエネルギー波長を有する。したがって、上記酸化チタン化合物を還元することができる。例えば、酸化チタンの場合には、紫外線照射により次のような還元反応が生じる。
【0040】
(化1)
TiO2 →TiO2-x
Ti2O3 →Ti2-yO3-x
【0041】
上記還元反応により、酸化チタン化合物を黒色化する。ここで、紫外線は、200〜380nmの波長を有するものであり、還元度合いおよび黒色度合いに応じて、自然界に存在するUV−A(320〜380nm)、UV−B(280〜320nm)を用い、照射量を調整することが望ましい。黒色度合いは、クリア塗膜まで形成された積層塗膜において、L*a*b*表色系のL*値が72以下にすることが好ましく、より好ましくはL*値が71以下である。L*値を72以下にすることによって、漆黒感の高い黒真珠色感を得ることができる。紫外線の照度は200〜250W・s/m2が好ましく、その照射時間は30〜300分が好ましく、より好ましくは60〜250分である。
【0042】
また、光として上記紫外線を照射する場合、上記クリア塗膜には、光吸収剤である紫外線吸収剤は含ませない。クリア塗膜中に紫外線吸収剤を含有させないことによって、クリア塗膜上から紫外線を照射した場合、紫外線がクリア塗膜を透過してベース塗膜に到達し、ベース塗膜中の顔料を黒色化させることができる。
【0043】
また、ベース塗膜12を形成するベース塗料としては、溶剤系ベース塗料と水性ベース塗料とがある。そして、水性ベース塗料、特に熱硬化型水性塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有する。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基等の親水基と水酸基等の架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。一方、溶剤系ベース塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有する。
【0044】
また、ベース塗膜12は、水性ベース塗料を用いた場合には膜厚10〜15μmで塗装され、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、膜厚12〜18μmで塗装される。
【0045】
クリア塗膜14を形成するクリア塗料は、本実施の形態では無色透明の塗膜を形成可能な熱硬化性塗料が好ましく、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて、紫外線吸収剤等が含有されている。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなる。
【0046】
また、クリア塗膜14は、30〜50μmの膜厚で塗装される。
【0047】
上述したチタン酸顔料としては、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸を得ることができる。
【0048】
以下に、極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法の一例を図5を用いて説明する。
【0049】
層状チタン酸塩K0.8Li0.27Ti1.73O4を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより層状チタン酸(例えば、H1.07Ti1.73O4・nH2O)が得られる。この層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)が得られる。有機塩基性化合物としては、ジメチルエタノールアミン(DMEA)が望ましい。
【0050】
好ましくは、次いで、上記剥離ゾルに炭酸セシウムを添加して有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換し、遠心洗浄で過剰炭酸セシウムおよび生成アミン炭酸塩を除去し、さらに炭酸ガスのバブリングにより、チタン酸の中和ゾルを形成する。得られた薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)は、耐光性が向上する。
【0051】
得られた水性媒体分散液(剥離ゾル)の薄片状チタン酸は、図6に示すように、1枚約1nmのチタン酸が積層し、2〜50層チタン酸が積層された鱗片状チタン酸として得られる。この鱗片状チタン酸は、その厚みが最大でも50nm以下、好ましくは10〜50nmであり、鱗片状の長手方向の長さ(粒径)が15〜20μmである。この鱗片状のチタン酸の顔料は、上述した塗膜形成方法を用いることにより、ベース塗膜中で、図9に示すベース塗膜断面の走査電子顕微鏡写真のように、高配向で緻密に並ぶ。
【0052】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.73O3.9であり、平均長径15μmであった。
【0053】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散撹拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0054】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6kgに分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間撹拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0055】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、撹拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間撹拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みとともに除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液を長時間静置して固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0056】
本実施の形態において、上述した製造方法で得られた鱗片状のチタン酸顔料は、主に、図7に示すような厚さ50nmでその長手方向の長さ(粒径)が15μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は250〜400である。このように極薄の鱗片状チタン酸顔料は、他の顔料に比べ、超高アスペクト比であり、したがって、ベース塗膜中に高配向で緻密に並び、紫外線暴露により黒色化させることによって、漆黒感の高い黒真珠色塗膜を得ることができる。また、極薄の鱗片状チタン酸顔料が、緻密に高配向しているため、仮にクリア塗膜から酸素がベース塗膜に透過してきても、クリア塗膜との境界面のベース塗膜にしか酸素が透過せず、ベース塗膜の厚み方向にほとんど酸素が到達せず、酸素による酸化を抑制することができ、その結果、黒色化した黒色顔料のままでベース塗膜に存在させることができる。
