説明

2つの結晶相の組合せを含む化合物の製造

本発明は、2つの結晶相の組合せを含む化合物に関する。第1結晶相は式:AabcModefg(式中、Aはアルカリ金属であり;EはTe,SbまたはBiであり;かつ0≦a≦3,0<b≦3,0≦c≦3,0<d≦13,0<e≦2,0≦g≦3である)で示される。第2結晶相は式:ZgMohij(式中、Zは3価希土類から選択され;Xは、元素V,Ga,Fe,Bi,Ce,Ti,Sb,Mn,Zn,Teから選択され;かつ0<g≦3,0≦h≦3,0≦i≦1である)で示される。指数fおよびjは、存在する元素の相対的な価数および原子比を満足するのに必要な酸素原子の数を表す。本発明はまた、前記化合物を製造する方法、および特にアルカンを酸化させるための触媒としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの結晶相がリンモリブデン型である2つの結晶相の組合せを含む化合物、更にその製造のための方法および該化合物の幾つかの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る化合物は、より詳細には、所定のアルカン酸化反応、特にイソブタンを酸化してメタクリル酸およびメタクロレインを与えることを触媒することを意図し、これはメチルメタクリレートの形成をもたらす。
【0003】
メタクリル酸およびメタクロレインをイソブタンの酸化によって得るために、2相(2相のうち1相はリンモリブデン型である)を含む、以下で言及する2つの刊行物から公知の触媒がある。
【0004】
Q.Dengら,J.Mol.Catal.A,229,(2005)165の刊行物において、触媒として使用する化合物は、リン(ヒ素)モリブデン酸相と、オルトリン酸第一鉄をベースとする相とによって構成される。2相において、リンの一部はヒ素で置換されることになる。従って、この触媒は多量のヒ素を含み、その毒性により触媒の工業的使用が制限される。
【0005】
T.Ushikobo,Catalysis Today,78,(2003)79−84の刊行物は、式(PMo11VO40)のヘテロポリ酸で形成された第1相と、予め硫酸で処理した酸化タンタルTa25によって構成された第2相とを含む触媒を記載する。この触媒の生産性は比較的低く、30 g.kg-1cata・h-1程度である。加えて、硫酸化された酸化物の経時安定性はあまり満足すべきものではなく、そしてメタクリル酸についての触媒の選択性はメタクロレインについてのものに対して低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、触媒として使用できかつ上記の不都合を有さない化合物、すなわち有毒元素を含まずかつ経時的に安定である触媒特性を有する化合物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の側面に従い、本発明は、2つの結晶相の組合せを含む化合物に関する。第1結晶相はリンモリブデン型であり、そして式(1):
abcModefg (1)
式中:
Aはアルカリ金属であり;
Eは、元素Te,SbおよびBi、好ましくはTeおよびBiから選択され;
指数a,b,c,d,e,gは、0≦a≦3,0<b≦3,0≦c≦3,0<d≦13,0<e≦2,0≦g≦3であるものであり、かつfは、存在する元素の価数および相対的な原子比を満足するのに必要な酸素原子の数を表す;
で示される。
好ましい態様に従い、アルカリ金属Aはセシウムである。
元素Eは好ましくはテルルである。
【0008】
第2結晶相は式(2):
gMohij (2)
式中:
Zは3価希土類から選択され;
Xは、元素V,Ga,Fe,Bi,Ce,Ti,Sb,Mn,Zn,Te、好ましくはV,Ga,Fe,Bi,Ce,Ti,Mn,Zn,Teから選択され;
指数g,hおよびiは、0<g≦3,0≦h≦3,0≦i≦1であるものであり、かつjは、存在する元素の価数および相対的な原子比を満足するのに必要な酸素原子の数を表す;
で示される。
【0009】
有利には、第1結晶相および第2結晶相はSb原子(これは毒性が高い)を含まず、従って化合物を工業スケールでより容易に使用することが可能になる。
【0010】
好ましい態様に従い、元素Zはランタンを表す。
同様に、好ましい態様に従い、元素Xはバナジウムである。
有利な態様に従い、第2結晶相の比率は、化合物の全質量基準で50質量%以下である。
【0011】
第1結晶相は、式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4で示されることができる。
