説明

3−メントキシプロパノールの製造方法、及び冷感剤組成物

【課題】
本発明は、3−メントキシプロパノールを含有してなる冷感剤組成物、及び3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを原料として用いて、高選択的及び高収率で3−メントキシプロパノールを製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、コバルト触媒、ルテニウム触媒、又はニッケル触媒などの不均一系金属触媒の存在下で、3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンの接触水素化を行うことにより高い選択性及び高収率で3−メントキシプロパノールを製造する方法、並びに、3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物を含有してなる優れた冷感剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−メントキシプロパノールの製造法に関するものであり、詳しくは3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを触媒、好ましくは不均一系金属担持触媒の存在下に水素還元する方法に関するものである。本発明の方法により得られる3−メントキシプロパノールは冷感剤等として有用である。
【背景技術】
【0002】
ヒトの表皮や粘膜、特に口腔、鼻腔、咽喉、眼部に冷たい感覚(冷感)や爽やかな感覚(清涼感)(以下、これらを総称して「冷感・清涼感」ということがある。)を与える物質は既に色々知られている。代表的な物質としては、ペパーミント油の主成分であるl−メントール(エル−メントール)であり、チューインガム、歯磨剤、シャンプーなどに広く使用されている。しかしながら、l−メントールは強い冷感・清涼感を有するものの、その効果は長時間持続しない上、その強烈なミント様香気のために用途や処方量が限定されることが多い。
そこで、持続性及び香気の改善を目的として、l−メントールに似た冷感・清涼感作用を持つ化合物が開発されている。そのような化合物の中でも、(1’R,2’S,5’R)−3−l−メントキシアルカノール類、例えば3−メントキシ−1−プロパノールは、優れた冷感・清涼感効果を有しているが、これまで簡便でしかも安価な製造方法が確立されていない。製造法の一例として3−メントキシ−1−プロパノールはメントールをアリルエーテル化した後に、ボランを付加させるハイドロボレーション法での製造法が知られている(特許文献1)。しかしながら有害性のあるボランを使用することで安全性及びコスト面で不利であり、工業的な製法として適していなかった。
また、不均一系触媒、特にラネーコバルトを触媒として用い、エポキシ環を水素化により開環してアルコールを製造する方法も報告されている(特許文献2、特許文献3)。特許文献2によればラネーコバルトを触媒として用い、1,2,5,6−エポキシヘキサンを水素化することで1,6−ヘキサンジオールを選択率60〜74%で得られることが開示されている。また、特許文献3によれば、末端エポキサイドを還元した場合に、第一級アルコールの選択率は50%程度であり、ラネーコバルトを触媒として用いた場合でも、選択率71%程度で16%以上が炭化水素まで還元され、ラネーニッケル触媒の場合でも最大で79%の選択率であり、10%以上が第二級アルコールとなることが開示されている。このように、エポキシ環の水素化により開環してアルコールを製造する方法では、エポキシ環が炭化水素まで還元されたり、第二級アルコールが多量に副生するという問題があった。しかしながら、3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを水素化し、高選択的及び高収率で3−メントキシ−1−プロパノールを製造する例は知られていない。
一方、冷感の発現機構は複雑であるが、冷感を有する化合物群を複数組み合わせることで、冷感が増強される効果は広く知られており、冷感発現の強いコンビネーションを簡単に製造できる方法も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−294546号公報
【特許文献2】DE公開10061202号公報
【特許文献3】GB特許970790号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、冷感剤や清涼剤として優れた機能を有する3−メントキシプロパノールを含有してなる冷感剤組成物、及び3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを原料として用いて、高選択的及び高収率で3−メントキシプロパノールを製造する方法を提供することを目的とする。さらに、そのうちの主要な活性成分である1級アルコールと2級アルコールの比率を、優位にかつ簡便に調製・提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の課題を解決するために検討を重ねた結果、不均一系触媒、好ましくはコバルト触媒、ルテニウム触媒、又はニッケル触媒、より好ましくはラネーコバルトの存在下で、3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンの接触水素化を行うことにより高い選択性及び高収率で3−メントキシプロパノールが得られることを見出した。また、得られた1−メントキシ−2−プロパノール及び3−メントキシ−1−プロパノールの混合物が極めて優れた冷感剤組成物となることを見出した。また、主活性成分となる1級アルコールの比率を自在に調整することにより、冷感剤としての適用範囲が格段に広がることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の内容を含むものである。
