説明

2軸スクリュー抽出装置

【課題】難燃剤を含有するプラスチックから難燃剤を溶剤で溶出して除去する2軸スクリュー抽出装置において、装置を大型にせずに生産性を向上させて廃プラスチックの再生コストを低減させる2軸スクリュー抽出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】逆送りスクリュー4と4’とを間隙を空けて設け、かつ逆送りスクリュー4と4’との間に順送りスクリュー12を設けることによって、原料7の供給量が増大した場合に、逆送りスクリュー4部だけでは十分に分離除去できなかった難燃剤の溶解液を逆送りスクリュー4’部で再度分離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出対象物と樹脂とを含む原料から抽出対象物のみを除去して素材となる樹脂を抽出する2軸スクリュー抽出装置に関し、特に熱可塑性樹脂と難燃剤とを含む原料から難燃剤のみを除去する2軸スクリュー抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家電リサイクル法の施行により、回収した家電製品に使用されている材料の再利用が生産者に義務付けられている。この一環として、家電製品の外装筐体などに多用されている廃プラスチックから素材となる樹脂を抽出して再利用する要求が高まってきている。
回収された廃プラスチックは、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS、耐衝撃性を向上させたハイインパクトポリスチレン(HIPS)等の熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂を燃え難くする難燃剤と、着色剤などの添加剤とから構成されている。これらのプラスチックの多くは、難燃剤としてポリ臭素化ビフェニル、ポリ臭素化ビフェニルエーテルなどの臭素系難燃剤が用いられている。しかし近年、これらの臭素系難燃剤は、RoHS指令(特定有害物質使用禁止令)で環境負荷物質に指定され、製品への含有量が規制されている。したがって、環境負荷物質に指定された臭素系難燃剤を含む廃プラスチックを再利用するためには、臭素系難燃剤の含有量を規制値以下に除去する必要がある。
このような背景から、環境負荷物質である難燃剤を含むプラスチックから難燃剤を除去する方法が色々提案されている。例えば、2軸スクリュー抽出装置を利用する方法もその一つである。図2は、特許文献1に開示されている従来の2軸スクリュー抽出装置の要部を示した断面概略図である。つぎに、この装置の構成について説明する。
【0003】
2軸スクリュー部8は、難燃剤と熱可塑性樹脂とを含むプラスチックからなる原料7を供給する原料供給口3と、難燃剤のみを溶解させる溶剤を供給する溶剤供給口1と、難燃剤を溶剤に溶解させた溶解液を排出する溶解液排出口2と、難燃剤を除去した原料7を排出する原料排出口9と、原料7を原料供給口3から原料排出口9へ搬送する第1の順送りスクリュー10と、第1の順送りスクリューとは逆の方向へ原料7を搬送する逆送りスクリュー4と、逆送りスクリュー4部を通過した原料7(難燃剤が除去された原料)を原料排出口9へ搬送する第2の順送りスクリュー11とから構成されている。そして、原料供給口3、溶解液排出口2、溶剤供給口1、原料排出口9がこの順に配置され、逆送りスクリュー4が溶剤供給口1と原料排出口9との間に設けられている。
原料供給口3から供給された原料7は、第1の順送りスクリュー10の回転によって原料排出口9の方向すなわち矢印6で示した方向へ搬送される。このとき、原料7に含まれている熱可塑性樹脂は機械的な摩擦熱によって熱溶融される。原料7が逆送りスクリュー4部に達すると、逆送りスクリュー4の回転によって原料7の搬送が抑制され、原料7は圧縮されながら逆送りスクリュー4部を通過する。一方、溶剤供給口1から供給された溶剤は原料7と混練されながら逆送りスクリュー4部へ搬送される。この過程で難燃剤は溶剤に溶解される。難燃剤の溶解液は、逆送りスクリュー4部で圧縮された原料の圧縮力によって表面に押し出される。表面に押し出された溶解液は、逆送りスクリュー4部のバレル内が圧縮された原料7で充満されているため、逆送りスクリュー4部を通過することができず、原料7の搬送方向とは逆の方向すなわち矢印5で示した方向へ押し流されて、溶解液排出口2から排出される。難燃剤が除去された原料7は、逆送りスクリュー4部を通過し、第2の順送りスクリュー11で搬送され原料排出口9から排出される。
【特許文献1】特願2003−576067号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の2軸スクリュー抽出装置は、原料供給量と難燃剤溶解液の除去率との間に最適条件があり、最適条件以上に原料給料量を増加すると原料給料量に比例して逆送りスクリュー部から漏洩する難燃剤溶解液の漏洩量が増加する問題があった。この問題を解決するために、原料の供給量に応じてバレルの径および各スクリューの径を大きくすることが考えられる。しかし、バレルとスクリューとの間隙は加工精度を要するため、バレルおよびスクリューを大きくすればするほど、加工費が嵩み装置コストが高くなり、廃プラスチックの再生コストが高くなるという問題点があった。