第2結晶相は、式La2Mo29、または、先の式と比べてモリブデンの一部を置換したバナジウムを有する式La2Mo1.90.18.95で示されることができる。
本発明に係る化合物の例として、式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相と式La2Mo29の第2結晶相との組合せによって、および式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相と式La2Mo1.90.18.95の第2結晶相との組合せによって、形成されたものとして言及できるものがある。
【0012】
一般的に、本発明に係る化合物を製造するための方法は、以下の工程:
第1の粉末の形状の第1結晶相の合成;
第2の粉末の形状の第2結晶相の合成;
すり潰し(grinding)による前記第1および第2の粉末の混合;
を含む。
【0013】
この方法は、採用する実験条件に関してこれが優れた柔軟性を与え、各相が別個に調製されることによってその製法を問題の用途に対して容易に適合させることができるという利点のみでなく、これが、2相の最終的な混合が粉末の単純な機械的混合によって達成されるために実施が単純であるという利点をも有する。
【0014】
第1結晶相の合成は、以下の連続工程:
リンモリブデン酸と元素Eの化合物とを含む水性溶液の準備;
前記水性溶液と、元素Aの塩を含む水性溶液との混合;
固相を得るための前記の混合物の沈殿、乾燥および焼成;
前記の固体と、バナジウムの化合物を含むトルエン溶液との混合;
環境温度でのろ別および乾燥;
を含むことができる。
【0015】
元素Eの化合物としては、元素Eの酸(テルル酸等)、元素Eの塩化物またはアルコキシドが挙げられる。
元素Aの塩としては、炭酸塩または硝酸塩が挙げられる。
極めて特に好ましいのは炭酸セシウムである。
バナジウムの化合物としては、酸化バナジウムまたはバナジウムアセチルアセトナートが挙げられる。
【0016】
第2結晶相の合成は、以下の連続工程:
すり潰しによる、固体状態の酸化モリブデンMoO3と固体状態の元素Zの酸化物との混合;
前記の混合物の温度500℃程度への加熱;
前記の混合物の、温度500℃超での、最終生成物が粉末形状で得られるまでのアニーリングの連続操作の実施;
を含むことができる。
【0017】
元素ZがLaを表す場合、アニーリング温度は、約850℃から960℃である。そして使用する酸化物はLa23である。
元素Xを含む式(2)の第2結晶相を得ることが所望される場合、すなわち指数iが0以外である場合、酸化モリブデンの一部が元素Xの化合物によって置換される。Xがバナジウムを表す場合、使用する化合物は、酸化バナジウムまたはバナジン酸アンモニウムであることができる。
【0018】
本発明に係る化合物は、有利には、アルカン、特にイソブタン、プロパン、ペンタンの酸化のための触媒として使用される。イソブテンおよびメタクロレインを酸化してメタクリル酸を与えるための触媒としてもまた有利に使用できる。
【0019】
本発明に係る化合物は、本明細書の以下で例において説明するように、イソブタンを酸化してメタクリル酸およびメタクロレインを与えるための触媒として特に有効である。イソブタンから開始するメタクリル酸およびメタクロレインの調製は、イソブタンおよび水、ならびに任意選択的に不活性ガスおよび/または分子酸素を含むガス状の混合物を、本発明に係る化合物上に通過させることを含む。実施した試験は、本発明に係る化合物の2相の間で相乗効果が生じ、観察された活性は純粋な相の活性の単純和には対応しないことを示す。2相の間のこの相乗効果は、第2結晶相が、基体としてのみでなく、イソブタンをイソブテンに選択的に変換することによって共触媒として作用し、次いで得られるイソブテンを、第1相を形成するリンモリブデン化合物上でメタクリル酸に選択的に変換するという事実による。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書の以下で、具体的な例によって本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。例1および2は、本発明に係る化合物の製造および特性化、ならびにメタクリル酸およびメタクロレインを与えるためのイソブタンの酸化反応におけるこれらの触媒特性の検討を説明する。
種々の方法を用いて化合物を特性化した。これらの特性化方法を本明細書の以下に説明する。
【0021】
化学分析
