説明

黒色化剤、タイヤ内面用離型剤、及びその製造方法、タイヤの製造方法及びタイヤ

【課題】タイヤ内面での白色斑点模様を形成しない黒色化剤、また加硫成型後のタイヤ内面からの粉落ちを抑制することができ、タイヤ内面が濡れた場合でも周囲を黒く汚染することのない黒色化剤を使用したタイヤ内面用離型剤及びその製造方法、更にはそれを使用したタイヤの製造方法及びそのタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ内面を黒色化する黒色化剤であって、少なくともカーボンブラック粉末及び熱可塑性樹脂からなることを特徴とする黒色化剤、及びその黒色化剤、シリコーン及び無機粉体を含むタイヤ内面とプラッダーとの間に使用するタイヤ内面用離型剤であり、また、そのタイヤ内面用離型剤の製造方法であり、更には、そのタイヤ内面用離型剤を使用したタイヤの製造方法及びタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色化剤、タイヤ内面用離型剤、及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、タイヤ内面に使用される黒色化剤、及びそれを原料とした、タイヤ加硫成型時にタイヤとプラッダーとの間に塗布されるタイヤ内面の離型剤およびその製造方法に関する。更には、このようなタイヤ内面用離型剤を使用したタイヤの製造方法及びその製造タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造工程において、未加硫生タイヤの加硫成型は、通常、プラッダーと呼ばれるゴム製袋をタイヤ内面で熱水または蒸気で膨張させ、金型へ圧入成型することによって行われる。
プラッダー膨張時には、生タイヤのインナーライナー面(内面)とプラッダーとの間に良好な潤滑性が必要である。
また、加硫終了後にプラッダーを収縮させるときにプラッダーとインナーライナー面との離型性やプラッダーとインナー面に入り込んだ空気の除去(エアブリード性)を容易にするため、たとえば、タイヤ成型にはマイカやタルク粉末を含有する離型剤が使用されている。
【0003】
タイヤは−般に黒灰色であるのに対して、マイカやタルク粉末は白色であるので、タイヤ内面に残ったマイカやタルク粉末が霜降り状の白色斑点模様を形成し、タイヤ内の美観を低下させる。この問題を解決させ、美観を向上させるために、カーボンブラックを含有する黒色化剤を離型剤に添加して使用することが知られている。また、カーボンブラックの代わりにダイレクトブラック等の黒色塗料を含有する離型剤を使用することも提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
離型剤にカーボンブラックや黒色塗料等の黒色化剤を配合することによって、加硫後の美観は確かに向上する。しかしながら、離型性やエアブリード性付与のために配合しているマイカやタルクが、加硫終了後にタイヤ内面から脱落するという、いわゆる「粉落ち」という現象が発生するという別の問題が生じている。粉落ち防止のために、カーボンブラックおよびレシチンを含有する黒色化剤及び離型剤を使用することが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
さらに近年、粉落ちが防止されたタイヤにホイールを装着させる際、その作業効率を向上させるために、タイヤを水で濡らしてすべりを良くしてホイールを装着させることが行われている。このため、上述の従来の離型剤では、粉落ちは防止されているものの、カーボンブラックが水で容易に黒く滲み出るために、タイヤ全体が薄汚れてしまい、ホイール装着後にタイヤを洗浄する別工程が必要になるという問題があり、早急な改良が望まれている。更に、最近、タイヤ内面自動検査機を導入しており、タイヤ内面が白色マイカ等であると、異物と誤判定するケースが見られ、マイカ黒色化のニーズが高まっている。
【特許文献1】特開昭64−22509号公報
【特許文献2】特開平5−77242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑み、タイヤ内面での白色斑点模様を形成しない黒色化剤、また加硫成型後のタイヤ内面からの粉落ちを抑制することができ、タイヤ内面が濡れた場合でも周囲を黒く汚染することのないタイヤ内面用離型剤及びその製造方法を提供しようとするものである。
また、本発明は、上記タイヤ内面用離型剤を好適に使用したタイヤの製造方法、及びその製造タイヤを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、黒色化剤やタイヤ内面用離型剤に熱可塑性樹脂を配合することによって、タイヤ内面からの粉落ちを抑制でき、タイヤ内面が濡れた場合でも周囲を黒く汚染しないこと、即ち、耐水性が向上することを見出し、本発明に至ったものである。
即ち、本発明のタイヤ用の黒色化剤、それを用いたタイヤ内面用離型剤、及びその製造方法は以下の構成又は構造を特徴とする。
