説明

17α−フルオロ−17β−ヒドロキシイミノメチルステロイド、それらを製造する方法および前記化合物を含んでなる医薬組成物

本発明は、一般式 (I) の17α-フルオロステロイドに関し、ここでR1 = HまたはCH3、R2およびR3 = H、ClまたはCH3、そして炭素原子6および7の間および炭素原子9および10の間に一重結合または二重結合が存在することができる。本発明は、また、前記化合物を含んでなる医薬組成物に関する。前記化合物は、ハイブリッド特性をもつ活性プロファイルを有し、5α-レダクターゼインヒビターとして、そして同時に高い効力のゲスタゲンとして作用し、こうして高濃度のアンドロゲンから生ずる男性および女性のある種の器官および組織における疾患の治療に適当である。他のホルモン物質、例えば、エストロゲン、テストステロンまたは他の強いアンドロゲンと関連して、前記化合物は男性および女性において避妊薬として使用するためにおよび他の同様な用途に適当である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、17α-フルオロステロイド、それらを製造する方法、およびこれらの化合物を含有する医薬組成物に関する。
【0002】
本発明による化合物は、5α-レダクターゼのインヒビターとしておよびプロゲストゲンとして同時に作用するような方法において、ハイブリッド特性の作用プロファイルを有する。したがって、本発明による化合物は、男性および女性のある種の器官および組織中のアンドロゲンのレベルが高い結果生ずる障害、例えば、アクネ、多毛症、脱毛症 (男性型) 、BPHおよび前立腺癌の治療に適当である。他のホルモン物質、例えば、エストロゲン、テストステロンまたは強いアンドロゲンと組合わせて、本発明による化合物は女性および男性の避妊薬として適当である。
【背景技術】
【0003】
先行技術
特許文献 - DE 100 43 846.6には、17-クロロメチレン化合物が開示されている。これらの化合物は、5α-レダクターゼを阻害するが、これらの化合物を使用する妊娠の維持についての研究により明瞭に証明されるように、天然のプロゲステロンと比較して弱いプロゲストゲンである。
【発明の開示】
【0004】
発明の説明
本発明は、技術水準から知られている化合物と比較して、いっそう広範な作用のプロファイルを有する化合物の発見を目的とすることに基づく。
この目的は、本発明によれば、式Iの前述の17α-フルオロステロイドにより達成される:
【0005】
【化1】

【0006】
式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2およびR3は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、そして炭素原子6および7の間に一重結合または二重結合が存在することができ、そして炭素原子9および10の間に一重結合または二重結合が存在することができる。
本発明の好ましい態様は、請求項2に記載の化合物、式IIの (E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシムである:
【0007】
【化2】