化合物の化学分析のために、空気−アセチレンフレーム原子発光(Perkin-Elmerにより市販される分光計で)によってセシウムを分析し、そして他の元素は、ICPプラズマ(誘導結合プラズマ)原子発光によって、Spectroによって市販される分光計で分析した。分析のために用いた波長を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
比表面積の測定
比表面積はBET法によって測定した。−196℃で吸着した窒素の量を体積で測定した。各測定の前に、試料を、250℃での2次減圧下で2時間脱着した。
【0024】
赤外分光分析
赤外スペクトルは、BRUCKERにより照会番号VECTOR 22で市販されるFourier変換装置で、4000から400cm-1の間の透過で記録した。試料は、約1mgの固形分を300mgのKBr中で希釈した後にディスク形状に調製した。
【0025】
触媒試験
イソブタン酸化反応についての触媒試験は、図1中にダイアグラムの形で示す装置上で行った。
【0026】
使用したガス(水素、酸素、イソブタン、窒素)は、弁1a,1b,1cおよび1dによってそれぞれ、BROOKFIELD型の質量流量計2a,2b,2cおよび2dを用いて分配し、それぞれの流量の正確な管理を可能にする。パイプ内での凝縮を避けるために、ホットボックス4は、オーブン5に付随する温度管理システム3によって169℃に維持する。水は、ホットボックス4内で、酸素および水素から出発し、Al23上に担持された白金をベースとする触媒8上で合成する。ホットボックス4は、四方弁9を備える。凝縮システム7を有するPyrex 6で形成された縦型固定床反応器を用いる。触媒をフリット上に配置し、そしてグローブの指(図示せず)により触媒床内で温度を直接測定することが可能になる。これは結果の全表中に記録する温度である。典型的には、試験した触媒の質量は2.0gである。
【0027】
凝縮システム7は、凝縮性有機化合物を捕捉するために反応器6の出口に取付ける。ハイドロキノン水溶液を含む捕捉物は氷中0℃で維持する。非凝縮性ガス(CO,CO2,C410,C48,N2およびO2)は、捕捉システムの後クロマトグラフィによりインラインで分析する。
【0028】
分析のシステムは、2つの気相クロマトグラフおよび液相クロマトグラフで構成される。第1の2つ(これらはインラインで組込まれている)によりガスの分析が可能になる。第1のクロマトグラフ10(これはモレキュラーシーブ11(CP−MOLSIEVE(登録商標)5Å)を備える)、充填カラム13(PORAPAK Q(登録商標))および六方弁12により、CO,CO2,N2およびO2の分離および定量が可能になる。装置は、検出器14(これはcatharometerである)を備え、媒介(vector)ガスはヘリウムである。このシステムはイソブタンおよびイソブテンの検出を可能にするがこれらの分離は可能にしない。充填カラム(Silica−Plot(登録商標))を備える第2のクロマトグラフ(単純にする理由で示していない)を用いて分離を達成する。各温度について4分析を実施し、これらは、凝縮時間約120分を示す。
【0029】
凝縮性生成物(メタクリル酸および酢酸、メタクロレイン、アセトンおよびアクリル酸)は、充填カラム16(Silica−Plot(登録商標))およびカラム17(CP−Sil(登録商標))、ならびにCPWAX58/FF(登録商標)カラムを含むFID検出器を備えたCHROMPACK 9001クロマトグラフ15で分析する。測定システムを、参照番号18にてダイアグラムで示し、そして対照システムを参照番号19にてダイヤグラムで示す。使用する媒介ガスは窒素である。注入は、CP9005型のCHROMPACK自動サンプルチェンジャーを用いて実施する。注入する体積は0.5mlでサンプル当り5回の注入を行った。測定誤差は2%未満である。
【0030】
得られたクロマトグラムは、メタクリル酸、アクリル酸、酢酸およびメタクロレインの特徴的なピークを示す。
【0031】
活性および選択性は、以下の反応生成物:メタクリル酸(MAA)、メタクロレイン(MA)、酢酸(AAc)、アクリル酸(Acr)、アセトン(Ace)、COおよびCO2を考慮に入れて算出した。
【0032】
因子Fは、希釈効果による誤差を見積もるための内部較正についての換算および選択性の算出に導入した。この因子は、窒素の初期のモル数の、反応器の出口で測定される窒素のモル数に対する比によって決定する。従って、反応物質R(イソブタンまたは酸素)の換算は、等式:
【0033】
【数1】

