説明

(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサン、放射線硬化性シリコーン組成物及びシリコーン剥離紙並びにそれらの製造方法

【解決手段】(A)下記式(1)
1m2nSiO(4-m-n)/2 (1)
(R1は1価炭化水素基、R2はエポキシ基を含有する有機基、m>0、n>0、0<m+n≦3である。)
で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサンと、
(B)(メタ)アクリル酸とを、
(C)塩基を用いて反応させる下記式(2)
1m6nSiO(4-m-n)/2 (2)
(R1は1価炭化水素基、R6は(メタ)アクリロキシ基を含む有機基、m>0、n>0、0<m+n≦3である。)
で示される(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【効果】本発明によれば、安価な原料を使用しているため原材料費が大幅に削減でき、得られた(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンはアクリル基の導入率が高く、放射線を照射することによって硬化させることができ、その硬化物は基材密着性に優れた剥離紙として利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサン、この(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンを含む放射線硬化性シリコーン組成物及びシリコーン剥離紙、並びにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーン組成物を硬化させてできる硬化皮膜は、粘着物質に対する剥離性に優れるため、剥離紙としてあらゆる分野に用いられ、世界中で大量に使用・消費されている。最も一般的な用途としては、粘着層の保護などが挙げられるが、最近では電子部材や光学材料などへの利用としてポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを基材として使用する用途も増えている。
【0003】
シリコーン組成物の硬化方式としては、大きく分けると熱硬化と放射線硬化に大別される。現在の市場ではほとんどを熱硬化によるものが占めているが、熱に弱い基材を使用する場合には放射線硬化が適している。
【0004】
放射線硬化の利点として、金属触媒が不要という点がある。熱硬化において、縮合型の触媒には錫錯体が用いられることが多いが、近年環境問題の点から錫錯体の使用の制限が始まっている。また、付加型の触媒には白金錯体が用いられるが、白金は非常に高価である点が問題である。
【0005】
放射線硬化の更なる利点として、硬化速度が非常に速いという点があり、熱硬化のものよりも生産効率が良い。
【0006】
放射線硬化には複数のタイプがある。カチオン重合による硬化機構のエポキシタイプ、ラジカル重合によるメルカプトタイプやアクリルタイプなどがある。
【0007】
アクリルタイプは酸素が存在することにより硬化が阻害されるため、酸素濃度を低くするための装置が必要であるが、非常に密着性が良いということが最大の利点である。これにより、前述のようにPETフィルムなど密着性が重要となる用途への展開も可能であり、今後も市場の拡大が期待できる。
【0008】
アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法としては、エポキシ変性オルガノポリシロキサンと汎用のアクリル酸を反応させてアクリル基を導入するという方法(特許文献1:特公平5−83570号公報)が公知であるが、いくつかの問題点がある。
【0009】
特許文献1では、エポキシ変性オルガノポリシロキサンをアクリル酸とアクリル酸無水物により開環し、アクリル変性オルガノポリシロキサンを製造しているが、アクリル酸無水物が非常に高価であるということが問題点となっている。また、アクリル酸無水物は非常に反応性が高いため、水分により容易に加水分解するなど、ハンドリング性にも難がある。そして、この製造法ではエポキシ基に反応するアクリル基の仕込み量が等量であるために反応速度が遅く、すべてのアクリル酸がエポキシ基と反応せずにアクリル基の導入率が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平5−83570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高価な原料を使用せずに得られ、アクリル基の導入量が多いアクリル変性オルガノポリシロキサン、放射線硬化性シリコーン組成物及びシリコーン剥離紙並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、安価な汎用原料のみを用いて、アクリル基の導入量が多いアクリル変性オルガノポリシロキサンを得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサン、放射線硬化性シリコーン組成物及びシリコーン剥離紙並びにそれらの製造方法を提供する。
[1] (A)下記平均組成式(1)
1m2nSiO(4-m-n)/2 (1)
(R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R2はエポキシ基を含有する有機基を示し、m>0、n>0であり、さらに0<m+n≦3である。)
で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサンと、
(B)(メタ)アクリル酸:(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、1.0当量以上となる量とを、
(C)塩基:(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、0.01〜0.1当量となる量を用いて反応させることを特徴とする下記平均組成式(2)
1m6nSiO(4-m-n)/2 (2)
(R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R6は(メタ)アクリロキシ基を含む有機基である。m>0、n>0であり、さらに0<m+n≦3である。)
で示される(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
[2] (A)成分のエポキシ当量が200〜2000g/molである[1]記載の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
[3] (C)成分が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である[1]又は[2]記載の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法に従って(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンを得た後、この(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンに光重合開始剤を混合することを特徴とする放射線硬化性シリコーン組成物の製造方法。
[5] [4]記載の製造方法に従って放射線硬化性シリコーン組成物を得た後、この組成物を剥離紙基材に塗布して塗膜を形成し、次いで放射線を照射してこの塗膜を硬化することを特徴とするシリコーン剥離紙の製造方法。
[6] [1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法によって得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサン。
[7] [4]記載の製造方法によって得られる放射線硬化性シリコーン組成物。
[8] [5]記載の製造方法によって得られるシリコーン剥離紙。
【発明の効果】
【0014】
本発明の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法によれば、安価な原料を使用しているため原材料費が大幅に削減でき、得られた(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンはアクリル基の導入率が高く、放射線を照射することによって硬化させることができ、その硬化物は基材密着性に優れた剥離紙として利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[(A)エポキシ変性オルガノポリシロキサン]
本発明の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの材料のひとつである(A)成分は、エポキシ変性オルガノポリシロキサンであり、下記平均組成式(1)で示される。
1m2nSiO(4-m-n)/2 (1)
【0016】
1はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換(但し、エポキシ基を有する置換基を除く)の炭素数1〜10、特に1〜8の1価炭化水素基であり、R1の80モル%以上、特に90〜100モル%がアルキル基であることが望ましく、更にメチル基であることが好ましい。R2はエポキシ基を含有する有機基であり、下記式(i)又は(ii)
【化1】