【0008】
本発明による請求項1に記載の化合物は、医薬組成物および製剤の製造に適する。医薬組成物および薬剤は、活性成分として、本発明による17α-フルオロステロイドを、適当ならば他の薬理学的または薬学的に活性な物質と混合して、かつ適当ならば薬学上許容される賦形剤および担体と一緒に含有する。
【0009】
本発明の好都合な態様は、前立腺の障害、男性型脱毛症、アクネおよび多毛症を治療する薬剤、男性および女性の避妊の薬剤および/または5α-レダクターゼを阻害する薬剤およびアンドロゲンにより好ましくないように影響を受ける癌、例えば、前立腺癌を治療する薬剤を製造するために本発明による17α-フルオロステロイドを使用することにある。
特に、本発明に従い達成される利点は、驚くべきことには、5α-レダクターゼの有意なインヒビターとしておよび高度に効力のあるプロゲストゲンとして作用する、構造的に新規な17α-フルオロステロイドが発見されたということにある。
【0010】
したがって、本発明による化合物は、ハイブリッド特性の作用のプロファイルを有する結果、男性および女性のある種の器官および組織中のアンドロゲンのレベルが高い結果生ずる障害、例えば、アクネ、多毛症、脱毛症 (男性型) 、BPHおよび前立腺癌の治療に適当である。女性において、5α-ジヒドロプロゲステロンの高いレベルは月経前症候群に関連する安寧の重大な混乱に寄与することがある。この症候群は5α-レダクターゼの阻害により好適に影響を受けることができる。
【0011】
本発明による化合物におけるプロゲステロンの作用の同時存在は、雄および雌の性における生殖腺機能の阻害に導く。治療の意図が不妊作用または生殖腺によるホルモン分泌の阻害を達成することであるとき、この作用は必要である。これはしばしば前立腺の障害 (良性前立腺過形成) の症例である。前立腺の障害のほかに可能な徴候は、両方の性における避妊、男性型脱毛症、アクネおよび多毛症、およびアンドロゲンにより不都合に影響を受ける癌 (前立腺癌) の治療である。
【0012】
他のホルモン物質、例えば、エストロゲン、テストステロンまたはテストステロンエステル、または強いアンドロゲンと関連して、本発明による化合物は女性および男性の避妊薬として適当である。後者の場合において、前立腺におけるテステステロンの作用は5α-レダクターゼの阻害に通して減少するが、プロゲステロンの活性は男性の生殖腺の作用、すなわち、精子形成の阻害を増強する。
【0013】
本発明による化合物を女性の避妊において使用する場合、それらは単独でまたはエストロゲンと組合わせて使用できる。適当なエストロゲンは原理的にエストロゲン活性を有するすべての化合物である: 使用できるエストロゲンは、例えば、エチニルエストラジオール、17β-エストラジオールおよびそのエステル、例えば、エストラジオール3-ベンゾエート、エストラジオール17-バレレート、-シピオネート、-ウンデシレート、-エナンテートおよび/またはそれ以上のエストラジオールのエステルおよび複合化エストロゲンおよびエストラジオールのプロドラッグおよび他の天然のエストロゲン、例えば、エストラジオール3-スルファメートである。
【0014】
本発明による化合物を男性の避妊において使用する場合、それらは単独でまたはアンドロゲンと組合わせて、適当ならばテストステロンまたはテストステロンエステルと組合わせて使用できる。
薬剤は既知の方法で製造され、薬学、化粧品およびアジュバント領域についての文献から知られている通例の薬学的賦形剤および担体を使用できる。
【0015】
本発明による請求項1に記載の化合物は、カプセル剤、丸剤、錠剤、被覆錠剤およびその他として経口的に、または非経口的に、例えば、腹腔内、筋肉内、皮下または経皮的に投与することができる。
また、化合物は組織の中に移植することができる。
投与単位は、活性成分のほかに、薬学上許容される担体、例えば、澱粉、糖、ソルビトール、ゼラチン、滑剤、シリカおよびその他を含有することができる。
【0016】
活性成分は、非経口的投与のために生理学的に許容される希釈剤の中に溶解または懸濁することができる。非常に頻繁に使用される希釈剤は、可溶化剤、表面活性剤、懸濁剤または乳化剤を含むか、あるいは含まない油である。使用する油の例は、オリーブ油、落花生油、綿実油、大豆油、ヒマシ油およびゴマ油である。
【0017】
また、本発明による請求項1に記載の化合物は、デポー注射剤または移植製品の形態で使用することができ、それらの各々は活性成分の遅延放出を可能とするように処方することができる。移植片は、不活性物質として、例えば、生物分解性ポリマーまたは合成シリコーン、例えば、シリコーンゴムを含有することができる。
【0018】
さらに、活性成分は、パッチの中に、例えば、経皮的投与のために添加することができる。
局所的投与のために本発明による化合物を配合された膣内系 (膣内リング) または子宮内系 (例えば、ペッサリー、コイル、IUS) を製造するために、種々のポリマー、例えば、シリコーンポリマー、エチレン/酢酸ビニル、ポリエチレンまたはポリプロピレンは適当である。
【0019】
また、化合物をシクロデキストリン包接体として処方することによって、活性成分の生物学的利用能を改良することができる。この目的のために、化合物をα-、β-またはγ-シクロデキストリンまたはそれらの誘導体と反応させる。
また、一般式Iの化合物は本発明に従いリポソームでカプセル化することができる。
【0020】
また、本発明は、請求項1に記載の化合物を治療的に活性な成分として、特に前立腺の障害、男性型脱毛症、アクネおよび多毛症を治療するため、男性および女性の避妊のため、および/または5α-レダクターゼを阻害するためおよびアンドロゲンにより好ましくないように影響を受ける癌、例えば、前立腺癌を治療するために使用することに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
典型的な態様
本発明による請求項1に記載の17α-フルオロステロイドの製造および物理的性質を、特に好ましい化合物 (E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシムの合成を例として下に例示する。
【0022】
【化3】