[1]下記式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
で表される3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを不均一系金属触媒の存在下で水素化することにより、エポキシ環を選択的に水素化して3−メントキシ−プロパノールを製造する方法。
[2]不均一系金属触媒が、不均一系コバルト触媒、不均一系ルテニウム触媒、又は不均一系ニッケル触媒である前記[1]に記載の方法。
[3]不均一系金属触媒が、ラネー触媒である前記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]不均一系金属触媒が、ラネーニッケル、又はラネーコバルトである前記[3]に記載の方法。
[5]得られる3−メントキシ−プロパノールが、3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物が、80%以上、好ましくは90%以上の3−メントキシ−1−プロパノールを含有している前記[5]に記載の方法。
[7]不均一系金属触媒が、コバルト触媒、好ましくはラネーコバルト触媒である、前記[6]に記載の方法。
[8]式(1)で表される3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンが、3−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1,2−エポキシプロパン又は3−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1,2−エポキシプロパンであること特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[9]3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールのメントキシ基の立体配置が、原料の立体配置を保持している前記[8]に記載の方法。
[10]溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、又は1,4−ジオキサンである前記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]不均一系金属触媒の触媒量が、基質である3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンに対して、質量比で0.1質量%〜50質量%である前記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]水素化の際の、水素圧は、1MPa〜6MPaである前記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]得られた3−メントキシ−プロパノールを、さらに分離精製処理して、下記式(2):
【0008】
【化2】

【0009】
で表される3−メントキシ−1−プロパノールを製造する、前記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]分離精製処理が、蒸留である前記[13]に記載の方法。
[15]3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールを含有してなる冷感剤組成物。
[16]3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの質量比が、80:20〜99.5:0.5、好ましくは90:10〜99.9:0.1である前記[15]に記載の冷感剤組成物。
[17]3−メントキシ−1−プロパノールが、3−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1−プロパノール、又は3−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1−プロパノールである前記[15]又は[16]に記載の冷感剤組成物。
[18]1−メントキシ−2−プロパノールが、1−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−2−プロパノール、又は1−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−2−プロパノールである前記[15]〜[17]のいずれかに記載の冷感剤組成物。
[19]3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールが、前記[1]〜[14]のいずれかの方法により得られる3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの混合物である前記[15]〜[18]のいずれかに記載の冷感剤組成物。
[20]冷感剤組成物が、さらにメントール、好ましくはl−メント−ルをさらに含有する前記[15]〜[19]のいずれかに記載の冷感剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、実用化が困難な従来法であるボランを用いるハイドロボレーションに代わり、3−メントキシ−1−プロパノールを工業的に高選択的かつ高収率で、しかもメンチル基の立体配置を保持したままで製造することができる。公知のエポキシ基の水素化条件においては、原料化合物の全てのC−O結合が還元されて、16%以上が炭化水素まで還元されたことが報告されている(特許文献2、特許文献3参照)。本発明の方法における原料化合物である3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンは、エポキシ基以外にメントキシ基においてC−O結合を有しており、従来のエポキシ基の水素化条件では高価なメントキシ基が還元されて脱落することが予想されていたが、意外なことに、メントキシ基が還元されて脱離することなく選択的にエポキシ基を還元することができ、工業的に極めて有利な3−メントキシ−プロパノールの製造方法を提供することができた。