【0034】
(式中、N(R)0は、初期反応混合物中の反応物質Rのモル数であり、N(R)は、試験中の時間tにおける反応物質Rのモル数である)
によって規定する。
【0035】
種々の生成物の選択性(S)は、以下の等式:
【0036】
【数2】

【0037】
(式中、N(P)は試験中の時間tにおける生成物Pのモル数であり、nc(P)は生成物Pの分子中の炭素(または酸素)数である)
によって規定する。
【0038】
生成物Pの収率(R(P))は、等式:
R(P)=C(R)*S(P)
によって規定する。
【0039】
炭素および酸素の価数は、生じた生成物の量および反応物質の換算を測定することによって各分析について算出した。これらの価数は、以下の等式:
410+2O2→C462+2H2
410+3/2O2→C46O+2H2
410+5/2O2→2C242+H2
3C410+7/2O2→4C36O+3H2
3C410+15/2O2→4C342+7H2
410+13/2O2→4CO2+5H2
410+9/2O2→4CO+5H2
を考慮してもたらされる。
【0040】
触媒試験についての実験条件は、特記がない限り以下の通りである:2グラムの触媒を反応器内に充填する。反応温度は310から370℃で変わる。総流速は、14から24ml・分-1で変わる。触媒の測定される密度は1.2であるため、接触時間は典型的には触媒1グラムについて4.8秒程度、すなわち、時間体積速度2600h-1である。触媒は、以下の比:C410/O2/H2O/N2=27/13.5/10/49.5で規定される標準供給条件下で試験した。
【0041】
触媒なしでイソブタンの変換が起こらないことを確実にするために、反応器を空で350℃で試験した。イソブタンの変換はこの温度では観察されなかった。イソブタンの流速の関数としてのイソブタン変換の線形変化(linear evolution)もまた調べた。
【0042】
例1
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo29の化合物
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相の合成
互いに独立に2つの溶液を準備する。
第1の溶液は、8.16gのリンモリブデン酸(Flukaにより照会番号79560で市販される)と、0.18gのテルル酸(Interchimにより照会番号014197で市販される)とを、140mlの水に溶解させることによって準備する。
第2の溶液は、1.3gの炭酸セシウム(Interchimによって照会番号012887で市販される)を0.4mlの水に溶解させることによって準備する。
【0043】
第2の溶液を第1の溶液に、撹拌しながら添加する。沈殿した固形分をロータリーエバポレータ内で80℃で回収し、オーブン内で120℃で乾燥し、そして360℃で6時間焼成した(昇温5°・分-1、空気流50ml・分-1)。
【0044】
得られる固形分(6.5g)を、トルエン中に溶解したバナジウムアセチルアセトナート(V[C5273)(0.16g)(Flukaにより照会番号1347−99−8で市販される)と反応させる。
【0045】
反応の進行は、開始時に着色しておりバナジウムが不溶性の固形分と反応するとその色がなくなる、溶液の色の変化によって監視する。反応は、アルゴン下10から12時間後に完了する。
【0046】
第1結晶相の特性化
固形分は化学分析によって特性化した。原子比Cs/Mo,P/Mo,Te/MoおよびV/Moは、化学分析の結果から出発して算出し、そして比表面積Sは、触媒試験後に測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
算出したストイキオメトリーは所望のものに対応する。
【0049】
固形分もまた、赤外分光分析によって、窒素下360℃でのアニール後に特性化した。バンドの帰属を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
観察された線は、式[PMo1240.4-のケギン構造を有するアニオンの特徴である。指数a,b,cおよびdは、このアニオン中の異なる場所に位置する酸素原子に対応する。アニオンは、3の4グループの12MoO68面体で囲まれた中心の4面体(P-O4)によって構成される。トリマー(この中で8面体は端部を共有する)は、互いに、および中心4面体と頂点によって結合している。金属原子の場所は等価である一方、酸素原子の場所はそうではない。4種の酸素原子:4面体(P-O4)と、端部を共有する3つのMoO68面体とに共通している4個の酸素原子(Oa)、頂点を共有する2つの8面体に共通している12個の酸素原子(Ob)、端部を共有する2つの8面体に共通している12個の酸素原子(Oc)、および二重結合によって単一金属原子に結合した12個の酸素原子(Od)、は区別される。
【0052】
第1結晶相の触媒特性
a)反応時間の関数としての触媒特性の変化
時間の関数としての第1結晶相の触媒特性の変化を検討した。図2は、上記の標準条件下で反応温度350℃での触媒試験の間の、変換(C,%)の時間(t,時間単位)での変化を示す。試料の強い不活性化が反応の開始時に約5時間観察され、続いて安定化が観察される。触媒試験前後の比表面積の測定は、これが小さくなり、28から11.8m2・g-1に変わることを示す。
【0053】
b)温度の関数としての触媒特性の変化
試料の触媒性能を以下の表4に示す。試験は3つの温度T:330、345および350℃で行った。
【0054】
【表4】