【0008】
(1)タイヤ内面を黒色化する黒色化剤であって、少なくともカーボンブラック粉末及び熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする黒色化剤。
【0009】
(2)黒色化剤に対してカーボンブラック粉末を10〜40質量%の範囲で含むと共に熱可塑性樹脂を0.5〜10質量%の範囲で含む上記(1)に記載の黒色化剤。
(3)熱可塑性樹脂に加えて界面活性剤からなる分散剤及び水を含む上記(1)又は(2)記載の黒色化剤。
(4)黒色化剤の不揮発成分全体に対して分散剤を20質量%以下の範囲で含み、且つ黒色化剤に対して水を30〜89.5質量%の範囲で含む上記(3)記載の黒色化剤。
【0010】
(5)上記(1)〜(4)に記載の黒色化剤、シリコーン及び無機粉体を含むタイヤ内面とプラッダーとの間に使用するタイヤ内面用離型剤。
(6)カーボンブラック粉末はその平均粒子径が40nm以下である上記(5)に記載のタイヤ内面用離型剤。
(7)熱可塑性樹脂はそのガラス転移温度が230℃以下である上記(5)又は(6)に記載のタイヤ内面用離型剤。
(8)黒色化剤の各成分、シリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含む上記(5)〜(7)に記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
(9)予め黒色化剤を製造した後、その黒色化剤とシリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含む上記(8)記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
(10)黒色化剤のカーボンブラック粉末、分散剤、及び熱可塑性樹脂を予め粉体混合装置を用いて予備混合する工程を含む上記(9)記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
【0011】
(11)上記5)〜(7)に記載のタイヤ内面用離型剤を未加硫タイヤ内面に塗布し、加硫成型するタイヤの製造方法。
(12)上記(11)の製造方法により、製造されたタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の(1)〜(4)記載の黒色化剤によれば、含有する分散剤の量が比較的少量にも拘わらず、カーボンブラック粉末の分散性が高く、タイヤ内面に白色斑点などの不具合を示すことがなく、タイヤ内面用離型剤の原料として有効である。
本発明の(5)〜(7)記載のタイヤ内面用離型剤によれば、タイヤ内面とプラッダーとの間に使用したときに、加硫成型後のタイヤ内面からの粉落ちがなく、濡れた場合でも周囲を黒く汚染することがない。
本発明の(8)〜(10)記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法によれば、黒色化剤を原料としているため分散性に優れたタイヤ内面用離型剤を簡便に製造できる。
本発明の(11)及び(12)記載の製造に関するタイヤによれば、タイヤの不必要な洗浄工程が要求されず、タイヤ内面自動検査機における誤判定も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、上記した実施の形態を説明する。
尚、本発明のタイヤ内面用の黒色化剤、タイヤ内面用離型剤、及びその製造方法、更にはタイヤの製造方法及びそのタイヤは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
以下に、本発明の黒色化剤、その黒色化剤の製造方法、タイヤ内面用離型剤、及びその製造方法を順次説明する。
【0014】
本発明の黒色化剤はタイヤ内面を黒色化する黒色化剤であって、少なくともカーボンブラック粉末及び熱可塑性樹脂からなる。
[カーボンブラック粉末(a)]
カーボンブラック粉末は、黒色化剤およびタイヤ内面用離型剤に黒色を付与するために用いられる成分である。タイヤ内面用離型剤が黒色であると、例えば、タイヤ検査を自動化でできるという利点がある。
カーボンブラック粉末の平均粒子径については、本発明では特に限定する必要はない。しかし、製品の安定性や粉落ちを抑制する効果を調整できるという点から、カーボンブラック粉末は平均粒子径が40nm以下のものが好ましく、35nm以下が更に好ましい。ここでいう平均粒子径とは、電子顕微鏡による画像解析により、カーボンブラック凝集体を構成する球状成分を少なくとも100個以上で算術的に円に近似して得られる直径の平均値である。
黒色化剤に含まれるカーボンブラック粉末の含有率については、黒色化剤全体に対して、好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜35質量%、特に好ましくは23〜31質量%である。
【0015】
[分散剤(b)]