【0057】
また、鱗片状の酸化チタン顔料は、通常、厚さ10〜200nmでその長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は50〜3000である。
【0058】
また、アルミナ表面に酸化チタン膜が被覆された鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料は、図8に示すように、その厚みが400〜500nmであり、その長手方向の長さ(粒径)が約20μmであり、そのアスペクト比が40〜50である。また、マイカ表面に酸化チタン膜が被覆された鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料も、上記鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料と同様の厚み、粒径およびアスペクト比を有する。
【0059】
上記チタン酸顔料、酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料および酸化チタン化合物被覆マイカ顔料は、上記チタン酸顔料に比べ、その厚みが厚く、アスペクト比も小さいため、ベース塗膜中に配向性はチタン酸顔料より低くなるものの、酸素がベース塗膜の厚み方向に透過していくことを抑制できる程度に緻密に配向している場合、光照射後に黒色化した黒色顔料によって、深みのある黒真珠色塗膜を得ることができる。なお、チタン酸顔料に比べ緻密性、配向性がやや劣るため、クリア塗膜から透過してくる酸素が黒色化ベース塗膜の厚み方向のやや深くところまで浸透する。これにより、クリア塗膜との境界面からやや深いところまでに存在するベース塗膜の黒色顔料は、酸化され白色化する。その結果、得られる黒真珠色塗膜の漆黒性はやや低下する傾向がある。
【0060】
ここで、上記酸化チタン顔料および酸化チタン被覆顔料における酸素による酸化反応は次の通りである。
【0061】
(化2)
TiO2-x →TiO2
Ti2-yO3-x →Ti2O3
この酸化反応によって、酸化された顔料は白色化する。
【0062】
また、上記鱗片状のチタン酸顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料および鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料は、上述のベース塗料に、含有率PWC(pigment wright content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されている。
【0063】
なお、上述したように、上記極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法では、層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゲル)が得られる。図10に示すように、この剥離ゾルに紫外線を照射して黒色化を行うことも想定されるが、剥離ゾル内に存在するアミン類が紫外線により変性して、剥離ゾル自体が黄変してしまい、良好な黒色顔料は得られない。
【0064】
また、上述したように、ベース塗膜上にクリア塗膜を形成した後に焼き付けを行う、又はベース塗膜を焼き付け硬化させた後にクリア塗膜を形成し焼き付けを行うことによって、チタン酸顔料を用いたベース塗料によって形成されたベース塗膜から、光変性を起こすアミン類を除去することができる。
【0065】
[黒真珠色塗膜]
本実施の形態の黒真珠色塗膜は、上述の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜であり、図1および図2に示すように、上述した鱗片状のチタン酸顔料、鱗片状の酸化チタン顔料、鱗片状の酸化チタン化合物被覆アルミナ顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆マイカ顔料を光、特に紫外線によって還元され黒色化された黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態の黒色化ベース塗膜16を有する黒真珠色塗膜である。
【0066】
黒色化した黒色鱗片状顔料が、黒色化ベース塗膜中に緻密に高配向しているため、漆黒感の高い黒真珠色の塗膜が得られるとともに、緻密に高配向した黒色鱗片状顔料により酸素透過が抑制され、黒色化ベース塗膜中の黒色鱗片状顔料は安定的に黒色で保持される。さらに、黒色化ベース塗膜中の黒色鱗片状顔料が酸素による酸化され、白色化したとしても、クリア塗膜との境界面からベース塗膜の厚み方向にしたがって、白色から灰色、黒色に色調が傾向変化してゆくので、深み感が表現できる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の黒真珠色塗膜の形成方法について、実施例を用いて説明する。
【0068】
本実施例では、以下の塗料を用いた。すなわち、中塗塗料として、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とする塗料を用いた。また、ベース塗料として、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とし、上述した平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が15μmである鱗片状チタン酸顔料を含有率PWC20%で含有する塗料を用いた。さらに、クリア塗料として、アクリル樹脂・メラミン樹脂・酸アクリル樹脂/エポキシアクリル樹脂の2液型ウレタン樹脂からなる基材樹脂を含有する塗料を用いた。
【0069】
図3を用いて、本実施例の塗膜形成方法を説明する。まず、電着済みの鋼板に二酸化チタン顔料を含有する白中塗り塗料を膜厚35μmとなるように塗装し、最高到達温度140℃で18分間焼き付けを行った。あるいは、さらに着色ベース塗膜を35μmとなるように塗装し、140℃、18分間焼き付けを行った。次いで、鱗片状チタン酸顔料含有ベース塗料を、ベース塗料が水性ベース塗料である場合、膜厚13μmで塗装し、ベース塗料が溶剤系ベース塗料の場合には、膜厚15μmで塗装した。ここで、水性ベース塗料を用いた場合、最高到達温度80℃で10分間焼き付けを行い、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、フラッシュタイムを1分間設けた。ここで、フラッシュタイムとは、ベース塗料を塗布した後、クリア塗料を塗布するまでの時間をいう。その後、ベース塗膜上に膜厚35μmとなるように紫外線吸収剤を含まないクリア塗料を塗布し、最高到達温度140℃で18分間保持して焼き付けを行った。次に、クリア塗膜上に、紫外線を照度230W・s/m2で60〜250分間照射した。
【0070】