また、本発明の方法によれば、80%以上、好ましくは90%以上の選択率で3−メントキシ−1−プロパノールを製造することができるが、生成物は20%以下、好ましくは10%以下の1−メントキシ−2−プロパノールを含有している。しかし、本発明の方法で製造された3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの混合物は、混合物としてこれらの成分を分離することなく、当該混合物をそのままで優れた冷感や清涼感を有する冷感剤組成物として使用することができる。
さらに、3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの混合物から、蒸留により簡便に3−メントキシ−1−プロパノールのみを分離精製することもできる。
1−l−メントキシ−2−プロパノールは、文献(例えば、GB特許1315626明細書)に例示化合物として記載されているが、該化合物の味質等に関する記載はおろか、他の冷感剤との組み合わせも記載されていない。
本発明の3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの混合物を含有してなる冷感剤組成物は、安全性も高く、好ましくない刺激感や苦味などがなく、さらに長時間にわたり持続的な冷感や清涼感を維持することができ、衝撃的かつ持続的な冷感剤組成物として、飲食品類、香料組成物、トイレタリー用品などに幅広く適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法で用いられる不均一系触媒における好ましい金属としては、周期律表の第8族(Fe、Ru)、第9族(Co、Rh、Ir)及び第10族(Ni、Pd、Pt)に属する金属が挙げられる。具体的な不均一系触媒としては、ラネーニッケル、ルテニウム/炭素、ニッケル−リン、ホウ化ニッケル、ラネーコバルト等が挙げられ、特に好ましくはラネーコバルトである。ラネーコバルト触媒は、多孔質のスポンジ状金属触媒であり、定法に従い調製することができるが、市販されているものを使用してもよい。触媒の調製方法は、例えば、久保松照夫、小松信一郎共著、“ラネー触媒”、共立出版(1971)に詳しく記載されている。
【0012】
本発明の方法に用いられる触媒量としては、基質である3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンに対して、質量比で0.1質量%〜50質量%、好ましくは1.0質量%〜10質量%の範囲である。
本発明は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができるが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。使用可能な溶媒は特に限定されないが、例えば、炭化水素類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類、エーテル類、エステル類、DMF等のアミド類などが挙げられる。特に炭化水素系、エーテル系溶媒が好適に使用される。炭化水素類としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが好ましい。エーテルとしては、ジイソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
より好ましい溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0013】
反応時間は、温度、圧力又は触媒量により異なるが、通常0.5時間〜24時間であり、好ましくは1時間〜12時間である。
反応温度は、圧力や触媒量や溶媒などによって異なるが、通常、50〜200℃であり、好ましくは80〜150℃である。
水素化の際の、水素圧は、1MPa〜6MPaであり、好ましくは3MPa〜5MPaである。
反応終了後は、冷却、静置し、下部に沈んだ触媒と反応液を分離し、反応液を濾過した後、溶剤を留去し、目的物の3−メントキシ−プロパノールが得られる。得られた3−メントキシ−プロパノールは、通常は3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物である。本発明の方法で製造された3−メントキシ−プロパノールは、3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物であり、80%以上、好ましくは90%以上の3−メントキシ−1−プロパノールを含有しており、この混合物をそのまま、又は必要に応じて3−メントキシ−1−プロパノールをさらに添加した混合物として、本発明の冷感剤組成物の有効成分として使用することができる。
本発明において、さらに反応選択性を上げる目的で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の塩基性物質を助触媒として共存させることにより選択性及び収率が向上することがある。
【0014】
本発明の方法により得られた3−メントキシ−プロパノールは、減圧蒸留などの分離精製手段により3−メントキシ−1−プロパノールを分離し、単離することもできる。また、3−メントキシ−1−プロパノールの含有量の多い混合物とすることもできる。本発明の冷感剤の成分として3−メントキシ−プロパノールの混合物を使用する場合には、1−メントキシ−2−プロパノールを0.5〜10%程度含有している混合物が好ましい。