分散剤は、カーボンブラック粉末を分散させ、黒色化剤およびタイヤ内面用離型剤の分散安定性を高める成分であり、その配合量を調整することによって、耐水性を付与することができる。
【0016】
分散剤は、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤から選ばれた少なくとも一種であればよい。特に、分散安定性や耐水性が相乗的に高まる点から、非イオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤の併用系が好ましい。
【0017】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどポリオキシアルキレン(アルキルはl〜3級のいずれでもよい。)が望ましい。非イオン系界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0018】
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩が有効で、特にナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダが適している。
これらのアニオン系界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0019】
分散剤が非イオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤を含む場合、それぞれの質量割合については、特に限定はないが、泡立ちへの影響、カーボンブラック粒子の分散安定性の点で、分散剤が非イオン系界面活性剤/アニオン系界面活性剤(質量比)が75/25〜99/1であると好ましく、85/15〜98/2であるとさらに好ましく、90/10〜95/5であると特に好ましい。
分散剤は、黒色化剤の不揮発成分全体に対して、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは0.5〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。分散剤が少なすぎる場合は、保存安定性が悪化することがある。また、分散剤が多すぎる場合は、耐水性が悪化することがある。
【0020】
[熱可塑性樹脂(c)]
熱可塑性樹脂は、カーボンブラック粉末の脱落を防止するためのバインダー成分であり、その配合量を調整することによって、粉落ちを抑制し、耐水性を付与することができる。
熱可塑性樹脂は温度に応じてその可塑性が変化する樹脂の総称であり、例えば、アクリル酸エステル共重合体、スチレン、スチレンアクリル共重合体、酢酸ビニル重合体、酢酸ビニル・アクリル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等が使用できる。粉落ち抑制効果や乾燥後のタイヤ内面用離型剤組成物の硬さの点からは、アクリル酸エステル共重合体が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0021】
熱可塑性樹脂は、その温度を徐々に上げた場合、ある温度に達したときに、それまでのガラスのような硬質な状態から、ゴムのような軟質な状態へと変化することが観察される。このときの温度をガラス転移点という。ここで言うガラス転移点の測定方法は次のように行う。DSC(示差走査熱量計)試験容器にガラス状粉末である熱可塑性樹脂試料を入れ、毎分20℃の速度で昇温し吸熱曲線を得る。次に、ガラス転移前の発熱量一定部とガラス転移後の発熱量一定部の線をそれぞれ延長し、延長線間の平均線と吸熱曲線が交差する点を求め、このときの温度をガラス転移点と定義する。
ガラス転移点については、タイヤの加硫成型温度以下で軟質化する必要があるので、230℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましく、0℃以下が特に好ましく、−10℃以下が最も好ましい。
ガラス転移点が高すぎると、熱可塑性樹脂が硬質な状態のまま残り、耐水性、粉落ち防止性などを充分に発揮できないこともある。
【0022】
熱可塑性樹脂は、黒色化剤全体に対して、好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは2〜9質量%、特に好ましくは2〜6質量%である。熱可塑性樹脂が少なすぎる場合は、耐水性が悪化することがある。また、熱可塑性樹脂が多すぎる場合は、離型性能(すべり性)が悪化することがある。
【0023】
黒色化剤に含まれる水の含有率については、黒色化剤全体に対して適合含有させることができる。好ましくは30〜89.5質量%、さらに好ましくは41〜76.5質量%、特に好ましくは52〜71質量%である。
【0024】
本発明の黒色化剤は、後述のタイヤ内面用離型剤の製造の際にその原料として使用することができる。また、カーボンブラック粉末の凝集が抑制された高い分散状態にあり、保存安定性に優れた組成物である。
【0025】