マルチアングル測色計「X−Rite MA68II」(X−Rite社製)を用い、入射角45°、受光角45°にてL*値を測定した結果を、図11に示す。図11に示すように、紫外線照射により紫外線がクリア塗膜を介してベース塗膜中の極薄鱗片状チタン酸顔料を黒色化し、さらに中塗塗膜中の二酸化チタン顔料をも黒色化してゆくため、L*値は、78から72まで低下し、後に71になった。ここで、L*値が低いほど、黒色が濃いことを示し、図11より、極めて漆黒性の高い黒真珠色塗膜が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の黒真珠色塗膜の形成方法および黒真珠色塗膜は、深みのある漆黒性の高い黒真珠色塗装を必要とする用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、例えば車両用塗膜、家電製品用塗膜の形成に供することができ、特に車両用塗膜としては、車両用部品、例えばインパネ、ドアノブなどの塗膜形成に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の一態様を説明する図である。
【図2】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の他の態様を説明する図である。
【図3】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法の一態様の工程のフロー図である。
【図4】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に得られた積層塗膜の一例の断面図である。
【図5】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に供するチタン酸顔料の製造方法の一例を説明する図である。
【図6】本発明の黒真珠色塗膜に用いるチタン酸顔料とそのベース塗膜中の配向度合いを説明する図である。
【図7】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法に用いるチタン酸顔料の一例を説明する図である。
【図8】酸化チタン被膜アルミナ顔料の一例を説明する図である。
【図9】本発明の黒真珠色塗膜の形成方法を用いて形成されたチタン酸顔料含有ベース塗膜の断面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図10】チタン酸顔料製造工程の途中で得られるチタン酸剥離ゲルに紫外線照射した状態を説明する図である。
【図11】本実施例における紫外線照射時間と黒真珠色塗膜のL*値との関係を示すグラフである。
【図12】従来の黒真珠色塗膜の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
10 中塗塗膜、12 ベース塗膜、14 クリア塗膜、16 黒色化ベース塗膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状の酸化チタン化合物顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上に光吸収剤を含まないクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
酸化チタン化合物を還元可能な光を前記クリア塗膜上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、
を有することを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも前記中塗塗膜とベース塗膜とクリア塗膜とを焼き付ける焼付工程を有することを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記中塗塗膜は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、鱗片状の酸化チタン顔料または鱗片状のチタン酸顔料であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の頃真珠色塗膜の形成方法において、
前記鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線であり、
前記光吸収剤は、紫外線吸収剤であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜。
【請求項8】
照射光により還元され黒色化した黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含むことを特徴とする黒真珠色塗膜。
【請求項1】
鱗片状の酸化チタン化合物顔料又は鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上に光吸収剤を含まないクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
酸化チタン化合物を還元可能な光を前記クリア塗膜上から照射し前記酸化チタン化合物を黒色化させる光照射工程と、
を有することを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記クリア塗膜形成工程と光照射工程との間に、少なくとも前記中塗塗膜とベース塗膜とクリア塗膜とを焼き付ける焼付工程を有することを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記中塗塗膜は、酸化チタン化合物顔料を含む白中塗塗膜あるいは着色ベース塗膜であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記鱗片状の酸化チタン化合物顔料は、鱗片状の酸化チタン顔料または鱗片状のチタン酸顔料であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の頃真珠色塗膜の形成方法において、
前記鱗片状の酸化チタン化合物被覆顔料は、鱗片状アルミナ表面を酸化チタンにより被覆した顔料またはマイカ表面を酸化チタンにより被覆した顔料であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法において、
前記酸化チタン化合物を還元可能な光は、紫外線であり、
前記光吸収剤は、紫外線吸収剤であることを特徴とする黒真珠色塗膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の黒真珠色塗膜の形成方法により形成された黒真珠色塗膜。
【請求項8】
照射光により還元され黒色化した黒色鱗片状顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含むことを特徴とする黒真珠色塗膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−263569(P2006−263569A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85030(P2005−85030)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
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