【0055】
c)接触時間の関数としての触媒特性の変化
試料の触媒特性における接触時間の影響もまた、標準試験条件下、350℃で反応物質の流速を変えることによって検討した。図3は、メタクロレイン(◆)(すなわち黒◇)、メタクリル酸(黒△)、酢酸(黒○)、CO(○)およびCO2(□)に対する選択性(S,%)、ならびにイソブタンの変換(黒□)(C,%)の、接触時間(t,秒単位)の関数としての変化を示す。接触時間が増大すると、イソブタン変換およびCO,CO2および酢酸に対する選択性の増大、ならびにメタクロレインおよびメタクリル酸に対する選択性の低減を引き起こすことが観察される。
【0056】
d)イソブタン/酸素のモル比の関数としての触媒特性の変化
バッチの組成物は、メタクリル酸を与えるためのイソブタンの酸化反応において極めて重要な役割を果たすため、イソブタン/酸素(iBu/O2)のモル比もまた、検討パラメータとして選択した。接触時間は4.8秒で、窒素パーセントおよび水パーセントはそれぞれ49.5および10%で、および反応温度は340℃で固定した。得られた結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
e)窒素分圧の関数としての触媒特性の変化
触媒性能における窒素分圧の影響もまた検討した。接触時間は4.8秒で、イソブタン/酸素の比は2で、そして反応温度は340℃で固定した。得られた触媒の結果を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
f)触媒試験後の第1相の特性化
第1相は、触媒試験後にX線回折および赤外分光分析によって特性化した。試験後の回折図は試験前と同等であり、著しい変性が起こらなかったことを示す。赤外分光分析による特性化の結果を表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
触媒試験を行う前に試料で観察されたのと同じ線が見られる。
【0063】
式La2Mo29の第2結晶相の合成
この相は、MoO3(Chempurにより照会番号005565で市販される)とLa23(Alfa Aesarにより照会番号011264で市販される)との間の固体状態での反応によって得られる。そのために反応物質をストイキオメトリー比率で計量し、そしてめのう乳鉢内ですり潰す。経時的な水和およびLa(OH)3の形成を回避するために化合物La23は予め1000℃に加熱されている。
【0064】
次いで、混合物をアルミニウムの舟形皿に移す。これに500℃で予熱を施し、次いで2回連続アニーリング操作を15時間、温度960℃で続ける。この間で、混合物は、これを均一化して、純粋な生成物が得られるまでグレインの良好な分散を確保するためにアセトン中ですり潰す。生成物の純度は、相組成に関してX線回折によって調べる。
【0065】
第2結晶相の特性化
第2相は、X線回折によって特性化した。第2相の回折図(図中、強度はカウント毎秒(CPS)単位で示される)(図4)は、モリブデン酸ランタンの立方相のものに対応する。
【0066】
第2結晶相の触媒特性
第2結晶相の触媒性能を以下の表8に示す。試験は、温度360℃で反応混合物イソブタン/O2/H2O/N2=27/13.5/10.0/49.5を用い、接触時間4.8秒で行った。
【0067】
【表8】

【0068】
最終化合物の製造
最終化合物は、第1相と第2相とを単純に機械的にすり潰して混合することにより製造した。
2つの相の比率をそれぞれ変えて種々の試験を行った。これらの試験に対応する試料に起因する組成および数を表9に纏める。
【0069】
【表9】

【0070】
最終化合物の触媒性能
化合物1a,1bおよび1cの触媒特性を多くの実験条件下で試験した。
【0071】
得られた結果を表10および図5aおよび5bに纏める。これらはイソブタン(黒□)の変換C(%単位)、MMA(黒△)およびMA(黒◇)に対する選択性(%単位)ならびにMMAおよびMAの収率r(◇)の345℃(図5a)および369℃(図5b)での変化を、モリブデン酸ランタンの質量含有量(LMと表す,%単位)の関数として示す。各化合物は標準条件下および3種の異なる温度で試験した。
【0072】
【表10】