(Rは酸素原子を介在してもよい炭素数2〜6のアルキレン基、R’は炭素数1〜4のアルキレン基、R''は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。破線は結合手を示す。)
で示される基が挙げられ、具体的には下記式で示されるエポキシ基含有有機基が挙げられるが、特には式(i)のエポキシ基含有有機基が好ましい。
【0017】
また、上記式(1)において、m、nは、m>0、n>0、かつ0<m+n≦3を満たす数であるが、好ましくは0.3≦m≦2.0、0.3≦n≦2.0、0.6≦m+n≦2.5、更に好ましくは0.5≦m≦1.5、0.5≦n≦1.5、1.0≦m+n≦2.5、特に1.8≦m+n≦2.2である。
【0018】
【化2】

(式中、破線は結合手を示す。)
【0019】
(A)成分のエポキシ当量は200〜2000g/molであることが好ましく、より好ましくは300〜600g/molである。(A)〜(C)成分を反応させて得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンに含まれる(メタ)アクリル基の量は、(A)成分のエポキシ当量に依存するが、(メタ)アクリル基の含有量は得られたオルガノポリシロキサンを硬化させて剥離紙として使用した場合の硬化性や密着性、剥離力に影響を及ぼす。エポキシ当量が200g/molよりも小さい場合には剥離力が非常に大きくなってしまう場合があり、エポキシ当量が2000g/molよりも大きい場合には硬化性と密着性が良好でなくなる場合がある。
【0020】
(A)成分の粘度について、特に制限は無いが、25℃におけるB型回転粘度計により測定した値が1000mPa・s以下が好ましく、さらに好ましくは500mPa・s以下である。その下限は通常10mPa・s以上である。得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンは、原料であるエポキシ変性オルガノポリシロキサンよりも高粘度となるが、粘度が上記の値以下であれば硬化前のシリコーン組成物を上手く塗工することができる。
【0021】
(A)成分は、Si−H基をもつメチルハイドロジェンポリシロキサンを原料として、金属錯体触媒存在下で、エポキシ基及びアルケニル基含有化合物を反応させることによって得られる。エポキシ基及びアルケニル基含有化合物は、1分子中にエポキシ基及びアルケニル基をそれぞれ少なくとも1個もつ有機化合物である。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基などの炭素数2〜8のものを挙げることができる。エポキシ基及びアルケニル基含有化合物としては、例えば4−ビニルシクロヘキセンオキシド、4−イソプロペニル−1−メチルシクロヘキセンオキシド、アリルグリシジルエーテル、1,5−ヘキサジエンモノオキシド、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
(A)成分の具体例としては、下記のものが挙げられる。なお、下記式中、Meはメチル基を示す。
【化3】