そこで本発明は、装置を大型にせずに生産性を向上させて廃プラスチックの再生コストを低減させる2軸スクリュー抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の課題を解決するために本発明の2軸スクリュー抽出装置は、抽出対象物と樹脂とを含む原料を供給する原料供給部と、抽出対象物を溶解させる溶剤を供給する溶剤供給部と、抽出対象物を溶剤に溶解させた溶解液を排出する溶解液排出部と、抽出対象物を溶剤に溶解して、抽出対象物を分離除去した原料を排出する原料排出部と、原料を原料供給部から原料排出部へ搬送する第1の順送りスクリューと、原料を第1の順送りスクリューとは逆の方向へ搬送する第1の逆送りスクリューとを有する2軸スクリュー部とを有し、原料供給部と溶解液排出部と溶剤供給部と原料排出部とがこの順に配置され、第1の逆送りスクリューが溶剤供給部と原料排出部との間に配置されている2軸スクリュー抽出装置であって、第1の逆送りスクリューと原料排出部との間に第2の逆送りスクリューを設け、第2の逆送りスクリューと原料排出部との間に第2の順送りスクリューを設け、第1の逆送りスクリューと第2の逆送りスクリューとの間に第2の溶解液排出部を設けたことを特徴とする。このような構成にすることによって、装置を大型にせずに生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の2軸スクリュー抽出装置によれば、装置を大型にせずに生産性が向上し、装置コストおよび廃プラスチックの再生コストの低減が図れる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照にして説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明による2軸スクリュー抽出装置における2軸スクリュー部14の構成例の主要部を示した断面概略図である。尚、図2と同じ構成要素については同じ番号を付与し、詳細については説明を省略する。
図2と異なる点は逆送りスクリューを2段設置した点である。すなわち、第1の逆送りスクリュー4と原料排出口9との間に第2の逆送りスクリュー4’を設け、第2の逆送りスクリュー4’と原料排出口9との間に第2の順送りスクリュー13とを設け、かつ第1の逆送りスクリュー4と第2の逆送りスクリュー4’との間に第2の溶解液排出口2’を設けた点である。
第1の逆送りスクリュー4と第2の逆送りスクリュー4’との間には第3の順送りスクリュー12が設けられている。このような構成にすると、原料7の搬送が順調になる点で好ましい。尚、第1の逆送りスクリュー4と第2の逆送りスクリュー4’との間に間隔を設けた理由は、2つの逆送りスクリューを直結すると逆方向の送りが強くなり過ぎて原料を原料排出口9側へ送り出せなくなるからである。
【0008】
第2の逆送りスクリュー4’部で溶解液を原料から分離するためには、原料7への圧縮力を第1の逆送りスクリュー4部よりも更に大きくする必要がある。そこで、第1の逆送りスクリュー4の送りピッチよりも第2の逆送りスクリュー4’の送りピッチを狭くしている。第2の逆送りスクリュー4’の送りピッチを第1の逆送りスクリュー4の送りピッチに対して1/2〜1/3とすると、溶解液の分離除去率が向上する点で好ましい。
本発明に適用できるプラスチックとしては、難燃剤を含む樹脂あるいは難燃剤の他に難燃助剤・滑剤・安定剤・酸化防止剤・着色剤・流動改質剤・離型剤などの添加剤が含有している樹脂などが用い得る。
抽出対象物である難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA(TBA)などのビスフェノールA型の難燃剤、デカブロモジフェニルエーテル・オクタブロモジフェニルエーテル・テトラブロモジフェニルエーテルなどの難燃剤、トリブロモフェノール・エチレンビステトラブロモフタルイミド・ヘキサブロモシクロドデカン・TBAポリカーボネートオリゴマー・ビストリブロモフェノキシエタン・臭素化ポリスチレン・TBAエポキシオリゴマー・ポリ臭素化ビフェニル、ポリ臭素化ビフェニルエーテルなどの臭素系難燃剤、パークロロシクロペンタデカン・クロレンド酸・塩素化パラフィンなどの塩素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤などがある。廃プラスチックに含まれている難燃剤の含有率は、要求される難燃グレードによって異なるが、一般的に数wt%から5、60wt%である。
【0009】
樹脂としては、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−ブダジエン−アクリロニトリル、スチレン−ブタジエン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−アクリロニトリル、スチレン−無水マレイン酸などのスチレン系樹脂、ポリプロピレン、ABS、ハイインパクトポリスチレンなどの熱可塑性樹脂あるいはこれらの樹脂を混合した複合樹脂が用い得る。これらの樹脂の分子量は、3,000〜1,000,000程度が望ましい。
難燃剤の溶剤としては、上述した難燃剤のみを溶解し、樹脂を溶解させない溶剤であればいずれでも適用できる。このような溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテルなどが挙げられる。尚、必要に応じて、抗菌剤,防カビ剤、酸化防止剤、害虫忌避剤、界面活性剤、着色剤、発泡剤、流動促進剤などの添加物を溶剤に添加しても良い。つぎに、以上に説明した原料から難燃剤を除去する方法について説明する。
【0010】