【0073】
メタクリル酸に対する選択性の増大は低温で認められ、最大でモリブデン酸ランタン約30%である。従って、観察される活性は純粋な相の活性の合計に対応せず、相間の相乗効果が生じた。メタクリル酸およびメタクロレインの収率は、混合物が50質量%のモリブデン酸ランタンを含む場合、約1%下がるのみである。
【0074】
20%のモリブデン酸塩を有する混合物(化合物1a)の触媒試験のための条件は、酸素により富む反応媒体を選択することによって変えた。温度は360℃で接触時間は4.8秒である。得られた結果を表11に示す。
【0075】
【表11】

【0076】
変換は、選択性における何らの顕著な低下もなく増大する。従って、メタクリル酸およびメタクロレインに対する選択性57%および78(gMMA,kg-1 触媒・h-1)に達する生産性とともに22%の変換が得られる。
【0077】
触媒試験前(回折図a)および触媒試験後(回折図b)の化合物1cのX線回折図を表6に示す(強度は、カウント毎秒(CPS)で与えられる)。記号(黒▽)は、第2結晶相La2Mo29に対応するピークを表す。これらの回折図は何らの相変換も示さない。
【0078】
例2
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo1.90.18.95の化合物の製造
この化合物は、例1のものと同一の第1相と、異なる第2相とから構成されている。
【0079】
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相の合成
第1結晶相は、例1の第1相と同じ実験条件を用いて調製した。
【0080】
式La2Mo1.90.18.95の第2結晶相の合成
第2結晶相は、化合物V25(Alfa Aesarによって照会番号81110で市販される)をMoO3およびLa23にストイキオメトリー比率で添加したこと、ならびに、予熱後、混合物に15時間続く温度925℃での7回連続アニーリング操作を施したことを除いて、例1の第2相について記載したのと同様の実験条件下で合成した。
【0081】
第2結晶相の特性化
第2相はX線回折によって特性化した。第2相の回折図(図7,図中の強度Iはカウント毎秒で示される)は、モリブデン酸ランタンの立方相のものに対応する。
【0082】
第2結晶相の触媒特性
第2結晶相の触媒性能を以下の表12に示す。試験は温度360℃、接触時間6秒で、供給条件(C410/O2/H2O/N2比で規定される)を変えて行った。
【0083】
【表12】

【0084】
最終化合物の製造
最終化合物は、第1相と第2相とを単純に機械的にすり潰して混合することにより製造した。
種々の試験を行い、2相の比をそれぞれ変えた。これらの試験に対応する試料に起因する組成および数を表13に纏める。
【0085】
【表13】

【0086】
最終化合物の触媒特性
化合物2aおよび2bについて種々の反応条件下で得られた結果を表14に纏める。
【0087】
【表14】

【0088】
化合物1a,1bおよび1cと比べて、得られた触媒はより大きい活性とMMAについてのより大きい選択性との両者を有すると考えられる。最大活性は、第1結晶相に富む混合物(化合物2a)で観察される一方、最適な選択性は、化合物2b(第1結晶相50%/第2結晶相50%)で観察される。
【0089】
CO2の量の関数としての触媒特性の変化
例2に係る化合物(Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo1.90.18.95)の触媒性能を以下の表15に示し、そして図8に纏める。
図8は、(MMA+MA)の生産性(黒◇)、(MMA+MA)に対する選択性(黒□)およびイソブタン変換(黒△)の、反応混合物中のCO2の量の関数としての変化を示す。
【0090】
試験は、第1結晶相と第2結晶相との間の質量比50/50を有する化合物Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo1.90.18.95について、触媒質量1.45g、接触時間4.8秒、温度345℃で行った。体積比iC410/O2/H2O/N2/CO2は、40/20/10/58.5/X(ここでXは、以下の表15に示すCO2のパーセントを示す)である。
【0091】
【表15】