黒色化剤の製造方法は、カーボンブラック粉末、分散剤、熱可塑性樹脂および水を混合する工程を含む。各成分の混合順序等については特に制限されない。しかしながら、水以外の成分を、リボン式ブレンダー等の粉体混合装置を用いてあらかじめ予備混合し,得られた粉体混合物を水に対して徐々に加えて分散させる方法が、粉体成分の分散性の点で好ましい。
【0026】
次に、本発明のタイヤ内面用離型剤について説明する。
本発明のタイヤ内面用離型剤は、上記黒色化剤、シリコーン及び無機粉体を含むタイヤ内面とプラッダーとの間に使用するものである。尚、黒色化剤の添加に際しては、上記したように黒色化剤組成物を製造した後に、黒色化剤を原料として配合しても良く、直接、黒色化剤の成分であるカーボンブラック粉末、分散剤、及び熱可塑性樹脂をシリコーン及び無機粉体と混合しても良い。但し、カーボンブラック粉末の分散性を高めるためには、一旦、上記黒色化剤を製造して、かかる黒色化剤をシリコーン及び無機粉末と混合することが好ましい。
【0027】
〔シリコーン(e)]
シリコーンは、タイヤ内面用離型剤に離型性及び潤滑性を付与する主要な成分である。シリコーンは、オルガノポリシロキサン類の総称であって、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂を含む概念である。オルガノポリシロキサン類としては、たとえば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサン等のジアルキルポリシロキサン;メチルフェニルポリンロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等のアルキルフェニルポリシロキサン;メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサン等のアルキルアラルキルポリシロキサン;3,3,3−トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0028】
シリコーンとしては、離型性の点からは、分子構造が直鎖状で、常温で流動性を有するシリコーンオイル等が好ましい。その粘度については、特に限定はないが、離型性と製品安定性のバランスの点で、25℃における粘度が、好ましくは100〜500,000mPa・s、さらに好ましくは300〜100,000mPa・sである。
【0029】
シリコーンは、タイヤ内面用離型剤の製造の隙に、その乳化物を使用してもよい。
シリコーンは、タイヤ内面用離型剤全体に対して3〜20質量%の範囲が好ましい。更に好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは6〜11質量%である。シリコーンが少なすぎる場合は、離型剤性能(剥離性)が悪化することがある。また、シリコーンが多すぎる場合は、離型剤性能(すべり性)が悪化することがある。
【0030】
[無機粉体(f)〕
無機粉体は、タイヤ内面用離型剤において離型性および潤滑性を更に向上させる成分である。無機粉体としては、例えば、マイカ、タルク、クレー、クロライト、炭酸カルシウム等を挙げることができる。これらの無機粉体は、1種または2種以上を併用してもよい。無機粉体がマイカおよびタルクから選ばれる少なくとも一種であると、安価であるために好ましい。
無機粉体は、タイヤ内面用離型剤全体に対して、10〜60質量%の範囲が好ましい。更に好ましくは30〜55質量%、特に好ましくは40〜50質量%である。無機粉体が少なすぎる場合は、離型剤性能(すべり性)が悪化する。また、無機粉体が多すぎる場合は、離型剤性能(粉落ち性)が悪化する。
【0031】
[黒色化剤]
黒色化剤としては、上述した本発明の黒色化剤が使用される。黒色化剤はタイヤ内面用離型剤全体に対して、0.5〜10質量%の範囲が好ましい。更に好ましくは0.5〜6質量%、特に好ましくは0.5〜4質量%である。黒色化剤が少なすぎる場合は、美観が悪化する。また、黒色化剤が多すぎる場合は、離型剤性能(すべり性)が悪化する。
【0032】
また、本発明のタイヤ内面用離型剤にあっては、上記黒色化剤の成分であるカーボンブラック粉末、分散剤、及び熱可塑性樹脂を直接、上記シリコーン及び無機粉体と共に混合したものであっても良い。この場合、各成分を以下の割合でタイヤ内面用離型剤に含有させることが好ましい。
【0033】
カーボンブラック粉末は、タイヤ内面用離型剤全体に対して0.05〜2質量%の範囲が好ましい。更に好ましくは0.1〜1.75質量%、特に好ましくは0.12〜1.55質量%である。カーボンブラック粉末が少なすぎる場合は、美観が悪化することがある。また、カーボンブラック粉末が多すぎる場合は、粉落ち性が悪化する。
分散剤は、タイヤ内面用離型剤の不揮発成分に対して2質量%以下が好ましい。更に好ましくは0.1〜1.8質量%、特に好ましくは0.2〜1.5質量%である。分散剤が少ない場合は、保存安定性が悪化しやすい。また、分散剤が多すぎる場合は、耐水性が悪化する。