(aは、このオルガノポリシロキサンの粘度を上述した値とする数である。)
【0023】
[(B)(メタ)アクリル酸]
本発明の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの材料のひとつである(B)(メタ)アクリル酸は、下記式
【化4】

(式中、R3は水素原子又はメチル基を示す。)
で示され、(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、1.0当量以上が良く、好ましくは1.5当量以上である。(メタ)アクリル基の量は、放射線照射時の硬化性及び密着性に大きく影響する。(メタ)アクリル基が多いほど、硬化性及び密着性は良好になる。(B)成分が1.0当量より少ないと、理論的にエポキシ基がすべて反応せず、導入される(メタ)アクリル基が少なくなることにより、硬化性及び密着性が悪くなる場合がある。(B)成分は、多すぎると(B)成分同士で重合したポリマーが副生する可能性があるため3.0当量以下が好ましく、より好ましくは2.5当量以下である。
【0024】
[(C)塩基]
本発明の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの材料のひとつである(C)塩基は、(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、0.01〜0.1当量、特に0.02〜0.08当量であり、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。
【0025】
ここで、エポキシ環を(メタ)アクリル酸で開環し、(メタ)アクリル基を導入する反応のメカニズムは以下のように予想される。
【化5】

【0026】
3は水素原子又はメチル基を示し、R4及びR5はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、互いに同一の構造でも良い。
【0027】
上記のように、(メタ)アクリル酸が脱プロトン化したアニオン種がエポキシ環を攻撃して開環し、量論量存在する(メタ)アクリル酸よりプロトンを受け取り、開環生成物が得られると同時に、再び脱プロトン化したアニオン種が再生するというサイクルが予想される。この場合、上記アニオン種を発生させるためのものが必要となるが、アクリル酸と素早く反応すると考えられる塩基で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、特にNaOHやKOHが好ましい。
【0028】
上記アニオン種が少量でも発生すれば、反応のサイクルが形成されて進行するものと考えられるため、(C)成分は触媒量で良い。しかし、(C)成分が(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、0.01当量より少ない場合には反応の進行が遅くなる場合がある。また、(C)成分が(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、0.1当量より多い場合には副生する塩の処理に時間がかかってしまう場合がある。
【0029】
上記(A)成分と(B)成分との反応に際して、本発明においては、任意で溶剤を加えても良い。ただし、溶剤は塩基と反応しないものを選択しなければならない。仮に、アルコールなどのプロトン性極性溶剤を用いた場合は、(メタ)アクリル酸の脱プロトン化と共にアルコールの脱プロトン化も起こり、エポキシの開環が(メタ)アクリル酸のアニオン以外によっても起こってしまうため、(メタ)アクリル基の導入量が少なくなってしまうからである。本発明で用いられる溶剤としては、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0030】
本発明においては、任意で重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、以下に挙げるようなアルキルフェノール類がある。
p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン、4,4’−ジオキシジフェノール、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2,4,5−トリ−ヒドロキシブチロフェノン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、4−ハイドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、4,4−ビス(2,6−ジ−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオ−ビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ハイドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド、4,4’−チオ−ビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,2’−チオ−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)。
【0031】
また、アミン系の重合禁止剤も使用可能であり、以下に挙げるようなものがある。
アルキル化ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン。
【0032】
本発明の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンは、(A)エポキシ変性オルガノポリシロキサンと、(B)(メタ)アクリル酸とを、(C)塩基性触媒の存在下で必要により溶剤を加えて70〜110℃、特に80〜100℃で、8〜40時間、特に12〜30時間反応させることで得ることができる。得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの25℃におけるB型回転粘度計により測定した粘度の値は、50〜5000mPa・sが好ましく、より好ましくは100〜500mPa・sである。また、アクリル基の導入率は、通常90%以上、特に95%以上である。なお、アクリル基の導入率の算出方法は、後述する通りである。
【0033】
本発明で得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(2)で示される。
1m6nSiO(4-m-n)/2 (2)
(R1、m及びnは上記と同様であり、R6は(メタ)アクリロキシ基を含む有機基であり、好ましくは下記式(3)−1、(3)−2又は(4)で示される(メタ)アクリロキシ基含有有機基である。)
【化6】