また、本発明の3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールにおけるメントキシ基の立体配置は、天然のメントールと同じ立体配置を有するものが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の方法によれば、原料として使用する一般式(1)で表される3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンのメントキシ基の立体配置は、反応後も保持されるので、天然のメントールと同じ立体配置を有する3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを原料として使用した場合には、天然のメントールと同じ立体配置を有する3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物を得ることができる。
【0015】
本発明の冷感剤組成物は、冷感剤としてだけでなく清涼剤としての用途も包含するだけでなく、フレーバー剤などとしての用途も包含することができる。
本発明の方法により得られる3−メントキシ−プロパノール、即ち3−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールとの混合物を含有する冷感剤組成物は、必要により他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、メントール、メントン、カンファー、プレゴール、イソプレゴール、シネオール、ハッカオイル、ペパーミントオイル、スペアーミントオイル、ユーカリプタスオイル、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、N−アルキル−p−メンタン−3−カルボキサミド、3−l−メントキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール、p−メンタン−3,8−ジオール、2−l−メントキシエタン−1−オール、4−l−メントキシブタン−1−オール、3−ヒドロキシ酪酸 メンチル、乳酸メンチル、メントングリセリンケタール、N−メチル−2,2−イソプロピルメチル−3−メチルブタンアミド、グルタル酸メンチル、コハク酸メンチル、グリオキシル酸メンチル等が挙げられる。これらの他の成分の配合量としては、特に制限はないが、本発明の冷感剤組成物100質量部に対して、0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部とすることができる。
特に、本発明の冷感剤組成物は、メントール、特にl−メントールと相乗的な効果を奏することができるので、メントール、特にl−メントールを配合することが好ましい。メントール、特にl−メントールの配合量としては、前記した配合量とすることができる。
【0016】
本発明の冷感剤組成物は、揮発性が低く、ほとんど臭いもなく、安全性も高く、長時間続く冷たい及び/又は爽やかな優れた効果を有する。
本発明の冷感剤組成物は、各種の香料組成物、口中製剤、食品、飲料品、洗面用品(トイレタリー用品)などに添加し、使用することができる。
【0017】
香料組成物としては飲食品用香料組成物やトイレタリー用品用香料組成物などとして、本発明の冷感組成物を香料組成物全体の約0.001〜約95質量%、好ましくは約0.001〜約50質量%、より好ましくは約1〜40質量%配合することができる。
口中製剤、例えば、それに限定されるものではないが、歯磨きペースト、歯磨き粉、歯磨きジェル、チューインガムなどのような口中製剤での使用については、本発明の冷感剤組成物は、口中製剤全体の約0.001質量%〜約25質量%、好ましくは約0.01質量%〜約15質量%である。
【0018】
食品や飲料品、例えば、それに限定されるものではないが、果実ジュース、果実ワイン、乳飲料、炭酸飲料、スポーツ飲料、アイスクリーム、シャーベット、アイスキャンデー、ゼリー、飴玉などのような食品及び飲料品での使用については、本発明の冷感剤組成物は、食品及び飲料品の約0.001質量%〜約25質量%、好ましくは約0.01質量%〜約15質量%である。
【0019】
洗面用品、例えば、それに限定されるものではないが、オードトワレ、ローション、乳液、化粧クリーム、美顔パック、ヘア化粧品、シャンプー、フェイスクレンザー、制汗剤、脱臭剤などのような洗面用品での使用については、本発明の冷感剤組成物は、洗面用品の約0.0001質量%〜約20質量%、好ましくは、約0.001質量%〜約10質量%、より好ましくは約0.01質量%〜約10質量%である。
【0020】
以上のような香料組成物、口中製剤、食品と飲料品、洗面用品(トイレタリー用品)などでは、本発明の冷感剤組成物以外に必要とされる任意の成分を配合することができる。このような追加の成分の選択は当業者に明らかである。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、合成例、実施例中での生成物の測定は、次の機器装置類を用いて行われた。
NMR:DRX500(Bruker社製)
GC/MS:GCMS−QP2010(島津製作所社製)
カラム:RTX−1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm)
GC純度:GC−14A(島津製作所社製)
カラム:クロマトパックCR−4A(島津製作所社製)、
J&Wサイエンティフィック社キャピラリーカラムDB−1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm)
注入温度 250℃,検出温度 250℃
100℃−10℃/分−300℃(5分)
【0022】
[実施例1] ラネーコバルト触媒による製造
【0023】
【化3】

【0024】