熱可塑性樹脂は、タイヤ内面用離型剤全体に対して、0.0025〜0.5質量%、さらに好ましくは0.015〜0.45質量%、特に好ましくは0.025〜0.35質量%である。熱可塑性樹脂が少なすぎる場合は、耐水性が悪化する。また、熱可塑性樹脂が多すぎる場合は、離型性性能(すべり性)が悪化する。
【0034】
タイヤ内面用離型剤の水含有量は、上述した黒色化剤に含まれる水分量を合計した総量として、タイヤ内面用離型剤全体に対して、40〜75質量%の範囲であることが好ましい。更に好ましくは45〜65質量%、特に好ましくは50〜60質量%である。上記範囲未満では粉落ちが生じ、異物になりやすい。また上記範囲を超えると、液だれが生じやすく、乾燥に時間がかかる。
【0035】
[タイヤ内面用離型剤の製造方法]
本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法は、黒色化剤の各成分、シリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含むものであり、特に好ましくは、上述したように、黒色化剤の各成分を直接混合する工程とせず、上述した黒色化剤を予め製造した後、その黒色化剤を原料とし、シリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含むことが好ましい。また、この場合の黒色化剤の製造方法は、黒色化剤のカーボンブラック粉末、分散剤、及び熱可塑性樹脂を予め粉体混合装置を用いて予備混合する工程を更に含むことが好ましい。
【0036】
[タイヤの製造方法、及びそのタイヤ]
このような本発明のタイヤ内面用離型剤は、タイヤ加硫成型時にタイヤとプラッダーとの間に塗布して使用され、本発明のタイヤの製造方法にあってはプラッダー膨張時に潤滑性を高める。また、本発明のタイヤ内面用離型剤は、プラッダー収縮時に、製造タイヤと離型性およびエアブリード性を高める働きをする。本発明のタイヤ内面用離型剤は、カーボンブラック粉末が配合されているために、タイヤと色彩の点でマッチし、美観が高く、タイヤの製造方法における検査工程の自動化に適応、即ちタイヤ内面の自動検査機での誤判定を回避できる。また、熱可塑性樹脂が配合されているために、粉落ちを抑制することができ、タイヤ内面が濡れた場合でも周囲を黒く汚染することが抑制され、耐水性が高い。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例および比較例を示して具体的に説明する。本発明はこれら実施例に限定きれるものではない。以下で、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0038】
[実施例1]
平均粒子径約30nmのカーボンブラック粉末26部、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダ3部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.3部、固形分濃度40w%の水性エマルジョン状のアクリル酸エステル共重合体7部(ガラス転移点110℃)および水63.7部を混合して、黒色化剤を調製した。
【0039】
[実施例2]
粘度10,000mPa・sの固形分濃度60w%の乳化物状ジメチルポリシロキサン14部、マイカ粉末10部、タルク粉末30部、および水45.5部に1%粘度が10mPa・Sのカルボキシメチルセルロース0.5部を加え、ホモミキサーを用いて均一に溶解分散し、ベース組成物を調製した。
【0040】
このベース組成物に、実施例1で調製した黒色化剤を3.5部添加配合した。得られた黒色タイヤ内面用離型剤を4cm×7cm×0.2cmの未加硫インナーライナーゴムシートに、乾燥後の重さが15g/mとなるように塗布した。次いで、この未加硫ゴムシートに同じ大きさのプラッダーゴムシートを重ね合わせ、卓上型テストプレス機にセットし、220℃、20kg/cmで20分間加圧し、加硫した。
【0041】
加硫済みのゴムシートを引き剥がし、インナーライナーゴムシートを得た。このインナーライナーゴムシートをスポンジたわしで擦り、粉落ち性が抑制されていることを確認した。また、インナーライナーゴムシートを濡れた白い布で擦り、布が黒く着色しないことを確認した。
【0042】
[実施例3〕
実施例1において、アクリル酸エステル共重合体(ガラス転移点110℃)の代わりに、アクリル酸エステル共重合体(ガラス転移点マイナス25℃)を同量添加した以外は実施例1と同様にして、黒色化剤を調製した。
得られた黒色化剤を、卓上型テストプレス機の温度を220℃から160℃に変更する以外は実施例2と同様にしてインナーライナーゴムシートを得た。このインナーライナーゴムシートをスポンジたわしで擦り、粉落ち性が抑制されていることを確認した。また、インナーライナーゴムシートを濡れた白い布で擦り、布が黒く着色しないことを確認した。
【0043】
[実施例4]