【0092】
MMAに対する選択性とMAに対する選択性との合計により与えられる(MMA+MA)に対する選択性の増大は、反応混合物中のCO2量が増大する場合に観察される。
【0093】
全圧の関数としての触媒特性の変化
例2に係る化合物Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo1.90.18.95の触媒性能を以下の表16に示す。全圧は、反応媒体に掛かる全圧に対応する。
試験は、第1結晶相と第2結晶相との間の質量比50/50を有する化合物Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4/La2Mo1.90.18.95について行った。
2つの供給条件(SC):
a:iC410/O2/H2O/N2=27/13.5/10/49.5;
b:iC410/O2/H2O/N2=40/20/10/30;
を用いる。
【0094】
【表16】

【0095】
これらの結果は、全圧の増大が、MMA+MA選択性と生産性との両者の正味の増大を引き起こすことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0096】
(原文に記載なし)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5A】

【図5B】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1結晶相と第2結晶相との組合せを含み、該第1結晶相がリンモリブデン型であり、該第1結晶相が、式(1):
abcModefg (1)
式中:
Aはアルカリ金属であり;
Eは、元素Te,SbおよびBiから選択され;
指数a,b,c,d,e,gは、0≦a≦3,0<b≦3,0≦c≦3,0<d≦13,0<e≦2,0≦g≦3であるものであり、かつfは、存在する元素の価数および相対的な原子比を満足するのに必要な酸素原子の数を表す;
で示され、
かつ、該第2結晶相が、式(2):
gMohij (2)
式中:
Zは3価希土類から選択され;
Xは、元素V,Ga,Fe,Bi,Ce,Ti,Sb,Mn,Zn,Teから選択され;
指数g,hおよびiは、0<g≦3,0≦h≦3,0≦i≦1であるものであり、かつjは、存在する元素の価数および相対的な原子比を満足するのに必要な酸素原子の数を表す;
で示される、化合物。
【請求項2】
Aがセシウムを表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
EがTeまたはBiである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
Eがテルルを表す、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
Zがランタンを表す、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
Xが、V,Ga,Fe,Bi,Ce,Ti,Mn,Zn,Teである、請求項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
Xがバナジウムを表す、請求項1〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
第2結晶相の比率が、化合物質量基準で50質量%以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
第1結晶相が、式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4で示される、請求項1〜8のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
第2結晶相が、式La2Mo29で示される、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
第2結晶相が、式La2Mo1.90.18.95で示される、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相と式La2Mo29の第2結晶相との組合せによって形成される、請求項1〜11のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
式Cs2Te0.30.10.2PMo1240.4の第1結晶相と式La2Mo1.90.18.95の第2結晶相との組合せによって形成される、請求項1〜12のいずれかに記載の化合物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の化合物を製造する方法であって、以下の工程:
第1の粉末の形状の第1結晶相の合成;
第2の粉末の形状の第2結晶相の合成;
すり潰しによる前記第1および第2の粉末の混合;
を含む、方法。
【請求項15】
第1結晶相の合成が、以下の連続工程:
リンモリブデン酸と元素Eの化合物とを含む水性溶液の準備;
前記水性溶液と、元素Aの塩を含む水性溶液との混合;
固相を得るための前記の混合物の沈殿、乾燥および焼成;
前記の固体と、バナジウムの化合物を含むトルエン溶液との混合;
環境温度でのろ別および乾燥;
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
元素Eの化合物が酸、塩化物またはアルコキシドであり、元素Aの塩が炭酸塩または硝酸塩であり、かつバナジウムの化合物が酸化バナジウムまたはバナジウムアセチルアセトナートである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第2結晶相の合成が、以下の連続工程:
すり潰しによる、固体状態の酸化モリブデンMoO3と固体状態の元素Zの酸化物との混合;
前記の混合物の温度500℃程度への加熱;
前記の混合物の、温度500℃超での、最終生成物が粉末形状で得られるまでのアニーリングの連続操作の実施;
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
元素Xの化合物で酸化モリブデンの一部を置換した、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
元素Xの化合物が、酸化バナジウムまたはバナジン酸アンモニウムである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれかに記載の化合物の、アルカンの酸化のための触媒としての使用。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれかに記載の化合物の、イソブタンを酸化してメタクリル酸およびメタクロレインを与えるための触媒としての使用。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載の化合物の、イソブテンおよびメタクロレインを酸化してメタクリル酸を与えるための触媒としての使用。

【公表番号】特表2009−526730(P2009−526730A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554809(P2008−554809)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000260
【国際公開番号】WO2007/093702
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(508246870)ユニベルシテ デュ メーヌ (2)
【Fターム(参考)】