窒素気流下、500mlオートクレーブに3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパン(106g、0.5mol)、ヘプタン(400ml)、ラネーコバルト(3.18g)を入れ、水素圧4.0MPa、130℃で水素化を行った。8時間後、水素圧の減少が見られなくなったので、GCにて分析を行い、3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパンの消失を確認した。冷却後、ラネーコバルトをろ過し、減圧下でヘプタンを回収し、粗3−l−メントキシプロパノールを得た。この粗生成物を減圧蒸留し、3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−l−メントキシ−2−プロパノールを分離することなく、質量比94:6の混合物として87.7gを得た。
この混合物を、さらにスルーザーラボパッキング(φ30mm×5cm)を10個詰めた蒸留塔で1.0torrにて減圧蒸留を行い、沸点が80℃から82℃で留出したフラクションから1−l−メントキシ−2−プロパノール(5.00g)をGC純度98.5%で得た。また、沸点が83℃から86℃で留出したフラクションを回収した。その結果、3−l−メントキシ−1−プロパノール(80.25g)をGC純度99.9%で得た。
【0025】
3−l−メントキシ−1−プロパノール
H−NMR(CDCl):δ
0.76(d, 3H), 0.82(m, 1H), 0.87(d, 3H), 0.91(d, 3H), 0.94(m, 1H), 1.18(m, 1H), 1.32(m, 1H), 1.60(m, 2H), 1.80(m, 2H), 2.11(m, 2H), 2.24(br, 1H), 3.01(m, 1H), 3.48(m, 1H), 3.76(t, 2H), 3.80(m, 1H)
13C−NMR(CDCl):δ
16.30, 21.01, 22.36, 23.44, 25.86, 31.62, 32.53, 34.61, 40.40, 48.34, 62.48, 67.92, 79.85
GC/MS(m/e);
214(M,3%), 199(5), 171(5), 155(10), 138(45), 129(100), 123(17), 109(7), 95(40), 81(53), 71(85), 55(35), 41(25)
【0026】
1−l−メントキシ−2−プロパノール
H−NMR(CDCl):δ
0.78(d, 3H), 0.83(m, 1H), 0.91(d, 3H), 0.93(d, 3H), 1.19(d, 3H), 1.19-1.396(m, 2H), 1.60-1.67(m, 2H), 2.07-2.17(br, 1H), 2.20-2.22(m, 1H), 2.47(d, 1H), 3.0-3.11(m, 2H), 3.28-3.45(m, 1H), 3.59-3.64(m, 1H), 3.90-3.95(m, 1H)
13C−NMR(CDCl):δ
16.30, 18.87, 21.16, 22.51, 23.45, 25.99, 31.73, 34.75, 40.69, 48.43, 67.21, 74.28, 79.60
GC/MS(m/e);
214(M,3%), 199(5), 171(5), 155(10), 138(65), 129(70), 123(20), 109(10), 95(30), 83(100), 71(50), 55(45), 41(30)
【0027】
[実施例2] ラネーコバルト触媒による製造
【0028】
【化4】

【0029】
窒素気流下、100mlオートクレーブに3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパン(21.2g、0.1mol)、THF(100ml)、ラネーコバルト(2.0g)を入れ、水素圧4.0MPa、130℃で水素化を行った。5時間後、水素圧の減少が見られなくなったので、GCにて分析を行い、3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパンの消失を確認した。冷却後、ラネーコバルトをろ過し、減圧下ヘプタンを回収し、粗3−l−メントキシ−1−プロパノールを得た。このとき3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールの重量比率は93:7であった。
この組成生物を減圧蒸留し、3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールを分離することなく、重量比93:7の混合物として17.1gを得た。3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−メントキシ−2−プロパノールを併せたGC分析における純度は99.3%であった。
【0030】
[実施例3〜5]
【0031】
【化5】

【0032】
実施例2において触媒及び反応条件を変え、3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパン(2.1g、0.01mol)の水素化を行い、3−l−メントキシ−1−プロパノール及び1−l−メントキシ−2−プロパノールを合成した。
結果を表1に示す。表中、wt%は3−l−メントキシ−1,2−エポキシプロパンに対する触媒の量比である。mlは溶媒の量である。転化率、生成重量比はGCで測定した。生成重量比における(A)は3−メントキシ−1−プロパノールを示し、(B)は1−メントキシ−2−プロパノールを示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[実施例6] 3−l−メントキシ−1−プロパノールと3−l−メントキシ−1−プロパノール及び1−l−メントキシ−2−プロパノール混合物との比較官能評価
実施例1で得られた3−l−メントキシ−1−プロパノール(1)、及び実施例2で得られた3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−l−メントキシ−2−プロパノールが重量比で93:7の混合物(2)、更に実施例1で得られた1−l−メントキシ−2−プロパノール(3)についてそれぞれ50ppm水溶液を調製した。