【0023】
(E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシム - ここで7 - の合成
段階A:
1,3-プロパンジオール (200 ml) 中のエストル-5(10)-エン-3,17-ジオン (CAS番号3962-66-1、15.1 g) 1およびピリジニウムトルエン-4-スルホネートPPTS (1.57g) の混合物をアルゴン雰囲気下に室温において20時間攪拌する。次いでこの混合物を飽和水性NaHCO3溶液上に注ぎ、沈殿した固体を吸引濾過する。固体をトルエンで2回洗浄し、トルエンを回転蒸発器で除去する。真空乾燥すると、3-(1’,3’-ジオキサン-2’-イル)-エストル-5(10)-エン-17-オン 2 が固体として得られる (17.6 g) 。1H-NMR (400 MHz、CDCl3、選択したデータ): δ= 0.88 (s、3H、Me) 、2.28-2.38 (m、2H) 、2.46 (dd、J = 9.1、7.8 Hz、1H) 、3.8-4.1 (m、4H、OCH2CH2CH2O) 。
【0024】
段階B:
ジメチルホルムアミド (180 ml) 中の段階Aからの化合物2 (15.0 g) の溶液を氷浴中で冷却し、カリウムt-ブチルアルコラート (KOtBu、10.9 g) を少しずつ添加する。氷冷混合物をアルゴン雰囲気下に2時間攪拌し、飽和水性NH4Cl溶液上に注ぎ、酢酸エチルで抽出する。次いで水および飽和ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥する。回転蒸発器中で濃縮すると、(17S)-スピロ-3-(1’,3’-ジオキサン-2’-イル)-エストル-5(10)-エン-17,2’-オキシラン3が粗生成物として得られ (結晶塊、16.2 g) 、これをそれ以上精製しないでさらに反応させる。粗生成物3についての選択した分析データ: 1H-NMR (400 MHz、CDCl3): δ= 0.89 (s、3H、Me) 、2.61 (d、J = 5.1 Hz、1H、C20H (a)) 、2.92 (d、J = 5.1 Hz、1H、C20H (b)) 、3.87-4.06 (m、4H、OCH2CH2CH2O) 。
【0025】
段階C:
結晶塊をジイソプロピルエチルアミン (ヒュニヒ塩基 (Huenig’s base) 、80 ml) 中に導入し、N-エチル-ジイソプロピルアミントリスヒドロフルオライド (50 ml) を添加する。還流下に20分間加熱した後、さらにジイソプロピルエチルアミン (50 ml) を添加し、この混合物を還流下に4時間加熱する。次いでそれを温室に冷却し、反応混合物を氷冷飽和水性NaHCO3溶液上に注意して注ぎ、ジクロロメタンで抽出する。有機相を水および飽和ブラインで洗浄し、濃縮する。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製すると、3-(1’,3’-ジオキサン-2’-イル)-17α-フルオロ-17β-ヒドロキシメチルエストル-4-エン (少量成分4) 、3-(1’,3’-ジオキサン-2’-イル)-17β-フルオロメチル-17α-ヒドロキシエストル-4-エン (主要成分) および他の未同定成分から構成された混合画分 (3.0 g) が得られる。19F-NMR (376 MHz、CDCl3): δ= -223.1 (t、J = 49 Hz、CH2F、主要成分); -16.2〜-161.8 (m、C-17フッ素原子、少量成分: 4) 。
【0026】
段階D:
段階Cからの混合画分をジクロロメタン (35 ml) 中に溶解し、アルゴン雰囲気下に、デス-マーチン (Dess-Martin) ペリオジナン (1,1-ジヒドロ-1,1,1-トリアセトキシ-1,2-ベンズ-ヨードキソル-3(1H)-オン、1.43 g) を添加する。室温において75分間攪拌した後、この混合物を10%強度の水性チオ硫酸ナトリウム溶液、飽和NaHCO3溶液およびブラインで洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥し、次いで回転蒸発器中で濃縮し、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィー (移動相: トルエン/酢酸エチル 15:1) により精製する。これにより、粘性泡状物 (729 mg) が得られ、これは3-(1’,3’-ジオキサン-2’-イル)-17α-フルオロエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒド5が主要成分として得られる。1H-NMR (400 MHz、CDCl3、選択したデータ): δ= 0.77 (s、3H、Me) 、3.87-4.04 (m、4H、OCH2CH2CH2O) 、9.77 (d、J (H、F) = 6.3 Hz、1H、CH=O) 、19F-NMR (376 MHz、CDCl3): δ= -164.1〜-163.9 (m、対称) 。
【0027】
段階E:
アセトン (12 ml) 中の段階Dからの泡状物 (719 mg) およびp-トルエンスルホン酸水和物 (230 mg) の混合物を室温においてアルゴン雰囲気下に5時間20分間攪拌し、飽和水性NaHCO3溶液で希釈し、酢酸エチルで抽出し、飽和ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥する。シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより2回精製すると、17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒド6が粗生成物として得られる。1H-NMR (400 MHz、CDCl3、選択したデータ): δ= 5.84 (s、1H、1-H) 、9.78 (d、J (H、F) = 5.8 Hz、1H、CHO) 。
【0028】
段階F:
段階Eからの粗生成物 (170 mg) をジクロロメタン (2 ml) およびピリジン (0.5 ml) 中に溶解し、氷冷浴中で冷却する。ヒドロキシルアミン塩酸塩 (23.3 mg) を添加し、氷冷溶液をアルゴン雰囲気下に1時間攪拌する。水を添加し、ジクロロメタンで1回、水性塩酸溶液 (0.5 M) で2回洗浄する。洗浄相をジクロロメタンで抽出し、一緒にした有機相を水および飽和ブラインで洗浄する。
【0029】
硫酸ナトリウムで乾燥し、次いで回転蒸発器中で濃縮すると、泡状物が得られ、これをシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製する。シクロヘキサン/アセトンから結晶化すると、(E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシム - ここで7 - が白色固体 (46 mg) として得られる。C19H26FNO2 (319.4)、1H-NMR (400 MHz、CDCl3): δ= 0.75 (s、3H、メチル) 、1.2-2.6 (m、20H) 、5.84 (s、1H、4-H) 、7.32 (br、s、1H、N=OH) 、7.51 (d、J = 9.0 Hz、1H、CH=N) 。19F-NMR (376 MHz、CDCl3): δ= -151.1〜-151.0 (m、対称) 。
【0030】
プロゲステロンレセプターの結合、性器皮膚ヒモジネート中の5α-レダクターゼ2型の活性に対する典型的なデータおよびin vivoデータを、(E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシムの例について下に列挙する。
【0031】
プロゲステロンレセプターに対する化合物Iの結合
生物学的物質: 子宮細胞質ゾル、ウサギ、プライムド
トレーサー: 3H-ORG 2058/インキュベーション条件 0〜4℃; 18時間
参照物質: プロゲステロン = 100%
相対結合アフィニティーRBA [%] : 131 ± 9%
【0032】
5α-レダクターゼ2型の活性
最適化された条件下にpH 5.5において性器皮膚ヒモジネート中。
化合物7: IC50 = 245 nM。
【0033】
PR-B拮抗作用および作動性
拮抗作用 IC50 (mol/L) = 3.39E-10
アゴニスト IC50 (mol/L) = 2.5E-10
【0034】
in vivoデータ
試験マウスにおける妊娠維持におけるプロゲステロン活性
【0035】
【化4】

【0036】
上記データは、5α-レダクターゼのインヒビターおよびプロゲストゲンとして作用する、本発明による化合物のハイブリッド特性のプロファイルを証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

(式中、
R1は水素原子またはメチル基であり、
R2およびR3は水素原子、塩素原子またはメチル基であり、そして
炭素原子6および7の間に一重結合または二重結合が存在することができ、そして
炭素原子9および10の間に一重結合または二重結合が存在することができる)
により表わされる17α-フルオロステロイド。
【請求項2】
請求項1に記載の17α-フルオロステロイド、すなわち、(E)-17α-フルオロ-3-オキソエストル-4-エン-17β-カルボアルデヒドオキシム:
【化2】

【請求項3】
前立腺の障害、男性型脱毛症、アクネおよび多毛症を治療する薬剤、男性および女性の避妊の薬剤、および/または5α-レダクターゼを阻害する薬剤およびアンドロゲンにより好ましくないように影響を受ける癌、例えば、前立腺癌を治療する薬剤を製造するための式Iの17α-フルオロステロイドの使用。

【公表番号】特表2007−532688(P2007−532688A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508792(P2007−508792)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003977
【国際公開番号】WO2005/100376
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】