(R、R3は上記と同様である。)
【0034】
(メタ)アクリル酸によるエポキシ環の開環は、式(3)−1、(3)−2のように、2パターンの開環生成物が予想されるが、これはアニオンの活性種が以下のように、2つの反応パスをもつからである。
【化7】

【0035】
エポキシの少置換側から攻撃するのがα、多置換側から攻撃するのがβであり、本発明ではどちらの生成物ができてもよく、これらの混合物でもよい。また、式(3)−1、(3)−2に示すように、ヒドロキシル基が同時に形成されるが、過剰量の(メタ)アクリル酸とのエステル化により、下記式(4)のようにアクリル基が2つ導入されたものであってもよく、式(3)−1、(3)−2で表される化合物との混合物であってもよい。
【化8】

(R、R3は上記と同様である。)
【0036】
6の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【化9】

(式中、破線は結合手を示す。)
【0037】
本発明の製造方法によって得られた(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンは、それ単独で又はこれとは重合度もしくは(メタ)アクリル基含有率の異なる同種のオルガノポリシロキサンと混合して放射線硬化性シリコーン組成物とすることができる。この場合、該組成物にはその特徴を損なわない範囲で種々の添加剤を添加してもよく、例えばアセトフェノン、ベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジメトキシベンゾフェノン、4−メチルアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾイントリアルキルシリルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンなどの光重合開始剤、ジエチルアミン、2−ジエチルアミンエタノール、ピペリジンのような酸素硬化阻害抑制剤、へキサジオールアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートのような反応性希釈剤、有機溶剤、レベリング剤、充填剤、帯電防止剤、消泡剤、顔料、オルガノポリシロキサン等を配合することができる。
【0038】
このような(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンを用いた放射線硬化性シリコーン組成物は、粘着テープの背面処理剤や、金属、プラスチックの保護コーティング剤、塗料用ベースとしての使用に適している。この使用に当たっては、これを紙、各種プラスチックフィルム、アルミニウム等の金属箔にバーコーター、グラビヤコーター、リバースコーターなどを用いて、又はスプレーすることによって0.05〜200μm程度、特に0.1〜150μm程度の膜厚となるように塗布した後、これに放射線を照射して硬化させればよい。この放射線としては、電子線、α線、β線、χ線又は水銀アーク、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプから発生する紫外線などが例示されるが、上記した塗膜を硬化させるための線量は電子線であれば2〜5Mrad程度でよく、紫外線のときには、例えば、2kWの高圧水銀灯(80W/cm)を使用したときに8cmの距離から0.01〜10秒照射すればよい。なお、紫外線照射の場合は、上記光重合開始剤を用いることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、例中の部は質量部であり、粘度、屈折率は25℃での測定値を示したものである。粘度の測定は、B型回転粘度計によるものであり、屈折率の測定は光屈折臨界角検出方式のデジタル屈折計RX−7000α((株)アタゴ製)によるものである。また、例中におけるアクリル導入率は下記方法により算出したものであり、基材密着性、剥離力の値は下記の試験法による測定値を示したものである。