5年以上経験した10人の専門パネラーにより、3種の50ppm水溶液について口中で官能評価を行った。
その結果、(1)と(2)は10人のパネラー全員が好ましくない刺激感などがなく、優れた清涼性を有していると回答した。また、10人中7人のパネラーが、(1)の3−l−メントキシ−1−プロパノールと(2)の1−l−メントキシ−2−プロパノールの混合物のほうが、強い清涼性の持続感を有すると回答した。また、10名のパネラー全員が(3)の1−l−メントキシ−2−プロパノールは冷感強度が(1)の1/10以下であり苦味が強いと回答した。
【0035】
[実施例7] メントールとの相乗効果
l−メントールと、実施例2で得られた3−l−メントキシ−1−プロパノールと1−l−メントキシ−2−プロパノールが重量比93:7の混合物について、95:5(質量比)で混合し、冷感剤組成物を調製した。得られた冷感剤組成物について、それぞれ20ppmの水溶液1,000mlを調製し、口中で官能評価を行った。比較として、l−メントール単独の20ppm水溶液について口中で官能評価を行った。
この結果、吐き出し直後においてはパネラー10名中8名が、メントール単独に比べて強い清涼性(爽快感)を有すると回答した。
また、吐き出し後3分を経過しても、パネラー10名中9名が、メントール単独に比べて強い清涼性の持続感を有すると回答した。
【0036】
[実施例8] 練り歯磨剤
下記表2の処方に従い、練り歯磨剤を調製した。このものは好ましくない刺激感、苦味などがなく、冷感を有しかつ冷感効果を持続した。
【0037】
【表2】

【0038】
上記の通り調製した練り歯磨剤は、口腔内でひんやりした爽やかな感じを有し、苦味はない。本発明の3−メントキシ−1−プロパノールと副生する1−メントキシ−2−プロパノールを使用しなかった練り歯磨剤に比べて、上で調製されたような練り歯磨剤は、長く続く冷たい爽やかなフレーバーを有し、またその香気の持続性を認めた。
【0039】
[実施例9] チューインガム
下記表3の処方に従い、チューインガムを調製した。このものは好ましくない刺激感、苦味などがなく、冷感を有しかつ冷感効果を持続した。
【0040】
【表3】

【0041】
上記の通り調製したチューインガムは、ひんやりした爽やかな感じを有し、苦味はない。本発明の3−メントキシ−1−プロパノールと副生する1−メントキシ−2−プロパノールを使用しなかったチューインガムに比べて、上で調製されたようなチューインガムは、長く続く冷たい爽やかなフレーバーを有し、延長されたフレーバーの衝撃的効果の印象を伴っていた。
【0042】
[実施例10] 香料組成物
下記表4の処方(配合量は質量部)に従い、常法により冷感剤含有香料組成物を調製した。
【0043】
【表4】

【0044】
[実施例11] シャンプー
下記表5の処方に従い、上記実施例10の香料組成物を1.0%賦香したシャンプー100gを調製した。このものは、冷感を有しかつ冷感効果を持続した。
【0045】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、冷感剤や清涼剤として優れた機能を有する3−メントキシプロパノールを高選択的及び高収率で製造する新規な製造方法を提供するものであり、本発明の製造方法により製造される3−メントキシプロパノールは冷感剤や清涼剤として有用であり、本発明の製造方法及び冷感剤組成物は、産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で表される3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンを不均一系金属触媒の存在下で水素化することにより、エポキシ環を選択的に水素化して3−メントキシ−プロパノールを製造する方法。
【請求項2】
不均一系金属触媒が、不均一系コバルト触媒、不均一系ルテニウム触媒、又は不均一系ニッケル触媒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3−メントキシ−プロパノールが、3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールの混合物であり、3−メントキシ−1−プロパノールの含有量が80%以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
式(1)で表される3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンが、3−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1,2−エポキシプロパン又は3−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)−1,2−エポキシプロパンであり、製造された3−メントキシ−プロパノールのメントキシ基が原料の3−メントキシ−1,2−エポキシプロパンのメントキシ基の立体配置を保持していること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
3−メントキシ−プロパノールを、さらに分離精製処理して、3−メントキシ−1−プロパノールを製造する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
3−メントキシ−1−プロパノール及び1−メントキシ−2−プロパノールを含有してなる冷感剤組成物。
【請求項7】
冷感剤組成物が、さらにメントールを含有している請求項6に記載の冷感剤組成物。

【公開番号】特開2013−91630(P2013−91630A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236075(P2011−236075)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】