原料供給口3から供給された原料7は、第1の順送りスクリュー10の回転によって矢印6の方向へ搬送される。この過程で原料は、機械的な摩擦熱によって熱溶融される。このとき、必要に応じてバレルに設けた加熱装置で原料7を加熱溶融させてもよい。
溶融された原料7は、溶剤供給口1から供給された溶剤と混練されながら第1の逆送りスクリュー4部へ搬送される。この過程で難燃剤を溶解した溶解液は、図2で説明したように、第1の溶解液排出部2から排出される。一方、第1の逆送りスクリュー4部を通過した原料7は、順送りスクリュー12によって第2の逆送りスクリュー4’部へ搬送され、第2の逆送りスクリュー4’部で再度圧縮される。このとき、原料7中に残存している溶解液が原料7の表面に押し出され、第2の溶解液排出口2’から排出される。第2の逆送りスクリュー4’部を通過した原料7は、順送りスクリュー11によって原料排出口9から排出される。
以上に説明したように、逆送りスクリュー部を2段設けることによって、第1段目の逆送りスクリュー部で十分に抽出しきれなかった溶解液が、第2段目の逆送りスクリュー部で抽出される。したがって、従来の問題点であった原料供給量の増加による溶解液の抽出不足を解消することができる。
【0011】
尚、本実施形態では、第2の逆送りスクリュー4’と順送りスクリュー12と溶解液排出口2’とからなる溶解液再排出手段を1段設けたが、必要に応じて溶解液再排出手段を複数段設けてもよい。また、抽出対象物として難燃剤について説明したが、溶剤に溶解する抽出対象物であればいずれでも適用できる。
[具体的実施例]
廃テレビの外装に使用されているハイインパクトポリスチレンを1〜10mm大に粉砕したペレットを原料として用意した。ハイインパクトポリスチレンには、平均分子量約40000のTBA(テトラブロモビスフェノールA)の難燃剤が含有されている。この原料を蛍光X線分析で測定したところ、臭素元素の含有率は約15%であった。また、TBAの溶剤としてジプロピレングリコールを用意した。
上記の原料と溶剤とを用いて、図1に示した2軸スクリュー抽出装置で難燃剤を分離除去した。原料の供給量を20kg/時、溶剤の供給量を40kg/時にしたとき、得られた原料中の臭素元素の含有率は約2%であった。
[比較例]
具体的実施例で用いた同じ原料と溶剤とを用いて、図2に示した従来の2軸スクリュー抽出装置、すなわち図1に示した2軸スクリュー抽出装置から第2の逆送りスクリュー4’を取り除いた装置で同じ抽出条件で難燃剤を分離除去した。その結果、得られた原料中の臭素元素の含有率は約5%であった。
【0012】
また、原料の供給量を10kg/時、溶剤の供給量を20kg/時にしたところ、臭素元素の含有率が約2%になった。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明による2軸スクリュー抽出装置は、難燃剤などの抽出対象物を含む廃プラスチックから抽出対象物を分離除去して、プラスチック素材として再利用する分野に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による2軸スクリュー抽出装置の構成例の要部を示した概略図
【図2】従来の2軸スクリュー抽出装置の要部を示した概略図
【符号の説明】
【0015】
1 溶剤供給口
2 溶解液排出口
3 原料供給口
4 逆送りスクリュー
5 溶剤の流れ方向
6 原料搬送方向
7 原料
10、11、12 順送りスクリュー
14 2軸スクリュー部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出対象物と樹脂とを含む原料を供給する原料供給部と、
抽出対象物を溶解させる溶剤を供給する溶剤供給部と、
抽出対象物を溶剤に溶解させた溶解液を排出する溶解液排出部と、
抽出対象物を溶剤に溶解して、抽出対象物を分離除去した原料を排出する原料排出部と、
原料を原料供給部から原料排出部へ搬送する第1の順送りスクリューと、原料を第1の順送りスクリューとは逆の方向へ搬送する第1の逆送りスクリューとを有する2軸スクリュー部と、
を有し、
原料供給部と溶解液排出部と溶剤供給部と原料排出部とがこの順に配置され、
第1の逆送りスクリューが溶剤供給部と原料排出部との間に配置されている、
2軸スクリュー抽出装置において、
前記第1の逆送りスクリューと前記原料排出部との間に第2の逆送りスクリューを設け、前記第2の逆送りスクリューと前記原料排出部との間に第2の順送りスクリューを設け、前記第1の逆送りスクリューと前記第2の逆送りスクリューとの間に第2の溶解液排出部を設けたことを特徴とする、
2軸スクリュー抽出装置。
【請求項2】
前記第1の逆送りスクリューと前記第2の逆送りスクリューとの間に第3の順送りスクリューを設けたことを特徴とする、
請求項1に記載の2軸スクリュー抽出装置。
【請求項3】
前記第3の順送りスクリューの鉛直上に前記第2の溶解液排出部を設けたことを特徴とする、
請求項2に記載の2軸スクリュー抽出装置。
【請求項4】
前記第1の逆送りスクリューのスクリューピッチ幅より前記第2の逆送りスクリューのスクリューピッチ幅を狭くしたことを特徴とする、
請求項1から3のいずれかに記載の2軸スクリュー抽出装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119513(P2007−119513A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309385(P2005−309385)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】