【0040】
<アクリル導入率>
1H−NMRを用いて、合成したアクリル変性オルガノポリシロキサンのアクリル導入率を算出した。原料であるエポキシ変性オルガノポリシロキサンにおいて、Si原子に直接結合したメチレン基のプロトン(δ=0.54)は、反応前後で不変のプロトンであるため、このプロトンのピークを基準とした。アクリル基のプロトンは、δ=5.85,6.15,6.42の位置に現れ、基準となるメチレンのプロトンのピークの積分値を「1.00」としたときに、100%反応が理論的に進行した場合にはプロトンの数の関係からアクリル基のプロトンのピーク積分値は「0.50」となる。これより、下記式により、3つのアクリル基のプロトンのピーク積分値の平均を0.50で割り、百分率で表したものをアクリル導入率とした。
(アクリル導入率)
={(3つのアクリル基のプロトンのピーク積分値の平均)/0.50}×100(%)
【0041】
<基材密着性>
放射線硬化性シリコーン組成物を調製後、ロール塗布することでコロナ処理したポリエチレンラミネート紙、又はPETフィルムに約0.8g/m2の塗布量となるように塗布し、80W/cmの高圧水銀灯を2灯用い100mJ/cm2の照射量の紫外線を照射し、硬化皮膜を形成させた。得られた硬化皮膜表面を指で擦り、硬化皮膜の基材に対する密着性を確認した。○は硬化物が基材から剥がれ落ちない、△は硬化物が基材からやや剥がれ落ちる、×は硬化物が基材から剥がれ落ちる場合を示す。
【0042】
<剥離力>
上記の試験で得られた硬化皮膜表面に幅25mmのアクリル粘着テープTESA7475(商品名)を貼り付け、2kgのローラーを一往復させて圧着し、剥離力測定用のサンプルを作成した。
このサンプルに70gf/cm2の荷重をかけながら、70℃で20〜24時間エージングさせた。その後、引っ張り試験機を用いて180°の角度で剥離速度0.3m/分にて、貼り合わせたテープを引っ張り、剥離するのに要する力(N/25mm)を測定した。
【0043】
[実施例1]
撹拌装置、温度計、滴下ロート、還流冷却管を取り付けた500mLのセパラブルフラスコへ下記式(5)で表されるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(エポキシ当量490g/mol、粘度19mPa・s)を143.16部、NaOHを0.3部、ジブチルヒドロキシトルエンを9.78部、アンテージDp(川口化学(株)製;商品名(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン))0.0018部を入れ、オイルバスにて50℃まで加熱した。50℃に到達した時点で、アクリル酸を滴下ロートより43.24部滴下し、滴下終了後より昇温して90〜100℃にて24時間加熱撹拌した。その後、減圧下で120℃/3時間加熱して濃縮し、ろ過により淡黄色透明のオイル状のアクリル変性オルガノポリシロキサンを得た。
1H−NMRスペクトルの解析結果より、これは下記平均組成式(6)で示されるアクリル変性オルガノポリシロキサンであることを確認した(下記式中、Meはメチル基を示し、Acは下記式(7)〜(9)から選ばれる基である混合物である。)。このものの粘度は141mPa・s、屈折率1.439であった。また、アクリル導入率を表1に示す。
【化10】