マイカ、タルク、シリコーンエマルジョン等の必要成分が混合されている市販のタイヤ内面用離型剤(松本油脂製薬株式会社製のRA−408)50部を水50部に混合溶解させ、更に実施例1で調製した黒色化剤3.5部添加し、この黒色タイヤ内面用離型剤を使用して乗用車用タイヤを10本生産した。でき上がったタイヤ内面は従来品よりも黒くなっており、また、石鹸水を用いてホイールに装着しても石鹸水が黒く着色しないこと、タイヤ内面をぬらした白布で拭いても白布が黒く着色しないことを確認した。
【0044】
[比較例1]
水49.5部に、実施例4で使用した市販のタイヤ内面用離型剤(松本油脂製薬株式会社製のRA−408)50部、平均粒子径35nmのカーボンブラック粉末を0.5部加え、高剪断攪拌装置を使用して十分分散させて、比較黒色タイヤ内面用離型剤を調製した。
この比較黒色タイヤ用離型剤を使用して乗用車用タイヤを10本生産した。製造されたタイヤは従来よりも多少黒く着色していたが、手で擦ると手が黒く汚れた。また、水に濡らすとその水が黒く着色し、周辺を汚染した。
【0045】
[比較例2]
水49.5部に、実施例4で使用した市販のタイヤ内面用離型剤50部、市販の水溶性黒色顔料(レジノカラー工業製のピグダイブラック)を加え攪拌装置を使用して十分分散させて、比較黒色タイヤ内面用離型剤を調製した。
この比較黒色タイヤ内面用離型剤を使用して乗用車用タイヤを10本生産した。製造されたタイヤは従来よりも黒く着色していたが、水に濡らすとその水が黒く着色し、周辺を汚染した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の黒色化剤、タイヤ内面用離型剤、及びその製造方法は、タイヤ内面での白色斑点模様を形成しない黒色化剤であり、また加硫成型後のタイヤ内面からの粉落ちを抑制することができ、タイヤ内面が濡れた場合でも周囲を黒く汚染することのないタイヤ内面用離型剤である産業上の利用可能性の高いものである。更に、本発明のタイヤ内面用離型剤を使用したタイヤの製造方法及びタイヤにあっては、内面の自動検査が可能な産業上の利用可能性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面を黒色化する黒色化剤であって、少なくともカーボンブラック粉末及び熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする黒色化剤。
【請求項2】
黒色化剤に対してカーボンブラック粉末を10〜40質量%の範囲で含むと共に熱可塑性樹脂を0.5〜10質量%の範囲で含む請求項1に記載の黒色化剤。
【請求項3】
熱可塑性樹脂に加えて界面活性剤からなる分散剤及び水を含む請求項1又は2記載の黒色化剤。
【請求項4】
黒色化剤の不揮発成分全体に対して分散剤を20質量%以下の範囲で含み、且つ黒色化剤に対して水を30〜89.5質量%の範囲で含む請求項3記載の黒色化剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの項に記載のタイヤ用の黒色化剤、シリコーン及び無機粉体を含むタイヤ内面とプラッダーとの間に使用するタイヤ内面用離型剤。
【請求項6】
カーボンブラック粉末はその平均粒子径が40nm以下である請求項5に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項7】
熱可塑性樹脂はそのガラス転移温度が230℃以下である請求項5又は6に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項8】
黒色化剤の各成分、シリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含む請求項5〜7の何れかの項に記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
【請求項9】
予め黒色化剤を製造した後、その黒色化剤とシリコーン、及び無機粉体を混合する工程を含む請求項8記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
【請求項10】
黒色化剤のカーボンブラック粉末、分散剤、及び熱可塑性樹脂を予め粉体混合装置を用いて予備混合する工程を含む請求項9記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
【請求項11】
請求項5〜7の何れかの項に記載のタイヤ内面用離型剤を未加硫タイヤ内面に塗布し、加硫成型するタイヤの製造方法。
【請求項12】
請求項11の製造方法により、製造されたタイヤ。

【公開番号】特開2008−279659(P2008−279659A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125819(P2007−125819)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】