(式中、破線は結合手を示す。)
【0044】
[実施例2]
滴下ロートより滴下するアクリル酸が32.43部であること以外は実施例1と同様の方法でアクリル変性オルガノポリシロキサンを合成した。アクリル酸滴下終了後、90〜100℃にて30時間加熱撹拌した。その後、減圧下で120℃/3時間加熱して濃縮し、ろ過により淡黄色透明のオイル状のアクリル変性オルガノポリシロキサンを得た。このものの粘度は138mPa・s、屈折率1.438であった。また、アクリル導入率を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
トルエンを49.12部加える以外は実施例1と同様の方法でアクリル変性オルガノポリシロキサンを合成した。滴下終了後より昇温して90〜100℃にて36時間加熱撹拌した。その後、減圧下で120℃/3時間加熱して濃縮し、ろ過により淡黄色透明のオイル状のアクリル変性オルガノポリシロキサンを得た。このものの粘度は140mPa・s、屈折率1.438であった。また、アクリル導入率を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例1で得られたアクリル変性オルガノポリシロキサン100部に対し、光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン5部を加えてよく混合し、ロール塗布することでコロナ処理したポリエチレンラミネート紙、又はPETフィルムに約0.8g/m2の塗布量となるように塗布し、80W/cmの高圧水銀灯を2灯用い、100mJ/cm2の照射量の紫外線を照射し、硬化皮膜を形成させた。硬化皮膜の基材密着性と剥離力を表2,3に示す。
【0047】
[実施例5]
実施例2で得られたアクリル変性オルガノポリシロキサンを使用したこと以外は実施例4と同様に硬化皮膜を形成させた。硬化皮膜の基材密着性と剥離力を表2,3に示す。
【0048】
[実施例6]
実施例3で得られたアクリル変性オルガノポリシロキサンを使用したこと以外は実施例4と同様に硬化皮膜を形成させた。硬化皮膜の基材密着性と剥離力を表2,3に示す。
【0049】
[比較例1]
特許文献1(特公平5−83570号公報)に倣ったアクリル変性オルガノポリシロキサンを合成した。すなわち、撹拌装置、温度計、滴下ロート、還流冷却管を取り付けた500mLのセパラブルフラスコへ平均組成式(5)で表されるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(エポキシ当量490g/mol)を143.16部、トルエン75.05部、ジブチルヒドロキシトルエンを0.060部、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン1.195部、アンテージDp(川口化学(株)製;商品名(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン))0.0024部を入れ、オイルバスにて50℃まで加熱した。50℃に到達した時点で、滴下ロートよりアクリル酸19.46部とアクリル酸無水物3.78部の混合物を滴下し、滴下終了後より昇温して90〜100℃にて40時間加熱撹拌した。その後、減圧下で120℃/3時間加熱して濃縮し、ろ過により淡黄色透明のオイル状のアクリル変性オルガノポリシロキサンを得た。このものの粘度は612mPa・s、屈折率1.436であった。また、アクリル導入率を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
比較例1で得られたアクリル変性オルガノポリシロキサン100部に対し、光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン5部を加えてよく混合し、ロール塗布することでコロナ処理したポリエチレンラミネート紙、PETフィルムに約0.8g/m2の塗布量となるように塗布し、80W/cmの高圧水銀灯を2灯用い、100mJ/cm2の照射量の紫外線を照射し、硬化皮膜を形成させた。硬化皮膜の基材密着性と剥離力を表2,3に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
実施例1〜3では、原料であるエポキシの量と同量以上のアクリルが導入されていることがわかる。これは、開環後に生成するヒドロキシル基(−OH)とのエステル化により生成したジアクリレート(上記式(9))も生成しているためであると考えられる。一方、比較例1ではアクリル導入率は87%にとどまっており、仕込んだアクリル酸がすべて反応することは困難であることが予想される。また、比較例1で合成したアクリル変性オルガノポリシロキサンの粘度は、実施例1〜3のものと比較して高くなっているが、これはエポキシとアクリルが反応するかわりに、エポキシが開環重合して高分子量体ができているものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
1m2nSiO(4-m-n)/2 (1)
(R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R2はエポキシ基を含有する有機基を示し、m>0、n>0であり、さらに0<m+n≦3である。)
で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサンと、
(B)(メタ)アクリル酸:(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、1.0当量以上となる量とを、
(C)塩基:(A)成分中に存在するエポキシ基1当量に対し、0.01〜0.1当量となる量を用いて反応させることを特徴とする下記平均組成式(2)
1m6nSiO(4-m-n)/2 (2)
(R1は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、R6は(メタ)アクリロキシ基を含む有機基である。m>0、n>0であり、さらに0<m+n≦3である。)
で示される(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項2】
(A)成分のエポキシ当量が200〜2000g/molである請求項1記載の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項3】
(C)成分が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である請求項1又は2記載の(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法に従って(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンを得た後、この(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサンに光重合開始剤を混合することを特徴とする放射線硬化性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法に従って放射線硬化性シリコーン組成物を得た後、この組成物を剥離紙基材に塗布して塗膜を形成し、次いで放射線を照射してこの塗膜を硬化することを特徴とするシリコーン剥離紙の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法によって得られる(メタ)アクリル変性オルガノポリシロキサン。
【請求項7】
請求項4記載の製造方法によって得られる放射線硬化性シリコーン組成物。
【請求項8】
請求項5記載の製造方法によって得られるシリコーン剥離紙。

【公開番号】特開2013−82895(P2013−82895A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195975(P2012−195975)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】